秘めたる決意と科学兵器
夜天の書を左手に携え、剣十字の付いた杖をそれに向けて構えるはやて。
「ごめんな、おやすみな」
闇の書の闇の部分とは言え、夜天の書のプログラム。しいては、ヴォルケンリッターと同じ、はやての子供も同然。そんなナハトヴァールにすら情けをかける。
「はやてちゃん!」と言うすずかの声に気持ちを切り替え、目一杯の魔力を込めて魔法陣を展開する。
「「『『響け、終焉の笛!ラグナロク!!』』」」
はやての頭上に、一際大きい魔法陣が現れる。『神々の黄昏』の名に相応しい、恐るべき量の魔力が充填されていく。
なのはとフェイトのそれに合わせ、四人はナハトヴァールに向けて、その魔力を解き放った。
「「「「『『『『ブレイカーーー!!!!』』』』」」」」
◆◇◆◇◆
すずか達とフェイトが出会ったその年の冬。新暦で言うところの65年、12月1日。早朝。
海鳴公園には二人の姿があった。周りには結界が広がっており、他の人影はない。
「まだ、まだだよ!もっともっと溜めて、なのはちゃん!」
《‥‥3‥‥2‥‥1‥‥‥‥‥‥‥‥0!》
「『スターライト・ブレイカー!!!』」
轟音と共に放たれた桜色のそれは、二人が全開で張った結界を造作もなく撃ち抜き、空の彼方へと消えていく。それと共に、バリーーッンという音が響き、結界が消滅。
「えっと、すずかちゃん?これってちょっと不味い気が‥‥‥」
「そうだね、なのはちゃん。ちょっと不味いかも‥‥‥」
《や・り・す・ぎ・ですわ!!》
スノーホワイトの叫びと共に、全力ダッシュでその場を後にする二人。誰にも見られていない事を祈りながら走る。
「だって!まさかあんなに強力だなんて思わなかったんだもん!」
「でも、なのはちゃん。フェイトちゃんもアリサちゃんもきっとビックリするね!」
走りつつ反省しながらも、二人の心は弾んでいる。明日になれば、フェイトに会える。フェイトの裁判も、遂に明日判決。それが終われば、フェイトは海鳴に長期滞在する事になっている。
勿論アリサも来るが、驚くべき事に彼女はエイミィの右腕としての仕事があり、長期は休めないという。初めてその話を聞いた時は、二人とも冗談だと思い、なかなか信じられなかった。
「早く明日にならないかな」
「そうだね、すずかちゃん。フェイトちゃんとはキスまでした仲だもんね」
顔を真っ赤にして、「もう!なのはちゃんは!」と照れているすずかと、「にゃはは」と笑っているなのは。この時はまだ、二人に脅威が忍び寄っている事など考えつきもしなかった。
◆◇◆◇◆
「事実上の判決無罪、数年間の保護観察という結果はほぼ確実といっていい。フェイト、明日の受け答えだけしっかり頼む。アリサもだ」
「分かった。ありがとう、クロノ」
「まっかしときなさい!アタシがしくじる訳ないじゃない」
管理局本局ドッグとのドッキングを終えたアースラの食堂で、フェイトの裁判の最終打ち合わせをする面々。隣でエイミィがチョコレートをつまみつつ、口を開く。
「でもアリサちゃんにはホントビックリだよね~。まさかこんなに早く現場に出るなんてさ。昔モニター見ながら叫んでたのが嘘みたいだよね~」
「アタシなんだから同然、って言いたい所ですけど。エイミィさんにはまだまだ追い付きませんし、並行世界に渡る方法だってまだ。先は長そうですよ」
「ハァ」と溜め息をつくアリサ。そうは言ってはいるが、アリサが極めて優秀なのは周りの誰もが認める所。‥‥‥本当の所は、すずかを一日でも早く帰してあげるために、毎日がむしゃらに勉強しているからなのだが。
そんなアリサの優秀さのお蔭、というべきか、アリサのせい、というべきなのか。なのはには武装隊から、すずかには武装隊と救助隊からそれぞれオファーが来ていたりする。
アリサが優秀だから、PT事件で活躍した二人も同然優秀だろう、という単純な図式である。クロノは事あるごとに其々の部隊から話をされている。現地の海鳴では15歳までは義務教育だから、と言ってもアリサの例もあってかなかなか引かず、クロノの最近の悩みの種のひとつになっている。
「でもアリサ、海鳴に着いたら、お仕事の事は忘れてゆっくりしよう?すずかとなのはにも会えるし」
「フェイトの場合は『愛しのすずか』にでしょ?」
アリサの言葉に「そっ、そんなんじゃないから!」と真っ赤になって反論しているフェイトに、「ハイハイ、分かったわよ」とニヤニヤしつつ答えるアリサ。そんな二人に呆れながら、クロノは席を立つ。
「僕はそろそろ。艦長に呼ばれているしな。エイミィ、君もだ」
「うんクロノ君。レティ提督と話があるんだよね?確かロストロギアがどうとか‥‥‥」
それを聞き、アリサの表情が若干曇る。最近噂で聞いている、第一級捜索指定ロストロギア、闇の書。それの担当になったりしたら、なのはやすずかとユックリする所ではない。せめて今だけは、と祈りつつ、クロノとエイミィを見送った。
◆◇◆◇◆
「どうした、ザフィーラ。そんなものか?盾の守護獣が聞いて呆れる」
「グッ‥‥‥まだ、まだだ」
向かい合い、睨み合うシグナムとザフィーラ。二人の間で聞こえるのは、打ち合う音だけ。辺りに漂う、張りつめた空気。
「王手だ、ザフィーラ。どうする?」
「ま、待った、待ってくれ」
パチン、と将棋の駒を打ち、王手を宣言するシグナム。昨日まででシグナムの17勝16敗。
「お前ら将棋好きだよなー。はやてが朝ご飯出来たってさ。早く来いよ」
二人を呼びに来たヴィータ。シグナムはそのヴィータに、「分かった、今行く」と返事をし、ザフィーラと話す。
「ザフィーラ、今朝の魔力、どう思う?」
「大きかったが、いつもと同じだ。相手が何で有ろうと、我らのする事は一つだ」
「そうだな‥‥‥。今夜は主はやてとの約束もある。明日の深夜に収集に向かうとしよう」
話を終えた二人は、はやての作ってくれた朝食を食べる為、一階へと降りる。車椅子にエプロン姿、お玉を持った家の主、はやてが笑顔で迎えてくれた。
「シグナム、ザフィーラ、朝食出来てるよ。ホラ、座って座って」
「はい、主はやて」
「みんな揃うたし、では」
「「「「「いただきます」」」」」
‥‥‥と、シグナムは行儀が悪いとは思いながらも、ある一品の前でその箸を止める。
「これを作ったのはシャマルか?その‥‥‥見た目が」
「あ~!シグナムひど~い!」
シャマルはそんな事を言ってはいるが、見た目では何の料理か分からず、奇妙な匂いを発している。ヴィータ曰く『科学兵器』。「そんな事言うたらあかんよ。シャマルかて頑張ってるんやで?」というはやてに無理矢理食べさせられたヴィータは白目を剥いている。
一見すればどこにでもある(シャマルの壊滅的な料理の腕は除く)、しかしながらヴォルケンリッターである彼女達には初めてとも言える、平穏な日常。
現在の闇の書の主、八神はやて。まだあどけない、9才の少女。はやてが、『人様に迷惑かけるのはあかんよ』と言って収集を拒否した事に驚いたのは、まだ記憶に新しい。それだけに、現状が歯痒い。
シグナムははやてに暖かい眼差しを向けつつも、闇の書の呪いを受けている主のため、決意を新たにした。
(主はやて。誓いを破った事、お許しください。全ては貴女の為。我らが必ず、貴女を救ってみせます)
‥‥‥ヴィータは未だ気絶中である。
A's編スタート。すずかはキスされて以来、ちょっと意識してます。(フェイトの計算通り!?)
シャマルの料理の腕は相変わらずです。
‥‥‥そろそろアリシアちゃんをかまってあげないと。こっちのはアイデアがポンポンと浮かぶのに、もう一つはどん詰まり中です。