Crescent Moon tears   作:アイリスさん

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交わした、誓い

12月24日。聖祥小の帰り道。3人の少女の姿があった。

 

「すずか、本当に大丈夫?」

 

「うん。大丈夫だよ、フェイトちゃん。ちょっと微熱が引かないだけだから」

 

「駄目だよ、すずかちゃん。ちゃんと病院で見てもらわないと」

 

あれから次の日。すずかの怪我自体は治癒魔法で治せる範囲のもので、大事には至らなかった。ただ、ヴィータとの戦闘中に発生した胸の痛みが治まってから、すずかは微熱を患っていた。それは本当に微熱で、頭痛がするとか、体調が悪い、とかいう程のものではなく、ちょっと身体が火照っている、という程度のもの。

すずかの姉である忍も、そこまで大した事は無いと判断してすずかを学校に行かせた訳である。

そうは言っても、なのはとフェイト、特にフェイトはすずかの事が心配で気が気ではない。

 

「うん。でも、なのはちゃん。病院に行くほどじゃ‥‥‥」

 

「駄目だよ、すずか。なのはの言う通りだよ?一度ちゃんと見てもらった方がいいよ」

 

病院に行くほどじゃない。そう言ったすずかだが、本心では違う事を考えていた。

 

(病院じゃ、きっと治らない)

 

それが、すずかの本心。恐らく、少しずつ闇の力の影響が出始めたのだろう。けれど、フェイトやなのはに心配はかけたくない。未だ時間はある筈。その間に、きっとユーノやクロノが解決策を持ってきてくれる。そう自分に言い聞かせ、襲い来る不安を何とか退けながら、すずかは歩いていた。

 

「あっ、そうだ。お母さんがね、海鳴大学病院に優しい先生がいるって言ってたの。確か‥‥‥『石田先生』だっけ?すずかちゃん、その先生に診てもらおう?」

 

そう言うとなのはは「じゃあ、お姉ちゃん連れてくるね!」と言って家まで駆け出した。必然的にすずかとフェイトは二人きりになる。

 

「ねえ、すずか。確か風邪ってさ、誰かにうつすと治るんだよね?」

 

「うん。アリサちゃんがよくそう言ってたっけ」

 

フェイトは少し恥ずかしそうに、「じゃ、じゃあさ」と言いすずかの肩に両手を置く。

 

「わっ、私にうつしたら、すずかは良くなる?」

 

フェイトの意図を察したすずかは、少し赤くなりながらも、今回は顔を横に振った。

 

「フェイトちゃんが具合が悪くなったら嫌だよ。それに、多分風邪じゃないから。‥‥‥それからね、クリスマスってどんな日か知ってる?」

 

微笑みながら頬を染めたすずかが、「恋び‥‥‥」までいいかけている所で、フェイトは返事を返す。

 

「うん。確か、パーティーして、ケーキ食べて、プレゼントが貰える日、だよね?エイミィとアリサが教えてくれたんだ」

 

エイミィとアリサが敢えて一項目外して教えたような気もしたが、すずかは概ね合っているフェイトの答えに頷いた後、フェイトの左肩に寄りかかって恋人同士のそれのように腕を組み、そのままフェイトを見つめながら問う。その表情は、少し辛そうに見えた。

 

「ねえ、フェイトちゃん。もしも私が、闇の力に負けそうになったり、闇に囚われたりしたら、助けてくれる?」

 

「助けるよ。いつでも、どんな時でも、必ず。すずかを助けてみせる」

 

フェイトのその真剣な眼差しとその答えに、すずかは笑顔で「ありがとう、フェイトちゃん」と返した後、歩いているフェイトの前に出ると夕暮れをバックに振り返って立ち止まり、そのままフェイトと唇を交わした。

 

 

 

 

「ねぇ、なのは。あの二人ってあんな関係だったの?」

 

「にゃはは。お姉ちゃん‥‥‥私も最近知ったんだ」

 

来たのはいいものの、怪しげな雰囲気のフェイトとすずかを遠くから眺めていた、高町姉妹。「あ、舌‥‥‥入ってるよアレ‥‥‥」と驚愕している美由希と、「にゃはは」と苦笑いのなのはに見られているとは気付かず、二人は互いの存在を確認するように求めあった。

 

‥‥‥‥‥‥フェイトがすずかの言葉の真意を知るのは、少しだけ先の事になる。

 

◆◇◆◇◆

 

クロノは時空管理局本局にいた。長い廊下を歩いている。目的は‥‥‥

 

「失礼します」

 

「おぉ、クロノか。入りたまえ。確か急用があるんだったな。それで、用件は?」

 

「‥‥‥ロッテとアリアは何処ですか?グレアム提督」

 

「‥‥‥そうか、気付かれてしまったか」

 

◆◇◆◇◆

 

《以上が闇の書に対して考えうる解決策ですね》

 

《やっぱ結局闇の書を完成させない事には終わらないんだよね。やれやれだ。フェイト達‥‥‥大丈夫かな?》

 

闇の書に関しての、無限書庫での一応の検索を終えたユーノとアルフ。アルカンシェルを搭載したアースラ内にいるエイミィに報告した対策は4つ。

 

ひとつは、今まで通りの、アルカンシェルで主ごと消し飛ばすという問題の先送り策。

二つ目は、ナハトヴァールを闇の書から切り離し、ナハトのみをアルカンシェルで撃破する策。

三つ目は、ナハトヴァールの機能を一度強引に停止させ、闇の書の主がプログラムを上書き、無力化する策。

 

しかし、二つ目と三つ目は、闇の書が完成しても、主が意識を保っているのが絶対条件で、可能性は極めて零に等しい。

そして、最後の四つ目。完成直後の闇の書とその主を、極めて強力な氷結魔法で永久凍結する策。

 

 

《そっか。御苦労様、ユーノ君、アルフ。一度こっちに合流してくれる?今クロノ君がグレアム提督の所に行ってるから、もうすぐ合流出来ると思うよ》

 

エイミィとて、選択肢が極めて狭いのは分かっている。しかし、現状を鑑みるに、恐らく闇の書の主であるはやては、まだ何も法を犯してはいない。強いて言えば、ヴォルケンリッターの管理責任くらい。現主の下に限って言えば、その守護騎士達も、魔導師を多数襲ってはいるものの殺人は一切していない。この条件で、闇の書の現主を氷結魔法で永遠の眠りにつかせていい道理はない。

 

ただ、その選択肢をゆっくりと吟味している時間はなかった。何故ならば‥‥‥

 

 

◆◇◆◇◆

 

「はやてちゃん!!」

 

病院の廊下。静かにしていなくてはいけないのは分かっていたが、すずかが叫んだ。目の前には、かつて図書館であった、車椅子の少女。

 

「アレ?図書館でチューしてた子や?でも、何で私の名前知ってるんやろ?」

 

疑問に思っていたはやての元に、受付を済ませたシグナムとシャマルが戻ってくる。

 

「お待たせしました、主はやて」

 

「あっ、シグナム。ホラ、あの子達や、例の図書館の‥‥‥」

 

シグナムの視線の先には、見間違いもなくすずかとフェイト、それになのはがいた。互いの視線が交わり、その表情は険しいものへと変わっていく。

 

《シャマル》

 

《分かってる、シグナム》

 

瞬時にシャマルはジャミングを開始し、通信を阻害する。

 

「こないだの子やね?こんにちは」

 

そんなことを知ってか知らずか、警戒心の欠片もないはやてはすずか達の下へと車椅子を漕ぎ、挨拶を交わす。

 

「念話が出来ない!シグナム、これは」

 

シグナムはフェイトの疑問に答える。主であるはやてに聞こえない大きさの声で。

 

「此の程度の距離なら、シャマルなら造作もない事だ」

 

 

「あの、シグナムさん」

 

「構わん。『今は』」

 

すずかの問いにそう答えたシグナムに、すずかは冷や汗を流した。『今は』ということは、はやてとの面会が終われば見逃す気はない、ということ。闇の書が完成するまで拘束するつもりなのか、或いは生かして帰す気はないのか。

 

「シグナムさん」と再度口を開いたすずかに、シグナムは再び答えた。

 

「主はやてとの話が終わったら、一緒に来てもらうぞ」




それは、小さな願いでした。

タイトル通り、このすずかとフェイトちゃんの約束は今後のフェイトちゃんの行動に多大な影響を与えます。

遂にA's編もラスボス編に突入していきます。

あ、なのはが活躍してない‥‥‥

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