IS インフィニット・ストラトス ~クロガネを宿し者~   作:Granteed

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第一話 ~新天地~

“IS学園”

そこはISのISによるISのための特殊国立高等学校である。将来有望なIS関係の人材を育成するべく、多くの国から入学者が押し寄せる。その倍率はとても高く、藁束の中から細い針を見つけるに等しい確率である。そこではISの操縦に限らず、ISの整備・研究も行なっている。

 

さて、この学園に入るには一つの大前提があった。それすなわちは“性別が女性”という事である。ISを操縦できるのは女性のみ。必然的にIS学園に入学出来るのも、女性だけだった。

 

ISを操縦出来ることで、女性の社会的地位は大きく変わり、今や“女尊男卑”と言われる程になっている。

 

今までは“ISは女性しか動かすことが出来ない”というのが当たり前であった。そう、今までは……。

 

何と先日、日本国内にて男でありながらISを操縦できる人間が見つかったのだ。

その人物の名前は織斑 一夏。

その事実を知った日本政府は直ちに全国で男性に対するISの適正検査を実施。一人見つかったのだから、もう一人位いるはずだ、という思惑で実施されたこの検査は、結論から言えば大成功であった。もう一人、男性のIS操縦者が見つかったのである。

 

少年の名前は紫雲 統夜。二人はただちにIS学園へと編入が決まった。この物語は紫雲 統夜がIS学園に入学してくる所から始まる……。

 

 

~IS学園・校門~

 

「ここがIS学園か」

 

校門の前で立ち止まり、一人呟く少年。その手には大きめのボストンバッグが握られ、IS学園の制服を身に付けていた。その首には先端に黒色の三つ巴を象ったアクセサリーのついたネックレスが下げられている。

 

「はぁ、本当に来ちゃったのか……。姉さんが『心配ない』って言ってたけど……」

 

ため息を付きながらひとりごとを続ける少年。すると学園の校舎の方から、一人の女性が走ってきた。女性は少年の前で急停止すると、おずおずと喋り出す。

 

「あ、あなたが紫雲 統夜君ですか?」

 

「ええ、あの、貴方は?」

 

「ああ、すみません。私はこの学園で教師をしています山田 真耶(やまだ まや)と言います。い、いきなりで申し訳ないんですけど、直接教室に行きます。い、いいですか?」

 

「構いません。でも教室ってどこですか?」

 

「す、すみません!これから案内するのでついてきてもらってもいいですか?」

 

「分かりました」

 

真耶は回れ、右をして歩き出す。統夜は“謝ってばかりの人だな”と思いつつも真耶の後にしたがって歩きだした。

 

~校舎・教室~

 

統夜と真耶がしばらく歩いていると、やがて“1年1組”と表示がある教室の前で立ち止まる。教室の中からは、何かで叩いた様な音がする。

 

「あ、あの、ちょっとここで待っていてください。すぐに呼びますから」

 

真耶は統夜にそう言い残して、一人教室に入る。統夜は何がなんだかわからない状態で一人突っ立っている事しか出来なかった。

 

「はあ、何で俺がこんな所に……」

 

「(そ、それではもう一人このクラスのお友達を紹介します)」

 

統夜が不満の声を上げている所に、教室のドアが開き、真耶が顔を出して統夜を手招きする。

 

「し、紫雲君、入ってください」

 

「分かりました」

 

真耶の手招きに応じ、教室へと入っていく統夜。その教室で見た光景の感想は、

 

(冗談じゃないよ……)

 

そう、教室には女子しか居なかった。いや、一人を除いて、だが。仏頂面をしている統夜に真耶が泣きそうな声で話かける。

 

「あ、あの紫雲くん?自己紹介をして欲しいんだけど……」

 

「……分かりました」

 

渋々、と言った表情で統夜が応じる。教室を見回すと、女子が目を丸くして、統夜を見つめていた。騒がしい事があまり好きではないな統夜としては、さっさと終わらせて席に着きたいと思っていたので早めに終わらせる事に決める。

 

「紫雲 統夜です。一応男のIS操縦者です。よろしく」

 

ぽかんとしていた生徒達だったが、統夜の発言から一秒後、いきなり嬌声を上げる。

 

「「「「キャアァァァァァァー!!」」」」

 

「うわっ!?」

 

統夜は即座に両手で耳を塞ぐ。鼓膜が破れるんじゃないか、と思わせるほどの声量だった。

 

「男の子!二人目の男の子よ!!!」

 

「赤い髪!かっこいい!!」

 

「目も織斑君とは違って茶色!いいわぁ!!」

 

統夜が耳をふさいでいる間、勝手な事を並べ立てる生徒。統夜がうんざりしていると、一言でその騒ぎが静まった。

 

「静かにしろ!!」

 

バン、と教卓を出席簿で叩く音が響く。その女性は無表情のまま、統夜の方を振り返る。

 

「ほう、お前がカルヴィナの言っていた弟か。私は織斑 千冬(おりむら ちふゆ)。このクラスの担任だ」

 

「そうですか、あなたが。姉が『よろしく伝えて』と言っていました」

 

「そうか、お前の席は教室の後ろの空いている席だ。早く座れ」

 

統夜は千冬が指で示している席に大人しく座る。席に向かう最中も、視線を感じたが無視。

そのうち統夜は不安になってきた。

 

(はあ、こんな所で勉強するのか・・・)

 

 

~休み時間~

 

一時間目が終わり、休み時間に入った。統夜は授業を大人しく聞いていたが、一つの感想を抱いていた。

 

(意外と簡単だな。姉さんに教えてもらった事ばっかりだ)

 

そう、統夜は姉に引き取られてから、ずっと勉強を教えてもらっていた。何故かは分からなかったが、その中にはISの基礎知識も含まれており、授業の内容が簡単に見えてしまう。

自分の席で一人物思いにふけっていると、統夜の方に近づいてくる人影が見えた。

 

「なあ、ちょっといいか?」

 

統夜が顔を上げると、そこにはこのクラスの男子、織斑 一夏がいた。クラス、と言っても統夜とこの織斑 一夏しかいないが。

 

「あんたは確か、織斑、だっけ?」

 

「ああ、織斑 一夏だ。一夏でいいぜ。でも本当にいたんだな、俺以外の男のIS操縦者って、あと統夜って呼んでいいか?」

 

「ああ、いいよ。まあ俺も検査を受けて、引っかかっただけなんだけどな」

 

「ちょっといいか?」

 

話をしている最中にいきなり声をかけられる二人。声のした方向へ顔を向けると、そこにはポニーテールの少女がいた。一夏が女子生徒に面識があるようで声を上げる。

 

「……箒?」

 

「……廊下で話そう」

 

言うが早いか、教室のドアに向かって歩き出す女子生徒。一夏と統夜は顔を見合わせる。

 

「一夏、知り合いなのか?」

 

「ああ。小学校の時の幼馴染みなんだ」

 

「じゃあ早く行ってやれよ」

 

「ああ、ちょっと行ってくる」

 

統夜から離れてく一夏。一夏が扉の向こうに消えて、大きく息をついた。

 

(男がいて助かったな。それに良い奴、なのかな?いきなり話しかけてくるなんて)

 

統夜は再び席で思考する。統夜の中で、一夏は“良い奴”という認識になる。その内、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。

 

 

~休み時間~

 

二時間目が終わり、統夜の席の周りには一夏、箒が集合している。統夜としては、とても迷惑な状態なのだが。

 

「統夜、紹介するよ。こいつは篠ノ之 箒。俺の幼馴染みだ」

 

「よろしくな、紫雲」

 

「ああ、よろしく」

 

「いや~、ホント良かったよ統夜が来てくれて。俺一人だったら身が持たなかったもんな。箒とも会えたし、今日はいいことばっかだぜ」

 

「ふん、しかし何年ぶりだ?こうして出会うのは」

 

「ああ、小学校の時以来だから、かれこれ7,8年かな?」

 

元々口数は多い方ではない統夜。一夏と箒の会話を眺めていると、一つの声が割り込む。

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

「へ?」

 

一夏が間抜けな声で返事をすると、そこにいたのは金髪を伸ばし、縦ロールにした“今どき”の女性だった。

 

「・・・なんですか?」

 

統夜が不機嫌な声を出して疑問を口にする。統夜としては、普通に接したつもりだったのだが相手は不快に感じた様で、声を荒らげる。

 

「まあ、何ですのそのお返事!私に話しかけられただけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないかしら?」

 

「……」

 

正直言って統夜はこの様な人間が嫌いだった。ISという力があるから偉い。その様に自分の力を勘違いしている様な人間、自分が持っている力の本質も理解していない人間。

 

「悪いな。俺、君が誰だか知らないし」

 

仏頂面をして黙っている統夜の代わりに、返答する一夏。その言葉を聞いて、女は大仰なポーズを取る。

 

「この私を知らない?このセシリア・オルコットを?イギリスの代表候補生にして入試主席のこの私を?」

 

聞いてもいないのに、自分の事をべらべらと喋り続けるセシリア。いい加減統夜はうんざりしていたが、一夏はあくまでマイペースで話し続ける。

 

「あ、ひとつ質問いいか?」

 

「何ですの?」

 

「代表候補生ってなんだ?」

 

その瞬間、クラス数名がずっこける。セシリアは金魚のように口をぱくぱくと開け閉めしていた。

 

「あ、あ、あ……」

 

「あ?」

 

「あなた、本気でおっしゃっていますの!?」

 

「おう、知らん」

 

しれっと言う一夏。横から統夜がカバーを入れる。

 

「一夏、代表候補生っていうのは、国家代表の卵って所だよ。まあ、何人もいるけどな」

 

統夜が毒混じりに一夏に教える。セシリアはそんな統夜を見下した目で見続けていた。

 

「まあ、ずいぶんと物知りですのね。そう!私はエリートなのですわ!!」

 

「それで、用件は何ですか?」

 

「ISの事で分からない事があれば、まあ泣いて頼まれたら教えて差し上げますわ。なにせ私、入試で唯一教官を倒したエリートなのですから!!」

 

「あれ?俺も倒したぞ、教官」

 

その言葉を聞いた瞬間、セシリアの顔が固まる。箒も驚いているようで、一夏に問いかけた。

 

「一夏、それは本当か?」

 

「うーん、倒したっていうか、相手が突っ込んできて、避けたら壁に激突して動かなくなったんだけど」

 

(それ、勝ったって言うのか?)

 

一夏の答えを聞き統夜が疑問に思っていると、セシリアが何故か憤慨していた。あまりの勢いに一夏も閉口している。

 

「あなた!あなたも教官を倒したっていうの!?」

 

「ちょ、ちょっと落ち着けって……」

 

「これが落ち着いていられ──(キーンコーンカーンコーン)──っ!」

 

セシリアの言葉の途中で、三時間目の始まりを告げるチャイムが鳴った。セシリアは捨て台詞と共に、自分の席へと戻っていく。

 

「また後で来ますわ!逃げない様に!よくって!?」

 

「全く、おかしな奴だな、なあ統夜?」

 

一夏が統夜に同意を求めるが、統夜は難しい顔をして黙りこくっていた。心配した箒が声をかけ、やっと元に戻る。

 

「紫雲、どうかしたのか?」

 

「っ!!いや、何でもないよ。それより二人も早く席に着いた方がいいんじゃないのか?」

 

その言葉を聞き、急いで席に戻る二人。しかし統夜は二人が戻ってもしかめ面をしていた。

 

(はあ、こんな所で三年間も過ごすのか・・・)

 


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