Angel Beats! 失われた未来   作:大小判

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ハイテンションシンドローム 前編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日、死んだ世界戦線のメンバーとすれ違った。

 

『イィー―――――ハッハッハァ―――――――!!!』

『死んだ世界戦線サイコォ――――――――――――!!!』

 

今日の戦線は、何かおかしい。

いや、いつも可笑しい連中ではあるが、今日は特別に可笑しかった。無駄にテンションの高い言動で学園中を暴れまわっている。

 

「一体、戦線で何が起こっているんだ・・・?」

「お答えしましょう」

「遊佐ちゃん?」

 

俺が独り言を呟くと、遊佐ちゃんはどこからともなく現れた。いつも涼しい顔した遊佐ちゃんの印象からかけ離れた、何故か上気した顔。額には汗を浮かべている。

 

「あれはそう、1時間前の出来事でした」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「今回の作戦、ハイテンション・シンドロームを行うわ」

 

ここは死んだ世界戦線本部、校長室。リーダーの仲村ゆりは今回の作戦始動を戦線メンバー達に場を設けて伝えた。

それに反比例して、沈黙が流れる校長室。

 

「なんでノーリアクションなんだ!?」

「・・・いや、初めて聞いたし」

 

音無の問いに岩沢が呟いた。

 

「そりゃそうよ。新しく創ったんだから」

 

当然、という顔をして話を進めるゆり。

 

「この作戦は、行うこと全てをハイテンションでして頂戴」

『『『はぁ!?』』』

 

全員が目を丸くする。当然といえば当然といえるだろう、それだけ聞いても作戦の趣旨が分からない。ゆりもその事は予測していたように、後ろに用意したスクリーンに映像を映し出す。

 

「つまりこういう事よ、ジュースを飲む時は一気飲み、廊下を走る時は全力疾走、会話は大声で話すこと。笑顔も忘れずにね」

 

頭が残念な者が多い戦線メンバーも何をすればいいのかは理解したようで、ゆりの次の言葉を待つ。そしてゆりはどこか自信に満ち溢れたような口調で口を開いた。

 

「こうすることにより、私達が充実した学園生活を送っていると、彼女に思いこませるの」

「それで、どうにかなるのかよ・・・てか、満喫したら消えちまうんじゃ・・・」

「それは・・・違う」

 

音無の問いに、日向が小さい声で返答した。

 

「これは・・・ハイテンションを装い続け、ただ満喫しているように見せるだけの余興・・・いわば、罰ゲームみたいなもんだ」

 

日向は肩を落とし、藤巻はゆりに向かって吠えた。

 

「な、なんなんだよそりゃっ!」

 

そんな事は納得できない、とばかりに噛みつく藤巻。

 

「浅はかなり」

 

それに続くように椎名がつぶやく。

 

「で、それでどうにかなるんですか」

 

クライストというハンドルネームを持つ、死んだ世界戦線における貴重なブレーン担当の竹山が問う。それに対し、ゆりは二ヤリと笑った。

 

「なるのよ。学園生活を満喫する・・・成仏の条件の一つのはず、なのに消えない。その事に天使は疑問を抱く筈。『一体全体どういうことっ!?』そうやって慌てふためく筈よ・・・すると彼女はコンタクトを取りに行く筈・・・」

「それってまさか・・・!」

「そう、私達は彼女に付いて行くだけで導かれるのよ!!神の元へ!!」

 

おおぉっ・・・!と戦線メンバー達は驚嘆の声を上げる。これまでの実力行使とは違った、戦線では珍しい頭の使った作戦である。

 

「だけどよ・・・こんな無茶苦茶な作戦、いつまでやれば・・・」

 

日向がゆりに問う。するとゆりはボタンを操作し、後ろのスクリーンが時間を表示する。

 

「作戦開始は午前9時、終了時刻は午後の9時」

「じゅ、12時間も!?」

 

あまりの長時間、大規模な作戦に大山が叫ぶ。その絶望感が伝染したように、藤巻は一縷の希望を持って恐る恐るゆりに問い掛けた。

 

「ハイテンションなのは、天使の前だけで良いんだよな・・・?」

「どこから見られてるかわからないし。常時よ」

 

ゆりの即答に戦線メンバーの頭は揃って項垂れる。その哀愁漂う姿をあえて無視し、ゆりは昏く、恐ろしい笑顔を張り付けて宣言する。

 

それと、もし失敗したら・・・・」

 

 

 

 

 

「みんなで一週間の断食よ」

 

 

 

 

 

 

 

『『『な、何だってぇぇぇぇぇぇぇええ!!!?』』』

 

悪魔の宣告に、死んだ世界戦線全員が絶叫する。この死んだ世界では死ぬ事は無い、と言うよりも死んでも蘇える世界だ。一週間断食でも死なないが、空腹の恐ろしさは成長期の肉体を持つ学生には苦行である。それに追い打ちをかけるように、ゆりは追加で宣言する。

 

「ちなみに、私は皆の監視役だから除外ね」

 

『『『はぁ!!?』』』

 

「それじゃあ・・・オペレーション、スタート!」

 

ゆりの掛け声が部屋に響き渡る。

こうして、死んだ世界戦線の地獄が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「いや・・・アホでしょ?」

「返す言葉もありません」

 

失礼だと思ったが、当事者の一人である遊佐ちゃんもそう思っていたらしい。たとえ他の手段が思いつかないとしても、ヤケッパチ感があるのは否めない。

 

「それにしても、遊佐ちゃんはハイテンションにならなくてもいいのか?」

「・・・・・・・・・・・・では、ゆりっぺさんのモノマネを」

 

凄く不服そうな顔でテンションを上げ始める遊佐ちゃん。やっぱり、遊佐ちゃんもこの作戦は相当嫌だったらしい。

 

「何だこの作戦!常時ハイテンションとかやってられるかっちゅーねん!」

「に、似てるぅ―――――!?声色とか口調とか、仲村そっくり!」

 

それでも無表情を崩さないのは遊佐ちゃんの矜持か・・・。テンションと表情にギャップがありすぎて、少し怖い。

 

「こんな感じて良いかしら?」

「あぁ、とりあえずそれで押し通せば今日一日は大丈夫なんじゃね?」

「じゃあ、五十嵐君は野田君の真似してね」

 

そんな無茶ぶりまで似せなくても良いと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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遊佐ちゃんと別れた後、俺は昼食を摂りに食堂まで来ていた。奨学金やバイトの給料で結構豪華な生活にありつけていると俺は考えている。

生前は3人を養って生活していたから、あんまり贅沢させてやれなかったんだよなぁ。小学校の入学の工面もしてたし。

 

「ん?」

 

その時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。少し気になったので、その声がする方に行ってみると、そこには大山と藤巻、TKが一心不乱に食事にがっついていた。

 

「美味い!!なんて美味しんだ!!やっぱりこのオムライスは絶品だよ!!」

「なんの、この学食といえば肉うどんだろうが!!うひゃー!!最高にウメェェェェ!!」

「oh!麻婆豆腐crazynow!!Hooooooooooo!!」

「お、おいお前ら。一体どうした」

 

そこまで言って、俺はこいつらの奇行の原因が分かった。

ハイテンションシンドローム、今戦線メンバー全員(仲村以外)を恐怖のどん底に叩きつけた悪魔のオペレーション。故に分かる、こいつら全員必死だ。

 

「やぁ五十嵐君!!君もオムライスはどうだい!!?」

「バカ野郎!!五十嵐と言えば肉うどんだろうがぁ!!!」

「麻婆豆腐presentforeyou!!!」

「バッ!?ちゃんと飲み込んで話せ!!」

 

3人は口に食べ物が入ったまま喋りまくり、俺に向かって食いカスを撒き散らす。俺は何とか回避し、その事を咎めようとするが如何せん3人は止まらない

 

「あぁ、食べ終わってしまった!!名残惜しいなぁ!!レロレロレロ!!」

 

大山はオムライスが乗っていた皿を意地汚く舐め回し、おもむろに立ち上がった。もしこの場に弟と妹が居たら、こんな姿絶対に見せられない・・・。

 

「よし!!僕おかわりする!!」

「なんの!!俺も肉うどんおかわりだぁぁぁぁぁぁ!!!」

「麻婆豆腐getisgo!!Hoooooooooo!!」

 

そのまま大山に続くように、藤巻とTKは食券売り場まで走って行った。

 

「・・・・・・・・・・・・・外で食おう」

 

このまま食堂に居たら、何が起こるかわからない。そんな嫌な予感がして、俺は購買でパンと飲み物を買って校舎を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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昼食を食べ終えた後、俺はスケッチブックを片手に校内を探索していた。何か描くものは無いかと歩いていると、またしても見慣れた集団と鉢合わせた。

 

「んふふふふふ!!楽しみすぎて、震えが止まらねぇぇぇぇ!!」

「俺も、まったく、同じだ!!」

「ンンン!!俺もだぁぁぁぁ!!」

「そうですよぉぉ!!その為の筋肉ですからぁぁぁ!!」

「音無もそうだろぉぉぉぉぉ!!?」

「あ、あぁ」

 

目を爛々と輝かせて早歩きでグラウンドに向かう日向。バットを振り回しながら進む野田。何故かグローブに噛みつく松下。上半身裸で決めポーズをとる筋肉ダルマ(高松)。そして、この異常な集団の中で唯一まともそうな音無。

 

「うおおおおおおおおお!!五十嵐じゃねぇかぁぁぁあ!!」

 

俺の存在に気が付いた日向がダッシュで俺に詰め寄る。顔が近い顔が。

 

「お前もどうだぁぁ!?俺達と一緒に青春の汗を流そうぜぇぇぇぇ!!」

「い、いや俺は・・・」

 

いかん。まるで酔っ払いに絡まれたみたいだ。無駄に暑苦しく、こっちの話を聞かない。テンション上げすぎて脳みそイカれたんじゃなかろうか?

 

「あなた達、これから何するの?」

 

そんな時、俺にとっては救いの声が聞こえてくる。その声の先には、この学園の生徒会長にして戦線の宿敵、天使こと立華奏が俺達をジッと見据えていた。

 

「いきなり出た・・・!」

 

音無しは立華を見て顔を引き攣らせる。だが、日向はダッシュで立華の前に立ち、まるで当然のように、声高々に喋りはじめる。

 

「草野球さぁぁぁぁあ!!それが青春ってもんだろぉぉぉぉ!!?」

「青春?」

「なぁお前ら!!」

「青春だぁぁぁ!!」

「青春です!!」

「青春だぜ!!」

 

青春の言葉に反応した立華と、何かにつけて青春と叫ぶ音無を除いた戦線メンバー達。だが立華は、そんなテンションをどこ吹く風の如く受け流し、涼しい声で告げる。

 

「もうすぐ2時間目よ?」

「ぐふ!!ぬかったぁぁぁぁ!!」

「何時も無断欠席してるのに、何その反応!?」

 

その場に両手両膝をつく日向。よっぽどショックだったのだろうか、他のメンバー達も意気消沈し、野球道具を手放し、カラーンと空しい音が響き渡る。

 

「だが、案ずることはない!!勉学もまた青春だぁぁぁぁ!!」

 

だが日向はすぐさま起き上がり、いつもと真逆の方向へと暴走を開始する。こいつ、絶対授業中に何かする気だろ・・・。

 

「授業を受けるの?」

「勿論だとも!!なぁ、皆!!」

「あぁ、勉学こそ青春!!草野球など糞食らえだぁ!!」

 

日向の呼びかけに応じ、野田は頭でバットをへし折って全力で前言を撤回する。

 

「今や、学ぶ人なり!!」

 

そして、どこからか辞典を持ってきた松下。

 

「はい!この筋肉は、勉学に励むために鍛えてきたのですからぁぁぁぁ!!」

 

勉強とは全く関係のないと思われる部分をアピールする高松。やっぱりこの男、アホである。

 

「はぁぁ」

 

その様子を見て、音無は呆れた様な表情を浮かべる。まぁ、気持ちはよく分る。自分の身内なだけに、余計に頭が痛いだろう。

 

「・・・・・・五十嵐も授業を受けに行くか?」

「いや、俺はいいや」

 

「勉学、勉学」と、謎の踊りを披露する4人と哀れにも巻き込まれた音無、その様子を傍観する立華を置いて、俺はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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とまぁ、授業参加を断った俺ではあるが、あの4人が何をするのかは若干興味が湧いた。俺も戦線に影響されてるのかねぇ、前なら放置してたのに。

 

「さて、あいつらの教室はここだな」

 

俺は3年の教室を廊下から覗いていた。するとそこには松下と野田、日向と音無、そして

 

「何で奴はまだ服着てないんだ・・・?」

 

上半身裸の高松。脱ぎ癖でもあるのだろうか?生前にやってたら教室を追い出されても仕方ない所業である。猥褻物陳列罪で。

だがそこはNPC、そんな高松を気にした様子もなく授業を進めていた。教師が黒板でチョークを削る音だけが響き渡っている。

今は歴史の授業だろうか?俺には内容の半分も理解できたないが・・・。

 

「え~、1885年、江戸幕府の大老、井伊直助が」

「井伊直助ちゃ――――――――――――――――――――――――ん!!!」

 

ここにきて日向は絶叫した。

 

「な、何だねいきなり!?」

「すみません!僕の中では井伊直助はスーパーヒーローなので、思わず興奮してしまいました!」

「・・・また地味な」

 

呆れたような声を出す教師。まぁ、俺でも知ってるような有名どころが居るだろうに、何故そんなマイナーな人物がスーパーヒーローなのか。

それにあいつ、前に俺に――――――――

 

『やっぱりカッコいい歴史上の人物って言ったら、坂本竜馬だろ!?』

 

ってな事を言っていたんだが・・・。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・蒸気機関」

「ん?」

 

その時、野田が絞り出すような声を上げて、おもむろに立ち上がった。

 

「ワットの蒸気機関の発明はまだかあああああああああああああ!!!」

「それは世界史だ」

「シュッポー―――!!シュッポ――――――――――!!」

 

その場で回りながら汽車の物真似をし始める野田。傍から見れば、完全にネジの外れて頭が可哀そう痛い人である。

 

「先生!!」

「今度は何だね!?」

 

続けて立ち上がったのは高松だ。

 

「第二次防衛戦争!!第二次防衛戦争をください先生!!」

「だからそれは世界史だ」

「ぐばぁ!!・・・ワット・・・幕、府・・・!!」

「そんな幕府はない」

 

血を倒れて倒れる高松。あいつは一体何がしたかったんだろうか?

 

「こりゃーーーーーーーー!!うるさいぞ、お前らは蘇我入鹿かぁぁぁぁ!!」

 

叫び、奇行に走る戦線メンバーを怒鳴りつける松下。だがなぜ蘇我入鹿?

 

「日本史だけに、な」

「寒っ!?」

 

完全に滑った松下のギャグ。こいつも大概変人だ。

 

「そうです先生!!こいつらの事は放っておいて、もっと勉強を教えてください!!」

「シュッポ――――――――!!シュッポ―――――――――――――――!!」

「ヘイ!!ギブミー!!ヘイ、カモン!!」

「もう無茶苦茶だぁぁぁぁぁ!!!」

 

カオスと化した歴史の授業空間に、音無の絶叫が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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日陰に覆われた校舎裏、俺は今日あった出来事を思い返していた。

 

「恐るべし。ハイテンションシンドローム・・・!」

 

改めて思う、死んだ世界戦線に入らなくて良かったと。もしあの時加入してたら、俺もあのテンションで暴走しなければならない所だった。

 

「まぁ、戦線に入らなかった俺には関係のないことだな」

 

いや、でも遊佐ちゃんの話だと失敗すれば一週間飯抜きらしいしなぁ。それはちょっと可哀そうかもしれない。そもそも、あのド天然の立華がこれに動じるとは思えないんだが・・・。

 

「まったく、仲村も酷な命令を出しやがって・・・・」

 

俺は片手で頭を掻いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でもまぁ、そんなリーダーでも俺達は信頼してるんだぜ?」

 

そんな時、聞き覚えのある声が聞こえた。だが、その声はこの世界で聞いたものではない。

そう、生前に聞き慣れた声だ。あいつは、この声でよく俺に語りかけてきたんだ。でも不思議と驚きはしなかった。あいつはこの世界にきても可笑しくない奴だ。

 

「久しぶりだな、五十嵐」

 

俺は声の方に振り向く。そこに居たのは明らかに染髪料を使ったと分かる緑色の髪の男。僅かに漂うワックスの臭い。俺の生前で唯一、友人と呼べる存在。

 

「・・・鍋島」

 

死んだ世界戦線の制服に身を包んだ鍋島哲也は、確かにそこに立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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