世界4大大会と呼ばれる大会がある。世界に広く人気があるデュエルモンスターズの世界において、真にその「頂点」の名にふさわしいタイトルはと問われたらほぼ全てのデュエリストがこの4大大会のタイトル奪取を挙げる。
UKオープン
AUオープン
FRオープン
そして、USオープン。
デュエルモンスターズの黎明期から伝統的に行われているこれらの大会は、文字通りデュエルモンスターズという競技の歴史と共にあった。
世界中のプロデュエリストが頂点を目指す4大大会。そのすべてを制することは即ちデュエルモンスターズを制することと同義といわれている。しかしながら未だかつて全てを制したデュエリストは存在しない。『決闘王』武藤遊戯でさえ、同時に頂点に立ったのはUSオープンとAUオープンの2大会のみであるということからも、その難易度は桁はずれであり、達成しうるデュエリストは現れないだろうというのがデュエルモンスターズ界の常識となっている。故に、4大大会を制したデュエリストに送られる称号『グランドレジェンド』は、定められてこそいるものの、その歴史の中で常に空位となっている。
4大大会制覇ならずも、その内の1つを制覇するだけでもその関門は決して低くない。黎明期に歴代最年少の12歳で全米チャンプとなった『天才』レベッカ・ホプキンスを除くと、10代で4大大会を制した者すら誰一人としていない。
その道のりは非常に険しいものである。まず第一の関門となるのが、「出場すること」である。128席ある出場枠の中から出場資格を得るためには、世界ランキング戦に加盟しているトーナメントやリーグに所属し、世界ランクを100位以内に上げなくてはならない。世界中に約8000人程のプロがいる中で、この上位100人に食い込むことがまず難しい。デュエルモンスターズにおける巨大企業の双翼たる海馬コーポレーションを擁する日本はデュエルモンスターズが盛んな国ではあるが、それでも世界ランク100位以内に入るプロデュエリストは15人がいいところである。
その他にも本選出場枠とは別に組まれる予選ドローで16位以内に入ると通過予選をすることもできるが、500人近い出場者の中から選ばれる16人に食い込むのは、これまた低くない関門を突破しなくてはならない。
そして残る12の出場枠、ワイルドカードと呼ばれる特殊出場枠がこの大会にはある。USオープンの場合、直前に行われるジャパンカップ優勝者がこの大会のワイルドカードの1枚となっている。
久遠が選んだのは、この道。ここから、全てを始めなくてはならない。
ここから、世界の頂点を目指すことが彼の目標となる。
約束のために。また、元の場所に大手を振って戻るために
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試合を目の前にした控室で、久遠帝は心を落ち着かせる。誰もいない、静かな部屋での瞑想。それは大きな試合ではこれまで何度も行ってきた行為であり、半ば習慣のようにもなってしまっている。
これから立つステージは、デュエリストにとっての一つの目的地。いままで頂点を争う戦い方をしていなかった自分にとっては、別世界の扉。自分の選択肢による結果ではないものの、心構えができないままに挑むことになってしまった。
それでも、これまでと何も変わらない。大会が大きかろうが小さかろうが、自分にできることなんて、目の前の相手に向かっていくことだけ。そう思いこませることができれば、いつものパフォーマンスを発揮することができるのである。
扉をたたく音が聞こえた。それは現実へと引き戻す合図。始まりの時は近く、それは待っていてはくれない。逃げ道などどこにもないものの、険しくも道筋は確か。そして自分にはきちんと足が付いている。だから、進む。歩き続けられる限り。
一歩一歩と会場へと歩を進める。会場からあふれてきた歓声が圧となって徐々に押し寄せてくる。まだ見ぬ世界のステージは自分にとって味方となるか、敵となって牙をむくか。今は知る由もないが、どちらでもいい。味方となるなら受け入れる。敵となるならねじ伏せる。それが今までやってきたことで、これからも変わることはない。はっきりとしていることは、今から立たんとしているステージは、自分を待っていて、自分の今の居場所が確実にそこにあるということ。
故に、久遠帝が成すべきは、ただ力の限りを尽くすのみ。それが自分を待つ場に対して報いるただ一つの方法と知っているがため。
那賀嶋とすれ違う。その表情は、何の不安も浮かべていない。完全に勝利を疑っていない目である。遠く遥かな地で別れを告げてきた者たちを思い浮かべる。彼らもきっと、見ていてくれるだろう。世界は、広いようで狭かった。だから、『俺はここにいる』と知らせることができると知った。
「さあ、始めよう」
誰も聞くことのない呟き。聞く者はいなくていい。発することに意義があった。
ここからだ。何度捨てることになっても、何度失っても新しく一歩は踏み出せる。
今度は、ここから『掴めば』いい
――世界への扉は開け放たれる
――異端の少年の挑戦を試すべく
会場への一歩目を踏み出した瞬間、感じたのは圧倒的な圧力だった。そのまま通路へと押し戻されてしまうかのような錯覚を覚え、歩を止めてしまう。
会場の規模も、観客の人数も、歓声も。何もかもがケタ違い。これまで参加してきたどんな大会もがかすんでしまうほどに、『頂点』の一翼は壮大だった。つい直前まで国内最高峰の大会を制してきたのにもかかわらず、一瞬気圧されてしまった。
なんとか踏みとどまることができたのは、これまで積み重ねてきた経験からか。少なからずくぐってきた修羅場の経験が、足をとどめることを許したことを久遠は理解した。
(大丈夫、戦うことは、十分できる)
それが理解できれば、この場では十分及第点だ。そのまま、静かに久遠を待つステージへと歩を進める。
ステージの中央には既に対戦相手が立っていた。その顔はあまり関係のない他人への興味を示さない久遠をしてよく知る人物。世界ランク2位、押しも押されぬ現役『最強』の一角。その名を、ジャスティス・エビルという。どうやら久遠にとっての『久遠帝』と同じようにリングネームらしいが。
中央に立ち、久遠を迎え入れるその姿すら、ある種の威厳を放っている。その目には自分の勝利を何一つ疑わない自信が現れている。
静かに歩を進め、ステージの中央に並び立つ。その姿は、大きいと素直に思ってしまう。
『さあ、USオープン1回戦最終日、満を持して登場してきたのは、本大会遊用正候補の大本命の一人、ジャスティス・エビルっ!前年度大会で準優勝の苦渋をなめ、決闘王以来の2大会制覇を逃しました。今年度も先々月のUKオープン優勝を引っ提げての登場で、再度2冠への挑戦を目指します!』
それと共に聞こえる大歓声。今この場においては、目の前のジャスティスがどこまで勝ち残れるか。その一点にのみ観客の興味は集中している。無理もない。世界ランクにして120位前後のワイルドカードで出てきたプロなど、この場においてはショーの材料に過ぎない。
それは当の本人もそうであることを当然であると思っているようで、尊大な態度のまま、こちらを挑発してくる。
『オマエが日本から来た挑戦者か。長旅を終えて挑戦してきたのはいいが、早速お前の挑戦は終わりになる』
「………………」
久遠が何も答えないのをいいことに、相手はさらに挑発を重ねてくる。
『今日のショーの一番の観客はお前だ。見学料はお前のデュエリストとしての人生。そのすべてをいただくことで、最高のショーが完成する』
「…………あー」
場も温まり、そろそろ始まろうとする空気となってきた。意趣返しをするならこのタイミングだろう。
「英語がよくわからんので何かポエミーなこと言ってるとしかわからんが、大口叩いて無様に負けたらみっともないですよ?」
「ナンダトっ!?」
「日本語わかってんなら話が早い。――今日のショーの観客は貴方の方です」
「ぬかせっ」
さや当ては、まずは同等に持ちこめた。これからは決闘で突き放す。
「「
―USオープン1回戦 久遠帝(126位)VS ジャスティス・エビル(2位)
デュエルディスクが選択した先攻は、久遠帝。
「俺のターン、ドロー」
カードを引き、一瞬だけ思考に入る。
相手の実力のほどは現在の世界ランクが示している上、その決闘が中継されることも多いため対戦相手の基本戦術こそ理解はしている。だが、タクティクスの基本となる性格は実際に対峙して見ないとわからない。
キーパーツも来ていない現状、せっかく先攻なのだから、まずは様子見で行ってみよう。
「俺はモンスターをセット、カードを2枚セットしてエンド」
立ち上がりは静か。こちらの優位は相手がこちらを知らないこと。だからこそ、情報を何も与えないこの戦術は、相手の性格を写し出す投影機となる。さて、どうくるか。
『まずは挑戦者、ミカド・クドウは静かな立ち上がりを持ってきた!しかし、ジャスティス相手にそれだけの布陣で耐えられるのか!?』
響くアナウンス。邪魔だとは思うものの、これが大会である以上仕方はない。集中しよう。完全にアウェーに回った状況で、目の前の相手もこちらを見下した態度を崩さない。
「勢いだけいいのに、戦術は消極的だな。俺のターン、ドロー!!」
カードを1枚引くだけで歓声がわきあがる。これが、今の久遠帝とジャスティス・エビルの絶対的な差。それを改めて痛感してしまう。
勢いよくカードを引いたと同時に笑みを浮かべるジャスティス。これは、キーカードを引いたか。世界ランク2位は伊達ではない。早速戦術の真髄を見せてくれるのか。
「これは、最初からクライマックスかな?やはりお前の宣言は幻に終わりそうだ。俺はレベル8のモンスターを通常召喚する」
「レベル8……まさか……」
「そう、前大会の優勝賞品、世界に数枚しか出回ってない超レアカード、《神獣王バルバロス》を召喚だ!」
《神獣王バルバロス》 Lv8/地属性/獣戦士族/攻3000/守1200 → 攻1900/守1200
ソリッドビジョンに現れたのは槍と盾を持った獣の王。生贄を伴わない召喚により、本来の力を削がれて姿を現すが。問題は、突然レベル8のモンスターが場に現れたということ。知識で知る限りのジャスティスの戦術上、この展開はあまりよろしいものではない。
「その顔は、俺の狙いがわかっているようだな。しかし、判っていてもどうにもなるまい。俺は魔法カード《突然変異》を発動!対象は、バルバロスだっ!」
「……っ!」
《突然変異》。これが彼の戦い方を支えるキーカードの1枚。高性能だが場に出すことに骨が折れる融合モンスターを簡単に場に出せる高レベルモンスターと合わせることで、場に出しやすくする戦術。突然高攻撃力のモンスターが現れる戦術に、突如1ショットキルされるデュエリストも多いと聞く。
しかも、彼のこれは、基本戦術であって、デッキの全ての姿ではない。
「《突然変異》の効果、生け贄に捧げたモンスターのレベルと同じレベルの融合モンスターを融合デッキから特殊召喚できる。俺が生贄に捧げたバルバロスのレベルは8!よって俺が融合デッキから特殊召喚するのは、レベル8の《サイバー・ツイン・ドラゴン》だっ!!」
《サイバー・ツイン・ドラゴン》LV8/光属性/機械族/攻2800/守2100
光と共に姿を変える獣の王、光が晴れた後に現れたのは、元の姿の面影を欠片も残すことのない双頭の機械竜。アカデミアにいたころ、先輩の一人が愛用していたモンスターが、こうも容易に現れる。
「まずは小手調べだ。バトル!サイバー・ツインでセットモンスターを攻撃!」
一瞬伏せカードを発動するかを考えるものの、その考えはすぐに捨てる。サイバー・ツインだけならまだ、どうとでもなる。
「セットモンスターは《BF-銀盾のミストラル》 守備力は1800のため、戦闘破壊されます。ダメージはありません」
「安心しているところ悪いがな、サイバー・ツインは2回攻撃可能なモンスター。第2打を受けてもらうぞ!ダイレクトアタック!!」
「今破壊されたミストラルの効果、フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、このターン自分が受ける戦闘ダメージを1度だけ0にできます。これにより、サイバー・ツインの第2打によるダメージを0にします」
「ちっ、通らなかったか。メインフェイズ2に入る。俺は魔法カード《魔法石の採掘》を発動、手札2枚を捨て、墓地の魔法カードを1枚手札に戻す。俺は《突然変異》を戻す。1枚セットしてターンエンドだ」
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TURN 02(EP)
鷹城久遠【BF】
- LP 4000
- 手札 3
- モンスター
- 魔・罠
伏2
ジャスティス・エビル(TP)【突然変異?】
- LP 4000
- 手札 1
《突然変異》
- モンスター
《サイバー・ツイン・ドラゴン》
- 魔・罠
伏1
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最後にキーカードを戻し、ターンを終えるジャスティス。突然変異の特性上、場に生贄にするモンスターが必ず必要なのだが、奴の手札は突然変異たった1枚。ということは……あの伏せカードはモンスターを特殊召喚するか、モンスターになるかのどちらかなのだろう。あるいは、次に必ずモンスターを引けるという自信の表れかもしれないが。
いずれにせよ、次のターンで崩せるだけ場を崩してやらねば、押し切られる可能性すらある。
「俺のターン、ドロー」
ちょうどいいタイミングで欲しいカードが来た。これなら……。
「永続魔法、《黒い旋風》を発動。そして、《BF-蒼炎のシュラ》を通常召喚、攻撃表示です。この瞬間《黒い旋風》の効果が発動。『BF』と名のつくモンスターが通常召喚された時、その攻撃力より低い攻撃力の『BF』と名のつくモンスターをデッキから手札に加えることができます。俺が通常召喚したシュラは攻撃力1800、その効果により、攻撃力1300の《BF-疾風のゲイル》を手札に加えます。そして、《BF-疾風のゲイル》を特殊召喚。ゲイルは場にゲイル以外の『BF』と名のつくモンスターが存在する時、手札から特殊召喚ができます。」
《BF-蒼炎のシュラ》 Lv4/闇属性/鳥獣族/攻1800/守1200
《BF-疾風のゲイル》 Lv3/闇属性/鳥獣族/攻1300/守 400/チューナー
2体の黒翼が場に現れる。その姿は対峙する機械竜に比較すると小さいものの、ひるまず対峙している。その姿をみたジャスティスも警戒の色を強める。
「ちっ、普通ならそんな低ステータスでどうするといわれるんだろうがな?厄介なにおいがしてるぜ」
「さすが、世界ランク2位。その危機感は正解ですよ。でも、どうしようもないんじゃないと思いますがね」
「そうかな?俺はお前がこれまで相手してきた凡百の相手とはケタが違うぞ」
「ま、それは決闘の結果で語って頂きます。行くぞ、ゲイルの効果を発動。1ターンに1度、相手フィールド上のモンスター1体を選択して発動でき、選択した相手モンスターの攻撃力・守備力を半分にします。効果対象に選ぶのは、当然、サイバー・ツイン!」
《サイバー・ツイン・ドラゴン》攻2800 → 1400
「そういう効果か。成程、凶悪だ」
「その割には涼しい顔をしてますね。まあいいです、バトル!シュラでサイバーツインを攻撃、ゲイルの効果で攻撃力は逆転してます。」
「くっ!」
ジャスティス:LP 4000 → 3600
戦闘によって破壊されるサイバーツイン、これで場のモンスターは空になった。予想が確かなら次の一手に対して相手は抵抗してくるはず。
「シュラの効果を発動します。シュラが戦闘によって相手モンスターを破壊した時、デッキから攻撃力1500以下の『BF』と名のつくモンスターを効果を無効にして特殊召喚できます。俺はデッキから《BF-大旆のヴァーユ》を特殊召喚、攻撃表示です。バトルフェイズ中の特殊召喚なのでヴァーユにも攻撃の権利があります。ヴァーユでダイレクトアタック!」
「させっかよ!リバースカードオープン!永続罠《リビングデッドの呼び声》を発動、墓地のモンスターを1体蘇生する。俺が選択するのはバルバロスだ!」
再び現れる獣の王、しかしながらその姿は先ほどと同じようで、まったく異なる。本来の力を抑制されていた先ほどまでと違い、今度は、その力の全てを誇示するかのように威風堂々なたたずまいを見せる。
そして、久遠の予想は想定の通りであることが示された。
故に、これ以上の追撃が可能になるのである
「バトル中にモンスター数が変わったことから巻き戻し、ヴァーユの攻撃は中断します。そして、この瞬間、罠発動します。発動するのは《緊急同調》!このカードに発動によって、バトルフェイズ中のシンクロ召喚を可能にします」
「シンクロ召喚!一度だけ日本のプロ戦を録画した動画で見たことがある。そうか……未知のモンスターを使う異端児……オマエだったのか!」
「日本にいたころはほとんど使ってなかったですけどね。貴方に使うのならお目見えも惜しくはありません」
力の限り進むと決めたのだから。もう、止まることは考えられない。
ちょうど、相手もふさわしい。だからこそ、全てを……解き放つ。
「ヴァーユはシンクロ素材にできない効果を持つチューナーですが、今はシュラの効果によってその効果は無効化されています。よってシンクロ召喚は可能な状態。レベル4の蒼炎のシュラにレベル1の大旆のヴァーユをチューニング!侵略に抗いし正義の使者、黒き翼の調律を経て、その姿を現す。蹂躙しろ、《
《
2体のモンスターが交わりあう時、モンスター達がいた場所に現れたのがまがまがしさを持つ4足の機械。その存在から示されるのは、先ほどまで目の前に対峙していた双頭の機械竜とはまた別の、不気味な威圧感。
会場が湧き上がる。これまで見たこともないモンスターが現れたことによる興奮か、それとも初めてシンクロを目の当たりにした衝撃か。
『こ、これは。極東のプロリーグで不可思議な戦法を取るプロがいるとは聞きましたが、まさかそれが彼だったとは!2体のモンスターから突如現れた大型モンスター。現れたのはシンクロモンスター。これを目の当たりにした観客はラッキーだ。革命児が、新たな力を引っ提げてUSオープンに殴りこんできたぁーーーーーーっ!!』
アナウンスも湧き上がる。これでエンターテイメントとしての役割は果たせた。後は、目の前の相手を倒してしまえばいい。
「バトルフェイズ中の特殊召喚のため、カタストルには攻撃権が有ります。カタストルでバルバロスを攻撃!」
「攻撃力が低いモンスターで自爆特攻!? いや、違う! これはっ!!」
「ご明察、きちんと勝算あっての話です。ダメージステップ開始時、カタストルの効果が発動します。このモンスターが闇属性以外のモンスターと戦闘した時、ダメージ計算を行わず、破壊します。バルバロスは地属性、よってこの効果の対象内です」
「ぐっ!! バルバロスのステータスも熟知済みってわけか。そんなに出回ってるカードでもないのに」
破壊されるバルバロス。本来の力を取り戻していても、闇以外の全てを蹂躙するカタストルには抗いようがない。
「最後、まだ俺はゲイルで攻撃をしていません。ダイレクトアタックします、ブラック・スクラッチ!」
「ぐおっ!!」
ジャスティス:LP 3600 → 2300
ライフが大幅に削られる。相手のフィールドをがら空きにできたのは大きい。相手の手札は《突然変異》1枚。場は完全に空。相手の引き次第では、次のターンで勝利が決まる。
「メイン2、カードを1枚セット、エンドです」
「俺のターンだ、ドローッ!!!」
勢いよくカードを引くジャスティス、苦々しい表情こそしていたものの、引いた札を見た瞬間、その表情が一気に晴れる。こちらの手札は1枚、伏せカードは2枚。これで、どこまで耐えられるか。
「ジャパニーズボーイ。いや、ミカド・クドウといったか」
「何ですか?」
「正直ジャパンカップのワイルドカードで出てきた無名の挑戦者など暇つぶしにもならない相手だと思っていたよ。しかし、さっきのターンの攻防だけでその考えは180度変わった。お前を倒すことは、今後の俺にとって十分な糧になる」
「無名の新人に過大評価ですよ」
「そういうならそれでもいいがな。俺はもうお前をなめる真似はしないぞ。俺はカードを1枚セット、そして魔法発動《天よりの宝札》!!互いのプレイヤーは手札が6枚になるまでドローする。俺の手札は0、よって6枚ドロー!」
「俺は1枚だから5枚ドローします」
決闘王も愛用した逆転のための1枚。相当のレアカードではあったものの、やはり世界ランク2位ともなると確保していたか。にしても、思いつく中で最悪のドローをされた。追加でドローした5枚のカードの中に、このターンに活用できる物はない。対して相手は6枚のカードを一気にドローする。場合によっては、これだけで、詰んでしまう。
「俺は《聖なる魔術師》を表側守備表示で召喚する!」
「っ!!」
場に現れる魔術師。本来なら優秀なリバース効果を持つため、表側表示で召喚されることなど何一つの脅威ではない。先ほど伏せられたカードが《突然変異》でなかったとしたら。
《聖なる魔術師》のレベルは1.突然変異で特殊召喚できるレベル1の融合モンスターなど、久遠は1体しか知らない。
「その表情は、次に何をするか判ってる表情だな。だが判っていてもどうにもできないこともあるんだぜ?伏せていた魔法カード《突然変異》を発動!俺は聖なる魔術師を生贄にレベル1の融合モンスターを特殊召喚する。俺が選ぶのは《サウザンド・アイズ・サクリファイス》だ!」
場に現れたのは創造者ペガサスの真のエースとして君臨していたモンスター。久遠も幾度か使用したことはあるが、実際に敵として目の前に立つと、それまで自身の前に立つことで得ることができていた安心感が、そのまま脅威となって久遠と向けられる。
「俺はサウザンドアイズの効果を発動する。1ターンに1度、相手のモンスターを吸収して装備魔法扱いにし、その攻撃力を得ることができる。俺が選ぶのは、カタストルだ!」
「…………ちっ」
吸収されるカタストル。これによりサウザンドアイズの攻撃力は2200となった。
「まだ行くぞ!お前に、伝説を見せてやる。俺は墓地に眠る光属性のサイバーツインと、魔法石の採掘のコストとして墓地に送っていた《月読命》を除外してモンスターを特殊召喚する」
「光と闇を除外……来るか!」
「驚かせ甲斐がないな、しかしその予想は大当たりだ! 光と闇を追放し、新たに現れるは最強の混沌! 全てを切り裂け! 現れろ!《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》」
《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》Lv8/光属性/戦士族/攻3000/守2500
先ほどまでサウザンドアイズから感じていた威圧感すら生ぬるいと感じてしまう圧倒的な存在が、目の前に座していた。世界で数枚しか存在しえない、混沌の戦士が、久遠の目の前にその姿を現していた。
突然変異で強力なモンスターを出し、加えて墓地を肥やすことで切り札たる開闢を出してとどめをさす。これが
構成のレアカードは多い。大会優勝者への商品カードのバルバロス、創造者ペガサスの切り札サウザンドアイズ、そして切り札のカオスソルジャー。しかし、それを擁するジャスティスは間違いなくトップクラスの名にふさわしい実力を擁している。
これが、久遠の挑もうとしている世界。頂点までの道にそびえたつ絶対的な壁だった。
『我々は今、今大会最高のビッグゲームを見ているのかもしれない。未知のモンスターを操るクドウに相対するジャスティスの最強の布陣。これはどうなるか我々にも全く想像がつかないぞ!!』
その言葉にさらに湧き上がる会場。もう、この勢いはデュエルの終幕によってしか、収まりは付かないのだろう。
そして、ジャスティスも、この試合を簡単な結末で終わるとは思っていない。それ故に彼の、最高の戦力でこちらに向かってくるのである。
「さすがに壮観ですね。しかし、サウザンドアイズの効果によってカオスソルジャーは攻撃できないですよね?」
「サウザンドアイズの効果も正しく把握してるんだな。つくづくお前は何者だ? しかし、たとえ攻撃できなくてもカオスソルジャーにはもう一つの効果がある。効果発動、1ターンに1度、フィールドのモンスターを除外できる。俺は疾風のゲイルを選択。これでお前のフィールドは空になる!」
「でしょうね、攻撃できないならそっちを選びます。では、俺はそれにチェーンして手札からモンスター効果を発動します。」
「手札からモンスター効果!?」
「発動するのは《エフェクト・ヴェーラ―》 相手ターンのメインフェイズに手札から捨てることで効果を発動できます。その効果は、相手モンスターの効果を無効にする。対象は当然、カオスソルジャー!よって、ゲイルは除外されず残ります。」
「どこまでもしぶとい!ならバトルだ!サウザンドアイズ、疾風のゲイルに攻撃!」
「熱くなりすぎです。リバースカードオープン。罠発動《次元幽閉》 攻撃してきた相手モンスターをゲームから除外します。」
「なんだと!?くっ!」
「カタストルは装備対象が居なくなったことによって、俺の墓地に落ちます。サウザンドアイズが居なくなったことによって他のモンスターに攻撃権はできますが、貴方のフィールドには除外効果を使用したカオスソルジャーのみ。追撃はできませんね。」
「……メイン2に入る。カードを3枚セットして、ターンエンド」
「エンドフェイズ、最後の罠を発動します。《デルタ・クロウ・アンチリバース》 自分フィールドに『BF』と名のつくモンスターが居る時に発動可能。相手フィールドの伏せカードを全て破壊します」
「何!?」
破壊されて墓地に落ちたのは、ミラーフォース、神の宣告、奈落への落とし穴。天よりの宝札で引いたカードはフォロー体制も万全であったらしい。
相手の返し手は封じた。手札も十分。終わりの時は、既に近い。目の前に立つは最強の騎士。しかし既に攻略の道筋は揃ってしまっている。
「俺のターン、ドロー!」
引いたカードを見る。成程、ここでこれが来るということは、ちょっとしたサービスをこのデッキは要望しているらしい。
「俺は《BF-極北のブリザード》を通常召喚。そしてブリザードの効果を発動。このカードが通常召喚に成功した時、墓地からレベル4以下の『BF』と名のつくモンスターを守備表示で特殊召喚が可能です。俺は、シュラを選択。さらに、チェーンして《黒い旋風》の効果でブリザードの攻撃力以下のモンスターを手札に加えます。俺は《BF-そよ風のブリーズ》を手札に加えます。そして手札に加えたブリーズの効果を発動、このカードがカード効果で手札に加わった場合、特殊召喚することができる。ブリーズを特殊召喚!さらに、手札から《BF-黒槍のブラスト》を特殊召喚。このモンスターもゲイルと同じく、自分フィールドにブラスト以外の『BF』が居る時手札から特殊召喚できます。」
一気に1体から5体にモンスターが増加する。それぞれの攻撃力は低いものの、そこからつながる先が少なからず判ってしまったのだろう。どんどんと顔色が悪くなっているように見える。
そう、その予想は間違ってはいない。予想の反中に収まっているかどうかは知らないが。
《BF-極北のブリザード》Lv2/闇属性/鳥獣族/攻1300/守 0/チューナー
《BF-蒼炎のシュラ》 Lv4/闇属性/鳥獣族/攻1800/守1200
《BF-そよ風のブリーズ》Lv3/闇属性/鳥獣族/攻1100/守 300/チューナー
《BF-黒槍のブラスト》Lv4/闇属性/鳥獣族/攻1700/守 800
「続けます。レベル4のシュラをレベル2のブリザードでチューニング、漆黒の力、大いなる翼に宿りて、神風を巻きおこせ。来たれ、シンクロ召喚!《BF-アームズ・ウィング》。そして、レベル4のブラストをレベル3のブリーズでチューニング、黒き旋風よ、天空へ駆け上がる翼となれ。羽ばたけ、シンクロ召喚!《BF-アーマード・ウィング》」
《BF-アームズ・ウィング》Lv6/闇属性/鳥獣族/攻2300/守1000
《BF-アーマード・ウィング》Lv7/闇属性/鳥獣族/攻2500/守1500
並び立つ2体のシンクロモンスター。残ったゲイルの効果を使えば、攻略は可能なのだが、気になるのは、ジャスティスの手札に残った1枚のカード。最悪を想定するなら、もう少し動いた方がいいか。ともすればオーバーキルになる可能性はあるが、デビュー戦のインパクトという意味ではそれも悪くない。
「まだ続けます。ゲイルの効果を発動します。これによりカオスソルジャーの攻撃力を半減。そして手札から魔法カード《おろかな埋葬》を発動、効果で墓地に落とすのは《レベル・スティーラー》そして墓地に落ちたスティーラーの効果を発動、レベル5以上のモンスターのレベルを1下げることで墓地から特殊召喚します。俺が下げるのは、アームズ・ウイング、スティーラーを特殊召喚します。レベル5になったアームズ・ウイングとレベル1のスティーラーにレベル3のゲイルをチューニング。古より封じられし氷龍よ、全てを滅ぼすその力を、今ここに解き放て。シンクロ召喚、凍て尽くせ!《氷結界の龍 トリシューラ》」
《氷結界の龍 トリシューラ》Lv9/水属性/ドラゴン族/攻2700/守2000
「トリシューラの効果を発動です。トリシューラがシンクロ召喚されたとき、手札、フィールド、墓地のカードをそれぞれ1枚まで除外できます。フィールドからカオス・ソルジャー、墓地からバルバロス、そして残った手札を除外します」
「何だと!?……くそっ!」
「予想はしてましたが、やはり《クリボー》でしたか。これで守りの手はなくなりましたね、最後です。墓地のヴァーユの効果を発動、ヴァーユと『BF』と名のつくモンスターを除外し、そのレベルの合計になるレベルのシンクロモンスターを特殊召喚します」
「墓地から……シンクロ……そんなこともできるのか!?」
「ええ、レベル1のヴァーユとレベル6のアームズ・ウイングを除外し、レベル7のアーマード・ウイングを特殊召喚します。そして……最後。」
「まだ有るのか!?」
「墓地の光属性《エフェクト・ヴェーラ―》と闇属性《BF-極北のブリザード》を除外して手札のモンスターを特殊召喚。来たれ、最強の混沌《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》」
《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》Lv8/光属性/戦士族/攻3000/守2500
「う……嘘だろ!?カオスソルジャーまでっ!」
「楽しい決闘でした。ともすれば負けてしまう可能性もあった。でも、今日はもらいます。バトル、4体のモンスターで総攻撃!」
「ぐああああああああああああああっ」
ジャスティス:LP 2300 → -200 → -2700 → -5400 → -8400
『決まったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!優勝候補、まさかの陥落!その一翼を崩したのは、完全なワイルドカード、極東の島からやってきた、ミカド・クドウだぁぁぁぁぁぁぁ』
完全にヒートアップがおさまらない会場、久遠帝に対して向けられる歓声に対して、拳を突き上げることで答え、会場を後にする。
勝者となったのは誰一人として予想していなかった挑戦者。
異国から来た名もなきプロ。久遠帝が、世界最強の一角を圧倒的な力で崩した瞬間だった。
世界の頂点の一角を崩した久遠帝
その挑戦はいまだ続く。
それを見る、残された者たちは……
次回「頂と元あった場所」
変異カオスおっかねぇ
あの世代ってこういうのが普通だったんですねぇ
各種パーツがいまだにほとんど禁止化されてるのを見ても相当恐ろしいのですねぇ
そしてBFはさらにおっかない。
さすが誰が使っても勝てるデッキと言われただけのことはありますね。
世界を獲ったデッキの名はだてではないです。
さてさて、久遠が去った後のアカデミアの話を挟みつつ、久遠の挑戦は続きます。