「へいと、何でキミはさっきからボクにくっついてるんだよ?」
後ろからレヴィに抱きついているフェイト。フェイトはもうかなりの時間その体勢のまま瞳を閉じて惚けている。惚けたままでフェイトはぼんやりとその口を開く。
「レヴィ、もう少しだけ。もう少しだけだから、ね?」
レヴィ達の提案はこうだった。マテリアル側がU-Dに対抗する方法を提供する代わりに管理局側はマテリアル達に協力、U-Dを破壊せずにマテリアル達に引き渡す、というもの。今全力で復旧中ではあるが、紫天の書を使えるディアーチェが居るのは心強い。U-Dを手にいれた後のマテリアル達が管理局に敵対するかも知れない、との意見もあったが、「きっと大丈夫だよ」というフェイトの『勘』を信じてみる事にしたのだ。フェイト本人も、『根拠はないんだ。どうしてかは分からないけど、マテリアルの子達って、悪い子達じゃない、って思うんだ』と言っていた。
それに、周りに多大な影響を及ぼすアルカンシェルは出来れば使用したくはない。紫天の書で制御していれば、すずかとU-Dの分離方法もゆっくり探せる、という打算的な考えもあった。
そんな訳でレヴィは、作戦の要となる方法を管理局に授けるシュテルが復旧を終える迄アースラで待機している。勿論、ただ待っているなどレヴィには到底無理なので、シグナムやヴィヴィオと模擬戦を行ったりしていた。
‥‥‥‥‥‥の、だが
「掌触ったり髪触らせてもらったりが普通やん?フェイトちゃんみたく耳の裏触るやら首筋に頬擦りするやら太股触るやらっちゅーのはおかしいやん!?」
はやてはフェイトの普通でない行動に、盛大に突っ込みを入れる。
「だって、すずかを基にしてるっていうから‥‥‥抱き心地も変わらないかな‥‥‥でも、匂いが少し違うかな?雷変換だからかな?」
ディアーチェははやて、シュテルはなのは、其々を基に構成している。それこそ見た目どころか遺伝子レベルで。当然髪の質感や肌のキメ、その外の部分まで双子レベルな訳である。言わば、フェイトとアリシアのようなもの。
それが、レヴィが基にしているのはすずか。その性格や、髪や瞳や魔力光こそ違うものの、当然見た目その他はすずかそのもの。肌の質感etc‥‥‥も変わらない、と言うのでフェイトは半ば暴走気味にレヴィにくっついている。しかも、それを確認する方法が普通ではない。
‥‥‥いや、フェイトにとっては、いつもすずかにしている行動、という事か。兎も角、それをさも当然のように行っているフェイトを、はやては呆れて見ていた。
「ア、アカン。ドン引きや。ついていかれへん。あの二人、いつもこんな事しとったんか‥‥‥いつまでそうやって抱きついてるつもりなん?」
「えっ?」とこれまた惚けながら答えるフェイト。すずかに会えなかった反動だろうか。「アカンわ」と匙を投げたはやてに代わり、シグナムとの模擬戦から帰ってきたヴィヴィオが睨む。
「フェ~イ~ト~マ~マ~?」
ヴィヴィオの声にようやく我に返ったフェイトは、小さく「ごっ、ごめんなさい」と謝る。そんなちょっとした修羅場の一室に現れた人物。
「フェイト、もう少しやる気を出して下さい。U-D分離の策は出来たんですか?」
シュテルは、「シュテルん!予定より早い!」と興奮しているレヴィの頭を撫でつつ、「‥‥‥そう来ましたか」と何やら一人呟いている。
「ハヤテ‥‥‥ナノハはどうしていますか?」
「なのはちゃんか?無理して傷が開いてもうてな?ベッドに逆戻りや」
(あれ?何やろ?気のせいやろか)
「そうですか」と一言発したシュテルは、はやての目には心なしか悲しそうに見えた。
◇◆◇◆◇
「プログラムを走らせている間のみ、U-Dに攻撃が通ります。プログラムはカートリッジユニットに装填して使用しますので、今回はフェイト、シグナムに。念のためにナノハとヴィータの分も用意しておきました」
再びアースラ会議室。シュテルは概要を説明している。基本的にはカートリッジを使用するが、プログラムを走らせておけばデュランダルやクリス、ティオにも使えるそうだ。
「U-Dの防御はそれでも桁外れです。魔力とシールドを削る班と、本命のU-Dを叩く班の2グループに分けての攻撃をおすすめします」
「シュテル達はどうするの?」というフェイトの疑問に、シュテルはまるで遠くを見るような目をして答えた。
「我々は、U-Dの行方を追います。心配せずともディアーチェが復帰しない限りはU-Dとは対峙しません。それに‥‥‥」
何かを言いかけ、言葉を飲み込んだシュテル。「では、一度訓練室で運用テストしてから」と言って席を立つ。
(クロノ君にヴィヴィオちゃん、アインハルトちゃんもU-D戦参加するんやな。私だけか)
はやては一人会議室を出て車椅子で廊下を移動する。リインフォースが消滅してから、デバイスを壊したのはこれで何個目だろうか。いずれも、理由は簡単。はやての大魔力に耐えられない。
かといってデバイス無しではまだコントロールは出来ない。
手にすれば世界を制するとまで言われた夜天の書の力。元々普通のデバイスが耐えられる訳はない。それこそ、砲台として機能していた夜天の書の剣十字の杖のような、ロストロギア級のものでない限り。
(今の私は足手まといやな)
焦りと悔しさ、それに、もどかしさ。すずかに「何でも相談して」と言っておきながら、何も出来ず、最終決戦にも参加出来ない始末。
「情けないなぁ」
と小さく呟き、窓の外に目をやる。もう夜になっている。自分がやれる事もないし、今日は寝てしまおう。そう思い部屋へと向かうはやては、後ろから呼び止められた。
《夜天の主様が、随分と落ち込んでいらっしゃいますわね?》
「スノーホワイト?どうしたん?」
《すずかを助ける為に、確率は高いほうが良い、という事ですわ》
◇◆◇◆◇
(どうやら月村すずかのデバイスが動いたようですね。これで準備は整いましたか。後はキリエ、ですね)
アースラを出たシュテルとレヴィは、バラバラにU-Dを探していた。U-Dだけを探すレヴィとは違い、シュテルはキリエも同時に捜索。まだディアーチェの復帰には時間がかかる。U-D戦の戦力は多いに越した事はない。
(などと考えている間に居ましたか。これはまた派手にやられてますね)
シュテルが見つけたのは、岩場に座って、壁に寄りかかるキリエの姿。単身U-Dと交戦、どうにか逃げ延びて来たようだ。
「キリエ、起きてください。キリエ」
(気を失ってますか。世話がやけますね)
ボロボロのキリエを抱えあげ、シュテルは再び空へと上がる。見た所大きな損傷もなく、ディアーチェが仕上がる前には何とか復帰できそうだ。寧ろ、治療よりキリエの説得のほうが大変そうである。
(とは言え単騎でU-Dとやり合って良く無事で。貴女が欠けてはユーリが悲しみますからね)
シュテルは飛んできた航路を戻る。アースラへと戻る途中で、ディアーチェからの通信が入った。
《シュテルか?》
《はい、王。私です。修復は進んでいますか?》
《ウム。まだ4割といった所よ。分かっておる。完全な形で戻れば良いのであろう?》
《ハイ。貴女と紫天の書無しにはユーリは制御出来ませんから。とは言え、時間が無いのは事実です。なるべく焦らず、しかし急いで下さい。月村すずかを取り込んでいるせいでしょう。『私の時』よりもユーリの仕上がりが早いようです》
《無茶を言いおるな。まあ、全力で修復する事にするわ‥‥‥‥‥‥本当にレヴィには言わんで良いのか?》
《ハイ。これは私の独断ですから。影響は少ないほうが良いでしょう。帰ったら夕飯抜きくらいは覚悟しています》
浮気した父親を睨む娘の回。
引っ張りに引っ張ったレヴィの姿は、大方の予想通りすずかでした。すずか分の不足しているフェイトちゃんには刺激が強すぎたようです。
第6シークエンス終了。いよいよクライマックス。