遊戯王GX-至った者の歩き方-   作:白銀恭介

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制裁決闘再び、悪意の末路

 デュエルアカデミア中等部の大講堂、そこに久遠は立っていた。

 その姿は、アカデミアに通っていた時の黒の制服ではなく、プロデュエリスト『久遠帝』として知られているものである。

 

 久遠は一人、講堂の中央、決闘を行うことのできるステージで対戦相手を待つ。

 3年近く前、入学したての頃、同じように久遠は『久遠帝』としてこのステージに立った。しかし、当時の姿と今のそれは同じものを『久遠帝』を指してこそいるもの、その様相は似て非なるもの。

 赤と青を基調とした髪の装飾、眼につけていたカラーコンタクト、それに合うような明るめの服装は、今となってはその名残は一つとして残すことはなく、その漆黒と言っていいコート、マント、手袋やブーツといった装飾品が『久遠帝』が変わったことを何よりも如実に表していた。

 それは決して意識して行った物ではない。進んでいく中で、歩いて行った中で、少しずつ、少しずつ変わっていったものだ。そうさせるに十分な時間を過ごしてきたし、自分で選んできたが故の結果であることは十分に理解している。

 もう、それを嘆く段階はとうに過ぎており、原因の一翼がこれから決闘する相手にあったとしても、それに対して今更どうこうといった感情を抱くことはない。

 

「(だとしても、皮肉なもんだ)」

 

 客観的に見て、そう思う。

 播磨が何をしたかったか、その心内にどんな野望を持っていたかは久遠は知る由もない。

 ただ、その計画の結果として久遠は今のようになり、その久遠によって播磨は終わりを告げられようとしているのだから、皮肉と言うほかない。

 ただ、だからと言って同情する気もないのもまた事実だが。

 

「さて……と」

 

 小さくつぶやく。そろそろ時間だ。

 未だ相手は現れず、フィールドの中央には自分一人。

 観覧自由となっている播磨の制裁決闘を見ようとする学生は少ない。比較的多いのが高等部でラーイエローに進学することが決定しているZ組生徒、そして久遠に近しい友人たち。Y組生徒に関してはまばらと言ってもいい。それは同時に、彼らにとって播磨は興味の対象でなくなったということなのだろう。

 万丈目が居ないことが若干気にかかるものの、この場においては、特に意味はないのだろう。何らかの用事があるのかもしれないし、播磨の行く末にそもそも興味がないのかもしれない。

 対戦相手たる播磨が現れないのは、此方を揺さぶるためだろうか。

 既にそんな使い古された手札を策として切らなくてはならないのかと思うと、最早苛立ちすら起こりはしなかった。

 

 たっぷり5分の遅刻を待ち、そろそろ失格を告げてもらおうかとした時。

 ステージに備え付けられた扉が開き、男が入ってきた。

 

「…………?」

 

 感情を表情にこそ出さなかったものの、播磨の姿を見た久遠は、内心で驚く。

 その姿は、3年前に見た播磨の面影をほとんど残していなかったのである。

 綺麗にまとめられ、後ろへと流されていた髪は、少し量も減っているだろうか、残っている物もほとんど色をなくし、バラバラな状態になっている。

 びしっとスーツを決めていた佇まいは、面影を欠片にも残さず、所々で粗が見える。

 それがこの3年で、彼に何があったかを如実に示しているかのようだった。

 

「やあ、鷹城君」

「…………」

 

 それが精いっぱいの虚勢だったのだろう。

 以前と同じ様に発したつもりだった声は、掠れてすらおり、威厳すら感じさせない。

 

「結局、私は君との戦いに負けたことになるんだろうな」

「…………」

 

 播磨は語り、久遠は沈黙を貫く。

 全てを失いかけている播磨の精一杯の虚勢を、久遠は一顧だにしない。

 

「それでも、私はまだ諦めるわけにはいかないのだ。なりふり構わなくても、どんなにみじめでも、この決闘にさえ勝てれば、まだ、繋がるんだ」

「…………」

 

 余裕をなくした播磨の本性を、ここで初めて見たような気がした。

 飽くなき上昇志向。その目的のために全てを利用しようという気概。

 教育者としては最低でも、そういう物を資質として求めている世界があるのもまた、世界の真実。

 彼は、その方法を間違えたのだ。

 

「これ以上の言葉は要らない。さあ、始めよう」

 

 デュエルディスクを構えた播磨と合わせて、久遠もまた、ディスクを構える。

 伝えたいことは、決闘で伝える。

 

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

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TURN 01

 

播磨元校長(TP)【宝石ドラゴン】

    - LP 4000

    - 手札 6

 

久遠帝【????】

    - LP 4000

    - 手札 5

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「私のターン、ドロー!!」

 

 先攻は播磨。

 久遠の時もそうだったが、制裁決闘ではどうも制裁される側の先攻になる傾向があるらしい。

 手札を見る播磨の様子から、彼の様子をうかがい知ることは現時点では出来ない。

 

「俺は魔法カード《融合》を発動!! 手札の《神竜 ラグナロク》と《ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-》を墓地に送り、融合召喚、現れろ! 《竜魔人 キングドラグーン》!!」

 

    《竜魔人 キングドラグーン》Lv7/闇属性/ドラゴン族/攻2400/守1100

 

 咆哮を上げるのは、黒の翼を持った黄色の龍。

 

「(あんな(・・・)デッキで良くもまぁ…………)」

 

 相手の対策を検討していた久遠としては、初手から『あんなデッキ』と評すデッキのキーモンスターを出してくる所に、相手の執念を感じる。

 

「更に俺は《神竜 ラグナロク》を通常召喚!! 加えてキングドラグーンの効果を発動、 手札のドラゴン族モンスターを1体特殊召喚する。俺が特殊召喚するのは《ダイヤモンドドラゴン》!!」

 

    《神竜 ラグナロク》Lv4/光属性/ドラゴン族/攻1500/守1000

    《ダイヤモンド・ドラゴン》Lv7/光属性/ドラゴン族/攻2100/守2800

 

 

 さらに現れた大小の龍が咆哮を上げる。1ターンで3体のドラゴン。手札の消費こそ少なくないものの一気に展開できるのがキングドラグーン型のドラゴン族デッキの強みだ。

 

「カードを1枚セットして、ターンエンド!!」

 

 播磨のターンが終わり、久遠のターンへと移る。

 あの制限された中で何もできないはずという根拠が、播磨の警戒を薄めさせる。

 

「俺のターン、ドロー。永続魔法《通行税》発動、ターンエンド」

 

 この間、僅かに5秒。それにより、考える時間を相手に与えない。

 見た目はがら空き。さあ、どう来るか。

 

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TURN 02(EP)

 

播磨元校長【宝石ドラゴン】

    - LP 4000

    - 手札 0

    - モンスター

        《竜魔人 キングドラグーン》(攻2400)

        《神竜 ラグナロク》(攻1500)

        《ダイヤモンドドラゴン》(攻2100)

    - 魔・罠

        伏せ1

 

久遠帝(TP)【????】

    - LP 4000

    - 手札 5

    - モンスター

    - 魔・罠

        《通行税》(永続魔)

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「俺のターン、ドロー!」

 

 先のターンで全てカードを使い切ってしまったので、このターンにドローしたカードが全てとなる。元々借り物のデッキを自分流にアレンジしているのだが、回すのは決してたやすくはないはずなのだが……。

 

「キングドラグーンの効果を発動! 手札のドラゴン族モンスターを特殊召喚できる! 俺が特殊召喚するのは《エメラルドドラゴン》!」

 

    《エメラルド・ドラゴン》Lv6/風属性/ドラゴン族/攻2400/守1400

 

 現れたのは光り輝く蒼の龍。

 これで相手の総攻撃力は8400.攻撃が通れば十分なオーバーキルが成立する。

 

「早速だが終わらせてもらうぞ!! バトル! キングドラグーンでダイレクトアタック!」

「攻撃宣言時、通行税の効果を適用させてもらう。お互い、モンスターで攻撃する時500ポイントライフを支払う」

 

    LP:播磨 4000 → 3500

 

「何だと!? これはカード効果によるものか!? ならばバーン効果のルール違反に――」

「かからないよ。バーンの定義は『カード効果によるダメージ』、通行税は『ライフコストの強要』であってダメージじゃない」

「ちっ、そういうことか。だが、500程度のライフロストは小さいものだ、攻撃続行!!」

「(小さい……ね。それが完全に油断なんだがなあ)」

「行けっ、トワイライトバーン!!!」

「手札から《バトルフェーダー》の効果を発動。相手モンスターの直接攻撃時、手札からこのモンスターを守備表示で特殊召喚し、バトルフェイズを終了させる」

 

    《バトルフェーダー》Lv1/闇属性/悪魔族/攻 0/守 0

 

「小賢しい真似を……だが、そんなモンスターをフィールドに出して何になる。俺はターンエンドだ」

 

 まあ、そういう反応を示すのが普通かと、改めて久遠はそう思う。今のアカデミアのステータス偏重の考え方、そのトップこそが目の前にいる相手そのものなのだから。

 というか、自分で出すモンスターのステータスを指定しておいて何を言うのかというツッコミどころもあったりするのだが、相手に後がない現状、そこまで気を配ってられないのだろう。

 

「ドロー、カード2枚セット、エンド」

 

 またしてもこの間5秒。元々こちらから展開していくことができないデッキなので、いつものように長々と展開をしていく必要がないのであるが、これはこれでアリである。

 相手に考える時間を与えないという一点において、このデッキは地味ながら相手にプレッシャーを与えるはず。

 

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TURN 04(EP)

 

播磨元校長(TP)【宝石ドラゴン】

    - LP 3500

    - 手札 0

    - モンスター

        《竜魔人 キングドラグーン》(攻2400)

        《神竜 ラグナロク》(攻1500)

        《ダイヤモンドドラゴン》(攻2100)

        《エメラルド・ドラゴン》(攻2400)

    - 魔・罠

        伏せ1

 

久遠帝【????】

    - LP 4000

    - 手札 3

    - モンスター

        《バトルフェーダー》(守0)

    - 魔・罠

        《通行税》(永続魔)

 

----------------------------------------

 

 

「俺のターン、ドロー! 俺は永続魔法《無限の手札》を発動!!」

 

 無限の手札?

 手札消費の多いキングドラグーン軸のデッキに入れる必要などまずないカード。ならば、あれは播磨が新たに追加したカードと見るのが正しい。

 

「(成程、マジブラ対策かね?)」

 

 《マジックブラスト》、《コアキメイルの甲殻》の様にドロースキップを条件に墓地から回収するカードは前提として墓地に落とさなくてはならない。前回の制裁決闘の時には手札調整を活用したが、今回はその対策として墓地に落とさせないという方法を取ったことになる。《ジャックポッド7》や遺言の仮面のようにデッキに戻せるカードがないわけではないが、手札をためて《手札抹殺》を入れれば破壊力は増す。そういう意味での無限の手札なのだろう。

 悪手ではない。が、打つのが早すぎる。

 

「バトルだ!! キングドラグーン、バトルフェーダーに攻撃トワイライトバーン!!」

「通行税の効果、500ライフを払ってもらう」

 

    LP:播磨 3500 → 3000

    

「この瞬間、リバースカードオープン! 《竜の逆鱗》、この効果により、ドラゴン族モンスターが守備モンスターの守備力を、その攻撃力が上回った時、貫通ダメージを与える!!」

「リバースオープン、《ガードブロック》発動。戦闘ダメージを0にし、その後でカードを1枚ドローする」

「ぐっ、だがバトルフェーダーは戦闘破壊だ」

「手札から自身の効果で特殊召喚されたバトルフェーダーはフィールドを離れるときに除外される、そして1枚ドロー」

「だが、お前のフィールドはがら空き! ラグナロク、ダイレクトアタックだ!!」

 

    LP:播磨 3000 → 2500

 

 久遠へと襲いかかかるラグナロク、そのバトルの始まりを宣言する声を聞き、笑みを浮かべたのは久遠の方。

 まだライフに若干の余裕があったがための強行突破なのかもしれないが、考えなしのその特攻が――

 

「リバースカード、オープン。《ディメンションウォール》発動。この戦闘で発生するダメージは相手が受ける。これもまた、『戦闘ダメージを相手に押しつける』行為にすぎず、バーンの範囲から外れる」

 

 ――首を絞めることになると、つゆ知らず。

 

 久遠に今にも噛みつこうとしていた龍が、突如現れた壁に吸い込まれ、消える。次の瞬間、播磨の後ろから消えた龍が現れ、襲いかかる。

 

「ぐあああぁぁっっ!?」

 

    LP:播磨 2500 → 1000

 

 ライフが一気に危険域に突入する。ライフが3000あったからラグナロクの攻撃を強行したのだろうが、終わってみれば残りライフは僅か1000。通行税のコストを含めると、残る2体のモンスターで攻撃することはできない。できて片方、しかしそれで久遠に止めを刺すのには届かない。

 

「…………何故だ!」

「?」

 

 攻撃が終わって、フィールドは静寂。

 そこには、攻撃を行った播磨の叫びがあった。

 

「……何故、ラグナロクの攻撃でそれを発動するんだ!? わざわざキングドラグーンの攻撃をダメージを0にすることでかわしておいて!」

「…………」

 

 久遠は答えを返さない。ほぼ完成に近いとはいえ、まだ仕込みは完了していない。次のターンに最後の仕込みをするまで、種を明かしてやる必要など、どこにもない。

 デュエルディスクをコンコンと指先で叩く。デュエルを進めろという意思表示。それは同時に播磨に対してのコミュニケーションの拒絶を意味する。

 

「くっ……ターンエンドっ!!」

 

 久遠のターンが回ってくる。

 

「俺のターン、ドロー。カードを3枚セット、永続魔法《魔力の枷》を発動してエンド」

 

 またしても数秒、だが、これで下準備は終了。

 手札からカードを発動することで500ポイントのライフコストを強要する《魔力の枷》、攻撃に500ポイントのライフコストを要求する《通行税》、残りライフが1000の播磨にとって、この2枚の布陣は残る行動は僅か1回であることを示している。そして攻撃1回では久遠は倒せない。したがって、どうにかしてこの布陣を壊さなくてはならない。

 

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TURN 06(EP)

 

播磨元校長(TP)【宝石ドラゴン】

    - LP 1000

    - 手札 0

    - モンスター

        《竜魔人 キングドラグーン》(攻2400)

        《神竜 ラグナロク》(攻1500)

        《ダイヤモンドドラゴン》(攻2100)

        《エメラルド・ドラゴン》(攻2400)

 

久遠帝【????】

    - LP 4000

    - 手札 1

    - モンスター

    - 魔・罠

        《通行税》(永続魔)

        《魔力の枷》(永続魔)

        伏せ3

 

----------------------------------------

 

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

 播磨の最後の一手は――

 

「俺は魔法カード《大嵐》を発動!」

「魔力の枷によって手札からカードを発動する際、ライフ500を払ってもらいます」

 

    LP:播磨 1000 → 500

 

「関係ない! 全て破壊し尽くせば、このターンで私の攻撃によってこの決闘は決着だ!」

 

 ――当然のように、永続魔法の破壊。

 で、あるが故に――

 

「リバースカード、オープン。カウンター罠《ゴブリンのその場しのぎ》を発動。ライフを500払い、魔法カードの発動を無効にし、そのカードを持ち主の手札に戻す」

 

    LP:久遠 4000 → 3500

 

「手札に戻すだと!? ハハハっ、魔法カードが手札に戻ったところでもう一度発動すればいいだけのこと!」

「…………できないよ」

「何!?」

「アンタのライフは残り500。魔法を手札から発動したら、その瞬間、ライフコストでお前のライフは0になる」

「あ……ば、馬鹿な! 鷹城、キサマっ! これはロック行為だ、私の行動を制限することはレギュレーション違反――」

「――にも、ならないんだよ」

「何だと!?」

「ロックの定義は『カード効果で相手の行動を制限すること』だ。一方、今アンタに対して、俺は何の制限もかけてない。カードの発動も、攻撃するのもご自由に。ただ、『発動したらその瞬間、効果も攻撃も届くことなくお前の負けになる』ってだけだ」

「あ…………な…………」

「ついでに言えば、さっきラグナロクに対してディメンションウォールを発動したのはこのためだ。この条件に持っていくためには、相手のライフをちょうど500にしてやる必要がある。そうするためには攻撃力2400のキングドラグーンより、攻撃力が1500、つまりは500の倍数であるラグナロクに対して発動した方が調整がしやすかったからだ。ガードブロックは攻撃順序の調整ってわけだ」

「……な……あ………」

「さあ、どうする? この状況を打破できたカードを持っている相手に悪いが、決めてくれるか? ターンを進めるか、何かして勝手に死ぬか」

「ぐっ………………た、ターンエンドだ」

「エンドフェイズ、永続罠《神の恵み》を発動、これにより、ドローするごとに500のライフを回復する……けど、意味なかったな」

 

 既に相手は何もできない状況に追いやられている。早めに魔力の枷を発動したケースに備えてライフコスト源として入れていたが、最早無用の長物だった。

 

「ドロー、ライフを500回復、何もせずエンドだ」

 

   LP: 久遠 3500 → 4000

 

「俺のターン……ドロー。…………ターンエンド」

「ドロー、回復してエンド」

 

   LP: 久遠 4000 → 4500

 

「ドロー……ターンエンドだ」

 

 お互いに何もしないまま、動きが全くないままに決闘はターンだけを進めていく。

 このまま進めていくとなんの面白みのないままに決闘は進み、終わりを迎えるが……

 

「なあ、鷹城君、君はこれで勝ったと思っているのだろう?」

「…………」

 

 播磨が何故か途中で語り始めた。取り合う必要はないのでとりあえずは無視をしておくが、何を言うのかだけは聞いておこうと耳だけ傾ける。

 

「確かに私は何もできなくなったが、まだ負けたわけではない。そして私が行動しなければ私のライフは減らない。そうなると、決着はデッキ切れでのみとなる」

 

 《バトルマニア》など攻撃を強制する方法もなくはないが、とりあえず聞き流すことにする。

 

「そうなると君のデッキ枚数は何枚かな? 言い忘れていたが、私はこの決闘に60枚のデッキで臨んでいる」

「…………」

 

 その程度、こっちに40枚制限を課してきている時点でその程度は読めている。

 久遠が播磨のデッキを『あんなデッキ』と評したのはこれが理由。デッキ切れ対策に全体の枚数を増やしたデッキで初手からキングドラグーンを出せたこと。それに播磨の執念を感じたのである。

 

「更に、無限の手札によってマジックブラスト等墓地回収によるドロースキップもできなくなっている」

 

 デッキに戻る効果の魔法カードもある。《魔力の枷》軸であるこのデッキには、相性が悪いから採用こそしていないが。

 

「つまりは、このまま決闘が進めば、先にデッキが消えるのは君の方となる」

「…………ドロー、ライフ回復してエンド」

 

   LP: 久遠 4500 → 5000

 

   デッキ:播磨 49

   デッキ:久遠 28

 

 リアクションは返してやらない。しかし、内心では呆れを隠しきれない。

 何度も何度も同じような手を使ってくる。自身が正しいと信じて疑わない。

 結局、それがこの男の全てで、それこそが致命的なミスであったのだと、ついぞ気づくことはなかったのだと、理解する。

 

 

 

 そして、そのまま、お互いのフィールドの状況が何一つとして動くことはなく、デッキのカードが1枚、また1枚とターンが経過し、56ターンが経過し、久遠ターンを迎えた。

 

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TURN 67(EP)

 

播磨元校長(TP)【宝石ドラゴン】

    - LP 500

    - 手札 31

        《大嵐》

    - モンスター

        《竜魔人 キングドラグーン》(攻2400)

        《神竜 ラグナロク》(攻1500)

        《ダイヤモンドドラゴン》(攻2100)

        《エメラルド・ドラゴン》(攻2400)

    - 魔・罠

        《竜の逆鱗》(永続罠)

        《無限の手札》(永続魔)

    - デッキ 21

 

久遠帝【魔力の枷・通行税】

    - LP 18500

    - 手札 31

    - モンスター

    - 魔・罠

        《通行税》(永続魔)

        《魔力の枷》(永続魔)

        《神の恵み》(永続罠)

        伏せ1

    - デッキ 1

 

----------------------------------------

 

「俺のターン、ドロー、ライフを回復する。何もしないでエンド」

 

    LP:久遠 18500 → 19000

 

「フフフ、俺のターン、ドロー。これでっ、俺がターンエンドを宣言すれば俺の勝利が確定する! 久遠帝、これでお前に土をつけられる!! ターンエンドっ」

「…………ようやく、終わりですか」

「そうとも! 私の勝利でこの決闘は終幕となる!」

「エンドフェイズ、リバースカード、オープン」 

 

 久遠のフィールドから風が舞い上がる、その猛烈な勢いに、播磨は一瞬腕で目を覆う。

 しばらくの効果の後、風が止んだフィールドを見るが、お互いのフィールドには何一つとして変化がない。

 

「最後の悪あがきか? 何の意味があるのかは判らんが、どうせ、この状況は打破しえまい。次のターンはお前には――」

「俺のターン、ドロー、ライフゲイン」

「な……何だと!?」

 

    LP:久遠 19000 → 19500

 

    デッキ:久遠 35 → 34

 

 目を疑うような光景がそこにはあった。

 最後のターンのエンドフェイズ。確かに久遠のデッキはカードが0だった。

 しかし今この瞬間、久遠はデッキからカードをドローし、デッキの枚数は播磨のそれを上回った枚数となっている。

 

「た、鷹城。お前は一体何をしたんだ!!」

「ん? 『最後の』エンドフェイズ、リバースカードを発動した」

 

 墓地のカードを確認させるためにディスクを操作して相手にカード情報を公開する

 

「こ…………このカードは!!」

「普通のアンタなら絶対に採用しないようなカードだろう? 多分、あんたのかわいい教え子達の誰もがこのカードを『クズカード』と評すだろう。でもそれが、あんたを殺すキラーカードになる」

 

 情報として表示されたのは、1枚のカード。

 

 《局地的大ハリケーン》

  通常罠

  自分の手札・墓地に存在するカードを全て持ち主のデッキに戻してシャッフルする。

 

「な……な……」

 

 久遠はマイクを切る。目の前の相手にのみ、久遠の言葉が届くように。

 

「アンタのことだ。『久遠帝』を対戦相手に選んだことも含めて何らかの布石なんだろう。だから俺はこんな決闘内容を選んだんだ。レギュレーションを守った上で、アンタの場のカードは一切破壊せず、ライフロストは全てアンタの行動を起点として行う。終盤は仮初の膠着を作って、だらけた決闘を演出する。そして、最後の決め手は決して二度と起こらないキラーカードで決着をつける。それこそがこの決闘で俺が描いたストーリーの全容だ」

 

 それは久遠の、播磨に対しての決別を告げるメッセージ。

 

「つまらない決闘展開だったよ。アンタがどんなに必死なのかは知ったことじゃないけど、それは人の心を動かす決闘にはならない」

 

 そのために50ターン以上、ただドローしてターンエンドするだけの無意味な膠着を続けた。

 

「勝手な独りよがりな決闘で、それを使って勝手に窮地に陥るようなシチュエーションを作った」

 

 そのシチュエーションを作るために、相手フィールドへの干渉を徹底的に避けた。

 

「そして、二度と起こり得ないような負け方で決闘を終えることによって、お前の制裁は避けようがなくなる」

 

 だからこそ、相手の狙いを逆手に取る方法をとり、それを逆手に取るデメリットカードを使用した。

 

「結局、アンタの本質は独りよがりに過ぎない。決闘でも、策略でも、『自分こそがすべて正しい』なんて意味のない思いあがりがこの現状を作ったんだ。お前が何の野望を持って俺と敵対したのかなんて知らないし、知るつもりもない。それを正してやるつもりすらない。お前はお前の思うがままに策を練って、それによって身を滅ぼすんだから本望だろう? だから、俺は、それには徹底的に関わらない」

 

 それが、久遠を敵に回したことの代償。久遠は誰をも救うヒーローなどではなく、敵対する者を正徹底的に倒すだけ。それが、幼いころから知っていた彼の絶対的なルールであり、播磨と出会うことで一層強めた彼の意志のありようだった。

 ゲームの範疇でデュエルを楽しむのはいい。しかし、プロとして、裏世界の人間や理外の存在と命をかけて行う決闘に関して、久遠はその有り様を完全に固めてしまった。

 

 その結果がこの現状。播磨の行動こそが全てではなくとも、責任はゼロではない。その因果が、播磨を社会的に殺しにかかる。これはそんな皮肉な、どこにでもある因果応報の物語。 

 播磨にとって不運だったのは、敵に回した相手が理外の力を持つ相手だと知らなかったこと、絶対的な信頼の基準が自分以外になかったこと。それが、この現状を生みだしてしまった全て。

 

 だから、せめてもの手向けとして久遠は言葉を紡ぐ。

 決別の、別離の言葉を。

 

「勝手に踊って勝手に死ね。俺はその死の舞踏に関わる気は毛頭ない」

 

 それに、全てがこもっていた。

 播磨は、聞いているのかどうかも判らない。既に心ここにあらずなのだろうか。

 

「ただ、アンタのせいで3年を俺は失った。だからせめて、アンタの終わりだけは見届けてやる」

 

 反応は、無い。

 

「話は以上だ」

 

 マイクを入れる、これ以上目の前の相手とコミュニケーションを取る意義はない。

 

「ターンエンド」

 

 結末は、此処にいる誰もが理解するものとなった。

 あとは、また。何一つ動くことのないダラダラとした終焉のカウントダウンを奏でるだけの決闘が続く。

 

 

 ――そして、40ターンをさらに数えて108ターン目。結局そのまま、何一つとして波乱は起こらず。

 

「ターンエンド」

 

 盛り上がりすら見せず、播磨を送る決闘は、静かなままに終わりを迎えた。

 

 

 敗者:播磨(デッキ切れ)

 

 播磨の制裁が決定した瞬間だった。

 

----------------------------------------

 

 ソリッドビジョンが消える。

 そのまま、久遠は相手に背を向けて立ち去ろうとする。

 もう、ここには用がないとばかりに。

 

 久遠が背を向けた瞬間。後ろから駆けるような足音が聞こえてくる。

 視線は後ろに戻さない。ただ、音でタイミング合わせる。

 

 不意に上体を下に落とす。その上、久遠の体があった場所を播磨の拳が空を切る。

 そのまま、足を思いっきり払ってやる。

 回した足に明確な手ごたえ。数瞬の後、どさっと倒れる播磨の体。

 呼吸すら絶え絶えになっている倒れた播磨を、立ちあがった久遠が見下ろす形になっている。

 しかしながら播磨の目は、明確な敵意をもって、こちらを睨みつけている。

 

 周りにはスタッフの黒服、播磨の状況を見て、取り押さえるために走ってきたようだ。

 話をするなら、もうこれが最後の機会か。

 

「じゃあな、播磨。願わくば、もう会わないことを願うよ」

 

 決着と言うには、あまりにもあっさりとしたもので、失った月日を埋めるには足りないけど。これも決着の一つの形。

 

「―――――――――――――――――――っ!!」

 

 取り押さえられる播磨の断末魔の叫びに背を向け、久遠は播磨との別れの儀式を終えた。

 

 

 

 




長年にわたる因縁を声、久遠たちは新たなステージ、高等部へと進む。

しかし、久遠にはまだ一つ、最大の障壁が待ち受けているのだった。

次回「俺は、知らない」
















さてさて、回答編でした。

ヒント編以前には枷と税を読めていたかた、居ました(ライフコスト強制に言及)ね。
ジャストキルじゃないですが。
むー、読まれたなぁ…………。


ヒント編以降はさすがに指摘いただいた人が多かったです。
ユベルとか時戒神とか、面白そうなのはあったのですが、バーン効果に引っかかるので……。

現冥は完全に設定のミスでしたね。当時の制限状況を見落としているという完全にアホです。


また、やりますかね?
みんな、参加してくれるかな?

さて、もうちょっとだけ続けて、原作に追いつきます。
……そのあとどうするかは考え中なんですが……。

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