戦った・・・・・・。
戦い抜いてきた・・・・・。
この体に走る痛みが、過去の苦しみを消してくれるのだと信じて・・・・・。
この流れ出る血と汗が、あの子たちを幸せに導いてくれるのだと信じて・・・・・。
目の前に立ち塞がるは、唸りを上げるバイクと十数人は下らない武装集団。
対する俺は背中に伝わる灼熱の痛みと、頭から流れる血が止まらず、もう意識が飛びかけているガラクタ同然の木偶の坊。
でも、それももう終る。
これが俺の最後の戦いだ。
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「何で、あの時の夢なんか・・・・・」
ベットから身を起こし、俺はぼやいた。
というよりも、この世界では夢を見る事があるという新事実に驚きだ。
「そろそろ起きるか」
やる事が無いと言っても、いつまでもベットで横になるのは気分的にも悪い。
俺は新しい包帯を持って、洗面台へと向かった。
「これだけは、消えないんだよなぁ」
俺は顔左半分に手を添える。
露わになった、赤紫色とも、黒とも言えない色に変色し、無事だった右半分とは違ったデコボコした硬い感触。額から頬にかけた、一本の傷跡。
遊佐ちゃんから聞いた事があった。
この世界に来た者は、生前の病気や怪我は完治した状態になっていると。
「戒め、なのか・・・・?」
俺は醜い左半分を包帯で覆い隠し、そう呟いた。
あのとき、一人の父を、孤児院の院長という命を奪った事を忘れさせない為に、目に見えぬ誰かが俺の傷を消さなかったんじゃないかと推測する。
「まぁ、別にいいけどな」
残ったものは仕方ない。
そう割り切って俺はタンスの中を物色する。
「今日はこれにしよう」
『肉うどん』とプリントされたTシャツを身に纏い、俺はスケッチ道具を片手に部屋を後にした。さて、今日は何処に行こうかねぇ・・・。
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「あたしゃ、もう駄目だ・・・・みゆきち、幸せにおなり・・・・」
「え、え~と・・・・、し、しっかりして、お母さん!」
当てもなくぶらついていると、自販機の前で金髪の女子生徒と紫色の髪の女子生徒に遭遇した。二人とも戦線の制服を身に纏っていることから、仲村の仲間だという事が分かる。
「せめて、死ぬ前に・・・思い出の場所に行きたかった・・・・・・」
しかしこの金髪の女子生徒、一体何をやっているのだろう?
やたらと血色の良い顔で、ワザとらしく息を荒げているが、そもそもこの世界は死後の世界だ。死なないのに死ぬ、これはこの世界特有のギャグだが、面白いのか?
まぁ、何かの遊びだろう。邪魔するのも無粋だし、ここは静かに立ち去ろう。
「そこの人!お願い無視しないで!!」
そう思って素通りしようとした途端、金髪の女子はさっきの様子とは180度変更し、素早い動きで俺の脚にしがみつく。
「お願いします!お母さんの頼みを聞いてあげてください!」
紫色の髪の女子も俺の脚にしがみつく。・・・・・・・・・・・・何?この、無視した俺が悪いみたいな展開?地味に傷つくわぁ~。
『五十嵐さんはMPダメージを受けた!』
変なアナウンスが聞こえた気がするが、それはあえて無視する。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうかしたのか?」
「今すごい葛藤があったように見えたけど、まぁいいや」
仕方ない。何が目的かは知らないが、頼みを無下に断れるほど俺は冷酷ではない。今は暇だし、やれる事はやってやろう。無理難題なら丁重に断らさせてもらうが。
「実は今、楽器を運んでるんだけどあたし達女の子ばっかりだから捗らなくて」
「それで、手伝ってくれる男の人が居ないか探してたの」
事情は理解した。なるほど、俺も生前引っ越し業のバイトをしていたから分かるが、確かに楽器は重たい奴ばっかりで、女手で運ぶのには苦労する代物だ。
男手もそうだが、何より人数が欲しいところだろう。
「良いよ。今は暇だし、手伝う」
「ホント!?ありがとう!!」
俺の快諾に、嬉しそうに飛び跳ねる女子2人組。
「あたしは関根しおり、よろしくね!」
「入江みゆきです」
「え?」
み、美雪・・・?
「ど、どうかしたの?」
「あぁ、いや。何でもない」
驚いた。
まさかあの子と同じ名前をした奴が居るなんて。まぁ、可能性としてはありうるが。
それに、あの事は髪の色が違う。その事が、俺を心から安堵させた。
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「へぇ。お前等があのガルデモだったのか」
自己紹介を終えた俺は、この2人の正体に少なからず驚いた。
GirlsDeadMonster。略してガルデモはこの死後の学園の生徒に莫大な支持を受ける人気ガールズバンドだ。俺は直接見た事はなかったが、何時だったか、遊佐ちゃんがやたらと熱く語っていたのを思い出す。その時の遊佐ちゃんは、いつもと違った等身大の女の子って感じだったなぁ。
もっとも、相変わらずの無表情だったが。
「その人気バンドが、まさか戦線の構成員だったとはな」
という事はだ。俺は今、学園の有名人と話をしているということになる。ガルデモは熱狂的なファンが多く、中にはNPCのストーカーまでいるらしい。
こんなところを、ストーカーに見られでもした俺は刺されるんじゃなかろうか?
「ここが音楽室だよ」
入江が指さしたその先には、音楽室と書かれたプレートが掛っている一室。俺は何気なく教室に扉を開き、中に入った。
「確保ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
そこに居たのは仲村を初めとする戦線メンバーたち。
「確保確保ぉぉぉぉ!!!」
「お、御覚悟です~~!!」
「な、何事!?」
そして俺の腕をがっしりと掴む関根と入江。
「逃がしませんよ、五十嵐さん」
「遊佐ちゃんお前もか!?」
止めとばかりに俺を背中から羽交い絞め・・・には微妙に出来ていない遊佐ちゃん。
「こいつは一体どういう事だ!?」
俺は全身を振り回し、抜け出そうと――――――――――
「し、しまったーーーーーー!?」
「ふふふ。下手に拘束を解こうとすれば、遊佐さん、関根さん、入江さんが怪我をするわよ?優しいフェミニストの五十嵐君に、そんな真似が出来るかしら?」
まるで悪魔のような笑みを浮かべる仲村。
2人ならまだいい。だが、3人ともなると話は別だ。無理に逃げようとすると、怪我をさせる可能性が脳裏をよぎる。
と言うか、そもそも――――――――
「えぇい、騙したな!?」
「ご、ごめんなさい~~~~~」
「ゆりっぺ先輩の命令で仕方なくなんだよ~」
あの三文芝居は関根を性格ゆえだと思っていたが、甘かった。
まぁ関根はともかく、入江の申し訳なさそうな態度でとりあえずこの事は水に流そう。それより今は、現状の理解が先だ。
「いったい何の用事だ?」
俺は色々と諦め、仲村の話を聞くことにした。
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「ギルド降下作戦ねぇ」
聞かされたのは色々と規模の大きい話だった。
この学園の地下には、戦線が秘密裏に作り上げられた武器製造工場があり、そこに行って少なくなった弾や銃などと言った武器の補給を行うらしい。すべては立華と戦うために。
ハッキリ言ってやる気はしない。喧嘩になると分かっていて、それを手伝うほど俺は酔狂ではないし、何より面倒事だ。
「お願い!どうしても人手が居るのよ!」
意外な事に、仲村は脅しではなくお願いをしてきた。周りの戦線メンバーも意外そうな顔をしている。俺も意外だ、仲村は独裁者的なリーダーだと思っていたが。
「武器が無ければ、私たちは抵抗することすらできない。お願い、力を貸して!」
理由はどうであれ、仲村を筆頭とする死んでたまるか戦線と立華は敵対している。こいつらには敵対以外にこの世界に留まる方法を知らないかの様に、延々と戦いを繰り広げてきた。
「はぁ」
俺は溜息をついて、頭を掻く。
確かに、俺としては乗る気はない。だが、どうせこいつ等は俺が居なくても自分たちで取りに行くだろう。そしていつか、戦線と立華が激突する時の状況はあまり変わらない。
「分かった。今回はお前たちに協力するよ」
結局頼みを断れない。甘いのは分かってはいるんだけどなぁ。
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『でもよ。どうやって五十嵐を戦線に入隊させるんだよ?』
『別に五十嵐君の意思は関係ないわ。要は天使に五十嵐君が戦線に味方しているって思わせればいいのよ』
『どういうこと?』
『つまり、事あるごとに五十嵐君を戦線に協力させておけば、天使は五十嵐君が戦線に味方したと勘違いするわ。そうなると・・・五十嵐君は天使と敵対せざる負えないわよね?』
『そうか!五十嵐に戦線に入隊せざる負えない状況を作るんだな!?』
『遊佐さんの調査でも、五十嵐君は相当お人良しな性格。頼み込めば大抵の事は聞いてくれるらしいわ。逃げようとしても、女性で包囲すれば簡単には逃げられない』
『流石だよゆりっぺ!!人の良心を利用した残忍な手口だ!!』
『あぁ!!こんな下種な作戦、ゆりっぺにしか思いつかないぜ!!』
『よーしお前ら。後で体育館裏に来い』
『・・・・・・・この作戦、五十嵐が天使に事情を説明したら終わりなんじゃ?』
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