Crescent Moon tears   作:アイリスさん

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恋は盲目

 

兎に角、ジュエルシードを探さないと。きっと母さんだって、必要なだけジュエルシードを持っていけば、すずかの事は見逃してくれる。自分に託されているうちに探さないと。母さんが出てきちゃったら、いくらすずかでも‥‥‥。私が。私が何とかしないと。ジュエルシードを集めないと。どんな事をしてでも。

半ば脅迫観念に駆られ、フェイトはジュエルシードを探して歩く。

 

(やっぱり海かな‥‥‥。アルフ、何処にいるの?一人は嫌だよ‥‥‥)

 

アルフの言葉を思いだし、海の方へと向かう。やがて海に着いたフェイトは、海上へと飛ぶ。やはり海中から魔力を感じる。それも、複数。

 

迷ってはいられない。フェイトは魔力を集中させ、詠唱を始める。

 

「『アルカス・クルタス・エイギアス。煌めきたる天神、今導きの元、降り来たれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル。撃つは雷、響くは剛雷』」

 

フェイトの頭上に大規模魔法陣が展開され、雷鳴が轟く。巨大な魔力流が海中に撃ち込まれ、ジュエルシードが6つ、その姿を現した。

 

◆◇◆◇◆

 

「何やってるの、あの子!」

 

「無謀過ぎる‥‥‥けど」

 

アースラブリッジでフェイトのその行為を見ていたエイミィとクロノ。助けに行く、若しくは先攻してジュエルシードを確保しに行く、等一切の行動を起こさない。ただ、傍観しているだけ。

 

「ちょっと!何で助けに行かないのよ!フェイトが危ないじゃない!」

 

アリサの怒りにも尚、動く気配を見せない。目の前のモニターには、6つのジュエルシードの水柱と格闘しているフェイトの姿。

 

「このままなら彼女は自滅する。少なくとも激しく消耗はする。そこを保護すればいい。僕らはクルーの安全も考えなきゃならないんだ。非情な選択かも知れないが、確実な方法を選択しなきゃならない」

 

非情なクロノの言葉。頭では分かる。理屈も正しいのかも知れない。しかし、アリサは納得出来ない。アリサはなのはとユーノを交互に見る。二人の表情を見る限り、思いは同じようだ。この場には居ないが、すずかだってきっと。アリサはなのはの隣に立ち、その耳元で囁く。

 

「フェイトを頼んだわよ、なのは」

 

「うん、任せて、アリサちゃん」

 

なのはがそう答えると、ユーノに念話を送る。

 

《ユーノ君!》

 

《僕がゲートを開く。なのははそこから外へ!》

 

ユーノとて思いは同じ。ブリッジのゲートが開かれ、転送ポートが起動し始める。それに気付いたクロノが後ろを振り返るも、間に合わず。

 

「待て!!君達のやってる事は‥‥‥」

 

「高町なのは、指示を無視して勝手な行動をとります!」

 

ポートから外へと出たなのはは、空中で重力に身を任せながら、レイジングハートを握りしめる。

 

「行くよ、レイジングハート!『風は空に、星は天に、輝く光はこの腕に!不屈の心はこの胸に

!!この手に、魔法を!レイジングハート、セーット、アーップ!!』」

 

◆◇◆◇◆

 

(思ったより上手く行かない‥‥‥でも、諦める訳にはいかない!)

 

フェイトはバルディッシュを握る両手に力を込める。この6つを封印したら、計12個。きっと、それでも足りない。残りはやはり‥‥‥。

 

(不味い!)

 

一つの水流を避けるも、それを避けた先に二つの竜巻。今のフェイトには避けきれない。只でさえ、魔力流を撃ち込むのに多大な魔力を使用している。消耗した今の状態では、魔力が足りない。

 

(駄目だ!避けられない!‥‥‥すずか)

 

思わず目を瞑り祈ったフェイトだったが、何者かに抱えられ、その人物の高速移動でその場を脱した。恐る恐る目を開けた視線の先に居たのは、すずか‥‥‥ではなく、あの白い魔導師。

 

「助けに来たよ、フェイトちゃん!」

 

「君は‥‥‥どうして?」

 

「むぅ。フェイトちゃん、今ちょっとガッカリしたでしょ?」

 

「なっ!?すずかじゃなかったからって、ガッカリなんてしてない!」

 

思わぬなのはの指摘に、フェイトは反論した。尤も、顔を真っ赤にして動揺しながら言っている時点で説得力など全くないが。

 

何故か少しむくれたなのはは「すずかちゃんにはアリサちゃんがいるのに‥‥‥私が最初にフェイトちゃんに会ったのに‥‥‥」とぶつぶつと言っている。《マスター?》というレイジングハートの一言で我に返ったなのはは、フェイトの傍まで来ると、その杖をかざした。

 

《Divide Energy》

 

レイジングハートから桜色の光が溢れてフェイトを包み込み、消耗しきっていた魔力が回復していく。

 

「‥‥‥どうして?」

 

「今は、目の前のジュエルシードを封印しなきゃだよ、フェイトちゃん。一緒にね!」

 

そう言ってなのははフェイトにウィンクして、レイジングハートを6つの起動しているジュエルシードに向ける。大規模環状魔法陣がなのはを取り巻き、レイジングハートの先端に魔力が集まる。

 

《Sealing mode》

 

と同時に、なのはの意を汲んだバルディッシュはシーリングモードを展開。フェイトはなのはにタイミングを合わせようと構える。

 

「フルパワーでいっちゃうよ、レイジングハート!」

 

《All right!マスター!》

 

そんななのはを、フェイトは複雑な表情で見ていた。この子はどうして助けてくれるの?そう言えば、この子は、会う度いつも必死に呼び掛けてくれていた。すずかと同じように‥‥‥?

 

そこでフェイトは思考を一度切った。新たに浮かんだ疑問は、ジュエルシードを封印してから。なのはが砲撃態勢に入った。今は、封印に集中するフェイト。

 

「行くよ、レイジングハート!『ハイペリオンーーースマッシャー!!!』」

 

「こっちも行くよ、バルディッシュ。『サンダーレイジ!!』」

 

クロノ曰く『馬鹿魔力』を浴びたジュエルシードは、6つともアッサリと封印される。フェイトがそれに安堵したのも束の間。なのはの口から思いもよらない、いや、聞きたくなかった一言を聞かされた。

 

「ねぇ、フェイトちゃん、すずかちゃんは一緒じゃないの?居なくなっちゃって‥‥‥」

 

「‥‥‥えっ!?」

 

フェイトは固まった。すずかが居ない?どうして?まさか、母さんに?私が駄目だから、母さんがすずかを?嫌だ、そんなの‥‥でも、まだ間に合うかも知れない。早くジュエルシードを集めて持っていけば‥‥‥ジュエル‥‥‥シードを‥‥‥。すずかを‥‥‥助けなくちゃ。

 

目の前には、6つの封印済みのジュエルシード。そして、残りのジュエルシードを持っているであろう魔導師。それを全部手に入れて、持っていけば‥‥‥。フェイトは唇を噛んだ。無言で6つのジュエルシードを引きちぎるように掴み、なのはを睨む。

 

「ジュエルシードを渡して!!今すぐに!」

 

「どうしたの、フェイトちゃん!?何かあったの?」

 

なのはの声は届かない。更に声を張り上げるフェイト。

 

「渡して!全部!渡さないなら‥‥‥!」

 

フェイトはバルディッシュを再起動し、なのはに斬りかかる。それをラウンドシールドで受けつつ、なのはは再度フェイトに問う。

 

「どうしちゃったの?フェイトちゃん。何か悩みとかあるんなら、お話聞かせて‥‥‥」

 

なのはの言葉はフェイトには聞こえていないかのよう。いつものような冷静さを失い、感情に任せてなのはにぶつかってくる。

 

「ジュエルシードを、渡せば済むんだ!早く‥‥‥早く!『フォトンランサー!』」

 

「フェイトちゃん!?」

 

なのははフェイトの雨のような、しかし出鱈目な攻撃をラウンドシールドでひたすら防ぐ。

 

《なのは!今のフェイトに何を言っても駄目だ!反撃しなきゃ!》

 

ユーノの念話にも、なのはは《でも‥‥‥》と躊躇う。そうしてひたすら耐えるだけのなのはに痺れを切らしたフェイトは、次の行動に移った。

 

「『アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神。今導きの元、撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル』」

 

「!!フェイトちゃん!?」

 

なのはは両手足をライトニングバインドで拘束される。多数の魔法陣が現れ、数多のフォトンランサーがなのはに向けられている。フェイトは一度なのはを睨み、それを放った。

 

「『フォトンランサーファランクスシフト!撃ち砕け!ファイア!!』」

 

◆◇◆◇◆

 

(フェイト。フェイトに、会わなきゃ)

 

アースラの医務室で目覚めたアルフは、ヨロヨロと立ち上がり、フラフラの状態でブリッジの方へと向かう。すずかは言った。例えどんな生まれ方だったとしても、フェイトがフェイトであることは変わらないと。フェイトがすずかの友達である事は何ら変わらない、と。だから、止めないと。プレシアの元へと独りで向かった、フェイトの大事な友達を。伝えないと。フェイトに、もう頑張らなくていい、プレシアの言うことなんて、もう聞かなくていいんだ、と。

 

やがてブリッジに着いたアルフは、そのモニターを見たあと、クロノに願い出た。

 

「お願いだ、執務官。アタシをあそこに連れていってくれないか。フェイトを止めなきゃ」

 




フェイトちゃん不安のあまり暴走する、の回。助けてくれたなのはにも容赦なくファランクスをブッ放す。

アルフさんは前回すずかに会った時に全てを聞いてます。

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