IS インフィニット・ストラトス ~クロガネを宿し者~   作:Granteed

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第十二話 ~アンノウン襲来~

「それでアイツなんて言ったと思う?よりにも寄って“約束はちゃんと覚えていただろうが!”って言ったのよ、信じられる!?」

 

「……あのさ、鈴」

 

「何よ、統夜」

 

「俺たちの部屋に来て愚痴るの、やめてくれないか?」

 

あの鈴の友人宣言から数週間後、今日も鈴は統夜の部屋に来て統夜と簪相手に愚痴っていた。まあ愚痴るだけではなく、それなりに世間話や簪相手に女の子らしい話もしているのだが。時間は午後七時、今日も統夜達の部屋にやってきて椅子を占拠、ベッドの上にいる統夜と簪相手に愚痴っている。

 

「いいじゃない別に。迷惑?」

 

「……それで、一夏をやっつける作戦は思いついたのか?」

 

統夜が鈴に質問を投げかける。因みに統夜のスタンスは完全に鈴寄りであった。約束の内容を間違えて受け取っていたのはまだしも、流石に女の子との約束を破るどころか覚えていなかったのは全面的に一夏が悪いと思っている統夜であった。教室で一夏に質問されても“流石に今回はお前が悪い”と一貫した態度を取っていた。統夜に言われた一夏は終始首を捻っていたが。

 

「まあ、私が一夏に負ける訳ないんだけど、アンタも何か案出しなさいよ」

 

「そうだな……じゃあさ、簪さんにIS見てもらったら?」

 

その言葉を聞いて簪がピクリと反応する。ベッドの上でノートパソコンを叩いていた指が止まると同時に、二人の方を振り向く。鈴は統夜の言葉の意味が分からずに、統夜の言葉をオウム返しに繰り返す。

 

「“簪にISを見てもらう”?何よそれ」

 

「簪さんって自分で自分のIS作っているんだよ。簪さんにIS見てもらえれば、力になるんじゃないか?」

 

「ウソ!簪、アンタ自分でIS作ってるの!?」

 

椅子から身を乗り出して鈴が驚きの表情で簪を見る。ベッドの上でジャージ姿の簪は恨みがましい目で統夜を見てから、ゆっくりと鈴の質問に答えた。

 

「……うん」

 

「“うん”じゃないでしょ!アンタ凄いじゃない、自分でIS作るなんて──」

 

「そんな事……ない」

 

不意に簪が鈴の声を遮った。いつもと違う雰囲気を出しながら鈴の顔をじっと見る簪。鈴はこの数週間一緒にいて、簪のこんな顔は一回も見たことが無かった。

 

「そんな事……何の自慢にもならないの。あの人に……比べれば……」

 

「アンタ、何おかしな事言ってんの?」

 

「え?」

 

「アンタ、自分でIS作れるのよね?それって誰にでも出来る事じゃないのよ?」

 

「そ、それは……」

 

鈴は何時になく真面目な顔をして簪の顔を見つめる。統夜は二人の会話を静かに聞いていた。鈴の言葉は止まらない。

 

「そんな事はアタシにも出来ない、それがアンタには出来るの。謙遜のし過ぎはウザいだけよ」

 

「……」

 

「アタシに出来ない事がアンタには出来る。それをアタシが褒めて何かおかしい?」

 

「わ、私……」

 

簪は何か言いたそうにするが、続きの言葉が出てこない。鈴はそんな簪を数秒見つめていたかと思うと、不意に椅子から降りて部屋から出ていこうとした。

 

「簪、今度私のIS見てよね。じゃあね、二人とも」

 

そう言って鈴は部屋から出ていった。何処か気まずい雰囲気が漂う部屋の中で、統夜と簪は互いに顔を合わせる事無くベッドの上で横になっている。

 

「簪さん……そろそろ寝ようか?」

 

「……あなたも……そう思ってるの?」

 

質問に質問で返された統夜は一瞬何を言っているのか分からなかったが、すぐに先程の鈴の言葉を言っているのだと気づく。そのまま顔を合わせずにゆっくりと口を開いた。

 

「……そうだな。少しはそう思っているよ」

 

「……私が一人でISを作っているのは……姉に勝ちたいから」

 

それから簪は訥々と語りだした。いかに自分の姉が優れているか、そんな姉を持ってしまったが故に言われ続けてきた言葉の数々。そしてそんな姉に恐れにも近い感情を抱いていることに加え、それを払拭したいが為に一人でISを作っていることを。その間、統夜は一言も発することなく簪の言葉に耳を傾けていた。

 

「……だから、さっき鈴が言ったような事は私には当てはまらない。だって私は──」

 

「それでも俺は、簪さんを凄いと思うよ」

 

「……紫雲君?」

 

「例え切欠がお姉さんへの気持ちだとしても、簪さんは自分の意思でやっている。誰にでも出来るような事じゃないのに、努力して頑張ってる。それだけで俺は凄いとも思うよ」

 

そこで統夜が体をベッドから起こして簪を見る。簪も体を起こして、統夜と見つめ合う形となった。

 

「それにさ、お姉さんと違うからってそんなに悩む事も無いと思う。人それぞれが違うのは当たり前だ。だから簪さんも自信を持っていいと思うよ、簪さんがやってる事は立派な事だからさ」

 

「紫雲君……」

 

ふと簪と見つめ合っている事に気づいたのか、慌てて視線を逸らす統夜。そしてそのまま布団の中に潜り込んでしまった。

 

「じゃ、じゃあお休み!!」

 

簪は統夜の言葉に頬を緩ませながら、自分も布団に潜って灯りを消す。体を横にしながら

初めて抱く感情を込めて、その言葉を小声で呟いていた。

 

「……ありがとう、紫雲君」

 

 

 

 

簪の告白の日から数日後、とうとう試合当日となった。既にアリーナは満席、次の試合を今か今かと待っている状態である。そんな中、統夜と簪は揃って鈴側のピットにいた。二人の目の前では鈴が専用機“甲龍”を身に纏って試合開始を待っている。

 

「さあ、一夏をボコボコにしてやるわよ!!」

 

「……まあ、一応頑張ってくれ」

 

「当たり前よ!あ、IS見てくれてありがとね、簪。まだ整備科に知り合いいないから、ほんと助かったわよ」

 

「……うん」

 

その時、ピット内に試合開始30秒前を告げるアナウンスが鳴り響いた。鈴は機体を移動させてカタパルトに乗せる。統夜と簪は少し離れた位置から声援を送った。

 

「俺たちはここのモニターで見てるから。頑張れ」

 

「お、応援してる……」

 

「ありがとね二人とも!それじゃあ、行くわよ!!」

 

鈴の掛け声と共にカタパルトが大きな音を立てて稼働した。数秒後、鈴は一気に加速してアリーナの空中へと飛翔していく。統夜と簪はそれを見届けると、ピット内の壁に設置されたモニターへと目を向けた。

 

 

試合は一方的なまでに鈴に有利な展開が続いていた。むしろ正々堂々と戦って一夏が鈴に叶う道理などあるはずもなく、終始鈴が一夏を押している。しかし、統夜と簪の目に映ったのは、モニター内で不敵な笑みを浮かべる一夏の姿だった。

 

「……あいつ、何かやる気みたいだな」

 

「どうして……分かるの?」

 

「だいぶ前にやったクラス代表決定戦の時、今のあいつの顔はあの時と同じ顔なんだ」

 

その統夜の言葉を証明するかのように、一夏が雪片片手に鈴と大きく距離を取る。そして次の瞬間、一気に一夏が加速して鈴の懐に飛び込もうと距離を詰める。いきなりのスピードに鈴は反応が遅れてしまい、回避する事も出来ない。その喉元に一夏の刃が届くと思ったその瞬間、いきなりアリーナに轟音が響き地面が揺らいだ。慌てて姿勢を整える一夏と簪だったが、その振動は一回では収まらず何度も続く。

 

「じ、地震か!?」

 

「……違う」

 

簪がモニターから視線を外さずに小さく叫ぶ。統夜も釣られてモニターに再び目を向けると、そこには土煙と共に上空に浮かび上がる鈴と一夏が地上を見下ろしている映像が映っていた。

 

(何で二人とも地面を見てるんだ?)

 

統夜の疑問に対する答えはすぐに明らかとなった。数秒後、土煙の中から計四機の人型をした“何か”がゆっくりと歩いてきたのである。

 

「あ、あれは……」

 

それはISとは似ても似つかない人型の機械だった。四機の内二機はそれぞれ両肩にミサイルの弾頭部分が覗いたランチャーを、一機は頭に角を生やしているなど細部の仕様は違うが全て同じフォルムをしている。肩、脛、腰周り、各関節部分に最低限の装甲が展開されており、それ以外の部分は何やらゴムの様な表皮で覆われた全身装甲(フルスキン)だった。背腰部には銃器がマウントされ、腰の脇に大振りの直刀を装備している。顔の大部分はフェイスマスクの様な物がついているが、唯一目の部分だけが垣間見えた。しかしその部分からは赤い一つ目が、一夏と鈴を見つめている。

 

「な、何あれ……」

 

簪もモニターを見たまま硬直していた。ピットの出口は既にシャッターが閉まり始めている。どうやら警報と共にアリーナのセキュリティレベルが上がったようだ。モニターの端に映っている生徒達も我先にと逃げ出していく。

 

『統夜、簪!聞こえる!?』

 

「あ、ああ!鈴、一体どうしたんだ!?」

 

ピット内に鈴の声が響いてきた。恐らくISの通信を直接ピットに繋いだのだろう。簪は未だにモニターを見て硬直しており、統夜が返事を返す。

 

『分かんないわよ!取り敢えずさっさと逃げなさい!こっちは私と一夏で何とかするわ!!』

 

鈴が統夜と簪に退避を促している時、モニター内に変化が起こった。今まで直立不動だった四機の内二機が、肩にある兵器をそれぞれのピットへ向けて構えたのである。直感的にマズイ、と悟った統夜は簪の手を握って走り出そうとする。

 

「簪さん!早く外に──」

 

しかし統夜の行動は間に合わなかった。モニターに映っている二機の肩から撃ち出されたミサイルは、寸分違わずピットの入口に直撃する。同時に統夜達の目の前で赤い炎が襲いかかってきた。ミサイルはピットを直撃し、警報によって閉まっていたシャッターを容易に破壊して破片もろとも統夜達に迫っていく。

 

「あ……」

 

まるで目の前の出来事がスローモーションの様に見えた簪は、全身が固まって動く事すら出来なかった。目の前に迫るはシャッターの破片やピットを構成していたコンクリートの塊、そしてうねる様に迫ってくる炎だった。

 

「簪さんっ!!」

 

しかし統夜は違った。何も出来ずに突っ立っているだけの簪を統夜が身を挺して庇う。簪は統夜に抱きしめられて、そのまま暴力の奔流に飲み込まれていった。

 


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