Angel Beats! 失われた未来   作:大小判

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約1ヶ月遅れの投稿です。いやー、『小説家になろう』に投稿しているオリジナル小説の執筆が忙しくて、ハーメルンの方を疎かにしていました。
作者:アンチャンのオリジナル作品、『いつか未来の僕らへと』、興味があれば是非。


肝試し?

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・早まったかも」

 

ハイテンションシンドローム(アホの祭典)の後、死んだ世界戦線からの命乞い(リーダーの仲村はしていない)により、俺は半ば諦めた感じで戦線に協力することとなった。

あれからというもの、事あるごとに戦線からの協力要請の連絡が送られる。一応俺には拒否権があるのだが、一度受けたことを断り続けるのもあれなので、俺の主義に反しない事ならば極力参加するようにはしている。

だが、問題はその内容である。基本的に、『女に傷をつけない』ことであるなら、俺には絶対に断るという理由はない。ないのだが、俺の倫理観スレスレの事を求めるのは勘弁願いたい。例えばそう―――

 

『(無断で)ライブをするから、天使を足止めしてほしいのよ』

 

いや、立華も仕事だから来てるだけであって、邪魔されたくなければ許可を取ればいいのでは?まぁ、作戦実行時の陽動なんだろうけども。それを言ったら今度は―――

 

『それじゃあ適当な理由をでっち上げて、天使を屋上に誘き出してくれない?』

 

ちなみにこの後、屋上に潜んでいた戦線メンバーによる集中射撃の巻き添えになった。

 

『天使の部屋に忍び込んで、制服を盗んできてくれない?生徒会長自ら校則違反をすればどうなるか気になるのよ』

『ふざけんな阿呆』

 

これは丁重に断ったが、こんな感じでいっつもやり難い事ばっかり言ってくる。なんかもう、いろいろ後悔してる。

 

「ここに居ましたか、五十嵐さん」

「よぉ、遊佐ちゃん」

「本日は作戦会議室に集合ですよ。早く行きましょう」

「あぁ、そうだな」

 

そんなこんなで、今日も戦線に呼ばれている。さてはて、今日はどうなることやら。

 

 

 

   -------------

 

 

 

「今日は肝試しをしようと思うわ!」

 

会議の第一声は、そんな仲村の明るい声だった。

 

「肝試しか。物騒な事だけと思ってたら、意外と学生っぽいこともするんだな」

「まぁ、普段から結構ゆるいけどな。間抜けというか、ギャグ要因が多すぎてシリアスになれないっていうか」

「ははは、それは言い過ぎだよ」

 

まぁ、気の張りつめ過ぎ(普段からゆるいが)はよくないし、こうやって遊ぶのもいいだろう。そう思って、俺と音無、大山は談笑していると―――

 

―――ダァンッッ!!

 

「死に対する免疫をつける為の特訓よ」

 

突然の発砲と仲村の黒い宣言により、俺達の淡い幻想は木っ端微塵に砕かれたのだった。あぁ、結局いつも通りか。ちょっと楽しみにしてたんだけどなぁ・・・。

 

「これは重要な事よ!この死後の世界、死ぬことは日常茶飯事!仲間の死から目を逸らさない強靭な精神力を手にいれるには?死を恐れない心を持たないと天使とは戦えないのよ」

「で・・・でも、いくらなんでも」

「ゆりっぺだからな・・・諦めようぜ」

 

仲村の言葉に音無は弱く反論するが、日向は何時もの事と諭す。いや、これは慣れちゃいかんでしょ。

 

「・・・・・」

「って、待て椎名。そのロープで大山をどうする気だ?」

「え?」

 

ロープを持って、背後から音もなく大山に接近する椎名を牽制する。ちなみに気づいたのは偶然だ。

 

「椎名さんに指示を出したのはあたしよ」

「んな事は想像ついてる。一体何の為だよ?」

「簡単よ。まずは凶器とやられ役を用意します」

「えぇ!?やられ役って僕のこと!?」

「で、このくらいにはなってもらわないとね」

 

―――ブシャゴリュボキぎゃあああああああああああ!!

 

『焼き肉美味し―♪』

 

―――ドシュビシャアゴリゴリぎぇえぇぇぇぇぇぇぇえ!!

 

『ナポリタン最高♪』

 

「うそ・・・だろ・・・?」

「マジよ」

「い、嫌だぁぁぁぁぁ!!」

 

有名な例え話で、カレーを食ってる時にウ○コの話をすることは全人類共通の禁句とされている。仲村のやろうとしている事はまさにそれであり、それと同時に死なないとはいえ人間を生贄にするような事は俺の許容できないものだ。

 

「仲村、マジでやるってんなら俺は本気で邪魔するぞ?」

「う・・・」

 

こめかみに力を入れて睨むと、仲村はちょっと怯んだ。

 

「しょうがないわね、実施はやめましょう。映像で慣らしていくわよ」

「そのくらいなら」

 

仲村の提案に全体的に引き気味だった戦線メンバーも、大幅なランクダウンに乗る気になりだしていた。うんうん、分かってもらえて結構だ。

 

「おーおー、グロいグロい」

 

とはいってもは映し出されたのはやっぱりというべきか、スプラッタホラーだ。常人なら肉を食う気を損なわさせるような血と肉が弾け飛ぶ描写が多く見られる。

その証拠に、女子メンバーの殆どはビクビクと怯えているし、男子も顔を青ざめさせている。

 

「うん?」

 

その時、俺の服の裾を掴む震える手に気が付いた。まるで迷子のように、何かに頼らなければ生きていけない幼気に震える手の先を見てみると―――

 

「・・・・・(フルフル)」

「おい離せ藤巻、お前がやると気持ち悪くて仕方ねぇんだよ」

「そんなぁ!?俺と兄貴の仲じゃないっすか!」

 

やかましい、誰が兄貴か。冗談は長ドスと性格だけにしてほしいもんだ。

 

「・・・・・・」

 

そんな感じで情けない藤巻とは対照的に、遊佐ちゃんは顔色一つ変えずにグロ映画を見ている。流石遊佐ちゃん、まったくブレないな。

 

―――ブシャゴリュボキぎゃあああああああああああ!!

 

「・・・(もぎゅもぎゅ)」←焼き肉焼いて食ってる

 

―――ドシュビシャアゴリゴリぎぇえぇぇぇぇぇぇぇえ!!

 

「・・・(ぱくっもぐ)」←ナポリタンを頬張ってる

 

―――ビチャグチョビチャぐひゃああああああああああああ!!!

 

「・・・(ぺろ)」←口の周りに付いたナポリタンのソースを舐め取る

 

本当に・・・ブレない奴だよ、遊佐ちゃんは。その光景を見て、周りの戦線メンバーは完全に怯えているが。遊佐ちゃん、こんな時も真顔だしな。

 

「五十嵐さんも食べますか?」

「いいのか?助かる、飯食い損ねたんだよな」

 

遊佐ちゃんに勧められ、俺も焼肉とナポリタンを頬張る。ていうかこのナポリタン、インスタントの割には美味いな。

 

「怖いよーーー!!」

「お前ら、こんな映像見ながらよくそんなの食えるな」

「まぁ、結局はただの映像だからな。実際に味が変わるわけでもないし」

「こういうのは気分の問題だからな?」

「まったく、男が何時までも怯えて情けない。少しは椎名を見習え」

 

椎名もまた顔色一つ変えずに画面を見ていた。まるでつまらない映像を延々と見せられているかのような退屈そうな顔だ。

 

「椎名も平気そうだな」

「死と隣り合わせは慣れている。・・・そういう人生を送ってきたからな」

 

何処かキメ顔で呟く椎名。今更なんだが、こいつは一体何者なんだ?少なくとも、現代の女子の基準とはえらいかけ離れた奴に思えてならんのだが・・・。

 

「あっ!変な番組押しちゃいました―――!」

 

その時、ユイが間違えてチャンネルのボタンを押してしまった。グロ映像から一転、そこに映し出された映像は―――

 

『ペコ~~~!』

『ク・・・クゥ~~~~ン・・・・』

 

『子犬物語 可哀そうなペコ』という、可愛い物好きの椎名が好きそうな教育番組だった。

 

「し・・・死と隣り合わせとはっ・・・!」

「椎名さん、ハンカチです」

「す、すまない・・・っ」

 

涙と鼻水で顔をグチャグチャにした椎名に、遊佐ちゃんはハンカチを渡す。ていうか、たまたま映ってた感動シーンでなんでこんなに泣けるのか・・・。

 

「・・・飽きた」

「え?」

 

その時、岩沢はポツリの呟いた。いや、飽きたって何言ってんだ?

 

「映画なんかよりも私の歌を聞け―――!!ゲリラライブ開始だ―――!」

「岩沢さーん♡」

 

今回の趣旨を完全に忘れたのか、持っていたギターで大音量で音楽を掻き鳴らす岩沢。えぇい、ユイも便乗し始めたし。

 

「あーもうっ!これじゃあ肝試しにならないじゃない!」

 

本来の趣旨からずれ始め、中村はとうとう怒りを爆発させる。まぁ、これはこれで俺は一向に構わないのだが。

 

「あのな・・・いくら何でも無茶苦茶なんだよ。誰だってお前みたいに死に慣れてるわけじゃないんだから」

 

音無は呆れたように呟いて乱暴にソファーに腰を掛ける。

 

「死に慣れてないから、こうして頑張ってるんじゃない」

 

それは、まるで絞り出したかのような声だった。

 

「ここではその位心を強く持っていないと立ってはいられない。私は皆のリーダーなんだから・・・慣れないと、駄目なんだから・・・!」

「ゆり・・・お前そこまで思い詰めて・・・」

 

仲村は自分の特等席の机に拳を打ち付け、低く唸る。そしておもむろに引き出しを引いた。

 

「だ・か・ら、私の為に・・・」

 

そして鋏を取り出して、ジャキンジャキンと開閉を繰り返して―――

 

「し・ん・で♡」

「危なぁーーーーーっ!?」

 

音無の顔面に目掛けて突き立てようとするが、不穏な空気を感じたのか日頃の行いからなのか、寸のところで音無は回避した。ていうか、本当に危ないなオイ。

 

「病みましたね」

「おい仲村、そんなもん振り回すんじゃ―――」

「ゆりっぺは俺が守る!!」

「いや、俺を守ってくれよ!!」

 

そんな俺の抗議も、状況が読めていない野田の一声に掻き消された。いや、読めていたとしても同じ選択をしていたかもしれないけど。

 

「何だ、楽しそうじゃねぇか」

「Comeoneverybody!!」

「歌っていいのか?」

 

そして騒ぎに乗じて、青春時代の申し子たちは暴れだす。まるで祭りのように。

 

「ぶっ殺ーーーーーーす!!!」

「ゆり!!ゆりぃぃぃぃーーーーー!!!」

「♪♬♫♩!!」

「岩沢さぁーーん♡」

「なんなんだーーーー!?」

 

まさに阿鼻叫喚、好き勝手に戦線メンバーが暴れる校長室は地獄。そんな光景は実に物騒で、騒がしくて、危なっかしくて、そしてなにより―――

 

「くくくく・・・!」

「・・・?五十嵐さん、どうかしましたか?」

「いや、なんか面白おかしくてな。何でこいつらって、何時もシリアスになりきれないんだ?」

「それに関しては心の底から同意します」

 

俺と遊佐ちゃんは騒動とは少し離れた、部屋の隅からその光景を見ていた。結局のところ、俺は戦線が嫌いにはなれないらしい。

 

「こんな楽しい生活なら、何時までも続けばいいのにな」

「・・・はい」

 

 

だが、少し後の未来で俺達2人は思い知ることになる。

 

俺達は皆、必死に過去を見ないようにしていたという事を――――。

 

 

 

 




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