勝利者インタビュー 久遠帝選手(アマチュア)
-勝利おめでとうございます
「ありがとうございます」
-危なげない勝利でしたね。
「いえいえ、結果的にそうなったってだけです。サイバー流はやっぱり強いです」
-本日の見せ場は?
「やはり、"ズシン"が出せたことです。見ての通り、強いモンスターですしね。出せれば…ですが」
-サウザンドアイズやズシンなど珍しいモンスターのオンパレードでしたが、あれらは相当なレアカードなのですか?
「サウザンドアイズについてはペガサス氏の奥の手だけあってレアですが……、ズシンについてはレアになることはないとおもいます。召喚条件が難しいんですよ、あれ。でも、こうやって出すことはできる。そして強い。レアカードにばかり頼らなくても、強いモンスターは出せますし、強いデッキにも勝てるんです。」
-具体的には?
「最初は何としてもモンスターを守る、今回のデュエルでは使いませんでしたが、《和睦の使者》や《威圧する咆哮》とか戦闘破壊やダメージを回避する方法はいくつもありますしね、まぁ一例です。皆さんも考えてみてください」
-今後については?
「まずは今日の結果待ちです。うまいことプロになれたら、いくつかのリーグに挑戦していこうと思います」
-リーグ挑戦とのことで、どのリーグをターゲットにしますか
「リーグ登録は可能な限りしたいです。同時登録っていくつまででしたっけ」
-5リーグです。トップ10に入ると新規リーグを追加できます
「ではまず5リーグ登録します、最初は……海竜、雷、炎、魚、後は…戦士か機械です」
-言ってはなんですが、メジャー度に差がありませんか
「参加可能リーグ数を増やしたいので。」
-それはトップ10をとるという宣言ですね?
「ええ、目指します。まぁ、全てはプロになれれば……ですね」
-もし今回だめだったら
「アマチュアのまま続けて次の機会を待ちます。どっかで見かけたら応援してくれるか挑んでくれるとうれしいです」
-なるほど。ありがとうございました
「ありがとうございました」
敗退者インタビュー 鮫島選手(総合18位、機械族リーグ4位)
-ナイスゲームでした
「ありがとうございます。」
-今日のデュエルの感想をお願いします
「手札の回りはこれ以上ないくらいに良かったです。これぞサイバー流というのを見せられたと思います。ただ、それをもってしても久遠選手は超えられなかった。とても強かったです」
-久遠選手について、お願いいたします
「まだ10歳とは思えないような落ち着いたプレイングをしますね、プロでもあそこまで堂々とプレイできる人はそう多くないでしょう、プロになれたら確実にトップ争いをするんじゃないでしょうか。」
-久遠選手は、プロになったら機械族リーグへの挑戦もほのめかしています。
「うーむ、うちのリーグですか……」
-やはり、脅威ですか?
「脅威というより、うちのリーグの戦い方が合うのかな、と。まぁ、それは追々わかることでしょう」
-プロの先輩として一言
「まだプロでないですよね彼(笑)。まぁ今日の勝利がフロックでないことを期待します。」
-ありがとうございました
「……(無言で立ち去る)」
控室に戻る
高々1時間程度のデュエルだったが、それでも大観衆の中でプロトやるのは思った以上に疲れを催すものだったらしい。
変装を解き、早々に椅子にもたれこむ。
「鷹城、入るぞ。ああ、そのままでいい」
脈絡もなく入ってくる海馬社長と黒服1名…だが、海馬コーポレーションの黒服ではない。
I2社の方か。
「どうぞ…とはいえ、お構いできませんが」
「ふぅん、さすがに疲れているか、では単刀直入に言う。結論として我がKCは久遠帝のスポンサーとして契約してやる。ありがたく思え」
I2社の黒服と思われる男もそれに続く
「旅先からの中継での見学でしたが、ペガサス会長も大変ご満足の様子でした。よって、久遠帝選手にI2社とのスポンサー契約を締結させていただきます」
プロになるには2社以上のスポンサーというバックアップが必要になる。結果は2社とも合格、したがって、プロになるための関門は突破したといえる。
「ありがとうございます」
「ふぅん、これから先の話はまた別の機会だな。」
「すみません、それでお願いします」
「いいだろう。ところで……」
海馬社長の目つきが変わる
「俺はスポンサー契約試験の一環としてデュエルロボに対し500連勝するようにお前に命じていたな」
「はい」
この最終試験前に、スポンサー契約するにあたって海馬社長はいくつかの条件を出していた。
1つは、アマチュアリーグのシニア大会を含む入賞を3年連続ですること
1つは、KC社の地下にあるデュエルロボに対して500連勝すること
1つは、今回のデュエルに勝利すること。
その2つ目が引っかかったらしい。
「お前のデュエルのログを見たのだが、何故こうも1ターンキルばかりなのだ。」
「500連勝なんてまじめにやろうと思ったらそうなりますよ」
「問題はデュエルの内容だ。なんだこの効果は」
「………どれのことです?」
正直候補が多すぎてわかっていない。
「どれもこれもだ、モンスターを生贄にそのレベル×200のダメージとか」
「(《ダーク・ダイブ・ボンバー》か)」
「手札、フィールド、墓地1枚ずつ除外するモンスターを3体特殊召喚とか」
「(《氷結界の龍 トリシューラ》ね)」
「相手のフィールド、手札、墓地全て除外して1枚につき500ダメージとか」
「(《カオスエンド・ルーラー -開闢と終焉の支配者-》かな?あれは確かにやりすぎた)」
「魔法カード1枚で勝利とか」
「(「相手はデュエルに敗退する」って効果だもんなぁ…アレ。狂ってるとは思ったが、ロボだしいいかな?と)」
「どういう卑怯なデッキを使えばこうなるのだ!!?」
「卑怯て…「どんな手を使ってもよいが500連勝だ、ふははははは」とかいったの社長じゃないですか。まぁロボ相手なんで許してください。そんなに使いませんよ」
「よほどのことがなければ使わせんわ!!忌々しいのは、不正防止のブラックデュエルディスクを使用してもそれらのカードが正規品扱いになることだ!!」
「まぁ、そういうもんですし。」
「我がブルーアイズのサポートになりそうだから取り上げてみれば、俺には使えんと来た」
「なんででしょうねぇ?つか、まだ返してもらってないんですけど、《青き眼の乙女》。返してください」
「ほんとに、お前の異常性はどうなってるんだかな!!」
「"俺"が聞きたいくらいです、そんなもん、だからこそ、KC社やI2社に飼われようって話になってるんでしょう?そんで誤魔化さないで《青き眼の乙女》返してくれって」
「フンっ」
「聞けよ人の話。アレ用の額縁発注してんの知ってんだぞ。」
「話は終いだ。今日は帰れ」
「……(うわー、ばっくれる気だ)」
昔、青眼の白竜でも似たようなことやったと聞いたが、あんま成長してないんじゃなかろうか。
「(仕方ない、使用できないなりに大事に扱ってくれるだろう、達者に暮らせ)」
そう思い、あきらめることにした。
夜7時、KC社に車を手配してもらい、帰宅する道中。
「すみません、ここでいいです」
ふと思い至り、家ではなく、その近くで降ろしてもらう。
足を向けたのは、昔から通っていたカードショップ。
2年と少し前まで毎日のように通っていて、すこしずつ、足を向けることが少なくなった場所
「こんにちわー」
「いらっしゃい、おや、鷹城君」
「久しぶりです。」
現れたのはカードショップの店長、年は40を回ったほどだろうか。
あまり変わり映えがしないように見えて、以前より老けこんでいるように見える。
「ほんと久しぶりだね。どれくらいぶりだろう」
「2回目の世界大会の後だから…1年前くらいです」
「そんなにか、道理ででかくなるはずだ」
「……」
沈黙、それほど長く続くことはないが、口を開くのは久遠
「あれから、どうですか?」
「うん、大丈夫。君が来ることがなくなってから、1月くらいで落ち着いた」
「すみません」
「君は何も悪くない。あれは仕方なかったんだ。」
「でも、結果として……」
「済んだことだ。それより、君自身の方が大丈夫なのかい?」
そんな言葉では片づけられないほどの迷惑をかけたのに、それでも、この人は許してくれている。
「あ……ええ。もう大丈夫だと思います。KC社やI2がバックアップしてくれてますし、さっき、プロ契約も認めてくれました」
「おお、最年少プロデュエリストの誕生だね、おめでとう」
「ありがとうございます」
「デュエルも見てたが、うまくなったね」
「そう…でしょうか?」
「うん…そうだ」
「なら…うれしいです」
自分の成長を見てくれていた人はそう多くない。
その一人に「成長した」と言ってもらえるのは、この上なくうれしい。
気になっているのは、もうひとつ。
「あいつら、どうしてますか」
「あいつら……っていうと、遊城君と神倉さん?」
「ええ、その二人です」
「遊城君は…相変わらずだね。元気にやってるよ」
「十代は、そうかもしれませんね。楓は?」
「神倉さんは…どうだろう?昔よりは来なくなってきてるけど…たまにふらっと現れてはいるよ」
「そうですか……ならいいんです。まだデュエルを続けていてくれれば」
「遊城君はともかく、神倉さんは学校同じだろ?会わないのかい?」
「仕方ないですよ、あんなことがあったんじゃ…」
「そうか……」
「はい……」
近況確認はこれくらいか。
「そろそろ帰ります」
「……そうかい?まだいてくれていいんだよ?」
「もう誰もいませんからね、帰ります。」
ふと思い立つ、どうせここに寄ったんだ、とちょっとした悪戯心が芽生えた。
「あ、そうだ。パック買っていっていいですか?」
「ん?いいよ?でも……」
「俺用にではなくて、十代と楓にプレゼントしようかな、と」
「ああ、そういうことかい、なら2つで300円だ」
ポケットから硬貨を取り出して渡す。
「はい」
「まいどあり、君用だったらプロ合格記念に1つくらいただであげたんだけどね」
「えー。じゃあもらう~」
「ははは、残念。別の機会にな」
でも、そんな日は、多分もう来ない
この人は久遠の異端を知っているから。
「選んでいい?」
「サーチすんなよー。」
「しませんよ。そもそもできねーっす。」
……多分、これと……これ。何が入ってるかはわからない
あいつらが気に入ってくれればいいけど……。
こんなことで罪滅ぼしにならないことは、わかっていても。
「これでお願いします」
「戦士族と魔法使い族だね。確かに、彼らが来たら渡しとくよ」
「はい、それでは」
「またおいで」
「俺のホームショップ認定が狙いだな~」
おどける、そんな人柄でないことはわかっていても。
「無名プロのホームショップ認定なんていらないよ」
こうやって、子供の冗談にも笑顔で返してくれる
だから、この店を守りたかった。
結果として、全て空回った。
だから、今の久遠がいる。
「じゃあ有名になったら考えます」
「楽しみにしてるよ。あと、応援している」
「はい」
店を去り、帰路へ付く
次に来ることになるのは……いつなのか。
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転機は異端に目覚めてすぐだった。
自分の異端とどう付き合っていこうか考えあぐねていたとき、ショップイベントでレアカード展示があった。
それもとびっきりのレアカード《ブラック・マジシャン》に《ブラック・マジシャン・ガール》のセットだった。
街角の小さなカードショップに、人が殺到し、そこでトラブルが起きた。
ガラの悪い連中に、子供が絡まれ、正義感が強い当時の友人「遊城十代」と「神倉楓」がそれを助けるために応戦。
だが、相手が悪かった。
後から知ったことだが、そいつらはプロ崩れらしく、8歳の子供で太刀打ちできるものではなかった。
結果として、二人は敗退、デッキを取り上げられそうになる。
さらに、そいつらはこのことを吹聴して回ると店側も脅しにかかる。
脅迫の見返りは、二枚の展示カード。
店としてはカードを失うも、風評被害を負うもどちらも深刻なダメージとなる。
そこで立ちあがったのが、鷹城久遠
立ちあがってしまったのが、彼だった。
変則1対2で行われたデュエルも久遠は圧勝だった。
ライフを1削ることもない勝利だった。
しかし、それは見たこともないカードたちによってもたらされたもの。
大勢のギャラリーの前でそれを披露した結果、久遠はレアカード狙い者達の垂涎の的となる
最初は正直に応戦していた。
負けることはなく、連戦連勝。そうすると面白くないのはレアカード狙いの挑戦者。
結果として彼らのターゲットはほかの子供たちになる。
それは、久遠が店を離れてなお、しばらく続いたと伝え聞いた。
結果的に、騒ぎを大きくしてしまったのは久遠
彼自身は、その時から行っていたデュエルのログをKC社に発見され、保護され、今に至っている。
鷹城久遠の影を消し、大々的な舞台に立つ久遠帝として、こうしてデュエルを続けている。
そして、その時から、友人たちとはデュエルをすることはなくなっていた。
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「昨日のデュエルすごかったよなー」
「サイバーエンドかっこよかったー」
「あのズシンってモンスターすげーなー」
「なー」
「あんな強いのどうやって倒せばいいんだろうなー」
「わかんねーけど、くーっ、あんな強い人とデュエルしてみてーぜ」
「まーた十代の悪い癖が始まった」
「なんだよー、いーじゃんかよー」
和気あいあいと話しながら、カードショップに向かってくる子供たち。
話題は昨日のビックゲームの様だ。
談笑を続けながらいつものカードショップに入る
「てんちょーこんちゃー」
「「こんちゃーす」」
「いらっしゃい。お、いつものメンバーだね」
「てんちょー奥のデュエルスペース借りていい」
「ああ、いいよ」
「よーし、デュエルだー」
駆け出していく少年たち、その一人を店長が声をかけて止める
「あ、遊城君」
「何?店長。俺急いでんだけど」
「まぁまぁ、そんなに時間とらせないから。はい、これ」
渡されるのは昨日久遠が買ったパック
「何?……パック?くれんの?え、なんで?」
「あー、てんちょーずっけー、俺にも俺にもー」
「そーだそーだー、俺にもくれー」
「ごめんね、これは僕からじゃないんだ。昨日テレビに出てた久遠選手、しってるだろ?彼から遊城君にって渡されたんだ」
「えー、なんで十代だけ?」
「てか、店長、久遠選手と知り合いなの!!?すげー」
「十代も?久遠選手知ってんのー?」
「いやー、しらねーけど…」
突っ込まれるとややこしくなりそうだ、ここは大人のはぐらかし。
「あはは、それは秘密。さ、開けてごらん」
「ありがとう、……あ」
「何が出た?」
「十代見せろー。」
「《E・HERO フレイム・ウィングマン》だ。すっげー、ずっと欲しかったんだぜこれ!!」
「いーなー、レアじゃんかよー」
「いーなー」
「早く入れてデュエルしてみようぜ、楽しみだー」
そう言って駆けていく十代、今日も騒がしくなりそうである。
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「こんにちは」
「ん?ああ、こんにちは」
どうやらまどろんでいたらしい。奥で十代たちがまだ騒いでいるが、それ以外に客が来なかったからだろう。
今となっては、珍しい来客の声で目が覚めた。
「久しぶりだね、神倉さん」
「うん、お久しぶりです」
「遊城君なら来てるよ。奥でデュエルしてる」
この子はこっちに来ていたときはよく十代や久遠とデュエルをしていた。
だから、そう声をかけたつもりだったが。
「あ、ううん。今日はデュエルしに来たわけじゃなくて、鷹城君、来てるかなって。」
「いや、来てないねぇ、学校で会わないの?」
「うん…もうクラスも違ってしまってるし、鷹城君、クラブもデュエル部じゃないし…」
「そっか……」
「来てないんならいいんです。帰ります」
「あ、ちょっと待って」
先ほどと同じように引きとめる。
めったに現れない少女がこのタイミングで現れたのだ、これも何かの巡り合わせだろう。
「君が来たら渡してくれってこないだ渡されたんだよ。はい、これ」
「カードパックですか?誰から?」
「久遠選手、ほら、昨日テレビに出てただろ?」
「えっ!!?」
目の前の少女が目を見開いて驚く。この光景は久しぶりだ。
同時に、あの時から、この子の時間も進んでいないのを実感する
「やっぱり、覚えていてくれたんですね」
「そりゃ、もちろんそうだとも。現れた時もきみのことを心配していたよ」
本当にそう思う。
鷹城久遠は、周囲と自分を守るために、安住の地を手放した。
神倉楓はその安住の地から直接的でなくとも追い出した原因となった。
加えて言うなら神倉楓は鷹城久遠が久遠帝であることを知っている。
故に、というべきか、そのせいでというべきか、久遠と楓の間には壁ができてしまっている。
そんな皮肉の物語。
「私、今年度で転校するんです」
ぽつりと、楓が言う
「もともとあんなことがあって、すぐにでも引っ越そうとしていて、でもどうしても私が残りたいってだだをこねていたんですが、親の仕事の都合で…」
「……そう」
話は聞いてやることしかできない。
多分、それしかできない。
「いい思い出もありました、嫌な思い出もありました。心残りだったのが久遠のことでした。」
「………」
「でも、彼が、こうして私を覚えていてくれるだけで、私はまだ頑張れます」
「そう……よかったね」
どれだけ苦しんできたかを知っている。どれだけ悩んでいたかも知っている。
それに対しての彼なりの答え
『俺はまだ、デュエルの世界にいる』という行動と、
『お前も強くなれよ』という、激励の意味のパック。
それが彼の意志のように見えてくる。
「あの…えっと…開けてもいいですか?」
「ああ、いいよ。彼もそれを望んでいる」
「……あっ」
「いいの出たかい?」
「《混沌の黒魔術師》……」
マジか。
どうにも彼はパックの引きもとてつもないものを持っているらしい。
でも、そんな陳腐な言葉で片付けるより
「私、このカードをエースにします」
「そうだね、それはいい。彼も喜ぶだろうよ」
彼が引き合わせた運命
その方がロマンチックだ。
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この後、神倉楓は転校、のちにデュエルアカデミア中等部を目指すことを決める
この後、遊城十代はHEROデッキをメインに据えることになる
そして、この後
鷹城久遠は久遠帝として、2年で参加可能リーグ17、リーグチャンプ8の称号を得る。