完二が帰ってきたはいいが、あまり動ける状態じゃないらしい。
いったいどんな無茶をしたんだ? まぁ骨折とかそういうのをしたわけじゃないっぽいから問題はなさそうだが、心配だな。
が、何度か見舞いに行っている途中テレビ局で話を聞かれる、ということになった。見た目がこうだから、なんか知らんが少年の犯罪者、出所後の生活、ということで話を聞こうとしたらしい。日本人だといっても聞きゃしない。適当に言って帰ったが、まったく。
胸糞悪い。
さて、今日は日曜日。いつもどおり通院しにいったら、傷がほぼ完治し、激しい運動をしても問題ないと言われた。
もうすでに包帯はとっており、元に戻った。
これでまたまともに料理が作れる、なんて喜んだ。
のだが次の日。
「ねぇ、なんか変わったこと無い?」
「だから無いっての」
天城、里中の変わったこと無い?の波状攻撃をくらいへこみそう。
「こっちはやっと包帯がとれて嬉しいくらいなんだ。問題なんて無い」
「なら、いいんだけど」
「心配だったから」
やれやれ。
心配してくれるのは嬉しいが、こうまでしつこいんじゃかなわん。
事実何も無いっての。……土曜くらいまではなにも無かったのに、なんなんだっての。
来週林間で同じ班だからか? そういう感じじゃ一切無いしなー。
……まさか包帯はずした後、小西先輩のこと悪く言った上、花村のことも馬鹿にした女二名を殴っちまったからか? ……まさか、な。そーだとしたら花村が言うはずだし。いや、ま、気遣うようなかんじで見てはきてるけどな、その花村。
まぁこんな事があったりしたわけだが。
そして夜。ちょっと疲れたので眠ることにした。ちょっと早いが別に良いだろう。というかあいつらが原因だけどさ。まぁ気にしないさ、うん。やっぱ気にする。
俺は深い眠りについた。……永眠じゃないからな?
遠くで何かが聞こえる。なにかが鳴っているような、そんな感じだ。
何かが、なっていて、俺はそっちに向かう。ボーっと、何も考えず、ただなんだろう、と。
現に扉を開ける。玄関の、ドアだ。
あけて、ふと何かがあって違和感に気づく。だが、何かが当たって俺はその違和感に気づくことなく、また眠りに落ちて行った。
そして、再び目覚めるた時、俺は自分の居場所がわからなかった。
左右前後と上。どこを見ても何も見えない。
唯一見えるのは……霧だけ。目を凝らせば辛うじてなにかが薄っすら見えるような気がする、という程度しか見えない。
「ここは、どこだ?」
呟くも、当然、返事など無い。
あるのは孤独という名の絶望感。
……歩く。とにかく、とまっていてもしょうがない。
俺は何かを振り払うかのように、ただ闇雲に歩き出していた。
歩く、歩く、歩く。
ひたすら歩き続けると、霧がわずかに薄くなり、ここがどういった場所なのかわかりかけてきた。
一応、屋内のようだ。
そして、それ以外をあらわすと言うなら……ここは、地獄だった。
声にならない悲鳴、苦痛の呻き、狂気の叫び、打ち付ける音、潰れる音、なにかが噴きだす音、聞こえる音はそればかりだ。
霧が僅かに晴れる。だが、晴れて欲しくなどなかった。
その僅かで見えた光景。人の死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死!
自分自身にはなにも起こらない。だから体よりもさきに精神(こころ)がまいってしまいそうだった。
いや、もしかしたらもうすでにおかしくなっていたのかもしれない。
ただ自分では感じられないだけなのだろう。あらゆるヒトが……いや、あらゆるモノが死ぬ空間で、なにも感じていない時点で……。
それでもただただ歩き続けると、かなり霧が薄いところにたどり着いた。
「部屋、か」
時間の感覚がわからない。
もう誰でもいい、いっそのこと俺を嫌っていた親族でもいい、俺の前に来て、俺を助けてくれよ……。
『本当にそれを望んでんのかよ?』
確かに聞こえた声。だが、聞こえるはずの無い声。
それは聞き間違えるはずの無い、毎日のように聞いていた――――――――――
――――――――――‘俺の声’だった。
少し文章をアットと変えました。他の話も微妙に変わってるところあるけど。