プロローグ side Nanoha
JS事件の事後処理も落ち着いてきた、新暦76年1月のとある雪の日。機動六課の廊下をゆっくりと歩く一人の女性。亜麻色の綺麗な髪をサイドポニーで纏めた、教導隊の制服の彼女は、何時ものように、自らが監修した六課自慢の訓練スペースへと向かう。
《マスター、今日のメニューの確認を》
「そうだね、レイジングハート。ティアナも収束がだいぶ上手くなってきたし、次の段階に進もうか?」
長年の相棒である自身のデバイス、レイジングハートと静かに話す彼女に、小さな襲撃者が走って突撃してくる。
「なのはママ~!」
「なぁに、ヴィヴィオ?」
「きょうはおしごとはやくおわるの?」と、まだ拙い言葉で聞いてくる愛娘の頭を、突いていた杖を右手に持ち変え、利き腕である左手で優しく撫でる。
「うん。今日は早く帰れるよ。アイナさんといい子で待っててね?」
笑顔で「うん!」と答えたヴィヴィオに手を振り、再び左手に杖を持ち、過去のとある事件後、結局完治には至らなかった右足を少し引き摺りながら歩く。
「おう、おはよう、なのは」
「おはよう、ヴィータちゃん。今日も張り切ってこうね?」
途中でヴィータと合流し、なのははゆっくりと進む。
ヴィータの歩みが特に早かった訳ではないが、なのはが少し遅れて歩いている事に気付き、ヴィータは立ち止まった。
「悪りい、なのは。アタシも少しゆっくり歩くよ」
「別に平気だよ、ヴィータちゃん」
なのはは笑顔で返す。こうなってしまったのはなのは自身の無茶のせいだと自分では思っていたが、その事件の時に近くに居たヴィータは未だに責任を感じてしまっている。
「でもよ、なのは。今更だけど、あれだけリハビリ渋ってたのに、よくこれだけ回復するまで頑張ったよな」
「そうだね。あのときは、自暴自棄になってたからね。もっと早くリハビリ再開してたら、右足もちゃんと治ってたかもね」
「‥‥‥わりぃ」と謝るヴィータに、なのはは「私の責任だからね。ヴィータちゃんは悪くないよ」と笑顔で話す。
「切欠、あったんだ。勝手に無理だって諦めてた私に、もう1度頑張らなきゃって思わせてくれた、切欠が」
遠くを見るような目で、昔の記憶を思い返しながら話すなのは。
(私‥‥‥頑張れたかな?フェイトちゃん、はやてちゃん、すずかちゃん、それから‥‥‥もう一人の私)
やがて目的地へと着いた二人は、何時ものようにフォワード陣と合流。バリアジャケット姿になり、何時ものように訓練を始める。
「じゃあ、今日も昨日の続き。ティアナは私と。スバルはヴィータ副隊長、エリオはシグナム副隊長と。キャロはフェイト隊長とだよ。みんな、頑張ろうね!」
「ハイ!」と元気よく答えるフォワード陣。なのははティアナと対峙する。
「あと3ヶ月。それまでに絶対モノにしてもらうから!ティアナ、それじゃ、張り切っていくよ!」
機動六課スターズ分隊隊長、高町なのは一等空尉。時空管理局航空武装隊のエースオブエース。これは『片翼の天使』と呼ばれる、もう一人の高町なのはの、ちょっとだけ変わった、撃墜事件からの再起までの物語。
という感じで、第二部スタート。運命に翻弄されるなのはが主役。勿論、フェイ×すずの激甘カップルは健在で行きます。