遊戯王GX-至った者の歩き方-   作:白銀恭介

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道の果てに―鷹城久遠/久遠帝―

 そこに待っていたのは、割れんばかりの歓声だった。

 USオープン、ファイナルの舞台。会場に詰めかけた観客が、あるいはテレビを通して見ている世界中の視聴者が見つめるは、その主役たちが繰り広げる決闘の舞台。

 その年に行われる最高の決闘の一つを目に焼き付けようと、世界中の決闘者たちの視線がそこに集まっていた。

 登場人物の一人は、現世界チャンピオン。名実ともに『世界最強』であり、それを6年という長きにわたって保持し続けているDestiny of Duelist、通称DD。デュエルモンスターズを嗜む者ならその名を知らない者はいないとも言われる人物である。

 もう一人の登場人物は、大会開始時点で誰もがそこに立つことなど、まったく予想されなかったデュエリスト。世界ランク100位以内のデュエリストの祭典といわれる本大会で世界ランク100位以上の出場枠のワイルドカードでの参加。だれしもが序盤で消えると思っていた中で、初戦で優勝候補の一角たる世界ランク2位を撃破という大番狂わせを起こし、一気に台風の目として世界中に名を上げてきた。その後も世界に名だたる選手を悉く撃破し、トップデュエリストの一人に食い込んだ日本人選手、久遠帝。

 誰もが結末を読むことができない決闘が、今始まろうとしていた。

 決戦を目の前にした控室で、その舞台の主役の一人であるデュエリスト、DDは思慮をめぐらせていた。思考の対象は、当然の話ではあるが今日の対戦相手である久遠帝。

 日本の下位リーグで活動していたのにも関わらず突如として国際大会に打って出た。その経歴には興味がない。駆け上がってくる超新星というものは、いつの時代にも突如として現れるものだ。

 あの若さでの強さであることも不思議はない。自分が保護しているあの少年、エド・フェニックスもまた、彼よりも下の年で頭角を現し始めている。

 気になるのは、彼だけが唯一使用する未知のカード群。世界に唯一、もしくは、それに準ずるカードを持つデュエリストはいないでもない。それはエドの持つシリーズカードもそうであるし、自身の持つ『あのカード』も世界に唯一のそれだ。

 ジャスティスを倒した時から彼の経歴を一通りあたってみたが、これまで見たことがないカードを奴は少なくとも100枚は使用してきていた。当然ながら、そのデッキテーマは不統一であり、その背景に控えている未知のカードの総数は未だに底が見えない。

 エドを通じてI2社に対して大会中にそれなりに探りを入れてきたが、そこから収穫はなかった。ではデュエルモンスターズの双翼であるKC社にその種が有るのかと思い、知り合いを通じて探ってみても、何一つ、つかむことはできなかった。大会中という短い時間の中では、これ以上掴むことはできなかった。

 

 勝利の秘訣は、事前の周到な情報集めにあるとDDは考えている。そして、事実そうして自分はこの6年、王座を守ってきた。きっかけは『あのカード』に有るとはいえ、それが全てではない。それだけの矜持はチャンプとして持っている。しかし、今回に限ってのみ、得られる者は多くなかった。初戦からここまで6戦、新デッキを引っ提げてきた相手に、そこからの情報だけで相手を見極めなくてはならなかった。

 

「さて……行くか」

 始まりの時は近い。あのカードを使うことも考えたが、それは最早できることではない。表舞台で『アレ』を使うには、最早あのカードは力をつけ過ぎている。

 ツカウナラ、ダレノメニモツカイバショデ

 その言葉は、『どちらが』発したものか。それを確かめる程の余裕は彼に無く。彼はステージへと向かう。

 己の地位を守るため、己の人生を守るため、そして、あの日交わした小さな約束を守るため。

 王者は、未知なるステージへと向かっていく。

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 決勝の舞台は、それまでの舞台とは異なる雰囲気が立ちこめていた。

 世界最高の舞台は、これまで味わったいかなるステージともまた異なるものだったが、大会に出ているうちに麻痺してしまったのだろうか、1回戦の時に感じた威圧感というか、そういったものはあまり感じない。

 デュエルモンスターズを始めた時、そして、プロになったばかりの時には遥かなる果てであると感じた世界の頂点。それを決めるための闘いの場に、今自分が立っているにも関わらずである。

「(もう……少しだけなんだな)」

 感慨深くはある物の、思考はやけにクリアである。何度も繰り返してきたデュエル前の空気であることは変わりないからか、いざ踏み込んだ世界の頂点の領域が、踏み入れてみればそこまで遠いものではなかったからなのか。何故だかはよくわからない。

 

「(ま、いいか)」

 今は余計なことを考える必要はない、思考がクリアだということは目の前に集中しやすくいいことだと割り切る。アメリカにこなくてはならなかった事実も、そこに纏わる播磨校長の悪意も、マッケンジーの目的も、何もかも今はどうでもいい。今この場に立っている自分は一人のデュエリスト。それ故に全ての意識は目の前のデュエルに向けるべきで、それができているのだ。何も、恐れることはない。

 歓声がひときわ大きくなる。ようやく、満を持して対戦相手が姿を現す。現世界最強のデュエリスト、DD。幾度となく雑誌でその姿を見た、昔の自分にとってはまさに雲の上の人物。しかし、今となっては、目の前に手が届くだけの位置に自分は居る。

 相対するお互いは無言。それが続いたのはほんの一瞬か、はたまたしばらくの時を知らぬ間に費やしたか。先に口を開いたのは、DD。

「クドウ選手だったね。はじめまして、今日は、良いデュエルにしよう」

「お初にお目にかかれて光栄です。お相手になるように精一杯頑張らせていただきます」

 最初の鍔迫り合いは至って静か。挑発すらしてこない相手に意趣返しは効果がない。成程、風格のみならず、こうした佇まいだけでもこれまで相手にしてきた相手とは格が違うことを思い知らされる。

 そして、決戦の舞台に立つ二人は、所定の場所へと下がる。それと同時に会場のボルテージは最高潮に達しようとしていた。

『さあ、長かった本大会もいよいよファイナル!世界チャンピオンが期待の新星にその壁の厚さを見せつけるか、はたまた期待の新星はこのままきらめき続けるか!観衆たちよ、活目せよ!君達は間違いなく、今シーズン最高の決闘を目の当たりにすることができるだろう!』

 そのあおりに、さらにボルテージを上げるスタジアム。

 それと同時にディスクを構える二人。

――決戦が、始まる

「「デュエル!!」」

USオープン 決勝戦

DD(世界1位)VS 久遠帝(世界65位)

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TURN 01

DD(TP)【???】

    - LP 4000

    - 手札 6

    - モンスター

久遠帝【???】

    - LP 4000

    - 手札 5

    - モンスター

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 デュエルディスクが定めた先攻はDD。

「俺のターン、ドロー」

 ルールに従い、ドローを行う。ただその一挙手一投足にすら大歓声が上がる。それはこの目の前に相対する人物が6年の歳月をかけて育んできた結果である。絶対王者の名を冠する彼にとって、既にそれは当たり前のことではあるが、それを『当たり前』とすることこそが、どれだけの偉業であるかなど、久遠にとっては考えるまでもない事である。ただ強いだけではそうはなれなかった。それを知っているが故に。

 そんな久遠の想いを余所に、DDの布陣は整えられていく。

「俺は《ライオウ》を攻撃表示で召喚。カードを2枚セットして、ターンエンド」

 現れたのは人型を模しながらも手足のない機械人形。その手足の部分から雷を纏い、その場に現れる。ある程度予想はできていたものの、いざ目の前にしてみると、ただこのモンスターを選んだというだけで、チャンピオンというのが伊達でないということを思い知らされる。ドロー以外でカードを手札に加えることを禁ずる能力、特殊召喚時に生贄に捧げることでその特殊召喚を無効にする能力。そして、1900という下級モンスターとしては高い攻撃力。《黒い旋風》により後続をサーチし、特殊召喚による展開をし、展開力によって低い攻撃力を補う【BF】というデッキにとって、正しく苦手とするモンスターの筆頭である。

 高位のメタゲーマー。それが彼の強さを支える基盤であると久遠は読んでいる。相手のデッキの全容を正しく理解し、その対策に適したカードを間違うことなく選別する能力。いかなる相手に対しても一定以上の優位を保つことのできるその能力こそ、彼の本質なのだろう。

「俺のターン、ドロー」

 そして、それが判っているなら、それに抗うのは難しくない。

 引いたカードは、決して悪くはない。

「手札のモンスターカードの効果を発動します。《風征竜-ライトニング》です。このモンスターとドラゴン族、もしくは風属性モンスターを墓地に捨て、デッキから《嵐征竜-テンペスト》を特殊召喚します。俺はライトニングと《エクリプス・ワイバーン》を捨て、テンペストを特殊召喚、攻撃表示です」

 それまでと別のデッキを使えばいい。ただそれだけのことだ。

    《嵐征竜-テンペスト》 Lv7/風属性/ドラゴン族/攻2400/守2200

 いきなり場に現れる嵐の竜、その存在感は突如現れたということを差し置いても、観客を魅了するには十分であったらしい。しかしながら、相対する相手にとってはただただ驚愕に値するだけの存在。

「いきなりレベル7のモンスターを特殊召喚だと!?しかも……」

「ええ。ライオウは生贄に捧げることで特殊召喚を封じる効果がありますが、それはあくまで召喚ルール効果によるもの、カード効果による特殊召喚には対応していません。そして、墓地に落ちた《エクリプス・ワイバーン》の効果、このモンスターが墓地に落ちた時、デッキからドラゴン族・レベル7以上のモンスター1体をゲームから除外します。俺はデッキから、レベル10のドラゴン族《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》を除外します。」

 いきなり場に現れる最上級モンスター。それまで使っていた【BF】とはまた異なった展開力。ここから、これを足掛かりに、相手をさらに組み伏せる。

「続けます。テンペストを生贄に捧げ、《ストロング・ウィンド・ドラゴン》を通常召喚します。攻撃表示です」

 《ストロング・ウィンド・ドラゴン》 Lv6/風属性/ドラゴン族/攻2400/守1000

 モンスターを生贄召喚することで会場にざわめきが広がる。わざわざ特殊召喚した最上級モンスターを生贄に捧げて召喚する意味がつかめていないのだろう。ライトングの効果で特殊召喚したテンペストは攻撃することができないことが理由の一つ。そして――

「《ストロング・ウィンド・ドラゴン》はドラゴン族を生贄に捧げて召喚した時、生贄にしたドラゴン族モンスターの攻撃力の半分を自身の攻撃力に加えます。これにより、攻撃力は2400から3600にアップします」

 これこそ、わざわざ最上級モンスターを生贄に捧げる意味である。ようやく意図を察したか、会場が大いに盛り上がる。しかし、それと同時に場を察したのか。

「リバースカード、オープン。罠発動。《サンダー・ブレイク》を発動する。手札1枚を捨て、場のカード1枚を破壊する。破壊するのは当然、《ストロング・ウィンド・ドラゴン》だ」

 チャンピオンの打つ手は早かった。高攻撃力モンスターが現れると同時に破壊。場の流れ、観客たちの向いている流れが向かうと察するや否や、その流れを即座に断ち切りに来た。結局、手札3枚を消費して、久遠は自身のフィールドに何も残せないまま――とはならない。

「墓地の《嵐征竜-テンペスト》の効果を発動します。手札、墓地にあるこのカードは手札、墓地に有る他の風属性かドラゴン族モンスター2体をゲームから除外することで特殊召喚することができます。これも同じくカード効果によるものなので《ライオウ》の効果の範囲外です。俺は墓地のライトニングとエクリプスを除外してテンペストを特殊召喚、攻撃表示です」

 再び場に現れる嵐の竜。生半可な対応力では、場を征する【征竜】は止まらない。

「そして、墓地から除外されたエクリプスの効果を発動、このカードが墓地に落ちた時に除外したカードを手札に戻します。ちなみに除外ゾーンを経由しているので、これもまたライオウの効果の範囲外です。ダークネスメタルを手札に戻します。バトル、テンペストでライオウを攻撃!」

「ぐっ……」

    DD:LP 4000 → 3500

 バトルにより厄介きわまりなかったライオウが破壊される。これでもう少しだけ展開はやりやすくなった。

「メインフェイズ2に移ります。カードを1枚伏せ、速攻魔法《超再生能力》を発動。そしてエンドフェイズに移行、超再生能力の効果が発動します。このターンライトニングの効果で2枚捨て、ストロング・ウインドの召喚に1体生贄に捧げているため3枚ドロー、ターンエンド」

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TURN 02(EP)

DD【メタビート】

    - LP 3500

    - 手札 2

    - モンスター

    - 魔・罠

        伏1

久遠帝(TP)【征竜】

    - LP 4000

    - 手札 5

        《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》

    - モンスター

        《嵐征竜-テンペスト》

    - 魔・罠

        伏1

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「俺のターン、ドロー」

 1ターンの応酬で、久遠のデッキギミックがこれまでとは異なっていることは察しただろう。既に決闘が始まってしまった中でどのカードがこのデッキにも刺さるか、それを早急に見届けなくてはならない。

「私は、永続魔法《次元の裂け目》を発動する。モンスターとカードをセットして、ターンエンドだ」

 一方的に守勢に回ってしまったかのように見える今のターンだが、久遠の1ターン目を見た後の行動としては最高の一手を持ってきたとは思う。元々はヴァーユを落とさせないための次元の裂け目なのだろうが、成程、墓地リソースが稼げないのはこのデッキにとってはなかなかに痛い。

 ただし、このデッキ相手にそれが本当の意味で刺さるかと問われると、否であると言える。

「エンドフェイズ、テンペストの効果が発動します。特殊召喚されたテンペストは相手ターンのエンドフェイズに手札に戻ります。そして俺のターン、ドロー」

 キーカードは、先のターンに引いた1枚のカード。

「永続魔法《未来融合-フューチャー・フュージョン》を発動。融合デッキのモンスター1体を選択し、デッキから融合素材モンスターを墓地に送ります。その後2ターン目のスタンバイフェイズにそのモンスターを特殊召喚します。俺は《F・G・D》を選択、デッキから墓地に5枚のモンスターを墓地に送ります。ただし、次元の裂け目があるため、モンスターは除外されます。俺が選択するモンスターは《嵐征竜-テンペスト》、《巌征竜-レドックス》、《瀑征竜-タイダル》、《焔征竜-ブラスター》、《ガード・オブ・フレムベル》の5体です」

 デッキから最上級征竜が5体除外される。いままで発動していなかった、征竜のもう一つの効果が発動する。

「除外されたテンペスト、レドックス、タイダル、ブラスターの効果を発動します。これらのカードが除外された時、デッキから同じ属性のドラゴン族モンスターを手札に加えます。テンペストは風属性、その効果で風属性の《風征竜-ライトニング》を手札に。レドックスは地属性、手札に加えるのは2枚目のレドックスです。同じくタイダルの効果で2枚目のタイダルを、ブラスターの効果で2枚目のブラスターをデッキから手札に加えます。」

「何だと……」

 ドローカードでもないカードを1枚発動しただけで一気に手札が増えてしまう。DDが驚愕するのも無理はない。既存のアドバンテージの考え方を一顧にしない暴力的なまでの制圧力。それがこのデッキの真骨頂である。

 

「《デルタフライ》を召喚、そして、フィールドのドラゴン族モンスターをゲームから除外することで、手札から《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》を特殊召喚することができます。俺は、デルタフライを除外します」

「罠発動、セットモンスターを生贄に、カウンター罠《昇天の角笛》を発動させてもらう。この効果はモンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚を無効にし、破壊する効果。特殊召喚についてはライオウと同じく、召喚ルール効果によるものに限定されるが、ダークネスメタルの特殊召喚は召喚ルールによるもののため、このカードの対象内だ」

「正解です。ただし、予想の反中ではありますが。リバースカード、オープン、カウンター罠《魔宮の賄賂》を発動。相手が発動した魔法、罠を無効にして破壊、その後相手にカードを1枚ドローさせます。昇天の角笛は無効、1枚ドローしてください」

    《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》Lv10/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守2400

 結果として、相手が止めたかったカードの出現を止めることはできなかった。暗い金属色を纏った異様な姿のドラゴンがその姿をフィールドに現す。その巨大な咆哮による圧力に、ただならぬ気配を感じ取るDD。そして、その想像は間違いではないのである。

「ダークネスメタルの効果を発動。1ターンに1度、手札か墓地のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚することができます。俺が選択するのは、墓地のストロング・ウインド・ドラゴンです」

 再び現れる風の竜。2体の大型ドラゴンが並ぶその姿は、決勝の舞台ということも相まって、観客たちのボルテージをこれでもかというほどに高めていく。

 フィールドを一瞥する久遠、相手のフィールドには1枚の伏せカード、加えて手札はない。なら攻撃順序は特に気にすることはないかと一瞬思うものの、フリーチェーンのドローカードの可能性を一応考えておく。

「バトル!ストロング・ウインドでダイレクトアタック。ストロング・ハリケーン!」

「ぐああああぁぁぁぁぁ」

    DD:LP 3500 → 1100

 一気に危険域に持っていかれるLP。これが通ればゲームセット。

「ダークネスメタルで、ダイレクトアタック!ダークネスメタルフレアっ!」

「リバースカード、オープン。速攻魔法《終焉の焔》を発動する。その効果により黒焔トークン2体を僕の場に特殊召喚する」

    黒焔トークン 悪魔族・闇・Lv1・攻/守0

    黒焔トークン 悪魔族・闇・Lv1・攻/守0

 2体のトークンが現れる。敢えて、このタイミングで発動してきたということは、次のターンに巻き返しを期待してのことだろうか。手札0での決断としては中々に興味深いが、一方でどこか恐ろしさも感じてしまう。

 加えて言うなら攻撃順序が完全に裏目になった。万一相手が守備モンスターを特殊召喚した際に、貫通できるストロング・ウインドを先に攻撃させたが、結果的に貫通効果を持たないダークネスメタルの攻撃前に壁を増やされたことになる。攻撃順が逆ならゲームセットになっていた。無駄にゴーズを警戒した結果がこれである。このへんはまだまだ、読みが甘いと思ってしまう。

 いずれにせよ、打たなくてはならないのは次の最善手。今はトークンを減らさなくてはならない。

「モンスターが増えたことにより巻き戻しが発生します。ダークネスメタル、黒炎トークンを攻撃しろ」

 何の抵抗もなく破壊される黒焔トークン。しかし結果として相手のフィールドには生贄にするモンスターが残ってしまった。

「カードを2枚伏せて、ターンエンド」

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TURN 04(EP)

DD【メタビート】

    - LP 1100

    - 手札 1

    - モンスター

        黒焔トークン(守0)

    - 魔・罠

        《次元の裂け目》

久遠帝(TP)【征竜】

    - LP 4000

    - 手札 6

        《風征竜-ライトニング》

        《巌征竜-レドックス》

        《瀑征竜-タイダル》

        《焔征竜-ブラスター》

        《嵐征竜-テンペスト》

    - モンスター

        《ストロング・ウィンド・ドラゴン》(攻2400)

        《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》(攻2800)

    - 魔・罠

        伏2

        《未来融合-フューチャー・フュージョン》

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 ターンが変わり、王者の番に回る。フィールドの制圧は今のところ名もなき挑戦者によってなされている。徹底的な相手への対策を持って行われる王者のデュエルは、しかしながら今のところ挑戦者に対しては有効だとはなっていない。観客は皆、感じ始めていた。この決闘による時代の変遷の始まりの予感を。

 しかしながら、実際に相対する久遠帝としてはそのような甘い幻想は持つことはできない。目の前に相対する最強は、少なからずそれを名乗ることを許されるだけの実績があるのである。そして、絶対的な窮地にある以上、それを覆すだけの実力を発揮するのは、まさに今を置いて、他にない。

「俺のターン……ドローッ!!」

 一瞬の逡巡が見えたようにも感じたが、勢いよくカードを引くDD。直後の表情の変化を見て一瞬にして久遠は悟る。

 ――来る。

「魔法カード、《強欲な壺》を発動!カードを2枚ドロー!……!!」

 カードを引いたDDの表情が一変する。しかしながら、これまで対戦してきたデュエリストが起死回生の1枚を引いた時とは明らかに異なるその様相を見た瞬間。

――ドクン

「!!」

 一瞬感じた異様な雰囲気に、体が自然に反応してしまう。本能で、感じてしまう。アレは、何かよくないものだと。

 しかし、そう感じたのも一瞬のこと。

「さらに、俺は魔法カード《天使の施し》を発動する。3枚ドローして2枚捨てる。その内1枚はモンスターカードのため、ゲームから除外する」

 その次の一手によってカードが除外されると共に、先ほどまで感じていた雰囲気が一気に霧散し、元あったデュエルの空気がまた場を満たしてしまう。それが、まるでただの勘違いであったかのように。

 一瞬の混乱、しかし、考えを巡らせる間もなく、デュエルは進んでいく。

「(意識を目の前に戻せ)」

 それを振り戻したのは短くないプロとして培ってきた精神か。先の正体不明の悪寒はとりあえず去った。今はそれを気にしても詮無い事だ。目の前にいるのは相も変わらず最強の称号。気を抜いていい理由などどこにもない、

 そうして心を目の前に戻した瞬間、決闘は次の局面を迎える。

「俺は、黒焔トークンを生贄に《虚無魔人》を生贄召喚する。さらに魔法カード《ライトニング・ボルテックス》を発動!手札を1枚捨て、相手フィールドの表側表示モンスターを全て破壊する!!」

「くっ……」

 特殊召喚を多用する戦術上、ライトニングボルテックスは少なからず刺さる。これもまた、前のデッキと共通して有る弱点の一つである。しかし、虚無魔人を展開されたうえでこれをやられるのは中々に厳しい。こちらの展開をとことん封じる戦術もまた、前のデッキと共通した弱点である。

「バトル!虚無魔人でダイレクトアタック!!」

「罠発動、《ガード・ブロック》。相手の攻撃によるダメージを0にして、1枚ドローする」

「このターンは上手い事かわされたか。しかし特殊召喚を多用し、そのモンスター効果で場を制圧していく君に、この布陣を突破できるのかな? ターンエンドだ」

 最終局面は、近い。先ほどの感じた御感は未だ違和感となって残っているものの、まずは目の前。

「俺のターン、ドロー。スタンバイフェイズにドローした速攻魔法《サイクロン》を発動。次元の裂け目を破壊します」

「次元の裂け目は破壊される。しかし君の残りカードのうち、5枚はモンスター、しかも4枚は最上級だ。残り2枚に《虚無魔神》をどうにかできるカードはあるのかな?」

「残りも全てモンスターですよ」

「フフフ……この場をどうにかする手段にはなりえないようだね」

「いえ、なります。手札からモンスター効果を発動します」

「征竜の特殊召喚の効果は使えないよ? 虚無魔人がフィールドに存在する限り、お互いに一切の特殊召喚を封じられているからね」

「百も承知です。下級征竜の特殊召喚効果と、最上級征竜の特殊召喚効果とサーチ効果についてはお見せした通りですが、最上級征竜には手札から同じ属性のモンスターを捨てることで発動できる最後の効果があります。発動するのは《焔征竜-ブラスター》。手札の《炎征竜-バーナー》と共に捨てることで発動する効果は、フィールドのカード1枚を破壊できます。破壊するのは当然、虚無魔人」

 サイトに残ったモンスターが破壊されることで、DDのフィールドは丸裸となる。そして、これで封じられた特殊召喚が解禁となる。

「終わりにしましょう。俺は手札のドラゴン族モンスター3体を捨て、《モンタージュ・ドラゴン》を特殊召喚、捨てるのはテンペスト、タイダル、レドックスです。モンタージュは捨てたモンスターのレベルの合計×300ポイントの攻撃力となります。捨てたモンスターのレベルの合計は21、攻撃力は6300です。さらに、墓地のテンペストの効果、墓地のレドックスとバーナーを除外して自身を特殊召喚、除外されたレドックスの効果で《地征竜-リアクタン》をサーチ、墓地のタイダルの効果で手札のリアクタンと墓地のブラスターを除外して自身を特殊召喚。ブラスターが除外されますが、各征竜の効果は1ターンに1度だけしか発動できませんので、ブラスターの効果は発動しません。」

    《モンタージュ・ドラゴン》Lv8/地属性/ドラゴン族/攻6300/守 0

    《嵐征竜-テンペスト》Lv7/風属性/ドラゴン族/攻2400/守2200

    《瀑征竜-タイダル》Lv7/水属性/ドラゴン族/攻2600/守2000

 歓声がひときわ大きくなる。だれしもがその瞬間、この決闘の終わりを確信した。

 それと同時に、新たな時代が訪れることを疑うことができる者は誰一人としてこの場には存在していなかった。

「3体のモンスターたちで、ダイレクトアタック」

    DD:LP 1100 → -5200 → -7600 → -10200

 歴史は、塗り替わる。

 いつの世も、新たなる挑戦者によって、古い歴史は超えられる。

 新たな世界王者の一角に名を残し、また同時に世界における『最強』の一角に名を連ねた少年。

「君の強さは、しかとわかった。本気の勝負は………またいずれ」

 去り際にそう語ったDDの言葉も、回りの大歓声も、寄ってくるインタビューもなにもかもが遠い世界のようで、それでもただただ目の前に広がる光景は現実で。そんななか、久遠の頭の中にあったのは。

「あと……ひとつ」

 元いた場所に戻るための、約束の戦い。

 それを行う権利を得たということだけであった。

 

 




少年は、頂点へと手をかける。

すべては、日常へと戻らんがための足掻き。

その道は、非日常へ進む道であることを知りつつ

一縷の望みを紡ぎつつ、その道を進む。

残す戦いは、ただ一つ、人外との決戦


残る地には、再び渦巻く悪意

そのたくらみに晒される少年と少女は……

次回「道の果てに―万丈目準・天上院明日香―」





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どうもお久しぶりです。

年末から年明けにかけて海外に行ったり用事が忙しかったりでガチでかけていない状態が続いていました。
相変わらずストックない状態で続けていますが、今後ともよろしくお願いいたします。

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