Angel Beats! 失われた未来   作:大小判

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第4話更新です


交戦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既視感(デジャヴュ)という言葉をご存じだろうか?

大雑把に言えば、似たような事が前にもあったなーという感じのアレだ。なぜ今そんな事を持ち出すかって?それはだな―――――――

 

「いざ、尋常に」

「いや、勝負しねぇから!」

 

死んでたまるか戦線第2の刺客が現れたからだ。

黒の長髪に長いマフラーが特徴の女子生徒。その手には小太刀が握られている。

 

ここは校外にある河原。例の如くスケッチに着た俺に向かって、刃物が投擲された。偶然屈んだら避けられたから良いものの、下手すれば俺の頭に直撃していただろう。

 

「死角からの一撃を避わしたその身のこなし・・・相当な強者とお見受けする」

 

しかしどうもこの女子生徒は勘違いしているらしい。何が目的かは分からないが、自分の一撃を完全に回避された相手を前に、その瞳には僅かに好戦的な光を宿している。

 

ただ分かる事は、この女子生徒は戦いを止めないという事。

それは俺の絶対的なルールの一つ、『女の肌に傷をつけない』を守りながら、この物騒な女子生徒との戦いをいかに制するかが今回の課題だ。

 

「行くぞ」

「チィッ!」

 

戦いは始まった。

こちらが素手に対し、相手はリーチが短いとは言え刃物を持っている。そして何より驚愕させられるのはその速さ。

一瞬で間合いを詰めてきた少女は何の躊躇もなく俺の急所を目掛けて刃を振るってくる。幾ら死ぬ事が無いと言っても、人間というのは同種を殺すことに強い忌避感を感じる。

だがこの少女にはそれが無い。生前にどんな事をして、この世界でどんな事をしてきたかは知らないが、俺を殺さんと閃く刃に迷いは無い。

 

「くそったれ・・・!」

 

何より、この少女は俺が今まで戦ってきた中で一番強い――――――!

少女の斬撃を傷つきながら腕でいなしているが、信条故に攻勢に出れない今の俺はまさに木偶の棒だ。腕には夥しい傷跡と、流れ出る多くの血。

そこでようやく気付いた、ものの数秒で塞がり始める傷。なるほど、死なないというのも頷ける尋常ではない治りの早さだ。

 

「終わりだ」

 

そこにきて少女は俺に止めを刺しに来る。

大きく振りかぶり、喉を目掛けて突き出された刃を―――――――――――――

 

「貰った!」

 

俺は掴んだ。

刃は俺の手を貫通するが、その刃の先にある少女の手をしっかりと掴んで離さない。

 

「くっ・・・!」

 

少女は迷わず空いた手を腰へ持っていこうとするが、その前に俺はその手を掴んだ。恐らく新しい獲物を取り出そうとしたのだろうが、そうは問屋は降ろさないってな。

 

ちなみに、対女用の戦い方が俺にはあったりする。

 

「ほーら、飛んでけぇ!!」

 

そのまま豪快なジャイアントスイングで少女を河に放り込む。あの河は結構な深さだ。放り込まれたとしても怪我はないだろう。水柱と共に川に沈んだ少女に背を向け、俺は地面に置いたスケッチ道具を持ってその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「たっく・・・酷い目にあった」

 

河原での戦いの後、俺は校長室へと向かった。聞くかどうかは分からないが、いい加減俺に喧嘩をけし掛けてくる戦線メンバーを仲裁してもらうためだ。

 

「おーい、仲村は居るかー?」

 

校長室のドアをノックし、反応を伺うが返事はない。

 

「・・・留守、か・・・?」

 

仕方ない、日を改めるか・・・。そう思って来た道を戻ろうとすると―――――

 

「どうしましたか?」

「うおっ!?」

 

なぜか遊佐ちゃんが校長室から出てきた。ていうか、居たの?

 

「この扉・・・開けなくてよかったですね」

「え?」

「具体的には言いませんが、侵入者を窓から放り出すトラップ付きです」

 

どうしよう。俺が通う校舎はビックリ屋敷みたいだ。

 

「それも、対立華用の罠か?」

「立華・・・?あぁ、天使の事ですね」

「こういう物騒な物も止めて欲しいんだけどな・・・」

 

見た目は小さく可憐な少女が罠に嵌って窓から放り出される光景なんて、想像するだけで気分が悪くなる。どうにかして止めて欲しいもんだが・・・。

 

「ところで、何か用事があったのでは?」

「あぁ、そうそう。仲村に伝えといて欲しい事があるんだわ」

「何でしょう?」

「今日も戦線の奴に喧嘩売られたんだけど、いい加減止めさせてくれないかって」

「分かりました」

 

遊佐ちゃんは物分かりがよくて助かる。昨日の野田といい、今日のマフラー女といい、どうも人の話を聞かない奴とばかり知り合うからな。

 

「五十嵐さん、一つお聞きしたい事があるのですが」

「ん?どうした?」

「何ですか?そのTシャツ」

「お?気が付いたか?奨学金で買ったんだよ」

 

遊佐ちゃんが指さしたのは、俺が今着ているTシャツ。

『麻婆豆腐』と、正面に黒字でデカデカと書かれた1品だ。

 

「購買部っていろいろ売ってんのな、一目で気に入っちまったよ」

「ハッキリ言って、センス無いです」

「このセンスの無さが良いんだよ」

 

それが変なTシャツ、略して変Tの醍醐味だ。

余所行きの服でもあるまいし、私生活の時は機動性重視で良いと思う。

 

「・・・よく分かりません」

「趣味なんざ人それぞれって事で、割り切ってりゃ良いってこと」

 

もちろん害を与えない範囲での話ではあるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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遊佐ちゃんと別れた後、食堂へと向かうその道中――――――――

 

『できるかそんなセクハラ!!』

『そうだよ!まずは告白→お付き合い→手を握る→キスと、段階を踏まないと!!』

『たとえ段階を踏んでもきっとダメ!!』

 

廊下のど真ん中で大きな声で騒ぐ戦線の制服を着た男3人を見つけた。というか、セクハラって言ってたけど何する気なんだ?

 

『ふん!度胸の無い奴らだ』

『野田!?』

 

そんな時、なぜか窓から行儀悪く校舎の中に入ってきたのは、俺が昨日はっ倒した野田って男だ。あの獲物はトレードマークなのか、今日も担いでいやがる。

 

『俺は、ゆりっぺの為ならどんな汚名でも被ってみせる!』

 

そう言って野田は両手の指を組み、人差し指を立てて―――――――

 

『うぉぉぉおおおおおお!!!』

『きゃあああああああああああ!!?』

 

NPCの女子生徒の尻を目掛けて指を突き立て始めた。

 

「って、何やってんだゴラァァァァァ!!」

「ぐばぁぁぁああ!!」

 

NPCに野田の魔の手が届く寸前、俺は野田の頭を蹴り飛ばして壁に叩きつける。まったく、なんて奴だ。いきなり女に向かってカンチョーだなんて。

 

「まだだ・・・!ゆりっぺの為に、俺はぁ・・・・!!」

「げっ!?しぶとい!!」

 

俺の渾身の蹴りを受けながらも、這う這うの体で女子生徒に向かっていく野田。いったい、何がこいつをそうさせるのだろうか?

 

「バカバカしい・・・が、漢だな」

「えぇ!?」

「うん・・・野田君カッコイイよ」

「えぇ!?」

「やるぞ音無!根性見せようぜ!」

「今こそ不可能を可能にするんだよ!!」

「そういう雰囲気!?やらなきゃKYみたいな!?」

 

野田の仲間と思しき連中の内2人がカンチョーの構えを取ってやたらと盛り上がっている。でも一人が乗る気じゃないみたいだ。

ここはあいつが止めるのを期待して、その間に野田に止めを。

 

「くっ!こうなりゃヤケだ!!怨むなよ、NPC!!」

「しまった!こいつらアホの集まりだったか!!」

「ごげぇっ!!?」

 

カンチョーの構えを取り、一人の女子生徒に向かって走り出す赤毛の男。俺は野田に止めを刺し、赤毛の男を追いかける。

 

「く・・・!間に合わない・・・!」

 

だが悲しいかな、追いつくには距離が開きすぎた。

赤毛の男はそのまま銀髪の女子生徒に向かって・・・・・・・ん?

 

「あ、待て音無!!そいつは―――――!!」

 

 

どすっ!!

 

 

銀髪の女子生徒こと立華は、カンチョーをしようとした不埒者の赤毛男を、手から生えた刃で心臓を一突きした。

 

「お、音無ィィィィィィ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『ねー聞いた?例の人達』

 

『変態だよねー』

 

『A組の子もやられたって』

 

『女の子を追いかけてカンチョーするっていう』

 

 

 

 

――――――――――――セクハラ戦線!!

 

 

 

そんなほぼ実話の噂話は、瞬く間にNPCの間に広まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「どーゆーことだぁぁぁぁぁぁぁあ!!!?」

 

その日の放課後、校長室に怒号という名の雷を仲村は落とした。

そんな修羅の様に怒り狂う仲村の前には、正座しているカンチョー騒動を起こした4人と、事情聴取を受けた俺、その様子を見ていたらしい遊佐ちゃんの6人だ。

 

「ご、ごめんなさい~」

「いや、もとわと言えばお前のセリフが」

「つい、その場の空気に乗せられて」

「俺はゆりっぺの為にやっただけだ」

「やかましい!!」

 

見苦しい言い訳を続ける3人に、仲村は更に雷を落とす。

 

「なぁ、遊佐ちゃん。もうこの戦線抜けた方が良いんじゃないのか?色んな意味で危ないわ」

「こらそこ!!遊佐さんを引き抜こうとしない!!」

 

いやだって、こんな変態が居るグループに遊佐ちゃんを置いていくっていうのも抵抗がある。まぁ、遊佐ちゃんに限った話ではないが。

 

「少し、考えてみる必要がありますね」

「そうしろ」

 

俺もまた、この戦線に対する認識を改めなければならない。こんな変態痴漢セクハラ行動に出る輩が多くいるのなら、俺は本格的に戦線に敵対するだろうし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『あーもう!あんた達のせいで五十嵐君の印象が悪くなったじゃない!!』

 

『五十嵐?あぁ、確か前に戦線の勧誘を断ったっていう』

 

『あの人がそうなんだ。なんか、色々目立つ人だったね。僕とは大違いだよ』

 

『もしかして、あの五十嵐っていう奴をもう一度勧誘する気なのか?』

 

『何だと!?そうなのか、ゆりっぺ!!』

 

『えぇそうよ。彼が戦線に入れば、椎名さんと並ぶ戦力となるわ』

 

『五十嵐って、そんなに強いのか!?』

 

『本日、椎名さんと交戦して実力を測りました。椎名さんの全力に対し、五十嵐さんは素手で応戦。さらに女性を傷つけないというハンデを持ってしても、勝負は引き分けでした』

 

『あの椎名さんとハンデをつけても引き分けだなんて、それってすごい事だよ!』

 

『でもよ、女を傷つけられないって言うなら、天使との戦いもできないだろ』

 

『大丈夫よ。何としてでも戦線に加入させて、洗脳するから・・・・』

 

『ゆりっぺさん、顔が悪役の様ですよ』

 

『ぐぬぬぬぬ。それがゆりっぺの判断なら・・・・』

 

『ん?どうした、音無。さっきから黙り込んで』

 

『いや。・・・・五十嵐って名前、どっかで聞いたような・・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




キャラの口調が難しいです。

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