「貴方達、デッキは持ってるの?」
「一応持っていますわ」
「アタシも」
「同じく」
深夜の大騒動の果てに行われることになった
女子たちが集まって方針を決めている間、男子三人は集まって打ち合わせを始める。
「で、翔はデッキ持ってきてないのか?」
「ごめんっス、アニキ。こんなことになるとは思ってなくて……」
「まあいいさ。どんなデュエルでも俺は大歓迎だ」
「……お前はそうだよねぇ」
すでにどうでもよくなり始めている久遠に対して、相手に出方を今か今かと待ちわびている十代。
どのみち決闘は避けることができないので、久遠は十代に方針を決めるため話題を変えることにする。
「どっちにせよ、こっちは十代と俺のチームだからな。方針決めようか」
「お、そうだな。久遠はどんなデッキで行くんだ?」
「まぁなんでも行けるんだけどさ」
「じゃあさ、昔やったHEROデッキ使ってくれよ」
「昔……って、カードショップのときのやつか?」
「おう! あれ、もう一度見てみたい」
「ん~、却下」
一瞬考えるも、十代の申し出を却下する久遠に対して、あからさまな不満の表情を浮かべる十代。
「えぇ~!?」
「いや、意地悪で言ってるわけじゃなくてな? E・HERO使ってても要がエクシーズだから、お前とのタッグではシナジー微妙」
あとは、基本的に1人を対象にしたワンキル仕様なので、単純にチーム戦に向いていないという側面もある。
「じゃあ、どうすんだよ~?」
「HEROに無限の可能性があるって言ってたのはお前じゃないか。素直にお前に合わせた形でいいよ。融合型デッキでやろう」
「お、それならわかりやすくていいや。でも久遠できるの?」
「ま、なんとかね。あとは、女子がどう来るからだな」
「あ、決まるみたいッスよ?」
翔の言葉に女子のほうを振り返ってみる。
全員がこちらに向かって歩いてくる。そして、それぞれの手には、デッキが握られている。
代表して明日香がこちら側に意志を伝えてくる。
「決まったわ。『軍勢戦』で行くことにする」
「あいよ。そっちは4人出るのか?」
「対応できる?」
「こっちは翔がデッキ持ってないから俺が3人分ってことになるけど」
「いいよ、それで」
「おっけ、じゃあ始めるか」
そう返す楓の言葉に、特にリアクションは返さないものの、内心で感心する久遠。
どう考えても久遠が3人分参加することは向こうからすれば完全に不利な状況なはずなのに、それを是とする。最悪自分1人の2対4の変則軍勢戦でもいいかと思っていただけに、肩透かしを食った気分でもある。
「(それだけ、自信をつけるだけの場数を踏んできたってことかね)」
最初はモチベーションが低かった決闘が、楽しみになってきた。
「じゃ、いきますか。4対4の軍勢戦、スタートだ。準備はいいか」
「おう!」
「ええ」
「うん」
「当然よ!」
「準備はできておりますわ」
その回答を聞き、久遠は手元のデュエルディスクを操作する。
『デュエルモード変更、軍勢戦・4対4、3人担当モードを開始します』
そのメッセージとともに、デュエルディスクが変形、カードを置く部分の面積が3倍に拡大する。
「おお、なんだそれ!?」
「KC社製のデュエルディスク。多人数を考慮してのデュエルディスクだとさ。あんまり使う人いないから知らんかもだけど」
「すげぇ、見せて見せて」
「あとでな。やるぞ」
「「「「「「デュエル!」」」」」」
十代+久遠(A,B,C)VS 明日香+楓+ジュンコ+モモエ
--------------------
「まずは0ターン目。各陣営は自分の場を整えることができる。ドローできないこと以外は先行1ターン目にできることと変わらない」
軍勢戦の特徴である『0ターン目』の概念。これはこちらでレクチャーしながら進めほうがいいだろう。
「まずはこちらからやったほうがいいな。プレイヤーAの0ターン目だ。モンスターをセット、カードを2枚伏せてエンド。続いてプレイヤーBの0ターン目。《E・HERO エアーマン》を召喚、召喚時の効果で《E・HERO ブレイズマン》を手札に加える。カードを1枚伏せてエンド」
《E・HERO エアーマン》Lv4/風属性/戦士族/攻1800/守 300
2人分を終えたところで
「ちょっと質問いい?」
「ん? どうぞ」
声をかけてきたのは楓
「今、久遠君が伏せたカードは私たちの0ターン目に発動できるの?」
「ああ、そういうことな。答えは『できない』だ。ルール上軍勢戦の0ターン目は全員同時に行われている扱いになる。だから逆に俺のフィールドの伏せカードをそっちの0ターン目で破壊することもできない。まぁ、これは『相手フィールドへの干渉』にあたるからどちらにせよできないけどな」
「わかった。続けて」
「おっけ。次、十代な」
「あれ? 久遠の3人目は?」
「プレイヤーCは『0ターン目、何もしない』ことにした。だから次、十代」
「ふーん、手札でも事故ったのか? まあいいや、俺は、《E・HERO フェザーマン》を守備表示で召喚、カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
これで、男子チームの0ターン目はすべて終わったことになる。
続いて、女子チーム。最初に行動を開始したのは、明日香。
「私は、《サイバー・チュチュ》を攻撃表示で召喚、カードを1枚セットして、ターンエンド」
《サイバー・チュチュ》Lv3/地属性/戦士族/攻1000/守 800
昔と同じ【サイバーガール】の1体が姿を現す。わざわざ攻撃表示で出てきたということは……。
続いて、手札に手をやったのは楓。
「私は、《魔導騎士 ディフェンダー》を守備表示で召喚、このとき、ディフェンダーには魔力カウンターが乗るわ」
《魔導騎士 ディフェンダー》 Lv4/光属性/魔法使い族/攻1600/守2000
楓のほうは場を整えることを優先してきたようである。『軍勢戦』が何たるか、よくわかっているらしい。
「カードを3枚伏せて、ターンエンド」
「ワタシは、《エルフの剣士》を攻撃表示で召喚して、ターンエンド」
「わたくしは、《デス・ウォンバット》を召喚ですわ、ターンエンド」
《エルフの剣士》Lv4/地属性/戦士族/攻1400/守1200
《デス・ウォンバット》Lv3/地属性/獣族/攻1600/守 300
残りの二人にはこれといって大きな動きはない。狙うのならば、このあたりだろうか。
1ターン目を終えての久遠の思いをよそに、デュエルは動き始めることになる。
----------------------------------------
TURN0終了時
鷹城久遠(A)【????】
- LP 4000
- 手札 2
- モンスター
裏守備1
- 魔・罠
セット2
鷹城久遠(B)【E・HERO】
- LP 4000
- 手札 4
《E・HERO ブレイズマン》
- モンスター
《E・HERO エアーマン》(攻1800)
- 魔・罠
セット1
鷹城久遠(C)【????】
- LP 4000
- 手札 5
- モンスター
- 魔・罠
游城十代【E・HERO】
- LP 4000
- 手札 3
- モンスター
《E・HERO フェザーマン》(守1000)
- 魔・罠
セット1
天上院明日香【サイバー・ガール】
- LP 4000
- 手札 3
- モンスター
《サイバー・チュチュ》(攻1000)
- 魔・罠
セット1
神倉楓【速攻魔導士】
- LP 4000
- 手札 1
- モンスター
《魔導騎士 ディフェンダー》(守2000・MC1)
- 魔・罠
セット3
枕田ジュンコ【????】
- LP 4000
- 手札 4
- モンスター
《エルフの剣士》(攻1400)
- 魔・罠
浜口モモエ【????】
- LP 4000
- 手札 4
- モンスター
《デス・ウォンバット》(攻1600)
- 魔・罠
----------------------------------------
1ターン目、デュエルディスクが指定したターンプレイヤーは男子チーム。
「ここで、それぞれ前衛に出るメンバーを2人選択する。十代は……」
「もちろん出るぜ!!」
「……だよね。じゃあもう一人はプレイヤーCだ」
「え、さっき何もしなかったプレイヤーじゃんか」
「いいから。それに、どちらにせよ前衛に出てこなきゃドローできないんだから、攻撃をもう片方に任せてドローに注力するのも作戦さ」
「なるほど、そういう考え方もあるのね」
「……事故らないのが一番だけどね」
「(仰る通り)」
1ターン目が開始される
「ドロー」
「ドロー」
久遠(C)と十代がそれぞれ1枚ずつカードを引く。ど、同時に十代を一瞥する久遠。あの表情を見るに、このターン動けそうだ。
「俺は、魔法カード《融合》を発動!! 場のフェザーマンと手札の《E・HERO バーストレディ》を墓地に送り、《E・HERO フレイム・ウイングマン》を融合召喚!!」
《E・HERO フレイム・ウイングマン》Lv6/風属性/戦士族/攻2100/守1200
初手から現れる十代のフェイバリットカード。
「(なーんでああも都合よく融合素材がバンバン揃うんだろ)」
E・HEROは融合先の多様性が売りのカテゴリである。にもかかわらず、十代の戦術では3度デュエルを見て3度フレイム・ウイングマンである。
どこぞのサイバーエンドの先輩と同じような恐ろしさを感じつつ、デュエルは進む
「俺のほうは、手札を5枚捨てて、永続魔法《守護神の宝札》を発動。カードを2枚ドローする」
「5枚捨てて2枚ドロー!? そんなんじゃ、ディスアドバンテージなんてレベルじゃ……」
「!! そうか、軍勢戦のっ!!」
「ご名答」
効果に驚く明日香。そして何かに気付く楓。慌てて楓は伏せカードを再確認するも、状況打破のカードはない様子だった。
まずは、仕込み完了。
「メイン1は以上、バトルフェイズに入る」
「俺が行くぜ」
「俺の場、モンスターいないしね。いいよ。女子も戦闘メンバーを出してくれ」
「私が行くわ」
名乗りを上げたのは十代と明日香。モンスターの攻撃力だけを見るなら、十代有利だが。
軍勢戦の序盤は、そうもたやすくは攻撃を通さない。
単純計算、プレイヤー数が増大したのと同じだけ伏せカードが眠っている状態なのだ。
序盤は、どれだけそれを、こちらの被害を出させずに削っていくかがキーポイントだ。
「フレイム・ウイングマンでサイバー・チュチュを攻撃!! フレイムシュート!!」
止められるは当たり前。返り討ちに合わないのなら御の字だが
「罠発動!! 《ドゥーブルパッセ》!! 相手の攻撃を直接攻撃に変え、その後こちらのモンスターで相手にダイレクトアタックが可能!」
「なんだって!?」
サイバー・チュチュを無視して明日香へと向きを変えるフレイム・ウイングマン、飛び立つヒーローの足がそのまま明日香へとぶつかっていく。
LP:明日香 4000 → 1900
序盤にしては大きなダメージ、それによって得られるメリットが
「くぅぅぅぅっっ!! やったわね!! お返しよっ、サイバー・チュチュでダイレクトアタック、ヌーベル・ポアント!!」
わずかに攻撃力1000のモンスターの直接攻撃では、あまりにも割に合わない。
LP:十代 4000 → 3000
「くっ、やるな」
「だいじょぶ?」
「ああ、もちろんだ」
明日香のほうを見てニヤつきが収まらない十代。
それゆえに――
「速攻魔法発動」
「え?」
その言葉を発したのが誰であるかにすら気が付けなかった
魔法を発動したのは、戦闘域にいない――神倉楓
「発動したのは《凶戦士の魂》、残りの手札1枚を捨てて効果発動」
「《凶戦士の魂》!?」
「(あ、やば……)」
「モンスターカード以外のカードが来るまでドローし、そのカードを墓地に送ることで追加攻撃が可能になるんだよ、十代君」
「で、でも俺の場には攻撃力2100のフレイム・ウイングマンが――」
「サイバー・チュチュの効果、相手フィールドのすべてのモンスターの攻撃力がチュチュより高い場合、このカードは直接攻撃ができる」
「ドローカードは3枚目までモンスターカード!! 直接攻撃も3回! これでっ!!」
即死ダメージが確定した攻撃に身構える十代、しかし――
「悪いね、まだ十代にアウトになってもらうわけにはいかない。プレイヤーAでリバース、オープン。速攻魔法《月の書》発動、対象は《サイバー・チュチュ》。裏守備表示になれば追加攻撃もできないだろ?」
久遠の速攻魔法により、十代への攻撃は封殺される。
「助かったぜ、サンキュー久遠!!」
「おー。まぁこっちのターンに殺しに来るとは普通思わないよな」
「危なくやられるとこだったぜ」
「楓、どんどんワンキルのレパートリー増えてんな」
危機を脱した十代、久遠に対して。
「惜しかったわね」
「久遠様がいる時点でそうもたやすく倒せるとは思ってなかったですが……」
「でも、インパクトは残せたんじゃない?」
「インパクトなんて意味ないよ。私たちは彼ら全員を倒すために挑んでるんだから」
楓はあまり満足が行っていない様子。
ほかの女子と比べても、この一戦に対しての意気込みが違うようだ。
「とりあえず、バトルは終了だな。メイン2行こうか、十代」
「俺は特に何もないけど?」
「了解。俺は、カードを2枚セットして、エンドだ」
1ターン目から、攻守が目まぐるしく入れ替わる。これもまた、手数が多い軍勢戦の一興。
「さ、そっちのターンだ。誰が出る?」
「私とジュンコさんが出るわ」
「そっか。十代はいったん下がってくれ。多分楓の速攻は初見だとキツいから。こっちはプレイヤーAとBが出る」
「わかった」
前衛は、久遠A、Bに対して楓、ジュンコペア。
性格上明日香が出てきてもおかしくはなかったが、ジュンコを出してくるということは――
「ドロー!」
「ドローよ!」
それぞれがカードを1枚づつ引く。
「アタシは《切り込み隊長》を召喚、召喚時に効果発動、手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚できる。アタシが特殊召喚するのは、2体目の《切り込み隊長》」
《切り込み隊長》Lv3/地属性/戦士族/攻1200/守 400
《切り込み隊長》Lv3/地属性/戦士族/攻1200/守 400
オーソドックスな『切り込みロック』の成立。とはいえ想定の通り、楓を攻撃の役割に据えた防御策の構築。
となると、楓のほうは――
「ディフェンダーを攻撃表示に変更、そして装備魔法《魔導士の力》をディフェンダーに装備。魔導士の力はこちらの陣地の魔法カードの枚数分だけ攻撃力を増加させる。こちらのフィールドは私の3枚、よって、攻撃力は1500アップ! さらに!」
《魔導騎士 ディフェンダー》 攻1600 ⇒ 3100
攻撃力が一気に3100まで増加する。
そのまま、ジュンコのほうをチラリとみる楓。そのアイコンタクトに何をするべきかを瞬時に把握する
「なるほど、魔法、罠ゾーンのカードを参照するのね。私はカードを3枚セット!!」
《魔導騎士 ディフェンダー》 攻3100 ⇒ 4600
これで攻撃力は4600。あたり次第では十分にワンキル圏内。
「バトルに行くよ。当然私が出る」
「じゃあ、俺はプレイヤーBが戦闘域に出よう」
プレイヤーBのフィールドには攻撃力1800のエアーマン。
一撃で倒されることはないにしても――
「(エアーマンやられるのは、ちょっと困るね。十代は――)」
十代のほうを一瞥すると、にかっと笑顔をこちらに向けてくる十代。
十代のフィールドにある1枚の伏せカードは防衛、または迎撃ということか。
いずれにせよ、ここは任せるのが吉か。
「ディフェンダーで、エアーマンを攻撃!!」
「十代」
「え? 何?」
ありえない反応が返ってくる。
「え?じゃねぇよ。迎撃!」
「……できないけど?」
「じゃあさっきの笑顔何だったんだよ!! 紛らわしいなあオイ。しょうがない、プレイヤーCが守護神の宝札で捨てた墓地の《ネクロ・ガードナー》の効果を発動する。このカードを除外することで相手の攻撃を1度だけ無効にする。ディフェンダーの攻撃は無効だ」
カードを場外すると同時に現れる幻影が楓の攻撃を受け止める。
取り敢えず直近の危機は脱した。
「なんだ、自分で守れるんじゃないか」
「できれば伏せカードで迎撃とかしてほしかったんだけどね」
「悪い、違うカードだ」
「微妙にかみ合ってねぇなぁ。こっち」
ため息をつく久遠と。
「で、あれだけ噛み合ってないコンビに攻撃が通らないってのもね」
「久遠君と十代はあまりだけど、久遠君が3人分プレイしてるんだからその面は仕方ないよ」
「そうね、やすやすとは通らせてくれないと思うけど……」
「まずはこちらが優勢といったところでしょうか」
少しはダメージが当たると期待していたようで、女子たちも落胆を隠せない。
「ま、続けよう。メイン2は?」
「ないよ、ターンエンド」
「アタシもよ。ターンエンド」
----------------------------------------
鷹城久遠(A)【????】
- LP 4000
- 手札 2
- モンスター
裏守備1
- 魔・罠
セット1
鷹城久遠(B)【E・HERO】
- LP 4000
- 手札 4
《E・HERO ブレイズマン》
- モンスター
《E・HERO エアーマン》(攻1800)
- 魔・罠
セット1
鷹城久遠(C)【サポート】
- LP 4000
- 手札 0
- モンスター
- 魔・罠
《守護神の宝札》
セット2
遊城十代【E・HERO】
- LP 3000
- 手札 2
- モンスターは
《E・HERO フレイム・ウイングマン》(攻2100)
- 魔・罠
セット1
天上院明日香【サイバー・ガール】
- LP 1900
- 手札 3
- モンスター
《サイバー・チュチュ》(攻1000)
- 魔・罠
神倉楓【速攻魔導士】
- LP 4000
- 手札 1
- モンスター
《魔導騎士 ディフェンダー》(攻4600・MC1)
- 魔・罠
セット2
《魔術師の力》
枕田ジュンコ【????】
- LP 4000
- 手札 0
- モンスター
《エルフの剣士》(攻1400)
《切り込み隊長》(攻1200)
《切り込み隊長》(攻1200)
- 魔・罠
セット3
浜口モモエ【????】
- LP 4000
- 手札 4
- モンスター
《デス・ウォンバット》(攻1600)
- 魔・罠
----------------------------------------
2ターン目終わって、ライフ差はさほど存在しないものの、現状押しているのはどちらかといえば女子チームか。
久遠のほうで対応しているためさほど大きな傷にはなっていないが、男子チームは防戦一方となっている。
切り返しをするなら、このターン。
「行けるか?」
「おう!!」
十代も自然とわかっているようだ。
掛け声は、最小限。
「こちらの陣営はプレイヤーBと十代だ」
「こちらは私とジュンコが継続するわ」
前衛に出てきたのは久遠(B)・十代に対して、楓、ジュンコのペア
「ドローフェイズ。プレイヤーCの《守護神の宝札》の効果が適用される。ドローフェイズにこのカードが魔法・罠ゾーンに存在するとき、ドローカードは2枚になる。よって、十代とプレイヤーBで2枚ずつドロー」
「2枚ドロー!」
守護神の宝札を適用したのはこれが理由。
1ターンにドローするメンバーが多いことは、すなわち、守護神の宝札で支払ったコストの回収が早く行えることが一つ。後衛に置くことで破壊をまぬがれ、維持が容易になることがもう一つ。そして、ターンプレイヤーのドローを加速させることで、攻撃における爆発力を高めることが3つである。
そして、爆発力を高めるという1点において、ドローの枚数が増えることの恩恵を最大限生かせるメンバーが、こちらのチームにはいるのである。
まず動き始めたのは十代。
「俺は魔法カード《融合》を発動。手札の《E・HERO クレイマン》と《E・HERO スパークマン》を融合! 現れろ!《E・HERO サンダー・ジャイアント》!!」
《E・HERO サンダー・ジャイアント》Lv6/光属性/戦士族/攻2400/守1500
現れたのは金色の巨人とも言えるような、新たなるヒーロー。
そして、これこそが、攻撃力が肥大した楓と切り込みロックを成立させたジュンコの陣営のどちらかを崩せる一手。
「サンダー・ジャイアントは融合召喚成功時にもともとの攻撃力がサンダー・ジャイアント以下のモンスター1体を破壊することができる。俺が破壊するのはもともとの攻撃力1600の《魔導騎士 ディフェンダー》!! 装備魔法で強化されていても、サンダー・ジャイアントの前には無力だぜ!! 行くぞ! ヴェイパー・スパーク!!」
守りに特化した切り込みロックのジュンコよりも攻撃の脅威を持つ楓のほうを崩しにかかる。
――が、
「ディフェンダーの効果を発動。1ターンに1度、魔法カウンターを1つ外すことで、魔法使い族の破壊を防ぐことができる。ディフェンダーの破壊を無効!!」
「うげ!?」
「魔力カウンターこそ消費したけど、ディフェンダーはそうたやすくは攻略させないよ?」
「くっそぉ。久遠、悪い」
せっかくの一手を無力化されたことを悔やむ十代。
「いや、それでいい」
一方で、久遠は涼しい顔。そして、そのままカードを手に取る。
「手札から《E・HERO ブレイズマン》を守備表示で召喚。そして効果発動、このカードが召喚に成功したとき、デッキから《融合》を手札に加えることができる。魔法カード《E - エマージェンシーコル》を発動、デッキからE・HEROを手札に加える。加えるのは《E・HERO オーシャン》。そして《融合》発動。フィールドのエアーマンと手札のオーシャンを融合素材として《E・HERO アブソルート Zero》を特殊召喚」
「おおっ!! あの時のヒーロー!!」
「ぐっ……まずい!!」
「え? え? 何?」
《E・HERO ブレイズマン》 Lv4/炎属性/戦士族/攻1200/守1800
《E・HERO アブソルートZero》Lv8/水属性/戦士族/攻2500/守2000
そのものを見たことがある十代と楓は状況がわかっている一方で、おそらく見たことがないのだろう、ジュンコはほかの二人が何を気にしているのかが読めていない様子。
「で、速攻魔法《融合解除》発動。アブソルート Zeroをデッキに戻し、エアーマンとオーシャンを特殊召喚。エアーマンの効果で《E・HERO シャドーミスト》を手札に加える。そして――」
「いっけぇぇぇぇ!!」
「アブソルート Zeroの効果。このカードがフィールドを離れたとき、相手フィールドのモンスターすべてを破壊する。今この場面での相手フィールドとは『相手前衛』を指す。さあ、凍れ。
《E・HERO エアーマン》Lv4/風属性/戦士族/攻1800/守 300
《E・HERO オーシャン》Lv4/水属性/戦士族/攻1500/守1200
アブソルート Zeroが座していた場所を中心に冷気の波がフィールドを覆い尽くす。そして数瞬の後、それまで優勢な布陣を引いていた楓とジュンコのフィールドには、モンスターが残っていなかった。
「ディフェンダーの2度目の破壊をどうするかが思案どころだった。サンダー・ジャイアントのお蔭で助かった。そして今、こちらのフィールドにはE・HEROが5体いる。行けるよな?」
「おう、魔法カード《R - ライトジャスティス》発動!自分フィールドのE・HEROの枚数だけ相手フィールドの魔法、罠を破壊できる」
「現時点でそちらの前衛の魔法・罠カードは楓の2枚、ジュンコの3枚合わせて5枚!! それらすべてが破壊される」
最後の頼みの綱。前衛二人に残された伏せカードまでもすべてが破壊される。
「バトルフェイズ行こうか。俺のほうは攻撃表示がエアーマンとオーシャンの2体しかいないからライフ4000は削り切れない。戦闘域に行くのは十代だ」
「おう!!」
「そっちはどちらが出る?」
どちらが前衛に出てきても身を守るカードは1枚もない。そして十代のモンスターたちの総攻撃力は4500.どうあがこうとも、1人目の脱落がほぼ確定している。
「…………私が――」
「待って、私が出るわ!!」
「ジュンコ!?」
「楓さんのほうが戦力として上だし、手札もまだ1枚残ってる。私が残るよりも楓さんが残ったほうがいい」
「ジュンコ……わかった、お願い」
「来なさい! オシリスレッド! あんたなんか久遠さんがいなければっ」
「おうっ!! 行くぜっ!! フレイム・ウイングマン、フレイムシュート!! サンダー・ジャイアント、ボルティック・サンダー!!」
「キャアアァァァァァァ~~~ッ!!」
枕田ジュンコ:LP 4000 → 1900 → -500 (敗退)
「(ジュンコのおかげで何とか生き残れたものの、状況は最悪……どうする、どうする?)」
ジュンコが敗退、そして自分たちが前ターンで築いた布陣がわずか1ターンでボロボロにされた。
楓としては何とかして立て直しを図らなくてはならない。
「(まずは、状況がこれ以上悪くなることは避けないと)」
とはいえ手札は1枚、場にはカードなし。それはすなわち、相手の動きにかけるしかないという不安定なもので。
「メイン2、十代は?」
「ない」
「じゃあ、俺は手札の《沼地の魔神王》の効果を発動する。このカードを墓地に送り、デッキから《融合》を手札に加え、発動。もいっちょ、エアーマンとオーシャンを墓地に送り融合。再び現れろ《E・HERO アブソルート Zero》 カードを1枚伏せてエンド」
久遠を相手にしてそのような甘い望みが通るはずもない。再び現れるのは自軍の陣営を破壊しつくす英雄。
こうなっては、賭けに出るしかない。
「明日香、モモエ。第2プラン、行ける?」
「行けるわ」
「あと1枚、キーカードが……」
ならば、このターンで前衛に出られるのは――
「明日香、モモエ。前衛お願い」
「わかったわ」
「わかりましたわ」
楓の宣言通り、前衛は明日香とモモエ。こちらは先ほどと同じ、久遠(B)と十代
「ドロー」
「ドロー」
久遠は相手の陣営を見る。特に前衛の明日香とモモエを。
ドローカードを見る相手に表情を見るに、まず動いてきそうなのは明日香。
「《強欲な壺》を発動、2枚ドロー。そして魔法カード《融合》を発動! 手札の《エトワール・サイバー》と《ブレード・スケーター》を融合! 現れよ《サイバー・ブレイダー》」
《サイバー・ブレイダー》Lv7/地属性/戦士族/攻2100/守 800
「バトル行くわ!!」
「十代、出れるか?」
「おう!」
「パ・ド・トロワ!! この瞬間、戦闘域に移動したことで《サイバー・ブレイダー》の効果が適用される」
「何!?」
「サイバー・ブレイダーは相手フィールドのモンスター数に応じて効果を変える。メインフェイズ時は相手前衛全員を参照するから4体だったけど、戦闘域は相手戦闘域のみを参照するから相手モンスターは2体。その時の効果は『攻撃力の倍加』 それにより、攻撃力は4200!!」
「うげぇっ」
「フレイム・ウイングマンを攻撃!! グリッサード・スラッシュ!!」
游城十代:LP 3000 → 900
フレイム・ウイングマンが破壊され、残るはサンダー・ジャイアントのみ。明日香のフィールドには条件付きながら直接攻撃できるサイバー・チュチュがいる。このままなら十代は敗退となる。
「リバースカードオープン《ヒーローシグナル》!! デッキからE・HEROを特殊召喚する。《E・HERO バブルマン》を守備表示で特殊召喚!!」
「(さっき発動しなかったんだ。当然、伏せカードはそれだわな。そんでなるほど、それ以外に生き残る方法はないか)」
攻撃力1000以上のモンスターがいればダイレクトアタックされる。このターンの生存はとりあえず満たせることになる。
「バトル終了。メイン2に入るわ。カードを2枚セットして私は終了」
「わたくしは《レスキューキャット》を守備表示で召喚。永続魔法《黒蛇病》を発動、カードを3枚セットして、ターンエンド」
陣営を立て直した明日香に、それをサポートするモモエ。
攻撃を終えて、一息つくその瞬間こそ――
「(悪いが、読めてる)」
先ほどのドロー時の表情で見た、モモエの表情。キーカードを引いた者のそれ。
それがことを成したのがこの瞬間なのだとしたら、相手の目的は――
「(黒蛇病によるバーンと、ブレイダーによる防御、それしかない)」
だからこそ――
「エンドフェイズ時、リバース・オープン。速攻魔法発動、《マスク・チェンジ》」
「「え?」」
状況に何が起こったのかわからない二人。
「マスク・チェンジはフィールド上のE・HEROを墓地に送り、同属性のM・HEROを特殊召喚する魔法カード」
自分フィールドのモンスターを墓地に送る。
久遠のフィールドにいる1体のモンスター。それがその文言を最悪のものと変える。
加えて、後続の出現、しかもわざわざ魔法とモンスターを消費して現れるのだ。それがもとのモンスター以下ということはないだろう。
「墓地に送るのはアブソルートZero。そして特殊召喚するのは《M・HERO アシッド》」
《M・HERO アシッド》Lv8/水属性/戦士族/攻2600/守210
ヒーローは姿を変え。
「特殊召喚したアシッドと場を離れたアブソルートZeroの効果を発動。Zeroの効果で相手フィールドのモンスターすべてを、アシッドの効果で相手フィールドの魔法、罠をすべて破壊する。それぞれ適用範囲は相手前衛だ。
その姿を変える一連の動作の中で、相対するものをすべて破壊しつくす。
「そんな……まさか」
「ここまで……ですの……?」
ターンを変え、守勢に回る。その直前になって、耐えるために備えてきた守りをすべて破壊しつくされる。
前ターンの楓を含めて、守勢に回るこのターン、3名のフィールドのカードが、すべて吹き飛ばされた形になる。
「ここまでかな?」
「……悔しいけど、そうね」
「………………」
「……今回も、無理か……」
「じゃ、やろうか。十代、俺が出る」
「わかった」
「プレイヤーA、Bを選択。それぞれ2枚ドローする」
すでにゲームは終盤へと向けて動き始めている。
「プレイヤーBでスタンバイ、《リビングデッドの呼び声》を発動、対象はエアーマン。効果で《E・HERO プリズマー》を手札に加える。メイン1、《融合》発動。手札のシャドーミストとプリズマーを墓地に送り、《E・HERO The シャイニング》を融合召喚。融合素材に使用したシャドーミストの効果を発動。このカードが墓地に送られたとき、シャドーミスト以外のE・HEROを手札に加える。《E・HERO エッジマン》を手札に加える。プレイヤーC墓地の《E・HERO ネクロダークマン》の効果で生贄なしでエッジマンを召喚。」
まだ、動けるが、フィールドは埋まっている。
そして、総攻撃力は10800。残った3人のライフの合計は9900.だが――
ある1点に気づいた楓、その1点に一縷の望みをかける。
「魔法カード《マスクチャージ》発動。墓地から『チェンジ』と名の付く速攻魔法とE・HERO1体を墓地から手札に加える。《マスク・チェンジ》と《E・HERO シャドーミスト》を選択」
が、
攻撃力の総合では3人のライフの合計値を上回ってはいる。
しかし、現在の久遠の布陣では攻撃力をきれいに配分できず、最低一人は残るはずの目論見だった。
そしてフィールドはすでに埋まっている。新たなモンスターは出てこないと思っていたのに。
それに対しての久遠の答えは『モンスターを交換する』ということ。それにより、新たな1度の攻撃を捻出しようというのだ。
「バトル、いこうか」
「……私が出るわ」
久遠に対して、まずは前に出たのは明日香。
「エッジマンで明日香にダイレクトアタック。『パワー・エッジ・アタック』」
「きゃぁ~~~~~~~~~っ!!」
LP:明日香 1900 → -700
「明日香の敗退によって、前衛が先頭域に入る。」
「……わたくしですわね」
「エアーマン、アシッドでモモエにダイレクトアタック」
「きゃぁ~っ!!」
LP:モモエ 4000 → 2200 → -400
「前衛が両方敗退したことにより、後衛の楓が先頭域に来ることになる」
「………うん」
「ブレイズマンでダイレクトアタック」
「ぐっ!!」
「シャイニングでダイレクトアタック」
「くぅぅぅ~~~っ!!」
LP:楓 4000 → 2800 → 200
「速攻魔法《マスク・チェンジ》を発動。ブレイズマンを墓地に送り、《M・HERO 剛火》を特殊召喚」
《M・HERO 剛火》Lv6/炎属性/戦士族/攻2200/守1800
「剛火は墓地のHEROの数だけ攻撃力をアップさせる。現在墓地には9体のHEROが存在している。これにより、攻撃力は3100だ」
「……いいよ、来て」
「終わりだ。ダイレクトアタック」
姿がかえた炎のヒーローが最後の一人に突撃していく
「まだ……遠いなぁ」
LP:楓 200 → -2900
悔しそうな、それでいてどことなく諦観を含んだ楓の呟きとともに、深夜の決闘が終了した。
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「約束通り、翔は連れて帰らせてもらうぜ」
「約束も何も無罪確定してたけどな」
「アニキ~~。信じてたっスよ~~」
「……えー……」
無罪を証明したのに、その当事者ときたらなんでか十代に飛びついている始末。
まあ、どうでもいい事柄ではあるし、言い出すのも野暮なので放っておくことにする。
「負けたわ。いいところまで行ったとは思ったんだけど」
「前半は押せてたと思うんだけどなあ……」
「もう少し守備に割り振るべきだったのでしょうか?」
「たくさん伏せたカードがことごとく破壊されたから、破壊防止策が必要だったんじゃない」
相手フィールド側で陣を組んでいた女子チームがこちらに寄ってきた。
十代と翔が盛り上がっているからか、中東部時代からの知り合いだからか、久遠のほうにやってくる。
「お疲れ様。初めての軍勢戦としてはまずまずか」
「そうね、1対1で戦うのとは大分勝手が違ったわ」
「連携とるのが難しかったよ」
「攻守バランスは悪くなかったし、いくつか攻撃で驚かされたところはあったけどな。まあ、同一人物が3人の時点で連携度に差があるのは仕方ないかな。ついでに俺は十代のデッキ知っているからある程度合わせられたのも大きい」
軍勢戦を前提としているデッキを組んでいるというのもある。プレイヤーCで使っていたサポート用デッキなど、シングルしか想定してなければ普通はどうやっても構築しない。
「ま、こういうルールの下でどう動くか、どう構築するかを考えるのもいいかもな。またやって見たかったらいつでもどうぞ」
「マジで!? じゃあ俺、久遠と戦ってみてぇ。翔、隼人と組んで挑もうぜ!!」
「ええええぇぇぇ!? ボクで久遠君に勝てるかなぁ? でも、アニキがいれば……さっきも、すっごい活躍してたし……」
いつの間にか加わってきた十代と翔。
それに対して、ジュンコが未だ怒り収まらない様子で食って掛かる
「さっきの決闘はほとんど久遠くんの功績じゃない! オベリスクブルーの私たちが挑んでもダメだったのに、アンタたちごときが挑んでもけちょんけちょんにやられるわ」
「なにを!!」
「そうじゃない! 久遠さんがいなかったら、遊城十代なんて1ターン目でやられてたじゃない」
「へへーん、アニキにやっつけられたからって負け惜しみ~」
「何ですって!!」
何故かいきなり強気になった翔と、先ほど十代にやられたジュンコが一触即発状態である。
レッドである実情から、そこまでの実力者には見えないが、十代のような例もある。のだが、それまでの弱気な姿勢がそうであると考えさせる判断を鈍らせる。
何となく腑に落ちないものはあるものの、時間も時間である。そろそろ収集をつけなくてはならない。
「翔」
「!! ……なんスか?」
「そこまでにしときなよ。誤解とはいえ、今回の騒動の発端は君なんだから」
「で、でもぉ」
「本来覗きの類の冤罪なんかかけられた時点でアウトなんだから、許してもらったことを感謝こそしても、相手を馬鹿になんかしちゃいけないよ」
「わかったッス」
「ジュンコも、実際に戦ってみれば十代が弱くないっての判ったろ? レッドなんて決めつけでナメてかかったんなら、今日の一番の敗因はそれなんじゃないかな」
「…………。」
「納得がいかないなら自分で十代と決闘してみるといい。十代はどうせ断らないだろうし。な?」
「おう! いつでもOKだぜ!」
「『オベリスクブルー』が『オシリスレッド』より強いなんて何の意味もないんだ。本当に優位をアピールしようと思ったら、『枕田ジュンコ』が『遊城十代』より強いことを示さないと」
「…………でも……」
「少なくとも明日香はそうしようとしてた。だから十代を呼び出して決闘しようとした」
「そうね、私はそうしようとしていたわ」
「な? 同じオベリスクブルーにいるんだ。明日香にできてジュンコにできないことはないんだよ」
「…………」
頭では判っていても、腑には落ちてない。そんな様子がありありと伝わってくる。
原因は分かりきっている。
「ジュンコ」
「楓さん……」
「私だって、挑戦者なんだよ。まだカイザーに対しては負け越してる状態だし、久遠君だっている」
「でも、それは……」
「同じだよ。相手が誰かなんて関係なくて、私より強いとわかってる人、強いかも知れない人はいる。でも、そこに甘んじてるのは嫌。だから挑むし、負けたらそれを反省するの。そうして相手に勝って初めて、私はあなたより強いですって言えるんだよ。オベリスクブルーはその『結果』であって、見下すための『武器』じゃないんだよ」
「楓さん……」
「ね、私もあなたも同じ。だから、胸を張って『私があなたより強いです』って言えるように、がんばろ?」
「……うん!」
これが、説得する者が久遠ではいけない理由。
中等部に入学してから、あるいはプロとして活動を始めた時から、敗北者という立場に 立ったことのない久遠では、どうたしなめたところで、上からの物言いになってしまう。
楓がうまくそのあたりの空気を読んでくれた形になる。
そして、久遠帝として生きる、鷹城久遠としての、挑戦の道標は――
「ま、何はともあれ時間も時間だ。今日はここまでにしよう」
一瞬浮かんだ想像を、打ち払うようにして話をまとめにかかる。
顔には出さない、声にも載せない。
「そうだな、帰ろうか」
「あ、今日の決闘の反省会とか明日やってもいい?」
幸い、誰にも気づかれないで済んだようである。
気づかれてはいけない。
もう、能力を、異端を受け入れたのだから。受け入れる道を選んだのだから。
「おっけ。別に何時でも構わんよー」
「おーい、久遠。いこうぜー」
「おお、待ってろ」
別れ際、女子たちを一通り見て。
最後に、楓へと視線を送り
「そんじゃ、お騒がせだったね。また、後日」
「うん」
同世代と比較しても乖離していることは今日の決闘でも十二分に理解した。
デッキAからは速攻魔法1枚、デッキCからは永続魔法1枚と墓地のカード2枚。
メインに置いたデッキBから拡張して使用したのはわずかにこれだけのカード。
同世代のトップクラスの楓・明日香を擁するチームに対してもそれだけの消耗。これが、現実としての久遠との差。
願ってはいけない。
挑戦者として、歩むものとして、楓や十代に挑み、追いすがるような、夢を見てはならない。
挑戦者として、久遠を超えるべき者として見ている楓は、十代は、最早久遠にそんなものを求めていない。
それを、知ったのだから。
久遠の見た目はいつものごとく静か。
されど、心を揺らした久遠に、船の近くにあった何やら怪しい人影すら、気づくことはできなかった。