IS インフィニット・ストラトス ~クロガネを宿し者~   作:Granteed

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第十三話 ~アンノウンVSアンノウン~

簪は目を瞑ったまま、目の前の事態が終わるのを待った。不思議と熱さは感じず、また体に痛みも全く感じない。無限とも思える数秒は、周囲が静かになる事で終わりを告げた。しかし未だに統夜に抱きしめられている事実に戸惑い半分、恥ずかしさ半分となって慌てて離れようとする。周りを見ると煤や埃が舞い、所々では小さい炎が踊っていた。

 

「紫雲君……紫雲君!!」

 

そこでようやく自分達が陥っていた事態を把握した。余りにも現実離れしていた光景に頭が麻痺していたのだろうか、統夜が自分の身を挺して簪を守ってくれたという事実に気づく。急いで統夜の包容を抜け出した簪は目の前の人物の肩を両手で掴んで揺さぶった。

 

「紫雲君!紫雲君!!」

 

しかし統夜は全く動かない。制服の各所は焼け焦げ、体中は煤だらけ。頭からは血を流し満身創痍の状態。両手はだらりと下げられ、顔はうつむいて表情を見ることは出来なかった。只々簪の手の動きに合わせて体を前後させるだけ。その事実に簪は茫然自失となって床に崩れ落ちる。

 

(私のせいだ……)

 

あそこで立ち止まらずに急いで統夜と一緒にピットから出ていればこんな事にはならなかったかもしれない。止めようとしても心の中から自責の念がどんどん溢れ出てくる。とうとう簪の頬に一筋の涙が流れ落ちた。

 

(ごめんなさい……ごめんなさい……)

 

自責の念に押しつぶされそうになる簪。半ば廃墟と化したピット内に簪のすすり泣く声だけが反響する。しかしその時、目の前の統夜の足先がぴくりと動いた。

 

「……紫雲君?」

 

涙を流しながら顔を上げる。簪がしゃがみこんでいる位置からだと、統夜の顔がおぼろげながら見る事が出来る。そのまま注視していると、統夜の口元がわずかに動いているのが見て取れた。急いで立ち上がって統夜の肩を再び揺さぶる。

 

「紫雲君!」

 

「……簪さん、大丈夫?」

 

「そ、それより紫雲君の方が!!」

 

「……ごめん。簪さん」

 

一瞬簪は何を言っているのか分からなかった。その言葉の意味が分からない簪はとにかくピットから出ようと統夜の片手を取る。

 

「早く!先生に──」

 

「いいんだ、俺は……」

 

簪の言葉を遮って統夜がか細い声を上げる。その声には何故か悲しみの感情が込められていた。簪に引っ張られるが、統夜は全く動こうとしない。統夜の手を握ってピットから出ようとする簪だったが、統夜が動かないので不思議に思って再び統夜の顔を注視する。

 

「紫雲君、早……く……」

 

しかしその言葉は最後まで出る事は無かった。何故なら統夜の体が発光しているのである。いや、よくよく見れば統夜の体全体が発光している訳ではなく、傷口が光を放っていた。血で赤く染まった制服越しに淡い光を放っている統夜を見て、簪は思わず手を離してしまう。

 

「あなた、それ……」

 

統夜はゆっくりと顔を上げて簪の顔を真っ直ぐに見る。先程の爆発で飛んできた何かで切ったのだろうか、頬には大きな切り傷が出来て血が滲んでいた。だが、それすらも淡い光を放ちながらまるでビデオの逆再生の様に治癒していく。統夜の瞳はいつの間にかその形を変え、色さえも黒から赤に変わっていた。

 

「俺は……化物なんだよ」

 

頬の傷も、統夜が少ない言葉を発している内に綺麗さっぱり消えてしまった。頬に血が残っていなければ、先程までそこに大きな傷があったなどと気づかないレベルで治癒されていく。呆気に取られている簪をよそに、統夜はゆっくりと壁際に目をやる。そこには画面の中央部分に深い亀裂が走っているが、何とか生きているモニターがあった。画面には、正体不明の機動兵器と戦っている一夏と鈴の姿が映っている。

 

「し、紫雲君……」

 

「簪さん、早く逃げて……」

 

「で、でも……」

 

「早く……早く逃げろって言ってるだろ!!」

 

今まで聞いたことのない、激情が入り混じった声音にビクリと体を震わせる簪。統夜は何も言わずにただただ簪を見つめているだけだった。数秒後、ようやく簪が動き始める。何度も何度も統夜の方を振り返りながら、ピットから出ていった。そこで統夜は再びモニターに目をやる。

 

「一夏……鈴……」

 

映し出されている映像を見る限り、一夏と鈴は押されているようで防戦一方だった。

 

(簪さんに……見られちゃったな)

 

統夜は先程の簪の顔を思い浮かべる。涙と驚愕で染まった顔は、統夜の脳裏に焼きついていた。自分に向けられた恐怖と驚愕の視線はこれが初めてではないが決して慣れる物でもない。

 

(一夏達が……危ない)

 

統夜は立ち尽くしていたかと思うと、ふと首に手をやる。首元をごそごそと漁って何かを掴み取ると、目の前に持ってきた。手をゆっくりと開くと、そこにあったのは白と黒で彩られた三つ巴を象ったアクセサリーが先端についているネックレスだった。

 

「やるしかないのか……」

 

統夜はそのネックレスを何とも言えない表情で見つめていた。苦痛を堪えているかのように唇を噛む統夜だったが、ゆっくりネックレスを握りこんだ右手を胸元に持ってくる。

 

「……来い」

 

小さく統夜が言葉を発した次の瞬間、胸元に当てた右手から光が溢れ出して統夜を包み込む。そのまま光はピット内に広がっていき、全体を白い光で覆い尽くしていった。

 

 

 

 

 

 

 

「きゃああっ!!」

 

「鈴!くそおおおっ!!」

 

一夏が鈴に攻撃していた相手に斬りかかる。鈴を刀で切りつけていた敵機はすぐさま目標を変更して一夏の雪片を受け止めた。刀と刀がぶつかって火花が飛び散るが、一夏は白式のスラスターを全開まで吹かすと、そのまま力に任せて敵を大きく弾き飛ばす。

 

「鈴!大丈夫か!?」

 

「けほっ、何とかね……」

 

一旦距離を取った二人はすぐさま固まる。敵機も一度固まって一夏と距離を取っていた。

 

「これは……ちょっとマズいわね」

 

「鈴!俺が行くから援護を──」

 

「バカ、こんな状況でアンタが突撃してどうするのよ!まだ生徒も退避し終わってないのに……」

 

そう言ってちらりと視線を観客席に向ける鈴。その視線の先には、逃げ遅れた生徒達が溢れかえっていた。それに加えて阻害されているのか、先程からピット内の管制室にいるはずの千冬や統夜達と通信が出来ない。今はシールドが張られているが、いつ敵が生徒達を襲い出すか分からないこの状況で、突撃などは下策中の下策だった。

 

「……一夏、逃げなさい。私が時間を稼ぐから」

 

「何言ってんだよ!俺も戦う!!」

 

「ただ時間稼ぎするだけよ。勝とうと思わなければこいつら──」

 

鈴と一夏が話しているその時、敵機が動き出した。角が付いているのを残して残りの三機がそれぞれ扇状に展開していく。ミサイル持ちの二機は両脇に、一機はそのまま突撃してきて一直線に一夏めがけて加速した。

 

「一夏、避けて!!」

 

「クソッ!!」

 

何とか回避しようとするが、左右に回り込んだミサイル持ちが背部の銃器を手に取って発砲し、一夏の退路を潰す。そしてとうとう正面の敵と一夏との距離が10mを切った。

 

「一夏っ!!」

 

鈴は左右の敵の相手で手一杯だった。不意を突かれた一夏の首に敵の右手が迫り来る。その時、いきなり一夏の背後から一本の太刀が伸び、目の前の敵機の右肩を串刺しにした。

 

「え!?」

 

一夏は顔の右横すれすれを通り過ぎている武器に面食らって動けなかった。そのまま太刀は相手の右肩にねじ込まれて一気に突き出される。その結果、敵の右腕は肩から砕け散り、体もアリーナの端まで吹き飛ばされた。地面に残された右腕は、切断部分からバチバチと火花を散らせている。

 

「な、何で……」

 

鈴の呆気に取られる声が一夏の耳に届く。一夏はゆっくりと後ろを振り返る。自分を助けてくれた太刀の持ち主は、確かにそこにいた。だが、その姿を見た一夏の顔が驚愕に染まる。

 

「お、お前……」

 

それはまるで鬼だった。全長はISを装備した一夏より一回りか二回り程小さいが、大きな肩当てと全身から吹き出る圧倒的な威圧感に、むしろ一夏の方が小さい様な錯覚を感じる。額の左右から天に向かって二本の白い角が突き出ており、体は白を基調として細部に黒と赤のカラーリングが施されていた。前腕部には手甲の様な物が装備されていると同時に、下腕部には太刀の鞘が取り付けられている。そして角の間には黒く染まった三つ巴がはっきりと描かれていた。自分を助けてくれた人物を見て、一夏は思わず二、三歩後ずさりする。

 

「もしかして……白鬼!?」

 

一夏が疑問を投げかけると、白鬼と呼ばれた物は左手で保持していた太刀を鞘にしまい込む。そして一夏の顔を真っ直ぐに見た。

 

≪……一分持たせろ≫

 

「え?」

 

白鬼から聞こえてきた声は無機質な機械音声(マシンボイス)だったが、そんな事より一夏は白鬼が言った言葉の方が大事だった。鈴も一夏の所に合流してきた所で、再び同じ言葉を繰り返す白鬼。

 

≪もう一度言う。一分持たせろ≫

 

そう言い残すと、一夏と鈴の目の前でいきなり白鬼が消えた。慌てて辺りを見回すが、影も形も見当たらない。

 

「ど、どこ行ったんだ!?」

 

「一夏、前!!」

 

「っ!くそっ!!」

 

鈴の警告の声に従って前を見ると、先程白鬼に片腕を吹き飛ばされた敵が再び刃物片手に突撃してきた。今度は一夏も雪片で敵の攻撃を受け止める。

 

「こんのぉ!!」

 

鈴も青龍刀を手にして残りの三機めがけて突撃していった。そのまま戦っていると、再びアリーナに白鬼が現れる。まるでマジックの様に、先程まで何もなかった空間にいきなり現れた白鬼は、そのまま素手で一夏に斬りかかっている敵を殴りつけた。正面からその拳を受けた敵機は再び大きく吹き飛ばされる。

 

「アンタ!どこ行ってたのよ!!」

 

≪……生徒達を逃がすため、閉まっていたドアを全て破壊した≫

 

その言葉を受けて一夏と鈴が観客席に目をやると、徐々に生徒達の数が少なくなっていく。その事実に多少なりとも安心感を受ける二人だったが、白鬼はその二人を放って敵と相対した。

 

「お、おいちょっとアンタ!危ないって!!」

 

≪休んでいろ。その機体にはもう、エネルギーが無いだろう≫

 

白鬼に言われた通り、既に白式のエネルギーは底をつく直前だった。鈴と戦ってエネルギーを消耗してそのまま正体不明の敵と戦闘、むしろここまで良く持った方だ。

 

「で、でも!」

 

≪もう一度言う、休んでいろ≫

 

そう言い残すと白鬼は一人で敵に向かって歩いていった。敵はそれを確認すると、それぞれ背部に装備してあった射撃武器を手にとって、弾丸をばら撒き始める。

 

「し、白鬼!!」

 

一夏が声を上げるも、白鬼は止まらなかった。銃撃が当たっても装甲は殆ど傷つかず、多少カスリ傷が生まれてもすぐにその部分が光りだしてあっという間に元の綺麗な装甲に再生していく。そして背中にあるテールスタビライザーを展開して段々と加速していく白鬼。最後にテールスタビライザーを大きく吹かせて、一気に敵の懐に潜り込んだ。

 

「す、すげぇ……」

 

「な、何なのよアイツ……」

 

一夏達の目の前では一方的な戦闘が展開されていた。敵は手にした銃を撃ち続けるが全く有効打にならない。そして白鬼の左手が、最後方にいた角持ちの頭部を鷲掴みにしてそのまま加速を続ける。二機はアリーナの壁に激突してようやく止まった

 

≪……≫

 

白鬼は無言のまま右手を大きく引くと、そのまま目の前の敵の胸に突き立てる。手刀はまるで槍の様に深々と敵の胸に突き刺さった。胸を貫かれた敵機は目を数回点滅させて、ガクリと頭を落とす。それと同時に、一夏の耳に千冬の声が通信越しに届いた。

 

≪……りむら、織斑!聞こえるか!?≫

 

「千冬姉!何でこのタイミングで!?」

 

≪どうやら、今やられた敵が、妨害電波の発信と施設のネットワークのハッキングを行っていたようだ。すぐに我々教師部隊が向かう。お前達は退避しろ!!≫

 

「……千冬さん、教師部隊の出番は無いみたいよ」

 

鈴が視線を外さずに通信に応じる。鈴の視線の先では、白鬼がミサイル持ちを二機とも手刀で貫いて行動不能にさせる所だった。とうとう最後の一機になった敵に一歩一歩、白鬼が迫っていく。しかしその時、アリーナにいてはいけない人間の声が響き渡った。

 

「一夏ぁー!!」

 

「ッ!箒!?危ない、逃げろ!!」

 

一夏が使用していたピットの出口部分に、箒がたった一人で一夏めがけて声を張り上げていた。その言葉に、一瞬だけ白鬼と敵機も動きを止める。しかしあくまで動きを止めたのは一瞬だけだった。

 

「逃げてっ!!」

 

鈴から金切り声が上がる。何故なら最後の敵機が白鬼と距離を取り、左手に持っていた銃器を箒に向けたのである。後は引鉄を引くだけで弾丸が発射され、箒は帰らぬ人となるだろう。

 

「箒ぃーーー!!!」

 

一夏が白式のスラスラーを全開にして、ピットにいる箒めがけて飛んでいく。だが無情にも次の瞬間、敵機の銃から弾丸が射出された。

 

「あ……」

 

ISを装備した一夏の目には、弾丸の軌跡がはっきりと見えていた。そのまま行けば確実に箒に当たる、外れるなどありえない。その事を直感的に一夏は理解した。箒も目を瞑るだけで一歩も動かない。しかし、その弾丸は途中で進路を変える事となる。

 

「お、お前は……」

 

≪……早くここから退避しろ≫

 

つい先程まで敵機と切り結んでいた白鬼が、いつの間にか箒の目の前にいたのである。白鬼はその装甲を持って、銃弾が箒を襲うのを防いでいた。一夏も遅れて箒の元にたどり着く。

 

「おい箒!大丈夫か!?」

 

「あ、ああ。しかしこいつは……」

 

箒がチラリと横目で白鬼を見る。白鬼は箒と一夏に背中を向けたまま、敵機を睨みつけていた。白鬼がいるからだろうか、敵機の攻撃は一旦止んでいる。

 

「箒、早く逃げろ。ここは俺たちが何とかするから!!」

 

「……分かった。だが、ちゃんと帰ってこい!私は待っているぞ、お前が勝って帰ってくるのを!!」

 

そう言って箒は駆けていった。後に残された一夏は白鬼の横に並び立つ。

 

「なあアンタ、力を貸してくれ。あいつには……箒を撃とうとしたあいつにだけは、負けたくないんだ!!」

 

≪……構わない≫

 

そう言って一夏と白鬼が揃ってアリーナに降り立つ。着地した位置に鈴も合流すると、一夏が鈴に指示を出した。

 

「鈴、俺に向かって衝撃砲を最大出力で撃ってくれ」

 

「はあ?何言ってるのよ、そんな事したら──」

 

「いいから、やってくれ」

 

「……分かったわよ」

 

鈴が衝撃砲をチャージする体勢に入ると、白鬼と一夏が並ぶ。白鬼は二本の太刀を両手で構え、一夏は鈴の真正面に立って雪片弐式を正眼に構えた。次の瞬間、白鬼が加速して一直線に敵機めがけて飛んでいく。

 

「鈴、やれ!!」

 

「行くわよ、一夏!!」

 

鈴が最大出力で衝撃砲を撃つ。勿論鈴の正面にいる一夏に弾丸は直撃し、一夏の体が一瞬海老反りになるがぐっと堪えて体勢を立て直した。

 

「うおおおおおっ!!!」

 

一夏の目の前に展開されているモニターに次々と文字が浮かび上がっていく。最後に表示されたのは、“零落白夜 発動”の文字だった。そしてその瞬間、一夏が加速を始める。鈴と戦っていた時に使用した瞬時加速(イグニッション・ブースト)をもう一度使用し、先行していた白鬼の背中に一気に近づく。一夏の目の前では、敵機が未だに最後の抵抗とばかりに発砲を続けていたが、全て白鬼が両手に構えた太刀で弾丸を弾き飛ばしていた。

 

≪……行け≫

 

白鬼が短く言葉を発すると白式は大地を蹴って飛び上がり更にスピードを増した。敵の目には、白鬼の背後からいきなり一夏が現れた様に映るだろう。そのまま両手を大きく後ろに持ってきて、力を込める。

 

「終わり、だあああっ!!」

 

そのまま巨大なエネルギー刃を展開した雪片をすれ違いざまに全力で振り抜く。一夏は加速の勢いを殺しきれずに敵を通り過ぎて、ゆっくりと停止した。

 

「や、やった……」

 

「一夏!!」

 

余力が残っていないのか、そのまま脱力する一夏の下に鈴が飛んできた。白鬼は上空に浮かんだまま、敵機を見つめている。

 

「やったじゃない、凄かったわよ!!」

 

「あ、ああ。ありがと──」

 

その瞬間、背後から何かの稼動音が聞こえてきて一夏はそちらを振り向く。先程の一撃で胴を真っ二つにされた敵は地面に倒れ込んでいた。それはまあいい、当然だろう。しかし、残った左手には銃器が構えられていた。しかもその赤い単眼はしっかりと一夏を見据え、銃口は一夏達に向けられている。

 

「鈴、どけっ!!」

 

一夏が鈴を押しのけて射線から遠ざけようとするが、一瞬早く敵が指に力を込める。そのまま弾丸は発射される──

 

≪気を抜くな≫

 

事は無かった。上空から一瞬で降下した白鬼が、太刀を抜き放ち敵の銃に突き立てたのである。切り取られた銃身は重力に従って落下していった。敵も今の行動が最後の力だった様で、目の光を明滅させて最後には消えてしまう。静寂が支配するアリーナだったが、いきなり火花を上げていた敵の体が爆発し始めた。

 

「な、何だ何だ!?」

 

派手な爆発音を響かせながら、白鬼と一夏に倒された敵機は順番に自爆していった。最後に白鬼が太刀を突き立てている敵機が白く輝き、白鬼もろとも自爆する。

 

「し、白鬼!!」

 

一夏が叫び声を上げるが、届いたかどうかは分からない。だが、黒煙に紛れてシルエットが浮かび上がったかと思うと、ゆっくりと煙の中から白鬼が姿を現した。装甲の各所に煤がついているが、目立ったダメージは受けていない様である。

 

「本当に何者なのよ、アイツ……」

 

一夏の横で鈴が小さく呟いた。白鬼は太刀をしまうとゆっくりと一夏達に近づき始め、数メートルの距離まで来ると足を止めた。

 

≪……怪我はないか?≫

 

「は、はい!助けてくれて、ありがとうございます!!」

 

≪そうか≫

 

「……助けてくれた事には感謝するわ。それで、アンタ何者なのよ?私の記憶が正しければアンタ確か六、七年前に日本に向かって来たミサイルを撃墜して、そのまま逃げたのと同じ奴よね?」

 

≪ぜひ、我々にも聞かせてもらいたいものだな≫

 

その時、スピーカーから千冬の声がアリーナに響きわたる。白鬼はその声にも反応する事はなく、じっと一夏を見つめていた。鈴も一夏の隣に立って不信の目つきで白鬼を見る。

 

≪色々と聞かせてもらおうか。まずは貴様、名は何だ?いつまでも“白鬼”と呼ぶわけにもいかないだろう≫

 

その声を受けて、白鬼が真っ直ぐ一夏を見る。無言で睨まれた一夏は、そわそわし始めた。数秒後、唐突に白鬼がぽつりと呟く。

 

≪……ラインバレル≫

 

「ラインバレル、それがアンタの名前って訳?」

 

鈴の問いかけに無言でこくりと頷く白鬼、もといラインバレル。意外とあっさり質問に答えてもらった事に鈴と一夏は面食らった。

 

≪それでは次に聞こう、貴様の目的は何だ?≫

 

≪……≫

 

「な、なあ。あんたって一体誰なんだ?」

 

そう言って一夏がラインバレルの肩に手を置こうとした瞬間、ラインバレルが消えてしまった。まるで先程までそこにいたのは幻だ、とばかりに影も形も無く完全に消えてしまったのである。先程までラインバレルがいた場所を、目を白黒させながら何度も見る一夏と鈴。

 

「千冬姉!ラ、ラインバレルが消えた!!」

 

≪……こちらでも確認している。どうやら奴は特殊な移動法を持っている様だな。ともかく貴様らからも話を聞きたい。一旦こちらに戻れ≫

 

「……行きましょうか、一夏」

 

「あ、ああ」

 

鈴と一緒に一夏もアリーナの出口に向かう。二人が去ったアリーナには、先程まで動いていた四つの塊が残されていた。火花と黒煙を立ち上らせながら、バチバチという音がアリーナに響き続ける。

 


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