それなりに楽しい脇役としての人生   作:yuki01

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アイマスのライブのチケット予約しました。抽選に通るといいんですけど。
あとしばらく先のことになりますが、9月と11月は冗談抜きに忙しいので、投稿は難しくなると思います。
ちなみに次話から戦争編です。


三十七話  戦争前の一時

 空を見上げれば青い空、白い雲、輝く日差し。見ているだけで胸が空いてくる。

 ここしばらくの間、俺の中での懸案事項であったオルレアン夫人の件がやっとひと段落ついた。それによって晴れ晴れとしている俺の気分を表しているような空模様だ。まあ青天というには少々雲が出てはいるが、それもまあ戦争に行かなければならない俺の悩みを表していると考えれば、しっくりくるものがある。

 俺は痛む頭を押さえ、吐き気と闘いながらそんなポエミックなことを思う。完全に二日酔いだ。

 昨日眠れなくて結構な量のワインを飲んだのもあるが、オルレアン夫人の快気祝いとかでテンションの上がったキュルケに飲まされたのがでかいな。

 

「何か悩んでいるようだけど大丈夫?」

 

 頭を押さえながら苦しそうな顔をしていたからか、タバサにそう声をかけられる。

 

「……ありがとさん。でも大丈夫、問題ない。二日酔いでつらいってだけだよ」

 

「……そう」

 

 心配してくれたタバサに、軽く手を振りながらそう言って返す。

 もちろん悩みはある。ジョゼフのこと、戦争のこと、そして生まれ持っているもの。気を使ってわざわざ尋ねてくれたのだから、別に話したっていいだろう。いや、むしろ話したほうがいいのかもしれない。

 でも、嫌だ。

 キュルケもタバサも今回のことで俺を評価してくれているだろう。特にタバサの中では驚くような高評価なはずだ。それなのに俺が悩みを相談なんてしたら、多少なりともそれが崩れてしまう。

 いや、もちろん本人はそんなこと、思いもしないだろう。いつだか言っていたように、自分を頼って悩みを打ち明けてくれたことを喜ぶかもしれない。ただ無意識下で、俺の評価は下がるだろう。

 もちろんこれは俺の予測、それどころか被害妄想みたいなものだ。実際にはそうはならない可能性の方が高い。

 でも、そんなことは正直どうでもいい。ただ、俺がタバサ達の中での俺の評価が下がるだろうな、と思っている。俺にとってはそれが全てだ。

 

「男の癖に情けないわね。あれっぽっちのワインで、そんなになるなんて」

 

「逆になんでお前はそんなに元気なのよ? 俺より飲んでたはずだけど」

 

「ツエルプストーの女にとって、あれくらいの量は飲んだには入らないのよ」

 

「ざるかよ。やっぱゲルマニアンて怖いわ」

 

 俺は自分の事を大切に思っている。だが、好きなわけではない。だからこそ別に誰かに蔑まれたり、見下されたりしたところで、特に何も思いはしない。そりゃあ多少は不快に思ったりはするが、それだけだ。

 でもここ最近、タバサにある種の敬意のようなものを持って接されている。アラベルからも、わかりづらいとはいえ、似たような感情を向けられている。

 自己評価が低いぶん、一度他人から高評価だの好感情だのを向けられると、それがなくなってしまうのが怖くなる。まったく我ながら損な性分だ。

 『くだらない冗談が多いせいで明け透けに見えるが、それで誤魔化されて結局どういった内面をしているのかよくわからない』

 惚れ薬の一件で多少親しくなったモンモランシーに、しばらく前に言われた俺に対しての人物評だ。こう言われるのも、俺のこの性分のせいだろう。

 それにしても彼女は良いところのボンボンに見えて、案外人を見る目があるのか、痛いところをついてくる。ちなみにこの後、『だから私、あんまりあなたのこと好きじゃないのよね』と、続く。どうやら彼女はわかりやすい男が好みのようだ。まあギーシュ見りゃわかるか。

 

 

 

「ところで二人は戦争どうすんの?」

 

 話題を転換させるためにも、俺は気になっていたことを二人に尋ねる。

 その質問にタバサとキュルケは軽く顔を見合わせると、返事をした。

 

「一応ゲルマニアの軍に志願するつもりではあるけどね。でも女だから、って理由で断られる可能性が高いわ。まったく、いやになっちゃう」

 

 ふん、と鼻を鳴らす少々不機嫌気なキュルケ。自分の能力に自身を持っているキュルケには、女だから、といった偏見のようなもので自分が判断されるのが気に入らないのだろう。

 

「あなたが参加しろというならば私も従軍を考えるが、おそらく国籍を理由に拒否される可能性が高い」

 

 自分の意見という物をアーハンブラ城にでも落っことしてきたのか、相変わらずな考えをタバサが話す。

 

「そりゃタバサがいれば心強いが、トリステイン軍に、っていうのはまあ常識的に考えても無理だろうな。当たり前だけどキュルケも無理だろうし」

 

 自分の意見を却下されたタバサは落ち込む様子も見せず、何やら考え始めた。

 俺の考えを聞き、どこか呆れた様子でキュルケが言葉を返す。

 

「それはそうでしょう。軍に他国の人間を入れてどうするのよ。自国の人間以外に頼むくらい人が足りないのなら、傭兵にでも依頼すると思うわよ」

 

「そらそーだろうな」

 

 すると二人とも実家に戻るか、学院で過ごすかするということか。トリスタイン人の男子学生はほとんどが従軍するだろうし、そうすると学院も寂しくなるな。それにあまりに人が減れば授業なども取りやめになるだろうが、二人はどうするんだろう。人が少ない上に授業もない学院で過ごすとか、さすがに暇だと思うのだが。キュルケもタバサも同性の友人が多いようには見えないし。

 

「あなたはやっぱり従軍するわけ?」

 

「たぶん。まあ本決まりは学院帰ってからになるがな。一応学院内で従軍してる人が過半数を切っているようだったら止めとくけど……まあ、ないだろ」

 

「ないでしょうね」

 

「おそらくない」

 

 それぞれがばらばらな性格をしている俺たちの意見が珍しく一致する。つまりはそんなことは間違いなくありえない、ということだ。嫌な一致だな。

 会話が途絶える。

 いい機会だ。俺は自分よりも戦闘慣れしているであろう二人に気になっていたことを聞いてみることにした。

 

「……ぶっちゃけレコンキスタ相手にドンパチやって、勝てると思うか?」

 

「勝てることは勝てるでしょうね。たかが一反乱軍と、ゲルマニアとトリステインの連合軍よ? 兵の練度も純粋な戦力もこちらの方が上。戦争は水物だから絶対とは言えないけど、余程のことがなければ大丈夫よ」

 

「ただ、勝てることと被害が出ないことは一緒ではない。死んでしまう可能性、不具になる可能性がある以上……私としてはあなたに従軍して欲しくはない」

 

 考え事を続けているのか、どこか思案する様子を見せながらタバサがそう続けた。それを聞き、俺は乾いた笑いを向ける。

 

「気持ちはうれしいけど、そういう訳にもいかないんだよな。本音を言えば俺だって、戦争なんて心底行きたかないさ。でも回りの人がほとんど皆参戦しているのに、俺だけ行かないってのはウチの……」

 

「家名に傷がつく?」

 

 言いたかったことを先にキュルケに言われてしまった。言おうとしてることがそんなに簡単に推測できるほど、俺はわかりやすいのだろうか。

 頬をぽりぽりと掻きながらキュルケの言葉に同意する。

 

「ああ、まあな」

 

「まあ頑張んなさいな。無傷とは言わないけど、五体満足で帰ってきなさいよ」

 

「……そこは無事に帰ってこい、でいいだろ。現実的な目標立てんなよ、なんか一気に現実感が出て怖くなってきたわ」

 

「夢見心地で戦場に行くよりいいでしょう?」

 

 上手く言い返され、負けたような気分になった俺はなんとなく頭を掻きながら口をつぐむ。

 

「少しいい?」

 

「ん、ああ。何?」

 

 考え事が済んだのか、タバサに服の裾を引かれた。俺は顔をそちらに向ける。何かいい考えでも浮かんだのだろうか。

 

「さっきから考えていたのだけど、やはり参戦するのは危ないと思う。しかしあなたを守ろうにも、私が従軍するのはおそらく不可能」

 

「そうだな。ついさっきそういう結論が出たばっかりだな」

 

「ならば私は、通りすがりという体でこっそりと着いていき、陰からあなたを保護するという形に……」

 

「……あのな、外国人を従軍させない軍隊が通りすがりを採用するわけないだろ」

 

「そうではなく、軍の人誰にもばれないようにこっそりと保護を……」

 

「……小国だの弱国だの言われてるが、いくらウチの国の軍隊でもそれに気づかないほどじゃないぞ」

 

「では……」

 

 この子何言ってんだろ。冷静なタバサらしくもない。

 しかし考えはまだあるのか、タバサは諦めようとしない。正直この調子では次の意見にも期待はできないんだが。いや、タバサもこの年で数々の修羅場を潜ってきた優秀なメイジだ。一聞の価値はあるだろう。

 

「フェイス・チェンジで私があなたに成りすまして従軍するという方法で……」

 

「よーし、タバサちゃんはしばらくお口チャックしてようか」

 

シー、と口の前で指を立てる。戦争は1時間、2時間で終わる物でもないのだから、そんなその場ごまかしみたいなやり方ではとても乗り切れないだろう。

 ハア、と俺はため息を一つついた。

 アラベルといいタバサといい、俺の周りのクールキャラはどうしてこう、少しずれたのばかりなんだ。 

 

「真面目な話しばらくは会えなくなるわけだけど、元気でな。言うの早いかもしれんが」

 

「まあ学院に戻ってからで良かったでしょうね。それに、正直言って特に心配はしてないわ。なんだかんだで別に大きなけがもせず、無事に戻ってくる気がするし」

 

「何か問題が起きた際には遠慮なく呼んで欲しい。すぐに駆けつける」

 

「ああ。せいぜい大怪我しないように気をつけるよ。タバサもありがとうな。何かあったら頼らせてもらうよ」

 

 そう言って俺は軽く笑う。

 見上げれば、胸が空くような青い空が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

「と、いう訳でしばらく僕いなくなります」

 

 俺はテーブルを挟んで対面に座るアラベルへとそう告げる。

 学院に到着し、自室に戻ってきた俺は、今後の細々としたことを伝えるためにアラベルを部屋に呼びだした。さすがにこれくらいのことは言っておくべきだろう。

 それを聞いたアラベルは驚いたのか、少し目を見開いた。

 

「……別に行かなくてはならない訳ではないのですよね? ならやめといたほうがいいのでは? 戦場は危ないですよ?」

 

「知ってるよ。そら俺だって行きたくはないけどさ、皆が行ってるのに行かないわけにもいかんのよ」

 

「いかんのよ、って……。戦場とは戦争をする場所ですよ。殺し合いです! 行かなくて済むのならば、できる限り行かないようにすべきだと思います!」

 

 俺の返答に真剣さが足りなかったのか、彼女にしては珍しいことにわずかに声を張り上げた。感情が滲み出しでもしたかのようだ。

 

「……ウチは大した家じゃないけど、それでも最低限守らなきゃいけない体面、ってものがあるんだ。危ないから、怖いから嫌です、って訳にはいかんよ。貴族も貴族で面倒くさいんだ」

 

「で、でも戦争ですよ。貴族様である以上、ある程度は重要な地位に就くでしょうから危険もそれほどではないかもしれませんが、それでも……」

 

「あのな」

 

 俺はため息を一つ付き、アラベルの会話を遮った。そして彼女へと掌を向けるように手を差し出すと、それを軽く振りながら話を続ける。

 

「俺は行くか行かないかを相談しているわけじゃないんだ。行くことになったのを報告しているだけなんだよ。悪いけど、何言われようと結論は変わらないぞ」

 

「……そうですか」

 

「ああ。悪いな」

 

「いえ……こちらこそ差し出がましい事を言ってすいません」

 

「いや、いいよ」

 

「……」

 

「……」

 

 部屋に気まずい沈黙が下りる。

 

「……帰ってはくるんですよね?」

 

「……ハハッ」

 

 おずおずと尋ねられた言葉に、俺はつい笑ってしまった。 

 

「勝手に死ぬことにしないでくれよ」

 

「あ、すいません。そんなつもりでは……」

 

「別に何も起こらないよ」

 

 落ち着かせるように、意図的に抑えた、穏やかな声で言う。

 

「行って、しばらくしたら帰ってくるってだけだ。パッと見わかるような怪我はしないし、ましてや死ぬなんてことは絶対にない。約束したっていい」

 

 そして笑うと小指を立て、普段通りの軽い声色で続ける。

 

「なんなら指切りでもしてやろうか? それなら安心できるだろ」

 

「……フフ、いえ、いいです。そうですね、アシル様なら無事に帰ってきますよね」

 

「ああ。いざとなったら味方を盾にしてでも生き延びるさ」

 

 サクリファイス・エスケ-プが効果的であることは某決闘漫画が証明しているからな、恥や外聞を気にせずにそうすれば、生き延びることくらいはできるだろう。

 まあ今回の戦争でそんな状況になることは考えにくいから、そんな最低な行為をするハメにはならないだろう。

 落ち着いたのか、アラベルの顔から緊張が抜ける。

 俺は椅子から立ち上がり棚を開けると、中からティーセットを二つ取りだす。そして自分がやると立ちかけるアラベルを押しとどめると、紅茶の準備をし始めた。

 

 

 

「あ、もうこんな時間……すいません、私仕事があるのでそろそろ行かなくては」

 

「ああ、そうなのか。引き止めて悪かったな」

 

 しばらくお茶を飲みながら歓談していたが、想ったよりも時間が経ってしまっていた。仕事のために、そう言ってアラベルが椅子から立ち上がる。そして一、二歩ドアの方へと歩いたところで、くるりと振り返った。

 

「あ、今更ですけどやっぱり指切りしていただいてもいいですか?」

 

「え」

 

 急にそう言われ、俺は拍子抜けしたような声を上げてしまう。

 

「いえ、いい機会かな、と思いまして」

 

「……自分で言っといてなんだけど、恥ずかしいから勘弁して欲しいんですが」

 

「いいじゃないですか。ほら、小指出してください」

 

「……しょうがないな、ホレ」

 

 別にこれくらいいいか。

 お互いに小指を出し、軽く組ませる。そして顔を見合わせた。

 よく考えたら、指切りを実際にするのはこれが初めてだな。

 

「……案外小っ恥ずかしいな、これ」

 

「でも、私は楽しいですよ」

 

 そう言って、彼女にしては珍しいことに笑顔を見せる。

 

 

 

 

「では、約束してください」

 

 真剣な声でアラベルは続ける。

 

「戦場では様々な困難があると思いますが、どうか無事で帰ってきてください」

 

「そしてできれば心も体も、何も変わらずに帰ってきてくださることを祈っています」

 

「ああ、わかった。約束する」

 

 そして俺は安心させるために笑って、言った。

 

「大丈夫」

 

「怪我一つせずに、とはいかなくとも無事帰ってくるさ」

 

「安心しろって」

 

「何があっても、どんな目にあっても」

 

「俺は何も変わらないさ」




指切りは欧米にはない文化なのですが、そこらへんは見逃してください。
あと今までは
「」←Aのセリフ
「」←Bのセリフ
というふうに括弧ごとにその台詞をしゃべっているキャラクターが変わっていたのですが、
今回
「」←Aのセリフ
「」←Aのセリフ
というように同じキャラクターが間に地の分などを挟まずに連続してしゃべっていても、括弧を分ける、という書き方をしてみました。この方が雰囲気が出るかな、と思ってです。
 これが上手くいっているのか気になるので、この書き方はわかりづらい、特に意味がないように思う、前の書き方の方がいい、いやこの方がいい、など言ってくださるとうれしいです。

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