「はぁぁぁぁぁ!!」
「おぐえぇぇぇぇええ!!?」
仲村の一撃が、なぜか藤巻の頭をかち割る。鈍器と藤巻の頭から滴り落ちる血を眺めていると、『パララッパー♪』という軽快な音と共に、視界に謎の説明文が映し出された。
『ふじまき を たおした!
ゆり は レベル5にあがった
すばやさ が 2あがった
がめつさ が 3あがった
「ぺろんちょ」(詠唱すると虚しくなる)をおぼえた!』
「やったね、ゆりっぺ!」
「やったな、ゆりっぺ!」
「やった~♪・・・・・・って、やってねーよ!つっかえねー呪文だなぺろんちょぉーーーー!!」
「ゆりっぺさん、落ち着いてください。覚えたての呪文で虚しくなるなんて、ドMですか?」
この異常な空間に置いても何気に平常運転の死んだ世界戦線のメンバー達。死後の学園にはある筈のない豊かな森と大きな山、そして雲の上に建つ城という異常な光景を眺めながら俺は静かに黄昏る。
「本当に・・・」
「何だってんだ?」
気が付いたら、俺達は何故かゲームの世界に居た。
何が起きたかさっぱりわからない?それは当事者である俺達の台詞だ。そもそもどうしてこうなったか、遡ること少し前の話。
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事の発端は、仲村が立華の力を何とかものに出来ないかと思い、彼女の部屋に忍び込んでパソコンを弄っていたことから始まる。操作方法やらなんやらが分からず、適当にボタンを押して回って止めとばかりにENTERキーを押した瞬間、仲村を始め俺と遊佐ちゃん、音無と野田、そして大山は何故かまったく見知らぬ場所に来ていた。
「それにしても・・・ここは何処なんだ?」
「まるでゲームの中みたいだね」
まるで何百年も前の外国みたいな街並みに、行きかう人々の服装。科学という概念自体無くなったような奇妙な風景に愕然とする。まぁ死後の学園自体、生前からすれば異常な光景だから今更という感じではあるけども。
「それで?どうやったらこのドラ○エ世界から元の世界に戻れるのかしら?適当に弄ったから戻り方も何も―――」
「いや・・・どうやら魔王とやらを倒して、ゲームをクリアすればいいらしいぞ」
「五十嵐さん?なぜそのような事が分かるのですか?」
遊佐ちゃんが俺に問いかける。何故かって?そんな理由は簡単だ。
「パンフレットにそう書いてある」
「パンフ!?そんなの何処にあったのよ!?」
「そこの観光案内所に置いてあった」
俺が指を指した先に5人が顔を向ける。そこには『観光案内所』と堂々と看板が立てられた建物と、その入り口には俺が今持っているパンフレットと同じものが幾つも置かれていた。
「要するに取扱説明書という訳ですね」
遊佐ちゃんもパンフ、もとい取扱説明書を手に取る。
「それで、このゲーム世界について何か書いてないのか?」
「そもそも何で魔王を倒すとか明らかに面倒臭そうな事をしなきゃいけないわけ?」
「・・・・詳しい事は何も書いてないな。『この世界を創った誰かがそう望んだ』としか・・・」
「はぁ!?何よそれ!?一体誰が――――」
「任せろゆりっぺ!!ゲームでは俺は神だ、お前にエンディングを見せてやろう!!」
「お前かぁあああああああああああああ!!!」
「俺じゃなぐばああああ!!?」
仲村の強烈なアッパーが野田の頬を穿ち、血飛沫と共に宙を舞った。・・・・誤解だろうに、相変わらず惨いな。野田の中村に対する想いも相まって尚更そう思う。
「何にせよ、魔王を倒さなければ問題は解決しません。幸いにもこの取説にはこの世界での情報が数多く載っていますし、今はこれを頼りに前へ進むしかないでしょう」
「それに取説でネタバレはしちゃいけないからね」
「ぐ・・・それもそうね」
「さて、そうと決まればまずは何をするかだな。ほら、起きろ野田」
「う・・・ぐぐ・・・」
気絶している野田の頬を軽く叩き、眠りからおこす。
「順応力高いなー・・・」
死後の世界で鍛えられたからな。
「じゃあ早速魔王とやらが居る場所を調べて、乗り込むとしよう」
「え?」
「・・・五十嵐さん、何を言っているのですか?」
「うん?」
俺がそういうと、皆が妙な目で俺を見る。何かおかしなことを言っただろうか?
「まずはモンスターを倒して、レベルを上げないと駄目だよ」
「それから装備を充実させなきゃならないだろ」
「モンスター・・・?レベルに・・・装備?」
妙に聞き慣れない単語の連発で俺の頭は軽く混乱に陥る。すると遊佐ちゃんは助け舟を出すように口を開いた。
「五十嵐さん、ゲームの経験はありますか?」
「一度もない」
「えぇ!?一度も!?」
「ば、馬鹿な・・・!それで生きていける訳が・・・!?」
俺の言葉にその場の全員が驚きを隠せない様子。というか、野田は驚きすぎだ。
「ではこの取説を使って説明します」
「む・・・頼む」
遊佐ちゃんの説明によると、どうやら最終目的である魔王とやらを倒すには道中数多くのモンスターとやら倒して経験を得らなければならないらしい。それと同時に武器や防具を身に付けなければ魔王を倒す事は出来ない。
現実はともかく、此処は特異なゲームの世界。郷に入っては郷に従う、つまりこの世界ではパンフレットに書かれた事がこの世界における法則なんだろう。
「後、戦闘時における役割、『職業』という用語があります。これには幾つもの種類がありまして、これにより戦闘時に出来ることが変わってくるのです」
「・・・何か、面倒そうだな」
「まぁそれがゲームだと思って、割り切ってくれ」
「ちなみに、職業は既にランダムで決まっているそうです」
「あ。それは何となく自分でわかるわ」
それは俺も気づいていた。元の世界ではできそうになかった、なのにこの世界ではできるという奇妙な感覚。これが遊佐ちゃんの言う職業という奴か。
「俺は皆の手助けがしたい」
「僕もサポートするよ!」
「お、俺も!」
「俺も早く元の場所に帰りたいしな。まぁ何とかやってみよう」
「私も最大限協力します」
「みんな・・・そうね、頑張りましょう!」
「それじゃあ、まずは職業とやらを確認しないとな」
「私は
その瞬間、仲村の服が一瞬で見ず知らずの物に代わる。露出の少ない、昔教会で見たシスターのような格好だ。しかし、ゲームにおいてこれは一体どういう職業なんだろうか?
「回復や支援を主とする攻略の要となる職業ですね。戦闘には不向きですが」
「へぇー。じゃあいきなり良い職業を引き当てたって事か」
これは幸先良いかもしれない。後は攻撃や遠距離を主とする職業が出れば―――
「俺も
「わぁ!奇遇だね、僕も
6人中半数がサポートになった。・・・・何だろうか、いやな予感がする。普段の戦線のアホらしい騒ぎにも似た、嵐の前の静けさというか。
「・・・からの~♪」
「俺が
「6人中4人が
6人いて何故か4人がサポートという偏った編成。だがなぜだろう、嫌な予感は一向に収まらない。
「こうなったら、五十嵐君と遊佐さんが頼りよ!!特に五十嵐君の攻撃値とか防御値とか鑑みれば、最悪サポートでも問題なくいける筈――――」
「俺は商人だ」
「戦闘要員ですらないのかよぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
どうやら俺が戦闘に参加できない事を嘆き悲しんでいるらしい。そんなにこの職業は駄目なのだろうか?
「せ・・・せっかくの高火力が使えないなんて・・・」
「ですが、商人は居るだけで所持金が増える職業ですし、アイテムや装備を買うのには困らないのでは?」
「それでも戦闘がキツイことには変わらないぜ」
「えぇい、こうなったら遊佐さんが最後の希望よ!さぁ、貴女の職業は何!?何となくサポートオチは見えてるけど、出来れば攻撃職を―――」
「私は店の売り子です」
「誰が非戦闘員のサポートをしろって言ったよぉおおおおおおおおおお!!!」
「ぶげらぁぁぁあああ!!?」
仲村のやり場のない怒りが野田を襲う。これで俺達6人の職業は決まった。4人がサポート、2人が非戦闘員という何ともバランスの悪い編成で。
「転職したいんですけどぉぉぉぉぉ!!戦士とか欲しいんですけどぉおおおお!!」
「それにはまず、1年以上の勤務と退職の1か月前に退職願を提出、退職後にはハローワークに行って―――」
「いきなり現実的だなオイ!!だったらいいよ!そんな長期戦ごめんだわよ!!」
確かに1年以上もこの世界には居たくない。しかも魔王を倒すまでどのくらいの時間を要するかもわからないんだ。なら今の職業で魔王を倒すしかないわけだが――――。
「遊佐ちゃん、この面子で倒せるのか?」
「廃人プレイさながらの難易度です」
よく分からないが、とにかく不可能に近いという事だけは分かった。
「しかし、戦闘要員全員がサポートか・・・」
「ちょっとつまらないかなぁ」
「あぁ・・・残念だ」
何だろう、野田がやけに落ち込んでいる。気のせいか、眼から赤い何かが出ているように見えたが。
「・・・ゆりっぺのビキニアーマーとか・・・見たかった・・・っ!!」
「ビキニアーマー?何だそれ?」
「・・・・五十嵐さんは知らなくてもいい事です」
よく分からないが遊佐ちゃんが怖いので言及しないでおこう。
「しかし、よく考えたら良いかもしれない」
「僧侶パーティーが?」
音無の言葉に全員が食いつく。
「少なくとも、回復魔法や蘇生魔法を駆使すれば全滅は免れにくい」
「そうか・・・!レベルを上げれば!」
「そうと決まれば経験値だ!」
どうやらこのまま進むという方針で決まったらしい。尤も、俺と遊佐ちゃんは戦闘には参加しないわけだが。
「取説によると、モンスターを倒すと経験値を得られるほか、持っている素材を剥ぎ取ることが出来るそうです」
「此処だけモン○ンなの!?」
「剥ぎ取った素材はそのまま武器や防具、アイテムとして使えるそうです」
「完全な追剥だな」
そうして俺達は街の外へと出る。そこは俺が生きてきた時代では考えられないほど広大な自然。道の整備すらままならない未踏のジャングルを連想させられる。
「む!何かいるぞ!」
「まさか、モンスター!?」
突如、俺達の近くにある茂みが大きく揺れた。草木では隠れきれない体を動かし、俺達の良く手を阻むようにそれは飛び出してきた。その姿は俺達とどこか似ていた。
黒い毛を靡かせる二足歩行の生き物。麻の布を服に仕立てて身を包み、歯を剝き出しにして威嚇の表情を浮かべる。不思議と恐怖を感じないのはそれが俺が知っている男とよく似ていたからだろう。
「おうおうおう!見せつけてくれてんじゃねぇぞコラ!!」
長ドスを持った三下臭を大いに漂わせる男――――というか、藤巻が俺達の前に立ちはだかった。
「モンスターって、藤巻に似てるんだな」
「いや、それは多分何か違う」
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なんやかんやで藤巻を倒した4人。この世界のルールに照らし合わせるなら、倒したモンスター(藤巻)から素材とやらを剥ぎ取ることが出来るのだが―――
「何を剥ぎ取るんだよ」
「まさか・・・服を・・・?」
「誰が喜ぶのよ、そのサービスシーン」
「ゆりっぺさんは大喜びですけどね」
「そうそう、私は大歓迎・・・って何言わせんのよ!!」
「とりあえず、藤巻からは長ドスを頂戴しよう」
俺は戦利品として、彼の愛用の長ドスを手に取る。そこでふと思い立ったことがあった。
「・・・なぁ、遊佐ちゃん」
「何でしょう?」
「この世界に来たのは、仲村がAngelplayerを弄繰り回したからだと思ってたろ?」
「そうですが・・・それがどうかしましたか?」
「でも、取説じゃ《この世界を創った誰かがそう望んだ》って書いてあったよな」
今回の事が偶発的じゃないなら、この事態を引き起こした奴がいる。それが出来るのはパソコンソフトであるAngelplayerに干渉できるだけの技術を持ち、尚且つ仲村がAngelplayerを弄ることを知っている奴に限られる。
「確かに変ですが・・・・・・・まさか」
「あぁ・・・戦線メンバーの誰かが今回の犯人なのかもしれねぇ」
皆様からのご意見ご感想、お待ちしております。