Angel Beats! 失われた未来   作:大小判

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最近更新がスムーズです。


oneday

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・またか」

 

ここは男子寮の個室、というよりも俺の部屋の前。そこには大量の紙が壁に貼られたり、床に散らばったりしていた。内心呆れながら紙を手に取る。

 

『来たれ!!死んだ世界戦線!!

 人生に理不尽を強いた神と、その使いの天使に復讐しませんか?

 興味のある方は、校長室までお越しください

              死んだ世界戦線リーダー・仲村ゆり』

 

そんな感じの事を書かれた紙が毎日のように届く。

俺も男だから、ドラマとか漫画とかでモテる男の下駄箱に溢れ返るほどのラブレターが届くシーンに憧れたりもしていたが、これは正直嬉しくない。

あのギルド降下作戦に協力してから一週間。俺に目を付けた死んだ世界戦線は本格的に勧誘活動を開始した。自分で協力すると決めたから、そのこと自体には後悔は無い。

ただ、この大量の勧誘広告を処分する俺の身にもなってほしい。量が量なだけに、結構な手間が掛かるんだよな。

 

「最近は、勧誘の仕方も羽目を外し始めたもんなぁ」

 

最初はこの広告だけだった。だが最近になって、戦線メンバーが独自のアピールで俺を勧誘してくる。断るにも時間が掛かって大変だ。

TKとガルデモメンバーによる歌と踊りを交えた意味の分らない勧誘や、野田や藤巻によるチンピラみたいな勧誘(拳を使って丁重に断った)、昨日なんか、女子メンバーによる色仕掛けまでしてきた。色んな意味で堪えるものがあったが、今までは連中の勧誘を振り切ってきた。

 

「とりあえず、焼却炉にでも行くか」

 

俺は広告をすべて段ボールに詰め、焼却炉へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

焼却炉に広告を放り込み、自販機の前でkeyコーヒーを飲む。さて、今日はどうしようか?何となくスケッチする気分でもないし、かといって他にやることもない。

 

・・・~~~♪~~~♪♪~♪~~

 

中庭の方へと足を運んでいると、聞き覚えのある歌が聞こえてきた。これは確か、

 

  『無限に生きたい

      無限に生きられたら

           すべて叶う』

 

そうだ、名前は忘れたけどガルデモの有名な曲だ。声はボーカルの岩沢のものではなさそうだが、素人の耳でもそれが上手いということはわかった。

そのまま局が聞こえる方へと足を運ぶと、30人以上は居そうな人だかりの中にギターを掲げた派手な装飾の女子生徒。制服から見て、戦線メンバーだ。

 

「イエ~~~イ! みんな、今日はありがっとぉ~~~~う!! ユイにゃんの美声聴いたからって酔い痴れて惚れるなよ~~!!」

『『『ユイにゃああああああああああああああああああン!!!』』』

 

やがて曲は終わり、一斉に歓声は爆発する。すごい盛り上がり方だ。まぁ、実際人目を引く可愛らしい容姿ではあるし、歌も上手いとなれば当然だが。

しばらくして観客は散り散りになり、残ったのは汗だくになった歌手一人だけだった。

 

「ふぅ・・・ちょっと疲れたかも。・・・ん?」

「む?」

 

それが、自称ユイにゃんと目と目が合った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ほれ、奢りだ」

「あっ、ありがとうございます」

 

俺は自称ユイにゃんに自販機で買ったミネラルウォーターを渡し、自称ユイにゃんは近くにある芝生の上に座ってペットボトルの中身をグビグビ飲んでいく。

 

「そういや、まだ名前言ってなかったな。俺は五十嵐竜司」

「・・・プハァ!・・・・ どうも!!陽動部隊の下っ端をやってる者です!!よろしくお願いしまっす先輩!!」

 

ミネラルウォーターを飲むのをやめ、座ったまま空いたビシッと勢いの良い敬礼をして俺の事を先輩と呼ぶ。

にしても先輩ねぇ・・・初めて言われたぞ。

 

「いや、俺は戦線メンバーじゃないから、お前の先輩って訳じゃないぞ?」

「あれ? そうなんですか?じゃあ何年生なんですか?」

「この学園じゃ、一応3年だけど」

「じゃあやっぱり先輩じゃないですか!」

 

まぁ、確かにそうなんだが。言われ慣れていない呼び方にはどうも戸惑う。

中学時代は特に部活動に参加してないから他学年との交流も無かったし、高校は一年の頭に中退してそれっきりだしな。

バイトでも俺が一番の新入りだったから、先輩なんて初めて言われる。

 

「それで・・・え~と、お前の名前は」

「あっ私ユイって言います。気軽にユイにゃんって呼んでも良いんですよ?」

「最近寒くなって来たよな」

「華麗にシカト決めんなゴルアァァァァァ!!」

 

俺が何事もなかったかのようにスルーするとユイが獣じみた顔になって怒り出す。態度や言葉遣いが激しく変動する、喧嘩賭博場でもよく見たタイプだ。

 

「あ~、悪かったよ」

「む~」

 

俺は適当に謝るとユイはむくれた様な表情を浮かべる。

 

「そう言えば、先輩ってギルド降下作戦に参加してたんでしょ?」

「あぁ、そうだけど何で知ってんだ?あの時はお前居なかったろ?」

「いや、先輩今、戦線じゃ超有名人だし」

 

有名人?まぁ、あんだけ熱心に勧誘してれば戦線内じゃ有名になっても可笑しくは

 

「巨大鉄球をパンチで粉々にしたり、レーザーを浴びても死ななかったり、500メートル以内で殺気を放つと居場所を突き止められたり、天使を一撃で倒したり、そんな逸話が――――」

「それは殆ど捏造だ!!」

 

俺をどこの化け物だと思っているのだろうか?そしてそんな誇大解釈を戦線に広めたと安易に予想できる女が校長室の机の上で足を組んで高笑いしているのが脳裏に浮かぶ。

 

「話は変わるけど、先輩はガルデモって知ってる?」

「本当に変わったな・・・。まぁ、ガルデモなら知ってるけど」

 

この一週間の内で、遊佐ちゃんに誘われてガルデモのライブを見に行ったことがある。食堂に溢れ返る生徒達の熱気と歓声は凄まじく、それを打ち消すほどの音。

音楽に関しては専門外だが、遊佐ちゃんが俺に勧めるのもよく分る――――――――

 

「ガルデモを知ってるの?! 実は私、ガルデモの大ファンなんだッ!! さっきのストリートライブではガルデモの曲を歌ってたの! あ、いつもガルデモの曲何だけどね。ちなみにひとつひとつの歌の歌詞は全部覚えてるよ!! 岩沢さんのあのギターさばきはすごいよね~!! それに歌も上手くてもうすんごいんだよ! それに・・・ってちょっと!何処に行くの!? 話はまだ始まったばかりだってぇ!!」

 

話が長くなりそうな気がしたので気づかれない内にこの場を去ろうと思ったが、ユイは俺のTシャツの裾を掴んで離さない。

 

「良いじゃないですか!!どうせ先輩ボッチで暇でしょ?」

「なおさら帰りたくなったわ!!それに俺は暇じゃ―――――」

「暇じゃないんですか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・暇・・・だけど」

「じゃあ私の話聞いてくださいよ!!」

 

確かに暇ではあるが、なんとなくこれは相当長くなると俺の直観が警鐘を鳴らしていた。老人の長話ほど退屈なものは無い。それと同じものを感じたので何とか逃げ出したいのだが・・・・。

 

「あっ!お前、服の裾に蛇が噛みついてるぞ!!」

「ぎゃああああ!!?嘘!?お願い取ってぇぇぇぇ!!」

 

ユイは自分の服を見ながら動揺してグルグル回り出す。

 

「悪い、その尻尾のアクセサリーだった!!そんじゃな!!」

「あ、待てやゴルアァァァァ!! よくも騙しやがったなぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ユイは怒って俺を追いかけてくる。こうして俺たちの鬼ゴッコが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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3分ほど走ってユイを振り切った俺は、屋上へとやって来た。そこからグラウンドを眺めていると、ユイは入江に誘われるようにして校舎の中へと入っていく。

 

「ふぅ~、撒いたか」

「どうしたのですか?」

「うおぁっ!?」

 

突然後ろから声を掛けられ、思わず驚きの声を上げる。振り返ってみるとそこには―――――

 

「遊佐ちゃん!」

「こんにちは、五十嵐さん」

 

いつもの淡々とした様子で、遊佐ちゃんは俺を見据えていた。それと同時に安心したりする。遊佐ちゃんはオペレーターという役割ゆえに、任務に直接手を出す事は滅多に無い。どういう役割かは知らないが、遊佐ちゃんは戦線メンバーの中でも俺の勧誘に参加しない数少ない子だ。

 

「ずいぶん慌てた様子でしたが、何かあったのですか?」

「陽動部隊に居るユイって奴に追い掛けられてた」

「あぁ、なるほど」

 

納得したように頷く。ユイのあの性格は戦線の中でも周知だったらしい。

 

「遊佐ちゃんは今日も仕事か?」

「はい。今日は情報収集を」

 

あの日から、俺と遊佐ちゃんはよく屋上で話すようになった。まぁ、世間話をする程度ではあるが、それでも話し相手が居るのと居ないとでは日々の潤いは段違いだ。

 

「今日は野田さんを観察しますが、五十嵐さんも見てみますか?」

 

そう言って遊佐ちゃんはインカムと双眼鏡を取り出す。そうだな・・・今日はやることもないし、普段は見れない戦線メンバーの日常を見るのも悪くないかもな。

 

「じゃ、お言葉に甘えようかね」

「では、こちらをどうぞ」

 

そう言って、遊佐ちゃんは俺に予備のインカムと双眼鏡を渡した。俺はインカムを耳に当て、双眼鏡を除き込む。

今は・・・長大な武器・ハルバートを振り回している。どうやら素振り中のようだ。

 

『さて、そろそろゆりっぺに告白しに行くか!!』

 

どこかに仕掛けたであろう盗聴器からインカムへ、野田の脈絡のない言動が聞こえてくる。ふむ、仲村の信奉者と思っていたが、好意から来るものだったか。

 

「ちなみに、過去のゆりっぺさんの反応のデータはこうです」

「どれどれ?」

 

そう言って遊佐ちゃんはメモ帳の一ページを俺に見せてくれた。

 

《スルー:95% 拒否:4% 射殺:1%》

 

「・・・これは酷い」

 

射殺は論外としても、別に拒否することを言ったんじゃない。

告白の9割以上をスルーするなんて、仲村が鬼というべきか、こうやってデータを測られるほど告白しても懲りない野田を尊敬するべきか迷うところだ。

 

『やはり完璧なコンディションで告白をしたいからな』

 

どうやらあの素振りはコンディションを整えるためらしい。そして野田はトレードマークのハルバートを持たずに――――――

 

「遊佐ちゃん、なんであいつは竹箒を持ったんだ?」

「理解不能です」

 

遊佐ちゃんも過去に前例のない事態に戸惑っているらしい。

 

『おい野田。なんで竹箒なんか持ってんだよ?』

『ふん。やはり気になったか』

 

そこに現れた音無がその竹箒の意味を問いかけると、野田はどこか自慢げな表情を受けべる。

 

『かかったな、狙い通りだ!!男はミステリアスな方が魅力的だろう!?』

 

・・・・・・・・・・・・・・はぁ?

 

「あ、あ~あれか!何時もはハルバートを持った野田が今日は何故か竹箒を持ってるから、それが気になって仕方無いって言う・・・・・」

「五十嵐さん、無理に理解しようとしなくてもいいですよ?」

『そう言うミステリアスさをアピールしているのだ』

「ご覧の通りのアホですから」

 

否定しようのない現在進行形の事実に、思わず呆れ果てる。一体どうやったらあんな性格の男になるのだろうか?

 

『待っていろ、ゆりっぺ!!』

『あ。ゆりの所に行くなら俺もって、あれ!?野田――――!?』

 

音無の声を振り切り、野田は一目散に走り去っていく。いつも思うが、野田は戦線の中でも一番話を聞かない男じゃないだろうか?

 

『誰が待つものか。俺のゆりっぺへの思いは、誰にも止められはしない!!』

 

そう言って野田は懐から一枚の写真を取り出す。あれは・・・・・仲村の写真?

 

『・・・・可愛いな』

「あの写真は盗撮なので、後でゆりっぺさんに報告しておきます」

「事情酌量の余地は無し、か・・・。世の中って残酷だな」

 

こと女関連のものは特にそうだ。その場に女と男が居たとして、女に被害が出れば男には容赦ない断罪が待っている。

 

『・・・何をしている?』

『ひぃぃぃーーーーーー!!?し、椎名っ!!?』

 

おっと、ここに来て戦線最強(椎名)が出てきたか。

 

「にしても、なんで野田はあんな小鹿のように怯えてるんだ?」

「野田さんは出会った当初から椎名さんを苦手としているようです」

「あの二人に何があったんだ?」

「出会った当初、椎名さんは戦線とは敵対していたのですが、その時野田さんは椎名さんに何度も殺害されたようです」

 

なるほど、この世界でも治せない傷、所謂トラウマって奴か。

 

『・・・・・・・・・』

『な、なんだ!?こっちに来るな!!』

『・・・・・・・・・特訓!?』

『ひぃぃぃ!!?』

 

何を思ったのか、竹箒を持った野田を見て特訓ではないかと勘違いした椎名と、いきなり声を上げた椎名に恐怖の絶叫を上げる野田。

 

「椎名さんは一時期、竹箒を指一本で支える特訓をしていました」

「何がやりたかったんだ、椎名は?」

 

そのまま俺と遊佐ちゃんは観察を続ける。すると、椎名は野田に近づいていくではないか。椎名の事が苦手な野田は当然―――――――

 

『ひぃぃーーーーーーー!!』

『あ・・・・』

 

一目散に逃げ出す。よっぽど苦手なんだろう、いつもの威勢を感じない。

 

『・・・・なるほど、次は足腰の鍛錬か!』

「皆さん本当に人の話を聞かないですね」

「あの椎名までもかぁ」

「割と頻繁ですよ?・・・ポテチ食べます?」

「あ、じゃあ貰う」

 

正直意外だ。あのクールな性格の椎名が、野田並みの対応。もしかしなくても、2人とも自己完結型の上に人付き合いが苦手なんじゃないだろうか?

俺はポテチを食べながらさらに観察を続けることにした。

 

『特訓なら実戦で付き合ってやろう』

『ぎゃああああああ!!?』

 

完全に勘違いした椎名は野田を猛スピードで斬殺する。ハッキリ言って特訓になっていない。野田は殆ど抵抗できていないしな。

 

「野田さんは椎名さんよりも断然弱いですからね」

「まぁ、椎名が強すぎるっていうのもあるんだろうけどな。あと加減知らずでもある」

 

やがて椎名曰く特訓(惨殺ショー)は終わりを告げる。

 

『弱い。が、その心掛けや天晴れ。油断してはいられぬな。・・・私も、あさはかなり』

 

ブチのめされた野田を放置し、椎名は去っていった。気の毒に・・・これから仲村に告白だっていうのに、あんなにボロボロにされて・・・。

 

「野田はHPダメージを受けた!」

「遊佐ちゃん!?」

「・・・一度、言ってみたかったんです」

 

遊佐ちゃんは頬を僅かに赤く染め、顔を背ける。ま、まぁあんまり追求してやるのも酷という奴だろう。とりあえず視線を野田に戻す。

 

『こ、こんな事をしている場合ではない。ゆりっぺに思いを伝えなくては・・・!』

 

野田は挫けずに立ち上がる。やられ役は慣れているのだろうか?野田の事をよく知らないが、そんな印象を受けた。

 

『はっ!大事な事を忘れていた!!』

「ん?」

『告白のシュミレーションをしなくては!噛んでしまったら誠意が伝わらんからな!!』

 

告白文すら考えてなかったのか・・・。

 

「少々、バカらしくなってきました」

「まぁ、最後まで見ようぜ」

 

俺と遊佐ちゃんは今日何度目かになる溜息を吐くが、ここまで来たら最後まで見届けないとスッキリしない。まぁ、結果が見えるのが悲しいが・・・。

野田はある教室の外側に立っていた。そしてその窓に向かって―――――

 

『この壁をゆりっぺだと思って・・・!

   ゆりっぺ、好きだ!!俺はお前に、忠誠を誓う!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぶふーーーーーーーーーーーーー!!!!』

 

タイミングよく窓を開けた関根は、野田の告白のセリフを大声で笑い飛ばした。

 

『しおり~ん。笑っちゃ悪いよ・・・ぷぷぷ』

『忠誠とか・・・ないわ~』

『あっはははははははは!!!』

『詞にすらならない。何それ?』

『今のギャグ、最高でした!!』

 

それに続くようにガルデモメンバーが笑い始める。これには野田に同情を禁じ得ない。

 

「・・・・っっ・・・!」

「遊佐ちゃん・・・もしかして、笑ってる?・・・くくく」

「・・・・五十嵐さんこそ」

 

野田には悪いとは思っている。だが、この狙ったとした考えられないタイミングには笑わずにはいられなかったんだ。

 

『き、貴様らぁぁぁぁ・・・!!』

『ご、ごめんね~』

『・・・悪かった』

 

真剣に考えた告白文を笑い飛ばされ、野田は顔を真っ赤にして起こり始めた。それに気づいた入江とボーカルの岩沢は謝罪の言葉を贈るが――――――

 

『ゆりっぺ、好きだ!!俺はお前に、忠誠を誓う!!』

「「ブッハ」」

 

関根の追い討ちに、俺と遊佐ちゃんは噴出した。思い出させるなよ、腹が痛い。

 

『お前らなんぞに分かってたまるかぁぁぁぁぁぁあ!!!』

『『『きゃあーーーーーーーーー!!?』』』

 

野田は竹箒を振り回し、ガルデモを追い払う。よっぽど恥ずかしかったんだろう、双眼鏡で見ても耳まで赤くなっている。

 

「すぐにキレるところが、野田さんの短所ですね」

「あの性格さえどうにかなれば、顔はそれなりだからモテそうだけどなぁ」

「それが簡単に治れば苦労はしないでしょう。だから友人が一人もできないんです」

「え?居ないの?一人も?」

「はい」

 

俺と遊佐ちゃんがそんなことで話題を広げていると、野田の方に動きがあった。

 

『なんだか今日は時たまイラつくのだが・・・・何なのだ?』

「アホでも野生の感は冴えているようですね」

「て言うか、地獄耳?」

 

こういう所でしか勘が冴えないのなら、それはかなり損しているんじゃないだろうか?

 

「ようやく校長室の前に来たみたいですね」

「いよいよ本番だな」

『待たせたなゆりっぺ!!お前が好きだぁぁぁ!!』

 

さっきの告白文はどこへ行ったのか、扉を開けると同時に告白するのだ。そして校長室の中には野田の目当ての仲村と―――――――

 

『あ』

 

音無がテーブルを挟んで紅茶を飲んでいた。

 

『ゆりっぺと・・・・お茶だとぉぉぉぉぉ・・・・?』

『だ、だから一緒に行こうって誘っただろ!?』

 

完全に逆恨みした野田が、竹箒を音無に突きつける。残念だが音無よ野田はそんなこと聞いちゃいなかったようだぞ?

 

『野田君』

「言わずもがな、戦線のリーダーのゆりっぺさんですね。少々アホなのが玉に傷ですが」

「それ仲村に見せるもんだろ?そんなこと書いてもいいのか?」

「・・・・・・あ」

 

俺が指摘すると、遊佐ちゃんはさっきの一文を消しゴムで消した。遊佐ちゃんって、もしかして意外と抜けてる?

 

『野田君丁度いいわ!!』

『ゆ、ゆりっぺ・・・!』

 

仲村は野田の手を握り、笑顔でこう言った。

 

『私もうこの部屋を出るところだから、掃除中ならこの部屋もお願いね!』

『いや、これはミステリアス――――――――』

『あー忙しー忙しー』

 

野田の作戦は通じず、仲村は忙しそうな様子で校長室を後にした。

 

「チョイスが悪かったなぁ。竹箒は無いわ」

「というよりも、作戦そのものが悪かったと思いますが」

 

俺と遊佐ちゃんが辛口コメントを言っていると、残った音無が野田に話しかける。こいつは事情を知っているだけに、どんな言葉を掛けるか迷ったようだが。

 

『野田、俺も手伝うよ』

『・・・いや、構うな。これもゆりっぺに任された大事な役目。貴様に手出しはさせん!』

『ちょっとは疑問に思えー!』

 

雄たけびを上げながら嬉々として掃除に励む野田。

 

「まさに、調教された下僕だな。恐ろしい」

「しかしこれでは、まったくカッコいいところが有りませんね」

 

確かに。言われた事をするだけなら、慣れれば誰でもできる。でもそれじゃ仲村の心を射止めるところにまでは至らないだろう。

残酷なようだが、このままでは野田の恋は報われない。

 

『その、なんつーかさ・・・それ以上どうしたって報われないだろうし』

 

そんな俺の心境を、狙わずとも音無が代弁するかのように言う。野田はそれに対し僅かな沈黙で返し、やがて口を開いた。

 

『そんな事は当たり前だろう』

『・・・へ?』

「・・・へ?」

 

野田の意外な返事に、俺と音無の態度はシンクロした。

 

『ゆりっぺにはやるべき事がある。俺などに構う余裕などあるものか』

『ちょっと待てよ。分ってるならなんで・・・・』

 

それはきっと、誰もが思うことだろう。報われないと分かっていて、それでもなお告白し続けるのはただ諦めの悪い奴のすることだ。

なのに、野田はそれを堂々と言い放つ。

 

『何十回も何百回も言えば伝わるだろう。どんな事があっても俺は裏切らない。無条件で傍に居る、信じろと。だから言う』

 

野田の真剣な語り口に、俺と音無は思わず聞き入っていた。それはいつもの猪突猛進な野田とは違う、どこか大人びた表情。

 

『そして本当に心の底から疲れた時は、俺の様な奴が居ることを思い出してくれれば良い』

『お前、本当にゆりの事を・・・・』

『こんな方法しか思いつかん。俺は、アホだからな』

 

そう言って仲村の特等席である校長室の机を撫でる。その視線は何時もの剣呑さは無く、酷く暖かく、優しいものだった。

 

『喋りすぎた。忘れろ』

 

そう言って野田は再び掃除を再開する。何だよ、あいつ―――――

 

「カッコいいじゃねぇか、野田」

 

今日は遊佐ちゃんの誘いに乗ってよかったと思う。これなら、いつもと違う視線で野田と接する事も出来るだろう。

 

「なぁ遊佐ちゃん――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~♪♪~~♪~~~

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

そんな時、遊佐ちゃんは完全に野田から視線を外し、ガルデモの練習を見ていた。

 

「・・・・・・・・遊佐ちゃん?」

「はっ」

 

俺が遊佐ちゃんの肩を叩くと、遊佐ちゃんは体が跳ねるように反応した。

 

「・・・・・・・・・・・何でしょう?」

「いや、今野田がスゲー良いこと言ってたんだけど、聞いてなかったか?」

「・・・・・・・・・・・・・聞いてませんでした」

 

うん。素直で大変よろしい。

 

「あの・・・・何があったか教えて貰えないでしょうか・・・?」

 

どこか気まずそうに話しかける遊佐ちゃん。まぁ、職務怠慢っていうアレがあるんだろう。ここで教えなかったら、仲村に怒られるのは遊佐ちゃんだし。

 

「あぁ、良いよ」

 

俺がそう言うと、遊佐ちゃんはどこか安心したように顔を緩めた。あぁ、やっぱり遊佐ちゃんって微妙に抜けてるわ・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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