遊戯王GX-至った者の歩き方-   作:白銀恭介

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仕組まれていた罠

 『闇の決闘』を終え、未だ状況の整理がつかないままであった。

 ようやく解放されたと思ったら、レジー・マッケンジーが不意に意識を失い、それを介抱しようとした瞬間。

「そこで何をしている!」

 と、この時間にこの場にいるはずがない校長に声をかけられた。

 その声は、明らかに怒気を含んでおり、その怒りの向きは、明らかに久遠に向けられていた。

「校長……」

 かろうじて言葉は出たものの、正直頭がついて行かない。

 一体今までのことは何だったのか。

 『闇の決闘』の最中に受けた、あの苦しみとは何だったのか。

 レジーの言う『リスク』とは何だったのか。

 本人が意識を失ったのと関係があったのか。

 ――そして

 何故こんな時間に校長が居るのか。

 何故、高も狙ったかのようなタイミングで現れたのか。

 

 ――何故、校長の目は純粋な怒り以外の色が浮かんでいるのか。

 何故、何故、何故……。その答えはないままに、状況は加速する。

「鷹城君だったね、こんな時間に校舎内にいるのはどうしてだね?そもそも君は今日公休を取っていたはずだったね」

「あ……交流戦で神倉が倒れたと聞いて状況を見に来ました」

「だとしても時間という物を考えたまえ。そもそも彼女は交流会選抜のときに丸藤君と決闘したときにも倒れたじゃないか。そんなに心配することとは思えないが? それに保険医の先生によると軽い貧血程度で明日には回復するだろうという話ではなかったか?」

「ええ、それは私も聞きました」

「それとこの状況とどういう関係があるんだね?アメリカ・アカデミアからのお客さんが倒れているこの状況と」

「それは……」

 正直説明して納得が得られるとは思えない。決闘を始めたら『闇の決闘』の空間に取り込まれ、そこではダメージが実際の痛みに変わった。決闘に勝ったら相手は意識を失ってしまって今に至っている。

 言葉に詰まった久遠の態度を、弁明なしと判断したのか、校長が告げたのは、無慈悲な判断。

「悪いが、これは看過できる状況にない。折角わが校に対抗戦の対戦相手として来てくれた学生に私闘を挑み、あまつさえ傷つけるような状況、これはもう立派な懲罰の対象だ」

「いや……私は……」

「黙りなさい、今の状況でどんないいわけがあるというのだ。この件は学園側で預かる。倫理委員会!!」

 校長の声と共に現れる深い緑の制服にベレー帽、マント姿の男たち、人数は……8人。

 これは、足掻いてどうにかなる状況ではない。 なすすべなく、拘束されてしまう。

「近日中に査問委員会を開き、沙汰を決める。それまで謹慎していたまえ」

 そのままに、その日は自寮へと強制的に送り返された。

 その時は、何故こんなにも倫理委員会が早く現れたのかを考えることすらできないままに。

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「退学……ですか」

「ああ、我々は君に対してそういう決断を取らざるを得なかった。アカデミアにおける一大イベントである交流戦にて有ろうことか、その来訪してくれた学生に対して襲撃をかけるなど言語道断だ。しかも3日たった今でも被害にあった学生は意識を取り戻していない。しかも、君はそれに対して我々に対して納得がいく説明すらしていないのだ。これで君の罪状が軽くなる要素がどこにあるというのだね?」

 3日後、久遠は査問委員会に呼び出されていた。

 仕事以外では一切外出を許されていなかった久遠に対して、事前連絡一つなく倫理委員会が再び来襲。そのまま有無を言わさずに査問委員会の開かれる会議室に連れてこられた。

 当の査問委員会の会場には久遠一人、その周りを大きなディスプレイが久遠を囲むように配置されている。そこに映るのは、倫理委員会のリーダーと思われる男性、播磨校長、久遠の担任講師の3名。ただし、担任講師は査問委員会が始まって以降、一言も声を発していない。詳しい状況をそもそも知らされていないのだろう、状況に既に付いていけていないように見える。必然と査問委員会でしゃべっているのは校長と倫理委員会のみとなっている。

 一方的な弾劾。解りきっていたことではあるが、その結論は、久遠に対しての有罪判決。

「本件に関しては、アメリカ・アカデミアの校長も大変ご立腹なのだよ。間が悪い事に今回の事件で被害にあわれたレジー君はアカデミア校長のMr.マッケンジーの御息女に当たるのでね。」

「そう……ですか」

「この場においてもはや意味はないとは思うが、何か弁明はできるのかね?もちろん先に聞いたレジー君に決闘を挑まれた云々の繰り返しは必要ないよ。」

「いえ……それ以上のことは私自身にもわかっていないです」

「なら、この話はここまでだ」

 最早この場において決定を覆すことはできないらしい。

 後は久遠にとっての選択肢は2つだけ。奥の手を使うか、黙って退学の命令を受け入れるか。

 前者は一種の賭けである、久遠はそう思っている。自身のスポンサーでもあるアカデミアオーナーの海馬瀬人に口添えをしてもらうというのがその実態ではあるのだが、それには一つ問題がある。この事件がオーナーの逆鱗に触れるかどうかが読めないのである。

 海馬瀬人といえばその性格は徹底した実力主義、自分の道は自分の力で切り開くべきという考えの持ち主である。加えてオカルト的事象に有る程度の拒否反応を示している。そんな彼に対してこういった裏技的な対応を頼むということは、彼の怒りに触れる可能性もある。最悪スポンサー契約すら打ち切られる可能性も否定しきれない。

 後者なら話は簡単だ。ただ何も言わず立ち去ればいいだけ。元々アカデミアに入学するつもりもなかったのだ、どこか別の中学にでも転入すればいい。そもそもアカデミア自体がプロデュエリストを要請する教育機関である。既にプロとして第一線にいる久遠が無理しているべき場所でもない。

 利を考えるなら後者を選んだほうがいいそれはわかってはいるのだが、 それでも、どうしても最後の最後まで足掻きたい理由がある。

 

――少しだけでも、此処に仲間ができたような気がするから

 

プロという社会的地位を捨てるかもしれないリスクを背負ってまで食らいつきたいと願うただ一つの願い。あの時失ってしまった物に、今一度触れてしまったから。それを二度も失いたくない。ただその一つの想いだけで、久遠は自身の全てをかけるだけの覚悟を持つ。

 しかし、そんな久遠の想いと裏腹に、事態は別の方向へと進んでいく。

 

「しかしながら、特待生として十分な成績を残してきた君に対して、何の救済措置を施さずに一発退学というのはさすがに周囲の生徒に対して説明がつかないし、君としても納得ができないだろう。そこで、一つ提案がある」

「…………何でしょう」

「ここは決闘の成績がものを言う学園、デュエルアカデミアだ。そこで君の退学をかけた『制裁決闘』を行うこととする。その決闘で勝つことができたら、今回の件はなかったこととしよう。当然、この件はMr. マッケンジーも了承の上の話だ」

 

 話が急に変わったので話題に追いつけなかった感があるが、よく考えるとこの話は有りがたい。制裁決闘、どんな相手が出てくるのかはわからないが、現役プロである久遠に対して食らいつける人間がそうそういるとは思えない。

 ならば、この話を断る理由はない。

 

「わかりました、そのお話、お受けいたします」

「よろしい、決闘の詳細は追って知らせる。今日はもう行きたまえ」

「はい」

 

 去り際、ディスプレイが消える前に校長が見せた笑みを、今度は見逃すことはなく、久遠は査問委員会が開かれた部屋を後にする。

 朝から続いた査問委員会だったが、終わった時間を確認すると、どうもちょうど昼休みが終わるころだったらしい。とりあえず朝から何も口にしていないので、購買で何か買おうと思い、移動する。

 昼休みも終わりに近付いているからか、それほどすれ違う学生は多くなかったが、すれ違った人たちは一様に、久遠を避けるようにしていく。その目に映るのは、小さな恐怖、そんな風に久遠には見えた。

 おそらく、久遠が『起こした』事件は既にアカデミア中に広められているのだろう。明確な被害者が居て、加害者が登校してきていない現状、アカデミア側には説明の義務がある。それは組織としては仕方のない事。当事者さえ全容がわかっていない事件に恐怖する学生に対して少しでも情報を与え、それを安心させようとするのは当然であるとは言える。

 

――たとえそれが、久遠一人を悪者にする結論であったとしても

 

 結局、この事件は久遠が犯人、レジーが被害者であることで学園内では決着がついてしまっている。この広まりきった事実を覆すことは相当難しい。特に今回は校長を始めとする学園そのものが敵に回ってしまっているのだ。これは生徒の立場としてはなかなか覆しがたいものがある。

 

 購買にて売れ残りのパンを買う。もう昼休みも終わりだからか、残っているものはそんなに多くない。残っていたのは最近売り出され始めた「ドローパン」だけだった。ドローパンは中身に何が入っているかは完全にランダムで、これでいい食材を引けたらドロー力が向上するという売り文句になっており、それが一部の生徒に人気があるようだ。なんでも高等部では黄金のタマゴパンという1日に1つしか出ない大当たりがあるらしいが、中等部では1日1つの大当たりとして白銀のソーセージパンなる物が売られている。一度引き当てた吹雪さんが旨そうに食べていたのが非常に印象的であったのを覚えている。

 とはいえ、もう残りもそんなに多くないことだし、当たりが残っている可能性も低いだろう。とりあえず腹に入れば何でもいいやと適当につかみ、会計を済ませる。教室で食べるわけにもいかず、急いでその場で開けてかぶりつく。その味は、辛い……辛くて仕方ない

 引き当ててしまったのは「伝説の唐辛子パン」だったらしい。口から脳まで突き抜けるような辛さ。これは、後を引くと思い、一気に全部食べる。

 

「………………辛いな……」

 

 本当に……辛い。声が得出るほどに、そして涙が出てくるほどに辛くて仕方がない。

 その涙が本当に唐辛子によるものかどうか、それを知る者はいない。当の久遠でさえも……解らない。

 

 なんでこんなことになってしまったんだろう?

 これでは、またあの時の繰り返しではないか。

 勝手に熱くなって、怒りのままに決闘をし、結局他の人を傷つけて、また自分の居場所をなくそうとしている。

 異端になっても、決闘が強くなっても、本質の部分はまだガキのままだ。

 大人びたふりをしていても、大人たちの世界に足を踏み入れても、簡単に変わることができないことだけは、嫌というほど味わってきた。

 

 なんでこんなことになってしまったんだろう?

 既に何度も繰り返したそんな誰のせいとも言えない想いに、答えることのできる者はいない。

 

 

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 午後の授業はギリギリになって教室に滑り込んだ。

 久遠が教室に入る時に一瞬空気がシンとしたような気がしたが、本当に授業が目前に迫っていたこともあり、その場では特に騒動となることはなかった。

 直後の授業に関しても先ほどまで査問委員会に出ていた担当講師の授業だったため、特にそのことに触れられることなく授業は開始した。

 

 そして、授業が終了した直後。

 入学した直後と同じように、いや、あるいはそれ以上に久遠の周囲には人がよけるように空間が空いている。

 入学後、少しずつではあるが打ち解けたと思っていただけに、その事実は少なからず久遠の心に傷を付ける。

 

「(まあ、仕方ないか)」

 

 もうこうなっては仕方がない事である。その事実はただただ受け入れるしかない。それを受け入れた後で、どうするか。それはこの数年で嫌というほど学んできたことだ。

 さしあたっては、制裁決闘に向けての準備となる。詳細のレギュレーションはまだ知らせれてはいないが、あの査問委員会の感じだとただ誰かと決闘すればいいという話にはなるまい。少なからず何らかのハンデは科せられるはずである。

 準備の手数は多くて困ることはない。早速デッキを組むべきかとは思うが、此処にいて空気を悪くするのもよくなかろう。どこかに移動しようか。

 そう思っていた久遠の目の前に人影が来る。

 その姿は――

 

「久しぶりね、久遠くん。査問委員会が開かれたって言われたけど、どうだったの?」

「……明日香……そうだな、なんか久しぶりだ」

 

 その姿は、天上院明日香であった。    

 本当に久しぶり……とも思うが、今は心配してくれる友人を安心させることの方が大事か。

 せめて、友人たちの前でだけでも、しっかりしないと……。    

 

「査問委員会だったな。退学を言い渡された。条件付きだけどな」    

「退学!!?」    

「条件付きだって。制裁決闘(デュエル)を行って勝利すれば一応今回の件は見逃してもらえるらしい」    

「でも、貴方に対して決闘での処分決定なんて……」    

「ああ、普通にやったらまあ大丈夫。でもそれじゃ制裁にならない。だから……」

 

 それ以上はことはを発さなくても理解してくれたらしい。

 明日香は心底心配そうな顔で。

 

「何かあったら言ってね?勉強会のメンバーもかなり心配していたみたいだから」

「ああ、まずは大丈夫。今日顔を出してみんなには説明するよ」    

「解ったわ。亮とか兄さんにはメールで伝えてもいい?」    

「頼むよ」    

 

 いろんな人に心配をかけたのだと改めて実感する。そして、少なからず心配してくれている人もいることに、今は心の底から救われた気になる。    

 だからこそ、この学園に残るか細い糸に、すがりつきたくなっているのだ。

 そこに待ち受けているのが、何らかの悪意が混じっている罠だとわかっていたとしてもである。

 後、久遠の懸念はといえば    

 

「そういえば、楓見ないけど、復帰してないのか?」

「楓?貴方と同じく今日からの復帰よ、でもレジ―さんの件もあって、あの時倒れた楓も保険医の先生に相当心配されてるみたい。だからさっきからまた保健室に行ってるわ」

「レジーは……」

「残念だけど、まだ意識は戻っていないみたい。一昨日から病院に運ばれたらしいけど、そこでも特に改善の傾向は見えないみたいよ」

「そうか……ずっと謹慎だったから状況がつかめてなかったんだ。ありがとう」

「どういたしまして。それじゃ放課後、勉強会でね」

「ああ。後でな」

 

 そう言って、明日香と別れる。

 今日の授業はもうあとわずかだ。

 あまり頭に入ってくるような状況ではないが、それでも目の前のことには集中しないと。

 

 

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――放課後、勉強会会場への道中

 

 少し重い気分を残しつつ、久遠は勉強会の会場へと向かう。

 明日香は勉強会のメンバーもかなり心配してくれているとは聞いたものの、それでも若干の不安は残る。

 皆が皆、この事件に対して久遠の立場に立ってくれるものばかりでもないのだろう。少なからず罵倒されることも覚悟はしていかなければならない。

 

 扉を開ける。

 久しぶりであるはずのその会場で、先に待っていたのはいつものメンバー……とは行かないようだ。X組、Z組は変わらずにいるように見えるが、Y組の赤制服は数が減っているように見える。特に男子に関しては……一人もいない。

 

「来たのか……久遠」

「お久しぶりです、亮さん。すみません、ご心配をおかけしました」

「いい、経過も明日香から聞いている。制裁決闘だってな。」

「ええ、そっち関しては準備を進めるしかないでしょう。それはいいんですが……」

「あの後な、勉強会を辞めたいと言ってきた生徒がY組男子を中心にいたんだ。真意までは解らないが……」

「ほぼ間違いなく俺のせいでしょうね。重ねがさねすみません」

「別にそれはいいんだ、元々ただ決闘の技能を上げたい連中の集まりだしな。去るなら去るで引き留める理由はない」

「それは解ってるんですが……」

「言っては悪いが、こんなことでやめようとする奴は結局本心から決闘で強くなりたいというわけではないのだろう。そんなのに居てもらってもこの勉強会の目的が薄れる。だから久遠、気にすることはないんだ」

 

 その言葉が、本当にありがたい。

 

「やあ、久遠くん、久しぶり。明日香から状況は聞いてるよ」

「……吹雪さん」

「制裁決闘だってね?どんなルールでやるんだろ?」

「まだわかってないですが……、何らかのハンデを組まされるんだろうってことは何となくわかります」

「そうだろうね。じゃあ今日はその辺を中心にやろうか?久遠くんが何人抜きできるか、何人同時に相手できるか……とかでどう?」

「お手柔らかに。でも俺ばっか決闘するのでいいんですか?」

「たまには僕たちにも君に挑ませてもらわないとネ」

「あはは……わかりました、じゃあ胸をお借りします」

「よしきた、じゃあみんなにはボクから伝えてくるよ」

「わかりました」

 

 

 そんな、いつもと変わらない人たちに囲まれて。

 制裁決闘に向けてあーでもないこーでもないと一緒になって考えてくれる学友の期待に添えるように、久遠は制裁決闘への思いを新たにする。

 決戦の時は刻一刻と近づいては来るが、不思議と、不安はなかった

 

 

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 ――何日か過ぎた後。

 

 いよいよ制裁決闘の日を迎えることになった。

 アカデミア中央にある決闘場。そこに今この時立つのは鷹城久遠、ただ一人。

 全校生徒の目の前で行われることになった制裁決闘の対戦相手は未だ現れない。観客席は大いに沸いている。声を出しているのは主にY組の生徒であった。

 

 それを一切無視して、静かな心のままに制裁決闘の始まりを待つ。

 懸念事項は、未だに久遠に一つも知らされていない制裁決闘のレギュレーション。その一点だけが、懸念材料であった。

 

 久遠の立つ場の向かい側から校長が現れる。 いつもと何一つ変わらない出で立ちで、静かにこちらに歩いてくる。

 そして、その校長の横に立つ男。初めてみる顔である。顔を見るに……外国人だろうか。

 そんな久遠の考えを余所に、校長が中央に立ち、マイクを手にとって話し始める。

 

「さて、本日お集まりの皆様方、お忙しい中お集まりいただいてありがとうございます。ただ今から鷹城久遠の制裁決闘を開始いたします。本制裁決闘は鷹城久遠が海外就学生のレジー・マッケンジーさんを襲撃した疑いにより行われるものです。本来であればこの場において決闘者以外の者が立ち会うのは筋が違うのですが、今回は特別に、レジーさんのお父上であるMr.マッケンジーに来ていただき、立会いをお願いすることにいたしました。」

 

 なるほど、対戦相手かとも思ったが、レジーの父親だったか。

 ならばここにいるのは不思議ではない。海馬の話では校長自身が彼の推薦でもあったということだし、何らかの人間関係が構築されているのだろう。

 そう納得する久遠。そして播磨校長の話は続く。

 

「さて、本制裁決闘のルールを説明いたします。通常なら制裁決闘はそれ相応実力を持った相手と決闘をし、勝った場合に勝者に対しての罰が軽減されるという物ですが、ここにいる鷹城久遠くんは、ご存知の方も多いとは思いますが歴としたトッププロです。したがって彼に対して上位の実力を持った決闘者を用意することはかないませんでした。そこで、今回の決闘では特別ルールを敷くことにいたします」

 

 来た。久遠の予想通りである。

 何のルールが来るのだろう。予想はいくつか立ててある。手札0スタートか、ライフ100スタートか、多人数相手の勝利か。それとも……。

 

「今回行っていただくのは、100人組み手です。」

 

 校長のその言葉に、若干の安心をする。100人抜きをすればいいだけなら事故率の低いデッキを使用すればどうにでもなるはずである。

 しかし、その見立ては若干甘かったようで。

 

「100人を相手するにあたって、いくつか制約を課させていただきます。ただ100回決闘するだけならそれ以上の連勝実績を持つ彼には甘い制約となるが故の制約であることをご理解ください」

 

 そこで告げられたのは、どこまでも久遠に対して不利となる選択肢の数々。

 

 一、デュエルは1対1で行われる

 一、制裁側は負けた場合、次の参加者がLP4000、手札5枚でスタートする

 一、上記の場合でも鷹城久遠側の手札、LPは変化しない

 一、参加者が切り替わる場合、場はそのままで継続する

 一、参加者が切り替わる場合でも鷹城久遠のデッキ変更は認めない 

 一、制裁側の参加者がLP0になった場合、そのターンはその時点でエンドフェイズとなる

 一、エクゾディアによる特殊勝利は不可(手札が次の対戦に引き継がれるため)

 一、シンクロ、それに準ずる召喚方法の使用は禁止とする

 一、先攻は鷹城久遠とする

 

 ルールが発表された時、大いに沸く一部の席と、シンと静まりかえってしまった席が分かれてしまった。沸いているのは参加者として登録しているメンバーなのだろう。これで自分たちの勝利は確定的となったからだろうか。

 場の中央にいる久遠は何一つとして言葉を発しない。

 その心中を察することは場を注視している誰もができない。自分と同じようにあまりな条件に絶望しているのか、それとも、既に諦めてしまっているのか。

 

「それでは、始めさせていただきます。1人目、前へ!!」

「はいっ!!」

 

 元気のいい掛け声とともに現れたのは

 

「取巻……」

 

 元勉強会メンバーにして脱退組だったY組生徒の同級生。

 やめた理由は、校長側に付いたからだったか。その目には既に久遠に対しての見下しの意思が宿っている。

 堕ちた優等生、それが久遠に貼られたレッテルだ。目ざとい取巻がそんな久遠に対していつまでも下手に出ているはずがなかったのである。

 

「悪いな、鷹城。お前には別に恨みはないが、こうしておまえを倒せるチャンスに恵まれたとあってはこっちに付かないわけにはいかないんだ。お前に勝ったら無条件で昇格させてくれるってチャンス、逃すわけにはいかないぜ」

「別にいいよ……元々そんな奴なんじゃないかな?とは思ってたし」

「俺のことを思ってくれるなら、1人目で負けてくれよな!」

「やれるもんならやってみな。俺も簡単に負けてやるわけにはいかないし」

「生意気な!犯罪者風情が!!」

「その無実の証明の礎になってくれんだろ?有りがたい事だ」

「ぬかせ!!行くぜ!!」

 

「「決闘!!」」

 

 

 




つけられた条件はただただ不利なものだった。

それでも異端はあがき続ける。

手に入れたものは、手放すにはあまりにも惜しいものだったから。

その処刑場に選ばれたのは決闘の舞台

それゆえ、異端は……

次回「制裁決闘」




さて、1つのデッキで100人抜きです
シンクロもない状態で果たして久遠は勝てるのか。

たぶん作者が考える以上にスマートな勝ち方を考えついている人はいるとは思いますが、それは密に密に………

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