IS インフィニット・ストラトス ~クロガネを宿し者~   作:Granteed

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第二十三話 ~鬼哭の果てに~

「……っ!!統夜、見て!!!」

 

一夏達の背後にぽつんとあったラウラのIS、それが再び変化を始めた。何とグネグネと動き出し、装甲の形が変わっていくのである。同時に取り囲んでいた教師部隊に動揺が走った。装甲が固まった時、そこにあったモノはISとは似ても似つかない何かであった。

 

≪……≫

 

元ラウラのISだったものは今や完全にその原型が無くなっていた。顔に当たる部分は目が無く、シャッター状のもので顔が覆われている。四肢は全体的にスマートな印象があり、背部には大型のスラスターが付いている。手には直刀を持ち、両手の下腕部には銃器の様な物が装備されていた。

 

≪な、何だこいつ!!≫

 

≪一夏、今すぐ離れろ!!≫

 

一夏達も動揺し、ラウラを抱えて退避する。それに合わせて教師部隊が敵を囲んだ。そしてISだった物が動き始め、直刀を構えて教師部隊に襲い掛かり始める。騒がしくなったアリーナに再び警報が流れる。

 

≪緊急事態!教師部隊は応戦を開始せよ!≫

 

「くそっ、どうすれば!!」

 

「……私も、行く」

 

簪は滞っていた最終調整を物凄い勢いで進めていく。しかしその間にも敵は直刀と銃器を使用して教師部隊を蹴散らしていた。

 

「あれは……楯無さん?」

 

「……」

 

水色のISが一機、教師部隊に合流する。楯無は教師部隊を下がらせて槍を構えつつ突進、敵も直刀を構えて迎撃した。何合も打ち合いを続ける一機のISとひとつの何か。その様子を見ていた簪の最終調整をしていた腕がゆっくりと止まった。

 

「簪、どうしたのか?」

 

「もういい……あの人が出れば、終わったも同然」

 

事実、モニターに目を向けていれば、徐々にではあるが楯無が押していた。槍の先端が何度か敵の装甲に突き刺さり、楯無も余裕の笑みを浮かべている。しかし、いきなり戦局が大きく変わった。

 

「っ!楯無さん!!」

 

「嘘……」

 

今まで劣勢だった敵の動きが明らかに変わる。楯無が槍を突き出した時、ありえない程の機動をして背後に回り込み、銃弾を楯無に撃ち込んだ。それを皮切りに今までは近距離での戦闘が主だったのだが動きが変わり、敵はヒット&アウェイの戦い方にシフトしていた。徐々に戦局が傾き始め、余裕の笑みを浮かべていた顔も今や苦悶の表情に様変わりしていた。下がっていた教師部隊も参加し、アリーナは阿鼻叫喚の地獄絵図となった。

 

「何だよ、なんだよ……あれ」

 

国家代表である楯無でも苦戦する敵に、第二世代のISを装備した教師が適うはずもなく一機、また一機とやられていく。幸いと言っていいのか、敵は倒れた人間には攻撃を加えなかった。しかしその間にもどんどん味方が墜ちていく。その光景を見て、簪の体が震え始めた。

 

「簪!?」

 

「もう無理……あの人が倒せない敵なんて、誰も勝てない……皆、やられちゃう。私も……」

 

ISを装備したまま、膝をつく簪。事実、この学園最強の生徒会長が止められないとなれば敵は活動を停止するまでこのIS学園を蹂躙し続けるだろう。簪は両肩を抱いて、幼子の様にブルブルと震え出す。

 

「何やってるんだよ!楯無さんがどうなってもいいのか!?」

 

統夜が叱咤混じりに声を荒らげると、いつもの簪からは想像も出来ない様な声を出す。

 

「良い訳無い!でも、でも!!」

 

その先は言わなくても理解できる。自分なんかでは足手纏いにしかならない、助けに行っても無駄だと言う事。姉が適わない敵に自分が勝てるわけが無いという事を。姉を神格化し、コンプレックスを抱いてる簪だからこそ悟ってしまう。ゆっくりと涙を零しながら簪は涙声を上げる。

 

「もうだめだよ、お姉ちゃんが……適わないなんて、もう無理だよ……」

 

ぽろぽろと流れる涙が簪の頬を伝う。その間にもモニターからは教師陣と楯無の悲痛な叫び声が聞こえてきた。その音が簪の涙を更に加速させる。統夜は簪の隣に膝をついてただ見ているだけだった。

 

(俺は……)

 

嗚咽を漏らす簪の声が痛々しく整備室に響く中、統夜は一人思考する。目の前の少女の為に何が出来るか。

 

(この子の……簪の為に……)

 

乗り気では無かったIS学園へと入学して初めて出会った女の子。勿論すぐに打ち解ける事は出来なかった。だが出会って数日の内に彼女の知り合いの力を借りて距離を縮め、一ヶ月で秘密を告白し合う仲となり、二ヶ月でいつも傍にいるほど心を交わし、三ヶ月もすれば隣にいるのが当たり前になっていた。

 

(俺が……出来る事……)

 

初めて話せた時、少し嬉しいと思った。彼女が危険に晒された時、純粋に助けたいと思った。秘密がバレた時絶望した。でも彼女は笑って受け入れてくれた。

 

(俺が……俺は……)

 

彼女も悩みを抱えていた。それについて自分の事よりほんの少しだけ、優先して考えた。いつからか、彼女の力になりたいと考え始めていた。いつの間にか、もう彼女の涙を見たくないと考えている自分がいた。

 

(そんなの……一つしかないだろ!!)

 

そのために何をするべきか。悩みの果てに出た答えを体現するべく、統夜は膝をついて簪の涙をゆっくりと拭い取る。

 

「簪、泣かないで」

 

「でも、この世界にヒーローなんて、いない……お姉ちゃんが……死んじゃう……」

 

「じゃあ、俺が簪のヒーローになるよ」

 

「え?」

 

統夜の言葉に驚き、涙で目を赤くした簪が統夜を見上げる。統夜は柔らかな微笑みを浮かべて言葉を続けた。

 

「臆病で意気地なしの俺でも、簪を笑顔に出来るなら……俺が簪のヒーローになるから」

 

「統夜……」

 

「だから、泣かないで」

 

統夜は胸の奥で静かに決意した。それは己の力を初めて他人の為に使う事。自分を受け入れてくれたこの少女のためならば、構わないと。初めて人前でその力を使う統夜、その目は意思の力に満ち溢れていた。首から外したネックレスを右手で握り締め、虚空へ手を突き出し叫ぶ。

 

「来い!!!」

 

統夜の体が幻想的な光に包まれ、簪は思わず目を背けた。部屋全体が光に包まれ、空気が振動する。煌く光は統夜の体を覆い、その肉体を変質させていく。そして最後に統夜の体を包み込んだ光芒が一際輝き、収束していった。

 

「統夜、それ……」

 

目を開いた簪が見たもの、それは白い装甲を纏った超金属の鬼だった。目の前にいる鬼は簪へと手を差し伸べて大声で叫ぶ。その声音はまるで自分自身を叱咤するかのようだった。

 

「さあ、一緒に行こう!!」

 

 

 

 


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