Crescent Moon tears   作:アイリスさん

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覚醒

ディアーチェの詠唱と共に動く3人。はやてはディアーチェに、フェイトはシュテルに其々向かい、ヴィヴィオはすずかを守るように前に立つ。

 

「『アロンダイトッ!!』」

 

ディアーチェの砲撃を迎撃するように、はやても魔法陣を展開。扇型に魔力刃を発生させる。

 

「なのはちゃんの教導の成果見せたるよ!『バルムンク!』」

 

一方のシュテルとフェイトも、その火蓋を切って落とし、互いに魔法陣を展開する。

 

「『パイロシューター!』」

 

「『プラズマランサー!』」

 

 

すずかを気にかけながらも、その戦闘の様子を見守っているヴィヴィオ。そのヴィヴィオにもたれ掛かったままのすずかは、身体の辛さに耐えられず座り込む。ヴィヴィオの手をギュッと握って引っ張り、消え入るように微かな声を出した。

 

「‥‥‥‥‥‥げて」

 

「えっ?すずかママ、何?」

 

その言葉が良く聞き取れず、聞き返したヴィヴィオ。次にすずかが発した言葉はハッキリと聞き取ることができた。

 

「に‥‥‥‥‥‥げ‥‥‥て」

 

「へ?」

 

ヴィヴィオには何の事か理解できなかった。今闘っているフェイトもはやても、勝ってはいないが負けてもいない。一進一退の攻防を繰り広げている。見たところでは逃げる程の事態ではない。では他の何かに対してなのだろうか?ヴィヴィオは再び聞き返す。

 

「すずかママ、どういう意味なの?」

 

そう言った瞬間、ヴィヴィオは突き飛ばされた。その一撃には魔力がこもっていたが、ヴィヴィオに危害を加えるとかではなく、単純に遠くへ突き飛ばす為のもの。突き飛ばした主、すずかを見て、ヴィヴィオは疑問だらけ。

 

(スノーホワイトがさっき言ってたのと違う?今のはかなりの魔力。それに、どうして突き飛ばされたの!?どうして、今の魔力に氷結属性がついてなかったの!?すずかママの魔力なのに!?)

 

「すずかマ」と言いかけ、ヴィヴィオは固まった。あれは、何なのか?

すずかの髪が金色に変わり、今までヴィヴィオが見たことのない白を基調としたバリアジャケット、インペリアルローブを纏った姿に変わる。その背には赤黒い焔の魔力の翼をはためかせていて、すずかの特徴である筈の氷結属性は欠片もない。すずかのこんな姿は、ヴィヴィオは見たことも聞いた事もない。何よりも、恐ろしい迄の膨大な魔力を纏っている。

 

「すずかママ!その姿は」とヴィヴィオが聞くよりも早く、すずかから念話が届く。それはとても悲しそうな声。

 

《逃げて‥‥‥‥‥‥私から》

 

すずかはフェイトの方を見て、「助けて‥‥‥フェイトちゃん」と小さく呟いた。すずかの意識が遠退き、その瞳が金色に変わる。

 

彼女は一度瞳を閉じ、その金色の瞳を開くとヴィヴィオを見やり、その口を開いた。

 

『キミは、ゆりかごの聖王‥‥‥いや、違う‥‥‥?』

 

「何言ってるの?すずかママ」

 

ヴィヴィオは驚く。この時代のすずかが、聖王女オリヴィエの事を知っているのはおかしい。それに、今の声は、すずかとは明らかに違う。

 

『すずかママ‥‥‥?『この子』の事?』

 

確かに『この子』と言った。彼女は、すずかの別人格か何かなのか。しかし、そんな事聞いた事がない。この時代に来てから、ヴィヴィオが首を傾げる事ばかり。

 

「貴女は、誰なんですか?」

 

『‥‥‥沈む事なき黒い太陽‥‥‥影落とす月‥‥‥‥‥‥故に、決して砕け得ぬ闇』

 

そう言い終えたU-Dの魄翼が大きくなり、魔力の塊が放たれる。進路上にいたヴィヴィオに真っ直ぐ向かってくるその魔力の塊に、全くの無警戒だったヴィヴィオは反応出来ない。

 

「え」と一言声をあげて、それが目の前まで迫ってようやく事態を理解したヴィヴィオがそれを食らう瞬間、割って入った影があった。

 

「『覇王流・旋衝破!』‥‥‥クッ」

 

「アインハルトさん!」

 

U-Dのあまりの威力のせいと、無理矢理割って入ったせいもあって、アインハルトが全て受けきる事は出来ず、ダメージを食らい体勢を崩す。それを見逃さないU-Dは、そのまま高速でアインハルトの前まで移動すると、アインハルトの胸に手を当てて、そのアインハルトの魔力を掴みとり、それを槍状に形成して引き抜く。

 

『顕現したくなかった。また、全てを壊してしまう』

 

U-Dは、驚愕しているアインハルトに向けて、そのアインハルトの魔力で作られた巨大な槍を放った。

 

『エンシェント・マトリクス』

 

「なっ!?キャアァァァ!!」

 

それをまともに受けて墜落していくアインハルトと、その墜落に巻き込まれる形で一緒に落ちていくヴィヴィオ。

 

◆◇◆◇◆

 

《王、どうやら覚醒したようです》

 

フェイトにブラストファイアを放った後、ディアーチェを見て念話を送るシュテル。それに返事を返すディアーチェ。

 

《うむ。時は満ちた。後はあれを我が手に収めるのみ!》

 

 

 

シュテルの砲撃を螺旋状に避けつつ飛ぶフェイトは、膨大な魔力に気付いてすずかの方を見る。

 

(あのときと同じ!すずか‥‥‥)

 

フェイトはU-Dを気にかけるも、無視できる程シュテルは甘くない。何とか期を伺いながら飛ぶが、そんな隙は見せてくれない。

 

「此方もそろそろ決着をつけると‥‥‥これはこれは。オリジナル、ですか」

 

そう口にしたシュテルの前に現れたのは、他でもないなのは。なのはは「貴女がシュテルちゃんだね?」と言ってレイジングハートを構え、フェイトの傍まで近付く。

 

「フェイトちゃん、シュテルちゃんは、私が!」

 

「うん、なのは。お願い」

 

フェイトは対シュテル戦から離脱。縦横無尽に飛び回り砲撃を撃ち合う二人を背に、一路U-Dの元へと向かう。

 

「すずか!」と叫びフェイトはU-Dと正面から向き合う。

 

『貴女のせいだ』

 

「え?」

 

すずかとは別の声でそう発したU-Dの言っている事の意味が、フェイトには理解できなかった。U-Dの次の言葉を聞くまでは。

 

『私に侵食されたこの子は、もう目覚めない。貴女のせいだ。貴女がいなければ‥‥‥貴女がいなければ、この子はこんなに辛く悲しい思いを感じなくて済んだ。この子の闇が拡がるのは早かった‥‥‥貴女がいなければ、こんなに早く侵食が進むこともなかった。貴女が、この子を眠らせて私を覚醒させるのを早めた』

 

「な、何言って‥‥‥」と酷く狼狽しているフェイトは、もう一度U-Dの言葉を思い返す。今目の前にいるこの膨大な魔力の持ち主に侵食されたすずかはもう目覚めなくて、それを早めさせたのは自分のせいで、すずかは絶望の淵で‥‥‥。

 

「私の、せい?私がいたから、すずかは」

 

『貴女のせいだ。この子が大切に想っていた、貴女の』

 

茫然としてその場で動かないフェイト。焦点も合っておらず、U-Dが近づいてくるのにも気が付かない。その魄翼が爪状に鋭く伸びて、フェイトに真っ直ぐ向かう。文字通り、フェイトを消す為に。

 

『絶望は、すぐに消え去る。貴女も、すぐに』

 

鋭く尖ったそれがフェイトに迫るが、茫然自失のフェイトはまるで見えていない。しかし、フェイトにそれが突き刺さる事はなかった。《flash move》という聞きなれた電子音の後に、「ドスッ」という鈍い音。自分に飛び散ってきた鮮血に、ハッと意識を戻したフェイトが見たものは、あまりに残酷なものだった。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ。駄目だ‥‥‥よ、フェイ‥‥‥トちゃん。諦め‥‥‥ちゃ」

 

「なのは‥‥‥?なのは!!」

 

突然でシールドを張る隙もなかったのか、なのははフェイトを守るようにU-Dとの間に割って入り、此方を向いて両手を拡げて立ちはだかっていた。その左脇腹には、鋭利なものが背中から突き刺さり貫通していて、その先端から鮮血が滴り落ちている。

 

「ハァ、ハァ、ハァ。フェイトちゃん、すず‥‥‥かちゃんを‥‥‥絶対‥‥‥助け‥‥‥」

 

言葉の途中で意識を失い、だらりと手足と頭を下げるなのは。そのバリアジャケットが解除され、私服に戻る。尚も動かないなのはからU-Dが魄翼を引き抜くと、血が溢れ、そのままなのはは落ちていく。

 

「嘘だ‥‥‥嘘だぁぁぁ!!」

 

そう叫ぶフェイトにも魄翼が再び迫ったが、その足元に、ライトグリーンの転移魔法陣が現れる。それは、管理局勢全員の足元に展開していて、その意図を察してはやてが放った空間攻撃魔法を目眩ましに、すんでの所で全員を転移させ、U-Dの前から消えた。

 

其を目眩ましに、U-Dも姿を眩ます。ディアーチェの、「おのれぇ、子鴉ぅ!!」という叫びだけが辺りに響いた。

 

◆◇◆◇◆

 

アースラの一室。クロノとユーノ2人の姿。

 

「ユーノ、アインハルトとなのはの容態は?」

 

「アインハルトは重傷だけど大丈夫。数日あれば回復できる。けど、なのはは不味いよ、クロノ。出血もそうだけど、やられた傷がかなり酷い。一命は何とか取り止めたけど、未だ意識不明の重体だよ」

 

「そうか、フェイトは?」

 

「フェイトは部屋で塞ぎ込んだままだって。アルフが言っても何も返答がないくらい落ち込んでる」

 

「ユーノ、例のあの子はどうしてる?」

 

「例の?あぁ、ヴィヴィオの事?まだ不確定要素が多いけど、あの子はやっぱり未来から来たみたいだよ。『なのはの一人娘』だって。辛いだろうね。母親のあんな姿見るのは」

 

 

「そうか」と言って翠屋特製の珈琲に口をつけ、自身の不甲斐なさに苛立つクロノ。難しい顔をしているユーノはそんなクロノを一度見て、これまた翠屋特製の紅茶に口をつけた。

 

 

◆◇◆◇◆

 

これまたアースラの一室。管理局の対U-D作戦の詳細まで聞いたフェイトは、ベッドの上で体育座りで膝を抱えて、塞ぎ込む。

 

(私のせいだ。私のせいでなのはが大怪我して、すずかはU-Dに‥‥‥)

 

今までと違って、あの状態ですずかの魔力が全く観測出来ないそうだ。U-Dの言葉が確かなら、すずかはもう‥‥‥

 

『貴女のせいだ』というU-Dの言葉が頭の中を支配している。

 

(‥‥‥私のせい。私がいなかったら、すずかはU-Dに乗っ取られなかったかも知れない。私‥‥‥。ごめんなさい、なのは。ごめんなさい、すずか。私が駄目だったから、あんな目に)

 

フェイトの頬を涙が伝う。守れなかった。親友も、大切な人も。何もできなかった自分に、更に塞ぎ込んでいく。

 

(母さん‥‥‥私、やっぱりいらない子だったんだね。何もできない人形だった)

 

フェイトはもう2度と会えないかも知れない大切な人を思い、涙を流して呟く。

 

「ごめんね、すずか。‥‥‥すずかぁ‥‥‥」

 

 




ヴィータに続き、アインハルト、なのはが戦線離脱。すずかは取り込まれてU-D覚醒、フェイトは塞ぎ込んだままと最悪の状況です。

年内更新はここまで。次回は来年。

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