「第11回、八神家家族会議を始めます。議長は、私はやて。書記は今日も本を買いに来てくれたシュテルや!」
「どうも。王の晩御飯が出来る前迄には終わらせて下さい」
そのメンバーは、はやて、シュテル、アインス、シグナム、ヴィータ。ザフィーラはシャマルの迎えに行っている。八神堂の二階で紙とペンを広げ、シュテルを巻き込み相談中。
「本日の議題はな、すずかちゃんや。もう5日も学校休んどるそうやし、友達としても八神堂の常連様としても心配やんか。お見舞いせなあかんと思うんやけど、みんな良いアイディアないか?」
前回ヴィータがT&Hに行った時にすずかが体調不良で休んでいる、という事を聞いた。シグナムも今週に入ってから1度もすずかと会っていないのを不思議に思っていたそうで、そんなに休むほど悪いなら一度お見舞いでも、ということらしい。
「では、我が主。私と主が二人でお見舞いに行く、というのはどうでしょう?」
「アインス、お前は主はやてと二人になりたいだけだろう?」
一人我道を行くアインスに的確に突っ込むシグナム。「お前ら真面目に考えろよ!」というヴィータの声は聞こえていないようだ。
「どちらにしても、全員で押し掛けるのは迷惑がかかります。相手に失礼のない程度の見舞品をもって、はやてと誰かの二人で行くのが宜しいのではないでしょうか?」
書記の筈のシュテルは、さっさと終わらせて帰りたいのか、尤もな意見を述べた。「せやな。やっぱりそれがええな」と納得しているはやて。家族会議では収拾がつかないと踏んでいたのか。シュテルを捕まえてきたのは納得させる為か。
「それならやはり私が!」
「いや、私が行きます、主はやて」
「それならアタシだよね?はやて」
「んー、誰とがええかな?じゃあ‥‥‥ザフィーラといくわ。みんな留守番宜しくな?」
「「「は?」」」
3人の声が揃う。その時に、間が悪く帰ってきた、ザフィーラとシャマル。
「主、今帰りまし‥‥‥ん?」
刺すような3人の視線を受けるザフィーラ。「どうしたの?みんな?」というシャマルが3人の側に付いたのは、そのすぐ後だった。
ザフィーラと歩くはやて。その手には、翠屋の箱。病人にケーキはどうかとも思ったが、流石に5日目なら食べられるくらいには回復しているだろう、と思い、購入。
「はやてにザフィーラ?どこ行くの?」
その途中で、アリシアとバッタリ会った。すずかのお見舞いに、と告げると、何故か俯くアリシア。「会えないよ、多分」と哀しげな声で話したアリシアに疑問を感じながらも月村邸へ向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「今日は晩御飯はお鍋にするよ。みんな早く帰ってきてな」
車椅子でザフィーラと一緒に3人を見送るはやて。シャマルは近くの小学校のバザーの手伝い。シグナムは近所の剣道場。ヴィータは近所の老人達とゲートボール。それぞれやることが有るのは良いことだと思いながら、はやてはザフィーラと夕飯の買い物へと家を出る。その後ろから一匹のネコがついて来るのには気づかない。
やがてスーパーに付いたはやて。ザフィーラは入り口で待機。当然、ついてきていた猫も、入れず。
車椅子で多少不自由はあるものの、一人の期間が長かったはやてにとって、そこは慣れたもの。手際よく食材を選んでいく。
と、携帯が鳴る。シャマルからだ。
《もしもし、はやてちゃん?》
《うん、シャマル。どないしたん?》
《ごめんなさい。今日はみんな晩御飯少し遅くなっちゃうかも知れないので、ちょっとだけ待ってて下さいね》
《分かったよ。急がんでええから、ゆっくり帰ってきてな》
《本当にごめんなさい》
何故か少し焦った物言いのシャマルに疑問を感じながらも、はやては気を取り直す。どうせ少し遅くなるなら食材を良く吟味して買おうと、再び野菜売場に戻っていった。
◇◆◇◆◇
道路の真ん中で、「チッ」と舌打ちをするヴィータ。そのヴィータを横目に、「堅いな」と呟いたシグナムは、局の結界魔導師達の張った結界を内側から破壊すべく、レヴァンティンに手を伸ばす。
《今から結界を破壊する。バラバラに転移して、いつもの場所で落ち合おう》
その念話が終わるか終わらないかのうちに、結界内に二人の魔導師が転送されてきた。覚えのある魔力に、シグナムは「そう簡単には行かんか」と洩らす。
「シグナム、例の局員の奴らか?」
「そうだ、ヴィータ。油断はするな」
「分かってるよ!」
二人の目に映ったのは、雷と氷の魔力を持つ二人の魔導師。
「シグナム!」
「ヴィータちゃん!」
それぞれ対峙した相手の名を呼ぶ、フェイトとすずか。二人はそれぞれデバイスを構えると、その名を叫ぶ。
「『バルディッシュ・アサルト!』」
「『スノーホワイト!』」
「『セーット、アーップ!』」「『リライズ、アーップ!』」
変身の終わった二人を見たヴィータとシグナムは、目を疑った。フェイトの持つバルディッシュにカートリッジが装備されているとか、そういう予測できる範囲の物にではない。すずかがその左手に持っている本型のデバイスに、である。
「おい、嘘だろ‥‥‥シグナム、あいつ!」
「どういうことだ?《シャマル!闇の書は!》」
《ちゃんとあるわよ!私が持ってる!》
結界外で待機しているシャマルに念話を送り、闇の書が在ることと確認する。ではあれはなんだというのだ?どう見ても闇の書にしか見えない。
「一気に行くよ、フェイトちゃん!」と叫んだすずかは、あろうことか、エンシェントベルカの魔法陣を展開させる。
「なっ、何だよあいつ!なんでベルカ式‥‥‥」と驚いているヴィータを引っ張り、回避距離を取るシグナム。
「『仄白き雪の王、銀の翼以て、眼下の大地を白銀に染めよ。来よ、氷結の息吹!!アーテム・デス・アイセス!!』」
(不味いな)
そう思ったすぐ後に、二人に氷の嵐が押し寄せ、辺り一帯を巻き込み銀世界を作り出した。それより一瞬早くレヴァンティンの炎を爆発させ、その氷河から逃れた、シグナムとヴィータ。攻撃の手を休める事なく、そこに向かってくるフェイトとすずか。
「『プラズマランサー!』」
「『アイシクルエッジ!』」
それぞれシグナム、ヴィータに向かい放たれた攻撃魔法を、回避しつつ迎撃、反撃する。
(対処できる範囲内だが‥‥‥何処か妙だ)
魔力を気にせず次から次へと撃ち続ける二人に疑問を持ち始めたシグナムは、あることに気付く。
(桜色の光‥‥‥?)
辺り一帯に桜色の光が当たっていることに気が付いたシグナムは、咄嗟に上を見上げた。
《シャマル、早く結界を!こっちは手が離せん!》
《でも、私じゃ結界を抜けない!シグナムかヴィータのギガント級の魔力じゃなきゃ!》
不意に3人に《こっちだ》と念話が聞こえたのは、その時だった。
《何!?誰だ!》
《烈火の将か。時間がないのだろう?こっちだ》
バシュン、バシュンと2つのカートリッジを排出し、魔力収束を終えた桜色の光。なのははシグナムとヴィータに向かい、レイジングハート・エクセリオンを降り下ろす。
「全力全開!『スターライト・ブレイカー!!!』」
強大な桜色の魔力が、地面に向かって走る。着弾点一帯を飲み込んだ光の奔流が収まった頃、なのは、すずか、フェイトにアリサから通信が入った。
《逃げられたみたいよ》
なのフェイのリンカーコア復活、アサルト&エクセリオン御披露目回。そして、なのはの全力全開がえげつない回。
意味深なはやてちゃんとザッフィーのお見舞回でもあります。
次回は遂に!フェイトちゃん動くの回の予定。