遊戯王GX-至った者の歩き方-   作:白銀恭介

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覚悟の決闘、修羅の道へ

 日中にもかかわらず、これから決闘が行われようとしている決闘場は静かだった。

 立ち会いはわずかに一人。今から行われる教員採用試験の責任者である播磨校長である。

 その表情からは、何を考えているかをうかがい知ることはできない。

 決闘場に立つのは2人。

 一人はこの試験を受ける教員候補、龍牙。

 もう一人は試験決闘の相手として名乗りを上げたアカデミア生にして特待生の一人、神倉楓。

 各々がどのような想いを持って、この決闘に挑んでいるのかは、お互いに知ることはできない、

 ただ、対戦相手たる龍牙に対して神倉が向けているのは、誰もが感じることができる明確な敵意。大げさに言うなら殺意ともとれるそれを向ける神倉には、少なからずの因縁があるのだろうということは容易に予測できた。

「(まあ、そんなものはどうでもいいのだが)」

 涼しげな表情を顔に張り付かせながらも、播磨は考える。

 元々、龍牙を採用しようとしたのは、自分の一存に寄ることが大きい。手ゴマにすることを目的とした、権威に従いながらも決闘の腕を持つ者。是非とも採用したいと思うその相手には、学園の情報は最大限与えている。学生のレベル、要注意すべき人物。そして、要注意人物のデッキ傾向。神倉は要注意人物の筆頭に挙がっており、それ故に、これまでの学園で行われた決闘のすべてのデータを龍牙に与えていた。

 自分の敷いたレールは盤石。間違いなど起こりようがない。

 そう思うほどには、手を打ってきた。

「さて、時間です。お互いに準備をしてください」

 お互いに無言。そのままに決闘場の指定位置につく。

「挨拶を」

「よろしくお願いします」

「………………」

 挨拶をする龍牙に対して、言葉を発しない神倉を怪訝に思う播磨。こうも礼を重んじない少女だったか。

「神倉さん?」

「………………よろしくお願いします」

 若干不思議には思ったが、瑣末なことだと切り捨てた。元々播磨にとって神倉は邪魔な生徒の一人。その想いになど、さしたる興味はない。

「それでは、龍牙君の教員採用試験を始めます」

 播磨の宣言の元、

「「決闘(デュエル)!!」」

 少女にとっての因縁の決闘が始まる

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TURN 01

神倉楓(TP)【魔法使い族】

    - LP 4000

    - 手札 6

龍牙【???】

    - LP 4000

    - 手札 5

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 デュエルディスクが指定した先攻は神倉。

「先攻は私です。ドロー!!」

 正直突然降って湧いてきたリベンジの場に、未だ楓の心は落ち着き切っていない。

 久遠や明日香と言った慣れ親しんだ同級生との決闘の始まりのような落ち着きとも、丸藤亮や藤原優介と言った同格以上の先輩との決闘の始まりの様な若干の緊張とも違う、表現しがたい感情がめぐっている。

 引いたカードを見る。楓の得意とする速攻が行えそうな手札ではない。

 しかし、場を整えることは十分に可能だ。そういう決闘も、久遠と一緒に学んできたつもりだ。

「私は、《魔導騎士 ディフェンダー》を守備表示で召喚。そして効果発動、ディフェンダーが召喚に成功した時、ディフェンダーに魔力カウンターを1つ乗せます。カードを3枚伏せて、ターンエンド」

    《魔導騎士 ディフェンダー》 Lv4/光属性/魔法使い族/攻1600/守2000

 スタートは静か。しかし、今となってはこれでも戦えるくらいには成長しているつもりだ。

「私のターン、ドロー。私は、魔法カード《魔法除去ウイルスキャノン》を発動だ」

「なっ!?」

「その顔では効果を知っているようですね。ウイルスキャノンの効果は、手札の魔法カードを全て捨て、その後デッキから10枚の魔法カードを墓地に送る効果」

 最悪に近いカードを打たれた。楓の基本戦術は魔法による強化と速攻。そのデッキの根幹は魔法カードのギミックによる部分が大きい。デッキから10枚もの魔法カードを使えなくされてしまうと、デッキコンセプトから崩壊しかねない。

「さあ、まずは手札の魔法カードを捨ててください」

 そしてそれは、同時に手札を明かさなくてはならないという情報アドバンテージの差にもつながってしまう。

「…………魔法カードはありません」

「確かに、モンスターと罠のようですね、結構。それでは、デッキから10枚、魔法カードを墓地に送ります」

 成す術なく、デッキからカードが大量に墓地へと送られてしまう。

 強欲な壺、装備魔法、楓の主要なギミックのカードが、悉く墓地へと送られて行ってしまう。

 

「フフフ、その様子では大事なカードが墓地へと行ってしまったようですね。しかし、この決闘を挑んだのは貴方の方です。今更引き下がるわけにはいきませんよ。」

「…………」

「私は、《俊足のギラザウルス》を特殊召喚します。このカードは、手札から特殊召喚することができます。代償として相手の墓地からモンスターを復活させてしまうデメリットがありますが……」

「……私の墓地にはモンスターはいません」

「ええ、その時このカードは特殊召喚できなくなるわけではなく、ただあなたの墓地からの特殊召喚がなくなるだけです。そして私は、ギラザウルスを生贄に、《大進化薬》を発動です。このカードは3ターンの間フィールドに残り続けます。そして、この間、私は恐竜族の召喚に生贄を必要としない。さらに私はこのターン、まだ通常召喚を行っていない。私はレベル6の《暗黒ドリケラトプス》を召喚だ!」

    《暗黒ドリケラトプス》 Lv6/地属性/恐竜族/攻2400/守1500

 楓のお株を奪うかのような大型モンスターによる速攻。この状況は、あまりよろしいとは言い難い状況である。

「魔法カード、《地割れ》を発動。相手フィールドの攻撃力が一番低いモンスターを破壊する」

 典型的な攻め手。攻撃力の高いモンスターを召喚して相手モンスターを除去して攻撃。典型的故にシンプル、シンプル故に強力。そしてシンプルであるがゆえに――

「リバースカード、オープン。カウンター罠《マジック・ドレイン》を発動。相手の魔法カードの発動を無効化します。相手は魔法カードを捨てることでマジック・ドレインの効果を無効化することができますが……」

「む……捨てるのはやめておこう」

 ――シンプルであるが故に妨害が容易い。

 それは楓があの時から学んできたことの一つ。あの時は自分の好きなことをすることしか考えていなかった子供のころから成長してきたことの一つだった。

 しかし――

「バトル! ドリケラトプスでディフェンダーを攻撃」

「ディフェンダーの効果を発動します。魔力カウンターを一つはずすことで、破壊をまぬがれます」

「だが、ドリケラトプスは貫通効果を持っている! ダメージは受けてもらうぞ!」

「くっ……」

    神倉:LP 4000 → 3600

 ――ドリケラトプスが存在してしまっている以上、ダメージは避けられない

 ドリケラトプスの突進を、盾を構えて守るディフェンダーしかし、その圧に耐えられず衝撃が楓へと襲いかかる。そのわずかな貫通ダメージに踏みとどまる。

「(でも、まだ何とかなる)」

「ターンエンドだ」

 正直魔法カードにターゲットを絞られてのデッキ破壊は痛い。速攻を主とする彼女は、罠と魔法の比率がかなり魔法に偏重している。このあたりが『守備が弱い』と評される所以であるのだが、逆に言うと彼女の攻撃力の高さを示している部分でもある。しかし、これでは、その長所がごっそりと抉られた形となってしまう。加えて、初期の手札には相手の行動を妨害するカードがマジック・ジャマーしかなく、早々に使ってしまうことになってしまった。

 でも、戦線は何とか保つことができた。フィールドにモンスターがいれば、まだ打ち勝つ方法はなくもない。

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TURN 02(EP)

神倉楓【魔法使い族】

    - LP 3600

    - 手札 2

    - モンスター

        《魔導騎士 ディフェンダー》(守2000)

    - 魔・罠

        伏2

龍牙(TP)【恐竜族】

    - LP 4000

    - 手札 1

    - モンスター

        《暗黒ドリケラトプス》(攻2400)

    - 魔・罠

        《大進化薬》

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「私のターン、ドロー!」

 引いたカードを見る。引いたのは、この場を覆すことができる可能性を持った1枚。

「私は、魔法カード《天使の施し》を発動、デッキから3枚ドローして、2枚捨てます」

「……魔法はかなり減ったはずなのに、引きが強いですね」

「3枚ドロー!そして……」

 捨てる手札を選ぶためにドローした時点でカードを見る。今の手札は捨てなくてはいけない2枚のカードを合わせて5枚。だが、その中に、起死回生のカードはない。

 頭を高速で回転させる。いま、自分に必要な物は何か。いらないものは何か。現在の状況を読み取って考える必要がある。

「そして、2枚を捨てます」

「長考ですね……自分のデッキのギミックをきちんと理解していない証拠ですね」

「………………」

 反論こそ返さないものの、楓はその意見には全面的に賛同していない。

 今、楓にとって目標としているデュエリストは、変幻自在の戦法を取るデュエリスト。あらゆる可能性を想定したデッキ構成にしないと、対抗することは叶わない。

「私はモンスターをセット、カードを1枚伏せて、ターンエンド」

「フフ、防戦一方ですね。折角手札交換をしたというのに。まあいい。私のターン、ドロー!」

 このターンの巻き返しは叶わなかった。このターンを耐えられるかどうかが、キーとなる。それでも、この劣勢を返すには、デッキから大量に削られた魔法カードの残りを引くという、分の悪い運にかける必要がある。

 そう思っていた矢先、楓のもくろみは崩れることになる。

「私は《強欲な壺》を発動、デッキからカードを2枚ドロー!……ククク」

 笑い声が変化する。表情が歪む。以前見たような醜悪な表情が浮かんでくる。

 その姿に、楓は心が締め付けられるかのような感覚に陥る。それは、幼い日々に負った心の傷。

 未だ傷跡は癒えることはなく、そこから一歩も動くことができない日々。

 そんな無力感が、相手の嫌な笑顔と共に、首をもたげてくる。

「私は《魔法除去ウイルスキャノン》の2枚目を発動」

「そんなっ!!」

 想定していないわけではなかった。しかし、これは最悪を通り越した状況。

「手札は……ゼロなので関係ないですね。デッキから10枚の魔法カードを捨ててください」

「…………デッキの魔法カードは7枚です」

「そうですか、ククッ。それでは全ての魔法カードを墓地に送ってもらいましょう」

 そう、デッキからの魔法カードの枯渇、それは楓の手繰るようなか細い生命線の枯渇を意味する。

 楓に残った魔法カードは、伏せられた僅かなカードだけ。もう高攻撃力のモンスターを出されてしまった際の対応策は、本当にわずかしか残されていない。

 そして、相手のフィールドには大進化薬がある。高攻撃力のモンスターが連続して出てくる可能性は非常に高い。

「大進化薬の効果で私は、生贄なしでモンスターを召喚できます。召喚するのは《超電導恐竜》!!」

    《超伝導恐獣》 Lv8/光属性/恐竜族/攻3300/守1400

 身に雷を纏う巨大な恐竜の咆哮が、フィールド全体に響き渡る。対抗策がほぼなくなってしまった現状、その響きは力となって楓へと襲いかかる。

 それでも不思議と逃げたいという気持ちは起こらなかった。今はただ、このターンを耐える方法を考えることの方が大切。

 

「バトル!まずはドリケラトプスでセットモンスターを攻撃!」

「セットモンスターは《魂を削る死霊》、戦闘破壊はされません」

「良い手のように見えますが、悪手です。ドリケラトプスが居るのに、そんな弱小モンスターを立たせるなど、ライフを削ってくれと言わんばかりです」

「くっぅぅぅぅぅぅ」

   神倉:LP 3600 → 1400

 初期ライフの半分以上が一気に削り取られてしまう。本格的に危険域に入ってきた。

 しかも伏せカードが4枚もあるのに攻撃に全くためらいがない。楓の基本的な戦術が割れているのかは判らないが、事実として防げていないのだから、彼の判断は大当たりだと言える。

「超伝導恐獣で……攻げぇ――」

「リバースカード、オープン! 速攻魔法、《エネミー・コントローラー》を発動! 相手のモンスターの表示形式を変える効果を選択します。私が表示形式を変えるのは《超電導恐竜》!! これで超電導恐竜は攻撃することが――」

「――ぇきしないでおきましょう。」

「そんなっ!!」

「私はまだ攻撃宣言をしていませんでしたよ? 勝手に貴方が発動したに過ぎない話です。しかも、貴方が攻撃宣言時と言って置けばいいだけの話です。そうすれば、無用な勘違いは防げたのでは?」

 もっともらしい事を言ってはいるが、詭弁である。敢えて攻撃の宣言をずらすようなことをしている。こんなのはデュエルの公正さに欠ける。そう思い。

「校長先生っ! 今のはっ!!」

 今回の決闘のジャッジを務める校長の方を向く。

 しかし――

「認められます。今回の神倉さんの行為は単なる不注意でした」

 それすら無慈悲に切り捨てられる。

「さあ、もういいですね? メインフェイズ2に私は《超電導恐竜》の効果を発動します。1ターンに1度、自分フィールドのモンスターを生贄に捧げることで相手に1000ポイントのダメージを与えます。この効果は攻撃を行っていると使用することができませんが、私の《超電導恐竜》は攻撃宣言をしていません。」

    神倉:LP 1400 → 400

「うっ……」

 そう、ただ攻撃をしないというだけのことならば抗議することなどなかった。結果など変わらないのだから。

 問題なのは、攻撃宣言することで使用できなくなる超電導恐竜のバーン効果が攻撃しなかったことによって使用可能となってしまうということ。ドリケラトプスこそ居なくなってくれたものの、その代償は非常に大きい。

「そして、カードを1枚セットして、ターンエンドです」

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TURN 04(EP)

神倉楓【魔法使い族】

    - LP 400

    - 手札 0

    - モンスター

        《魔導騎士 ディフェンダー》(守2000)

        《魂を削る死霊》(守200)

    - 魔・罠

        伏3

龍牙【恐竜族】

    - LP 4000

    - 手札 0

    - モンスター

        《超電導恐竜》(守1400)

    - 魔・罠

        《大進化薬》

        伏1

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 ターンが回ってくる。

 理不尽ともいえる仕打ちに心が折れそうになる。ライフはあとわずか。次のターンに超伝導恐獣を残してしまったら、自身を生贄に効果を発動されてそれで終わりである。

 楓のフィールドにはディフェンダーがいるが、攻撃力は1600。返しのターンに攻撃力2000以上のモンスターが出てきてしまったらこれまた終わりである。相手フィールドに大進化薬がある以上、その可能性は決して低くない。

 楓の伏せカードは3枚。この状況をひっくり返せないカードが1枚と、発動条件を満たさない2枚。そして、次のターンに使うことのできる魔法カードは、すでにデッキに1枚足りとも存在していない。

 そして、万一攻勢に移れたとしても、相手フィールドにあるセットカードによって止められる可能性も否定できない。それを知っていても、除去する術はほとんど存在していない。

 

「………………………」

 頼りの綱は、無くはない。でも、それは次の不確定なドローにかけるしかない。

 デッキは削りに削られたとはいえ、残りは15枚。確率は決していいとは言えない。

 そして、万一上手くいったとしても、それ以降も運に全てをゆだねなくてはならない。

「………………………」

 言葉が出ない。あの時から強くなろうと誓った想いさえも、折れてしまいそうになる。

 すべては、このときのためだったのに。

 あの日、すべてを狂わせてしまった自分への戒めと、それを起こした相手へのちっぽけな復讐。

 もう戻らないと知っていても、自分へのけじめだと思って挑んでも、何もできないままに終わってしまう。

 それすら、かなわないと……知ってしまう。

「何をしてるんですか? 貴方のターンです。ドローしてください。」

 目の前の相手を見る。

 あの時、自身を絶望へとたたき込んだ相手が、そのままにこちらを見下ろしている。

「………………………」

「それともよォ……やる気がねぇならさっさとサレンダーしやがれや」

 そう、僅かに漏れ出したこの表情が、この男の本性。

 あの日受けた心の傷が、また、心の奥底で疼きだしてしまう。

「…………龍牙君」

「悪いっすね、校長先生。でも、どうせだれも見てない決闘だ。多少は好きにさせてもらってもいいはずだ。大体、俺の過去や性格、そういうのを織り込んだ上であんたは俺を拾ったんだろうに」

「…………」

 もう、それをたしなめる校長の声すらも、隠そうともしなくなった龍牙の下劣な言葉も、耳に入らない。

 サレンダー、それをしてしまえば、この場から逃げることはできる。

 あきらめてデッキに手をかざそうとした、その時――

『ああ、待ってるよ』

 数年ぶりに出会った幼馴染が、自分にかけてくれた声を思い出す。

 あれから彼がどうしてきたかなど、考えるに余りある。つらいことなど星の数ほどあっただろうに、既にそれに折り合いをつけ、大人の表情をするようになった幼馴染は、あの時、確かにそう言ってくれたのだ。

 それからも、変わることはたくさんあった。今、彼は此処にはなく、頂点へと手を掛けた。

 それでも、『待っている』と約束したのだ。

 だから――

「私のターン、ドローっ!」

 ――だから、もう心折れたりなんてしない。力は及ばなくても、それは受け入れる。それを受け入れたうえで、力の限り、走り続ける。

 『待ってる』と、約束してくれたのだから。

 『待たせる』と、約束したのだから。

 手札を見る。賭けには、勝った。

「私は、ディフェンダーと魂を削る死霊を生贄に、《混沌の黒魔術師》を召喚!」

    《混沌の黒魔術師》Lv8/闇属性/魔法使い族/攻2800/守2600

 あの日、久遠からもらった力が、それを助けてくれる。

 彼は、今の自分を肯定してくれている。

 だから――進む!

「黒魔術師の効果を発動、このカードが召喚に成功した時、墓地の魔法カードを1枚回収します」

 

 墓地には楓のもつほぼすべての魔法カード。

 その中から選ぶのは、除去でも、強化でも、速攻でも、守りでもなく。

「私が選ぶのは、《強欲な壺》、回収後、即発動!」

 選ぶのは、布石。

 これで、整った。

「バトル!混沌の黒魔術師で超電導恐竜を攻撃! 『滅びの呪文』!!」

 精悍な顔つきの魔術師が、その持てる力の全てを太古の恐竜へとたたきつける。今にも届こうとしたその瞬間。

「甘いんだよ、リバースカード、オープン!《聖なるバリア―ミラーフォース―》を発動だ!相手モンスターが攻撃してきた時、攻撃表示モンスターを全て破壊する!」

 龍牙の発動した光のバリアが攻撃を反射、逆に黒魔術師の方へと襲いかかる。楓の従える最強モンスターの僕の攻撃が、逆に楓へと襲いかかる。

「私もリバースカード、オープン!速攻魔法《ディメンション・マジック》発動! フィールドに魔法使い族モンスターが居る時、モンスター1体を生贄に捧げて効果を発動、手札の魔法使い族モンスターを1体特殊召喚!私は手札の《ブラック・マジシャン・ガール》を選択!攻撃表示で特殊召喚!」

「甘ぇよ! ミラーフォースは攻撃表示モンスターの破壊だ! 攻撃表示で特殊召喚した瞬間、ミラーフォースの餌食だ!」

「そしてディメンションマジックのもう一つの効果! 特殊召喚に成功した後、相手モンスター1体を破壊します! 破壊するのは当然《超電導恐竜》!!」

「くっ!だが、ブラック・マジシャン・ガールも破壊される!」

 目まぐるしく場の状況が入れ替わっていく。ミラーフォースによる反撃を避けた魔術師、その跡に残った弟子がその遺志を継ぎ、巨大な恐竜を殲滅する。

 しかし、その弟子さえも、反撃は巻き込んでしまう。結果として、場にモンスターは1体たりとも残らない。

「…………くそっ、嫌なことを思い出しちまったぜ」

「…………」

「4年前だったか、あのクソ忌々しいガキのせいで、散々な目にあったんだった」

「…………」

「ブラマジガールなんぞ、それ以来見たいとも思わなかったが、どーしてくれんだ、胸っクソ悪くて仕方ねぇ」

「………………リバースカード、オープン!」

 もう、目の前の相手と言葉を交わす必要などない。そんなものは、決闘が終わってからすればいい。

 今は、目の前だけを見据えなくてはならない。そうでなくては、待ち人へは決して届かない。

「永続罠《リビングデッドの呼び声》を発動!」

「ちっ! しかし、このターンで俺を倒せるわけがねぇ!俺のライフはまだ無傷、そうそう削りきれるもんじゃねぇぞ!」

「私が蘇生するのは、天使の施しで墓地に送ったモンスター、《カオス・ネクロマンサー》!!」

    《カオス・ネクロマンサー》Lv1/闇属性/悪魔族/攻 0/守 0

 

 現れたのは、亡霊を従えた魔術師の格好をした異形。その表情は、仮面によってうかがい知ることはできない。

 その攻撃力は0、デュエルディスクに表示されたその姿を見て、龍牙はあからさまにあざけるような表情を取り戻す

「攻撃力0をわざわざ出してどうするつもりだ、それなら今墓地に落ちたブラマジガールを戻されたほうがまだ厄介だったぞ!」

「ブラマジガールをあえて攻撃表示にして墓地に落とした理由、それがこのモンスターです」

「ンだと!?」

「カオス・ネクロマンサーの効果は、墓地に存在するモンスターの数×300になります。黒魔術師はフィールドから離れたときに除外されるので、私の墓地にはディフェンダー、見習い魔術師、ブラマジガールに、天使の施しで墓地に落ちたコスモクイーンで4枚!攻撃力は1200です」

    《カオス・ネクロマンサー》 攻0 → 1200

「それでも、まだブラマジガールより低いじゃねぇか、しかも、コスモクイーンがいるならなおさらそいつを出した意味側からねぇよ」

「バトルフェイズ中の蘇生なので、攻撃権は残っています。ネクロマンサー! ダイレクトアタック!『ネクロ・パペットショー』!!」

「ぐぅっ!」

    龍牙:LP 4000 → 2800

 初めて入るダメージに、顔をしかめる龍牙。昔の決闘ですらダメージを与えられなかった相手の表情がゆがむのをはじめてみた。

「小さいダメージだったな、コスモクイーンでも出されてたら勝負はわからなかったが、まぁ、アカデミアの学生如きじゃこれが限界だよなァ!!」

「まだです!!」

 そう、楓の攻撃はそれでは終わらない。

「最後のリバースカードです、速攻魔法、発動!!」

 終わらせられるわけがない。

「《狂戦士の魂(バーサーカー・ソウル)》を発動!!」

「なぁっ!?それはっ!!」

「攻撃力1500以下のモンスターがダイレクトアタックに成功したとき、手札をすべて捨てて発動できます。強欲な壺をわざわざ使ったのはこのカードの発動コストを賄うためです。そして、捨てるのは《魔導戦士 ブレイカー》、モンスターカードです。これにより、ネクロマンサーの攻撃力は1500に上昇!」

    《カオス・ネクロマンサー》 攻1200 → 1500

狂戦士の魂(バーサーカー・ソウル)の効果発動、デッキからカードをドローし、そのカードがモンスターカードだった場合、墓地に送ることで追加攻撃を可能にします。」

「お前のデッキから……モンスター……ハッ!?」

「そう、私のデッキは、あなたの2枚のウイルスキャノンによって魔法カードは残っていません。そして、私のデッキは速攻魔法多用型の強襲型。罠カードはかなり少ない構成になっています。ネクロマンサーの攻撃力上昇につき、ドローするモンスターは2枚で済みます。2回くらい、引けない確率ではないはずです」

 元々は墓地にモンスターが落ちることが多いため、ピン刺しながら入れていたネクロマンサーとモンスターを落とす役割と下級による火力を入れるための狂戦士の魂。しかし、一定の条件により、これらが決定打となりえる。

「まず1枚目、ドローっ!」

 カードを見る、そして――

「引いたのはモンスターカード、《見習い魔術師》墓地に送り追加攻撃、さらにネクロマンサーの攻撃力が増加します! 行けっ、ネクロマンサー! 『ネクロ・エグゼキューション!!』」

    《カオス・ネクロマンサー》 攻1500 → 1800

    龍牙:LP 2800 → 1000

「ぐあっ!! 待て、ネクロマンサーの攻撃力が1500を――」

「攻撃力1500以下は『発動条件』です。効果中に上昇しても中断はされないっ! 2枚目ドローっ!」

 攻撃の手は緩めることはない。龍牙への怒りは、こんなもので終わらせられるわけがない。

 そして、怒りは、決闘の中でだけぶつける。

 そう決めたのだから、決して手は緩めない。

「2枚目のカードは、《執念深き老魔術師》、これでっ!!」

「ま、まてっ!!」

「待たないっ! ネクロマンサー! 『ネクロ・エグゼキューション!!』」

「ぐああぁぁぁっ!!」

    《カオス・ネクロマンサー》 攻1800 → 2100

    龍牙:LP 1000 → -1100

 龍牙のライフが0となる。しかし――

「3枚目、ドロー! 《霊滅術師 カイクウ》」

「ま、まっ!! うああああっ!!」

    《カオス・ネクロマンサー》 攻2100 → 2400

    龍牙:LP -1100 → -3500

「4枚目、ドローっ! 《見習い魔術師》!」

「ちょっとまて、もう決着は! ぐああああぁぁぁぁぁっ!!」

    《カオス・ネクロマンサー》 攻2400 → 2700

    龍牙:LP -3500 → -6200

「5枚目っ、ドローっ! 《熟練の黒魔術師》!!」

「まっ、待って!! ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

    《カオス・ネクロマンサー》 攻2700 → 3000

    龍牙:LP -6200 → -9200

「6枚目、ドローっ! 《闇紅の魔導師(ダークレッド・エンチャンター)》」

「降参だ、降参だからっ!! ぐああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

    《カオス・ネクロマンサー》 攻3000 → 3300

    龍牙:LP -9200 → -12500

「7枚目、ドローっ! 《魔導騎士 ディフェンダー》」

「た、助けてくれ! 校長!! ぐああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

    《カオス・ネクロマンサー》 攻3300 → 3600

    龍牙:LP -12500 → -16100

「8枚目ェっ!!ドローっ! 《王立魔法図書館》」

「ぐああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! もう……勘弁してくれっ」

    《カオス・ネクロマンサー》 攻3600 → 3900

    龍牙:LP -16100 → -20000

「9枚目っ!ドローっ!」

 

 手札に来たのは、デッキに唯一残った罠カード。

 狂戦士の魂の効果が終わると同時に、すでに0を大きく割っていたデュエルが決着する。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」

「…………う、ああぁぁぁぁ」

 お互いに声にならない、龍牙は決闘で受けた衝撃から。

 楓は――

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 ――これまでの複雑な想いから。

 もう、振り返らないと決めた。どんなにつらくても、目指す場所へ、一直線に走ると決めた。

 それでも――

「あの時……お前さえ……」

 そう誓ってさえも――

「あの時、お前さえ、お前さえ現われなかったらぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 ――そう、言葉を発せずにはいられない。

 すべてが終わったあの日。久遠の引き金を引いたのは目の前の相手だ。

 こいつさえ現われなかったら、こいつさえ、余計な事をしなかったら。

 こいつさえ、こいつさえ、こいつさえ。

 想いは渦巻き、それを晴らすすべなど思いつかない。

 だからこそ、楓は力の限り叫ぶ。

 それだけが、少しでも怒りを外に出す方法だとすがるように。

 それしか、知らないから。

 それしか、できないから。

 もう、脇に立つ校長すらも目に入らない。

 久遠に対して悪意をぶつけていたようだが、もはやそんなことはどうでもいい。自分に害が及ぶかどうかなど興味もない。

 怒りは未だに納まらなくとも、復讐は果たした。

 だから、これから目指すは、久遠の立ち位置。

 あの日、独りにしてしまった相手のもとへ、少しでも、近付くために。

 

 

 神倉楓は、この日、鷹城久遠に続く『番外』を背負うこととなる。

 『待っている』と約束してくれた、少年を、一人にしないための果てなき修羅の道を、少女は歩き始める。

 

 

 




少女は、決意する

修羅の道を歩くことを


そして、少年は、決着をつけんがために戦う。

そこで、明かすのは、異端の能力の真相


次回、「決戦、異端の能力」




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