遊戯王GX-至った者の歩き方-   作:白銀恭介

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時を経た想い

小休止を挟んで、3位決定戦が行われた。

今は再度の小休止を挟んで、決勝が行われる前になる。

 

天上院対万丈目の3位決定戦はギリギリの勝負だったが、天上院の勝利。

天上院のデッキは、女性的な戦士族のデッキ、本人いわく【サイバー・ガール】

《サイバー・チュチュ》から《サイバー・プリマ》につなぎ、序盤は場を制圧、最後は《サイバー・ブレイダ―》に《巨大化》を装備して逆転勝利だった。

 

万丈目のデッキは久遠の見立てでは【チェスデーモン】だったが、デュエルを進めてみると《地獄戦士》、《ヘルポエマー》、《地獄将軍・メフィスト》、などなど、デーモン要素が全く出ない。

あえて名前をつけるなら名前で共通している【ヘル】だろうか。

モンスターを4体並べて場を盛り返したところまではよかったが、サイバーブレイダー召喚時に《ヘルポリマー》を使ったのは勉強不足。

生贄に捧げたことで罠効果を受けなくなり、返しのターンで逆転された。

久遠に言わせれば、あのデッキ構成でよく回せたなという感想だった。

 

そして、入学試験の最終デュエル。

お互いに準決勝で相手を1ターンで倒した二人のデュエルが始まろうとしていた。

 

久遠の相手は4年ぶりに再開する昔馴染み。

久遠をデュエルの世界に誘い、ホームになるショップに連れて行き、そのショップでの事件で分かれることになったその人。

家の都合で転校することも重なり音信不通になっていたのもあり、もう会うことも叶わないと思っていた。

自分を守るためにKC社とI2社の庇護を受け、地位を求めてプロになったということは否定しない。

それでも、プロとしての活動を一心不乱に続けてきたのは、彼女に「まだ俺はデュエルを続けている」と伝えるためだったのだろう。それこそメディアにでることもなく、がむしゃらに。

 

楓はどう思っているのだろうとちらりと見る。

すでにデッキをセットし、目を閉じ、精神を落ち着けているようだ。

そこからは感情を読み取ることはできない。

それでもいいかと思いなおす。

これからデュエルをするのだ。思いのたけはそこで解るだろう。

 

「(あ、そうだ……)」

ふと思いなおし、試験官の方を向く。初戦は特に確認せずやりすぎた。

それを謝罪するために試験官の方に近づこうとすると、向こうから近付いてきた。

「『帝さん』ご安心ください、ギャラリーはシャットアウトしていますので、今回の件で外部に漏れることはありません。一般人も3名ほど居りますが、そちらについても社長なりのお考えがあるそうです。」

 

どうやら試験官はKC社のスタッフだったらしい。雇い主の好意に感謝しつつ、

「そうですか。ではご厚意に甘えます。甘えついでにもう少し悪ノリしますので、社長には黙っててください」

とお願いし、自分の定位置に戻ってもらう。

 

「それでは、入学試験決勝デュエルを始めます。神倉楓さん、鷹城久遠さん。定位置についてください」

「「はい」」

 

デュエルディスクを構えて定位置に付く。

まだデュエルディスクなんて持っていなかった頃、一度だけ大会で借りたことがあった。

まるであの時の様。

「(……っと、感傷に浸ってる場合じゃないな)」

 

意識を切り替える。

今まで多くの舞台に立ったのは『久遠帝』でも、それを演じていたのは鷹城久遠だ。

それまでの舞台と同じように意識が切り替わっていく。

 

「さぁ、始めよう」

「ええ」

もう交わす言葉は必要ない。全ては終わってからだ。

まずは、全てをぶつける。

 

「「デュエルっ!!!!」」

 

 

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TURN 1(MP1)

 

鷹城久遠 【???】

- LP 4000

- 手札 5

- モンスター

- 墓地

- 除外

 

神倉楓(TP) 【魔法使い族】

- LP 4000

- 手札 6

- モンスター

- 墓地

- 除外

 

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「私は、守備表示で《魔導騎士 ディフェンダー》を召喚し、効果発動、このカードに魔力カウンターを1つ乗せるわ。カードを3枚伏せて、ターンエンド」

 

滑り出しは静か。だが押し寄せるときは一気に押し寄せるのが魔法使い族、それは楓の1回戦の結果を見ても明らかである。

それでも、突き進む。

 

「俺のターン、ドロー」

 

ちらりと自分の初期手札を見る久遠。手札は悪くない。

 

「俺は《未来融合-フューチャー・フュージョン》を発動、融合デッキの《F・G・D》を選択し、デッキから融合素材モンスターのドラゴン族モンスター5体を墓地に送る」

 

1回戦の焼き直しの様な光景、しかし違うのはここから。ここからデッキの姿がお披露目となる

 

「墓地に送られた3枚の《伝説の白石》の効果発動、このモンスターが墓地に送られたとき、特定のモンスターをデッキから手札に加える。そのモンスターは、これだ」

 

デッキからモンスターをサーチし相手に見せる。

その瞬間、相手が驚いたように目を見開く、同時に周囲の天上院、万丈目、試験官もざわめきだす。

無理もない、これもまた、"伝説"の一角

 

「俺が手札に加えるのは《青眼の白龍》、3枚の白石が送られたので、手札に加えるブルーアイズも3枚だ」

 

 

「おいっ!!ど……どういうことだ、なんでお前なんかがブルーアイズを持っている!!」

 

ようやく現状がつかめたのか、万丈目が騒ぎだす。無理もないが……

「万丈目、ギャラリーがプレイヤーに口出しするのはマナー違反だ。ちょっと黙ってろ」

「ぐっ…確かに、悪かった。だが後で聞かせてもらうからな!!」

「ああ、そうだな、後でなら話してやるよ」

 

もっと騒ぎたてるようだったら試験官に追い出してもらおうとも思ったが、さすがにそこはモラルに反しない精神を持っていたようだ。

 

「悪いな神倉、続けるぞ。魔法カード《トレード・イン》、手札のレベル8モンスターを墓地に捨て、2枚ドローする。俺は手札に加えた《青眼の白龍》を捨てて2枚ドロー。そして魔法カード《融合》、手札の《神竜 ラグナロク》と 《ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-》を墓地に送り、《竜魔人 キングドラグーン》を融合召喚、攻撃表示だ」

 

こちらのフィールドに初めて現れたモンスター、キングドラグーン、人の頭に竜の体のこいつは、さらなる展開を与えてくれる。

 

「キングドラグーンの効果発動、手札のドラゴン族モンスターを1対特殊召喚できる。俺は、《青眼の白龍》を特殊召喚、攻撃表示だ。行くぞ、神倉」

「………」

「バトル。キングドラグーンでディフェンダーを攻撃、トワイライトバーン」

「ディフェンダーの効果発動、魔法カウンターを一つ取り除くことで、破壊を無効にするわ」

「ブルーアイズ、ディフェンダーに攻撃、滅びのバーストストリーム」

 

伝説の一翼の力が、盾を持った魔法使いに襲いかかる。

滅びの力がその身に届くその瞬間。

 

「リバースカードオープン、速攻魔法《ディメンションマジック》、ディフェンダーを生贄に、手札から《コスモクイーン》を特殊召喚。」

 

1回戦でも出てきた魔法使いの女王、少なくない威圧感がフィールドを埋め尽くす。

 

「ディメンションマジックの追加効果、相手フィールドのモンスターを破壊する」

「キングドラグーンの効果、このモンスターがフィールドにいるとき俺のフィールドのドラゴン族モンスターは効果の対象にならない」

「引っかけには乗らないわ、ディメンションマジックの破壊効果は対象をとらない効果、よってキングドラグーンの効果の適用外、私はブルーアイズを破壊」

「ちぇ……乗ってこなかったか」

「筆記1位を甘く見ないでよね。」

 

軽い心理戦も交えたが、とりあえず、攻撃の手はかわされた。

次に備えよう

 

「メインフェイズ2、俺は魔法カード《一時休戦》を発動、お互い1枚ドローして、次の神倉のエンドフェイズまでお互いにダメージを受けない、1枚ドロー」

「私も、1枚ドロー」

「《デコイドラゴン》を通常召喚、守備表示。カードを2枚伏せて、エンドだ。」

 

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TURN 2(EP)

 

鷹城久遠(TP) 【青眼の白龍】

- LP 4000

- 手札 1 (《青眼の白龍》)

- モンスター《竜魔人 キングドラグーン》(攻2400)、《デコイドラゴン》(守200)

- 魔・罠 《未来融合-フューチャー・フュージョン》伏2

 

神倉楓【魔法使い族】

- LP 4000

- 手札 3

- モンスター《コスモクイーン》(攻2900)

- 魔・罠 伏2

 

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ダメージ面は問題なくなったが、このターンしのげるか。

 

「私のターン、ドロー」

「(……来い)」

「私は《強欲な壺》発動、デッキから2枚ドロー、そして《熟練の黒魔術師》を召喚。」

 

現れたのは黒衣を来た魔術師、これが入っているということは、このデッキはやはり…。

 

「バトル!コスモクイーンでキングドラグーンに攻撃」

「通してもダメージはないがドラグーン除けられると困る。リバースカード《月の書》コスモクイーンを裏守備表示に変更」

「黒魔術師に魔力カウンターが乗るわ、黒魔術師でデコイドラゴンに攻撃」

「デコイドラゴンの効果発動、このモンスターが攻撃対象になった時、墓地に在るレベル7以上のドラゴン族モンスターを特殊召喚、攻撃対象をそのモンスターに変更する。俺はブルーアイズを選択。」

「なんですって!?ブルーアイズに攻撃はできないわ、リバースカード《重力解除》、さらにリバースカード、《マジシャンズ・サークル》お互いにデッキから攻撃力2000以下の魔法使い族モンスターを攻撃表示で特殊召喚、私は《ブラック・マジシャン・ガール》を選択し、特殊召喚!」

「俺は、《青き眼の乙女》を特殊召喚。」

「重力解除の効果で全モンスターの表示形式が変更され、攻撃は中断されるわ」

「攻撃は中断されたが、特殊召喚は無効にならない。ブルーアイズを攻撃表示で特殊召喚」

「そして、黒魔術師にカウンターが乗るわ」

 

 

結果的には楓の攻撃は失策に終わった。

が、しかし自分フィールドのモンスターを失わなかっただけ危機回避力が高いともいえる。

そして、あえてブラマジガールを出してきた理由は、この時点での展開力を稼ぐため。

ブルーアイズが出てきた以上、攻撃の機会はそうそう与えない。

 

「メインフェイズ2、魔法カード《ソウル・テイカー》。デコイドラゴンを破壊して、鷹城君のライフを1000回復」

デコイドラゴンは破壊される。

 

しかし、代償は少なくない。

守るため、攻撃の糸口をつかむために魔法1枚と罠2枚を消費し、さらに結果的に久遠に展開を許す羽目になっている。

それでも、次のターンに守りきれる見込みがあるからこそ、強硬手段に出たのだろう。

 

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンド」

「(黒魔術師の効果を使わないのか?) 俺のターン、ドロー」

そのフィールドに、伝説の白き竜が牙をむく。

 

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TURN 4(MP1)

 

鷹城久遠 【青眼の白龍】

- LP 5000

- 手札 2 (《青眼の白龍》)

- モンスター《竜魔人 キングドラグーン》(守1100)、《青き眼の乙女》(守0)、《青眼の白龍》(攻3000)

- 魔・罠 《未来融合-フューチャー・フュージョン》(T1)、伏1

 

神倉楓(TP) 【魔法使い族】

- LP 4000

- 手札 0

- モンスター《コスモクイーン》(裏守)、《熟練の黒魔術師》(守1700/MC3)、《ブラック・マジシャン・ガール》(守1700)

- 魔・罠 伏2

 

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「俺は、装備魔法《ワンダー・ワンド》を《青き眼の乙女》に装備し、攻撃力を500アップ、そして、魔法、罠、モンスター効果の対象となった《青き眼の乙女》の効果、デッキ、墓地、手札から《青眼の白龍》を特殊召喚できる。俺は、墓地からブルーアイズを特殊召喚、攻撃表示だ。さらにキングドラグーンの効果でブルーアイズを特殊召喚、同じく攻撃表示だ」

 

場は整った。あとは楓の守勢とどっちが上回るかを争うのみ。

 

「ドラグーンと乙女を攻撃表示に変更し、バトル、ブルーアイズで裏守備のコスモクイーンを攻撃、滅びのバーストスリーム」

 

先ほど魔法で破壊された竜が、今度は圧倒的な力を持って魔法使いの女王を破壊する。

 

「次だ、ブルーアイズでブラマジガールを攻撃、滅びのバーストスリーム、2打目っ」

「…くっ!」

 

楓もここで意地を見せるだろう。守りの1手を打つならここしかない。

 

「キングドラグーンで黒魔術師を攻撃だ」

「攻撃宣言前にリバースカード《リビングデッドの呼び声》墓地のディフェンダーを特殊召喚」

「巻き戻しだ、攻撃対象をディフェンダーに変更、トワイライトバーン」

「戦闘ダメージは受けるけど、ディフェンダーの効果、黒魔術師の魔力カウンターをはずして破壊を無効」

 

神倉楓:LP4000 →3200

 

「そう来るか、ならこちらも追撃だ。リバースカード、《正当なる血統》通常モンスター用のリビングデッドのようなものだ、ブルーアイズを蘇生、ディフェンダーに攻撃だ」

「もう1枚のリバースカード《六芒星の呪縛》ブルーアイズの攻撃力を700下げて攻撃を封じるわ」

「マジか、すげーな。最低限モンスターは全滅させられると思ったが…」

「そう思い道理にはさせないわよ。あなたにデュエルを教えたのは誰だと思ってるの?」

「そだな。甘く見てた。これ以上は無理だな。メイン2、ワンダーワンドを装備した乙女を墓地に送り、2枚ドロー、1枚伏せてエンドだ。」

 

 

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TURN 4 (EP)

 

鷹城久遠 【青眼の白龍】

- LP 5000

- 手札 1

- モンスター《竜魔人 キングドラグーン》(攻2400)、《青眼の白龍》(攻3000)×3

- 魔・罠 《未来融合(みらいゆうごう)-フューチャー・フュージョン》(T1)、《正当なる血統》、伏1

 

神倉楓(TP) 【魔法使い族】

- LP 3200

- 手札 0

- モンスター《熟練の黒魔術師》(守1700/MC2)、《魔導騎士ディフェンダー》(攻1600)

- 魔・罠 《リビングデッドの呼び声》、《六芒星の呪縛》

 

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神倉から見ると、フィールドの状況は絶望的だ。相手フィールドには上級モンスターが3体。こちらにはモンスターが2体だけ、あとは使ってしまった伏せカードだけ。

このターン、起死回生の1手が打てなければ、負けてしまうことは必至。

それでも。

「(楽しい!!)」

 

4年ぶりに再開した幼馴染、当時と同じドラゴンデッキ、めくるめく攻防戦、そして伝説を携えるまでに成長した幼馴染。こんなに楽しいデュエルはあの時以来、もしかしたら過去最高のデュエルかもしれない。それだけに、勝ちたい。一矢報いてやりたい。

 

「(場は整えたよ、だから一緒に……)私のターン、ドロー!!」

 

カードを引く、そしてエースを…あの日彼にもらったこの1枚をフィールドに立たせる。

「私は黒魔術師、ディフェンダーを生贄に、《混沌の黒魔術師》を召喚。」

「混黒…かよ…。てっきりブラマジで出てくると思ったが…。」

「そう、これが私のエース。2年前、プロになった久遠帝選手にもらったパックで手に入れて以来、ずっと私のデッキの象徴よ」

「そうか…あの時の…」

 

あの時、ちゃんと俺は運命を渡せていたか、と久遠は理解する。それが、彼女をこの世界にとどめてくれる役割を果たしてくれていたのなら、こんなにうれしいことはない。

 

「ええ、でも今はデュエルの最中よ。混沌の黒魔術師の効果、召喚に成功したとき墓地の魔法カードを一枚手札に加える。私は強欲な壺を選択、手札に加えて発動!来たっ!!装備魔法《魔術師の力》を混黒に装備、私のフィールドには魔法・罠が3枚、よって、攻撃力は1500アップして4300!さらに魔法カード《拡散する波動》を発動。1000のライフを払って、このターン混黒は全体攻撃を可能にする。バトル!!ブルーアイズを攻撃、滅びの呪文!!!」

 

巨大な魔力の波動が白い竜を襲う。一連の攻撃が通れば、ダメージは5300、大逆転だ。

巨大な爆発がフィールドを覆い、その後フィールドに立っていたのは。しかしながら4体のドラゴン。

そして、混沌の名を冠する魔術師は、フィールドにその姿を残すことはなかった

 

「リバースカード、《禁じられた聖槍》。モンスターの攻撃力を800下げ、魔法・罠・モンスター効果を受けなくする。よって魔術師の力は効果を及ぼさず、攻撃力は2000になる」

 

神倉楓:LP 3200 → 2200 → 1200

 

これで、楓のフィールドは空。

手札は0

大勢は決した

 

「……ターン……エンド」

 

「俺のターン、ドロー。未来融合の効果でFGDが特殊召喚される」

 

もうじき、この夢のような時間は終わる。終わるからこそ、言葉で想いを確認しあいたかった

 

「鷹城君」

「何だ?」

「強くなったね」

「ああ、強くなった」

「今度は私が追いつく番だ」

「ああ、待ってるよ」

 

―そうして、長い時を重ねてひと時の接触をもった2人だけの時間は、終わりを告げる

 

「バトル、ブルーアイズでダイレクトアタック。滅びのバーストストリーム!!」

 

神倉楓:LP 1200 → -1800

 

勝者:鷹城久遠

 

 

―そして、時計の針は再び回り始める

 

 




分かたれた道が1つに集う。

そのための儀式を終え、少年と少女は新たな1歩を刻み始める。

「ふははははははははっ」
立ちふさがる難関と理不尽は多い。

次回、「進むべき道」


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