Angel Beats! 失われた未来   作:大小判

11 / 27
第11話です。


ハイテンションシンドローム 後編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死後の事を、鍋島に伝えた。

もう、こうやって話す時間は少ないだろう。あの時と同じだ。岩沢が消えた時と同じような、ホッとした様な表情を浮かべている。

 

「そっか・・・沙夜子ちゃん、手術成功したのか」

「あぁ、退院の目途も立ったってよ」

 

追い打ちを掛けるように、俺は呟く。隣に座る存在が、どんどん希薄になっていく感覚。

 

「なぁ・・・鍋島、お前はこれで良かったのか?」

 

本当はやり残したことは、他に合ったんじゃないだろうか?そういう意図を込め、鍋島に問い掛ける。だが鍋島はすぐに首を横に振って否定した。

 

「知ってるだろ?俺はお前みたいに、家族を養うみたいな目標も無かったんだ。何をしたいのか分らない人生の中で、やっと出来た目標が叶った」

 

それだけで良い。

そう呟いた鍋島は、酷く穏やかな顔を俺に向けた。

 

「五十嵐は、どうなんだ?そのまま死んでよかったのか?」

「良い訳ねぇだろ」

 

即答だ。でなければ、俺はこの世界には来ていない。だが―――――

 

「でも、未練は残しても後悔はしてない。最後はあいつら任せだけど、自分の力で皆が幸せになってくれるって、そう信じてみる」

「・・・・・そうか」

 

鍋島は本当に嬉しそうな笑みを浮かべ、俺に意思を肯定した。

 

 

「そりゃぁ、良かったな」

 

 

瞬きをし、再び瞳を開いた瞬間には、鍋島はもう居なかった。あぁ、そうか。これが消えるという事か。メチャクチャ幸せそうじゃねぇか。

 

「・・・じゃあな、親友」

 

俺は立ち上がり、校舎裏を後にする。

その時、ふとある考えが俺の脳裏をよぎる。この世界は生前悲惨な人生を歩んだ若者の魂が集う場所。だからこそ、死んだ世界戦線が出来た。それならば――――――

 

「・・・お前もこの世界に居るのか・・・千葉ぁ・・・!」

 

ありったけの怒りを込めて、高い秋空を睨み付ける。

冷たい一陣の風が俺の体を撫でていった。秋の終わりは近づき、やがて過酷な冬がやってこようとしていた。俺が死んだ、あの季節が・・・。

 

 

 

 

   ----------------------

 

 

 

 

ハイテンションシンドローム(アホ共の祭典)は続く。

音無提案の運動会は、未練を残して死んだ若者の集まりとはとても思えない白熱の激戦が繰り広げられていた。戦線メンバー達も、もはや本来の趣旨を忘れているようだ。

 

「こちら、五十嵐さんを交えて物凄い盛り上がりを見せています」

 

その様子を一人の少女が双眼鏡で観察していた。戦線メンバーのオペレーターである遊佐だ。

 

「天使の方はどうでしょう?呼んでみましょう、ゆりっぺさ~ん?」

『はい!こちら中継のゆりっぺで~す!』

 

まるでニュースキャスターの様なボケに、物凄い良い笑顔で仲村ゆりは答える。

 

「って、何やらせんのよ!!」

 

だが次の瞬間、自分を取り戻したかのようなノリツッコみで、耳に付けていたインカムを力一杯床に叩き付けるゆり。

 

「あなたもそれなりにハイテンションな訳ね・・・今、天使は生徒会室で話し合いのご様子。もう少しで終わると思うわ」

 

 

 

 

 

 

 

   -----------------------

 

 

 

 

 

 

此処は体育倉庫。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

椎名は猛スピードで人形を造っていた。

 

「くっそー!あいつら強ぇー!!」

「あぁ、マジで燃えてきたぜ!!」

 

その時、一般生徒が体育倉庫に入ってきた。倉庫内の備品を取りに来たと判断し、椎名は再び人形作りに没頭しようとしたが、ある事に気付いた。

 

「・・・・・・・・ん?」

 

作っていた筈の人形が、一体足りない事に。

 

 

 

 

 

   -------------------------

 

 

 

 

 

パッと明かりを灯す大型ライト。最後の勝負、騎馬戦が幕を開けようとしていた。

 

「いいかお前らぁ!!勝ち残ったチームには1000ポイント入る騎馬戦だぁ!!」

 

ユイはこの運動会でリーダーシップを発揮し、ライブチームの大将へと登り詰めていた。本来大将になりそうな岩沢がグラウンドの隅で作曲しているというのもあるが。

 

「ねぇ。なんかあそこのチーム怖いよ・・・」

「あぁ?どこだよ?」

 

続いてこちらはダンスチームの大将騎、藤巻と大山だ。大山の震えた声に、藤巻はぶっきらぼうに大山の視線の先を見ると――――――――

 

「ぐへへへへへ・・・」

 

そこにはハルバートを持って騎馬の上に乗る野球チームの大将、野田が野獣のような獰猛な視線をダンスチームに送っていた。

 

「コラァァァァ!!素手だ素手ぇ!!殺す気かぁ!!?」

「ちっ!駄目なのか」

 

藤巻の怒号に思いのほか、大人しくハルバートを投げ捨てる野田。

 

「ったく、あいつは・・・!」

 

ブツブツと文句を言いながら、藤巻は鉢巻と一緒に何故か犬のぬいぐるみを額に巻き付けた。

 

「何、それ?」

「大将マークだ!俺は誰よりも目立ち、誰よりも鉢巻をとって見せるぜぇ!!」

 

ドヤ顔を決める藤巻だが、その大将マークが目立つ、鉢巻が取られ易くなるなどの弱点を兼ね備えている事に彼は気づかなかった。

 

各チームの間に、一陣の風が吹く。

巻き上がった砂埃が地面に落ちぬ間に、開戦を知らせる銃声がグラウンドに響き渡った。

 

 

 

 

   ---------------------

 

 

 

 

「ふふふ♪今隣の生徒会室で光景を前に、彼女は疑問を覚えているはず。あれだけ溌剌とした彼らを見て、なぜ消えないのかと」

 

一方その頃、グラウンドで繰り広げられる激戦を見てゆりはご満悦の様子だった。

 

「完璧だ、完璧すぎる!オペレーション、ハイテンションシンドローム!」

 

自身で完璧だと思い込んでいる作戦の余りの恐ろしさに顔を掌で覆い、笑いを堪えようとするゆり。だがそれも長くは続かない。

 

「ふ、ふふ、あーーはっはっはっはっ!!!」

 

ついに笑いの沸点が限界に達し、誰がどう見ても悪役顔で高笑いを上げるゆり。

 

『お前が悪役か?』

「うぐ・・・ハイテンションなツッコミありがとう」

 

遊佐の鋭く、ハイテンションなツッコミにゆりは思わず顔が引きつる。だがその時、あるものがゆりの視界を横切った。

 

「あれって・・・!」

 

猛スピードでグラウンドを駆ける一陣の風。否、戦線最強のメンバーである椎名が丁度そのまま残った三つ巴の戦線チームを一般生徒ごと吹き飛ばした。

 

「えぇー・・・台無しじゃね?」

 

想像を絶する事態に、思わず呆然とするゆり。すると、見張っていた生徒会室から扉を開く音が聞こえる。ゆりは素早く物陰に身を隠し、様子を見ると――――――

 

「生徒会長!困ります!どちらに行かれるのですか!?」

「すぐに戻るわ」

 

天使こと立華奏は生徒会室からグラウンドへと向かっていた。いやな予感がゆりの脳裏によぎり、慌てて奏の後を追うと、グラウンドでは立華と椎名が対峙していた。

 

「一転して最悪の状況にぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

ここまで大勢の一般生徒が壊滅というのは、確かに一度もなかったイレギュラー。戦線のモラルはNPCに迷惑を掛けないことで守られてきた。

それが破られたということは、開戦の合図と同義である。天使に神の元へと導いて貰う筈が、最悪の展開に陥って絶叫するゆり。

 

「あなた達、なんて事をしてくれたの」

「これを見ろ」

 

奏の僅かな怒りを感じさせる言葉に、椎名はある物を突き出す。それは、藤巻が大将マークとして額に括り付けていたぬいぐるみだった。

そう、あのとき椎名の元から無くなったぬいぐるみである。

 

「それは?」

 

椎名の意図が掴めず、奏は思わず疑問を投げかける。

 

 

 

「キューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーートッ!!!!!!!」

 

 

 

顔を紅潮させ、普段のイメージからかけ離れた叫び声がグラウンドに木霊する。椎名は自分自身の気持ちを全力でシャウトし、3人の間に静寂が下りる。

 

「戦意は無し、か」

 

奏は踵を返し、グラウンドを後にする。

 

「なんと報告したものか」

 

そして、隣を通り過ぎる際に呟いた言葉を、ゆりは聞き逃さなかった。

 

(報告!?)

 

報告とは何か?その答えは、ゆりの中では既に決まっていた。

 

「あなた達、ほら起きて!!追うわよ!!ていうか、すごい弱さだなお前ら!!」

 

奏の後を追うため、気付けの目覚ましビンタを戦線メンバー達に食らわすゆりだった。

 

 

 

 

 

 

   ----------------------

 

 

 

 

 

 

 

夜の帳はすっかりと降りていた。

戦線メンバーの一人である鍋島が消えた事を、仲村に知らせるために探し回っていたのだが、一向に見つからない。

 

「五十嵐さん、こんな時間にどうしたのですか?」

「遊佐ちゃん、というよりもお前等もどうしたよ?」

 

そんな時、遊佐ちゃんとガルデモメンバー、大山と藤巻という珍しい組み合わせに出会った。テンションはすっかり元通りの様だ。

 

「俺はちょっと、仲村に知らせにゃならん事があってな」

「それは、戦線に関わる事案ですか?」

「あぁ、間違いなくな」

「分りました。それでは案内します」

 

俺は遊佐ちゃんの後を付いて行く。だが、そこは戦線の本部である校長室ではなく、閉鎖された医局だった。なんで此処に入るんだ?

 

「何でも、作戦が成功して天使が神の元に報告に行こうとしてるみたいだぜ?」

「え!?あんなアホな作戦が成功したのか!?」

 

藤巻の言葉がにわかに信じられない。そうして医局内に侵入し、歩くいて10分ほどすると2階へ上がる階段、その脇にある非常口。

 

「ここです」

「こんな所に地下への入り口が・・・!?」

 

遊佐ちゃんが扉を引くと、そこに階段が現れた。深い深い地下へと続く、見るからに雰囲気のあるコンクリートの階段だ。

 

「とりあえず、行ってみるか」

 

ひさ子の言葉に全員が頷く。俺を先頭に、藤巻、大山、女子メンバーと順番に降りて行き、やがて辿り着いたのは広大な地下空間。

 

「何だ、あのデカい扉」

「あれは明かに何か有りそうだぜ」

 

立ち入り禁止と、ペンキでデカデカと書かれた鉄の巨門。こいつに鍵が掛かっているのなら、力づくで突破するのはほぼ無理だ。

 

「ねぇ、これを押せば開くんじゃない?」

 

そう言って大山が扉のすぐ横に備え付けられてある赤いボタンを指さす。そこには開閉スイッチと堂々と書かれてあったが、いくら何でも・・・・。

 

「とりあえず、押してみたら良いんじゃないかな?」

「うん」

 

入江の言葉に大山は肯定し、ボタンを押した。

 

・・・・・ゴゴォンッ

 

「うわっ!?本当に開いたぞ!?」

 

扉の隙間から漏れ出す眩い閃光に目が眩むが、それはまるで電球のような優しさですぐに目が慣れていく。そこに広がっていた光景、それは――――――――

 

「水耕栽培の、ようですね」

 

遊佐ちゃんの言葉を聞きながら、俺は辺りを見渡す。青々とした野菜の香りが充満する大きな空間。俺も野菜代の節約に、水耕栽培の施設を訪れた事があったが、そこもこんな感じだったなぁ。

 

「あ、あなた達、一体どうやって入ったの?」

 

そしてそこには予想通りの先客が居た。

俺と一緒に乗り込んだメンバーとは別の、仲村率いる主要メンバー、そして立華だ。仲村は茫然とした様子で俺達に問い掛ける。

 

「いやー、まさか開けるボタン一発で開くとはね」

「はぁ!?パスワードは!?」

「パスワード?」

 

大山の返事に心底驚いた表情を浮かべる仲村と、何の事だか分らないと言わんばかりに首を傾げる立華。この作戦って、やっぱり・・・。

 

「なぁ、パスワードなんかあったか?」

「有ったわよ!!あなたさっき打ってたじゃない!!」

 

俺に怒鳴り返した後、仲村は立華を指さして叫ぶ。

 

「あれは園芸部に残された予算の試算を・・・・」

「け、計算機」

 

結論、仲村の作戦は完全に的外れだったということが判明した。まぁ、俺は何となく予想はしていたが、アホが多い戦線ではそれを指摘できる奴は居なかったんだろう。

その事がショックなのか、仲村はプルプルと体を震わせ、そして叫んだ。

 

「今より、死んだ世界戦は、一週間の断食ーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

『『『そ、そんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』』』

 

戦線メンバー達に対する、死刑(?)宣告を。

あぁ、そういやそんな話だったな。色々あったから俺も忘れてたけど、だからこそ戦線メンバー達は無理やりテンションを上げてたんだっけ?

 

「頼むゆりっぺ!!それだけは勘弁してくれ!!」

「死にはしないけど、お腹が空いて歌の練習にならないですよ!!」

「肉うどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおん!!」

「やかましい!!失敗したら断食っつっただろうが!!」

 

いや、失敗したも何も、初めから仲村の思惑が外れてただけだろうに。

 

「断食は健康に良くないわ」

「立華、確かにその通りなんだがこの世界じゃギャグ扱いされるぞ」

 

天然のボケをかます立華へとツッコミを程々に、俺はどうするべきかと戦線メンバーを眺めていると、ふと仲村と目が合った。

すると仲村は、何かを思いついたかのように邪悪な笑みを浮かべる。はて?何だろうか、この途轍もなく嫌な予感は?

 

「分ったわ。そこまで言うなら断食は免除してあげる」

「ほ、本当か!?」

「ゆりっぺサイコォォォオォォォォォ!!」

「ただし!!条件があるわ!!」

 

泣いて喜ぶ戦線メンバー達を制し、仲村はゆっくりと人差し指を俺に向けた。やばい、どんどん俺の第六感(?)が警鐘を鳴らしている。

 

「五十嵐君を戦線に加入、もしくは協力者という立場になることを説得できたらね!!」

「畜生!やっぱりか!」

 

もう付き合ってられん。俺は踵を返し早々にその場を後にしようとしたが―――――

 

「五十嵐様!!」

「どうか戦線に協力してください!!」

「お願いします!!」

 

俺に前に回り込んだ松下、高松、大山がスライディング土下座で請い始めた。

 

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「い、岩沢にひさ子・・・・お前らもか」

 

あのクールな岩沢とひさ子まで、松下達と並んで土下座を開始した。一週間の飯抜きはそれほどまでの恐怖だということだろう。

いや、だが一週間の飯と引き換えに俺が戦線に協力し続けるというのは・・・。

 

―――――スッ

 

その時、俺の首筋に刃物が添えられる。こんな事をする奴と言えば・・・・。

 

「戦線に加入しろ」

「いや、やっぱり止めとくわ」

 

一気に加入する気が失せた。俺だって人間だ、胸糞が悪くなることだってある。

 

「椎名のバカ野郎!!早く五十嵐様に土下座しやがれ!!」

「ぐ・・・!」

 

飯抜きへの恐怖がそうさせたのか、はたまた仲村への忠誠がそうさせたのか、トラウマを乗り越えて野田は椎名の頭を押さえつけて土下座の体制を取らせる。

 

「い~が~ら~し~く~ん。戦線に入ってよ~~」

「もしくは協力して~~」

 

まるで亡者のように俺の脚にしがみ付く入江と関根。

 

「こうなったら、ユイにゃんの色仕掛け一発で!!」

「ユイ、自分を大切にしろ」

「そうだそうだ!!五十嵐様に貧相なもん見せて失望したらどうすんだよ!!」

「貧相とはなんじゃコラァァァァ!!揉んだ事あんのかーー!?絶妙な柔らかさなんじゃああああい!!」

 

勝手に喧嘩を始める日向とユイ。

 

「AllRight!NoTears!NоBlооd!shock!shock!shock!Mysong!」

 

派手な踊りで俺の気を引こうとしているTK。

 

「俺達は酒杯を酌み交わした仲じゃないっすか!!アニキィィィィィィ!!」

「そんな事をした覚えはねぇよ」

 

過去を捏造する藤巻。そして――――――

 

「五十嵐さん」

「う・・・遊佐ちゃん・・・」

「どうしても協力していただけませんか?」

 

ジッと俺の目を見据えて離さない遊佐ちゃん。

 

「ぬ・・・・うぅ・・・あー」

 

くそ。俺は何時からこんなに甘くなった?

 

「条件がある!!」

 

とりあえず、ある程度の妥協から入る事にしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様のご意見ご感想お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。