Angel Beats! 失われた未来   作:大小判

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異変 前編

 

 

 

 

 

 

それはある日の事だった。

 

『立華奏 生徒会長を辞任

 代理として、直江文人を生徒会長代理とする』

 

それは俺にとってはまさに蒼天の霹靂だった。立華が生徒会長を辞任?真面目が取り柄のあいつが?一瞬何かの冗談かと思ったが、掲示板に張られた用紙は何度読み返しても内容は変わらない。

 

『ねぇ聞いた?立華さんが生徒会長辞めたのって、前のテストの時に変な答え書いたからなんだって』

 

その時、隣で掲示板を見ていた女子NPCの話し声が聞こえた。そのまま聞き耳を立ててみる。

 

『変な答え?何それー?』

『なんでも、英語の答案を全部カタカナで答えたとか、科学のテストで電車の車掌さんアンペアとか、そういうの書いたらしいよ』

『えー?立華さんがそういうの書くなんて思えないんだけど』

 

確かにあり得ない。だとすると、そういう事をする奴はただ1人。

 

「・・・仲村か」

 

どうせテストの妨害でもしていたんだろう。あいつは最近、立華が生徒会長としての立場を無くせばどうなるかに関心があったからな。

 

「にしても、こういう度の過ぎた事はするなと言ってたのにな」

 

それで聞く連中ではないと分かっていたけども。俺自身小中学時に受けただけで、聞くまで完全に忘れていたことだが、テストってのは学生にとって今まで受けた勉強の成果を試すものだというのは知っている。

俺は以前、休み時間中に黙々と授業の予習をしていた立華を見たことがある。勉強が好きとまではいかなくても、それなりに意義を見出しての事だろう。

要は立華も努力をしているのだ。それを踏みにじってまで結果を挿げ替えるなんてのは正直どうかと思う。

 

 

 

   ------------

 

 

 

その後、俺は仲村に一言文句を言うべく校長室に来たのだが、校長室は留守だった。

 

「・・・出直すか」

 

丁度飯時だし、いい加減腹も減ったから食堂へと向かった。

 

『痛いわね!離してよ!!』

『ゆりっぺに触れるなぁぁぁぁぁぁ!!』

「ん?」

 

食堂に入った瞬間、聞き覚えのある声が響いた。その方向に目を向けてみると、仲村をはじめとした戦線の主要メンバーがNPCの集団に何処かに連れて行かれているところだった。

 

「あれは・・・確か新しく生徒会長になった直井」

 

集団の先頭に立つ帽子を被った小柄な男子生徒を見つけた。ここでふと、おかしな事に気が付いた。

 

「あいつ・・・本当にNPCか?」

「確かに、彼の行動には少し疑問がありますね」

「遊佐ちゃん、相変わらず神出鬼没だな」

「五十嵐さんこそ、今日も変なTシャツを着ていますね。何ですか、麻婆豆腐って?」

 

気配もなく俺に近寄って来た遊佐ちゃんに片手を上げて挨拶をし、再び直井に目を向ける。

 

「そういや、あいつら今度は何したんだ?今まであんな事なかったよな」

「まぁ、今までも校則違反を行った現行犯で捕まれば、口頭注意はありましが、あのような形で反省を強いる一般生徒はいませんでした」

「うん。立華が居ない今、あいつらが今更現行犯で捕まるなんて思えないんだけど」

 

どういう目的があるにせよ、戦線は目的を達するために訓練された精鋭だ。ただの一般学生に捕まるなんて考えにくい。

 

「どうやら、今までのオペレーションという名の校則違反の証拠をかき集めて、戦線の主要メンバーを一斉に検挙しようとしているみたいです」

「・・・まぁ、ありえるっちゃありえるのか?」

 

NPCの行いは、基本的には生徒のなすべき模範ではあるが、その感情は現実の人間と同じものだ。どんな変わり者が居てもおかしくはないんだろう。

 

「我々戦線は、NPCを攻撃しないことを前提に行動していますから、ある意味天使よりも厄介ですね」

「まぁ、何にしても腹が減っては戦は出来んってな。いつまでも突っ立ってないで、飯でも食うか」

「そうですね」

 

そもそも俺は此処に飯を食いに来たんだ。時間も時間だし、いい加減腹も減る。

 

「遊佐ちゃんは何食うの?」

「カルボナーラ定食の味噌汁とおにぎりセットを」

「何その奇怪な食い合わせ」

 

そもそもカルボナーラを定食で出すこと自体が前代未聞だと思うのは俺だけだろうか?

 

「五十嵐さんはどうされるのですか?」

「そうだな・・・麻婆豆腐でも食うかな。このTシャツ的な意味で」

「・・・正気ですか?」

「え?何が?」

「正直言って、食べきれるとは思えませんが」

「ははははは!何言ってんだよ、たかだか麻婆豆腐じゃないか」

 

 

結局、遊佐ちゃんの予言は的中して、俺は白米を3杯追加注文することで完食した。

 

 

 

   --------------

 

 

 

翌日、反省室に閉じ込められていた戦線メンバー達が釈放され、俺もまた校長室へと呼び出された。

 

「で?これからの活動はどうしますか?」

 

高松が無意味に知的なポーズをとって仲村に問いかける。

 

「試しにちょっと動いてみましょう」

「何をするんだ、今度は?」

 

仲村を少し睨むような形で問いかける。今回の立華の生徒会長失墜は、俺の予感通り戦線メンバーの手によるものだった。

何でも立華を生徒会長の座から蹴り落とせば、校則違反を咎めるという大義名分を失うかららしいが、それとこれとは話が別だ。

 

「各自、好き勝手に授業を受けてみて。それと、一般生徒の邪魔はあんまりしないように」

 

仲村は戦線メンバー達に解散の意を示し、席を立った。まぁ、その位なら別にいいか。俺が止める理由にはならなさそう

だ。一般生徒の邪魔はするなって言ってるしな。

 

「音無君に、五十嵐君。あんた達はこれを持っていなさい」

「うん?」

 

戦線の主要メンバー達が部屋を出ていく中、俺と音無は仲村に呼び止められ、ある物を渡された。

 

「通信機?」

「これ、ここでは貴重な物なんだろ?なぜ俺なんかに?」

 

こういった精密機器は、作りが複雑だから作れる奴は限られている。戦線でもオペレーターの遊佐ちゃんと仲村位しか持っていない。そんな代物を、なぜ新人の音無と基本的に部外者である俺に?

 

「・・・・・・・」

 

仲村はジッと俺達を見据え、通信機を差し出した。

 

「ふぅ・・・何の意味があるのかは分からんが、とりあえず預かっておく」

 

 

 

   -------------

 

 

 

その日、戦線メンバー達は久方ぶりに授業に出席した。

 

(すごいドキドキする・・・!授業中にお菓子を食べるなんて・・・!)

 

―――パリッ

 

(食べた!今お菓子を食べた!僕、授業中にお菓子食べちゃってるー!なんて思い切ったことをしちゃったんだ―!)

 

授業中にポテチを食うという、大山的には大冒険をしている者を居れば―――

 

「取ったぁ!」

「残念リーチ。ドラドラ親満」

「何だよくっそ―!ひさ子の一人勝ちじゃねぇか!」

「ohmygod」

「女相手に、何と体たらくな・・・!」

「そこ、静かに」

「あぁ、すみません」

 

デカい声で麻雀に勤しむ4人組もいる。

 

「先生!トイレ―!」

「またお前か・・・。行ってこい」

「あいつは何やってるんだ?」

「1分おきにトイレに行く生徒だとさ。アホだろ」

「俺達はどうする?」

「こうやって駄弁ってたらいいさ」

 

普通に授業を聞かずに駄弁っている者も居れば―――

 

「・・・・・・・(シャカシャカシャカシャカ)」

 

黙々と授業風景をスケッチしている者を居る。まぁ、これは俺だが。

 

「フッ・・フッ・・フッ・・フッ・・筋肉が唸る・・・唸りを上げる・・・!」

 

上半身半裸で延々と腕立て伏せに励む奴もいれば―――

 

「・・・・・・・」

「ぐぅー・・・ぐぅー・・・」

 

何故か指1本で箒や定規を持ったり、机を並べて寝ている奴もいたりする。

 

「先生トイレ―!」

「・・・行ってこい」

 

そしてトイレから戻ってきたユイがきっかり1分後にもう一度トイレに行こうと教室を出ようとした瞬間―――

 

「そこまでだ貴様ら!」

 

騒ぎを聞きつけたのか、生徒会長代理、直井文人が教室へと踏み込んできた。そのまま俺達を捕まる気なんだろうが、そうは問屋は降ろさない。

 

「あたしトイレですから―!!」

「うわぁっ!?」

 

ユイは勢い任せで効果へ飛び出し―――

 

「やっべ!逃げるぜ!!」

 

麻雀をやっていた4人組は勢いよく窓から逃げ出し、椎名と高松は人知れず逃げした。残るは俺と音無、日向と野田、そして急いで机の中にポテチを隠した大山の5人だが―――

 

「おい、野田がまだ寝てるぞ」

 

この騒ぎにまだ起きないなんて、相変わらず神経が図太い奴だ。

 

「おい貴様。何のつもりだ?」

 

そうこうしている内に、直井が野田の元へ近づく。移管、このままだと野田が反省室に連行される。

 

「聞こえていないようだ。良いだろう、このまま反省室へ運べ」

「はい」

 

直井の取り巻きが野田に手を伸ばした瞬間、野田はクワッと目を開け、その手を払いのけて瞬時に獲物を突き立てる。

 

「何を反省しろというのだ!?」

「きゃああああ!!」

「え?」

 

ただし、何の関係もない一般生徒に向けて。まったくしょうがねぇな。

 

「授業中に堂々と眠り、あまつさえ罪無き一般生徒を恫喝しておいて、よくそんな疑問が抱けますね。ある意味天晴です」

「んだとぉぉぉぉぉ!!?」

 

直井の挑発的な言葉に、野田は当然のごとく怒り狂って武器を振りかぶる。まぁ、その前に―――

 

「ふん!」

「ぐぼぁぁっ!!?」

 

俺は野田の腹に一撃を食らわせ、倒れ込むのだを肩に担いで教室から飛び出す。まったく、こいつは少しは大人しくできん

のか?

 

 




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