あと運よくチケットを購入できて、アイドルマスターのライブに行くこともできそうで、今から二月が楽しみです。
今回久々に小説を書いたので、以前よりも表現や文章の繋がりが変な部分が多々あると思います。なので少し厳しめでもいいので、気になったところは言って頂けるとありがたいです。
「ふーん……これがねえ……」
「言っとくけど飲むなよ。予備ないんだから」
「いくらなんでも飲まないわよ。酔った拍子に麻痺薬飲んじゃったあなたと一緒にしないでちょうだい」
「ああ、あれか。正直言って、あのときばかりは本当死ぬかと思ったわ」
手に持った薬瓶を日にかざすように眺めながらそう言うキュルケ。一通り眺めて満足したのか、こちらに差し出した薬瓶を受け取り、鞄へとしまいながら俺はそう返事をした。
あれからキュルケと合流した俺たちは、ツェルプストー領へ向けてシルフィードで飛び立った。
キュルケが薬瓶を眺めている理由だが、アラベルから薬が完成したことを聞いたのだろう、シルフィードが飛び立ってから幾ばくもせずに、キュルケが完成した薬を見せて欲しい、と言い出したからだ。別段断るようなことでもないので、鞄から取り出したそれらを手渡し、今に至っている。
「その話は初めて聞いた」
黙って本を読んでいたタバサが、顔を上げて会話へと混ざってくる。珍しいな、いつものタバサならこちらから話しかけでもしない限り、話しかけてきたりはあまりしないのに。読書中ならなおさらだ。やはり母親が治るかも、ということで柄にもなく不安になっていたりするのだろうか。
まあ出発する際に、自分の本と間違えて俺の『メイドの午後 秘密の逢瀬編』を持って来てしまっていることから、間違いなく気もそぞろになっていることだけはわかるんだが。
ちなみにさっきそれに気づいてから、俺も軽くパニくり中である。
「あら、話してなかったかしら。まあいいわ。ついこの間の事よ。ちょうどあなたが、ほら、アシルから薬を受け取って実家に帰ってた時なんだけどね……」
嬉々として俺の醜態を話し始めたキュルケに対して、タバサは本を閉じて自分の横に置いて話を聞く体勢になった。とりあえずキュルケに何を読んでいたのかばれないように、本を置くなら置くで裏表紙を上にして置いて欲しい。
「……」
楽しげに話す二人を尻目に、俺は空へと目を向ける。
青い空、白い雲、まぶしい日差し。これから人一人の命を、人生を大きく変えようとしているのにも関わらず、目に映る光景は今まで過ごしてきた毎日と何ひとつ変わっていない。
別に何か意図があった訳じゃない。キュルケに影響でもされたのか、鞄から薬瓶を一つ取り出すと、先ほどのキュルケのようにそれを日にかざした。
エメラルドを溶かし込んだような鮮やかな緑色の液体の中で、光の欠片がキラキラと瞬いている。自分で作っておいてなんだが綺麗なもんだ。
薬瓶を元の場所へと戻すと、重さを確かめるように右手で軽く鞄を持ち上げる。薬瓶が三つに、細々とした物が入っているだけのそれは、心地よいくらいの重さしか感じさせない。筋力なんて言葉とは無縁であるひょろい俺でさえ、片手で軽々と持ち上げられるほどだ。この程度の重さしかない物に人の心をねじ曲げてしまう程の力があるというのだから、つくづく魔法とは恐ろしい。
「つっ・・・」
風に吹かれて目に入った髪の毛を払いのける。
ありがたいことだが、俺は人の死に目に立ち会ったり、誰か大事な人が亡くなったり、なんて出来事とは無縁な人生を送ってきた。ウェールズ王子の死体こそ見たことあるが、あれはそれこそ眠っているかのようで、死なんてものは微塵も感じさせなかった。だからだろう、俺にとって命の重さなんてものは道徳の教科書で見る言葉であり、倫理観の延長線で感じるものだった。
そんな俺が今こんな、人の命に関わるようなことになっている。
それによるものか、のどに小骨が刺さったかのような小さな異物感を胸中に抱きながら空を見上げていると、手に違和感を感じた。
「……?」
気付けば鞄を持ち上げていた手が軽く震えている。震えるほど寒いわけではないし、俺の筋肉はこれしきのことで痙攣するほどやわだってことだろうか。もしくはエルフを倒した経験値でレベルアップでもして、邪気眼が目覚めたのかもしれん。
鞄をそっと置いて手を離すと、何度か手を握ったり開いたりしてみる。特に痛みはないし、疲れも感じない。震えもすでに止まっていた。
……気のせいか?
右手を見つめながら首をかしげていると、クイクイと服を引っ張られるのを感じた。
「どうかした?」
見ればタバサが服の裾を引っ張っている。
「いや……別になんもないよ。最近暑かったから、風が気持ちいいなってだけだ。タバサこそどうかしたのか?」
もう一度右手にちらりと目をやるが、やはり何の異常もない。まあ、気にするほどのことでもないだろう。
俺はそのことを頭の隅へと追いやると、タバサへと向き直った。
「いや、私は特に何もない。なんだかあなたが変な表情をしていたから声をかけただけ」
「ふーん」
口の周りに手をやると、さするように顔を確かめる。そんなに変な顔でもしていた自覚はなかったけどな。ただ見慣れない表情をしていたってだけだろう。まさか元々の顔の造型が変だっていうわけでもないだろうし。……ないよな?
「ただ、」
「あん?」
タバサはそう言葉を区切ると、自分の後ろの方へと顔を向けた。それを追うように俺もそちらに視線を動かす。
別段変わったところは無い。しいて言うなら、本を片手ににやにやと笑っているキュルケがいるくらいだ。
「呼んでる」
「……oh」
……そうなるだろうとは思っていたけどさ。
ツェルプストー家についた俺たちは、休憩もそこそこにタバサのお袋さんが居る部屋へと向かう。
それにしてもすごい家だ。部屋への廊下には絵画や彫刻といった芸術品が並んでいる。こんな造作もなく置かれている品々だが、おそらく一つ一つがバカ高い物であるのは間違いないだろう。芸術に関しての感性なんてものの持ち合わせがない俺だが、それくらいのことはわかる。ただ成金趣味というか、全体的な雰囲気や調和を気にせずに、とにかく高価な物を買いあさったせいだろう、あまり居心地のいい空間ではない。
「あいかわらずでかい家だな」
「それにしても安心したわ。あなたもちゃんとああいうのに興味があったのね。ほらあなたって、何か冷静っていうか、妙に枯れてる感じがあったから。これでも私、心配してたのよ?」
……うっとうしい。
「タバサのお袋さんがいるのは、確かそこの部屋だったよな?」
「それで、あなたってああいう儚げな子が好みなの? あ、それとも権力で無理やり……とか、加虐的なのに憧れてたりするわけ?」
しつこい。
「……なんでだか知らんけど、最近は落ち着いてるらしいから問題はないと思うけど、もし暴れだしたら二人とも頼むわ」
「で、これは個人的な興味なんだけど、無口で儚げな感じの子と権力でどうこうできそうなメイドとかの子だったらどっちが……」
「ローキック!」
「いたっ!」
ちょうど部屋の前へと着いたところで、キュルケの脛へと軽く蹴りを入れる。反射運動か、蹴られた拍子にぴょんと飛び跳ねたキュルケを見ながら、頭をがりがりと掻くとため息を一つついた。人がスルーしているっていうのに、いい加減にめんどくさい。
けれども少しばかり妙な気もする。キュルケは結構察しが良いはずだから、今回みたいなときにはしゃぐような奴だとは思えないんだが。大したことではないだろうが、そんな小さな疑問が湧き上がる。
まあ誰にだって理由も無いのに、変にテンションが上がってしまう日くらいあるだろう。つーか正味な話どうでもいい。
俺は蹴られたことに対するキュルケからの文句を聞き流しながら、その小さな疑問を飲み込むと、部屋の扉に手をかけた。
部屋の中は静寂に満ち満ちていた。衣擦れの音どころか、呼吸音でさえも聞こえてしまうような空間の中に、タバサの母親、オルレアン夫人は居た。
「……」
何かの拍子に暴れた時のためだろう、家具などは最低限の物しか無く、一見して人が過ごしている部屋のようには見えない。だがこの部屋の雰囲気は家具の少なさによるものではない。
数少ない家具であるベッドの上で体を起こしているオルレアン夫人。以前会った時は、怒鳴り声をあげたかと思えば泣きわめいたりと、情緒不安定だったとはいえそのストレートに感情をぶつけてくる様はある種、人間らしいものではあった。だが、今目の前にいる彼女からは、そんな人間らしさを欠片たりとも感じ取ることはできない。
ドアを開けて入ってきたこちらに対して一瞥もくれることなく、そのガラス球のような瞳を前の壁へと向け続けている様は、その白い肌と合わさってまるで出来の良い人形のようだ。わずかに生活臭を放っているベッドサイドに置かれたいくつかの本が、逆に違和感を感じさせる。
まるでガラス越しにドールハウスを見ているみたいだ。
俺の頭の中に浮かんだのはそんな陳腐な言い回しだった。しかし目の前の光景に対して、その表現は自分でも驚くほどしっくりと当てはまる。
この空気に呑まれたのか、誰も口を開こうとしない。口どころか、体を動かすことそのものが罪にでもなったのかのような雰囲気だ。とはいえ、いつまでもこうしているわけにもいかない。
俺は足を引きずるようにしてベッドに近づくと、そのそばに置いてあった椅子へと腰掛ける。そして鞄を床に置こうとしたところ、横から伸びた手がそれを受け取った。
「私が持っている。まずは何をすればいい?」
「……悪いな、ありがとう」
嫌な言い方になるが、こういった雰囲気の人間に慣れてでもいるのか普段と変わらない様子のタバサにそう問いかけられる。そちらに目をやれば、口こそ閉じたままだがキュルケの様子も普段通りのように見える。まあなんだかんだ言って気丈な女性であることは間違いないから、普段通りであることに対して特に思うことは無いが……そうするとやはりさっきまでの妙な感じは、なんだったんだろうな?
「それで、私はどうすればいい?」
「あ、ああ、悪い。つっても以前にも言った通り、特にやってほしいことはないんだよな。とりあえずそのまま鞄持っててくれ」
タバサの声に考え事をやめると、意識を目の前へと移し、気を引き締める。薬を飲ませるだけとはいえ、上の空でやるのは褒められたことじゃないだろう。
作ってきた三つの薬を鞄の中から取り出すと、タバサに鞄を床に置くように言う。そして精神を落ち着かせるための薬瓶以外の二つを、両手が空になったタバサへと渡した。
後はこれらを飲ませるだけだ。幸いにもオルレアン夫人の様子は落ち着いているし、思っていたよりも楽に用が済みそうだ。さっさと終わらせて、とっとと学院に戻ることにしよう。
薬を飲ませるため、壜の蓋に手をかける。そして……さすがにこぼさないように注意はしているとはいえ、人の命がかかっている薬の蓋を、まるで酒瓶か何かのような気楽さで開けた。
蓋の内側についていた雫が一滴、手の甲へとかかる。その冷たさが自分の頭の中にまで伝わったのか、自分の中で何かが切り替わったような気がした。
そしてようやく今になって、ここに来る際にシルフィードの上で感じた異物感の正体に気付く。
……そしてきっとたぶん、腕が震えた理由についてにも。
できれば来年もよろしくお願いします。
よいお年を。