それなりに楽しい脇役としての人生   作:yuki01

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最初の方は文字数が少なかったので、二話をくっつけて改定し、一話にし投稿しています。なので以前は42話まで進んでいたのですが、話数はぐっと減ると思います。
後半はそんなことないと思いますが。


四話   ピクニックへの準備期間

「ちょっとキュルケ!私の使い魔にあんまり触らないで!それもむ、む、胸、胸を押しつけて!ほんっとにこれだからゲルマニアンは!その重いだけの脂肪の固まりが大きいと態度まで大きくなるのかしら!あー、やだやだもっと慎みを持ったらどう?ツェルプストー!」

 

「あなたのほうこそどうなのよヴァリエール。胸は小さい、色気は無い、態度は大きいの三重苦じゃない。どこに慎みがあるのかしら?ああごめんなさい、そうだったわね。トリステインでは胸の大きさで慎み深さを示すのだったわね。さすがはヴァリエール公爵家のご令嬢、ずいぶんと慎み深いサイズですことね。……プッ」

 

「笑った!笑ったわね!こ、こ、こ、この、この、この……表出ろおおおおお!!!」

 

「おい、前二人ともう少し距離開けて行こーぜ。知り合いだと思われたくないんだけど」

 

 俺達五人は今中庭へと向かっている。ルイズとキュルケの二人は昔から仲は良くなかったのだけど、サイト君という新しいいざこざの原因ができたことでいっそういがみ合っているっぽい。まあ、興味ないしどうでもいいっちゃいいんだが。

 そんなわけでもうそこの角を曲がれば中庭という所で前を歩いていた二人が立ち止まった。そして恐る恐ると言った様子で、角から首を出して中庭を覗き込んだ二人の動きが止まった。理由はなんとなく推測することができる。二人が見ている中庭の方からなにやら重く鈍い音が聞こえるのだ。こんな夜遅い時間だというのにもかかわらずに、だ。いったい何が起こっているのか気になった俺達は、二人と同じように角から顔を出してそちらを覗いてみた。

 ……そこで繰り広げられていたのは壁をひたすら殴る巨大なゴーレム、というなんともコメントに困る光景だった。まさかボクシングの練習に励んでいるってわけでもあるまいし、あそこの壁をぶち破ろうとしているのだろう。それにしてはもっと目立たないような方法があったと思うが。

 

「……なによ、あれ?」

 

「さあ、少なくとも俺の知り合いにあんなサイズの奴はいないな」

 

「もう面倒だから、真面目な話題の時はアシル黙ってなさい」

 

「おそらく土くれのフーケ」

 

「で、誰だよそれ」

 

「確か最近話題になってる賊だったはずだ。でかいゴーレムで貴族から盗みを働くって聞いた。なあ、真面目に返事するぶんにはしゃべったっていいだろ、ルイズ……おい、あのピンク髪いねーんだけど……」

 

 中庭で起きている出来事を見た後、角に隠れてみんなで話し合っていたが気づくとルイズがいなくなっていた。そしてその直後に何故か爆発音が背中を叩く。まさかとは思いながらも、おそるおそるそちらの方を振り返ってみると、そこにいたのはゴーレムに向けて杖を向けているルイズ。しかもわざとなのか偶然なのか知らないが、さっきの爆発、ルイズの失敗魔法によって先ほどまでゴーレムが殴っていた壁の部分には大きな穴が開いている。さらに運が悪いというか当たり前のことだが、ゴーレムの方の上に立っていた人物がこちらの方を向いている。深くかぶったローブのせいで顔どころか体型や性別すらわからないが、おそらくあいつがゴーレムを操っているフーケだろう。

 目撃者を消すためか、壁へと振り上げていた拳を下ろすと、そいつは一番近くにいたルイズへとゴーレムを動かし始めた。

 

(ヤバイ!!)

 

 あんな二十メートルはあるんじゃないかっていうゴーレムに潰されたら怪我じゃすまない。だというのにも関わらず、腰でも抜かしてしまっているのかルイズは動こうともしていない。それを見て俺はルイズの方に走り出した。さすがに目の前でスプラッターというのは寝覚めが悪い。

 

「早く逃げ……」

 

「なにしてんだ!!ルイズ!!」

 

 俺がルイズの所にたどり着くよりも早く、ガンダールヴの力を発動させたんだろう、すごいスピードのサイト君が俺を抜いてルイズの所に行き、ルイズを掴むとゴーレムから遠ざけていった。なんだか頑張って走り出した自分が少し滑稽ではあるが、これでルイズの安全は確保された訳だ。まあ、良かった良かった。

 ……あれ?でも、ゴーレムに一番近かったルイズを助けるために近づいた後、そのルイズがサイト君に助けられいなくなったということは

 

「……げっ!!」

 

 俺が一番危ないってことじゃねーか!

 いや、ゴーレムの動きは大して速くないので油断さえしなければそれほど恐ろしい相手ではないか。 俺は距離を取るため即座にゴーレムとは逆方向へと、走る。そしていつ呼び寄せたのか、タバサの使い魔であるウィンドドラゴンにを回収してもらい、安全な空に逃げた。

 それからは特に特筆するようなことは何もなかった。ルイズが貴族として賊を捕まえるために全力を尽くすべきだと言いだしたが、相手は百戦錬磨の盗賊だ。そんなの相手に学生メイジでは、いくら多数対一でもとっ捕まえるのは難しいとなだめ、なんとか納得してもらった。

 いくらなんでもルイズの意見は猪突猛進すぎるようにも感じたが、思えば魔法が失敗ばかりのルイズは人一倍貴族らしさという物にこだわっているし、今まで他の貴族にバカにされていたぶん、自分を認めさせたい、といった顕示欲などが強いのだろう。フーケが有名な賊だと聞いて後先考えず攻撃をしたのも、そのあたりがからきているのだと思えば一概にどうこう言う気にはなれない。まあ、そういうのは誰にもあるものだし、誰が怪我をしたというわけでもないから、少なくとも俺は責めるつもりはないのは確かだ。

 その後、こちらをどうにかするのが無理らしいことに気付いたフーケらしき人物は、開いた穴から中に入っていくと、しばらくして何かを持って出てきた。それを持ったまま、またゴーレムの肩に戻るとそのまま魔法学院の外へと向かっていく。そしてそのまましばらく歩みを進めると、突然崩れ落ちてしまった。上空でそれを見ていた俺達は、もう危険は無いらしきことを確認した後、降下して残った土くれを調べてみたがもうそこには何も、誰もいなかった。

 つまり目の前で見ていたにも関わらず、俺達は何もできなかったというわけだ。……5対1という圧倒的に有利だったのにも関わらず、俺達はただフーケが盗みを働くのを見ていることしかできなかったと……。

 

 

 

 

 

 まあぶっちゃけ、盗まれたのは俺の物じゃないので恐ろしくどうでもよかったのだけれども。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いった……責……とるの……」

 

「賊ごときが……貴族……しおって……」

 

「……あま……いじめ……」

 

 ドスッ!!

 

「痛ったあ!!」

 

 隣にいたルイズに足を踏まれて目が覚めた。どうやら眠っていたらしい。真面目に今回の事件について話し合っていた所を邪魔してしまったからであろう、先生方の俺を見る視線が痛い。

 あれから俺達はすぐさま衛兵を呼び、何が起きたかを説明した。そして、彼らが壊された壁の向こう側(宝物庫だったらしい)を調べてみた所、フーケが書き残した文字を発見。今回の犯人はメイジであることが確定したので、そこで先生達を起こしそれからずっとこうやって話し合っている。つまり、俺達は徹夜なわけだ。寝てもしょうがないと思う。

 

「あのね、こんな大変な時に寝てるんじゃないわよ。しかも立ったままなんて変に器用よね、あんたって」

 

「しょうがないだろ、俺は医者に一日12時間は眠るように言われてるんだ。もっといたわってくれ」

 

「……アシルどっか悪かったっけ?聞いたことないんだけど」

 

「嘘にきまってんだろ。ところで今、話はどんな感じ?確か寝る前は責任のなすり付けしてた気がするけど」

 

「なるほど、具合が悪いのは頭と性格なのね。ああ、話ならついさっきまでその話題だったわ。そこに学院長が来てセクハラした結果、先生全員に責任があるという所に落ち着いたみたい」

 

「……まさかセクハラにそんな無限の可能性があったとは……」

 

 俺達がそんなことを話していると一人の女性が現れた。眼鏡をかけた青髪の理知的な女性、俺の記憶がたしかならオスマン学院長の秘書のロングビルさんだったはずだ。

 けど今頃来るというのはいくらなんでも職務怠慢なような……。オスマン学院長もそう思ったのか、ミス・ロングビルに話しかけた。

 

「どこ行っとったんじゃ、ミス・ロングビル。大変なことになっとるんだが」

 

「存じていますわ、オールド・オスマン。朝方に、フーケが現れたと聞いたので独自に調査をしておりましたの」

 

「そうじゃったのか、いつものことながら優秀じゃの。で、何かわかったことは?」

 

「ええ、フーケの居所が判明しましたわ」

 

 それを聞いて 場がザワっと揺れる。手際が良いっていってもこの早さは異常だからか、ほとんど全員が驚いている。

 

「そ、それは本当ですか!?いったいどこなのですか!?」

 

「近くの農民に聞き込みをしたところ、黒いローブの男が森の中の廃屋に入っていく所を見たと。おそらくそれがフーケではないかと思うのですが」

 

「た、確かに。黒いローブというのはミス・ヴァリエール達の証言とも一致します。おそらくそれがフーケで間違いないでしょうな」

 

 コルベール先生が驚いたように質問すると、はきはきとした返事が返ってきた。それを聞いてオスマン学院長が続けて聞いた。

 

「そこは近いのかね?」

 

「いえ、徒歩で半日、馬でも四時間はかかるかと」

 

 その答えを聞いた学院長はみんなの方を向き言った。

 

「そうか……。諸君、知っての通りこのたび魔法学院の宝がフーケによって盗まれた。これだけの数の貴族がいて、たかが賊一人ごときのために国に頼るというのも情けない。ここは、我等でフーケをとらえ貴族の誇りを見せつけてやろうではないか!」

 

 その言葉に、先生方から拍手が起こる。それを聞いた学院長は誇らしげにこう続けた。

 

「では、捜索隊を結成する。我こそは、と思う者は、杖を掲げよ!」

 

 その言葉に、先生方は誰も杖を掲げない。このさっきの拍手からのコントのような流れには、一種の美しささえ感じる。

 まあ、ロングビルさんの話からおおまかな裏は見えてきているし、ここは俺が立候補しよう。

 俺はすっと杖をあげた。学院長がそれに気づいた。

 

「ミスタ・セシル。おぬしは生徒ではないか。というか君さっき寝とらんかった?どうしたんじゃ、急にやる気出して」

 

「ははは、ご冗談を学院長。私も貴族の誇りを踏みにじっているかのような盗賊には心を痛めておりまして、微力ながら力を尽くしたいと思っていた次第なのです」

 

 俺がそう言った後、隣にいたルイズも杖をあげた。コルベール先生が彼女を思い直させようと話しかける。

 

「ミス・ヴァリエール!君はまだ生徒じゃないか!ここは教師に任せなさい!」

 

「先生方は誰も掲げないじゃないですか。それに嘘くさくて心がこもってないとはいえ、アシルがあそこまで言ったのにもかかわらず、見ているだけなのど私の貴族としての誇りが許しません」

 

 枕詞みたいに俺への罵倒を挟まないでほしいけどな。まあそれはおいておいて、ルイズが捜索隊に参加するのを聞いて、ライバルであるキュルケ、そしてその友達であるタバサ、軽く強制的に使い魔であるサイト君。後、フーケの居場所を見つけたロングビルさんが案内役と御者としてついてくることになった。

 

 

 実を言うと俺は行った先にフーケが居るとは思っていない。何故ならロングビルさんは、フーケは馬で四時間行った先に居る、と言っていた。これはおかしいからだ。

 ロングビルさんが言った事が本当なら、朝ここを出て馬で四時間行ったさきで聞き込みをして、また四時間かけて戻って来たのにまだ朝だったということになる。これはおかしい。つまり彼女の話は全くの嘘だった、ということになる。

 俺の考えではおそらく、ロングビルさんは何も見なかったのだろう。そして先生方が責任をなすり付け合っているのを見て、その矛先が自分に来るのを恐れた彼女は、フーケの居場所を見つけた、という功績を作ることでその矛先をそらそうとした。たぶん、彼女が案内した先に行けば廃屋はあるが、それだけで何の手がかりも残っていないと思う。フーケは有名な盗賊だ。手がかりが残っていないことは不思議でもなんでもない。つまり、廃屋の場所さえ知っていればそれだけで何の準備も必要とせずに、フーケの隠れ家をでっちあげられる、ってことだ。

 つまり、話にのったふりをして捜索隊に参加すれば片道四時間のピクニックをするだけで、フーケを恐れずに勇敢にも貴族の誇りを貫き通したってな評判が手に入る。……と、まあ俺はそんな考えで俺は参加することにしたのである。

 そんな推理から安全であることがわかりきっている俺は、安心しきって馬車に乗り込んだ。

 


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