一方で、久遠は決着をつけるため、マッケンジーの元へと赴くのであった。
深夜のUSアカデミア。静寂があたりを支配するそこに、鷹城久遠は居た。
目の前にあるのは、荘厳な意匠が施されている扉。
決着をつけることを約束した相手が待つその場所へとつなぐ入口。
「――入りたまえ」
久遠がそこにたどり着くと、そう声が響いた。
その声を発する人物は、久遠の目的とする人物の発したもので間違いないはずである。
久遠が『はず』と思うのには、理由がある。かつて、日本にいた時に聞いたそれとは様相が異なる、低く、重々しい声。聞こえてきたのはそんな声だったからだ。
不思議に思うものの、それを理由に此処に留まることには意味はない。
進めば、理由などすぐに明らかになる。どの道、進まねば目的は達せられない。
もう、覚悟はできていた。
「………………」
無言で部屋に入る久遠の目の前には、日本で見たそのままのマッケンジーの佇まい。
しかし、そこから発せられる気配は、あの時の物とは全く異なるように感じられる。
「…………来たか。異端の少年」
「ええ……と、この言葉づかいも今更ですね。ああ、そうだ。お前を倒すために、ここから先に進むために、お前と決着を付けにきた」
「そうだな、そういう約束だった」
「お前の言う『暇つぶし』とやらに付き合わされてこっちはいい迷惑だ。もう、下らない化かし合いなんてやりたくもない。播磨の件も含めて、いい加減終わりにさせてもらう」
一瞬の沈黙。久遠の言葉に対して『マッケンジー』は言葉を返さない。
代わりに静寂の間の後に帰ってきたのは
「フフフフフフ…………」
という静かな微笑。
「キサマは何か勘違いしているようだな」
「あ? 何を言ってる」
「キサマの言葉を言葉の通りにとらえると、『決闘になったら、キサマは負けることがない』と言っているように見える」
「…………」
「甘い! この私の、私だけのために作られた最強の僕たるプラネットシリーズを、矮小なデュエリスト達に破ることなど到底かなわん! そして、キサマの体を、その力を、オレの新たな糧として頂こう!」
「…………で、闇の決闘……っつー流れに行くわけか」
「何?」
「前々から疑問に思ってなかったわけじゃないんだ。何でお前ら一派……正しくはお前とその操り人形か、それが闇の決闘にこだわるか。それは、『プラネットを使うため』だろ?」
「…………何故そう思う?」
「何が出てくるのかは知らないが、今のお前の『私だけのために作られた』で確信したよ。 なぜ、I2社でつくられたものでもない、KC社のソリッドビジョンシステムに登録されてもいないカードを使うことができているかっつーところから疑問がわいてきた」
「…………」
「闇の決闘ってのは、一言でいえばデュエルモンスターズというゲームが現実に干渉してくることだ。そのダメージが現実に発生することばっかり目が行きがちだが、その実、デュエルモンスターズの世界、お前らの言う『精霊の世界』がこちらの世界へと干渉すること全てを言うんじゃねぇか? だから『お前だけのカード』を使用することができる。いや、言い換えればそれはCK社のシステムに登録されるまでは『闇の決闘』でしか使用することができないんじゃないのか?」
「ほう……面白い。どこでそれに気づいた?」
「初めに疑念を持ったのは、お前の手ゴマ……レジー・マッケンジーが楓に対して規模が小さいまでも闇の決闘を適用したこと。あの時あいつは『俺をおびき寄せるため』なんて言ってたが、それなら俺が一人でいるタイミングを狙っていればそれだけで良かったはずなんだ。そうして考えるとあれはどうしても腑に落ちない。そして、あいつの切り札がプラネットの1枚、VENUS。本人も言っていたが、世界に一枚のカードだ。そうなると、そういう推論に至るのはおかしい話じゃないだろう?」
一度だけ感じた違和感。辻褄の合わないただ一つの行動。
故に久遠は、レジー・マッケンジーに、そしてその主に、可能性を求めた。
「何故その推論を持とうと思った?」
「……別に、今更だろう? 何故お前が、俺に興味を持ったか。その答えと同じだよ」
久遠は、『唯一のカード』を使用することを許された者に、自身の能力を重ね合わせて、未だ知らぬ自身の能力の真相を知るために、深い闇の世界へと一歩を踏み込む。
「で、それを踏まえて聞きたいことが、一つだけある」
それこそが、この旅の目的。
沈黙を返すマッケンジーに対して、質問に答える意思と判断し、言葉を紡ぐ。
「俺の……俺の力は、お前らの力と同種のものなのか?」
「……確かに、あの時の約束はそうだったな」
「ああ。それを知るために……4年以上振り回されたこの力の真実を知るために、俺は今、此処にいる」
再び、静寂が場を支配する。
1秒が1時間のように感じられてしまうような錯覚の後、マッケンジーが言葉を開く。
「…………もう、その答えは出てるんじゃないかね?」
「……………………」
「オレは今、新たな憑依先として、お前を選ぼうとしている。そして、先程デイビットに行ったことは、レジーも、デイビッドもやろうともしなかった」
「………………」
「なにより、お前は、
そう、久遠には。精霊の力を宿しているのではないかという疑念は、もう晴れている。
もう、その答えに至る鍵を。彼は得てしまっている
「…………そう……か。確かに、そんな気はしていたが、やっぱり、そうなんだな」
「確かに、オレ達精霊は、精霊の世界から闇の決闘やそれに準ずる力を通してデュエルモンスターズへと干渉することはできる。お前の『異端』とやらも、結果だけ見ればそれに同じことは出来ている。しかし、オレ達精霊には、デュエルモンスターズのルールや概念まで変えることはできない」
シンクロ、エクシーズ、他にも。それらは今現在のデュエルモンスターズには概念すら存在しないものだ。それを行うことができる時点で、精霊の持つ力とは一線を画すものとなってしまっている。
「それこそが、オマエの力を求める理由にもなるのだが」
「…………俺は…………何なんだろうな?」
「それは、オマエの力を貰ってからゆるりと考えるとするよ。オレの心臓を封じた『ソレ』と共にな」
鍵は預かったデッキの、一枚のカードだった。
「お前の……精霊の力を封じたってことは」
「ああ、白き精霊のカードをお前は持っているはずだ」
その精霊に宿る力を見てもなお、精霊を目の当たりにすることはできていなかった。
それが、残酷な答えに至るためのヒント。
それを得てしまったがゆえに、あとやることは一つだけだと久遠は悟る。
「ああ。預かって来ている。でも、今は渡せない」
「ほう? 一端の正義のヒーローのつもりか? 人間のふりした、精霊にも拒絶された存在であるお前が」
「そんなんじゃ、ないんだよ」
そう、そんなことでは決してない。
「正直、事ここに至ってもお前の目的も、播磨の小さな謀略だって、俺にとってはどうでもいいことなんだ」
「ほう?」
「俺は、結局のところ『異端』でしかなくて、皆が憧れる英雄には、決してなれない。そんなものはとうに諦めてんだ。ただ、少しでも自分でありたい。それだけなんだ」
だからこそ、自分の異端の真相を知ろうとするし、だからこそ、プロデュエリストとして自分の地位を保とうとする。少しずつ、色々な物を失っても、少しでも、諦めないために。
しかし、それはまた同時に目の前に居る者との決着が不可避であることを暗に示している。
だから久遠は最後の言葉を紡ぐ。
「渡さないのは、ただ、お前が俺にとって『敵』であるということだけ。だから渡さない。もう、決着付けようぜ? お互いに相容れる部分はもうないだろう? 俺に勝てたら、好きにすればいいさ、お前の心臓も、俺の力も、全てがお前のものになる」
「…………ああ、いいだろう」
「そうだ、もう一つ」
「何だ」
「名前を聞いていなかった」
「何をいまさら」
「お前が何であれ、決闘する相手の名前くらい知っておきたいだろうが」
「つくづく……変わった奴だ。ならば教えよう。オレの名は『トラゴエディア』だ」
「…………そうか、わかった」
もう、言葉はいらない。お互いに発するべきはただ一つの言葉。
それは、決戦の火ぶたを、切る言葉。
「「
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TURN 1
トラゴエディア(TP)【THE・PLANET】
- LP 4000
- 手札 6
鷹城久遠【???】
- LP 4000
- 手札 5
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「オレの先攻、ドロー!」
デュエルの始まり共に闇が広がっていく。
あの時感じた嫌な気配と同じものが、また、あたりを埋め尽くして行く。
「俺は魔法カード《二重召喚》を発動。これにより、オレはこのターン2度の通常召喚を可能にする。そして1度目の通常召喚、召喚するのは《ダブルコストン》」
《ダブルコストン》 Lv4/闇属性/アンデット族/攻1700/守1650
一対の霊体が、場に現れる。ただし、これは次のための布石に過ぎない。
「最初から飛ばさせてもらおうか。ダブルコストンは闇属性モンスターを生贄召喚する場合、1体で2体分の生贄にすることができる。ダブルコストンを生贄に、オレこいつを召喚させてもらう。2回目の通常召喚」
「…………闇属性最上級……で、プラネット……ね」
「さあ、現れよ! 我がデッキの最強の僕にて、デッキの象徴、《The Supremacy SUN》」
《The supremacy SUN》 LV10/闇属性/悪魔族/攻3000/守3000
眩いばかりの光と共に重厚な鎧を纏った巨大な人型が現れる。
闇の決闘によって現実に干渉されることでただでさえ小さくない存在感に一層の迫力を増している。
「クハハハハハッ!!! さらにオレは、魔法カード《おろかな埋葬》を発動、それにより、デッキからモンスターカード1枚を墓地に送る。俺が墓地に送るのは《The Big SATURN》」
「SATURN……次はそいつか……」
「そう、そうとも! 魔法カード《死者蘇生》発動! 墓地からSATURNを特殊召喚!」
《The big SATURN》 Lv8/闇属性/機械族/攻2800/守2200
そうして、次に現れたのは、同じく巨大なロボットの佇まいをした存在。
1ターンに2体の最上級を揃えてきた。それはいいものの、トラゴエディアの手札は僅かに1枚。展開の代償は決して小さくない。
「ククク、オレは、《命削りの宝札》を発動! デッキから手札が5枚になるようにドローする。5ターン後に全て捨てることになるが、別にかまわん。今の手札は0よって、5枚ドロー! カードを1枚伏せて、ターンエンド!」
始まりは、静かなではない。端から飛ばしてくる相手に、決して油断することなどできない。
「俺のターン……ドロー!」
「そういえば、まだお前の力を聞いていなかったな」
突如話を振ってくるトラゴエディアに、義年の表情を久遠は返す。
「あん? なんで今のタイミングになって? んな今更どうでもいい事聞いてくるんだよ」
「何、プラネット2体を展開した今、オレの勝利は必然。なら戴くお前の力を知りたいと思うのは不思議なことではないだろう?」
「今さらだろう? お前らのものと同種の『存在しないカードを持つ』っていう力。その起源がお前らのそれと違うって言う結論だったじゃないか」
「嘘をつかないでもらおうか。君のそれは――」
――未知のカードを使うだけ、今はない概念を使うだけではないのだろう?
「…………」
決闘の最中ながら、動きが止まる。再び訪れる静寂。しかし次にそれを打ち破ったのは、先ほどとは逆で、久遠の方。
「……気づいたのは、さっきのデイビッドとのやりとりを見てたからか?」
「ククク……さて、な?」
「まあ、今更か。もう隠すのも無駄なようだしな」
その言葉と同時に
トラゴエディア:LP 4000 → 4200
トラゴエディアのライフが変化する。
「ふむ? これはどういうことか? デイビッドの時とは結果が異なっているようだが」
「これが、俺の『異端』のもう一つの力……というよりも真相だ。これを見ろ」
そうして、デュエルディスクを装着している左手を掲げる。そこにある手札の数は、6枚。そして、墓地は空。
それは、この現象と辻褄が合わない。手札を交換したわけでもなく、減らすわけでもなく相手のライフだけを増やすという結果。それはデュエルモンスターズというゲームの原理から外れている。
「判らないだろう?」
「…………どういうことだ!?」
「俺の異端は、本質の部分では『デュエルモンスターズというゲームにルールの外から干渉することができる』って言うのが真相だ。デイビットの時は、ゲーム外から《火炎地獄》、相手のライフに5000のダメージを与えるカードを効果として与えた。今は《モウヤンのカレー》をお前に対して発動した形になるな」
「ほう?」
「俺の『未知のカードを使うことができる』ってのは、それから零れおちた物に過ぎない。『カードとしてゲームに使用できるように固定する』っていう干渉だ。だから、精霊の世界にある存在を、カードとして固定し、闇のゲームを通じて現実に侵食するお前らのそれとは、結果こそ同じになれど、過程は全く異なるんだ」
それ故に、久遠の持つカードは、他の人には使うことができない。それは、『カードであってカードでない』久遠の存在を、能力を前提としているものだから。
「ふむ…………聞けば聞くほど、欲しくなる能力だ。しかし、それならなぜそれを使わない?」
「判ってんだろう? そんなものは、最早『決闘』ですらない。ただの蹂躙だ。そんなものは、別に欲しくない。『決闘者』である限りは」
「では何故、デイビッドに対して、その力を行使した?」
「操られてるだけの人形相手にやるのは『決闘』じゃねえよ。同調して協力しているよりなおタチが悪い。少なくとも俺はそう思ってる。正義でも悪意でも、主義思想、目的こそ違えど、自分を持っていて相いれないそれに対して決闘で決着をつけようってなら、俺も決闘で向かい合いたいんだよ」
「それに、世界の全てがかかっていてもか」
「ああ。何度も言うが、俺は英雄なんかじゃない。そんなものにはなれない、ただの『異端』だ。
「…………」
「お前の暇つぶしとやらに英雄が欲しければ、俺を倒して力を戻して先へ進め。そんなものは此処にはない。これは、そういう決闘だ」
「…………そうか、それがお前の……心の闇なのだな」
「心の闇なんて判らないよ。もう、こうやって成長してきてるんだ。闇も何も全てあって俺なんだ。……と、中断して悪かったな。《《火の粉》》 これで、元通りだ」
「ぐっ……」
トラゴエディア:LP 4200 → 4000
トラゴエディアのライフが戻る。ダメージが闇の決闘で入るが、微々たるものだろう。
「まあ、今の痛みは授業料だと思ってくれ。どうせ小さいもんだろう? あとよ、一つだけ言っておきたいんだが、こっちの力を使わなければ負けないと思っているなら――」
――甘いにも程があるぞ
決闘が、続く。
「魔法カード《ワン・フォー・ワン》を発動。手札のモンスターカードを1枚墓地に送ることでデッキからレベル1のモンスターを特殊召喚する。俺は《D-HERO ディスクガイ》を捨てて《グローアップ・バルブ》を特殊召喚。そして、永続魔法《生還の宝札》を発動。このカードがフィールド上にある限り、俺の墓地からモンスターが特殊召喚される度に1枚ドローすることができる」
「ふむ……それが、世界大会で見せた力か」
答えはしない。目の前の相手と話すことは今の時点ではない。
「続ける。《金華猫》を通常召喚。そして効果を発動。金華猫が通常召喚に成功した時、墓地からレベル1モンスターを特殊召喚できる。ディスクガイを特殊召喚。ディスクガイの効果発動。墓地から特殊召喚したときに2枚ドロー、生還の宝札の効果でさらに1枚ドロー」
《グローアップ・バルブ》Lv1/地属性/植物族/攻 100/守 100 /チューナー
《D-HERO ディスクガイ》Lv1/闇属性/戦士族/攻 300/守 300
《金華猫》Lv1/闇属性/獣族/攻 400/守 200/スピリット
3体のモンスターが並ぶ。しかし、まだまだここから。
「墓地からモンスターが特殊召喚に成功したことにより、手札の《ドッペル・ウォリアー》を特殊召喚することができる。特殊召喚成功後、速攻魔法《緊急テレポート》を発動、デッキからレベル3以下のサイキック族を特殊召喚できる。レベル2の《クレポンス》を特殊召喚」
《ドッペル・ウォリアー》Lv2/闇属性/戦士族/攻 800/守 800
《クレボンス》Lv2/闇属性/サイキック族/攻1200/守 400/チューナー
並んだモンスターは5体。ここから、つなげていく。
「レベル2、ドッペル・ウォリアー、レベル1、ディスクガイとレベル2チューナーのクレボンスで、シンクロ召喚、来たれ、《TG ハイパー・ライブラリアン》」
《TG ハイパー・ライブラリアン》Lv5/闇属性/魔法使い族/攻2400/守1800
「……シンクロ召喚……これがか…………」
シンクロモンスターが、降り立つ。しかし、その姿を目の当たりにしても、トラゴエディアに驚きを見せる様子がない。
まあ、それでもいい。どうせ、これはまだまだ序の口にすぎない。
「ドッペル・ウォリアーはシンクロの素材にした時、レベル1のドッペルトークンを2体特殊召喚できる。もう一つ行くぞ。レベル1、金華猫にレベル1チューナー、グローアップ・バルブでシンクロ召喚、来たれ、《フォーミュラ・シンクロン》」
《フォーミュラ・シンクロン》Lv2/光属性/機械族/攻 200/守1500/シンクロチューナー
5体居たモンスターが、2体のモンスターと2体のトークンになる。しかし、その姿は未だに脆弱。少なくとも、ステータス上ではそう見えるはず。この布陣の恐ろしさは、ここからである。
「フォーミュラ・シンクロンがシンクロ召喚に成功した時、1枚ドローする効果、ライブラリアンは、自分が存在している時にシンクロ召喚に成功したら1枚ドローする効果を持っている」
シンクロ召喚に費やすカードを自身の能力で補充することで、さらなる展開をもたらす力。このデッキの終着点は、ここにはない。
「速攻魔法《サモンチェーン》、さらに《奇跡の蘇生》発動。チェーンの逆順から処理していく。奇跡の蘇生の効果はチェーン4以降に発動でき、墓地からモンスターを1体特殊召喚できる効果。これで俺はディスクガイを選択。サモンチェーンの効果は、チェーン3以降に発動可能で、このターン、3回の通常召喚を可能にする。金華猫の召喚に1度費やしているので、これで後2回の通常召喚を可能にする。最後にフォーミュラ、ライブラリアンの効果で2枚ドロー。チェーンが終了した時点でディスクガイの効果で2枚ドロー。生還の宝札の効果はタイミングを逃しているので発動しない。レベル1の2体のドッペルトークン、ディスクガイに、レベル2のシンクロチューナー、フォーミュラでシンクロ召喚、《マジカル・アンドロイド》」
《マジカル・アンドロイド》Lv5/光属性/サイキック族/攻2400/守1700
シンクロ召喚に成功したことにより1枚ドローする。3体目のシンクロモンスターが並んで尚、相手の自信が崩れる様子はない。久遠が意図してある情報を隠しているからか、それとも、何かそれとは別の、勝ちへとつながる自信があるのか。
どちらでもいいか、と考えるのをやめる。ここまで展開で来ていて未だに妨害一つ入らない。なら、唯一伏せられていいたカードにたいして最初に懸念していた召喚妨害の線は、既に消え去っている。
「サモンチェーンの効果で増加した2回目の召喚権を行使。《ジャンク・シンクロン》を通常召喚して効果を発動、召喚に成功した時、墓地からレベル2以下のモンスターを特殊召喚できる。フォーミュラを墓地から特殊召喚。蘇生成功により、生還の宝札で1枚ドロー」
《ジャンク・シンクロン》Lv3/闇属性/戦士族/攻1300/守 500/チューナー
《フォーミュラ・シンクロン》Lv2/光属性/機械族/攻 200/守1500/シンクロチューナー
「ククク、いつまで続ける気かね? どうあがこうと、SUNには届かんよ」
「魔法カード《おろかな埋葬》を発動、デッキから《ボルト・ヘッジホッグ》を墓地に送る。そして墓地のヘッジホッグの効果、チューナーが存在する時、自身を墓地から特殊召喚することができる。蘇生に成功したことにより、1枚ドロー。フィールドには、チューナーのジャンク・シンクロンが居るため、特殊召喚。そして2体でシンクロ召喚。《ジャンク・ウォリアー》。ライブラリアンで1枚ドロー」
《ジャンク・ウォリアー》星5/闇属性/戦士族/攻2300/守1300
ジャンク・ウォリアーの効果により攻撃力が変動する、が今は関係がない。
場には、ライブラリアン、マジカル・アンドロイド、フォーミュラ・シンクロン、ジャンク・ウォリアー。これで、1組目が完成した。
「このモンスターは、2体以上のシンクロモンスターとシンクロチューナーでのみ特殊召喚できる。レベル5、マジカル・アンドロイドとジャンク・ウォリアー、レベル2のシンクロチューナーのフォーミュラでシンクロ召喚――」
――来たれ、《シューティング・クェーサー・ドラゴン》
《シューティング・クェーサー・ドラゴン》Lv12/光属性/ドラゴン族/攻4000/守4000
先攻を纏いし光の龍が、その姿を顕現させる。神秘的な姿に、相対する2人の決闘者の時が止まったかのような錯覚を覚える。その姿を見届けた後、言葉を発したのは、久遠。
「なあ、トラゴエディア」
「…………」
返答はない。
「綺麗……だよな。綺麗でいて、それでいてまた、勇ましさや神々しさも感じる。多分、このドラゴンには担い手がきちんといて、正しい担い手が操るそれは、さっきお前が言ったような英雄の相棒として立つのが正しいんだと思う」
「…………そう、かもしれんな」
「そういう意味では、お前のプラネットはまぎれもない、お前の物で、俺のそれはどうしても究極的には偽物だ」
「…………それがどうしたというのだ」
「うらやましいよ。どんな形であれ、それはもう、俺にはどうやってもかなわない願いだから」
「………………………」
またも、返答はない。
それも、また、一つの答えの様な気がした。
「続けよう。ライブラリアンで1枚ドローする。3回目の通常召喚を行使。召喚するのは《デブリ・ドラゴン》だ。デブリ・ドラゴンの召喚に成功した時、攻撃力500以下のモンスターを墓地から効果を無効化して特殊召喚できる。対象はディスクガイ。効果は無効にされているのでディスクガイのドローは発生しないが、生還の宝札で1枚ドロー、この2体でシンクロ召喚。レベル5《転生竜サンサーラ》を特殊召喚。ライブラリアンで1枚ドロー」
《
もう、戻れない。
進む先にあるのが何であれ、自分がどんな存在であれ、相対する者がどんな存在であって、自分に何を求めているかなんて、関係ない。自分に相対して決闘をする以上。それを受け止めて、動くことをやめない。
「墓地のジャンク・シンクロンを除外して《輝白竜 ワイバースター》を特殊召喚。ワイバースターは墓地の闇属性モンスターを除外して手札から特殊召喚することができる。さらに、墓地のグローアップ・バルブの効果を発動、デッキから1枚目のカードを墓地に送ることで、自身をデュエル中1度だけ墓地から特殊召喚できる。墓地からの特殊召喚に成功したことにより生還の宝札で1枚ドロー。2体でシンクロ召喚。《A・O・J カタストル》」
《
過去に生きた、英雄たち。
未来に生まれる、英雄たち。
そのすべてにできなかったことをするのであれば、それはまた、正義でなくとも、悪でなくとも、何かを残すことができるということなのだろう。
「ワイバースターは、フィールドから墓地に落ちた時、デッキから《暗黒竜 コラプサーペント》を手札に加えることができる魔法カード《アイアン・コール》を発動、自分フィールドに機械族モンスターが居る時、墓地のレベル4以下のモンスターを効果無効状態にして特殊召喚、蘇生により1枚ドロー。そして、これでまた……揃った。2体目のクェーサー」
再び降臨する、2体目の龍。
そして、止まることはなく、久遠は次の動きを開始するべくカードを手に取る。
「魔法カード《死者蘇生》発動。効果によりカタストルを特殊召喚、蘇生成功により1枚ドロー。魔法カード《魔法石の採掘》を手札2枚コストに発動し、墓地の死者蘇生を手札に戻して発動、フォーミュラを特殊召喚する……。3体目……行こうか。降臨せよ、《シューティング・クェーサー・ドラゴン》」
これが相棒を唯一無二と決めた者たちの、たどり着けぬ境地。
『異端』によってのみ、成し遂げられる。誰も知る由もない『伝説に匹敵する光景そのもの』
観客はただ一人。それすらも、闇の決闘が終われば、消えゆく者となってしまうかもしれない。
それでも、そうしてやりたかった。
他でもない、久遠自身のために。
「バトル、クェーサーで攻撃!」
「リバースカード、オープン《攻撃の無力化》」
「…………よりによってそれか。道理で展開中に発動しないわけだ。じゃあ、メイン2にいこうか」
そこで、ようやく手札を相手に見えるように晒す、そこには、10枚の手札。
今まで見えないようにしていた手札の数々。それは、これからの更なる展開が可能であると相手に知らしめる。
それは、絶望を相手に与える行為に他ならない。
「カードを4枚セット、ターンエンド」
----------------------------------------
TURN 2(EP)
トラゴエディア【THE・PLANET】
- LP 4000
- 手札 4
- モンスター
《The Supremacy SUN》(攻3000)
《The Big SATURN]》(攻2800)
- 魔・罠
鷹城久遠【初手クェーサー】
- LP 4000
- 手札 6
- モンスター
《シューティング・クェーサー・ドラゴン》(攻4000)
《シューティング・クェーサー・ドラゴン》(攻4000)
《シューティング・クェーサー・ドラゴン》(攻4000)
- 魔・罠
《生還の宝札》(永続)
伏4
----------------------------------------
「オレのターン、ドロー」
「ドローフェイズ終了時。永続罠《呪縛牢》を2枚発動。その効果は、エクストラデッキのシンクロモンスターを条件を無視して効果を無効にして守備表示で特殊召喚するというもの。特殊召喚するのは2体とも《スターダストドラゴン》、そして、スターダストの召喚成功時、罠を2枚発動。発動するのは《バスターモード》その効果によりデッキから《スターダストドラゴン/バスター》を特殊召喚。スターダストがフィールドを離れることで呪縛牢は破壊される」
《スターダストドラゴン/バスター》(攻3000)
《スターダストドラゴン/バスター》(攻3000)
悪意も正義もなく、そのカードに込められた本来の主の思いさえも知らず。久遠はカードを使いこなす。それは、そういう悲しい力だったから。
何かはもう、壊れてしまっているのだろう。でも、それが何かなんて孤高の少年には知る由もない。
「さあ、精霊の力を持つデッキ使い。この壁を、超えてみろ。これが、お前が目指した力だ」
「…………俺は、永続魔法《漆黒の太陽》を発動!!」
「漆黒の太陽……このカードは自分フィールドのモンスターが破壊された時、その攻撃力分のライフを回復する。さらに墓地から復活したモンスターの攻撃力を1000アップさせるって効果だったな。それでSUNの自己再生をサポートするのか…………1体目のバスターの効果を発動。自身を生贄にすることで、相手の魔法、罠、モンスター効果の発動を無効にする。漆黒の太陽は発動を無効にして破壊される」
「なぁっ!? 永続魔法《プレデンション》を――」
「相手の行動を一つ宣言して発動を無効にするんだよな。2体目のバスターで無効だ」
「ククク、しかし、これで種切れだろう? 《漆黒の太陽》2枚目を発動!!」
「…………クェーサーの効果を発動。相手の魔法、罠、モンスター効果の発動を無効にする。ただし、スターダストドラゴン/バスターと違って、こいつを生贄に捧げる必要はない。……この意味。判るな?」
「《真闇の世界》!! 《プロミネンス》!!」
「2体のクェーサーで無効化」
「ターン……………………エンド」
「手札、切れたな。まあ……仕方ないよな。エンドフェイズ、効果で生贄に捧げたスターダストはフィールドに戻る。2体とも蘇生に成功したので2枚ドロー。そして、俺のターン。ドロー」
もう、決着はついた。
「メインフェイズ、俺は3枚の装備魔法《エクスカリバー》を3体のクェーサーに装備、その効果により、元々の攻撃力は倍になる」
《シューティング・クェーサー・ドラゴン》(攻4000 → 8000)
《シューティング・クェーサー・ドラゴン》(攻4000 → 8000)
《シューティング・クェーサー・ドラゴン》(攻4000 → 8000)
「始まる前、お前は『決闘になったら、キサマは負けることがない』というのを甘いと言ってたな。結果はこの通りだ。デュエル外からの干渉なんてなくても、何も変わらない。結局は、自己満足に過ぎないのかもしれないな」
「…………う……あ……」
「終わらせようか。バトル、クェーサー1体目でSUNを攻撃、ダメージステップ手札から《オネスト》を捨てて効果発動。相手のモンスターの攻撃力と同値をクェーサーに加える」
《シューティング・クェーサー・ドラゴン》(攻8000 → 11000)
「行くぞ!『ザ・クリエイション・バースト』!!」
「ぐおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
トラゴエディア:LP 4000 → -4000
「クェーサーはシンクロ召喚に使用したチューナー以外のモンスターの数だけ攻撃できる。3体とも、2体のモンスターを素材にしてるので、2回攻撃ができる!! 1体目のクェーサーの2回目の攻撃を宣言、攻撃対象はSATURN!」
トラゴエディア:LP -4000 → -12200
「残り、総攻撃だっ!!」
トラゴエディア:LP -12200 → -20200 → -28200 → -36200
→ 44200 → -47200 → -50200
響く爆音、合計8度もの攻撃が起こす爆音により、断末魔の声さえも久遠の耳へとは届けない。
「…………さよなら、トラゴエディア。もうないだろうけど、次に会うときは
闇が晴れ、久遠の『敵』は滅びた。『悪』ではなく、ただの『敵』として。
後に残るのは、倒れ伏すマッケンジー。その体にとりついた『嘆き』は、もういない。
戦いは終わった。
しかし、少年は、事此処に至ってもなお、元に戻ることをよしとしない。
『異端』が自身に厄介事を振りかけることを知ってしまったから。
そうして、久遠は、決意をする。
次回「そうして、闇へと沈む一歩を歩く」