遊戯王GX-至った者の歩き方-   作:白銀恭介

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挑む者、戻る者。二つの再会と一つの挑戦(後篇)

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TURN 2 EP

鷹城久遠【???】

    - LP 4000

    - 手札 4

    - モンスター

        セット 1

    - 魔・罠

 

クロノス・デ・メディチ(TP)【古代の機械】

    - LP 3000

    - 手札 2

    - モンスター

        《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》(攻3300)

    - 魔・罠

        セット 1

        《死皇帝の陵墓》(フィールド)

        《古代の機械城》(永続魔:カウンター1)

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 さて、相手のターンを終えて、ターンが久遠へと回ってくる。

 クロノスの様子は至極余裕に見える。まあ、早くもエースを並べて、なおかつ次への布石も整えているのだから、余裕の様子と言うのはわからないでもない。

 

 まあ、あまりに油断が過ぎるとあっさりと終わってしまうだろうが。

 

「俺のターン、ドロー」

「フン、易々とこの攻撃力3000は超えられはしないノーネ」

「そうですね。とはいえ、馬鹿正直に超える必要もないとは考えています」

「やれるものならやって見るノーネ」

「じゃあ遠慮なく。セットモンスターを反転召喚。起きろ《地霊使いアウス》」

 

    《地霊使いアウス》 Lv3/地属性/魔法使い族/攻 500/守1500

 

「ナ、何でスート!?」

「さて、アウスのリバース効果を発動。相手フィールド上の地属性モンスター1体のコントロールを奪う。奪うのは当然、《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》」

「ナナナ、《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》ガっ!?」

 

 現れたアウスが杖を一振りすると、クロノスを守るかのように久遠との間に立ちふさがっていた《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》が突如立ち上がり、ゆらりと久遠の方へ歩き始める。そうして久遠の目の間に立った後でぐるりと向きを変え、元の主へと無言の敵意を向け始める。

 

「(さて……と)」

 

 ここで一瞬久遠は考える。

 とりあえずコントロール奪取には成功した。これにより、相手であるクロノス教諭のフィールドにはモンスターが居なくなった。

 《死皇帝の陵墓》を使用したライフコストで初期ライフから1000減っているため現在ライフは3000。《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》の射程圏内であるといえる。

 《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》には先程クロノスが言ったように攻撃時の魔法、罠の発動を制限する効果がある。このまま攻撃するのは選択肢の一つとしてアリだ。

 一瞬手札を見て、久遠は判断を下す。

 

「俺は、《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》を生贄に――」

「《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》生贄でスート!?」

「《偉大魔獣(グレートまじゅう) ガーゼット》、攻撃表示で召喚!!」

 

    《偉大魔獣(グレートまじゅう) ガーゼット》Lv6/闇属性/悪魔族/攻 0/守 0

 

「生贄召喚に成功したガーゼットの攻撃力は、生贄に捧げたモンスターの攻撃力の倍になる」

「《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》の攻撃力は3000、ということは」

「攻撃力、6000です」

 

    《偉大魔獣(グレートまじゅう) ガーゼット》 攻0 → 6000

 

「バトル、行ってみましょう。ガーゼット、ダイレクトアタック!!」

「リ、リバースカードオープン! 《炸裂装甲(リアクティブアーマー)》、発動なノ―ネ!! 攻撃してきたモンスターを破壊するノーネ」

「あらら…………そう来ましたか」

 

 なす統べなく破壊されるガーゼット。

 それを目の当たりにしてポリポリと頬を掻く久遠に対して、先程までの驚きはどこへやら、得意げな笑みを浮かべている。

 

「勉強が足りなかったノーネ。無理にガーゼットなど召喚しなけレーバ、このターンでシニョールが勝っていたかもしれないノーネ」

「(ま、そりゃそう言うわな、結果論に過ぎんが)」

 結果だけ見れば、当然の言いようではある。ただ、最悪を考慮するならこれは選択肢は無しではないと久遠は考えていた。

 霊使いのコントロール奪取は霊使いが表側表示であるとき限定の物である。この場における最悪のケースは、コントロールを取り戻されること。コントロール奪取時に何もしなくても、バトルフェイズの様に、こちらに何もできなくなったタイミングで処理する方法はいくらでもある。それなら、処理してしまうのがいい。

 加えて言うなら、【古代の機械】使いが、逆にバトルフェイズに罠を封鎖されることを考慮しないはずがないと思ったことが理由としてあった。これは深読みし過ぎだったが、そこまで考慮していないレベルであることが判った。

 結果的に破壊されてしまったことにはなるが、今の手札ならどうにかリカバリーは出来そうである。

 

「一応、アウスで攻撃します」

 

 トテトテと相手の方へと走り、手にした杖で殴りかかる。

 頭に杖をぶつけられ、ひるむクロノス

 

「グッ……こんなの小さいダメージなノーネ」

 

 

    LP:クロノス 3000 → 2500

 

 

「メイン2に移ります。カードを2枚伏せて、ターンエンド」

「ワータシのターン、ドローニョ」

 

 引いた手札を見てクロノスの表情が変わる。

 

「ワタシは、魔法カード《強欲な壺》を発動するノーネ、カードを2枚ドローするノーネ」

「…………」

「ワタシは、古代の機械城の効果を発動するノーネ!古代の機械城に乗っているカウンターが古代の機械の生贄召喚に必要な数より多い場合、このカードを生贄の代わりにできるノーネ。《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》を召喚するノーネ。」

 

    《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》Lv8/地属性/機械族/攻3000/守3000

 

「さらに、魔法カード《二重召喚》を発動するノーネ!! これでこのターン、もう一度召喚することができるノーネ! 《死皇帝の陵墓》を使用してライフを1000払い、もう一体の《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》を召喚するノーネ!!」

 

    《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》Lv8/地属性/機械族/攻3000/守3000

 

    LP:クロノス 2500 → 1500

 

「へぇ……3体目ですか……正直すげぇや」

「フフーン、さすがにこの凄さが判るノーネ。霊使いは最早攻撃表示、このタイミングまで発動しなかったということは、そのカードは召喚反応型の罠ではないノーネ?」

「さぁ?」

 

 いつものことではあるが、わざわざ手の内を明かす意味はない。適当にはぐらかしておく。

 

「バトルなノーネ」

「リバースカード、オープン」

「無駄なノーネ、アンティークギアの攻撃時、相手は魔法、罠を発動できないノーネ」

「ですので『攻撃前』に発動します。アンティークギアの発動無効化能力はバトルフェイズ中でも『バトルステップ』と『ダメージステップ』の間だけが適用範囲です。バトルフェイズにはその前に『スタートステップ』があり、そこはアンティークギアの効果の範囲外です」

「くっ!! そうだったノーネ」

「発動するのは速攻魔法《月の書》、効果によりアウスを裏守備表示に戻します」

「ムムム、ならば、倒してしまえばいいだけなの―ネ」

「更にリバースカードをもう一枚発動です。永続罠《強制終了》を発動。自分フィールドのカードを墓地に送り、バトルフェイズを終了させます。フィールドで表表示になっている月の書を墓地に送り、バトルフェイズを終了!!」

「バトルフェイズが終了なノーネ!?」

「メイン2です。どうぞ」

「グヌヌヌヌ…………カードをセットしてターンエンドなノーネ!!」

 

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TURN 4 EP

 

鷹城久遠【コントロール奪取】

    - LP 4000

    - 手札 3

    - モンスター

        伏せ(《地霊使いアウス》)

    - 魔・罠

        《強制終了》(永続罠)

 

クロノス・デ・メディチ【古代の機械】

    - LP 1500

    - 手札 0

    - モンスター

        《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》(攻3000)

        《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》(攻3000)

    - 魔・罠

        《死皇帝の陵墓》(フィールド)

        セット1

 

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「俺のターン、ドロー」

 

 さて、フィールドの様子は相手方に1体《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》が増えているものの、先のターンとあまり変わりがない。

 クロノスの表情を見るに、先に比べて余裕が見える。これから何をされるかを理解したうえで対策を講じているのだろう。

 

「(お手並み拝見…………かな?)」

「さあ、かかってくるノーネ」

「行きましょう、セットモンスターを反転召喚、当然アウスです。アウスの効果を発動、地属性モンスターのコントロールを奪う、対象は当然、《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》」

「何度も同じ手は食わないノーネ!! リバースカード、オープン!!速攻魔法《月の書》お返しなノーネ!! モンスターをセット状態に戻すノーネ、対象は当然、《地霊使いアウス》!! これにより、霊使いのコントロール奪取は無効、さらにこのターンの反転召喚はもうできないノーネ」

「そう来たか……」

 

 先のターンに下したクロノスへの評価を低く見積もっていたと久遠は理解する。ピンポイントでほぼ最適解を導き出してきた。

 これで久遠は次の手を講じることを余儀なくされた。

 しかし、同時に、これはクロノスの側の最後のリバースカードを使用したことも意味する。

 これ以上の妨害は、このターンには発生しない。

 

「じゃあ次の手です、セットしたアウスを生贄に、《ミュータント・ハイブレイン》を生贄召喚、攻撃表示です」

 

    《ミュータント・ハイブレイン》Lv6/闇属性/魔法使い族/攻 0/守2500

 

「攻撃力0なノーネ?」

「そうです。行きます、バトル! ハイブレインで攻撃」

「何でスート!?」

「そしてハイブレインの効果です、このカードが攻撃した時、相手モンスターのコントロールを奪い、代わりに攻撃させるノーネ」

「ナナナ、そんなバカななノーネ!! というか真似するななノーネ」

「……失礼、つい。気を取り直して《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》によって攻撃を代行、アルティメット・パウンド!」

「ぐっ……迎え打つノーネ!! アルティメット・パウンド!」

 

 2体の巨兵が繰り出す剛腕がクロスカウンター気味に決まり、轟音と共に爆発が当たりを包む。後に残ったのはハイブレインのみ。

 

「グッ……アンティークギア達が……全滅なノーネ……。しかーし、シニョールのフィールドにもモンスターはその1体のみなノーネ」

「いや、そうでもないですよ、俺が狙っていたのは、クロノス教諭の墓地に《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》が3体落ちた状況を作ること」

「私の墓地ーに?」

「そういうことです、決め手はこっちです。速攻魔法発動!! 《スクラップ・フュージョン》!!相手の墓地から融合素材を除外し、その融合モンスターを相手、もしくは自分の融合デッキから特殊召喚します。俺が選ぶのは……」

「《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》が三体ということーは、マサーカ!?」

 

 ――来たれ!

 

    《古代の機械究極巨人》Lv10/地属性/機械族/攻4400/守3400

 

 バラバラになった機械の部品たちが1か所の集まる。そして数瞬、先程まで圧倒的な迫力でフィールド上に存在していた《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》をも遥かに上回る迫力で。それは突如現れる。

 【古代の機械】デッキの真の奥の手。それが主を違えて本来の主へと巨大な剛腕を差し向ける。

 

「バトルフェイズ中の特殊召喚につき、攻撃は可能! 行きます」

「…………かかってくるノーネ!!」

「アルティメット・ゴーレム、ダイレクトアタック!! ダメージステップ時、さらに速攻魔法《リミッター解除》発動! 攻撃力を倍加します!」

 

    《古代の機械究極巨人》攻4400 → 攻8800

 

    LP:クロノス 1500 → -6900

 

 覚悟を決めたか、その攻撃を受けるときに、クロノスは何も言葉を発しなかった。

 

「ありがとうございました」

「いい決闘だったノーネ」

 

 こうして、名目上の受験決闘が終わりを告げる。

 その真の姿は、久遠の帰還を皆に示す決闘の終わりだと、意味を違える者はアカデミア生には誰も居ない。

 

 ソリッドビジョンが晴れて、クロノスが静かにこちらに歩いてくる。

 受験前と比べて何となく柔らかくなっているような気がするのだが、何かあったのだろうか。

 

「参ったノーネ。あそこまで歯が立たないとは思わなかったノーネ」

「ありがとうございました。【古代の機械】なんてなかなかレアな勝負ができて楽しかったですよ」

「途中から何となく気づいていたのだけレード、シニョールはかなり成績の方もいいノーネ? ルールを細かい部分まで理解していることといい、問題ないとは思うけレード、受験の結果は追って知らせるノーネ。そういえば受験番号を聞いていなかったノーネ」

「あ、そうか。えっと今更なんですが、俺、受験生じゃないんです」

「何デスト?」

「さっきの110番に巻き込まれて試験会場入りしたんですが、俺、本来は……」

 

 そこでふいに目の前を影がよぎる。

 何かが飛んでいるのかと一瞬影の方へと目を向け、影の正体――飛んできた物が何であるかを理解する。手を伸ばしてそれをつかみ、それを――アカデミア中等部で自信が纏っていた制服をマントのように纏わせる。

 

「アカデミア中等部、元X組。鷹城久遠です。以後ご指導よろしくお願いします。先生」

 

 約束の一つ、帰還を果たした瞬間だった。

 

 

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「ガッチャ!! すっげーデュエルだったぜ、久遠!!」

「よ、見てたのか」

 

 デュエル場を出ると寄ってきたのは十代。出て行ったときにどこかに行ったと思ったが、いつの間にか近くに戻ってきたようだ。

 決闘を見て、既に目がらんらんと輝いている。

 

「そりゃ見ないわけがないさ、なな、今からでもデュエルしようぜ?」

「さすがに今はダメだろう?」

「そういや、何で久遠が決闘してんの?」

「さぁなぁ……」

 

 まさか『おめーに巻き込まれてじゃい!』とも言えず、何となく流す久遠。

 大体、別にこの件に関しては十代に非は特にない。

 

「これで試験は終わりか?」

「ああ、後は結果待ち。でも受かってると思うぜ? 何たって実技最高責任者に勝っちゃったんだからな!!」

「…………筆記は?」

「……うっ…………ギリ……」

「…………おい」

「大丈夫だって、何とかなるって!!」

 

 そう言って二カっと笑う十代。

 まあ、こいつがこういうのだから何とかしそうな感じはする

 

「じゃあ、来年度。今度はアカデミアでかな?」

「おうっ!!」

「俺は中等部組と会ってくるけど、お前どうする? ついてくる?」

「んー、いいや。入学してからの楽しみにしておく」

「そっか、おっけ。んじゃな」

「またなっ!!」

 

 

 そう言って駆けていく十代。

 その背を見て、不思議と再会できないという未来は想像できなかった。

 

 

 

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「お疲れ様、それで、久しぶりね。久遠くん」

「や、明日香。久しぶり。…………成長したなぁ」

「…………久遠くん、それはどこ見て言ってるの?」

「色々と、全部含めて、特にピンポイントと言うことはないので、だから怒りは納めてくれると嬉しいな。内面とデュエルの腕は別の機会に見せてくれ。というわけで、アカデミア復帰だ。……睨むなよ、明日香」

 

 明日香のちょっとしたジト目をかわして亮に向かい合う。

 

「久しいな、久遠。お前が復帰するならこれからが楽しみだ。海外での武勇伝もたくさん聞いているし、さっきの決闘も面白かったしな。」

「ご無沙汰しています。またよろしくお願いします」

 

 明日香、亮の二人に挨拶をしたところで、ちょっと視線を巡らせる久遠。此処にいるであろうもう二人が、視界に入らない。

 

「あれ?」

「ホラ、いつまで隠れてるの」

「…………だって」

「いつまでも隠れてるわけにはいかないでしょ?」

「うん…………」

 

 そう言って、おずおずと明日香の陰から出てくる幼馴染。

 なんだか、会っていない期間は明日香や亮とまるで変わらないのにもかかわらず、懐かしさはひとしおである。

 

「…………ひ、久しぶり」

「おう、久しぶり。さっきは制服ありがとな。投げてくれたの、楓だろ」

「うん、何だかんだあったけど、やっぱり同じ学校の制服を着てほしかったから」

「ん、うれしかったよ。ちょっと気障っぽかったけど、インパクトあったみたいだしね」

「うん、そうだね」

「待たせて悪かった……ただいま。……これから、またよろしく」

「うん!」

 

 

 交わした言葉は僅か。

 それでも、数年の時を経て叶えた再開の儀式は、お互いにそれだけで十分だった。

 

 

-----

 

 

「ところで、万丈目とかは…………」

「っ!!」

 

 同期の一人の名前を出した瞬間、楓と明日香が険しい顔をする。

 

「…………」

「…………」

 

 そして、お互いに無言。

 そうなると、久遠の方が怪訝に思ってしまう。彼らに、何があったのかと。

 

「…………何かあったのか?」

「ちょっと……万丈目君の話は……私たちからは」

「…………ごめん、言いたくない」

 

 不安に駆られて聞いては見た物の、明日香も、楓も揃って口を噤む。

 久遠としては納得がいかないものがあるものの、ここで追及してもおそらく答は出てこないのだろう。

 一瞬亮の方へと顔を向けるも、亮も無言で顔を横に振る。

 これは埒が明かないかと思い、諦めることにする。どうせしばらくすれば判る話だろう。

 

「吹雪さんは?」

「それも……ごめんなさい。話すと長くなるから、別の機会にして」

「そのことでは、入学後になるだろうが、お前にも協力してもらいたいことがあるんだ」

 

 明日香と亮から出てきた回答は、またも明確でない答え。

 しかし、こちらはどちらかと言うと話したくない話題と言うよりはここでは話すことができない話題であるように見えた。

 まあ、確かに戻っていきなり話す内容でもないかとこちらも諦めることにする。

 話してくれる話題ならば、それを待つのが一番いいのだろう。

 

 

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 そうして雑談をしばらく続ける。

 亮のアカデミア本校への帰校の時間が迫った当たりで話題に出たのが、播磨の制裁決闘の話。

 話題を切り出したのは、亮だった

 

「そういえば、制裁決闘に出るという話は本当か?」

「播磨元校長のですか? ええ、出ますよ」

 

 何の気なしに答える久遠。

 そこには特に憎悪のような意思は感じられない。

 播磨と久遠の因縁――と言ってはあまりにも一方的なそれではあるが、それを知る亮としては腑に落ちないものが多々ある。

 たまらず聞いてみることにする亮。

 

「何故お前が出る話に?」

「よく知らないんですよね。偶然なのか、誰かの思惑なのか。後者じゃないかなーとは思ってるんですが。」

「何故そう思うの?」

「これ、見てみてくれよ」

 

 話に割って入ってきた明日香に答える形で久遠が開いたタブレットに表示されていたのは、箇条書きにされた文章

 

「何なの?これ」

 

 楓が読みながら久遠に聞いてくる

 

「今度の制裁決闘のレギュレーション。多分、全体には直前に公表されるんじゃないかなぁ」

 

 3人はタブレットの画面を凝視し、書かれている文字を読んでいく。

 

「……うわぁ…………」

 

 誰が発した呟きなのかは、その当人すらわからない。誰もが呟いてもおかしくない心境だったからだ。

 その呟きをもたらしたレギュレーションの内容は、以下のようなものであった

 

 

  一、制裁決闘は1対1のシングルデュエルにて行う

  一、制裁側は攻守0以外のモンスターをデッキに入れてはならない

  一、制裁側は攻守の増減を行ってはならない

  一、制裁側の特殊勝利を禁ずる

  一、制裁側のバーン行為を禁ずる

  一、制裁側のロック行為を禁ずる

  一、制裁側は40枚のデッキを使用する

  一、制裁側による相手モンスターの破壊を禁ずる

  一、制裁側による相手手札への干渉を禁ずる

  一、《自爆スイッチ》を特殊ルールとして禁止カードに追加する

 

「これは…………また凄い縛りを入れてくるんだな」

「播磨元校長、これでどうやって勝とうっていうのかってくらいガチガチじゃない?」

「……………………あれも……だめか。これも……無理ね……えーっと……」

 

 単純にレギュレーションに驚く亮と明日香、既に『どう破ろうか』に考えをシフトしている楓。いずれにせよ、その表情は険しい。

 

「かなり厳しいでしょう? でもこれの本当にひどいところは、ここなんです」

 

 当の久遠はと言うとその表情を一向に変えない。そのまま久遠は画面をスライドさせ、表示されていなかった一文を表示する。

 

  一、制裁側のシンクロ、エクシーズ等、制裁側専用の召喚方法の使用を禁ずる

 

 その一文を見た瞬間、気付いたかのように、3人は顔を上げる。

 まず言葉を発したのは、亮だった。

 

「……まさか、これは!!」

「嘘!?」

「………………」

「お気づきですか? 『制裁側』は播磨元校長を指す言葉じゃなくて『制裁する側』、つまりは俺に対しての制約事項なんです」

「どうして制裁される播磨の方にここまで有利な条件が!?」

「……これじゃ、播磨元校長を勝たせるための茶番じゃない!」

 

 憤りを隠せない亮と明日香。

 静かに解決策を探している楓だったが、相当難しいのだろう。既に目には諦観が浮かび始めている。

 

「うちのマネージャに調べてもらったところ、播磨元校長は相当無理してこの条件を突き付けたみたいですね。コネと金を無理して積んで、相当ヤバい筋にも手を出してるみたいです。負ければ完全に破滅と言ってしまっても過言じゃないそうです」

「…………それで、こんな条件を出されても久遠くんは受けるの?」

「うん、受ける」

「何でよ!?」

 

 食いかかるようにする明日香をなだめる

 

「落ち着きなって。別に今回は俺が制裁を受けるわけじゃない。負けてもデメリットは0なんだ。それに、そこまでして安心だと思ってる播磨に対して、ひと泡吹かせられたら面白いじゃんか」

「だからって……」

「ま、下準備はまずまず万端。マネージャ情報によると、【宝石ドラゴン】なるデッキを万丈目グループから借り受けたって情報も得てるし、俺は何とかなるかなーって思ってるんだよ?」

「「「え?」」」

 

 久遠のその何でもなく発した言葉に、明日香も、亮も、諦めかけていた楓でさえも驚きを隠しきることができない。

 

「本当にできるのか?」

「かなりギリギリかもしれませんけどね。一応の勝ち筋はないわけではないですよ」

「しかし…………」

「ま、この話は別の機会にしましょうか。どこでだれがきいているのかわからないですしね」

「俺は今日アカデミア本校に戻るんだが」

「作戦会議は中等部でやるわけにいかないので、どこか外の設備借りておきますよ。次の休みにどうですか?」

「…………行けないことはないが、それだけのために本土に行くのもな」

「じゃあ、最悪電話で行きましょう」

「わかった、そうしようか、そろそろ時間だな」

「ええ、またいずれ」

 

 

 そんなやり取りをした後、それを最後に、亮と別れ、楓と明日香と帰路を共にする。

 道中では本当に多くのことを話した。

 お互いにどんなことがあったか、どんな生活をしていたか。

 どんな想いでいたか。

 

 語り尽くすには、10代前半の流れるような日々はあまりに濃密で、アカデミアに戻るだけの時間では、とても足りるものではなかった。

 幸せな日々を一緒に過ごすことはできなかった。話の中の光り輝く出来事の中に自分は居なくて。

 そのことに後悔がないかと言えばうそになるけど。これから先を得るために、戻ることができた。

 

 

 そのために諦めたのだから。

 だから――

 

「ただいま」

 

 それを言うことができる相手のもとに戻ることができて。

 

「「おかえりなさい」」

 

 そう、言ってもらえることが、そんな簡単なことが、どうしようもなく、うれしかった。

 

 

 

 

 

 そして――迎えるは制裁決闘

 

 あの時と立場を違えども――因縁の相手との決戦は

 

 

 

 

 ――近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




またも繰り広げられる盤外戦術

因縁の相手との決戦


次回「制裁決闘、そして迎える悪意の……」

















やっと原作に追いついた……長かった……。


さて、播磨制裁決闘のレギュレーションのおさらいです。


  一、制裁決闘は1対1のシングルデュエルにて行う
  一、制裁側は攻守0以外のモンスターをデッキに入れてはならない
  一、制裁側は攻守の増減を行ってはならない
  一、制裁側の特殊勝利を禁ずる
  一、制裁側のバーン行為を禁ずる
  一、制裁側のロック行為を禁ずる
  一、制裁側は40枚のデッキを使用する
  一、制裁側による相手モンスターの破壊を禁ずる
  一、制裁側による相手手札への干渉を禁ずる
  一、《自爆スイッチ》を特殊ルールとして禁止カードに追加する
  一、制裁側のシンクロ、エクシーズ等、制裁側専用の召喚方法の使用を禁ずる

ここでの『制裁側』は『久遠』を指します。
この制限事項で果たして久遠に勝ち目はあるのでしょうか?


次回投稿前に、本編とは別でヒント編を書こうかなーと考えています。
本編に入れるとネタバレがひどいかな?とも思うので、チラ裏かなと思っています。

ただ、チラ裏だと……気付かれない可能性もあるのかな?
うーむ……悩み中。


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