IS インフィニット・ストラトス ~クロガネを宿し者~   作:Granteed

63 / 69
第六十二話 ~舞台裏~

出てきた時と同じく、一人で家の戸口に立つ。放心状態のまま、何も考えずにドアノブを掴んで回す。抵抗も無いまま開いたドアを通り過ぎて、光が満ちているリビングへと足を踏み入れた。

 

「お帰りなさい、統夜……って、どうしたの?」

 

迎えてくれたのは、姉だった。何故かアル=ヴァンの姿は無く、カルヴィナの片手には携帯電話が握られている。今の今まで誰かと電話していたのか、そんな考えすら頭に浮かばずに統夜は自分の部屋へと向かった。

 

「ちょっとどうしたのよ、何かあったの?」

 

「別に……何でもない」

 

反抗期の子供の様な口調で姉の言葉を撥ね付ける。だがそこは姉であるカルヴィナだ。弟の表情から何かを読み取ったのか、眼前に立ちふさがって両手で統夜の顔を掴む。

 

「姉さん……」

 

「別にいいわ、何も言わなくても。ただ、これだけは覚えておいて。何があっても、私は貴方の味方だと言う事を」

 

「私だけじゃないわ。貴方の周りにいる人の事を考えなさい。昔とは違う。貴方の周りにいるのは私やアルだけじゃないのだから」

 

「……ごめん、姉さん。今日はもう休ませてくれ」

 

自分の部屋へと引っ込んでいく統夜の背中を、カルヴィナは見送る事しか出来なかった。統夜が自分の部屋へと入っていくのを確認すると、わざわざバルコニーに出て携帯電話を耳に当てる。

 

「……今帰ってきたわ、放心状態だけれども。それで、02はもう完成したの?」

 

『ううん。今回の01の実地試験で幾つか問題が出たから、それを先に直さなきゃ。このまま02を作ろうとしたら、そこで問題が残るままになっちゃうからね』

 

「そう。まあ、なるべく早く彼をこっちに戻して頂戴。落ち込んだ統夜をフォローするのならば、男の彼の方が似合ってるから」

 

『随分弱気だね。らしくないけど』

 

「私は女よ。時には男同士の方が話しやすい事だってあると思うわ。それと、イギリスの方はどうなったの?」

 

『ああ、そりゃボロボロのめっちゃくちゃだよ。現行兵器でアルマには太刀打ちできないし、今回襲われた場所には碌な戦力が無かったからね。もうちょっとコアの数を増やせればよかったんだけど、私も手が回らなかったから』

 

「お得意の二面作戦にまんまと引っかかったわけね。今の私達じゃ、それもしょうがないけれど。それと、あの子はどう?」

 

『ラインバレルの活動を感じたのか、この間やっと起きたよ。取り敢えずISの技術で簡易的な体を与えたけど、早くちゃんとした体を寄越せって煩くて煩くて。だから00の設計をそのまま流用して作ろうかと思ってるんだ』

 

「作ったとしても、乗り手はどうするの?私達はそれぞれ01と02に乗るし、空いている席は無いわよ」

 

『私に聞かないでよ。それよりも、体の調子はどう?手術したばっかりなんだから、激しい運動とかはダメだからね』

 

「分かってる。今の所、違和感は無いわ。」

 

『そう。機体が出来たらこっちに来てね。微調整とかしなきゃいけないから』

 

「了解。それじゃあ、また」

 

『うん。またね』

 

携帯を耳から話して通話を切った。ベランダから外を眺めれば、人が生活している証である作り物の光が煌々と灯っている。その上に浮かぶ鈍く輝く星々たちを仰ぎ見た後、部屋の中に戻った。横目で並んでいる写真達を一瞥すると、弟の部屋の前へと足を運ぶ。

 

「何としても、守って見せる。私の大切な、世界でたった一つの家族(宝物)を」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。