それなりに楽しい脇役としての人生   作:yuki01

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お久しぶりです。ホントお久しぶりです。
仕事って大変ですね。ほんの去年まで一月以上あった夏休みが一気に5,6日ほどになるというのが辛いです。
毎度言っている気がしますが、しばらく書いていなかったので文章が変化もしれません。何か思うところがあれば、言ってください。



四十五話 終わりの見える戦いの始まり

  日の出前のアルビオン。静寂の中、そこにある森の一部を覆うかのように、多くの人影が立っていた。鎧を着こんだ兵士に大柄な図体を持つオーガなどの亜人たち。

 彼らは一言も言葉を交わさない。感情の抜け落ちた表情で立ち尽くしている様子は、はた目には案山子か何かにでも見えただろう。

 まるで凍りついたような静止した世界。そこに突如爆発音が橙の混じった瑠璃色の空に響く。

 規模こそそれほどでは無いにしろ、時が止まっているかのような世界にその音は良く響いた。そしてそれと同時に黒い煙が森から立ち上る。

 すると音に釣られるかのように、動きのなかった兵士たちが移動を始めた。爆発の起きた場所からは離れた場所にいた兵士たちが、森からは一定の距離を保ったまま、なぞるようにして爆発の起きた方向へと進んでいく。

 それを待っていたのか、第二、第三の爆発が兵士たちを誘導するかのように発生した。薬の影響か、判断力さえ失った兵士たちはその音と煙に反応し、さらにひとところに集まっていく。

 そうして森を覆うように組んでいた兵士たちの陣に多少とはいえ、偏りができた時だった。

 森の中から一人の少年が現れる。

 まだ何もしていないというのに、息は荒く、この気温の中滴るほどの汗を掻いている。まるで満身創痍とでもいうような様子のまま、痛むのか頭を抱えながら、一歩一歩森から離れ兵士たちの方へと歩いていく。

 森から一定以上離れない限り、交戦しないようにでも命令されているのか、彼らは何ら動く様子を見せようとしない。そしてそのラインを超えたのか兵士たちが反応しようと、動く様子を見せた。その時、彼らの元へといくつもの氷槍が襲い掛かる。

 それを合図にするようにして、ほぼ全ての兵士たちが少年へと向かっていった。 

 

 

 

 

 

 

「……戦闘が開始した模様です。相手は年若いメイジが一人のみ。おそらくは躁兵どもを引きつけるための囮だと考えられます。先ほどの爆発も同じ目的のものであると思われます。また、それによって陣形が薄くなったところを、先ほど敵兵どもに突破されました。ご指示のとおり、深追いはしなかったので自軍、敵軍共に損害は軽微とのことです」

 

「……ああ、わかった」

 

 部下の報告へと彼、森へと逃げ込んだ敗残兵たちの相手をしている軍の指揮している男はおっくうそうに返事をした。

 

「しかし、本当にこれでよろしいのでしょうか?」

 

「……どういう意図なのかは知らんが、指示されているのはあの隊のメイジの無力化だ。雑兵どもに兵力を割くよりも、そいつを逃がさないことに注力したほうがいいだろう。あれっぽっち烏合の衆、逃げたところでどうせ何もできはしない」

 

「いえ、それもありますが……その、今のように少数の操兵と亜人たちだけでなく、アルビオン兵と共に攻め立てるか、多くの亜人たちで攻めたてればメイジの一人ごとき、すぐに終わるのでは……? 」

 

「……」

 

 その全うともいえる意見に、男はため息を一つ付くと口を開いた。

 

「私の隊に、命令に従う操り人形もどきとはいえ敵兵がいることに我慢がならん。下等な亜人共もだ。ならばわざわざ減らしてもらっているというのに、それを止めようとは思わん。捨て駒で疲労させてから止めを刺せば、アルビオンの兵にも被害がなく一石二鳥だろう」

 

「なるほど、そういうお考えだったのですね。軽率な口をきいてしまい、申し訳ありませんでした」

 

 そもそもたかが一人のメイジ。数で押しつぶそうとそうしまいと、かかる時間に大した違いはない。そう考えたことが、兵を必要以上に出さない何よりも大きい理由だった。

 

 

 

 

 

 

 オーガの振りかぶった拳を不必要なほど大きく避けると、空いた脇腹と右足へと赤色の混じった氷の槍が突き刺さる。血を吹き出しながらバランスを崩してゆっくりと倒れるオーガをちらりと確認すると、被った血を拭うこともせず、向かってきた兵士の顔へと拳を叩き込みながら杖を振る。啜られるようにして集まった地面に溢れる血液が槍となり突き上がり、倒れるオーガの頭を下から貫いた。そしてそちらへは目もくれず、少年は次の敵へと目を向けた。

 

 それほど長い時間ではないとはいえ、たかが一人のメイジを相手に、それも若い学生ならばせいぜいがライン、よくてもトライアングルの下の方だろう相手にしては、あまりにも時間が掛かりすぎている。そう思い戦況を確認したときに視界に映ったのは、そんな光景だった。

 

「……凄まじいですね」

 

「……」

 

 遠視の魔法を止めた部下が、思わずと言った様子でそう声を漏らした。同じく遠視を止めた彼は、その言葉に返事を返さない。

 別にそれは、鬼気迫る戦いの様子に怯えたわけでもなければ、息を呑んだわけでもない。ただ返事を返す必要性を感じなかっただけだ。

 確かに凄まじいものはある。魔法の威力だけで言えばスクウェアの域まで達しているかもしれない。

 しかし体の動かし方はせいぜい素人に毛が生えた程度のものだ。そして異常な発汗、震えている手足、たまに痛みを堪えるかのように歪む顔。これらを合わせて考えれば、あれは話に聞く極限状態におかれることで精神力や身体能力が一時的に強化される、というものだろう。……所詮は蝋燭の最後の輝きのようなもの。さほど待つことも無く、もうしばらくもすれば燃え尽きる。

 ただ、それだけのことと言うだけだ。

 

 

 

「しかし、まさに力戦奮闘の戦いぶりで。仲間を逃がすために、あれだけとは……」

 

 しかし、まるで憧れるかのような部下の口ぶりに、彼は少し腹が立った。

 追い詰められた隊の長が、部下を逃がすために一人で大軍と闘う。それだけ聞くのならば、確かに男ならば一度は憧れるような状況だ。その後に悲惨な結末しか待っていなかったとしても、だ。

 だが、あれは違う。いや、確かに部下を逃がすため、というのが主な理由だろう。しかし、それだけではないはずだ。部下を逃がすと言うだけなら、もっと他に道はある。あそこでまだ学院で勉学に励んでいるような年頃の少年が、ああまでして戦っているには、おそらくもう一つの理由がある。

 彼には一つ心当たりがあった。それはきっと多くの部下を、隊の頭となった経験のある、自分のような者達にしかわからない。

 

「……今までに、隊長を務めたことはあるか?」

 

 部下へとそう問いかけると、慌てたように首を振って否定した。

 

「じ、自分ですか? いえ、まだまだ隊を治めるには力不足でして……」

 

「そうか」

 

 ならばわからないのも無理はない、と彼は思う。

 

 

 

 あの少年がああも死に物狂いで戦う理由、それはきっと二つある。

 一つは贖罪だ。

 自分の指示で部下が死んだこと、それに耐えられない。それを自分が傷付くことで償おうとしている。

 まるで友人を傷つけてしまった幼い子供が、自分も怪我をすることで責任を取った気になるような、そんな考え。

 そしてもう一つの理由、それは逃避だ。

 彼が取れた手段は多くはないとはいえ、幾つかあった。

 今やっている囮として一人残るというものの他にも、生き残った隊の者たちと一丸となり包囲を突破するというやり方もあったはずだ。だが彼はその策は取らなかった。何故か?

 ……それはきっと、もうこれ以上部下が死ぬのに耐えられないからだろう。これから先の何日かを、部下が少しずつ死んでいくのを目の前で見続けながら共に逃げるよりも、今そこで囮として果てることを選んだ。とどのつまりこれから先も自分の指示によって部下が死んでいく、ということから逃げたのだ。

 別にそれに関してどうこう言うつもりはない。

 隊の長としては二流だろう。第一陣を壊滅させたということと、第二陣に立ち向かわず森へと退いたことを考えれば、無能という訳ではないことはわかる。だが兵士を隊長である自分と対等の一人の人間として扱っているようではダメだ。

 チェスと同じだ。どれだけ実力に圧倒的な差があろうと、ポーンの一つも犠牲にせずに、勝つことなどできない。犠牲に心を痛めることがあっても、それが指揮に影響を与えているようではまだまだだろう。

 彼は少年に同情と憐憫を感じていた。

 このような戦場に来てさえ、人としての倫理や価値観を変えられないことに、そしてそれがここでは欠点でさえあるということに対して。

 その思いを感じながら、そして彼は部下へと指示を出す。

 

「……アルビオン兵をもう少し後ろに下げろ。万が一があるやも知れん」

 

「はっ!」

 

「そして亜人どもをさらに前へ。可能な限りの数を出せ。終わりにする、左右と正面から数で押しつぶせ」

 

 手を緩めることはしない。

 どれだけ同情と憐憫を感じようと、それが指揮に影響を与えているようではまだまだなのだから。

 こちらの指揮下にあるほぼ全ての亜人で、一斉に攻める。これでチェックメイトだ。

 そして部下が彼の指示に従おうとした時だった。

 

 

 

 ぽつり、と彼の手に一滴の雫が降り落ちる。

 そのことに疑問を持つまもなく、ぽつりぽつりと降り注ぐ雫が滴るようなものから、槍が降り注いでいるのかのような勢いへとなる。ただでさえここ数日の雪で泥濘んだ地面が、雨によって叩かれ飛び散り始める。

 

「こ、この時期のアルビオンで雨!? 聞いたこと有りませんよ!?」

 

 彼は空を仰ぎ見た。ここ数日のまま湧いたままの雲が厚く空を覆っている。そしてそこからは目も開けていられないほどの強さで、冷雨が降り注ぐ。

 部下の言い方は少々大げさだ。この時期のアルビオンで雨が降ること自体は、別段有り得ないことではない。もちろん非常に珍しいことであるのは間違いないが、自分の記憶を振り返っても何度も経験したことではある。

 だが、

 

「ここで降るか……」

 

 敵の少年が水のメイジであることは見ればわかる。この状況は彼にとってはまさに、虎が翼を得たようなものだ。例え虎が死にかけであろうと、脅威であることに違いは無い。部下が情けないほどうろたえているのもそれが理由だろう。

 

「これ以上雨が強くなる前に攻めましょう! では、指示された通りに伝達します」

 

「待て!」

 

 先走ろうとする部下を怒鳴りつける。自分が指示をした時とは、状況は変化したのだ。

 亜人どもを前に出すと言うことは、必然的に守りが薄くなることを意味している。この状況がひっくり返されることはもちろん、亜人や躁兵が突破されることすらまず起こりえないだろうが、雨という不測の事態が起きた以上、もう遊んでいる場合ではないだろう。一刻も早く終わらせる必要がある。

 

「……全ての兵を退げろ。もう終わらせる」

 

 彼は部下へとそう告げた。

 

 

 

 

 

 

 気づけば、周りに動いている者は何もなくなっていた。あるのは動かなくなった死体だけ、聞こえるのは雨の音だけだ。

 別に戦いに勝ったわけでも、全ての敵を倒したわけでもない。少し視線を遠くへやれば、そこには戦いが始まる前と何も変わらず、多くの兵士たちが立っている。どういった意図だか知らないが、生き残った奴らに関しては、一度退却させただけのようだ。意図と言えば、そもそも俺がまだ生きていられているということの意味もわからない。俺のようなメイジ一人ごとき、数で潰せばそれで終わりだ。それなのにドーピング薬を二つ飲んだとはいえ、なんとかなる程度の数でしか来ていない。まあ、手を抜いた所で間違いなく勝てるのだから、あっちからすればそんなんどっちでもいいからというだけなのかも知れないが。

 とはいえ、多少なりとも猶予がもらえたのはありがたい。戦いと雨や血のせいで地面はぬかるみ、死体が転がっている。足場のコンディションとしては、最悪だ。

 俺は重い足を引きずり、戦っていた場所から離れると、そこに腰を下ろして、天を仰ぐ。

 そうして戦いの興奮が多少なりとも落ち着くと、それによって忘れていた体中の鈍痛と鋭い頭痛が襲ってくる。だが顔へ痛いほどの勢いで降り注ぐ雨によって、それらの痛みもわずかに麻痺しているのか、それほどきつくもない。

 不思議だ。さっきまで胸に閊えていた物が、だいぶ楽になっている。……隊員たちは逃げられたのか、逃げられたとしてもその後どうするのか、考えなければならないことは幾つもあるはずだが、それほど気にならない。今、こうして残って戦っていることで、隊長としての責任を果たした気になっているからだろう。

 まあ、ただたんに俺が冷血漢だという可能性もあるが。あとは自棄になっているだけなのかもな。もうどうでもいいが。

 

 

 

「よっこらせっと」

 

 座ったまま軽く杖を振ると、膝に手をついて立ち上がり、前を向く。気づけば前方の敵軍から、一人の男がこちらへと歩いて向かってきていた。

 羽織っているマントに、がっしりとした体形。髭を生やした威厳ある、自信に満ちた顔立ち。どの程度なのかは知らないが、まさか雑兵ということもないだろう。そこそこお偉い立場のはずだ。

なんでそんな人が、勝利確定の戦いでわざわざ一人で最前線に出てきたのかはわからないが。

まあ、目的は間違いなく俺だろうが。やだなあ、あの人間違いなく俺より強そうなんだけど。

 顔がはっきりと見えるほどの距離まで近づいてくると、彼は軽く杖を振った。

 杖の先から発生した不可視の風の塊は、雨粒を吹き飛ばしながら俺へと向かって恐ろしい速さで飛び、そして何かにヒビが入ったようなピシリという音を立てて霧散する。それと同時に俺の目の前の空間に白いひび割れが広がっていく。

 

「……用心深いことだな」

 

「ヘタレなだけだよ。あんたもあんたで容赦がないな」

 

 軽く杖を振ると、俺の目の前に広がっていたひび割れの原因、氷の壁は小さな音を立てて崩れ落ちた。

敵軍の中からいきなり出てきた男を前にして、何の用意しないでいられるほどあいにくと俺は自信家じゃない。それにしても、雨のせいで視界が悪くなっているのか、案外ばれないもんだな。

 

「で、どこのどちら様で? 意識はあるようだけど、実はトリステイン兵であらせられたりはなさらないんですかね?」

 

「冗談にしても気分の悪い……」

 

「そら失礼。で、あんたはあそこの奴らの親玉、ってことでいいのかね?」

 

俺は彼の背後に広がる軍へと、顎をしゃくってそう尋ねる。

 

「だったら何だ」

 

「ああ、ホントに隊長様なのか。なら這いつくばって靴を舐めるくらいまでならやるから、回れ右して帰ってくんない?」

 

 男は俺の言葉に、この土砂降りの雨の中でもわかるほど大きなため息を一つ付いた。

 

「よくしゃべる……。悪いがこの雨だ、貴様の相手などを悠長にするつもりはない。早く屋根のある所に戻りたいのだ。さっさと死ね」

 

「ああ、そう。つれないな」

 

 せっかく俺の人生、最期の話相手なのだからもう少し相手をしてくれても罰は当たらないと思うんだが。まったく、サービス精神の無い敵だ。

 

 

 

 

 

 

「……最期に、一つ聞いておきたいことがある」

 

「何だよ。好みの女性のタイプか?」

 

 俺の冗談に顔色一つ変えることなく、彼は一つ尋ねた。

 

「貴様はなんのために、今、そこにいる?」

 

 その質問を聞いて真っ先に出てきたのは、皮肉めいた言葉でも茶化すような冗談でもなく、自嘲するような籠った笑い声だった。

 

「……算数の問題だ。まあ、暇つぶし程度に考えてくれ」

 

「……何を言っている」

 

 俺のその言葉に相手は眉をひそめる。その様子に、まあいいじゃないか、と笑いかけると、第一問と続けた。

 

「あるところに136人の軍隊がありました」

 

 そこで軽く肩をすくめると、残念そうにため息を一つ付き、問題を続ける。

 

「だけれども残念なことに隊長が無能だったので、そのうち57人が死んでしまいました」

 

 そして相手に掌を向けて、問いかけた。

 

「では、ここで問題。さあ! 生き残っているのは何人でしょうか?」

 

「…………」

 

「わからないようなので、じゃあ第二問。これは簡単だから安心してくれ」

 

 相手の沈黙を答えと受け取り、次へと進む。

 

「78と1」

 

 手に持った杖をピシリと相手に向ける。そして俺は口角を上げた。

 

「さあ、どちらの数の方が大きいでしょう?」

 

「……やはりか。哀れだな、くだらん感傷だ」

 

「……知ってるよ」

 

 俺だってそれくらいのことはわかってる。でも俺は隊長なんだ。大のためには小を切り捨てなきゃいけない。たまたま今回は俺が小の側だったというだけだ。

それにしてもやってられない。これがくだらない自己満足だという事も、こんなことに大した意味がないこともわかってはいるが、こうしないと俺は自分に納得ができないのだから。

 全く、バカは損だ。こんな自分のくだらない性分に振り回されるたびに、常々そう思いしらされる。

 もう、これ以上会話をするつもりもないのだろう。俺の向けた杖に対応するように、相手も杖を持ち直す。

 俺はこうして今、ここにいるという判断をしたことをせめても後悔しないよう、力を込めて口角を上げた。

 




 モバマス二クール目も始まりましたね。面白いのですが、声が付くスピードが急すぎて、少し不安です。自分が好きなキャラにも付いたのでそれはすごくうれしいのですが、CDはしばらくでないでしょうし。と、いうか出るのでしょうか。
 サマフェスも東京はなんとかライブビュー取れていきましたが、大阪のは取れたのに発券忘れるという大ポカやらかして、本当に鬱です。追加販売があればいいのですが。
 長々と関係ない話をしてしまい、すいません。次話も無理をしない程度に急ぎます。
 また、敵の隊長が前線に出てきた理由に関しては、次話で詳しくやります。

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