決戦の少し前の事。まだマテリアル達がU-Dを探していた時。フェイト達が入浴していた時の事である。
「良さそうやね。問題ないよ」
《元々は貴女の力ですもの。当然ですわ》
「けど、この杖、シュベルトクロイツって言うんやろ?夜天の書の杖には名前なんて無かったしな」
アースラの訓練室。デバイスの無いはやては、スノーホワイトの臨時のマスター登録を受け、ロードオブグローリーの調整を行っていた。元々は『すずかが居た世界のはやて』から譲り受けた力。思っていた以上にしっくりと来る。
はやての対U-D用プログラム、『ヴァッフェントレーガー』も問題なく起動。後は‥‥‥。
《ここまでは予定通りですわ。ロードも終った事ですし、本題いきますわよ?》
「いつでもええよ」と答えたはやては、カードを1枚手に取った。そのカードは勿論、はやての融合騎、リインフォース。
「『ユニゾン・イン!』」
はやては白銀の光に包まれる。髪の色や騎士服の細部、背中の羽根等が変化。クリスマスにリインと融合した時の姿そのものとなった。
「うん。行けそうや。‥‥‥スノーホワイト、私思うんやけど、聞いてもええか?」
《はい。何でしょう?》
「スノーホワイトって、何者なん?」
はやての素朴な疑問。あり得ないくらい人間臭く、明らかに異常な力を行使するスノーホワイト。別にすずかに文句を言う訳ではないが、デバイスと言うには余りにかけ離れている。それはまるで‥‥‥。
《そうですわね。自分では良く分かりませんわ。もしかしたらロストロギアかも知れませんわね》
そう言って恐らく笑っているであろうスノーホワイトを見ながら、はやてはシュベルトクロイツに魔力を込めた。
「ほな、やるよ!」
◆◇◆◇◆
アースラの食堂。同じテーブルに座る4人。もうすっかりお馴染みの、翠屋特製のコーヒーを片手に、クロノが話し始める。
「マリエル技官、アミタとキリエはどうだ?」
「もうすっかり元気ですよ。二人共U-D戦に参加させてくれって言ってますけど」
この事態を招いた責任は自分達にもある、と言ってU-D戦の参加を申し出ているフローリアン姉妹。確かに1つの要因では有るのかも知れないが、彼女達が戦闘でやられでもしたら大問題。クロノは少し考えたあと、答えた。
「戦力は多いに越したことはないが、余り無理はさせたくはないな。ヴィヴィオとアインハルトを元の時代に帰してもらう役目もあるしな」
何故か終始不機嫌なアリサが、クロノの言葉に反応する。エイミィとマリエルが苦笑いで顔を見合わせる中、先程フローリアン姉妹と面会してきたアリサは少しキツい口調で話す。
「そうね、クロノが二人の分も頑張ればいいんじゃないの?」
「アリサ、何だか怒ってないか?」
そのデリカシーの欠片もない、全く気付いていない様子に業を煮やし、更に刺々しい口調で返すアリサ。
「うるさいっ!怒ってないわよ!!」
「?」を頭に浮かべているクロノに、マリエルは苦笑いのまま「アハハ、クロノ先輩って鈍感」と漏らす。
それに同調するエイミィ。表には全く現れていないが、本当は彼女の心中も穏やかではなかったりするのだが。
「アリサちゃんの気持ちも分かるけど、クロノ君だしねぇ」
「なんだよ、エイミィ。分かってるなら教えてくれないか?」
全くもって鈍感も良いところ。普段が鋭いからこそ、自身の事には疎いのか。エイミィは、これはこの先苦労しそうだと思い、そんなクロノに呆れつつ答える。
「うーん。私にそれを聞いちゃう所がクロノ君の駄目な所だよねぇ」
「そうですね。反省してください、クロノ先輩」
マリエルに反省しろとまで言われて、全く心当たりのないクロノは、馬鹿にされた気がして声を少し荒げて言った。
「だから、どうしてなんだ!」
◆◇◆◇◆
「ハァ」
「どうしたの、お姉ちゃん?」
アミタは小さく溜め息をついた。隣で紅茶を飲んで、「アラ、これ美味しい」と洩らしているキリエに、今まで口にしなかった不安を吐露する。
「ここでU-Dを止めて、皆さんと別れて‥‥‥。私達、エルトリアを救えるんでしょうか」
「何よ、今更」
「確かに、エグザミアの力が有れば、変えていく事も出来るのかも知れません。ですが、U-Dを連れて行くわけにも行きませんし」
キリエは1度「ハァ」と溜め息をつき、それに答える。此れからの事が例えどんな結果になったとしても、やることは変わらない。今まで通り、博士を助けて死蝕と闘うだけ。
「それで?変えられないかも知れないからって、諦めるわけじゃないんでしょ?」
「勿論、諦めるなんてあり得ません!ですが‥‥‥せめて、少しでも成果が有った、という事を見せてあげたいですね。例え小さな一歩でも、変わっていってるという事を‥‥‥博士が亡くなる前に」
博士はもう、余命幾ばくもない。だからこそ、キリエはその運命を変えようと此処まで来た。しかし、博士は
過去の改編など望んでいないし、キリエももうそれは考えていない。だから、せめて博士の生きている間に、その成果、死蝕を止める切欠だけでも見せてあげたかった。
「そうね。せめて、その切欠だけでも見せてあげたいわね。でも、兎に角今はU-Dを倒す事に集中しないとね」
「そうですね。これ以上この時代の皆さんには迷惑はかけられませんからね」
今まで真剣だったキリエの顔がニヤリとして、からかうような口調に変わる。
「主に誰に?」
そのキリエの言葉に頬を染め、アミタは分かりやすく声を張り上げる。
「げっ、限定しないで下さい!クロノ執務官にだけじゃありません!」
「アーラお姉ちゃん、私、クロノ執務官なんて一言も言ってないけど?」
ニヤニヤしながら見ているキリエに、アミタは顔を真っ赤にして怒鳴った。
「キッ、キリエ~~!!!」
◆◇◆◇◆
「フェイトさん、大丈夫ですか」
「フェイトママ、しっかりして」
ヴィヴィオとアインハルトに支えられて部屋まで戻ったフェイトだったが、まだ体調は戻らない。全身が火照り、視界も不明瞭。気分も優れない。
「うん‥‥‥目が回る」
ベッドに横になり、額に冷たいタオルを乗せられ、クリスにパタパタと扇がれている。火照った身体を冷ます為、下着のみの姿。
そこに、タイミング良く、というべきか、悪くというべきか。例によってクロノが現れる。はたから見ている分には、もう狙っているとしか思えないタイミング。
「フェイト、ちょっといいか?入るぞ」
「「ダメーー!!」」というヴィヴィオとアインハルトの制止の声は一歩遅く、ベッドの上の、あられもない姿のフェイトとご対面。「す、すまない!」と慌てて後ろを向き、謝罪するも時既に遅し。まるで漫画のように絶妙なタイミングで通りかかったアリサに見つかった後だった。
「ク~ロ~ノ~!!あんた、遂にフェイトにまで!」
「ちっ、違うんだ、だからこれは」
「黙りなさいっ!この馬鹿犬!」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥この後暫くしてからフェイトは復帰。U-Dとの決戦に向かうのだった。
嵐の前のお約束回。やっぱりお風呂上がった後だし、執務官はやることやっておかないと。(※作者は釘宮病患者ではありません)
はやても万全の体勢になった所で、次回U-Dとの最終決戦。