《ヴィータ、来るぞ》
《またアイツらかよ。邪魔ばっかりしやがって。早く闇の書を完成させて、はやてと静かに暮らしたいだけなのに》
《増援が来ても厄介だ。魔力もそれなりに集まったし、ここは退くぞ》
無人世界。かなりの数の魔法生物から魔力を奪ったシグナムとヴィータは、転移し、近付いてくるその魔力を警戒していた。あの収束砲撃から逃れた後、折角鍋の準備をして待っていたはやてをかなり待たせてしまった。
今日は遅れる訳にはいかない。守護騎士である彼女達は別に管理局と敵対するためや魔力の収集の為に戦っている訳ではない。彼女達の大切な、たった一人のマスター、八神はやての平穏を守る為だけに戦っているのだ。確かに魔力収集は大事かも知れないが、それによってはやてに心配をかけさせてしまっては本末転倒。出来ることなら、すんなりと魔力を集め、さっさと帰りたい。
(テスタロッサか。簡単には終われんな)
力ではシグナムが上だが、スピードはフェイトのほうが速い。戦うしか無さそうだ。砲撃魔導師の方をヴィータに任すのは少々荷が重いかも知れないがやるしかない。
《ヴィータ、お前はあの白い魔導師を。テスタロッサは、私が。隙を見て離脱しろ》
《逃げるってのは性に合わねぇけど、はやてが待ってるもんな。分かったよ》
二人の念話が丁度終わった頃に、なのはとフェイトは現れた。
「シグナム!」
「戦うしか無さそうだな」
フェイトとシグナムは互いのデバイスを構える。二人は同タイミングでカートリッジを炸裂させて睨み合った。
一方のヴィータも、アイゼンを構え、なのはと対峙する。只でさえはやてと一緒にいれる時間を削り、こうして魔力を集めているというのに。それを邪魔し、はやてと一緒に居れる時間を更に削られる。ヴィータはイライラしていた。
「ヴィータちゃん。もし何か事情があるんなら、お話聞かせてもらえない?手伝える事とか、あるかも知れないよ?」
なのはの言葉に一瞬心が揺らぐ。だが、相手が管理局である限り、信用は出来かねる。前回、闇の書を主ごとアルカンシェルで消し去っている管理局の言うことである限り。いくら相手が歩み寄っているように見えたとしても、はやてが同じ目に合わない、とは言い切れない。
「ベルカの諺にこーゆーのがあんだ。『和平の使者は槍は持たない』。武器持って話し合いしようってヤツは信用できねーって意味だ、バーカ」
「いきなり襲いかかって来たのはそっちだよ!?」
「うるせぇ、管理局の犬」
「なのは、だよ!高町、なーのーはー!」
そんなやり取りをしながらも、時間は惜しい。カートリッジも無駄遣いは避けたいヴィータは「チッ」と舌打ちする。
(収集は魔導師一人につき一回だけ‥‥‥コイツにはもう用はねぇのに)
仕方なく戦闘体制をとる。自らの愛機の名を呼び、魔法陣を展開した。
「アイゼン!」
一方。ガキン、と音を立てて互いのデバイスで打ち合う、シグナムとフェイト。
「シグナム!どうしてこんなことを!」
「主の為だ」
ただ一言。うかつな事は言えない。管理局の事だ。何処からはやての事が漏れるか分からない。向かって来るフェイトと打ち合いながら、撤退の隙を伺うシグナムは、カートリッジを炸裂させ、レヴァンティンが焔に包まれる。
「『紫電一閃!』」
「バルディッシュ!」
フェイトもカートリッジを炸裂、バルディッシュの金色の魔法刃が更に強く光る。
《Haken Slash》
バルディッシュを構え、今まさにシグナムに飛び掛かろうとしていたフェイトは、自分の胸から感じる違和感に足を止めた。
「‥‥‥‥‥‥え?」
フェイトの胸からは手が伸びていて、そのリンカーコアを掴んでいる。身動き出来なくなったフェイトは、その場に膝をついた。
フェイトの後ろから現れた仮面の男は、フェイトのリンカーコアを掴んだまま、シグナムを促す。
「さぁ、奪え。これが必要なのだろう?」
「貴様‥‥‥!」
◇◆◇◆◇
(身体が重い‥‥‥でも、起きなきゃ)
まだふらつく身体を無理矢理起こし、すずかは立ち上がった。手に力は入らず、立っているだけで足が震える。
(フェイトちゃんを、助けなきゃ)
スノーホワイトが密かに中継してモニターに展開している映像を見る限り、フェイトはシグナムに押し負けてはいない。なのはもヴィータと充分に渡りあっている。しかしそれはつまり、もしシグナム達に増援があった場合、戦局が悪化しかねない事を意味している。ザフィーラやシャマル、それに、あの仮面の男が現れたら‥‥‥。
(行かなきゃ)
言うことを聞かない身体に鞭を打ち、すずかは密かに転移装置のある部屋へと向かう。
《駄目です、すずか。まだ寝ていてくださいまし》
「寝てなんていられないよ。助けに行かなきゃ。嫌な予感がするの」
《ですが》と抵抗するスノーホワイトを黙らせて、転移装置を起動させた。当然と言えば当然なのだが、それはすぐにアリサに見つかった。
《すずかっ!アンタ一体何やってんの!》
止められる前に転移してしまえば問題はない。心の中で、(ごめんね、アリサちゃん)と謝って、すずかはシグナム達のいる世界へと転移した。《バカっ!もう!クロノ、エイミィさん!大変です!》というアリサの通信を残して。
◇◆◇◆◇
すずかが着いた時には、既にフェイトに意識はなく、シグナムの腕に抱かれていた。
「言い訳するつもりはない。その‥‥‥すまない」
フェイトからはごく微量の魔力しか感じられない。恐らく、リンカーコアを抜かれている。所々怪我はしているものの、打ち倒された訳では無さそうだ。すずかの時と同じで、戦闘の最中に抜かれたのか。
「フェイトちゃん!」
シグナムがフェイトを地面に寝かせると、すずかは重い足取りながらも意識のないフェイトに駆け寄り、抱き上げた。
「どうして‥‥‥どうして‥‥‥」
頭がぼうっとする。胸が、イタイ。クルシイ。アツイ。すずかは左胸が痛み、その部分を押さえる。意識が、遠退く‥‥‥
シグナムは、すずかの腕の中から滑り落ちたフェイトを咄嗟に抱えあげ、その場から離れる。
《ヴィータ!不味い、離脱しろ!》
《何だよシグナム、この魔力は!》
《今すぐだ!》
ただ事ではないシグナムの言い様と感じられるその膨大な魔力に、ヴィータは撤退を決意し、急ぐ。
一方シグナムはなのはの目の前まで移動すると、なのはにフェイトを預けた。
「高町と言ったか。テスタロッサを連れてこの場から離れろ」
「シグナムさん、どうして?」というなのはに無理矢理フェイトを預け、シグナムが後ろを振り向くと、あのときと同じ姿の(インペリアルローブが白を基調としたものに変わっていたが)すずかが居た。既に背中の赤黒い焔の翼が大きくはためき、今にも此方に攻撃せんとする状態だった。
うっすら金色に光るそのすずかの瞳は、なのはに向いているように思える。
カートリッジを2回炸裂させ、冷や汗を流すシグナムは、そのすずかに向かっていき、レヴァンティンを振るった。しかし。
「何だと!?」
すずかはシールドすら張らず、その場を動かずにシグナムの一撃をまともに食らった。にも関わらず、その衝撃ではびくともせず、かすり傷ひとつついていない。
「すずか‥‥‥ちゃん?」
なのはのその言葉に反応したすずかは、すずかとは違う声で話した。
『きっとこの場で消えてしまったほうが、新たに哀しみを生まなくて済む』
すずかが見ているのは、なのはではなく、フェイトだった。それに気付いたシグナムが、叫ぶ。
「高町なのは!早く離脱しろ!」
『目的、対象の殲滅。システム起動。出力、20‥‥‥‥‥‥!! 維持‥‥‥出来ない‥‥‥!』
そう言い残し、纏っていた強大な魔力がフッと消え失せ、元に戻ったすずかは墜落していく。
慌ててすずかの元に向かうなのはを見ながら、離脱するシグナム。
(急に消えた?どういう事だ?やはりあれはあの子の意思ではないのか?掴めん事が多すぎる‥‥‥)
◇◆◇◆◇
《‥‥‥何だって!》
《だから、すずかが居ないの!何処にも!!》
なのはが意識のないフェイトと、まだふらつくすずかを連れて戻って来て数刻。
先程までフェイトと一緒に寝かせていた筈のすずかが見当たらない。アリサはクロノに通信を入れ、早く戻るよう催促していた。クロノにとっても、すずかは要保護者であると同時に‥‥‥観察対象者でもあった。
《兎に角探すんだ!彼女のデバイスの反応とか‥‥‥》
《‥‥‥ワタクシなら、此処にいますわよ》
そう、すずかはスノーホワイトさえも置いて居なくなっていた。既になのはは外に探しに出ている。と言っても、宛がある訳でもなかった。
(ごめんなさい、みんな。ごめんね、フェイトちゃん‥‥‥ごめん‥‥‥なさい)
宛もなく歩いていたすずかは、ひたすら心の中で繰り返していた。
今回は、覚えていた。と言っても、その時は自身の意識とは関係無く身体が動いていたが。恐らく、動かしていたのはユーリ。それでも。
(フェイトちゃんには、もう会えないよ‥‥‥殺そうとした。フェイトちゃんを。この手で)
心の沈んだままのすずかは、何処へともなく、ただ宛もなくさまよっていた。
地固まる前の雨ですよ、回。
テンプレ?な展開ですが、次回はフェイ×すずに新展開を予定してます。
既に、なのはの事はそっちのけのすずかでした。