帝国貴族はイージーな転生先と思ったか?   作:鉄鋼怪人

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適当な書き殴りなので矛盾や可笑しいところ多いかも


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帝国身分階級制度・文化に対する基本概論


・【銀河帝国における貴族・階級制度・文化についての基本情報】

 

・銀河帝国における貴族制度は帝国暦9年6月12日に制定された「神聖不可侵たる初代銀河帝国皇帝ルドルフ1世陛下の御名により制定される遺伝子学に基づく帝国臣民の義務とそれに附属する各種社会的役職及びその名称に対する諸法」、通称を「銀河帝国身分法」により公式化された制度である。

 

 この時点において貴族・平民区分が設けられるが、下級貴族(帝国騎士・従士階級等)、士族、奴隷階級等は設定されず、また貴族特権も細やかで儀礼的な物が多いものであった。現在の強固な階級統制、経済・政治的特権の成立は後年複数回行われたの法律改訂により為される事となる。

 

 

 

・【貴族特権】

 銀河帝国における貴族階級において付与される特別権利の事を指す。正確に言えば門閥貴族階級に付与される『上級貴族特権』と下級貴族に付与される『下級貴族特権』に分けられるが、両者の差異の理由は領主としての義務、それに付属する領主として必要な権利が必要であるか否かである。『上級貴族特権』の主な特権として以下の内容が挙げられる。

 

・領内不輸権(地方財政・行政を管轄するために門閥貴族歳入=地方自治体税収への中央政府による課税を拒否する権利)

 

・決闘権(私戦権放棄の代償として付与された権利)

 

・名誉裁決権(重犯罪に際して名誉ある死刑方法ないし自裁を選択する権利、またそれによる罪刑の親族への連座回避権)

 

・身体保護権(拷問・労働刑を受けない権利)

 

・身体自由権(軽犯罪による懲役刑を罰金で代替する権利)

 

・貴族裁決権(領地における領民・臣下に対する民事・刑事裁判権)

 

・報復権(親族の死亡・負傷に関して帝国法の一定の範囲内で加害者に対して殺害を含む報復を行う権利)

 

・階級秩序権(帝国法の一定の範囲内にて領内の下級貴族以下の身分階級の変更・剥奪を行う権利)

 

・就学推薦権(帝国法の一定の範囲内及び能力の一定の範囲内で士官学校・官吏学校・帝国大学・神学校・女学院・ギムナジウム等への親族・臣下・領民の入学推薦権)

 

・領内不入権(帝国法の一定の範囲内で領内での内政・政治運営の自由権)

 

・武装権(治安維持・領地防衛・軍役のための私兵軍編成及びそれに伴う予備役将官階級保持の権利)

 

・爵位継承権(爵位と家紋、宮中席次の保持と継承の権利)

 

・帝室通婚権(皇族との通婚権)

 

・分家擁立推薦権(典礼省にて分家擁立を推薦する権利)

 

 

 

【門閥貴族】

 銀河帝国における貴族階級の内、『諸侯』ないし『諸侯家』、『帝国諸侯』等とも称される階級。「本物の貴族は門閥貴族だけ」とも言われる。

 

 約四三〇〇家、人口にして一〇万前後、奴隷・自治領民を除く帝国総人口二五〇億の〇・〇〇〇四パーセントのみが該当し、各自が所領及び貴族特権を有する。帝国領土・人口の約五割を支配しており、公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵の五階級に分類が可能となっている。

 

 凡そ考え得る限りにおいて最高レベルの教育環境が整えられ、帝国の各方面の指導層としての徹底的な帝王教育・エリート教育を受け帝国の文化・政治・経済活動の根幹を為している(しかし同時にその特権とエリート意識が過剰な平民蔑視・腐敗の温床となっている側面も否定出来ない)。

 

 尚、大公家は帝室の分家であるが、多くの場合名ばかりであり、宮廷席次上は皇帝に次ぐものの領地等は殆ど保有しないほか枢密院議員(元老院議員ともいう)に指名された大貴族は『選帝侯』と呼ばれる場合もある。

 

 

【大貴族】

 前述の門閥貴族の内、伯爵位以上の爵位を有する者達を指す。約二〇〇家余りが授爵されており全門閥貴族の上位四・八パーセントに当たる支配階級の中の支配階級と認識される。所領・領民の規模も子爵・男爵位とは隔絶しており、長年帝国における上級役職を独占してきた層でもある。尚、この中で最も多いのが伯爵位であるが、後述の権門四七家とそれ以外の伯爵位とでも権威が隔絶しているため、権門四七家に列挙される伯爵家はほかの伯爵家とは区別して方伯、ないし辺境伯と呼ぶ例も存在する。

 

 

【権門四七家】

 大貴族の内、ルドルフ大帝時代に伯爵位以上を授けられた名家中の名家を指す。主に連邦末期の戦乱の軍功により授与された『武門十八将家』(例リッテンハイム侯爵家、エーレンベルク伯爵家等)。政治家・閣僚としての功績により授与された『宮中一三家』(例ブラウンシュヴァイク公爵家、アイゼンフート伯爵家等)。地方に強固な基盤を持ち、ルドルフの帝政成立に強く協力した旧銀河連邦の名家由来の『地方一六爵家』(例カストロプ公爵家、アイゼナッハ伯爵家等)の三つに分類される。五世紀に渡る歴史の中で半分近くが断絶、没落、亡命しているが、ブラウンシュヴァイク公爵家、リッテンハイム侯爵家等未だに幾つもの家が帝国国政を左右する影響力を保持する。

 

各門閥貴族の規模の例

 

・公爵位

  ・基本的に三つ以上の有人惑星のほか、数十から百近い無人星系、人工天体、鉱山を保有する

  ・人口は最低でも八〇〇〇万前後を有し、そのほか奴隷階級も多数保有

  ・私兵軍の数は数十万名、平均三〇〇〇隻前後の大型艦艇を保有する(別に大型戦闘艇を多数保有)

  ・多くの場合当主は帝国軍予備役上級大将の階級を保有する

 

・侯爵位

  ・基本的に二つ以上の有人惑星のほか、数十の無人星系、人工天体、鉱山を保有する

  ・人口は最低でも五〇〇〇万前後を有し、そのほか奴隷階級も多数保有

  ・私兵軍の数は数十万名、平均二〇〇〇隻前後の大型艦艇を保有する(別に大型戦闘艇を多数保有)

  ・多くの場合当主は帝国軍予備役大将の階級を保有する

 

・伯爵位

  ・有人惑星の過半ないし一から複数を保有、そのほか十数の無人星系、人工天体、鉱山を保有する

  ・人口は最低でも一〇〇〇万前後を有し、そのほか奴隷階級も多数保有

  ・私兵軍の数は十数万から数十万、一個戦隊(五〇〇隻)以上の大型艦艇を保有する(別に大型戦闘艇を多数保有)

  ・多くの場合当主は帝国軍予備役中将の階級を保有する

 

・子爵位

  ・有人惑星一州あるいは一大陸以上を保有、また場合によれば無人星系、人工天体、鉱山を保有する

  ・人口は最低でも三〇〇万前後を有し、そのほか人口相応の奴隷階級も保有

  ・私兵軍の数は平均数万から十万前後、大型艦艇は数十隻余りが基本、その他大型戦闘艇を保有する

  ・多くの場合当主は帝国軍予備役少将の階級を保有する

 

・男爵位

  ・有人惑星の一郡から数郡、あるいは人工天体、ドーム型都市、鉱山の領主

  ・人口は最低十数万から最大数百万、そのほか人口相応の奴隷階級も保有

  ・私兵軍の数は数千から数万前後、大型艦艇は数隻から十数隻、多くの場合大型戦闘艇が主力

  ・多くの場合当主は帝国軍予備役准将の階級を保有する

 

 子爵・男爵位は伯爵位以上に比べ大きく経済力・軍事力・権威面で劣り、また同じ爵位の中でも格差が大きい。凡そ門閥貴族約四三〇〇家の七割が男爵家、二割近くが子爵家であるとされる。この格差は少なくない数の男爵・子爵家が大貴族の分家である事が要因である。

 

 そのほか特に小諸侯の中には殆ど領地や領民を持たず代わりに企業や航路管轄権、傭兵団(ランツクネヒト)等を保持しそこからの利潤や関税を持って生活する一族も存在する。

 

 また中小門閥貴族の私兵軍の宇宙戦力が弱小なのは複数星系を領地としていないため航路防衛の必要が少ないためであり、そのためにワープ能力を持つ大型艦艇は殆どなく、大型戦闘艇が宇宙戦力の主力となっている。一方で貴族私兵軍はその性質上比較的地上戦力は充実しているとされる。

 

  

 

【下級貴族】 

 門閥貴族の下に位置する所領を(少なくとも帝室から直接)授けられていない階級。所謂下級貴族階級に含まれる人口は約四〇〇〇万前後(帝国臣民人口二五〇億の約〇・一六パーセント)とされる。大きく分けて「帝国騎士」と「従士」に分けられる。

 

・帝国騎士

 下級貴族の中において従士の上に(形式上)位置する階級。但し実際は帝国騎士内部に更に階層があり、上位は従士階級より格上であるが下位は従士階級に比べ身分的に劣位に置かれる場合が多い。大きく分けて四階位がある。即ち

 

  ・騎爵帝国騎士位 主に帝国開闢以来続く帝国騎士位を持つ家、宮廷席次においては男爵家に匹敵する権威を持つ

 

  ・上等帝国騎士位 主に門閥貴族の分家の内、男爵以下の家

 

  ・一等帝国騎士位 主に国家に対する功績により叙任された家

 

  ・二等帝国騎士位 主に金銭にて購入して叙任された家、最も多い帝国騎士位

 

の四階位であり、二等帝国騎士及び一部の一等帝国騎士は多くの場合従士階級よりも劣ると見られている。また経済的にも没落した家から門閥貴族に匹敵する家まであるなど格差も大きい

 

 

・従士

 下級貴族の内、主に門閥貴族階級に代々仕えている階級。家人とも呼ばれる。主家の庇護下に置かれ、その絶対的従属下にある代わりに多くの既得権益を得ており、主家からの俸禄が支払われている。また祝儀等に際しては資産の下賜があり、代官として主家領地の一部経営等を請け負う例もある。そのためその生活水準はおおむね平民の上位中流層から富裕層に類し、様々な面で下位帝国騎士に比べて優位にある。中にはアンスバッハ従士家本家、シュトライト従士家本家等、門閥貴族に匹敵する権勢を有する家も存在している。

 

 

・一代貴族

 何等かの理由により一代に限り貴族(門閥貴族)に叙せられる個人を指す。準男爵とも言い、多くの場合本人は準男爵に叙せられ(これにより宮中や社交界での参加が容易になる)、その子孫は帝国騎士(一等ないし二等)に列せられる場合が多い。

 

 

 

【平民】

 所謂銀河帝国臣民二五〇億の大半が所属する階級。しかし実際はその内部において出自・経済状況、社会的立場等で大きな差異があり「平民という階級は貴族でも奴隷でもない物を一括りにしただけの略称に過ぎない」とも言われる。幾つか代表的な階級について触れると

 

 ・士族  所謂銀河連邦時代から続く軍人家系等に与えられた準特権階級。軍・警察等での優先雇用権、人事における優遇、専科学校・地方警察学校における推薦・被推薦権、若干の特別手当の授与等が挙げられる。但し三代以上に亘って軍人・警官・消防隊員等がいない場合「一族の義務を怠った」として士族特権を剥奪される場合がある。自由惑星同盟との慢性的戦争が続く中で特権剥奪・断絶する家が増加し空洞化しつつある階層でもある。

 

 ・奉公人 門閥貴族等に代々仕えている平民階級を指す。正確に言えば身分というよりも役職であり奉公人として仕える士族や富裕市民という形を採る事が多い。従士家に昇格する可能性があるほか、多くの場合従士家と同じく主家の保護下にあるため社会的信用が高く、俸禄のほか祝儀等で一時金等も与えられる。概ね中流平民レベルの所得水準であるが、食費・家賃等を主家に負担してもらえる事、仕事柄の役得等があるために、中流市民の中でも上層レベルの生活をする者も多い。

 

 ・富裕市民 文字通り平民階級の内で貴族との血縁・主従関係を持たずに社会的上層に位置する階級。多くの場合、社会的には生まれながらの特権に浴する貴族階級と対立しているが、高度な教養を備えるために文化的には貴族社会のそれに近い複雑な立場にある階層である。富裕層の一部は金銭、あるいは功績を上げる事で二等ないし一等帝国騎士階級、一代貴族に叙せられる者も存在する。

 

 

 

【農奴階級】

 平民階級の下位に存在し、多くの場合帝室ないし門閥貴族による半国有・私有資産であるが、人権面で奴隷階級とは一線を画している存在でもある。その成立は複雑であり、軽犯罪者・難民・浮浪者、後には反乱勢力の眷属の大半がこの階級に所属する事となる。元々は犯罪者や難民の管理費用増大に対応して更生・自立のための農業組織から成立した経緯がある。その出自により同じ農奴階級でも待遇が大きく異なり、最上位の農奴の場合は平民階級よりも豊かである場合もある。大きく区分して四区分があり

 

    ・金納農奴……主に先祖が反帝国派眷属、生産物を販売し金銭として上納する。生活が厳しい農奴階級

   

    ・労務農奴……主に先祖が軽犯罪者ないし難民、公共事業等の賦役に従事する代わりに農地を借用している。比較的生活が厳しい階級

 

    ・軍役農奴……主に先祖が軽犯罪者ないし難民、私兵軍の下級兵士等に家族が従事する代わりに農地を借用している。比較的平民に近い生活水準にある農奴階級

 

    ・貢納農奴……難民等、主家に保護を求めて農奴となった階級。主家等の消費する食物の生産・献上の代わりに農地を借用している。農奴の中では最も生活が豊かな階級であり、殆んど平民と同じ生活水準と権利を保有している

 

等に分けられる(代表例であり、一部ではそれ以外の階層が成立している場合もある)

 

 

 

【非臣民階級】

 帝国人口二五〇億に数えられない階級。制度上は平民・農奴の下位に位置するが、自治領民は帝国平民階級と変わらない生活をする者が殆んどである。大きく三階級に分けられる。

 

・奴隷階級

 反帝国思想を有する者達の直系の子孫及びその眷属。多くの場合流刑地惑星等での強制労働に従事している。その成立は反帝国・反体制思想保持者の一律処刑に反対した穏健派ファルストロングが提案したものであり、モットーは「生かさず、殺さず、考えさせず」である。生活水準は過労死や餓死をしないレベルであるが、反乱を起こす事は不可能なレベルに、また余分な思考を行う時間を与えないように調整されている。推定一六〇億前後が存在しているともされる彼らは、帝国における最も下等な単純作業・危険作業の従事者であり、帝国における最も過酷な生産者階層でもある。

 

・自治領民

 主に旧銀河連邦の主要惑星に生活する人民。帝政成立と共に旧銀河連邦中央宙域の主要構成国に帝国が妥協した結果成立し、後には反帝国派の内、武力抗争を放棄した層が流入した。約一〇〇余りの自治領惑星に推定一八〇億前後の人口を内包していると言われている。自治領は自治領主を主体として帝国からの監督官の助言より運営され、その自治権については全五等階級があり、等級が上がる事により広い自治権が下賜される事になる。各等級はそれぞれ

 

・第一等帝国自治領

・第二等帝国自治領

・第三等帝国自治領

・第四等帝国自治領

・第五等帝国自治領

 

 の順である。大半の自治領は第三・第四等帝国自治領であり、平均的な第三等帝国自治領を引き合いに出せばその自治権は

 

・内政については限りなく自由な裁量(政治体制の自由)

・言論の自由

・一定の範囲内での関税自主権

・自治領内の帝国軍駐留部隊の制限

・独自の治安維持組織の運営

 

 等が保証されているがその一方で

 

・宇宙戦力の保持禁止

・地上治安維持戦力の上限設定

・宇宙艦艇建造能力の放棄

・少額の貢納義務

・外交権の放棄

・銀河帝国及び銀河皇帝に対する形式的臣従

 

 等が義務付けられている。地球を含む太陽系も地球教徒(正確には地球自治委員会)の下に自治を許された第三等自治領であり、第二等帝国自治領は現在アルデバラン・プロキオン両星系、第一等帝国自治領はフェザーンのみがそれに該当する。また各自治領内部においても更に自治区(ソル星系第三等帝国自治領内部における火星自治区・月自治区等)も存在する。

 

・流民階級

 主に銀河連邦末期から帝政初期にかけてルドルフの統治に反発して帝国領内の辺境・無人地域等に独自の社会コロニーを構築したグループ、後に逃亡奴隷等も合流した。最盛期には数十億人存在したとされるが元々居住環境が過酷であり、内部分裂や帝国の弾圧、宇宙海賊の襲撃、帝政中期以降は人間狩りの対象にもなり帝国政府に恭順するか全滅する例が続出、現在はその人口は数億人前後とされている。

 

 

・【帝国文化・政治体制の成立についての歴史的経緯に対する基本理解】

 元々銀河帝国の前身である銀河連邦は、シリウス戦役以降勃発した「銀河統一戦争」の休戦に伴い旧植民諸惑星国家が「汎人類評議会」の仲裁・発展により成立した国家であるために、各構成国の影響が強い国家体制であった。

 

 また各構成国は銀河連邦成立による好景気により表面的な軍事的対立こそ無いものの、領土問題のほか宗教・民族・文化・経済対立が議会に頻繁に持ち込まれ、しばしば連邦の政治行政に悪影響を与えていた。

 

 とは言え銀河連邦前期から中期にかけての好景気は連邦の制度的欠陥を覆い隠すに十分であり、市民もまた活力を持ってフロンティアの開拓に精力を注ぐ事となった。

 

 しかし制度的欠陥による歪みは次第に無視し得ぬものとなり、人類史上最大の大不況である「銀河恐慌」の始まりと、それによる失業者の増加および科学振興予算のカット、議会の制度的欠陥や地域対立による不況対策の遅延、宗教権威の衰微や同胞意識欠如に伴う失業者等による犯罪組織の増加や不況にあえぐ企業による反道徳的行為、更にはそれによるフロンティア開拓予算の減少や航路治安悪化、その帰結による辺境植民地放棄により銀河連邦は一気に全土が混乱状態となる。

 

 無論、政界においては幾度かの連邦再建の試みはあったが、派閥や辺境と中央の対立、犯罪組織による実力阻止、各行政組織や連邦軍・連邦警察の腐敗と汚職により失敗。末期の銀河連邦はテオリアを始めとした初期構成国を中心とした中央宙域以外を事実上統治不可能となり、その中央宙域すら治安の悪化の一途を辿っていた。

 

 この危機的状況において幾度もの暗殺を凌ぎきり銀河連邦首相となったルドルフ・フォン・ゴールデンバウムは、この人類社会の危機に対して幾つかの制度改革により解決を目指した。一つは国家元首就任による中央集権(事実上の独裁政治)とそれによる基本的人権の部分的停止である。これにより連邦政府職員の半ば強引な綱紀粛正や有能な人材の重役登用に成功。再編成した軍・警察による苛烈なテロ組織・犯罪組織・地方軍閥・カルト教団の弾圧・制圧に成功し、急速に連邦中央領域内の秩序と治安の回復に成功した。

 

 一方で辺境宙域においては中央から搾取され見捨てられたという意識が強く、また荒廃したフロンティアの中央への再編入は経済的にもリスクのある選択であった。そのため辺境平定に置いてルドルフは地方分権的な手法を利用した。

 

 即ち、現地を平定・管理する軍人や官僚を総督として任命し、現地の独立統治を命じたのである。そしてこれは次第に帝国辺境を統治する門閥貴族と貴族領の母胎となる。

 

 連邦の再建を進める中で、ルドルフは銀河連邦の腐敗と混乱の一因を文化に求めた。歴史を紐解けば分かる事であるが、広大な領域を持つ国家が一つの同胞意識を保持するのは極めて難しく、時としてそれが内戦の引き金になり得た。さらに、銀河連邦の多様的過ぎる文化や議会政治がそれを助勢した。

 

 それに対して、中央集権によって終身執政官、次いで銀河帝国皇帝に即位したルドルフは、国家統一のためゲルマン文化とオーディン教の奨励を推進した。これは同時に帝政の権威を高める事にも繋がる。

 

 それでも完全な国家の統一には困難を伴う。それ故にルドルフは国家権力の血統による継承、という手段を講じる。

 

 即ち皇帝と門閥貴族による婚姻と政治権力の世襲により中央と地方の指導者層の連帯・同胞意識を深め、それにより中央と辺境の対立を回避する、という思想である。

 

 このような理由から行われた強権政治と血統主義、文化的同化政策、宗教政策は曲がりなりにもオリオン腕における人類文明の長期に渡る安定化に寄与した側面があるのは事実であるが、それが国家内部の多様性と流動性の欠如、思想の固定化、極度の前例主義、権威主義によって国家運営の硬直化をもたらし、その後の政治・経済改革の困難化をもたらした事も否定出ない。

 

 また歳月が経るに従い特権階級の下層階級に対する蔑視意識の肥大化、勃興する富裕市民層等との階級対立が表面化。自由惑星同盟との接触と長期に渡る戦争状態は軍事費用の増加、軍組織の中堅層を為すべき士族階級の衰微、民主主義思想等の伝播による下層階級の帝国に対する懐疑心の醸造と反乱の頻発、帝国直轄領の疲弊と貴族領の相対的な肥大化による皇帝権縮小を齎し、帝国の政治体制を現在進行形で揺らがせつつある。

 

 しかし、逆説的に言えばルドルフ・フォン・ゴールデンバウムの実施した諸政策による帝国の硬直化は強固な体制基盤の構築という側面も有り、長期に渡る戦争に耐えしのぐという成果を齎したこともまた事実である。

 

 自由惑星同盟の弱点である文化的多様性と歴史的経緯による国内文化・政治的対立は帝国では殆んど存在せず、民主主義政治とは異なる中央権力の権威と安定、それによる長期的政策の実現は、自由惑星同盟との戦争により幾度か発生した国家崩壊の危機の回避に寄与している(特にダゴン星域会戦以後発生した同盟軍による帝国国境への侵攻に対する、帝国臣民の「大祖国戦争」への積極的な志願はその好例である)。

 

 強権と分権、権威と伝統、階級間の断絶と連帯、相反する要素が複雑に統合しており、故に五世紀に亘り存続し続けている人類史上最も稀有な専制国家。それがゴールデンバウム朝銀河帝国と論評する事が出来るだろう。

 

 

      フェザーン中央大学社会政治学科教授ダニエル・ヤマモト「帝国社会基本概論」より

 

  




歴史上の貴族制度調べていると思ったこと、あれ?門閥貴族数千家って滅茶少なくね?

日本の華族……1011家(1945年時点で総人口7300万人)
英国貴族……1500家(同総人口5000万人)
仏国貴族……2212家(ナポレオン帝政期、総人口3000万人)
独国貴族……約2万家(ワイマール以前総人口4000万人)

上は多分下級貴族を含んだ場合、それでも人口比から見て多分少なすぎる。なので本作では帝国騎士と従士で相当水増ししました

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