Crescent Moon tears   作:アイリスさん

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小さな、幸せ

 

「ヴィータ、今日の晩御飯何がええ?」

 

「はやての作るものなら何でもいいよ。あ、ハンバーグがいい!」

 

「分かった。ハンバーグやな?ほな美味しいの作ったるからな?」

 

「うん!楽しみにしてるね!」

 

ヴィータからリクエストを貰ったはやては、身支度を終えるとシャマルに車椅子を押され買い物に出掛ける。

 

 

はやての生活は、半年前の誕生日を境に、文字通り一変した。ついこの春まで、ひとりぼっちでの生活。両親は既に他界。生活費を支援してくれる父親の親友、というおじさんはいるが、外国に住んでいるらしく会った事はない。 親戚も居らず、この歳で一人暮らし、しかも自身は車椅子。物心ついた頃から悪化していった下半身は、今ではもう全く動かない。病院には通っているものの、はやて本人はきっと治らない、と思っている。

 

下半身不随で親も居ない。学校へも行けず、仲の良い友達も出来ない。買い物に行き、図書館で本を借り、家で一人静かにそれを読みながら過ごす。そんな毎日。

 

忘れもしない6月の誕生日。そんな毎日が一変した。自身の持っていた綺麗な本が実は魔導書で、自分は実は魔導師でした!なんて、突拍子もない事態、いくらいろんなファンタジーを読んできたはやてでも想像出来なかった。

 

しかしながら、強力な魔法が使えるとか、空を自由に飛び回れるとか、そんな大それた変化ではなかった。はやてに出来るようになった事と言えば、せいぜい念話が出来るくらい。重要だったのはそこではなくて、ひとりぼっちだったはやてに、大事な家族ができたこと。それも、一気に4人も。(いや、3人と1匹か?)

 

◆◇◆◇◆

 

「‥‥‥‥‥‥医療少女メディカルシャマルー!とか?」

 

「あかんで、シャマル。その歳で少女とか言うたら、全国の魔法少女ファンの皆様に怒られるよ?」

 

そんな、冗談を言っているシャマルに、どこぞの教導隊の子持ちの一等空尉様が聞いたら発狂して収束砲撃でもブチかましそうな突っ込みを入れるはやて。「心は永遠の15歳なんですよ~!」と言って少し膨れたシャマルを見て、「フフフッ」と笑うはやて。それを見てシャマルもすぐに笑みを溢し、「フフッ」と笑う。

 

家族って温かくてええなぁ、と思う半面、闇の書のマスターとして、新しい家族であるヴォルケンリッターの4人を守らなあかんな、とも思うはやて。

 

夕飯の買い物を済ませ、笑顔でシャマルと帰る帰り道。

 

「あ、そうや。ちょっと読みたい本があったんやった。シャマル、図書館寄ってもええかな?」

 

「はい。はやてちゃん」

 

はやての、ほんの些細な我が儘に、シャマルは迷う事なく笑顔で返事をした。普通の小学校三年生くらいなら、アレがほしい、コレがやりたい、ともっと我が儘を言いたい盛りだろうに、はやてはそんな事は殆ど言わず、たまにこうして本を借りに図書館に寄るくらい。

 

 

「ん?あれ何してるんやろ?」

 

図書館で目当ての本を探して車椅子で移動していたはやて。シャマルが御手洗いに行っているそのタイミングで、事件(注※はやて談)は起こった。

 

(女の子同士でチュー、やと!?あんまり見んほうがええんかな‥‥‥)

 

図書館の陳列された本棚の一番奥。はやてと同じくらい、だろうか。金髪のツインテールの子が、紫の綺麗な髪にカチューシャをした子に被さるようにしてキスをしていた。と、カチューシャの子とはやての目が合った。何か言いたげな瞳のその子の様子に、慌てて車輪を動かしてその場を逃げるように立ち去るはやて。

 

(あ、危なかったわ。お邪魔してしまう所やった)

 

丁度戻ってきた、「ごめんなさい、はやてちゃん!待ちました?」と言うシャマルに、はやては問う。

 

「なぁ、シャマル。女の子同士でチューとかありやと思う?さっき見かけたんやけど」

 

「本人達が良いならそれもあり‥‥‥って、見かけたんですか!?駄目!駄目ですよ!はやてちゃんには早すぎます!!」

 

ちょっとした事件に驚きながらも、目当ての本を見つけて図書館を後にする、はやてとシャマル。このときは、まさかあの二人を親友と呼ぶ事になるなんて思いもしないはやてだった。

 

◆◇◆◇◆

 

図書館の外。2匹の猫は、どうやら言い争っているようだった。

 

「危なかったね。危うく接触を許す所だった。何とかジャミングだけは間に合った」

 

「なにいってんだよ、ロッテ!アンタがちゃんと月村達を見張ってれば!」

 

「アリアだって凝視してただろう!」

 

「だって仕方ないだろう!人間の、しかもメス同士なんて珍しいんだから!」

 

◆◇◆◇◆

 

すずかとフェイトは、二人並んで座っていた。‥‥‥床に正座させられて。目の前には、イライラして御機嫌ナナメのアリサ。

 

「はやてを見つけた、までは分かったわよ?で?どうしてそのまま見逃したの?二人して何してた訳?」

 

「アリサちゃん。それは、えっと‥‥‥」

 

口ごもるすずかに、アリサは目を吊り上げて「何?」と睨む。それに耐えられなかったフェイトは自白を始めた。

 

「ちっ、違うんだよ、アリサ!すずかは悪くなくて、私がその、無理矢理キ、キスをして‥‥‥すずかははやてに気付いたんだけど、念話が何故か通じなくて、私が気がつかなくって」

 

「それで?キスに夢中でみすみすはやてを見逃したって訳ね。分かったわ」

 

そう言いアリサがスクッと立ち上がる。顔は笑っているが、目が‥‥‥怖い。隣で傍観していたなのはがそのアリサを羽交い締めにして止めた。

 

「だ、駄目だよアリサちゃん!暴力は良くないよ!」

 

「離しなさい、なのは!この二人は一発殴らないと気が済まないわ!!第一、いつも全力全開でぶつかるアンタがそれを言うの!?」

 

「ちっ、違うもん!お話聞いてくれないから、ちょっと力が入っちゃうだけだもん!」

 

勢いもあってか、フェイトとすずかそっちのけで、アリサとなのはは口喧嘩を始めた。

 

「何が違うのよ!フェイトの時だってハイぺリオン撃った後に収束砲撃よ!?どう考えてもオーバーキルじゃないの!」

 

「だって、あのときフェイトちゃん、全然お話聞いてくれなかったし!ユーノくんだって反撃しなきゃ、って!」

 

 

「ハイ、ストップー」という言葉と共に、エイミィが入ってくる。四人はパタリと停止し、全員が一斉にエイミィに注目する。

 

「ハイハイ。じゃあ状況整理するよー。はやてちゃんは車椅子だった。それで、どう見ても悪の魔導師には見えなかったし、魔力も殆ど感じなかった、と。合ってる?すずかちゃん?」

 

有無を言わせず捲し立て、他の四人に付け入る隙を与えない。場を落ち着かせる為情報の整理を始めたエイミィ。振られたすずかは唯一言、「ハイ」とだけ答えた。

 

「だってさ。どう思う?クロノ君」

 

いつの間に居たのか、クロノはエイミィの振りに、考えられる推測を並べた。

 

「可能性としては、まず、闇の書の浸食が進んで八神はやて自身が侵されている。次に、元々八神はやては車椅子なだけで、普段は魔力を隠している。守護騎士達がリンカーコアの収集を行っているのを知っているかいないかでも状況は変わってくる」

 

「それから」、と言ってクロノは続きを話し始める。

 

「どうもおかしい。此方は八神はやての顔も姿も分かっているんだ。にも関わらず、一度も接触出来ていない。どうも、妨害されている気がしてならない」

 

「それってどういう事?」というフェイトの疑問に、クロノはまるで心当たりでもあるかのように遠くを見ながら答えた。

 

「管理局内部に、僕らが八神はやてと接触するのを妨害している輩がいるんじゃないかと思うんだが」

 




ニアミス発生回。はやてちゃんが車椅子生活だと知ったすずか。

フェイトちゃんとすずかちゃんに、アリアとロッテも興味があるようです。

クロノはちょっとずつ核心へ。

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