顔見せも終了、俺は広すぎる家に帰り、ソファーに寝転がる。
そして、今日知ったことをゆっくりと出来事をまとめた。
一つ、テレビの中にはペルソナ能力者しかはいれない世界があり、地形などは入った人の心に影響される。
だが俺は少し違うと思っている。どう違うのかといわれるとわからないんだが。こう、違和感がある。心そのもの、みたいな感じがするんだが、よくわからん。多分わかることはないかもな。
一つ、テレビの中の世界、……異世界にはシャドウという無意識によって生まれた化け物のようなものがいる。これらは入れられた人には霧の日以外は危害を加えないが、ペルソナ能力者には襲い掛かってくるという。
これについては少し考えがある。シャドウというのは無意識の自分。制御できない自分。常に人の心の中にあるもので、それをペルソナとして制御できる自分たちは天敵として捉えられる。或いは無意識のままのねたみか。そんなところだろうと思っている。
一つ、異世界にはシャドウとクマ以外の生命体は存在しない。中身の無いクマや無意識の存在であるシャドウを生命体と言って良いかは謎だが、まぁいいだろう。
…………シャドウしかいないはずの世界で生まれたクマは……いや、この疑問は、口には出さないほうが良いかもしれない。考えたくない、というのが正直なところだ。
一つ、中に入れられた人は霧が出る前に助け出さないと、自分から生まれたシャドウに殺されて、死んだ後は適当な場所に放り出される。死ぬ、ということは心が無い、失われたということだ。先の仮説が正しいのなら心の世界にはいられなくなったってことだろう。
が、それ以外にも疑問がある。花村たちに話を聞いたところ、小西先輩が死ぬ前日にも雨が当然降ってた。そのときに花村はマヨナカテレビを見て、だが雪子や完二のようにハッキリは映らなかったという。つまり、入れられたのは午前0時より後、ということになる。
もしそうなら霧が出る寸前に入れてしまえば確実に人が殺せるとわかっているはずだ。二回もハッキリとテレビに映らないで死んでいるんだから、わかるはずだ。
それなのに雪子や完二の時にはかなりの余裕があった。俺の時だって、二人ほどじゃないにしろ猶予があったんだ。それが、不思議だ。
犯人は本当に俺たちを殺す気があるのだろうか、そんな疑問が心に浮かぶ。
だが不確定なことは喋らないほうがいい。まずは知ることだ。偉人曰く、知識は無駄にある、くらいが丁度いい、ということらしいし。まずは可能性を考え、人を助けつつ、進んでいくことが大切だ。
ふと、完二から返された鍵のうち、一つを手に取り、目の前に持ってくる。
よくよく見てみるとどこかで見たことがあるような気がする。子供のころ、母さんが、
「ぐっ!! い、てえ……!」
だがそれが、思い出せない。思い出そうとするたび頭が痛む。
持ち手のようなところには仮面のようなものが描かれている。それはまるで○○○○のよう。
それがなんなのか思い出せない。そうだ、最近見た。カード、裏側、異世界……。
俺は鍵を握り締めたまま、いつしか眠りに落ちていた……。
ここはどこだろう。目を覚まして思ったことがそれだった。
いや、そもそも俺は‘目を覚ましているのだろうか’?
どこか曖昧な精神。少しずつ視界が開けていく。青い部屋だ。いや、正確には部屋ではないのだろう。形から察するにリムジンなどの車のなかのようだ。……どうして俺はここにいる…………?
「ようこそ、我がベルベットルームへ」
その言葉に、弾かれる様に声の発生源を見る。……なんか異様にでかい鼻をしているやつがいた。後美人。
え? 化け物? まぁ人、でいいか。ちょっと怖いが。……なぜか、美人のほうが怖い。
「ここはどこだ?」
動揺を抑えつつ発する。
「ここはベルベットルームという場所でございます」
「えーっと、誘拐か?」
「ご心配召されるな。現実のあなたは眠りについております。わたくし共がお呼びしたのでございます。ここは精神と物質の狭間にある場所。ここではお客様とは不可分な場所。あなたを呼んだのはあなたの持っている、‘鍵’でございます」
「鍵、これか?」
俺が眠ってしまう前に握り締めていた鍵。
「そう、それでございます。ここは本来、なんらかの形で契約をした方のみが訪れる場所。あなたは心当たりがおありでしょう?」
「ああ、真実を知るため、事件を解決する。……まて。あなたは、っていったか? 他にもここに来た奴がいるのか?」
「そうです。それも、あなたのよくご存知の方だ。しかし、私共にそれを言うことはできません。私共ができるのはお客様の手助けをすることだけでございます。ご挨拶が遅れましたな、わたくしの名はイゴール」
「私はマーガレットと申します。以後よろしくお願いします」
「はぁ、どうも」
「本当ならばもう一人、このベルベットルームには住人がおるのですが、生憎と席をはずしていておりません。会うことがあったら、本人から名前を聞くのがよいでしょう」
「それはわかった。で、手伝いって具体的になにしてくれんだ?」
若干びびってるが聞かなきゃいけないところは聞かないと。
少し呼吸を落ち着ける。まずは知らなきゃな。なにをしてくれるのか。
「あなた様の持っている鍵は、契約の鍵で、本来はここ、ベルベットルームにきたお客様に渡されるものでございます。それを持つことにより、あなた様はベルベットルームに来ることができます。本来は人には見えぬ扉が、ね。そしてここではペルソナの合体ができるのでございます」
「ペルソナの、合体?」
「本来、ペルソナは一人一つまでしか持てぬもの、しかし、ここにくるお客様はワイルドという能力を持っています。その能力によって複数ペルソナをお持ちになることができるのでございます。しかし、あなたはどうやら特殊なようだ」
「特殊?」
見た目がうんぬんってわけじゃないだろうし、ちょっと気になる。鍵をポケットにしまいながら話を聞く。
「あなたは本来ここに来ることの無かったはずのお方だ。しかし、契約者の鍵をもっているが故に、ここに来てしまっている。本来であればこちら側の住人か、先ほど言った、ワイルドの持ち主だけのはずなのです。だがあなたは、そのどちらでもない。正確には、ワイルドの能力をもっていない方なのでございますよ」
「おい、それじゃあどう手助けするって言うんだよ」
「まずは、ご説明いたしましょう。あなたは、ワイルドの能力は持たぬはずだった。しかし、その契約者の鍵、そしてここに来ることができたゆえに、ワイルドの能力を手に入れているのですよ。ただ、不完全なままで、ね」
「不完全? どっか悪いことでもあるのか?」
「ワイルドは本来発現するのは稀ですが、誰もが持っているもの。あなたも、或いはあなたのご友人も。しかし、あなたは稀の中には本来含まれていない。契約者の鍵を手にしたが故使えるようになっただけでございます。ワイルド、とは絆の力。絆を深めれば深めるほど、その能力は強くなっていきます。そして、敵を倒したとき、戦いの最中に見えるはずなのですよ、可能性の芽が、カードとしてね。時には、それはひどく捉え辛い時もありますが、あなたも心配は無いでしょう。ワイルドの能力者は絆が無くてもペルソナをつくり、或いは手に入れることができます。しかし、あなたは絆を深めなければ複数のペルソナを使うことができないのでございますよ。そして、あなたは不完全であるからか、今までの境遇からか、絆を深める相手が限られております。実に残念でございます」
「難しい物言いだな。つまり、だ。簡単に言うと誰かと仲良くならないと使えない。だがちゃんとしたペルソナ能力者は絆が無くても使える。なら俺はともかく、どうして絆を深める必要がある?」
俺は不完全らしくて絆を深めないと使えない、けどちゃんとしたワイルドの使い手は絆が無くても使える。意味が無いんじゃないか? というのが俺の考えだ。
「絆とは、他者とのつながり、あなたは自分と繋がりが無い人たちの中で、一人で戦うことができるのでございますか?」
つまりは、そういうことだな。
「それに、副次作用と呼べるものもあります。あなた様が行っているゲームというもので例えましょう。ペルソナは一定の強さ、まぁレベルと呼べるものを持っております。絆を深めると、その絆を深めた相手に応じたペルソナが、合体したときに強くなるのでございます。例えるなら、レベルアップでございますな」
「その応じたペルソナってのはどうすればわかるんだ?」
「ペルソナにはアルカナというものがあり、絆を深めたときにはそのカードが形として現れるのですよ。よく思い出して御覧なさい。頭の中になにかが浮かびそうになったときはございませんか?」
「そんなこと……あった」
そうだ、確かにあった。鳴上が見舞いに来たときだ。頭に何かが浮かびそうになった。だがあの時は鍵を持っていなかったからちゃんとした形では浮かばなかった……。
「そしてご注意なさい、あなたが一定の強さを持たなければ、それより強いペルソナは作り出せません。これも先ほどと同じでゲームに例えましょう。自分のレベルより高い武器は使えないというわけです」
「ふぅ、現実離れした話、だがテレビの中の異世界、という時点で今更、か」
「そうだ、もうひとつ、忘れぬうちに申しておきましょう。あなたも節目の年におり、謎が解かれなければ、その未来は永久に閉ざされるやもしれません」
「死ぬってことか。不安になるから聞きたくは無かったが、必要なことではあるな」
と、視界がぼやけ始めた。
この感覚は、ここに来るときと同じ感覚。
「あなたの体が目を覚まそうとしているのでしょう。では、又会う日までごきげんよう」
その言葉と共に俺の意識は薄れ、また同時に覚醒したのだった。
「夢だけど、夢じゃなかった、なんて事が現実に起こるなんてな」
先ほどのありえないような、夢と断定してもしょうがない出来事。だがあれは現実だとわかっている。なぜなら、右手に握ったまま寝たはずの鍵がポケットの中に仕舞ってあったからだ。これだけでもう夢であり、同時に現実だと理解できる。……矛盾しているが正しいとか。
「契約者の鍵、どうしてこんなものが……。考えてもしょうがないか。しかし、複数のペルソナ、か。きっと、あいつだろうな。ま、そんなことはどうでもいい、か」
残った問題はもうひとつの鍵だ。
多分これはなんの変哲もない鍵。問題はどこの鍵かってことなんだが。
部屋のあちこちを探ってみることにした。
三時間後
眠い……。広すぎるんだよこの家!! 簡単に調べるだけでどんだけかかってるんだよ!!
だがそのかいあってどうにか秘密の扉を見つけることができた。
しかし、眠いので続きは明日だ。
無理やりすぎる、とかそういう突っ込みはなしの方向でお願いしたいです。