遊戯王GX-至った者の歩き方-   作:白銀恭介

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それからの平穏、その先の選択肢(後篇)

 響紅葉とレジー・マッケンジーの見舞いを予定より早く終え、鷹城久遠と神倉楓は移動を開始する。

二人が向かおうとした先は、かつて二人がデュエルモンスターズを始めた時に、幾度となく通ったカードショップである。自然とそこへと向かう道中には二人が幾度となく通った道があり、懐かしい光景がよみがえってくる。

 

「あ、あの木、まだあるんだね」

「あー、あったなぁ。誰だったか覚えてないけど、なってる柿を取ろうとして塀の内側に落ちて犬に追っかけられてた奴がいた気がする。誰だったっけ?」

「えーっと……私も覚えてないや」

「嘘つけ、お前だろうが。」

「あ、あはは……」

 

 他愛のない話は、道中で途切れることなく続く。

 子供だったあの時、何も怖いものなんてなかったあの時に見た物。それはかけがえのない宝物。

 

「学校……だね」

「俺はちょっと前までここの生徒だったけどな」

「そっか……そうだよね。私は途中で転校したから……」

「そうだな……入れないかな?」

「やめとこうよ。私卒業生でもないのに入りづらいよ」

「4年までいたんだし、いいじゃんか」

「もう、目的地は違うでしょ」

「それもそうか」

 

 二人の思い出の地を、懐かしむように歩いて行く。決して最短距離で目的地に向かうではないものの、それは多くの時を失ってしまった二人が、また友人として1歩目を歩き出すために必要な儀式。

 プロの世界に足を踏み入れた鷹城久遠。それに追いすがるために必死で走り続けてきた神倉楓。志こそ同じ方を向いていても、二人の間には明確な差ができてしまっている。それは、分かたれた二人が歩んできた道の違いであり、最早どうしようもないこと。だからこそ、こうして過去をゆっくりと振り返ることは、二人にとっての『始まり』が同じところにあったことを再確認することで。それこそが、二人にとって真に再開を示すための儀式。

 

「あいつ、居るかな?」

「どうだろう? 決闘大好きだから居る確率は高いと思うけど……。そういえば、あんなに四六時中決闘決闘言ってたのに、なんでアカデミア受けなかったんだろう」

「落ちたらしいぞ。筆記で」

「うそ!? 一般試験向けに過去問見てみたけど、そこまで難しかったっけ?」

「俺、一般の過去問見てないから知らないけど、あいつならあり得るとは思う」

「ちょっとまって、一般試験の内容知らないって……。え、まさか久遠くんって、裏口入学?」

「違うわ! 単に入試受けるのが決まってから試験日まで時間がなかっただけだ!」

「でも流石に過去問くらい見るでしょ? どれだけ時間なかったの?」

「半日」

「え、半日!?なんで?」

「社長に試験受けたらどうだって言われたのが推薦前日だった」

「……よく受かったね」

「な。……まさか俺、裏口だったのかな……」

「……この間の定期考査の結果から言えば違うとは思うけど……ねえ」

「その辺は不正が嫌いな社長の誠実さに賭けたいな」

「今度聞いてみたら?あ、あそこだ」

「……そーするわ。おー、変わってないなあ」

 

 二人で何度も通った街角の小さなカードショップがようやくその姿を見せる。最後に訪れた2年前から、その様相は何も変わっていないように見える。

 

「楓、何年ぶり?」

「2年ぶりかな。転校する直前に一度だけ顔を出したよ」

「あ、そうか。パック受け取ってくれたもんな」

「今ではデッキのエースになってるよ」

「それは何より」

 

 そんな軽口をたたきながらショップのドアを開ける。昔聞いた時になったベルの音もそのままに、温かな雰囲気のその店は、来訪者を優しく迎え入れる。

 

「いらっしゃい。おや、懐かしい顔ぶれだ。偶然にしては出来過ぎてるね」

「店長こんにちは。御無沙汰してます」

「久しぶりです。店長ちょっと老けました?」

「神倉さん、久しぶり。鷹城君、余計なお世話だよ。第一声からそれかい?」

「あはは……にしてもお元気そうでなによりです」

「全く……今中学生だっけ?生意気盛りになって……。今はどうしてるんだい?」

「アカデミアに入りました」

「同じく。プロもぼちぼちやってます」

「あれを『ぼちぼち』というのかい?結構な活躍じゃないか」

「結構有名になりましたよ。公認ショップ登録しましょうか?」

「やめとくよ。『レジェンド』の称号を取ってから来てくれ」

「はいはい、また振られちった。ま、その内に取りますよ」

「その内でとれる称号じゃないんだけどなぁ……」

 

 久しぶりの再会の挨拶。訪れるのはおよそ2年ぶりになるというのに、それでも目の前にいる店長は、まるで先週来た常連を相手にするかのように自然に、久遠と楓を受け入れてくれる。

 プロになった時にも、この店長はそれを応援してくれ、その礼にと公認ショップ登録しようかと申し出てみたものの、そんなものはいらないとやんわりと断られた。今回も言ってはみたが、答えは変わらないままだった。心のどこかで、久遠は自分のためにこの店をホームにしておきたいという思いがあるのかもしれないが、今はこの距離感でも十分かという思いもある。だからこそ、申し出は冗談半分に。受ける方がそんなに深刻にならない程度の軽さでする。それでもいいと思ってくれたら、受け入れてくれうのなら、その答えに甘えることにしようと思っている。

 だから、今のままでいいのだ。

 

「鷹城君、どうしたの?ぼーっとして」

「ん、ああいや、何でもないです」

「ボケるにはまだ早いだろ?」

「確かに……店長すらボケてないのに俺がボケてるわけにもいかないですね」

「やかまし。で、今日はどうしたんだい?デート?」

「えーっと……」

「今日会う人会う人にそんな話題振られるんですけど、そんなにデートに見えます?」

「見えるねー。昔は見なりなんてほとんど気にしてなかった鷹城君が雑誌モデルみたいな恰好してるし、神倉さんもさりげなくオシャレしてるしね」

 

 そんなことを指摘されて初めて楓の格好を見る久遠。成程、こうして見ると私服の楓を見るのは久しぶりだったが、記憶の中にある楓の服装と比較して、大分女の子らしい恰好をしている。加えて言うなら、ほんの少しだけ、薄く化粧もしているのだろうか。改めてみると普段と大分印象が変わって見える。こんなことにも気付かなかったのは、よほど余裕がなかったのだと若干の反省をし。素直に謝る。

 

「そういやそうですね。うん、普段と大分変わって見えますね」

「……今まで気づかなかったの?」

 

 やばい、何か地雷踏んだ。楓の方から昼に明日香から受けたのと同質のオーラを感じる。これは……下手すると、吹雪さんコースになってしまう。

 

「や、あのな、楓。ちがうんだよ?」

「何を言い訳してるの?別に何とも思ってないよ?」

「いやいや、ほんとに、違うんですよ?」

「何で敬語なの?やましいことなんてないでしょ?」

「ええ……まあそうなんですけどね」

「ははは、無敵の久遠帝も形無しだー」

「発端はあんたでしょうが!!何うれしそうにしてんすか」

「久遠くん?」

「はいっ!」

 

 どうしたらいいのか分からず、ただ楓の怒りが過ぎるのを待つ久遠。心なしか小さくなってしまっているよう感じる。そうした久遠を見ているうちに、楓も何となく怒りのやり場を失ってしまったようで。

 

「はあ……もういいよ。今回の主目的は遊びに行くことじゃなかったから、気付かなくても仕方ないわね。でも、次に見逃したら……ね?」

「はい、善処します」

 

 もう全面降伏の体制である。さりげなく次の約束を取りつけられたような気もするが、別に楓と約束すること自体に異論はない。次注意しなくてはいけないと心に刻んでおこうと思うだけのことではあるが、今は導火線に再び火がつくのを避けるだけだ。

 そうして久遠がおとなしくなっているのを楽しそうに楓と店長が見ている。一人アウェーだな……と感じつつ、話題を別に逸らそうとした矢先――

 

 

「おっしゃー、いっちばん乗りぃ~」

 

 元気な声と共に飛び込んでくる少年が一人。その声は久遠も、楓も、聞きおぼえがある者の声。

 この店で最も沢山の決闘をし、最も多くの時間を共に過ごした古い友人の一人

 その、突然の来訪に、二人は即座の反応ができなかった。一番早く反応したのは、やはり慣れているのだろう、この店の店長で。

 

「やあ、いらっしゃい。今日も元気だね」

 

 ――十代君

 

「店長こんちわ。あれ?お客さん?ちぇ、一番乗りじゃなかったか」

「うん、お客さん。懐かしい顔だよ」

「え?誰誰?俺が知ってる奴?」

「うん、そうだよ」

 

 そう言って店長は陰に隠れていた2人を十代に見えるように少し体を動かす。店長の体の陰に隠れていた二人が十代に姿を見せる格好になる。最初に口を開いたのは、久遠。

 

「よっ、十代。久しぶり。4年ぶり……かな。覚えてるか?」

「久しぶり、十代君」

 

 店長の陰から見える懐かしい顔に、一瞬どういう表情をしたらいかはわからなくなるが、それよりも、なによりも、自然に声が出た。

 顔を合わせるのは4年ぶりでも、最後に会ったのがあんな事件のときだったとしても。あの最も濃密な思い出を共有した友人に対して、戸惑いもなく、迷いもなく、ただただ自然に声をかけることができていた。

 

「え……楓と……久遠か?マジかよ?久しぶりじゃんか!」

「おお、覚えてたか。忘れられてっかとおもったぞ」

「忘れるわけないだろ?お前らを忘れるなんてありえないって」

「十代君は、変わらないね。いつでも元気いっぱいで」

「おうっ!そりゃそうだ。俺から元気をなくしたら何が残るんだってもんだ」

「確かに……何も残らんかもしれない」

 

 そんな昔と変わらないままの旧友に。自然と緊張はほぐれていく。4年という歳月など、まるでなかったかのように振舞う彼は、当り前のように久遠や楓との関係に戻って来てくれる。だからこそ、十代に対する触れかたも自然になってくる。

 

「ひでぇ、久遠は相変わらずだな~。あれ?そういえば楓って転校したんじゃなかったっけ?」

「うん、でも中学進学でこっちに戻ってきたの」

「え、進学先はこの近くなのか?」

「ううん、ちょっと遠いよ。デュエルアカデミア」

「久遠もか?」

「ああ」

「アカデミアかー。いいなあ。いつでも決闘し放題なんだろ?行きたかったな―」

「普通よりは多いけど、四六時中ってことはないよ。というか十代、筆記で落ちたんだってな」

「うげ、なんで知ってんだよ。店長、ばらしたな?」

 

 この場で唯一その情報を知る店長をにらむ十代。その本人はその視線を軽く受け流しておどける。

 

「濡れ衣だよ。僕は何も言ってないよ」

「ある知り合いに聞いたんだよ。本人の名誉のために犯人の名前は言わないでおくけどな」

 

 それが十代の尊敬する人物から聞いた話であることは伏せておく。ばらしてもその憧憬の念は揺らぐことこそないとは思うものの、いい気はしないだろう。

 

「えー、気になるなー。」

「ま、その辺は秘密だな。今でもここに出入りしてるってことは、まだデュエルモンスターズ続けてたんだな」

 

 気になっていたのはその一点。楓もそうだが、十代もデュエルモンスターズから離れるだけの十分な理由はあった。以前ここに訪れた時に続けていると店長伝手で聞いてはいたものの、やはりこういうのは本人の口から聞きたかった。

 

「当然!俺は今でも決闘続けてるぜ。久遠達はどうだ?」

「私たちデュエルアカデミアにいるって言ってるんだけど……。」

「あ、そっか」

「うん、ちょっとだけ離れたことはあったけど、今はもう完全に戻ってるよ」

「俺もだ。ずっと続けてる」

「うお、マジか。じゃあさじゃあさ、決闘しようぜ!!」

「唐突だね」

「でもだからこそ十代らしいな。いいけどさ、どっちと決闘やる?」

「そうだなぁ……」

 

 一瞬考える様子を見せる十代。どっちとやったら楽しいかと真剣に考えているのだろう。

 

「じゃあ、久遠で」

「俺か?ん、いいぞ。デッキは昔と変わったんか?」

「へへっ、それはどうかな?」

「んー、なら俺の方はこれでいいか。店長、ディスク借りていい?」

「うん、いいよ。他にお客もいないことだし、僕も見させてもらおうかな?」

「言ってて悲しくないですか、それ……」

「ほっといて」

 

 そんな調子でデュエルスペースへと移動する。十代はさすがにあれから常連で居続けただけあり、いつもの調子でデュエルディスクを取り出してい自分の分を装着する。そして、もう一つをこちらに放り投げてくる。それを受け取り、装着しながら。

 

「十代、借り物投げるなよ」

「あ、ごめん」

「俺じゃなくて謝るのは店長に向けてな」

「ごめんなさい、店長」

「あはは、丁寧に扱ってね」

「よし、ならいいか。やるぞ、十代」

「おうっ」

 

「「決闘(デュエル)っ!!」」

 

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遊城十代(TP)【???】

    - LP 4000

    - 手札 6

 

鷹城久遠【???】

    - LP 4000

    - 手札 5

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「先攻は俺だ、ドロー!」

 

 勢いよくカードをドローする十代。初手を打つまでの一瞬、その瞬間は、相手が何をしてくるかを様々に想像できるので、楽しい一瞬でもある。昔の十代は戦士、悪魔の混合デッキだったが、今の十代は何をしてくるのだろうか。

 

「よし、俺は《E・HERO フェザーマン》を守備表示で召喚するぜ!」

 

    《E・HERO フェザーマン》 Lv3/風属性/戦士族/攻1000/守1000

 

 現れたのは羽をはやした緑色のスーツを纏ったアメコミ風ヒーロー。ステータスは心もとないながらも、このタイプのデッキの象徴的な役割を持つその姿に、十代は絶対的な信頼を置いているように見える。

 

「どうだ、これが俺の【E・HERO】デッキの切り込み隊長、フェザーマンだ!」

「はは、なんだよ。【E・HERO】かよ」

 

 思わず笑ってしまう。しかし、それが十代は若干気に入らなかったらしい。

 

「む、なんだよ。ステータスが低いからってバカにするのかよ!見てろよ、ヒーローには無限の可能性があるってことを見せてやる。俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

 ちょっとむくれてしまったように見える。無理もない、さっきの久遠の態度ではバカにされたと取られかねないのである。いつもならそう思わせておいて油断を誘うのも一つの手ではあるのだが、今日はそういうのではない。即座に訂正しておく。

 

「ああ、悪い。別にバカにしたわけじゃないんだ。ただな?」

「ただ、なんだってんだよ!」

「こういうことだ、十代。俺のターン、ドロー。俺は魔法カード《増援》を発動、デッキからレベル4以下の戦士族モンスターを手札に加える。そして加えたモンスターを召喚」

 

 目的のモンスターを手札に加えて召喚する。これがこのカテゴリーの基本動作。現れたのは――

 

    《E・HERO エアーマン》Lv4/風属性/戦士族/攻1800/守 300

 

「――悪い十代。バカにしたわけじゃなくて、デッキ被った」

「おお!!久遠も【E・HERO】使うのかよ!よっしゃ、燃えてきたーっ!!」

 

 何か思った以上にお気に召したようだ。先ほどまでの不機嫌さは一瞬で吹き飛んでしまったように見える。ここまで喜んでくれると色々見せたくなってしまう。

 

「喜んでくれて何よりだ。続けるぞ。俺はエアーマンの効果を発動。このモンスターが召喚、特殊召喚された時、デッキから"HERO"と名のつくカードを手札に加えることができる。俺は《E・HERO オーシャン》を手札に加える」

「おお、すげえ。俺が持ってないHEROのカードばっかりだ。な、久遠。見せて見せて!」

「後でな。バトル行くぞ。エアーマンでフェザーマンを攻撃!」

 

 突撃していくエアーマンに守りの体制だったフェザーマンが破壊される。あっさりと破壊されたものの、あの十代がそんな簡単にされるがままになったりはしないはず。

 

「フェザーマンが破壊されたこの瞬間、リバースカードオープン。《ヒーロー・シグナル》発動だ!

自分の手札またはデッキから"E・HERO"という名のついたレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚するぜ!俺はデッキから《E・HERO スパークマン》を守備表示で召喚する!」

 

    《E・HERO スパークマン》Lv4/光属性/戦士族/攻1600/守1400

 

「ま、そうだよな。メイン2へ移行。カードを2枚伏せて、エンド」

 

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TURN 2(End Phase)

 

遊城十代【E・HERO】

    - LP 4000

    - 手札 4

    - モンスター

        《E・HERO スパークマン》(守1400)

    - 魔・罠

 

鷹城久遠【E・HERO】

    - LP 4000

    - 手札 4

        《E・HERO オーシャン》

    - モンスター

        《E・HERO エアーマン》(攻1800)

    - 魔・罠

        伏2

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「楽しくなってきたぜ、俺のターン、ドロー!!」

 

 勢いよくカードを引く十代。その目はさっきからキラキラと光っている。そして、こういう時の十代は、昔から決まって引きがよい。

 

「よし、俺は魔法カード《戦士の生還》を発動だ。これにより墓地から戦士族モンスターを1対手札に加えるぜ。俺はフェザーマンを選択して手札に戻す。そして、魔法カード《融合》発動だ!手札のフェザーマン、バーストレディを墓地に送って、融合召喚!現れろ、マイフェイバリットモンスター、《E・HERO フレイム・ウイングマン》!!」

 

   《E・HERO フレイム・ウイングマン》Lv6/風属性/戦士族/攻2100/守1200 

 

 融合召喚により現れた新たなヒーロー。その姿は先ほどまでのフェザーマンを一回り大きくしたもの。加えてその右手には、フェザーマンの時には持っていなかった竜の口をかたどった武器の様なものを持っている。

 これこそが、E・HERO融合戦術の真骨頂。1体1体は弱くても、融合によってその壁を容易に超えてくる。手札消費こそ激しいものの、手札から一気に大型モンスターが飛んでくる意味で、奇襲性も抜群である。

 

「へへ、早速俺のエースモンスターの登場だぜ!昔、あるプロにもらったパックで当たってからこいつは俺のデッキの象徴になったんだ。俺の目標はこのデッキで、そのプロに勝つことなんだぜ!」

「E・HERO使うプロっていうと、紅葉さんか?」

「いや、紅葉さんは知ってるし、目標でもあるけど、そのひととは違うんだ」

「そっか……E・HEROメインのプロってとっさに思いつかないけど……だれかな? まいっか、後で話してくれ」

「おうっ!続けるぞ。守備表示のスパークマンを攻撃表示に変更してバトル!フレイムウイングマンでエアーマンを攻撃だ!」

 

 登場した時の勢いそのままに、こちらのフィールドのエアーマンに飛びかかってくるフレイム・ウイングマン。即座に出てくる攻撃力以上に、その攻撃的な効果が厄介だ。

 

「リバースカード、オープン。罠発動《攻撃の無力化》。バトルを無効にしてバトルフェイズを終了させる。フレイム・ウイングマンの効果は厄介だからな。ここで止めないと一気に危険域に持っていかれる」

「ちぇ、効果を知ってるのか。まあ防がれちまったのは仕方ないか。俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

「やるね。じゃあこっちも負けてられないな。俺のターン、ドロー。」

 

 引いたカードは悪くない。これなら十代の期待に添えるだけの展開は開けるだろう。

 

「行くぞ。俺は手札の《沼地の魔神王》の効果を発動する。手札のこのモンスターを墓地に送り、デッキから《融合》を手札に加える。そして《融合》発動。俺は手札の《E・HERO オーシャン》とフィールドのエアーマンを融合、HEROと名のつくモンスターと水属性モンスターによる属性融合」

「属性融合……HEROと属性モンスターの融合……ってことは、紅葉さんの最強ヒーロー!」

「ご明察。深淵の世界、絶対零度の世界より出るヒーローよ、その力を持って全てを凍て尽かせ。現れろ。融合召喚、《E・HERO アブソルートZero》」

 

    《E・HERO アブソルートZero》Lv8/水属性/戦士族/攻2500/守2000

 

 融合によって現れたのは絶対零度の冷気を纏った一人のヒーロー。その威圧感は、その威風堂々としたたたずまいは。最強のHEROの称号を持つにふさわしい。

 

「すげぇ……紅葉さんのプロの試合でしか見たことがねーや」

「少しは感動したか?」

「もちろん、昔から久遠との決闘は楽しかったけど、今日はそれ以上だぜ」

「じゃあ感動ついでにもうちょっとサービスするよ。リバースカードオープン、永続罠《リビングデッドの呼び声》墓地のモンスターを1体蘇生する。俺はエアーマンを選択して特殊召喚。特殊召喚に成功したエアーマンの効果で《E・HERO スパークマン》を手札に加えてそのまま召喚だ、」

「一気に3体も、マジですげぇぜ!」

「行くぞ、耐えれっか?バトル!アブソルートZeroでフレイムウイングマンを攻撃!Freezing at moment!」

「させないぜ!罠発動!《ヒーローバリア》!俺のフィールドにE・HEROが居る時、相手の攻撃を1度だけ無効にできる!」

「なるほど、エアーマンじゃフレイムウイングマンに届かないもんな。仕方ない、エアーマンでスパークマンを攻撃!」

「ぐっ!」

 

   十代 LP:4000 → 3800

 

「メイン2、カードを1枚伏せて、エンド。さあ、どうする?」

 

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TURN 4(End Phase)

 

遊城十代【E・HERO】

    - LP 3800

    - 手札 1

    - モンスター

        《E・HERO フレイム・ウイングマン》(攻2100)

    - 魔・罠

 

鷹城久遠(TP)【E・HERO】

    - LP 4000

    - 手札 2

    - モンスター

        《E・HERO エアーマン》(攻1800)

        《E・HERO アブソルートZero》(攻2500)

        《E・HERO スパークマン》(攻1600)

    - 魔・罠

        《リビングデッドの呼び声》(対象:E・HERO エアーマン)

        伏1

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「負けないぜ、久遠。俺のターン、ドロー。俺は《強欲な壺》を発動だ。2枚ドロー……来たっ!俺は《融合回収》を発動、融合素材と融合を1枚ずつ墓地から手札に加える。俺はバーストレディと融合を手札に戻して、そのまま融合を発動!手札のバーストレディ、クレイマンを融合して、現れろ、《E・HERO ランパートガンナー》。守備表示だ!」

 

    《E・HERO ランパートガンナー》星6/地属性/戦士族/攻2000/守2500

 

「相変わらずえげつないドローだなぁ。手札1枚からそれができるのかよ。」

「へへっ。そうだろ?そして、これが最後の手札だ。HEROの戦う舞台を整えるぜ!フィールド魔法、《摩天楼 -スカイスクレイパー-》を発動。」

 

 十代がフィールド魔法を発動した瞬間、あたり一面に高層ビル群が立ち並んでいく。立ち並んだビルの中で一番高いビルの天頂に佇むのは、十代の不動のエース。

 

「行くぜ!バトルだ!ランパートガンナーは守備表示の時攻撃力を半分にして直接攻撃できる!そしてスカイスクレイパーの効果でフレイムウイングマンはZeroに攻撃する時攻撃力を1000アップさせる。フレイムウイングマンの効果と合わせて、これで俺の勝ちだ!」

「だな。でも甘い。ランパートガンナーの攻撃宣言前にリバースカードオープン。罠発動《亜空間物質転送装置》。自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、エンドフェイズまでゲームから除外する。俺はアブソルートZeroを選択する」

「アブソルートZeroをどけてスカイスクレイパーの効果を発動させないつもりか?」

「おしいけどちょっと違う。紅葉さんの決闘を見たことあるんなら、Zeroの効果くらいは知っとかないとダメだぞ?フィールドから離れたアブソルートZeroの効果を発動する。こいつががフィールドを離れた時、相手フィールドのモンスターを全て破壊する!凍り付け、絶対零度(Absolute ZERO)!!」

「うあああああぁぁぁぁぁっ!!」

 

 デュエルディスクによるソリッドビジョンの光景なのに、まるで本当に冷気が襲いかかるような錯覚に覆われる十代。その冷気が過ぎ去った時には、十代を守るモンスターは1体も残らず消滅しきってしまっていた

 

「俺のモンスターが……全滅かよ……くそぉ……ターンエンドだ」

「勝負あったかな。楽しかったぞ」

 

 手札はなし、フィールドにモンスターもなし、場に有るカードは摩天楼ただ1枚。大勢は決したとばかりに、先ほどまでヒートアップしきっていたフィールドが落ち着きを迎えていく。それまで口をはさむことがなかったギャラリーも二人の話に入ってくる。

 

「流石……十代君も十分に強かったけど……」

「うん、流石は久遠帝だけあるね。昔見た時位よりも格段にタクティクスが向上している」

 

 その店長の発言に食い付いたのは、当の十代。いままで決闘にのみ集中していたが、回りに意識を向ける余裕ができたらしい。大勢が決したというのを理解したのもあるかもしれないが。

 

「え、店長、久遠帝って……あの久遠帝?え、久遠が?マジ?」

「そうだよ?」

「ええええええええぇぇぇぇぇぇっ?何で黙ってたんだよ、久遠!!」

「もうアカデミアではみんな知ってるからなぁ……知ってるもんだと思ってた。そっか、普通はそんなに知られてない事か。つか店長。別にいいけどだったらさらっとばらさんで下さい。」

「幼馴染に秘密ごとはよくないよ?」

「まあそうですけどね。確かに、十代ならいいか」

「それに、十代君にとって『久遠帝』は意味を持つ名前だからね」

「?」

「フレイム・ウイングマンを有るプロにもらったって言っただろ?それが久遠帝プロ……お前なんだよ、久遠」

「……まさか……あの時のか?」

「おうっ、だから俺はHEROデッキを組むようになったんだ」

 

 思い出すのはプロになることが決まったあの日。ちょっとした悪戯心から生まれた小さなプレゼント。楓といい、十代といい、つくづくいろんな人のターニングポイントになったモノである。それを知ったのが2年越しだというのも不思議なものだが。

 

「そうだったんだ」

「なあ、久遠」

「ん?」

「最後のターン、久遠帝の本気を見せてくれないか?」

「え?どうしてさ」

「さっきも言ったけど、久遠帝は紅葉さんに並んで俺の倒したい目標なんだ。このデッキで強くなっていずれ倒したいと思うけど、挑むにあたって、どれだけ今差があるかを知りたい」

「……。後悔するかもしれないぞ」

「デュエルで後悔なんてしないさ。それに目標は高けりゃ高い方が燃えるってもんだ!」

「……わかった。始める前に言っておく。お前はHEROには無限の可能性があるって言ったな」

「おう、俺はそれを信じてるぜ!」

「そっか。……今から俺がやるのはE・HEROデッキの到達点の1つ。強いことは保証する戦い方だが、それをお前が目指す必要はない。お前はお前の戦い方を探して、それを納得したうえで強くなってほしい」

「………わかった」

「じゃあ……行くぞ」

「おうっ」

「俺のターン、ドロー。強欲な壺を発動、2枚ドロー。カードを3枚セット、手札がこのカード1枚の時に、このカードは特殊召喚できる。《E・HERO バブルマン》を守備表示で特殊召喚、俺のフィールドにはレベル4のエアーマンとバブルマンが居る。この2体でオーバーレイ!」

「オーバーレイ?」

「同じレベルのモンスターが複数揃った時に別のモンスターが特殊召喚できる未来の召喚方法だ。レベル4のモンスター2体でエクシーズ召喚!光纏いて現れろ! 闇を切り裂くまばゆき王者!《H-C エクスカリバー》」

 

  《H-C エクスカリバー》Ra4 /光属性/戦士族/攻2000/守2000

 

「そしてエクスカリバーの効果を発動、エクシーズ素材を2体墓地に送り、次の相手のエンドフェイズまでエクスカリバーの攻撃力は元々の攻撃力の倍になる」

 

  《H-C エクスカリバー》攻2000 → 4000

 

「攻撃力4000……」

「まだ行くぞ、伏せていた魔法カード《戦士の生還》を発動。墓地のエアーマンを手札に戻して通常召喚。効果で2枚目のバブルマンを手札に加える。再び手札がバブルマン1枚のため、バブルマンを特殊召喚、そして再度エクシーズ召喚!2体目のエクスカリバーだ。効果を発動して攻撃力を倍にする」

「すげぇ……一気に攻撃力4000が2体も……」

「まだ行くぞ。伏せていた《E-エマージェンシーコール》を発動、デッキから《E・HERO フラッシュ》を手札に加える。最後の伏せカード、《融合回収》を発動だ。Zeroの素材にしたオーシャンと融合を手札に加えて、手札から《融合》を発動、場のスパークマンと手札のフラッシュを融合素材に《E・HERO The シャイニング》を特殊召喚。墓地に落ちたフラッシュの効果を発動、このモンスターが墓地に送られた時、墓地の魔法カードを手札に加える。強欲な壺を手札に戻して即発動。2枚ドロー。魔法カード、《ミラクル・フュージョン》を発動、墓地の融合素材を除外して融合召喚できる。俺の墓地には正規の融合素材の代わりにすることができる沼地の魔神王がいる。魔神王をフレイムウイングマンの代わりとして、墓地のスパークマンと除外融合、現れろ、《E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン》。最後、2枚目の《融合回収》を発動、フラッシュと融合を手札に加え、発動!と行きたいけどフィールドが埋まってるな。シャイニングは除外されたE・HERO1枚につき攻撃力300ポイントアップ、シャイニングフレアウイングマンは墓地のE・HERO1枚につき攻撃力300アップ。除外されたE・HEROはスパークマン1体、これによりシャイニングは攻撃力2900になる。そして墓地にはエアーマン、2体のバブルマン、フラッシュの合計4体、それによりシャイニングフレアウイングマンは攻撃力3700になる」

 

  《H-C エクスカリバー》Ra4 /光属性/戦士族/攻2000/守2000

        →攻4000

  《H-C エクスカリバー》Ra4 /光属性/戦士族/攻2000/守2000

        →攻4000

  《E・HERO The シャイニング》Lv8/光属性/戦士族/攻2600/守2100

        →攻2900

  《E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン》Lv8/光属性/戦士族/攻2500/守2100

        →攻3700

  《E・HERO アブソルートZero》Lv8/水属性/戦士族/攻2500/守2000

 

 

 

 並び立つ5体の戦士たち。その壮観な姿に十代は興奮しきっている。しかし、その楽しい時も終わりを告げなくてはならない。戦士たちは、戦いに身を置いてこそ戦士なのだから。彼らがただ待つは、主の命ただ一つ。故に、主は命を下さなくてはならない。

 

「じゃ、いくぞ」

「おう、来い!」

「行けっ!!」

 

 戦士たちの総攻撃によって、異端に挑まんとする少年は敗北を告げた。

 

 十代:LP 3800 → -200 → -4200 → -7100 → -10800 → -13300

 

「すげぇ……マジですげぇ……。遠いけど、今はまだ届きそうにもないけど……絶対追いついて見せるぜ!ガッチャ、楽しい決闘だったぜ!!」

「ああ、待ってるよ、十代」

 

 勝者――鷹城久遠

 

 2年ぶりの友人との決闘は、ただ何も考えずに楽しいままに始まり、楽しいままに終わることができた決闘だった。

 

 

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「なんだよー、もう帰っちまうのか?」

 

 決闘が終わってから1時間。簡単な反省会の後。十代が希望したのは久遠のデッキを見せてもらうことだった。見せるだけならと久遠は了承したものの、楓と決闘するのも忘れ、十代はデッキにかぶりつくように見ていた。そうなると食傷気味になってしまうのは久遠と楓の方。

 

「あれから1時間も俺のデッキ見てたらさすがに飽きるだろ?」

「ぜんっぜん飽きないぜ!後3時間は軽いぜ」

「俺が飽きるんだよ。つか、そんなに何時間もデッキ眺めてられる集中力があってなんで勉強ができないんだお前は」

「えーっと……勉強は別脳?」

「別腹みたく言ってんじゃねーよ。あとそういうのは詰め込む余地がある場合を言うんだ。お前の場合真逆じゃねーかよ……よし、決めた」

 

 ――それは、ちょっとした思いつき

 

「何を?」

「お前、高等部のアカデミアに落ちたら、もう決闘してやらない」

「げげっ!!嘘だろ久遠?頼むからそんなこと言わないでくれよ」

 

 あからさまにうろたえる十代。やはりこいつにはこれが一番効いたのか。久遠はちょっと悪戯心を浮かべた表情で続ける。

 

 ――罰にかこつけた、約束。

 

「いや、決めた」

「なあ、楓からも何か言ってやってくれよ~」

「私も久遠くんに乗ったわ」

「まじかよー」

「嫌なら少しは勉強しろよな」

「ううぅぅ、苦手なんだけどなぁ……」

「ま、頑張れ。無事入学できたら好きなだけ相手してやるよ」

「約束だぞ、楓もな!」

「ああ」

「うん」

 

 ――再び肩を並べることを誓った、あの時の3人の間で交わされる、未来の約束の形

 

 少し頭を抱えながらも納得する十代。その姿を見ながら久遠は思う。

 

 ――こんな楽しく決闘したのは、本当に久しぶりだったから。俺もお前と決闘するのが待ち遠しいんだ。ちょっと悔しいから言ってやらないけどな。

 

 再会の時が、今から待ち遠しくてたまらない。

 楽しい学園生活は、そう遠くないような気がした。

 

 

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「うーむ、ストレス解消!やっぱ疲れた時はオーバーキルだネ☆」

「さすがにあれは十代も可哀そうだったと思うけど……」

「ま、本人納得の上だからいいんじゃない?」

 

 なおも二人を引きとめようとする十代に別れを言い、店を後にする久遠と楓。迎えを呼んだものの到着するまで若干の時間があることを運転手から告げられ、店に戻るのもばつが悪いため、こうして当てもなく歩くことになった。

 近くに着いたら電話を入れてくれることになっているので、とりあえず当てもなく歩くことには問題がないのだが、それでも、昔のくせというものはなかなか抜けなかったらしい。気付いたら二人が到着していたのは、先ほどのショップから5分ほど歩いた場所。

 

「あ……」

「あ……そっか、いつの間にか自然とこっちに向かって来てしまってたな」

「……そうね」

 

 そこは、幼き日の神倉楓が住んでいた場所。今となってはは主を変え、新たな家族を守る場所。そして、かつての2人にとっては。幾度となく遊び、決闘を学び、育ってきた場所。

 そこを前にして、二人とも言葉が出ない。中から家族の談笑の声が聞こえてくる。それは、かつて二人の居場所だったこの場所には、もう戻ることができないという証明に他ならない。

 

 どれだけそうしていたのだろうか。先に言葉を紡いだのは、楓の方。

 

「ねえ、久遠くん」

「なんだ?」

 

 言葉を紡ぐ楓の方を見ようとしても、真横に立つその少女の表情をうかがい知ることはできない。唯一の手掛かりとなるその声を頼りに今の感情をたどろうとするものの、その様子をうかがい知ることはできない。

 

「隠してること。あるよね」

「ああ。ある」

「言ってもらうことは、できないの?」

「知りたいのか?」

「うん、知りたい」

「俺は……楓なら何となく気づいてると思ったけどな」

「それでも。きちんと言葉にしてもらいたい」

 

――それが、しばしの別れを告げる言葉だったとしても。

 

 沈黙が二人を包み込む。その沈黙が続いたのは一瞬だったか、それとも長い時間だったか。次に言葉を紡ぐのは、久遠の方。一呼吸とばかりにため息をつきながら、彼は自身の言葉で楓に告げる。

 

「ふぅ……。やっぱり何となく気づいてはいたんだな」

「うん」

「そっか。じゃあ言うよ。いいかい?」

「うん」

 

 そうして久遠は楓の予想していた通りの言葉を紡ぐ。最も聞きたくないはずの別れの言葉を。

 

「俺はレジーが回復次第アメリカに留学することになった。向こうで、『頂点』を目指さなくっちゃならないんだ」

「うん……わかった」

「結構あっさりしてるな。これでも言うのは結構一大決心だったんだが」

「うん、久遠くんがそうまでして言うってことは、必要なことなんだよね」

「ああ。俺の『異端』の正体をかけらでもつかむために。今、どうしても行かないとダメなんだ」

「それは、何のため?いまでも十分折り合いは付けてるよね」

「それでも、やっぱりこれは普通じゃないんだ。これが何か分からないままに、俺はお前たちと肩を並べて歩けない。元に戻るのはできるかどうかもわからないけど、少なくとも俺は、自分が何なのかくらいは知りたいんだ」

「そっか……。うん、そっか……」

「ああ。そうだ」

「なら、私は送り出すよ。でも、ちゃんと戻って来てね」

「約束するよ」

「うん、それじゃ」

 

 ――いってらっしゃい

 

 そう笑顔で告げる楓の。

 頬を伝う涙には、触れないことにした。

 ただ、それを心の奥深くにしまっておくだけ。

 それだけで、十分だった

 

 

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――制裁決闘の夜、校長室にて

 

「やあ、来てくれてありがとう。こんな時間に済まないね。――」

 

 そう言って来訪者を迎え入れる播磨校長とMr.マッケンジー。彼の言葉に続くのは来訪者の名前

 

「――鷹城久遠くん」

「どうも、非常識な時間ながらご招待いただき感謝いたします」

 

 明らかな警戒の色と敵意を持って部屋に入ってきた久遠。しかし当の二人は涼しげな顔をしている。

 そんな中話を始めたのは、久遠をこの場に呼び寄せた播磨校長。

 

「君に来てもらったのは他でもない、君に留学の話があって来てもらったのだ」

「…………」

「制裁決闘については見事だった。君は晴れてこれにて無罪放免となる。しかしながら少々まずいことになってしまった。君の制裁決闘に参加したメンバーの中に我々教師が入っていたことだ。結果として本校の教師たちが1名の生徒に負けることとなったわけだ」

「あの決闘は取巻戦が全てでしたから、別に大した話じゃないと思いますが」

「世間の目はそうはいかない、君は立場上、わが校の教師よりも強い生徒になってしまったといえる。ならば、我々アカデミアとしてはさらなるステップを君に提供する義務があるのだよ」

 

 気づいてはいた。制裁決闘の2戦目に教師である佐々木が出てきた時から。こんなストーリーが組まれていたことには。でも、仕方がなかったのである。

 

「そうまでしないと教師たちを守れないと……そういうわけですね」

「実情はさておき、これは君にとってのステップアップになることは嘘ではないよ。幸いにして、『偶然』君の制裁決闘を見に来てくれたMr.マッケンジー校長のメガネにも叶ったようだ。どうだい?受けないかい?」

「既に選択肢はないように見えますが」

「それでも、本人の同意というのは大事なことなのだよ」

「…………」

 

 それでも、なかなか『是』の意思を返すことができない久遠。その様子を見かねてさらに播磨がたたみかけようとしたその時。

 

「ハリマ」

 

 突然それに割って入ってきたのは、当のマッケンジー。

 先ほどまでの堂々とした態度の播磨は即座にマッケンジーに対して従順な姿を取る。

 

「はい、何でしょうか」

「少し、この男と話がしたい。席をはずしてはもらえないだろうか」

「え?しかし……」

「何、悪いようにはしない、行ってくれ」

「は……はぁ……それでは」

 

 若干首をかしげながらもそのまま部屋を退出していく播磨。それを見届けてから。マッケンジーは久遠に話しかける。

 

「君は、私の正体には気付いているんだね?」

「ああ。わかってるよ。お前のその存在感。闇のゲームを受けた時のそれと同じ危険なにおいがする。加えて言うならレジーが決闘中に『父が』って言ってたからな。何らかの形で黒幕に絡んでるとは思ったが、まさか、憑依かよ。いったい何なんだ?お前は」

「ふふ。正解だ。ハリマは全くそれに気づかなかったのだがな。そして俺はお前の力を欲している」

「別に失くしても惜しくはない力だけどな。それでも危険度は格段だ。お前に易々とくれてやるわけにはいかない。何なら、ここで決着をつけてもいいんだが」

「ははは、面白い。しかし私は今、君とは戦わない」

 

 今にも始まるかと思った決戦を前に、しかしながら聞こえてきた回答はそれを否定する解。

 面喰ってしまったのは逆に久遠の方。

 

「あ?何故だ」

「何故と来たか。そもそも私が彼に取りついている理由は『退屈しのぎ』なのだよ。君が私に挑みたいなら、それ相応の楽しみを私に提供してこそだろう?」

「……趣味が悪いね」

「自覚してるよ。さて、それを踏まえて君に課題を提供しよう。君は、確か日本ではプロだったね。ならアメリカのプロリーグに参加し、私を納得させるだけの『称号』を得てこい。」

「それに何の意味があるんだよ」

「結構。無理だと言わないところが異常といえば異常だな。それを教える筋合いはないのだよ」

「断ったら?」

「ハリマが私の指示通りに動くことは見ただろう?あとは想像の通りさ」

 

 それは、播磨を通して何らかの干渉をしてくるということ。これまでと同じ、いやあるいはこれまで以上に。

 

「君だって、ここで学友ができたことだろう?」

「お前……」

 

 暗に示される、周囲の人間への干渉。それはつまり、久遠がアカデミアで受けてきたようなことが、回りの人間に対しても行われるという宣言。

 

「さあ、どうするね?」

「…………………受ける。どのみちそれ以外に選択肢なんてないんだ」

「それでこそだ。ならば私からは成功の際には私が知る限りの君の力の正体を教えよう」

「……なっ!?」

 

 不意に示された、久遠の根源の一旦。いままでどうしてもつかめなかったそれに関する手がかりが突然示された。これでは動揺しないはずがない。

 

「まあそれは今すぐというわけではない、君が成功したらの話だ。精々頑張りたまえ。詳しくは追って説明する。今日はもう帰りたまえ」

「ああ。わかった」

 

 部屋から去る久遠を見送り、マッケンジーは嗤う。

 

「精々期待しているよ。私の退屈しのぎのために。そして、復活のために」

 

 Mr.マッケンジー-トラゴエディア-の静かな笑いが、不気味に響きわたっていた。

 




目指す地は、はるか海の向こう。

ただ一人、少年は歩き続ける。

そこに待つのは、喜劇か、悲劇か

次回「旅立ちの日、新たなステージへ」



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原作主人公20話ぶりの登場!
まあ中学生編なら仕方ないですね。

ラスボス登場です。ただし決闘はしない。
アメリカ編はそんなに長引かないと思うので、決戦は遠くないと思います。

今回の原作効果はこちらー

E・HERO ランパートガンナー
 相手モンスターが居ても攻撃力を半分にしてダイレクトアタックできる効果モンスターでした。OCGは何故か相手モンスターがいない場合のみ適用という意味不明な変更を受けてる1枚です。

E・HERO フラッシュ
 原作効果では墓地に落ちたらノーコストで魔法カードを回収できるという壊れ性能。OCG化したらまず間違いなく禁止行きでしょう






投稿ペースが落ちてしまってますねぇ
と思ったら1話の文字数が増えてるのか

退場はしないように頑張りますです

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