Angel Beats! 失われた未来   作:大小判

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第6話です


ギルドへ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、こんな所に入り口があったのか」

 

ギルドへの武器調達に同行することを了承した俺は、遊佐ちゃん含む数人の戦線メンバーと共に体育館へと来ていた。

松下と名乗る巨漢の男が壇上にあるパイプ椅子の収納を引きづりだし、奥へと進むとそこには地下へと続く穴と梯子。

 

「でもこんな所に入り口があったらバレるんじゃないか?」

「大丈夫よ。高校生にもなってわざわざこんな所に入りたがる人もいないでしょ」

 

確かにそれは言えている。何が悲しくてこんな埃っぽいところに入らにゃならんのかと。

 

「それじゃ、そろそろ行こうぜ」

 

日向が促し、みんなは順番に梯子を下っていく。

 

「気を付けてくださいね。五十嵐さん」

「あいよ」

 

俺もまた、遊佐ちゃんに見送られて地下へと進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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そこはまさに坑道といった感じだった。

天井には道に沿って点々と明かりが灯してあるが、全体的に薄暗く、道の隅は暗闇で見えないほどだ。地下だからか、温度も地上と比べて薄ら寒い。

 

「あれ?そういや、野田は?」

 

ここにきて、俺は仲村の信奉者である野田の姿がないことに気が付いた。体育館に来る途中、遊佐ちゃんに聞いた話だが、このギルドには対立華対策に幾つものトラップが仕掛けてあるらしい。

今回は武器の調達が目的のため、トラップはすべて解除してあるらしいが、何事にも誤作動というものは付き物だ。そんな状況の中、野田が仲村に付いて行かないのは不自然に思えた。

 

 

「おい、誰かいるぜ!」

 

藤巻と名乗るチンピラ風の男が持っている懐中電灯を照らし、目の前の人影の正体を確かめると、そこには野田の姿があり、何やら決めポーズを決めていた。

 

「うわぁ・・・バカが居た・・・」

 

そんな野田を見た日向は呆れながら言葉を発し、日向以外のメンバーは日向に続いては何も言わなかったが、呆れた表情をしている。

確かに、なぜわざわざ俺たちを待ち構えるようなことを?その意味の分らない決めポーズといい、野田のことはいまいち分らない。

 

「五十嵐に、音無とか言ったな。俺はまだお前を認めてはいない!」

 

野田の意味の分らない行動について思考を張り巡らせていると、野田は常に持っているハルバートを俺と音無の方へと向ける。

 

「わざわざこんなとこで待ち構えてる意味がわかんないよな?」

「野田くんはシチュエーションを重要視するみたいだよ」

「意味不明ね」

 

日向と大山が野田の事を言ってる後に仲村は嘆息する。

 

「別に認められたくもない」

「貴様ァ・・・!今度は1000回死なせてやらああああぁぁぁぁぁァァッッ!!!!!」

 

音無の挑発的な答えに、野田は俺と音無に近づき襲いかかろうとした瞬間、ゴウゥッ!!という音が俺の耳に届く。巨大な何かが突っ込んでくるような、空気を押し潰す音。

 

「危ない!!」

「ゴファッ!?」

 

俺は咄嗟に野田の腹を蹴り飛ばす。

吹き飛ばされた野田と俺の間を猛スピードで通過する黒い塊、ハンマーが壁に激突し、そのまま壁は砕かれ瓦礫と化した。

 

「臨戦態勢ッ!!」

 

仲村がそう叫ぶと、全員武器を取り出して構える。

 

「トラップが解除されてねぇのか!?」

「いっ・・・つつつ・・・!」

 

日向がそう叫び、野田もヨロヨロと身を起こす。少し、強く蹴りすぎたかもしれない。

 

「何事だ?」

「見ての通りだ。ギルドの道のりには対天使用の即死トラップがいくつも仕掛けてある。

その全てが今も尚稼動中という訳さ」

 

音無の問いに、日向は説明しながら答える。

どういう事だ?トラップはすべて解除してあると聞いていたのに。

 

「トラップの解除忘れかな?」

「まさか俺たちを全滅させる気かよ!?」

「いいえ、ギルドの独断でトラップが再起動されたのよ」

 

大山と藤巻の疑問に、仲村はそう答える。

 

「どういう事だ?」

 

俺は仲村に問いただす。確かに藤巻の言う通りのことは無い。わざわざ味方を全滅させる理由は無いのだ。ならば大山の考えが一番しっくりくるが、仲村は否と答える。

 

「まさか・・・天使が現れたからトラップを再起動させたとか・・・?」

「えぇ、正にその通りよ音無くん」

 

音無の最悪の予想に、仲村は肯定した。

それと同時に周りの空気が重くなる。確かに、動画で見た感じたと立華はあまりに強い。敵対する戦線メンバーとしては最悪の展開だろう。

 

「ギルドの連中は、俺達がいるのを知っててこんな真似をするのか?」

「あなたは何もわかっていないようですね。何があろうとわたし達は死ぬ訳じゃない。死ぬ痛みは味わいますが」

「それが嫌なんだが・・・」

 

眼鏡を掛けた知的に見える男、高松は自分達は死ぬ訳じゃないと答えるが、音無は実際目の前でトラップが作動し、崩れた壁を見ながら言う。日向が言う通りの即死トラップがあると聞いたら血の気が引くのは当然だろう。まさに生きるか死ぬかの魔の道だ。

 

「しかしギルドの所在がバレ、陥落すれば銃弾の補充などが失くなる。それでどうやって天使と戦うというのです?」

 

確かに高松の言うとおり、ギルドが陥落すれば武器が作れなくなり、戦う手段が無くなってしまう。俺としてはその方が良いのだが・・・。

 

「ギルドの判断は正しいわ」

「天使を追うか?」

「天使はそのトラップで何とかなるだろ?戻ろうぜ?」

 

日向の判断に音無は反対する。俺も同意見だ。立華がどれほどの力を有しているかは知らないが、どう考えても危険な道を進むのは無謀だ。

 

「トラップはあくまで一時的な足止めに過ぎないわ。・・・追うわ、進軍よ!」

 

それに対し、仲村は進軍すると宣言をした。音無は納得してなさそうに顔を顰めるが、ほかの連中は仲村の言う事に従うようなので結局進む事になった。

 

 

 

 

 

 

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皆、銃を構えながら慎重に先へと進む。

唯一俺は何の武器も持っていないが、トラップに対して銃弾が通用するようには思えない。とりあえず辺りを警戒しながら右翼についていた。

 

「そういや、どんなトラップがあるんだよ?」

「いろんなのがあるぜ~?楽しみにしてな」

 

音無はどういうトラップがあるのか日向に聞くと、日向はやや楽しそうに答える。

あまり楽しそうな話題ではないのに、そう答えられるのはこの世界でそれだけの修羅場を潜って来たからだろうか?

 

「まずい、来るぞ!!」

 

最後尾に居る椎名の言葉に全員後ろを向く。

すると通路が揺れ出し、少し離れたところから天井が崩れて、巨大な黒い鉄球が落ちて来て俺達のいる方へ転がってくる。

 

「走れッ!!」

 

椎名は皆にそう言い先に走り出す、それに釣られるように、俺を含む他のメンバー達は少し遅れて走り出す。それにしてもなんてベタな・・・。

 

「まるで映画のワンシーンみたいだな!!」

「あったよね!昔そんな映画!!」

「呑気なこと言ってないで走れ!!」

 

ちょっとした俳優気分に浮かれたような大きな声で会話する俺と大山に向かって音無が怒鳴る。俺も日向のことは言えないな。鉄球の速度を見ても、俺からすれば幾らか余裕がある。

 

「こっちだ!早く!」

 

椎名は横道の通路にいる。あそこなら鉄球に当たる心配もなく、あそこが鉄球の回避ポイントなのだろう。最初に先頭にいた仲村から、他のメンバーも横道に入る。

 

「・・・ぉぉぉぉぉおおおおおお・・・!」

 

俺も横道に入った瞬間、俺のすぐ後ろにいた高松が横道に入り損ねた。このままでは鉄球に押し潰されることは必須。

 

「まったく、世話の焼ける奴だ!!」

「五十嵐!?」

 

誰かが俺の名前を呼んだのが聞こえるが、それを無視して通路へと飛び出す。全力で鉄球へと追いすがり、俺は鉄球の前へと飛び出した。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

手で止めるのではなく、肩で受け止め足をつっかえ棒にして自分よりも2回り以上大きな鉄球を止めにかかる。ザザザザザッと、音を立てて足からラバーが溶ける臭いと共に煙が上がる。

 

「と、止まった・・・!」

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

俺と高松が壁に激突する直前、俺は鉄球の勢いを殺すことができた。

摩擦熱で足の裏が熱い。俺は鉄球を支えたままゆっくり体を壁側へと移動し、狭いが体を押し潰しながら高松と共に鉄球と壁の隙間から抜け出した。

 

「すみません、助かりました」

「はぁ・・・はぁ・・・気にすんな・・・」

 

何とか声を絞り出すが、鉄球が擦れた部分は服が破け、血が噴き出している。すぐに治るんだろうが、少しでもタイミングが遅れれば間違いなく高松もろとも潰されていただろう。

 

「2人とも無事みたいね。行きましょう」

 

仲村は俺たちの状況を確認し、先に進むよう皆に促す。

 

「話には聞いてたけど、お前すげぇんだな!!」

「うん!人間業じゃないよ!!」

「strongboy!!」

 

日向と大山、TKと名乗る胡散臭い外国人が俺を出迎える。

 

「・・・その肉体、侮れないですね」

 

高松は露出した俺の体を見て、そう呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「開く?」

「もち無理だぜ」

 

今俺達がいる場所は鉄球が転がってきたところとは違い、機械的で一本通路にいる。

通路の中の明かりは赤く、藤巻は扉を開けようとしているのだがどうやら開かないみたいだ。

 

プシューーーーーッ!!

 

一番後ろにいた俺が最後に入ると、後ろの扉が自動的に閉まる音がした。

 

「あぁ!?しまった忘れてたよ!ここは閉じ込められるトラップだった!!」

 

後ろのドアが閉まった瞬間、大山はこの通路は閉じ込められるトラップだと説明口調で答えた。

 

「そんな大事な事忘れるなよぉ!!!」

「こんな扉、力づくでこじ開ければ・・・」

 

音無はそんな大山の今更の説明にツッコミを入れた。俺は扉を力づくで開けられないかと提案するが、椎名は首を横に振った。

 

「あさはかなり……」

「ゆりっぺぇ!!どうすればいい!?」

 

椎名がお約束のあさはかなりを言った後、野田が仲村に指示を仰ぐ。すると、パッと小さな音を立てて先ほどまで赤かった通路の明かりは白い明かりへとなる。

 

「ここからヤバイのが来るわよ!」

「避けろぉ!」

「しゃがんで!!」

 

藤巻と仲村の言葉に、皆は言うとおりに下へとしゃがみこむ。

よくわからないが俺も皆と同じく下にしゃがみ込んだ。

 

「何が起こる!?」

「レーザーです!!」

「レーザー!?」

 

高松はそう答える。機械的な印象を裏切らない近代的なトラップだ。

 

「ふっ……!」

 

椎名はしゃがみ込みながら何かを投げると、その投げた物から煙が巻き上がってくる。

恐らく投げた物は煙玉なのだろう。くノ一の様な格好をしているだけあって使う物も忍者のような物なんだな。

そんな下らない事を密かに思ってると、赤いセンサーらしき物が見えてきた。

 

「当たると……どうなんの?あれ……」

「最高の切れ味で胴体を真っ二つにしてくれるぜ」

 

音無の問いに日向は余裕なのか、軽いノリで答えた。

テレビの受け売りだが、確か熱で焼切るんだったか?そんな物を戦線メンバーが作れたのか?だとすれば、俺の想像以上の技術力を持った奴がいるということだ。

 

「第二射来るぞぉ!」

 

日向が軽い説明をした直後、赤いセンサーが此方へと向かい、藤巻が叫ぶ。

 

「どうすればいいんだよ!?」

「くぐるのよ!」

 

仲村の言うとおり、皆上げていた顔を地面に付け、回避に成功する。

 

「第三射来るぞ!」

「第三射何だっけ?」

「Xだ!」

「エ、X!?」

 

藤巻が再び赤いセンサーが此方に来る事を言い出し、仲村が第三射が何なのかを確認すると、また藤巻が答える。

赤いセンサーはXの形となり、こちらへと向かってくる。

潜るだけで避けられる第一射、二射とは違い、第三射のX字は範囲が大きい。

 

「あんなのどうしろってんだよ!」

 

特定の誰かに言っている訳ではないがそう叫ぶ音無だが

 

「それぞれ何とかして!」

 

仲村が答えると「そんな無茶な!?」と、音無は驚愕の声をあげる。

そんな事言ってる間にセンサーが迫って来た。

藤巻は飛び越え、仲村はしゃがみ、椎名は藤巻と同じく飛び越える。

音無と日向、高松も飛び越え、大山は下へとしゃがみ、TKは飛び越える。残るのは一番後ろにいる俺と前にいる松下と野田だ。

 

「早く開けろッ!!!」

 

松下五段が扉を開けようとしてる藤巻に向かって叫ぶ。

松下は縦にも横にも広い体型だ。あのX時のレーザーは避ける事はできないだろう。ならば、この罠そのものを食い破ればいい。

 

「野田!!その武器を貸せ!!」

「あ!?貴様何をっ!?」

 

俺は野田から長大な獲物を奪い取り、2人の前に立つ。そしてその斧のような刃を、壁に向かって叩きつけた。バキィッ!!と、音を立てて刃が壁を縦に抉る。

最初のトラップのようなものならこうはいかないが、見た目の通りの精密機械ならばちょっと弄ってやるだけで支障が出ると思っていた。

 

「レーザーが消えた!?」

 

俺の目論見は正しかった。いくら死ぬことは無いといっても、わざわざバラバラにされることは無い。皆無事ならそれで万々歳だ。

 

「開いたぞぉ!!」

 

藤巻が開けたのか、閉じていた機械的な扉は開いており、皆は一斉に通路から出る。

 

「助かったぞ、五十嵐」

「お前の体型だと、バラバラにされてたからなぁ」

「少しはダイエットしろってもんだ」

 

俺は野田に武器を返し、先へと進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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レーザーの通路を無事に抜け、先へと進んでいく俺と死んだ世界戦線一行だが

 

パラパラパラ・・・・

 

上から小石が落ちてきた。

一体なんなのだろう?そう思って上を見上げてみると――――――

 

「おいィ!!? て、天井から何か迫ってきてるぞぉぉぉぉ!!?」

「トラップが発動してるわ!」

「しまった忘れてたよ! ここは天井が落ちてくるトラップだったぁぁぁ!!!」

「だからそんな大事な事忘れるなよぉぉぉぉおお!!!」

「これも映画で見たぞ!!」

「お、おおおおお落ち着け!!こういう時は素数を数えるんだ!!」

「素数ですね!?2,4,6,8・・・・・」

「1.3.5.7.9・・・・」

「それ偶数と奇数!!」

 

再びこの部屋がどんなトラップなのかを説明する大山と、遅すぎる説明にツッコム音無。何をトチ狂ったのか、奇数と偶数を数え始める野田と高松、それをツッコム俺。

 

「あれを止める自信はあるか!?」

 

松下が俺に向かって叫ぶ。

 

「止めたきゃ手伝え!!」

「・・・!あなたばかり、肉体アピールはさせませんよぉぉぉぉぉ!!」

「ゆりっぺぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「HOOOOOOOOO!!!」

 

俺を含み、ガタイの良い男が5人がかりで落ちてくる天井を支える。最初の鉄球とは比べ物にならない圧倒的な重量が俺たちを襲う。

 

「Halleyup!今なら間に合う!・・・飛んでいって抱きしめてやれぇ・・・!」

 

「ありがとう」

「じゃあな」

「達者でな」

「ひいぃぃ・・・・」

「・・・・Sorry」

 

心のこもっていない礼を述べ、次々と部屋を突破する戦線メンバー。なんて冷たい奴らなんだろう。とりあえずここから脱出しないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

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天井を支えていた俺達5人は何とか抜け出すことに成功し、次の部屋へと進んだ。細い通路に落ちれば底の見えない崖の底、落ちれば間違いなく致命傷だろう。

 

「何も・・・ないみたいだな。・・・早く行こう!!」

 

これ以上何か起こる前に音無は皆より先へ進んでいく。

 

「ちょっと音無くん!あまり先に行っちゃ………!」

「どうした?」

 

仲村がいきなり立ち止まるので、それに疑問を思った日向は問いかけた

 

「何か・・・っ!!」

 

その瞬間、仲村達がいた場所の床が崩れる。そこにいたのは仲村を含め、先行していた音無し、日向、大山の4人だ。通路は分断され、向こう側には椎名と野田がいる。

 

「しまったぁ!忘れてたよここは橋が崩れるトラップだったぁ!!!」

「だ、だから!忘れるなよぉぉぉぉぉぉ!!」

 

皆は人間タワーみたいになってぶら下がっているみたいだ。

どこから出したのか、椎名がロープで仲村の腹部分を縛って押さえ、仲村より下にいる皆はそれぞれ自分の上にいるメンバーの足を掴み、落ちずに済んでいる状態だ。

 

「ぐうぅ・・・!重すぎて・・・持たないッ・・・!!」

「うぉぉぉぉぉ!!待っていろゆりっぺ、今引き上げるぞぉぉ!!!」

 

上から覗くと一番下にぶら下がっているのは音無でその次が日向、大山、仲村の順だ。男3人ぶら下がっているので女の仲村には負担が大きすぎる。

野田と椎名がロープを掴んで引き上げようとするが、如何せんパワーが足りない。

 

「俺も音無も落ちるか!?」

「ちょっと待て!勝手に決めるなぁ!!!」

「ここで一気に戦力を失うのは、得策ではない!!」

 

日向は苦しんでるゆりの声を聞いて自分と音無も落ちる提案をするが、音無と椎名は当たり前だがそれを拒否する。

こうしている間にも、ロープは仲村の腹に食い込み、足は男3人分の体重で引き伸ばされている。こうしてはいられない、俺は助走をつけて分断された通路の向こうへと飛んだ。

 

「私たちも行きましょう!」

「OK!!HalleyUp!!」

「持ちこたえろ、みんな!!」

 

高松、TK、松下も助走をつけて分断された通路を飛び越える。そして6人がかりで一気に引き上げ、何とか事無きを得た。

 

「ふぅ・・・。ここまでは皆無事みたいね」

 

心なしか、何処か暗い表情をしている仲村。一体どうしたんだろうか?声を掛けるべきか、掛けないべきか少し悩んでいると、藤巻が俺と音無に対して話しかけてくる。

 

「へっ、よくもまあ、新入りのテメェと部外者の五十嵐が生き残ってるもんだな」

「・・・まぁな」

「他の連中に助けられた場面もあったけどな」

「次はテメェらの番だぜ・・・」

 

なぜか、俺の脳裏にフラグという言葉が浮かんだ。なんでだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

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次のフロアで、俺たちは盛大な水攻めを受けていた。

 

「た、助けてくれぇぇっ!!お、溺れ、溺れるぅっ!!」

「はいはい、あんまり暴れると本当に溺れるぞ」

 

俺は暴れる藤巻の腋に腕を回し、できる限り体を浮かせる。そのまま泳いで藤巻を壁側に連れて行き、壁にある僅かな凸凹に捕まらせた。

 

「コイツ、カナヅチだったのか・・・」

「俺も泳ぎは得意じゃないけど、このくらいなら・・・」

「プハァ・・・!」

 

水の中から出口を探していた椎名が帰ってくる。

 

「出口はこっちだ、こい」

「よし。藤巻、大きく息を吸い込んで、止めろ」

「すぅぅぅーーーーー・・・・・っ」

 

出口という言葉を聞いた皆は潜水し、先に潜った椎名さんの後へと続き、出口へ向かっていく。藤巻の準備ができたのを確認した俺は、藤巻を引っ張って水の中を進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

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「・・・プハァ!!ハァ・・・ハァ・・・!ゲホッ・・・!ゲホッゲホッ!!」

 

水面に上がると、藤巻は大きく咳き込む。

どうやら最後に水中からあがったのは俺達みたいだ。

 

「大丈夫?藤巻君」

「あ・・・ありがとよ」

 

藤巻は大山の手を掴み、対岸へと上がる。

それに続くように俺も上がり、辺りを見渡す。他の皆は息を荒げており、肩を上下させていた。まぁ、無理もない、人間1分も息を止めていればかなり苦しいのだ。

 

「ゆり、こっちだ!」

「椎名さん?」

 

ゆりが椎名のいる方に向く。椎名のいるところに階段があるみたいなので、それが俺達の次に進む道なのだろう。

 

「・・・行きましょう」

 

俺たちは椎名さんのいる場所へと向かおうとすると、子犬のぬいぐるみが入ってるダンボールが川の上にぷかぷかと浮かんでおり、流れている。

 

「何?あれ?」

「何であんなもんが?」

「あれは……!」

 

仲村は子犬のぬいぐるみを見て何か察したらしいが、あれが一体どうしたのだろうか?

 

「あああぁぁぁぁ!!子犬が流されているうぅぅぅぅぅ!!!」

 

その叫び声の正体は、階段のところにいた椎名だった。そんな彼女は川に流されている子犬のぬいぐるみに目掛けて走り出し、川の中へと飛びこんだ。

 

「えええぇぇぇぇ!!?」

「椎名さん駄目ぇぇぇ!!」

「待て椎名!!それはぬいぐるみだぁぁ!!」

 

音無と中村が叫び、俺も椎名を追いかけ川に入る。

椎名は川から勢いよく現れ、ダンボールにいた子犬を手にしたのだったが――

 

「!」

 

手にしたのは子犬ではなく、子犬の“ぬいぐるみ”だった事に気づいた。

 

「不覚! ぬいぐるみだったああぁぁぁ!!」

 

と叫びながら、椎名は流されていく。川の勢いは強く、俺も対岸を掴んでその場に踏ん張るのが精一杯だった。それでも俺は椎名に向かって手を伸ばす。

 

「椎名ぁ!!掴まれぇ!!」

「っ!」

 

幸運にも対岸に近い場所に流れていた椎名は俺の手を掴むことができた。人間2人分の重みで何とかその場に踏み止まった俺と椎名。

椎名から対岸に上がり、その次に俺も上がった。

 

「危うく、椎名さんまで犠牲になるところだったわ」

「あれも天使用のトラップかよッ!? ・・・つか、一目で気づけよ」

 

確かに、冷静な椎名のあの取り乱し方は驚いた。もしかして椎名って・・・・。

 

「えっと・・・椎名さんは可愛い物の部類が弱点なんだよ・・・」

「へぇ~。結構可愛いとこあんだな・・・」

「意外なような、そうでもないような・・・」

 

俺と新入りの音無は椎名の意外な弱点を知ることになる。

それを聞いた音無は若干呆れながらも、彼女にも女の子らしいところがあるのを知り感心もしたみたいだ。それに対し椎名は――――

 

「あ、あさはかなり・・・」

 

顔を赤く染め、子犬の人形を胸元にきつく抱いた。

 

 

 

 

 

 

   --------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特にトラップらしき物はなく、ただ広い一本道の通路。皆の体力は限界に近づき始め、一旦ここで休むことにした。

そんな中、音無と仲村は並んで壁際に座っており、俺は何となく、死角から二人の会話に聞き耳を立てていた。

 

「・・・皆生き残ったわね」

「そうみたいだな」

 

音無がそう答えると、仲村は低く、唸るような声でつぶやいた。

 

「五十嵐君が居なかったら、みんな死んで全滅じゃない・・・!あたしの浅はかな考えで部外者である五十嵐君にまで危険な目に合わせて・・・。酷いリーダーね」

 

仲村は自分じゃ対処できなかったトラップと、俺を今回事に巻き込んでしまったのを悔やんでいるようだった。普段は仲間をコキ使う人使いの荒いリーダーだが、何だかんだで仲間の事を本当に大切に思っているのだと、この時初めて思った。

 

「仕方ないだろ?対天使用のトラップだ。これくらいじゃなきゃ意味ねぇよ」

「・・・自分で仕掛けたトラップに対処できず、五十嵐君に助けられても?」

 

音無は自分を責めてる仲村を慰めようとしたのだが、仲村はそれを自嘲で返した。音無は何も言えず、しばらく沈黙が下りていたが、やがて音無が口を開いた。

 

「あんな連中をよく統率してられるな。どうしてあんたがリーダーに選ばれたんだ?」

 

音無は休憩中にも拘らず駄弁りまくる戦線メンバーを見ながら、なぜ仲村がリーダーに選ばれたのかを尋ねている。

あまり気にしていなかったが、いざ聞いてみると確かに何で仲村がリーダーなのか気になるな。確かにカリスマ性のようなものを感じさせる奴ではあるが・・・。

 

「最初に刃向かったから。それだけの理由よ・・・」

「天使にか?」

「・・・そ」

 

意外と単純な理由なので驚いたが、同時に納得する。ようは言ったもの勝ちで、発案者が責任者になることはよくあることだ。

仲村が短い返答をした後、しばらく沈黙が続く。

 

「・・・弟妹がいたのよ」

「え?」

 

その沈黙を切ったのは仲村であり、突然自分に弟妹がいたと言って来た。そのことに、俺は思わず耳を澄ませる。

 

「あなたにない記憶の話よ」

 

仲村はそのまま話を続ける。自分は長女で妹が二人、弟が一人いたらしい。両親は仕事が上手くいってたのでとても裕福な家庭だったとか。

幸せな家庭、そんな想像が脳裏をよぎる。

 

「夏休みだわ。両親が留守の午後、見知らぬ男たちが家の中にいたの」

「それって・・・まさか泥棒か?」

「私は長女として、絶対にこの子達を守らなくちゃ・・・って思ってた。でも、敵いっこないじゃない。ねぇ?」

 

仲村は自嘲の笑みを浮かべながらそう言った。

どうやら強盗達の目的は金品になるような物らしいが、何も見つけられないので苛立ちを見せており、そして、仲村にとって最悪のゲームを突き付けた。

それは、長女の仲村が10分毎に金目のものを持ってこないと妹たちを一人ずつ殺すというゲームだった。仲村は必死に金目の物を探したのだが、幼かった仲村には、強盗達が喜ぶ物など分かる訳が無く、ただ時間が刻一刻と過ぎていくばかりだった。

 

 

警察が来たのは30分後。生き残ったのは長女の仲村一人だけだった。

 

 

 

「・・・別にミジンコになったって構わないわ。私は・・・本当に神がいるのなら立ち向かいたいだけよ。だって・・・理不尽すぎるじゃない・・・!悪い事なんて何もしていないのに。あの日までは、立派なお姉ちゃんでいられた自信もあったのに・・・。大切な者をたったの30分で奪われた。そんな理不尽ってないじゃない・・・!そんな人生なんて・・・許せないじゃない・・・!!」

 

それを聞いて、なぜ俺は仲村の誘いを蹴ったのか、なんとなく分った。

俺だって、あの時は死にたくなんかなかった。もっと、皆と一緒に居たかった。不条理を強いた神様に復讐する、そんな甘美な誘惑を俺は振り払った。

 

なぜなら、俺と仲村は似た者同士だが、誰よりも対極に居たんだ。

俺は守りたい者を守って死んで、仲村は守りたい者を死なせてしまった。

 

その決断に後悔しなかった五十嵐竜司と、なぜ自分に力が無かったのかと、悔やみ続けてきた仲村ゆりは決して相容れない。

 

俺自身、もしかしたらそうなっていたかもしれない可能性の姿を、見たくは無かったんだろう。だから目を背けた。

 

『守りたい者をたったの30分で奪われた』

 

強盗達は10分ごとに一人ずつ殺害した。警察が来たのは3人目の姉妹が殺された直後、30分後だ。おそらく、強盗達は警察に捕まったのだろう。

大切な人が殺されたのなら、復讐心を糧に生きて、いつかその無念が生きたまま晴らされたことがあったのかもしれない。

だが強盗達は法で裁かれ、自分では裁けない所に行ってしまった。不完全燃焼の爆弾のように燻り続けた復讐心は、その矛先をこの世の理不尽に、何もできなかった自分自身へと向かった。

 

そして死してなお、この世界で縛られ続ける仲村は、見知らぬ神へ復讐を開始した。

その神が仲村の、いや皆の人生に不条理を与えたかどうかも、そもそも存在するかもわからない。それでも、実在しない偶像であっても、憎しみの対象がなければ、彼女は正気を保てなかったのかも知れない。そう考えると、無性に悲しくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 




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