Crescent Moon tears   作:アイリスさん

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しばしの休息とフェイトの心

 

 

聖祥小の3年生の教室内。担任が勿体ぶって紹介する。

 

「今日から皆さんに新しいお友達が増えます。海外からの留学生さんです」

 

《フェイトちゃん頑張って!》

 

「フェイト・テスタロッサ、です。よろしく、お願い、します」

 

すずかが念話でエールを送るも、フェイトの声は上擦り、顔が少し紅い。手も少しだが震えている。所謂、緊張というやつ。今までは命懸けの実戦を繰り返してきたフェイト。しかし、狭い人間関係の中で育ってきた彼女にとって、自己紹介という不特定(?)多数の前にでる事には慣れていない。普段のように流暢に話せず、片言の日本語を話しているように聞こえる。海外からの留学生、という紹介のお蔭で、周りにはそれも違和感なく聞こえる。若干二人を除いてだが。

 

「フェイトちゃん緊張しちゃってるね」

 

「そうだね、すずかちゃん。本当の外国の人みたいだよね」

 

「アレ?なのはちゃん。フェイトちゃんは日本人じゃないから外国の人で合ってるよ?」

 

相変わらずなのはは天然、というか、鈍い、というか。魔法の事以外は全然駄目である。とてもではないが、スターライトブレイカーを独力で組み上げた怪物には見えない。

 

フェイトの席はすずかの隣でなのはの前。以前アリサが座っていた場所である。ホッと胸を撫で下ろし、フェイトは自分の席に座る。

 

「「お疲れ様、フェイトちゃん」」

 

「ありがとう、すずか、なのは。自己紹介って緊張するんだね」

 

それからは休み時間の度に質問責め。何処に住んでたとか、今何処に住んでるとか、前の学校はどんなだったのとか、好きな食べ物はとか。それから、すずかやなのはとはどういう関係とか。

 

「すずかとは、えっと‥‥‥」

 

「フェイトちゃんは友達なんだ。春に出会ったの。ね?なのはちゃん?」

 

「そうなんだよ!ね?フェイトちゃん」

 

「う、うん」

 

フェイトが危うく本当の事を言いかけたと思い、すずかがすかさずフォローを入れた。フェイトは本当はもっと違う事を言いたかったのだが。もっと危険な。

 

(そう、だよね。すずかとは『まだ』友達‥‥‥)

 

◆◇◆◇◆

 

「本当にアリサちゃんは学校はいいの?」

 

「アタシは本局スタッフ。あの子は嘱託であくまで外部協力者。それだけですよ。フェイトも生き生きしてるし、良かったじゃないですか」

 

モニターに向かい、闇の書関連の過去のデータやヴォルケンリッターについてのデータをまとめながら、アリサはエイミィに自身の気持ちを吐露した。

 

「エイミィさん。最近思うんですけど。アタシのやろうとしてる事って、フェイトにとっては残酷な事なんですよね。すずかが元の世界に戻ったら‥‥‥。フェイトは今はもう独りじゃないけど、あの子にとってはきっと、すずかが世界の大半を占めてる。すずかと別れるって事はフェイトにとっては‥‥‥」

 

「んー、でもさ、すずかちゃんだって絶対元の世界に帰りたいだろうし。フェイトちゃんの気持ちだって分からなくはないけど、そういう別れも経験して、人って成長していくんじゃない?アリサちゃんのやろうとしてる事は間違ってないよ」

 

エイミィは、やはりモニターを見ながらもアリサの肩にポンと左手を置く。

 

「兎も角さ、今は闇の書事件の解決が先だよ。みんなが最善手で動けるようにサポートするのが今の私達の役目だよ」

 

エイミィとアリサは再びデータを作り始めた。その手元には、ヴォルケンリッターのシグナム、シャマル、ザフィーラ、ヴィータのカード4枚と、すずかが書き記した四人のスキル、戦い方の特徴等のまとめてあるレポート用紙。

 

◆◇◆◇◆

 

「すずか、ちょっとくすぐったいよ」

 

「ダメだよ、フェイトちゃん。我慢、してね」

 

「あっ、い、痛い、痛いよ」

 

「目に入っちゃった?ごめん、フェイトちゃん、大丈夫?」

 

そんなやり取りをしている二人を見ていたアリサが、隣で髪を洗っていたなのはに愚痴る。

 

「‥‥‥砂を通り越して砂糖を吐きそうだわ」

 

「ふぇっ?アリサちゃん、砂糖ってどうやって吐くの?」

 

「‥‥‥やっぱりいいわ。なのはには分かんなくても」

 

海鳴市は湯の街。現在、みんなでスーパー銭湯に来ている。すずかは単に自分で髪を洗うのが苦手なフェイトの為に髪を洗ってあげているだけのつもりなのだが、外野にはどうもそれ以上に見えるらしい。

現にアリサは、二人のそのベタベタっぷりに呆れ果てている。みんなを連れてきた張本人、エイミィも泡風呂に浸かりつつ、二人がそれ以上エスカレートしないかとハラハラしている。

 

「あの二人、このまま放っといて大丈夫かな?美由希ちゃん」

 

「えっ?エイミィ、何が?別に普通でしょ?私と恭ちゃんだってあんな感じだよ?」

 

「‥‥‥‥‥‥」

 

エイミィも遂に呆れ、口をあんぐりと開けたまま。なのはの姉、美由希には普通に見えるらしい。「そりゃなのはちゃんが好意に疎くなる筈だわ」と呟き、「えっ?何?」という美由希を溜め息混じりに見ている。

 

 

ーーーーー事の始まりは数時間前。

 

「お邪魔します」

 

「うん。いらっしゃい、すずか」

 

海鳴市のハラオウン家兼臨時作戦本部。家の手伝いのなのはと別れ、すずかはフェイトの部屋へ。今日はリンディは本局。エイミィとアリサはギャレットらと会って情報の擦り合わせ。そんな訳で2人だけ。(アルフは無限書庫のユーノの手伝い)

 

宿題を終え、ガールズトーク(?)やら魔法談義やらをしているところに、リンディから連絡が入った。

 

「はい、提督」

 

《フェイトさん?今日は夜は外食にしようと思うんだけど、もし良かったらすずかさんも一緒にどう?よければご両親には此方から連絡しておくけど》

 

リンディからの通信に身構えたすずかだったが、それならと甘える事にした。

 

《それじゃあ先にお風呂入っちゃってね?》というリンディの言葉に、激しく動揺するフェイト。外食に出る時間から考えて、一人一人バラバラに入るよりも二人で入ったほうが余裕を持って準備出来るのだが‥‥‥。

 

(どうしよう。二人で入ったほうが余裕が出来るけど、すずかと一緒には恥ずかしいし‥‥‥。すずかとお風呂、か‥‥‥すずかと‥‥‥)

 

「フェイトちゃん?ねぇ、フェイトちゃん?」というすずかの呼ぶ声も耳に入らないフェイト。一大決心したフェイトが、「すずか、あ、あの、良かったら、一緒に‥‥‥」と言いかけた所で、ドアが開く音がした。

 

「たっだいま~、フェイトちゃん。すずかちゃんもこんにちは。もうお風呂入っちゃった?まだなら今からみんなでココに行こうと思うんだけど、どう?なのはちゃんもアリサちゃんも美由希ちゃんも来るよ?」

 

そう言ってエイミィは1枚のチラシを見せた。そこにはスーパー銭湯スパラクーアNEW OPENとある。

 

「いいですね。行きます!ね?フェイトちゃん。‥‥‥フェイトちゃん?」

 

「うっ、うん」とは答えているものの、何故か涙目になっているフェイトに疑問を感じながらも、すずかは行くことにしたのだった。

 

 

そんなこんなで、現在。

 

「この辺?」

 

「ん‥‥‥そこ。気持ちいいよ、すずか」

 

と、未だに洗いっこをしている二人に、アリサがいい加減キレて、お湯を浴びせ始めた。

 

「アンタら、何時までイチャイチャしてんのよ!お風呂回るんだから早くしなさい!」

 

‥‥‥‥‥‥なのは、すずかのリンカーコアはまだ回復途中である。

 

◆◇◆◇◆

 

すずか達がそんな事をしている頃。本局技術部スタッフのマリエル・アテンザは、直った筈のデバイス2機、レイジングハートとバルディッシュのエラーメッセージに驚いていた。

 

「えっ?エラー?なにこれ?CVK-792が足りない?CVK-792って‥‥‥ベルカ式カートリッジシステム?ホントに!?」

 

 




銭湯回でした。そうやってなのはは朴念仁になっていくのでした。

‥‥‥八神家は銭湯には前日に行きました。美由希以外は会った瞬間アウトなので。

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