制裁決闘:1人目-取巻太陽
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TURN 1
鷹城久遠(TP)【???】
- LP 4000
- 手札 6
- モンスター
- 魔・罠
取巻太陽【???】
- LP 4000
- 手札 5
- モンスター
- 魔・罠
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「ルールにより先攻は俺だ、ドロー」
いつものようにカードを引いて手札を見る……が、手札はあまりよろしい状態ではない。
終盤まで用がないカードが手札に来ているし、初手に単体でいても邪魔にしかならないカードもある。
要のカードは1枚しか手札に入っていないし、ドローソースも少ない。これは、このターンの運が必要になりそうだ。
「俺は魔法カード《成金ゴブリン》を発動、相手ライフを1000回復し、デッキからカードを1枚ドローする。」
「何やってんだ、先は100人と長いんだぜ?こんな調子じゃ先は遠のくばかりだぜ!!」
取巻:LP4000 → 5000
100人もいればLP1000の差なんて僅かなものだ。それより場を整えることの方が1000倍大事。まあ余裕そうにしてこちらをナメてくれるならそれに越したことはないのだが。
引いた手札は……これならまだ行けるか。
「俺はカードを1枚セット、そして魔法カード《手札抹殺》を発動。お互いに手札を全て捨て、同数ドローする。俺は4枚捨てて4枚ドロー」
「俺は5枚捨てて5枚ドロー!」
4枚のカードを確認する。できればもう1枚……。
「もう1枚、《成金ゴブリン》を発動、相手ライフを1000回復して1枚ドロー」
「さっきから……何がしたいんだ!!」
「さあね?」
取巻:LP5000 → 6000
取巻を流しつつ、引いたカードを確認、偏りがあるものの……これが序盤に固まる傾向は悪くない。返しのターンをしのげるかは運だが、完全にこっちをなめてくれてる相手だったら何とかなるか。1キルされなければ安いと考えよう。
「俺は残りの4枚をセットして、エンドだ。」
「せっかく手札交換までしたのに、結局モンスター1枚も引けてねーのかよ。これは俺の勝ちはもらったな、俺のターン、ドロー!!」
手札を勢いよく引く取巻、それを見て表情をニヤリと変える。あれは、いいカードを引いた顔だな。
「俺は手札から《ゴブリン突撃部隊》攻撃力は2300だ!俺のデッキのエース格がこんなに早く来るなんてお前、終わ――」
「リバース、オープン。罠発動、《奈落の落とし穴》。攻撃力1500以上のモンスターが召喚、反転召喚、特殊召喚された時、破壊して除外する」
「何だと!?」
「5伏せ相手に迂闊すぎる。そんな単純な戦法が通用する相手だと?」
「くっくそがっ!!」
「さらにチェーン、罠発動、《ゴブリンのやりくり上手》、さらにもう一枚《ゴブリンのやりくり上手》を発動、加えて最後、速攻魔法《非常食》を発動。コストとして2枚のやりくり上手、奈落を墓地に送る。チェーンの逆順により非常食の効果、墓地に送ったカード1枚につき、ライフを1000回復、俺が送ったカードは3枚、ライフを3000回復する」
「なんだと!!?」
鷹城:LP4000 → 7000
「そして次、ゴブリンのやりくり上手の効果、墓地にあるやりくり上手の枚数+1枚をドローして、1枚デッキボトムに戻す」
「1枚ドローして1枚戻すんじゃ手札交換にもならないぜ?」
「違うね、俺の墓地には効果解決前に非常食によって墓地に2枚やりくり上手が送られている。さらに手札抹殺によって1枚送っているので、効果を解決する時には墓地には3枚のやりくり上手が存在、そのため、4枚ドローして1枚デッキボトムに戻す」
「何だと!?」
「4枚ドロー、1枚を戻す、次のチェーンもやりくり上手だ、4枚ドローして1枚戻す。」
「ろ……6枚ドロー……」
「最後に奈落の効果で突撃部隊は破壊して除外される。さあ、ターンを続けてくれ」
「く……ゴブリンはやられたが、お前の戦法は判ってるんだ。お前の次の攻め手こそ封印させてもらうぜ!!俺はカードを2枚伏せて、ターンエンド」
「エンドフェイズ、永続罠《心鎮壷》を発動。セットされた魔法・罠を2枚選択して発動、《心鎮壷》がある限り選択されたカードは発動できない。」
「何だと!!」
「それ、今の話や突撃部隊を使ってきたことから考えると、どっちかは《スキルドレイン》だろ?相手にそれを知らせるのは致命傷だと教えただろうに」
「くそ…………鷹城ォ……」
「そしてターンは俺のターンに移る。」
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TURN 2 EP
鷹城久遠【???】
- LP 7000
- 手札 6
- モンスター
- 魔・罠
《心鎮壷》
取巻太陽(TP)【スキルドレイン】
- LP 6000
- 手札 3
- モンスター
- 魔・罠
伏2(封印中)
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「やはり腐ってもプロ……Y組の学生じゃ相手にもなりませんかねぇ」
お互いに1ターンを終えたフィールドを見つめる播磨校長。その目に映るのは、ただペースを握られてしまっている取巻と比較的余裕の表情の鷹城。傍目にも鷹城の思うように決闘が進んでいるように見える。まあそれはいい。どうせ最初の10人程は捨て駒だ。
「しかし、いいんですかね?1ターン目からそんなに飛ばして」
その進め方からしても、鷹城はまだこの決闘のルールの本質がわかっていないのだろう。1戦1戦に集中すればいいプロの試合のルールとは違って気にしなくてはならない着眼点が違うのだ、この制裁決闘は。
既に決闘はスタートしている。もはや気付いたところで終わっているのだが……。
「まあ、ゆっくりと見させていただきましょう、その表情が絶望に沈むのを」
どうせ、自分の思惑から外れることはないのだ。どんなことがあっても、これまでも、これからも。
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「ドロー」
カードを1枚引く、ドロー加速が上手くいっただけあって、ようやく目的のパーツが揃った。
それにしても、厄介なルールを組んできたものである。改めて久遠はそう思う。
シンクロ、それに準ずるカードの使用を禁止とするということは、エクシーズも禁止となるのだろう。シンクロはプロ戦で2回ほど、アカデミアで1戦だけしか使用しておらず、エクシーズなどは一度も使用していないが、アカデミア側は他にも同様の召喚方法があると推測したのだと考える。この分だとペガサスさんのトゥーンなどを使用しても文句が入るのだろう。こういったデッキを組んできたら、運用すらままならくなるところだった。こんな情報を決闘直前に伝えてくることに公正さに欠けることはないのだろうか。
エクゾディア禁止についてもそうだ。しかも敢えてこれだけを禁止し、補足説明まで加えてきたということは、【カウントダウン】や他の特殊勝利はただ1人交代となるだけなのだろう。これでは100人抜きは到底おぼつくものではない。
ターンを回すことについても、比較的不利になるルールだ。これで相手が変わったら必ず手札6枚スタートで始められる。つまりこちらの場を整えても荒らし放題にされてしまうことは想像にに難くない。
そして、1対1の決闘や場、ライフ、手札の継続はまだ分かるが、一番厄介なのは……あのルール。これに関しては完全に専用の対策を必要とする。
しかし、まずは、相手のターンに好き勝手されないようにする布陣が第一。対策について考えるのは後でいい。不幸ながら、その対策は済んでしまっている。
「俺は《黒魔導師クラン》を守備表示で召喚」
《黒魔導師クラン》LV2/闇属性/魔法使い族/攻1200/守 0
現れたのは兎をかたどった帽子をかぶり、ゴスロリ風のドレスを着ている少女。しかしその少女の姿は取巻つけ上がらせるのに十分だったようで。
「へっ、お前終わってんな。こんな決闘にそんなアイドルカード出して来て、しかも守備0のモンスターを守備表示にするとかな!!」
と挑発してくる。取巻は完全に油断している。悪い癖だから直すように何度も言ってるのだが、どうも根本的な性格矯正はできなかったらしい。残念なことである、この場においては有利に働くだけだから指摘はしてやらないが。
「カードを2枚伏せてターンエンド」
「そんなザコ、一瞬で倒してやるぜ!!俺のターン、ドロー!!」
「残念だが、それは無理だな」
「何だと!!?」
「永続罠《宇宙の収縮》を発動、さらにチェーンして罠カード《おジャマトリオ》を発動する」
「おジャマだとぉ!?そんなゴミカードで何しようってんだ!!」
おジャマをザコと言い切るのは、本質がよくわかっていないのだろう。気付いた時……というか既にこの瞬間を逃してしまえばもう手遅れなのだが。
「チェーン処理、おジャマトリオの効果で相手フィールドにおジャマトークンを3体守備表示で特殊召喚する。そしてこのトークンが破壊された時、お前に300ポイントのダメージが入る」
おジャマトークン 獣族・光・Lv2 攻0/守1000
おジャマトークン 獣族・光・Lv2 攻0/守1000
おジャマトークン 獣族・光・Lv2 攻0/守1000
コミカルな姿の黄色、緑、黒のモンスターが取巻の場に現れる。当人は馬鹿にしたような顔でこれを見ているが、これで……揃った。
「そして、宇宙の収縮の効果、このカードが存在する限りお互いのフィールドに出せるカードは合計5枚までになる」
「くそっ、ウザいったらないぜ、俺はサファイアドラゴンを召喚!」
カードをディスクにたたきつける取巻、しかし、モンスターは現れることなく、ディスクからはエラーのアラートが鳴り響く。
「な……なんだ!?故障か!?」
「話聞いてくれよ。宇宙の収縮の効果を説明したろうが。このカードが存在する限りお互いのフィールドに出せるカードは合計5枚までになる。お前のフィールドには封印されてる2枚の伏せカード、そして3体のおジャマトークン。フィールドのトークンはカードに数えられるから、これで既に5枚なんだよ。よって新しくモンスターを呼ぶことはできない」
「くそ、そういうことか。ならそれを破壊すればいいだけだ、魔法発動《大嵐》!!これで全て魔法も罠も破壊される!」
再び鳴り響くアラート。もちろん大嵐の効果は発動することはない。
「なに……どういうことだ!?」
「新しく発動するカードはすぐに墓地に送られるとはいえ、一時的にフィールドにおかれるため、『6枚目』になるんだよ。だから5枚までの制約に引っ掛かって出てきたエラーだ。つまり、お前は魔法、罠の発動、モンスターの召喚はできないことになるな」
「嘘だろ!?そんなことが……」
「有るんだよ。そういうデッキなんだ。デッキ名【コスモロック】。ハマったら最後、抜け出る方法は多くないぜ?」
「くそっ……汚いぞ!鷹城!!!」
「俺に挑んで手っ取り早く昇格目指そうとした奴に言われる筋合いはないね」
取り合ってやる気はない。もうロックは成立したのだ。
それに言ってやる気はないが、1人目がこいつでよかったと思う。
典型的なビートダウン思考、単純バカと言ってしまえば言い方が悪いが、ほぼ全体がこの思考になっているデュエルアカデミア生徒が相手ならこのロックが成立する可能性は低くなかった。
「で、何かやることはあるか?」
「くそ……くそっ!!ターンエンドだ」
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TURN 4 EP
鷹城久遠【コスモロック】
- LP 7000
- 手札 4
- モンスター
《黒魔導師クラン》(守0)
- 魔・罠
《心鎮壷》
《宇宙の収縮》
取巻太陽(TP)【スキルドレイン】
- LP 6000
- 手札 4
- モンスター
《おジャマトークン》(守1000)
《おジャマトークン》(守1000)
《おジャマトークン》(守1000)
- 魔・罠
伏2(封印中)
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「俺のターン」
場は整えた。ここで、もうひとつの対策を公開してやった方がいいだろう。主に俺の方をニヤニヤと見続けてる校長に対しての行動になるのだが。
「ドローフェイズ、俺は手札抹殺の効果で墓地に送った《マジック・ブラスト》の効果を発動、ドローをスキップする代わりに墓地からこのカードを手札に加える」
100人を1デッキで相手にすることから、デッキ枚数よりも相手が多いという状況が発生した。そこから起こってくるのは、中盤以降に発生するデッキ切れ。その強制デッキデス対策として入れておいた1枚、まともな決闘にならないことから入れておいた対策カードである。対策内容は、そもそもドローをしないということ。
そして、コスモロック。これで2人目以降の相手が出てきて潤沢な初期手札があってもこちらの場を荒らすことはできなくなる。
これが、制裁決闘対策の2枚札。これを目にして、ただ諦めてくれるだけならいいのだが。
「スタンバイフェイズ、クランの効果が発動する。相手フィールドにいるモンスター1対につき300ポイントのダメージ、お前のフィールドには3体のおジャマトークン、よって900のダメージだ」
「くっ……」
取巻:LP 6000 → 5100
「メイン1、魔法発動、《マジック・ブラスト》 自分フィールド上の魔法使い族1対につき、200ポイントのダメージ、俺の場にはクラン1体が存在するため、200ダメージだ」
「ぐあ…………」
取巻:LP 5100 → 4900
「ターンエンド」
さあ、これで今の対策じゃ俺にとどめはさせなくなった。どうするかな?ちらりと校長の顔を見てみるが……案の定、驚きの表情を隠し切れていない。
しかしもう遅い。このゲームはもう、結末を明らかにしてしまっているのだ。後はただ残酷なショーが幕を開けるだけ。
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フィールドの外で鷹城久遠と取巻太陽の決闘を見つめる播磨校長。その表情には当初あったような余裕は最早微塵もない。
「マ……マジックブラスト、そうだ……あのカードがあったんだった」
すっかり忘れていた。バーンカードとしては効率が悪すぎる屑カードだと思っており、その存在すら忘れていたカードだ。それにこんな使い方があったとは……。
鷹城久遠が組んできた宇宙の収縮を利用したロックの構築も忌々しいが、こちらの作戦を読み切った対策カードをあらかじめいれておくそのやり口に、怒りと同時に若干の恐怖すら覚える。
3年生の特待生を当てた時も、プラネットを持つレジー・マッケンジーをぶつけてみた時も、易々とそれを超えてきた。
その強さはシンクロ等の未知のカードに有ると思い、今回の制約を課した決闘を課してみても、それを簡単に超えてくる。しかも今回は特に変わり種のカードは使用していない。
今になって『あの方』が欲しがる理由がわかってきた。鷹城久遠……奴は……。
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「俺のターン……ドロー」
さっきまでの勢いがなくなってしまっている。まあほぼ完全ロックにハマってしまい、できることがないのだ。この先の結果が見えてしまったとあれば、意気消沈してしまうのも仕方がないことである。
「ターン……エンド……」
「俺のターン、マジックブラストの効果は使用せず通常ドロー。スタンバイフェイス、クランの効果で900ダメージ」
「ぐっ……」
取巻:LP 4900 → 4000
「1枚セットしてエンド」
「俺のターン……ドロー。ターンエンドだ」
「俺のターン、マジックブラストは使用せずドロー。スタンバイフェイス、クランの効果で900ダメージ、エンドだ」
取巻:LP 4000 → 3100
「俺のターン……サレンダーだ……」
最早勝ち筋はないと諦めたか。その見極めは間違ってはいないのだろうが。しかし――
「認めない、続けろ」
「ふざけるなっ!!もう俺に勝ち目はないじゃないか!!」
「それこそ知ったことじゃない。俺にはまだ次があるんだ。お前の都合に付き合ってやる必要がどこにある。折角ロックが完成したんだ。手札も場札も、もうすこし整えるために付き合ってもらう」
「くそっ!くそっ!!ドロー、ターンエンド、手札調整で1枚捨てる」
「俺のターン、通常ドロー。スタンバイフェイス、クランの効果で900ダメージ、1枚セットしてエンドだ」
取巻:LP 3100 → 2200
「俺のターン、ドロー、ターンエンド、1枚捨てる」
「俺のターン、マジックブラストを手札に加えてドロースキップ、クランの効果で900ダメージ、マジックブラスト発動、200ダメージ、エンドだ」
取巻:LP 2200 → 1300 → 1100
「俺の………ターン…………ドロー……ターンエンド……1枚捨てる」
「悪いな、取巻。俺のターン、マジックブラストを手札に加えてドロースキップ、スタンバイフェイズにクランの効果で900ダメージを与える、メインフェイズ、マジックブラスト発動して200ダメージ」
「くっそぉぉぉぉぉぉおーーーーーーーーーーーーーーーっ」
取巻:LP 1100 → 200 → 0
ライフを0にされ退場していく取巻。これで1人目。まだまだ先は長い。
「次、お願いします」
「鷹城、次は俺が相手だ」
現れたのは、隣のクラスの担任教師。確か名前は佐々木先生だっただろうか。
確かY組生徒と同じような典型的な階級主義の先生だったはず。上昇志向が強い野心家だという噂をちらほらと聞いていた。
そんな相手を目の前に相対した久遠は、嫌だな……と一瞬だけ思ってしまう。
相手が先生であることで倒しづらいということではない。がちがちの階級主義者が敵に回ってしまったことでもない。決闘に勝つという1点のみなら、それはもうこのロックを敷いた時点で勝利は確定しているから問題とはならない。問題は、対戦相手のラインナップに教師が並んでしまったということ。こればかりは久遠にはどうしようもない事ではあるのだが、つくづく盤外戦術における播磨校長の狡猾さを目の当たりにしてしまう。
多分、これが校長のもう一つの罠。決闘のルール縛りのきつさから、あくまで保険程度なのだろうが。
「行くぞっ、ドロー!」
「佐々木先生……勢いよく出てきてもらってなんですが、何かできることがあるんですか?」
「なんだと?まさか!!」
「ルール4つ目、『参加者が切り替わる場合、場はそのままで継続する』です。俺が取巻と1戦目の決闘をしたときに敷いたロックはまだ生きてるんですよ」
「なんだと!?それじゃ……」
「マジックブラストによってデッキ切れはなし、相手にできることは何もなし。もうすでに100勝確定の布陣はできているんです」
「そんな……それじゃあ俺達には何もできず、ただ負けるのを待つだけになると?」
「そうなります。さあ、早く進めてください。後98人、約400ターン待ってるんで」
「くっ…………お前という奴は……ターンエンドだ」
あとは、先生が出てきてしまったためにもう少しだけ動かなくてはいけなくなってしまった。
多分これによって、結果驚愕するのは制裁側だろうが、どの道こちらを倒したら昇格なり報奨なりが出るのだろう。でなければこんなタイプの人間ばかり出てくるはずがない。そんな奴相手なら、別に慈悲をくれてやる必要もないだろう。
「俺のターン、ドロー、来たか。佐々木先生」
「……何だ」
「ちょっといいカードが来ましたので、せっかくなので、余興にお付き合いください」
「何をするつもりだ……」
「俺はクランを生贄に《マテリアルドラゴン》を守備表示で召喚、そして伏せていた永続魔法、《黒蛇病》を発動。俺のスタンバイフェイズにお互いに200ポイントのダメージを与えます。そしてスタンバイフェイズごとにダメージは倍々に増えていきます。そしてマテリアルドラゴンはダメージ効果を回復効果に変換する永続効果を持っています。ターンエンド」
「俺のターン……ドロー、なにもない。ターンエンド、1枚捨てる。しかしお前の2枚のカードで決着がつかなくなったのではないか?プレイミスもいいところだな」
馬鹿にしたような表情をしている。こういうところが取巻と同じような印象を与えるのだろう。
一応このまま放っておいてもデッキ切れで負けるのは先生側なのだが……それはいいだろう。べつにこっちはそれでけりをつける気はない。
キラーカードは、既に揃っているのだから。
「エンドフェイズ、永続罠《シモッチによる副作用》を発動、このカードは相手ライフを回復する効果をダメージ効果に変換します」
「なんだと!?」
「ちなみに、マテリアルが居る時はダメージ効果が発生した場合回復に変換後、再度ダメージに変換されます、回復効果の場合ダメージに変換後、再度回復効果に変わるようになっています。この意味……お分かりですか?」
「つまり……黒蛇病の効果は俺にのみダメージとなり、お前には回復になるということか?」
「ご名答。そして俺のターンです。マジックブラストを手札に加えてドロースキップ、スタンバイフェイズにお互いに200ダメージ、マテリアルの効果で回復に変換し、先生の方はシモッチでさらにダメージに変換されます。」
鷹城:LP 7000 → 7200
佐々木:LP 4000 → 3800
「このままエンド、手札調整でブラストを捨てます。」
「これは……無限コンボ……」
「ええ。そうなります、ですがどうしようもないですよね?どうぞ進めてください」
「俺のターン……ドロー、手札を捨ててターンエンドだ」
「俺のターン。マジックブラストを加え、ドロースキップしてスタンバイフェイズ、黒蛇病で俺は400回復し、先生に400ダメージです」
鷹城:LP 7200 → 7600
佐々木:LP 3800 → 3400
「そして、何もせずエンド。手札調整でマジックブラストを捨てます」
あとはこれを繰り返すだけ。ターンが進むにつれて意気消沈していく先生だが、取り合うことはない。
後で思い知ってもらおう。
鷹城:LP 7600 → 8400 → 10000 → 13200
佐々木:LP 3400 → 2600 → 1000 → -2200
――自分がまだ、ラッキーな方だったということを。
6ターンの後、何もできないままに敗北した佐々木先生は、そのままとぼとぼと去っていく。次に現れたのは、慕谷。取巻と同じく勉強会のメンバーで、同じタイミングでやめて行った奴である。既にその顔に浮かぶのは、絶望の色のみである。
「始めようか、慕谷。俺のターンのスタンバイフェイズで佐々木先生のライフが0になったのでエンドフェイズに移行、マジックブラストを手札調整で捨て、エンドにする。さあ、お前のターンだ」
「俺の……ターン、ドロー!」
縋るような手つきでカードを引く。が、やはり起死回生の手札はないのだろう。なにもできないままに……。
「ターン……エンドだ」
「俺のターン、ブラストを手札に加えてドロースキップ。そしてスタンバイフェイズに黒蛇病の効果、さっきのターンの倍のダメージ、6400が与えられる」
「なんだって!!?ちょっとまて!ぐああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
鷹城:LP 13200 → 19600
慕谷:LP 4000 → -2400
一度に6000超のダメージを受け吹き飛ぶ慕谷。その光景に会場がざわめきだす。
しかしながら、本当に恐れるべきだったのは、久遠の次の言葉にだった。
「さて、次だ。ちなみに残りに誰が出てくるのかは知らないが、次からの奴に念のため言っておく。これから黒蛇病で与えられるダメージは10000を超える。10000くらいならカイザー丸藤と相対した者なら受けたことはあるだろうが、それ以上になったらどうなるかな?このコンボをこのまま進めた場合20人目くらいでダメージは億になる。30人過ぎたあたりでダメージは兆の桁にはいる。最後の奴は……残念だが、『20溝(1億の1兆倍の1兆倍)』のダメージを受けてもらうことになる。もちろん、俺のライフは同じだけ回復し続ける。ソリッドビジョンによるフィードバックのがどこまで行くのかは俺も知らないが、どんだけの衝撃を受けることになるんだろうな?」
その、無慈悲な久遠の言葉に。今度こそ会場は完全にシンとなってしまう。
それも当然のことといえる。デュエルモンスターズというゲームにおいて、1万のダメージが入れば超絶大ダメージであるといえる。100人組み手の特殊ルールとは言え、億、兆のダメージ、そしてそれよりはるかに大きなダメージを受けることを宣言されてしまっているのだ。一切の抵抗を許されることもなく。
開始前には鷹城久遠、即ち『久遠帝』を倒し、名を上げるために意気揚々と参加した者たちを、絶望に引き落とすタクティクス。
これが、制裁決闘で久遠に対して相対した者に対する反撃の全容。
まあ、全てブラフなのだが。
闇の決闘やデュエルディスク以外の衝撃発生装置を使用した決闘ならいざ知らず、通常のデュエルディスクを使用した決闘において、そんな危なくなるレベルの衝撃は安全上行くはずがない。そんな危険なものを海馬コーポレーションが世の中に売り出すはずがないのである。
しかし、それは誰にもわからない。予想は付いている者がいたとしても、確証はない。当然といえば当然の話。億越えのダメージを受けたことのある決闘者など、誰もいないのだから。そして、受けようにも受けられるダメージではないのだから。
そして、もうひとつのブラフ。それはレジー・マッケンジーが決闘後に倒れたという事実。
それらをつなぎ合わせてしまえば、この話は俄然真実味を増すことになる。
「俺は続く決闘でもサレンダーは許さない。俺を狩ることで、あわよくば何か報奨でも期待してたんだろうが、世の中には何事もリスクがあるってことを教えてやるよ。さあ……始めようぜ?」
2人目が先生じゃなかったら、というよりも先生が出てくることがなかったら、ここまでやるつもりはなかった。静かにクランでダメージを与え続け、静かに終わらせれば安寧は手に入ったからだ。
しかし、教師が出てきてしまったことにより、久遠は別の意味で学園に居場所をなくすことになる。それは、ハンデ決闘での教師の全滅をさせる生徒に対してこのアカデミアで教えることはもうないと判断し、放逐すること。番外戦術に長けた校長のことだ、その辺の考えはあってしかるべきである。
それを踏まえて、この学園の中での居場所を何としてでも作るためには――
――誰の目にも見えるレベルで圧倒的な力を示し、それを飼うメリットを学園側に見せること
――そして、それによって、自身に物言う者をなくすこと
これしかなかった。どんなに考えても、これだけしか思いつかなかった。
久遠の求める居場所とは違う形になってはしまうが、それでも何人かは理解してくれるだろう。それは制裁決闘が決まった時の同級生や先輩の気遣いからもわかった。
だから、これが、これだけが久遠の縋れるただ一つの選択肢。
『形の上だけでも』此処に残るための、悲しい選択肢。
「次、お願いします」
「い、嫌だ……俺は出たくないぞ!!」
次の出場順になってるY組の生徒なのだろう。その表情は完全に怯えきってしまっている。
「悪いけどそれを決める権限は俺にはないんだ。俺は制裁を受ける側だから。俺ができるのは出てきた相手をただ倒すだけ、それ以外はこの場では許されていないんだ」
「し……しかしっ!!」
「次はお前の番なんだろ?4人目、始めます。決闘!!」
「やめろぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」
そこからはただただ阿鼻叫喚だった。
久遠に勝って昇格や褒章を得ようとした生徒、教師。プロの試合で以前久遠に敗れ、リベンジとばかりにアカデミアに雇われたプロたち。その全てが現れては理外のダメージを受け、退場していく。
制裁決闘の起案者である校長は、意外にも止めに入らなかった。
それ故に、この制裁決闘は、かつて見たこともないような結果を持ってその幕を閉じる
鷹城:LP 2028240960365167042394725128608400
→ 4056481920730334084789450257210000
百黒(100人目):LP 4000
→ -2028240960365167042394725128597600
圧倒的なまでの結果に、最後まで歓声がわきあがることはなかった。
鷹城久遠――100人抜き達成。
そして非公式試合ながら、1デッキ使用での最多連勝、最大ライフ、最大ダメージの記録をデュエルモンスターズの記録に刻むことになる。
制裁を終えて、異端はかりそめの日常へと戻る。
覚悟はしていた。
あきらめもした。
そんな中で得た、ただほんの少しの平穏
次回「それからの平穏、その先の選択肢」
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20溝(1億の1兆倍の1兆倍)ってなにこれぇ
こんな数字リアルで初めて使った・・・・・・・・。
LP計算で2行使用するとかどう考えてもおかしい。
さてさて、100連勝決闘、久遠のデッキは【コスモロック+マテシモ黒蛇病】でした。
指摘があったデッキデス対策はマジックブラスト様様です。
……当てられてるじゃないか……個別とはいえ全ギミックを……。
デッキデスの話を皆様に指摘され、いろいろな対策案、しかも作者も思いつかないのが出てきたのは面白かったです。逆にこちらがすごく勉強にさせていただきました。
とはいえ、乗りすぎるとネタバレしそうで怖かったですが。
またやりたいなぁ(笑)
事故率を下げる意味で「相手に何もさせない」というのが地味にキーワード
ループ系デッキは相手にターン回すとそこで場を荒らされますからね★
【ワールドトランス】とも迷いましたが、コスモロックで行きました。
青血、ブラスター、クイーン以外でこれ何とかなるのかな?
全部当時のカードプールにない奴だ……。
※
エフェクト・ヴェーラーを対応策の1つとして記載していましたが、感想のご指摘より対処できないと判明、削除しました