Crescent Moon tears   作:アイリスさん

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不安、そして

あれから、数日。街に、クリスマスムードが漂い始めた、そんなある日の深夜。月村邸。

 

「う‥‥‥うぅ‥‥‥」

 

すずかはベッドの上で、左胸のアザの部分を押さえ、一人苦しんでいた。

激痛ではないが、ジワジワとまるで少しずつ蝕んでいくような痛み。アザは焼けるようなという程ではないが熱も持っていた。

 

それは3~4日に一度程の周期ですずかを襲っていた。痛みの続く時間はバラバラ。数分で落ち着いた事もあったし、一時間以上痛みの引かない時もあった。

 

(痛い‥‥‥痛いよ‥‥‥助けて‥‥‥)

 

その精神を、既にフェイトに大きく依存しているすずかは、ひたすら続く痛みに、無意識に助けを呼ぶ。呼べば、助けに来てくれるかもしれない。あの時の、PT事件の時のように。

 

《『すずか。私は、ずっと傍にいるから』》

 

気を利かせたのか、スノーホワイトがフェイトの映像を映し出す。例えホログラムと分かっていても、すずかはそれにすがるように手を伸ばす。

 

(助けて‥‥‥フェイトちゃん‥‥‥)

 

我慢できずに、胸を押さえたまま、ベッドに潜りすすり泣く。

いつ治まるとも知れない痛みに、すずかの心は折れかけていた。

 

そうして痛みが治まった後。全身汗びっしょりになってしまったので、シャワーでも浴びようと浴室へとすずかは向かう。

 

脱衣所で丁度上を脱ぎ終わった時だった。ふと鏡に映ったそれを見て、すずかは驚く。

 

(アザが大きくなってる?)

 

胸元にあるアザは、一回り大きくなっていた。正確に言えば、大きくなったというよりも、紋様が増えたと言うべきか。不安を感じずにはいられないすずかだったが、この場ではどうする事も出来ない。結局はクロノの言葉を信じて、管理局が解決法を見つけてくるのを待つしかない。

 

(もしかしたら、私も‥‥‥)

 

すずかははやてを思い出していた。先日会ったはやては、車椅子。大人しそうなその姿。闇の書の主であるにも関わらず、殆ど感じられなかった魔力。自身の知っている、元の世界の、活発なはやてとは似ても似つかない。ユーノによれば、闇の書が主であるはやてを侵食していて、このまま行けば暴走した闇の書に喰い殺される可能性が高い、という。

すずかが現在内包しているエグザミア。闇の書の闇として存在していた、という闇の力。ごくごく、ほんの僅かずつではあるが、すずかの身体を蝕みつつある。すずかも、現在のはやてと同じように、車椅子になり、最悪、闇の書のそれと同じく、闇に飲まれてしまうのかも知れない。最悪のシナリオが、すずかの頭の中を巡る。

 

(‥‥‥シャワー、浴びなきゃ)

 

そんなすずかにエイミィから、無人世界にヴォルケンリッターが現れた、と通信が入ったのは、折角シャワーを浴びて、汗を流し終えた後だった。「ハァ」と溜め息を付き、着替えるすずか。

 

「行こうか、スノーホワイト」

 

《すずか、大丈夫ですの?》

 

「‥‥‥うん」

 

◆◇◆◇◆

 

「行くぞ!アイゼン!!フォルム、ツヴァイ!ラケーテン・ハンマー!!!」

 

「これじゃ駄目なの。ヴィータちゃん。このやり方じゃ、闇の書は」

 

すずかはベルカ式の魔法陣を前方に展開し、「かっ、硬てぇ」と言うヴィータのそれをシールドで防ぎつつ、シュベルトクロイツを構え直した。

 

「うるせぇ!管理局の言う事なんか信用できるかよ!時間がねぇんだ、邪魔すんな!」

 

涙を流し向かってくるヴィータ。前回迄とは違うその様子に、すずかに嫌な予感がよぎる。

 

「早く闇の書を完成させなきゃいけねぇんだ!早くしねぇと‥‥‥」

 

はやては先日から入院していた。彼女を襲う胸の痛みと、早まっている、侵食速度。もしかしたらクリスマス迄持たないかも知れないというシャマルの見立て。ヴィータは焦っていた。

 

「もしよかったら、詳しく聞かせて?協力したいの」

 

攻撃を仕掛ける訳でもなく、そんなヴィータを見ながら、すずかは防御しているだけ。

 

「テメェなんかに!!」

 

ヴィータは泣きながらも怒りの表情を浮かべ、カートリッジを3度炸裂させる。

 

「行くぞ、アイゼン!!」

 

《Gigantform!》

 

すずかにバインドをかけてその上空に上がり、特大の魔法陣を展開するヴィータ。バインドをされたまま、すずかは暗い表情でそのヴィータを見つめていた。そうしている間にも、巨大化したアイゼンが、すずかに振り下ろされる。

 

「『轟天爆砕!!ギガント・シュラーク!!』」

 

 

《ちょっと!すずかちゃん!!何してるの!?早く回避して!》

 

動かないすずかと、ヴィータの放つ魔力に焦るエイミィの通信がようやく聞こえたのか、すずかはバインドを破壊する。しかし、避けるには間に合わず、仕方なくシールドを展開した。

 

「堕ちろぉぉぉ!!!」

 

泣きながら叫ぶヴィータ。地面迄押されながらもシールドで防いでいたすずかだったが、再び胸の痛みに襲われて集中力を切らし、シールドが霧散する。そのままアイゼンの一撃が降り注ぎ、轟音の後に、静寂。

 

 

ヴィータが居なくなった後。地面にできたクレーターの真ん中で仰向けになったままのすずかに、スノーホワイトは訊ねる。

 

《本当に大丈夫ですの?》

 

「うん、大丈夫。プレシアさんにやられた時に比べたら、全然」

 

《そういう意味ではありませんわ。貴女の心が、ですのよ、マスター?》

 

「うん」

 

今更ながら本当に不思議な、いや、良くできたデバイスだと思いながら、すずかはヴィータの消えた方角を眺めていた。

 

(はやてちゃん。やっぱり私も、はやてちゃんみたいに‥‥‥)

 

◆◇◆◇◆

 

別世界でシグナムと対峙しているフェイト。何時もよりも物憂げなすずかが気にはなるものの、気持ちを切り替えて目の前の相手に集中する。

 

「引け、テスタロッサ!私には為さねばならぬ事がある!」

 

「出来ません!武器を置いてください、シグナム!解決出来る事があるなら、話し合いを!」

 

「出来ぬ相談だ。テスタロッサ、お前を信じぬ訳ではないが、管理局の為す事は信用出来ん。‥‥‥殺さずに済ます余裕はないぞ」

 

睨み合う二人は互いのデバイスを構える。フェイトの「大丈夫です。私が止めますから!」という言葉を合図に、激突。二度、三度と打ち合う。ガキン、というデバイス同士の交錯する音と、互いの一撃をシールドで防ぐ音だけが辺りに響く。

 

「レヴァンティン!」

 

シグナムが先に仕掛ける。主の意思を受けたレヴァンティンが、連結刃に変化し、魔力を帯びた。

 

「『飛竜一閃!』」

 

《Sonic move》

 

フェイトは連結刃を高速で避けながらシグナムに接近する。魔力刃を展開し、バルディッシュで斬りかかり、刃を元に戻したレヴァンティンと交錯。刃がぶつかったままで睨み合う。

 

「シグナム!」と、フェイトがその名を叫んだのと同時。それぞれに、《此方は離脱したぞ、急げよ、シグナム!》というヴィータからの念話と、《フェイトちゃん、大変!すずかちゃんが!》というエイミィからの通信。その言葉に動揺したフェイトの一瞬の隙をつき、シグナムがレヴァンティンを振り下ろした。

 

「『紫電一閃!』」

 

フェイトはその一撃を辛うじて受けたが防ぎ切れず、地面に叩き落とされ、立ち膝をついた。

 

「ううっ‥‥‥シグナム」

 

「許せ、テスタロッサ」と言う言葉を残し、シグナムはフェイトの視界から消えた。

 

◆◇◆◇◆

《あれくらいではびくともしませんか。流石は『砕け得ぬ闇』ですね》

 

《当然よ。我らが手に入れる迄に壊れるような物では困る。シュテル、今どのくらい進んでおるか?》

 

《今、13%位です。王は?》

 

《我は未だ10%程よ》

 

深淵の闇の中。3つのマテリアルは、顕現の時を待っていた。外の、夜天の書の動向を逐一確認しつつ。

 

《ハイハーイ!ボクは20%くらいだよ!》

 

《お主は単純だからのう》

 

《とは言え、貴女の構築が早いのは助かります。外から構築出来るようになれば、我々の構築も進みが早く成ります》

 

《‥‥‥こやつを一人で出すのは不安ではあるが》

 

《ん?何、王様?一人でも平気だよ、ヨユーオーケー♪》

 

《不安ですね》

 

《うむ》

 

 

 

 

 

 




本編復帰回です。

密かに進むすずかの侵食。



‥‥‥シュテルん!(とその他二人)初登場!!(魔法side)
シュテルん活躍させます、なのはよりも(笑)

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