帝国貴族はイージーな転生先と思ったか?   作:鉄鋼怪人

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第三話 特大のフラグは大体近くにあったりする

 さて、諸君一つ説明しよう。それは自由惑星同盟における亡命者達についてだ。

 

同盟において亡命者は大きく3つの派閥に分かれている。それぞれを共和派、鎖国派、帰還派と呼ぶ。

 

 まず最初の共和派、この派閥は主に帝国国内の元インテリや中流階層、共和主義者とその子孫である。方針として主戦派。暴虐なゴールデンバウム王朝を打倒し、同盟が帝国を併合するまで戦いを止めない主戦派だ。

 

 2つ目は鎖国派、彼らの多くは貧民階層だ。政治的理由というよりも経済的理由から亡命した者達が多い。方針としては非戦派(反戦派では無い)……帝国との戦争は防衛戦のみとし、可能ならば講和も認めるものだ。彼らからすれば帝国との戦争で死ぬのも福祉予算が減るのも嫌なのだ。

 

 さて、最後にして最大の勢力……それが帰還派だ。御分かりの事だが銀河帝国亡命政府の事である。

 

 主な支持者は亡命貴族、方針としては主戦派であるが帝国の滅亡……というよりは帝国の体制の変換、つまり立憲君主制への移行を目指す団体だ。だからといって共和派より穏健、というわけでも無い。帰還派の最終目標は現存の帝国皇族、貴族の排斥、そして自分達亡命貴族による政治体制確立を目指しているためである。下手したら共和派以上に現在の帝国政府と和解不可能な存在だ。

 

 帰還派の権勢は凄まじい。亡命者三大派閥の内惑星を保有するのは帰還派のみである。アルレスハイム星系及びその周辺星系の人口は約8千万人、この人口は同盟加盟惑星の上位1割に入る。保有する亡命軍は亡命貴族私兵とその子孫、帝国軍投降兵を中心に地上軍100万名、主力戦闘艦艇6000隻に及ぶ(別途支援艦艇・戦闘艇がある)。そのほかその出自のため同盟軍の情報部と同盟政府外務省に大きな勢力を持つ。

 

 選挙基盤も盤石だ。帝国亡命者は世代を問わず亡命政府に好意的な者が多い。

 

 一つには帝国文化を強く保護しているためだろう。亡命政府の主星ヴォルムスを見れば一目瞭然。帝国風の街並みの看板には帝国公用語の表記、街で話されるのは帝国語、居酒屋にいけば帝国の味を味わえる。田舎にいけばそこにあるのは牧歌的な放牧場だ。

言葉が分からず、文化も違う地に逃れた亡命者の多くがこの星でかつての故郷を思い出す。年間9000万人訪れる観光客の7割は帝国亡命者第1世代だ。

 

もう一つの理由としてはより素朴な理由だ。つまり帝国貴族による組織だからだ。

 

 共和派の亡命者はともかく、多かれ少なかれ帝国亡命者達は帝国貴族に一種の畏敬の念を抱いている。特に第1世代は貴族に頭を下げるのは当然、という考えが脳に刷り込まれているし第2世代以降……つまり同盟に生まれた帝国亡命者も貴族に優美で気品がある、という憧れの感情を抱いているのだ。

 

 帝国亡命者の同盟に占める人口割合は語る必要は無いだろう。亡命政府に掛かれば億単位の票を搔き集める事なぞ容易だ。

 

結果、亡命政府は歴代の同盟政権に小さくない影響力を有していた。

 

そう、それこそ同盟軍の出征に影響を与えるほどに……。

 

「その結果がこの様か」

 

 ヴォルター・フォン・ティルピッツ帝国亡命軍幼年学校3年生、つまり私は、昼の休憩時間に学校内の電子端末から先月の会戦の結果についての記事を読み込んでいた。

 

 宇宙暦776年帝国暦467年11月、同盟軍3個艦隊からなる遠征軍はイゼルローン要塞攻略に失敗、ここに第2次イゼルローン要塞攻略戦は同盟軍の敗北に終わった。詳しい経過こそ不明だが同盟軍はイゼルローン要塞の主砲「雷神の槌」の有効射程を警戒し、予測される射程のさらに2倍の距離を保った。

 

 イゼルローン要塞の主砲がその真価を発揮する事こそ無かったが同盟軍、帝国軍共に遠距離からの砲撃戦に終始し悪戯に犠牲者を増やす結果となった。

 

 特に帝国軍と違いすぐ近くに大規模な補給拠点を持たぬ同盟軍は次第に艦隊の稼働率が低下、行動不能となる前に撤退を開始し、帝国軍の迫撃を受け少なくない犠牲を出した。原作でいう所の第6次攻防戦のラインハルトがいない版みたいなものだ。戦死者数こそ帝国軍とほぼ同程度だが、世間一般の見解は敗北だ。

 

 そして同時に世間は出征を強く推した帰還派……即ち帝国亡命政府ロビーを激しく非難した。当時、主戦派の派閥は幾つかあったが第1次イゼルローン要塞攻略戦における大損害の前にその多くが要塞攻略に及び腰だった。その中で1人出征を推進すれば悪目立ちもしようものだ。

 

尤も、亡命政府にも言い分がある。

 

 当然ながらイゼルローン要塞の存在により最も不利益を被るのは国境有人星系である。そして亡命政府の座する惑星ヴォルムスは国境有人星系の盟主とも言っていい立場だ。自身のため、そして周辺の惑星政府の懇願を受ければ出征ロビー活動もしたくもなる。

 

 それに別に無策で出征を指導したわけでも無い。亡命政府は帝国国内に広範な諜報網を有している。父がいうには此度の攻略作戦においては事前に要塞司令官、駐留艦隊司令官の名前と大まかな戦力、さらには要塞主砲射程や内部構造、要塞運用マニュアルの情報までほぼ正確に収集していたという。

 

 問題は前線司令官達がこの情報を信用せず戦った事だ。おかげで貴重な情報が殆ど生かされず、ついには敗北の原因となってしまった。全て「長征派」のせいだ、等と送られた手紙には長々と罵倒の言葉が帝国貴族らしく婉曲と修飾詞に彩られながら記されていた。

 

「重ね重ね残念です。我らの同胞が命に代えて集めた情報が生かされる事無く敗北なんて……」

 

 椅子に座る私の傍で直立不動の姿勢を取るベアトは、苦虫を噛むような表情で答える。此度の遠征でも亡命軍は艦隊を派遣していた。さて、今回はどれだけの同胞がヴァルハラに旅立ったのだろうか?

 

「考えたくも無いな……。ベアト、行こうか?」

 

そろそろ午後の講義が始まる。はて、次の講義は何だったか?

 

「確か、艦隊運用学であったと記憶しておりますが……」

 

恐る恐ると言った表情でベアトが答える。凄いよな。口にしてないんだぜ?

 

「物心ついてから肌身離さずお仕えさせて頂いているおかげです」

誇らしそうに答える少女。私に仕えてくれた従士は他にもいるがここまで長く、身近で仕えてくれたのは確かに彼女だけだ。決して出来の良くない私に愛想を尽かさずに支えてくれたのは感謝してもしきれない。

 

 

 

 宇宙暦8世紀において1個宇宙艦隊の規模は凡そ1万隻から1万6千隻に及ぶ。1個艦隊の定義は主たる戦略単位であり宙域的に、或いは期間的に独立して一方面の作戦を遂行出来る戦力を指す。転生以前のイメージでいえば陸軍の師団と思えばいい。原作では艦隊があっという間に溶ける事が多いが正直あれはやばい。

 

 1個艦隊は複数の分艦隊からなる。陸軍でいうところの旅団だ。一戦線を支える戦略単位だ。と、いうより基本的に艦隊の中で同時に戦うのは基本的に1,2個分艦隊だけらしい。残りは後方に待機し、機を見て前線と交代、もしくは予備戦力として温存されるという。今まで1万隻全て同時に戦っていると思ってたぜ。

 

 1個分艦隊は複数の戦隊からなる。陸軍でいう所の連隊だ。特別編成でない限り、独力であらゆる任務に対応出来る最小単位であり、戦艦、空母、巡航艦、駆逐艦は当然として工作艦、病院艦、補給艦、揚陸艦等を自前で持つ。部隊管理の単位でもあり基本的に戦隊毎にまとまって基地に駐屯、艦隊の動員と共に集まって1個艦隊を編成する。また恒星間航行に際しても艦隊規模での移動は混乱するため基本的に戦場の直前までの星系には戦隊規模で分散進撃するのが基本だという。

 

 戦隊はさらに細かく分ける事が出来るがここでは割愛させてもらおう。さて、ここまで説明した理由は御分かりだろうか?そう、これはあくまで正規軍の編制である。当然ながら我ら亡命軍には1個艦隊を編成するだけの戦力なぞ無い。というか帝国軍の分艦隊相手でも正面からぶつかるのは苦しい。予備戦力が少ないからね。兵器も雑多だし。

 

 そうなると我らが亡命軍の宇宙艦隊がいかにして強大な帝国軍に対抗するか?それはゲリラ戦以外に無い。

 

 我らが亡命軍宇宙艦隊の基本戦略はこうだ。正面から帝国軍とは戦わない。正規軍の相手は同盟軍だ。我らは帝国の偵察艦隊や哨戒艦隊、あるいは敵勢力圏の後方に浸透して補給艦隊等を待ち伏せ、奇襲して反撃の暇を与えず殲滅する。しかる後全力で現宙域を撤退。これを繰り返す事で同盟正規艦隊の決戦を補助する。コルネリアス1世の親征以来続く戦法だ。

 

 例えば小惑星帯に戦艦・巡航艦群を潜ませる。奇襲で敵艦隊が離脱を試みるところで別動隊の駆逐艦群が退路を塞ぐように展開、敵艦隊が躊躇したところを後方から火力を叩きつける、といったようにである。

 

 そのため亡命軍では戦隊すら禄に組む事は無い。惑星防衛のため増強戦隊が2個配備されているが亡命宇宙軍の基本編成は単一艦級十数隻に数隻の補給艦からなる群が基本だ。

 

 そのため、艦隊運用のノウハウもまた、同盟宇宙軍とも、帝国宇宙軍のそれともかけ離れたものである。

 

「ううん……あぁ、疲れたぁ」

 

 艦隊運用学講義が終わり私は教室の最後尾席で背筋を伸ばす。栄誉ある帝国門閥貴族の末裔としては余り褒められた態度では無いがこれくらい勘弁して欲しい。精神は日本の庶民なのだ。しかも学習内容が独特なものが多く参考にできる資料に限りがある。

 

「若様、肩が御疲れでしょうか?よろしければおもみ致しましょうか?」

 

ベアトが、私を慮って提案する。

 

「ん?そうだね。頼むよ」

「はい。では失礼致します」

 

 どこで学んだのかプロ並みの手捌きで私の凝り固まった肩を解しにかかる従士。やべえなこの娘。使用人としてハイスペックじゃん。いや、学業成績も私より上なんですけどね?

 

 入学試験こそ家で徹底的にしごかれたから上位につけたが寮暮らしになると成績はじりじりと下がる一方だ。辛うじて上位組に入っているが少し油断すれば一気に追い抜かれそうで怖い。いや、成績が落ちるのが怖いんじゃない。成績が落ちたのが実家に発覚した時が怖いのだ。この前手紙に剃刀の刃だけ入っていたのはどういう意味なんですかねぇ?

 

「ああ、ベアトそこ最高。うう……お前だけだよ。私の真の味方は……」

 

 困ったときはベアトに頼めば大体どうにかなる。講義の宿題やり忘れた時とか、期末試験の勉強でどこから手を出せばいいのかすら分からない時とか。

 

「はい。ベアトはいついかなる時も若様の忠実な家来で御座います」

 

 にこりと嫌な顔一つせずにそう言ってのける。なにこの抱擁力。信じられるか?こいつ13歳なんだぜ?え?死ねよ紐男って?だって、仕方ないだろ?幾らでも甘えさせてくれるんだぜ?帝国門閥貴族の坊ちゃんが駄目になる理由が分かろうものだ。

 

……はい、ごめんなさい。一人立ち出来るよう努力します。

 

「やれやれ、仲が良いのは結構だけど余り2人の世界でべたべたしないで欲しいんだけどねぇ」

 

 そんな私達の姿を見て穏やかそうな少年……私のこの幼年学校における友人は苦笑しながらやってきた。

 

「それは不正確な表現じゃないか?馬鹿貴族が家臣にあやしてもらっている、というのが正しい」

「それ、表現酷くなってないかい?」

 

亡命軍幼年学校の現状主席学生は肩を竦める。

 

 短めの茶髪に優しそうな碧眼、一目で優しそうな人物だと分かる。だが、この銀河において彼の顔立ちを見ればそれ以上に驚愕する者が多いだろう。彼の顔はある歴史上の人物によく似ていた。

 

 アレクセイ・フォン・ゴールデンバウム亡命軍幼年学校3年生の造形は映像記録におけるルドルフ大帝のそれに非常に似通っていた。違いがあるとすれば彼には彼の皇帝と違い他者を威圧する覇気が無く、代わりに見る者に安心を与える微笑を称えている点だろう。

 

 黄金樹の血脈の末端に座を持つ彼の血筋を遡れば第一八代皇帝フリードリヒ二世に辿り着く。

 

 フリードリヒ二世の次男の子供であり、第二〇代皇帝『敗軍帝』フリードリヒ三世の弟でもあるユリウス・フォン・ゴールデンバウムは、ダゴン星域会戦以前において兄の信任厚く、北苑竜騎兵旅団旅団長として皇帝を守護する立場にあった。

 

 だが、知っての通り彼の敗軍帝は猜疑心の塊のような人物だった。そもそも皇帝を守るべき近衛師団を信頼出来ない時点で相当に病んでいた。ダゴン星域会戦の大敗で帝国の威信が失墜するとこれを機として不平貴族や共和主義者の反乱が各地で発生した。これ自体は、解決は時間の問題だったがこの経験が敗軍帝の人間不信を一層増長させたようだった。

 

 数人の皇族の不審死の後、ユリウスもまたその生命の危機に晒された。二度の不審な事故を奇跡的に切り抜けると彼は付き従う家臣と財産を手に同盟に亡命した。

 

 皇族、しかも皇帝の弟である。当時のアルレスハイム星系に押し込まれていた帝国貴族、帝国臣民にとっては文字通り心の拠り所であり、団結の象徴であったし、本人も少なくとも無能では無かったらしい。自身の役目を大過無く果たして見せた。

 

 彼の子孫達もまた、代々その役目を果たし銀河帝国亡命政府の精神的支柱の一端を担っている。

 

 そして現アルレスハイム=ゴールデンバウム家当主の次男が彼、という訳だ。皇族の末裔と言う事もあり帝王学こそ学んでいるが本人は亡命貴族にも元奴隷にもかなりフレンドリーだ。

 

 私としては無駄に硬い亡命貴族社会においてさほど礼儀を気にせず話せるだけ気楽ではあるが……て。

 

「ベアト~、手が止まっているぞ~」

「も、申し訳御座いません若様っ!!」

 

 先ほどまでアレクセイに臣下の礼……つまり跪いていたベアトが慌てて肩もみに戻る。まあ仕方ないね。従士にとっては皇族なんて神に等しいからね。

 

「ティルピッツ伯爵家の次期当主も人が悪い。家臣に自身と皇族を天秤にかけるような事を言うなんてね」

「おいおい、よしてくれよ?この星の法律には不敬罪は無いぜ?元貴族も元農奴も裁判の判決は同じだぞ?」

 

 とはいうものの、法律的に問題無くても精神的に気にしないでいられるかは別問題だ。ベアトは皇族への不敬で青い顔をしている。

 

「ははは、冗談だよベアトリクス。ここは自由の国だ。私も君達と同じ同盟市民に過ぎないんだ。気にしないでくれ」

「は…はい……」

 

 会釈しながら心から恐縮したように、しかしはっきり聞こえるように返答するベアト。

 

「そうだぞ?お前だって知らない間柄じゃあないだろうに」

 

 小さい頃アレクセイの屋敷にお邪魔した事も、その逆も良くあった。銀河の半分を支配する最も尊い血筋の一族の末裔と亡命政府を構成する貴族でも一〇本の指に入る名門の仲が良好なのはむしろ当然だ。

 

「唯なぁ、ヴォルター。私達が良くても人の目がある。余り彼女に意地悪するのも良く無いぞ?」

 

そこには身分制に今一つ気が利かない私への心配がありありと見える。

 

「分かってはいるんだけどなぁ。なかなかふざけで済む境界線が分からん」

 

 前世が身分制なぞ形骸化している日本だったためにその意識に引きずられているのだろう。或いは自身が上流階級のため上に礼をかいて問題になる事が滅多に無いためか、身分間の作法が今一つ掴みづらい。同盟に亡命して1世紀半、文化と伝統を後世に伝えるのは宜しいがこんな事まで伝えなくてもいいだろうに。しかもその癖民主主義万歳と叫ぶことが出来る亡命貴族達の思考回路が分からん。

 

「それはそうと、アレクセイ。一体何の用があってこっちに?お前は雑談一つだって周囲に気を配らんと行けない身だろ?まさか私が美人な幼馴染に甘えているのが妬ましい訳じゃああるまい?」

 

 まぁ、こいつはこいつでそれこそ命令すれば躊躇無く命捨てる忠臣なんてダース単位で集められる身だ。こんな冴えない放蕩息子を妬む訳無いだろう。

 

すると待ってましたとばかりにアレクセイが笑みを浮かべる。

 

「よくぞ本題を突いてくれたな?ほら、さっきの講義で課題が出ただろう?『暗礁宙域における艦隊機動と展開について』のレポート」

「ああ、全く糞教官だぜ。幼年学校の生徒に書かせる内容かよ」

 

 数が無いので質を上げようと言うわけか。我が帝国亡命政府軍幼年学校の講義レベルは帝国の幼年学校のそれを上回る程レベルが高く、濃密で実戦的だ。この幼年学校で上位3割で卒業出来ればペーパーテストに限ればほぼ確実に同盟軍士官学校入学試験を突破出来る。元来の頭が良くない私からすれば文字通り地獄だ。ふざけているように見えるが自由時間の大半は予習復習で消えて遊んでないんだぜ?

 

「そのレポートだけど、いいカンニング法がある」

「陛下、私は貴方様の忠実な僕で御座います」

 

私は実家で身に着けた完璧な作法で目の前の御方に頭を下げる。

 

「凄い掌返しだ。君はオーディンの宮廷でもきっとやっていけるね」

「それ褒めて無いよな?」

 

むしろ庶民でもいいからオーディンに生まれたかったよ。

 

「それで、そのカンニング法ってのは?」

 

私は身を乗り出し声を静めて尋ねる。

 

「今度、実家に義兄さんが里帰りしに来るんだ。現役の同盟軍士官に教えてもらうのはどうかってね」

「ああ。義兄さん、出征帰りか」

 

 私の遠い親戚にもなる彼の義兄は同盟軍中佐として若い頃から将来を嘱望される逸材だ。……悪い人では無いが……正直余り会いたい人物では無いんだよなぁ。唯今回のレポートの助言を受けるには丁度良い人物である事も確かだった。

 

「う~ん、……分かった。仕方ない。私も会おう」

 

数分悩んだ末に私が答えるとアレクセイは感じの良い笑みを浮かべる。

 

「よかったよ。義兄さんもヴォルターに会いたがっていたから。それじゃあ詳しい話は夕食の時に」

 

笑顔で手を振りその場を退出する友人。

 

「……若様は苦手で?」

「いやぁ……ねぇ」

 

だって原作的に近くにいるだけで死にそうなんだよなぁ。

 

はぁ、と溜息をつく。

 

 アレクセイと私の又従姉の息子、自由惑星同盟宇宙軍中佐ラザール・ロボス、それが話題の人物の名前だった。

 


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