遊戯王GX-至った者の歩き方-   作:白銀恭介

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闇の決闘

不在にしていた交流戦にて突如起こった神倉楓の気絶騒動。

その状況を確認しに行った鷹城久遠。

その帰り道、不気味な気配と共に現れたのは、神倉楓の対戦相手のレジ―・マッケンジー。

その口から発せられたのは。

 

――『闇の決闘』

 

黒い霧に覆われたフィールドで。

かつて体感したことがない、決闘が幕を開ける。

 

「「デュエルっ!!」」

 

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TURN 1

 

レジ―・マッケンジー(TP)【???】

    - LP 4000

    - 手札 6

    - モンスター

    - 魔・罠

 

鷹城久遠【???】

    - LP 4000

    - 手札 5

    - モンスター

    - 魔・罠

----------------------------------------

 

「先攻は私がもらうわ、ドロー!」

 

先攻を取ったのはレジ―。

楓戦を見ていないので、デッキの概要すらつかめていない相手だが、それ以上に気になるのは『闇の決闘』の存在である。

ただ黒い霧に包まれるというだけの効果ではあるまい。それは先に決闘を行って倒れた楓の例もある。

正体不明の現状、まずは慎重に動くべきなのだろう。

相手が少しでも種明かしをしてくれるのを期待したいが、それは望み薄だろうか。

 

「私はフィールド魔法《エンジェル・リング》を発動、これにより、フィールド上に存在する天使族モンスターの攻撃力は200ポイントアップするわ」

 

レジ―のデッキは天使族デッキ……相手の腕次第だが厄介な部類である。

 

「そして私は《ヘカテリス》を守備表示で召喚、

 

    《ヘカテリス》Lv4/光属性/天使族/攻1300/守1000

 

「さらに速攻魔法、《サイクロン》を発動するわ。フィールド上の魔法を1枚破壊、私は《エンジェル・リング》を破壊する。この時ヘカテリスの効果を発動、このカードがフィールドに存在し、フィールド魔法《エンジェル・リング》が破壊された時、デッキからフィールド魔法《ホーリー・サンクチュアリ》を手札に加える。そしてそのまま発動!!《ホーリー・サンクチュアリ》の効果はこのカードが存在する限り、フィールド上に存在する天使族モンスター以外のモンスターの攻撃力は500ポイントダウンし、さらに天使族モンスターを召喚する場合に必要なリリースを1体少なくすることができるわ。」

 

一連の流れに無駄はほとんどない。強いて言うならサイクロンを序盤に自分のカードに使用することだが、それも次につなげる布石にしている。そして場に出てくる《ホーリー・サンクチュアリ》生贄軽減もさることながら、弱体化は地味に厄介だ。さらに、敢えてこのフィールドを貼ってくるということは、彼女の真の切り札は、大型天使の連続展開。

 

「カードを1枚セット、私はターンを終了するわ。さあ、闇の決闘の恐ろしさを心のシンまで味あわせてあげるわ、クオン・タカシロ」

「俺のターン……と行きたいとこだが、その前に聞きたいことがある」

 

ダメで元々である。まずはこの正体不明の空間をひも解く材料を手に入れないといけない。

『闇の決闘』と決闘の形を取っている以上、ルール説明を求めるのは不思議な話ではないはずだ。

 

「アラ?今更怖気づいたの?」

「この闇の決闘のルールだけだ。お前はルールも知らない相手を巻き込まないと勝てない程度の実力なのか?それならハンデってことで受け入れてやるが」

「何だ、そんなコト。やることは普通のデュエルと変わらないわ。違うのは内外の干渉ができないことと、普段よりもリスクを抱えたデュエルになるってことだけヨ。勝てばいいのヨ、勝てばネ……」

「そうか。ならいいや」

 

――欲しい情報は聞き出せたわけだし。

 

勿論言葉に出しては言わない。こちらが与えるべき情報など何一つないのだから。

 

「中断して悪かったな、俺のターン、ドロー」

「楽しませて頂戴ネ、ツマラナイダンスのお相手をするつもりはないわ」

「がんばるよ。俺は手札の《サイバードラゴン》を特殊召喚、攻撃表示だ。このモンスターは相手フィールドにのみモンスターが存在するとき、手札から特殊召喚できる。」

 

    《サイバー・ドラゴン》Lv5/光属性/機械族/攻2100/守1600

 

「しかしサンクチュアリの効果で攻撃力は下がるわ」

「知ってるよ、別に問題ない。俺は魔法カード《おろかな埋葬》を発動、デッキからモンスターを一体墓地に送る。俺は《レベル・スティーラー》を墓地に送る。そして墓地のスティーラーの効果、フィールド上のレベル5以上のモンスターを選択して発動、選択したモンスターのレベルを1下げ、自身を特殊召喚する、守備表示。」

 

    《レベル・スティーラー》Lv1/闇属性/昆虫族/攻 600/守 0

 

「カワイイ虫ね。でも攻撃力は低下を含めてわずか100、わざわざそんなの召喚してどうするつもり?」

 

フィールドにはサイバードラゴン、レベル・スティーラー、弱体化を考えると確かに心もとないが……こんな布陣で攻めるわけがない。

 

「まだ俺は通常召喚を行っていない。が、その前に魔法カード《トレード・イン》を発動だ。手札のレベル8のモンスター《青氷の白夜龍》を捨て、2枚ドローする。そして永続魔法《冥界の宝札》を発動。このカードは2体以上の生贄召喚に成功したとき、2枚ドローする効果を持つ。そして俺はサイバー・ドラゴンとレベル・スティーラーを生贄に、《白竜の忍者》を生贄召喚する」

 

    《白竜の忍者》Lv7/光属性/ドラゴン族/攻2700/守1200

 

2体の生贄を捧げて現れたのは、白の竜を従えた白い服の女性、このデッキにおいては強固な盾となる。

何が起こるか分からないリスクのある決闘、最初の布陣としては十分である。

 

「冥界の宝札で2枚ドロー、そしてバトル!《白竜の忍者》で《ヘカテリス》を攻撃!!」

 

ヘカテリスは破壊される。しかし守備表示のためダメージは入らない。

 

「フン、なかなかやるわね。しかし《ヘカテリス》は既に役割を終えている。私に被害はほとんどないわ」

「伊達にプロやってねえ、んなことわかってんだよ。メイン2、永続魔法《アドバンス・ゾーン》を発動、そしてカードを2枚伏せ、エンドフェイズ。《アドバンス・ゾーン》の効果が発動する」

「次から次へと……うっとおしいわね」

「アドバンスゾーンはそのターンに生贄召喚に成功したとき、その生贄の数に応じて効果を増やすことができる。1体以上の効果、相手のセットカードを破壊、その伏せを破壊してもらおうか」

「《エンジェル・ティア》が……」

 

墓地に天使族がたまらないと使えないカード。半ばブラフだったか。

 

「そして、2体以上の効果、1枚ドロー。そしてターンエンドだ」

 

初手の回りは上々、これなら即殺されることはないはずだ。

白竜の忍者と伏せカード。この布陣なら。

 

 

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TURN 2(EP)

 

レジ―・マッケンジー【天使族】

    - LP 4000

    - 手札 2

    - モンスター

    - 魔・罠

        《ホーリー・サンクチュアリ》

 

鷹城久遠(TP)【冥界軸最上級多用】

    - LP 4000

    - 手札 2

    - モンスター

        《白龍の忍者》(攻2700→2200)

    - 魔・罠

        《冥界の宝札》

        《アドバンス・ゾーン》

        伏2

----------------------------------------

 

「私のターン、ドロー!!」

 

さて、レジ―のターン、わざわざサンクチュアリを発動したんだ、このターンに攻めてくるだろう。

こちらのフィールドは攻撃力が下げられた忍者。崩される事こそないものの、超えられることくらいは覚悟しなくてはならない。

 

「私は《光神テテュス》を攻撃表示で召喚ヨ。レベルは5だけどサンクチュアリの効果で生贄はいらないワ。」

 

    《光神テテュス》Lv5/光属性/天使族/攻2400/守1800

 

上級クラスがポンポンと出てくる。これが天使族の怖さである。弱体化効果もあり、忍者の攻撃力は超えられてしまった。

 

「バトル!テテュスでそのニンジャを攻撃するわ」

「リバースカード、永続罠《安全地帯》を《白竜の忍者》を対象にして発動。そして安全地帯の効果、対象にしたモンスターは戦闘、カード効果で破壊されず、相手のカード効果の対象にならない」

「クッ!でもダメージは通るワ」

「200ダメージか……仕方ない……っ!!?」

 

微量なダメージを覚悟していた久遠を襲うのは想定以上の痛み。

体を引き裂かれるのとはちょっとだけ違う、いうなれば、魂に直接響くかのような痛みである。

これはもう、ソリッドビジョンのフィードバックシステムに出せる痛みの量ではない。

 

「ぐ……あ……ぎ……っ!!何だ……これ……は……」

「言い忘れてたワ、闇のゲームで受けたダメージは現実のものとなる。半端な覚悟だと最後まで耐えることはできないわヨ」

 

    鷹城久遠:LP 4000 → 3800

 

「ったく……やっぱり説明が足りてないじゃないか……」

「ごめんなさいね。私はカードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

想定外のダメージは受けてしまったが、まだ大丈夫。

軽微なだけあって、痛みも比較的早く引いた。

これ以上のダメージを受けるとどうなるか……考えたくもないが。

 

「俺のターン、ドロー」

 

この手札なら……行けるか?

相手の対応次第だが、このターンで倒しきれるかもしれない。

 

「俺は手札から《クイック・シンクロン》を特殊召喚、このカードは手札のモンスター1体を墓地に送り特殊召喚できる。手札にある2枚目のレベルスティーラーを墓地に送り守備表示で特殊召喚、そして墓地のレベルスティーラの効果、クイック・シンクロンと白竜の忍者のレベルをそれぞれ下げ、守備表示で特殊召喚する」

 

    《クイック・シンクロン》Lv5/風属性/機械族/攻 700/守1400

    《レベル・スティーラー》Lv1/闇属性/昆虫族/攻 600/守 0

 

 

「何度も何度も……鬱陶しいわね!!」

「2体のスティーラー、クイックを生贄に、来たれ、《神獣王バルバロス》」

 

    《神獣王バルバロス》Lv8/地属性/獣戦士族/攻3000/守1200

 

「3体生贄!!?」

「バルバロスは3体生贄に捧げ召喚することができるモンスター、そしてこの召喚方法で召喚したときにのみ発動する効果がある。その効果は、相手フィールドのカードの全破壊だ。俺はチェーン1に破壊効果、チェーン2に冥界の宝札の効果を入れる。これでカウンター罠もバルバの効果には合わせられない!」

「くっ!!フィールド全破壊効果ですって!?私はさらにチェーンを重ねる。リバースカード、罠発動、《神の城門》!!《ホーリー・サンクチュアリ》を墓地に送る!!」

「冥界の宝札で2枚ドロー、そしてバルバロスの効果!相手フィールドを蹂躙しろ!!」

 

3体の生贄を得て本来の力のすべてを解放したバルバロスが相手のフィールドの全てを破壊しつくす。

相手のフィールドが焼け野原と化した今、相手の身を守るものは何もない。

 

「とんでもないわネ。これで2体のモンスターでダイレクトアタック?」

「安全地帯の効果対象になってるモンスターは直接攻撃できないから白竜は攻撃できない」

「ならスティーラーを蘇生して攻撃する?それでも削りきれるわよ」

「お前ポーカーフェイスが下手だね……スティーラーを攻撃表示で残させたいんだろうが、乗ってやるわけがない。《神の城門》発動してたんだろ?神の城門の効果は発動時にホーリーサンクチュアリを墓地に送り、このターン受ける戦闘ダメージを半分にする、だ。ならこのターンで削りきるのは無理じゃないか。」

「……くっ……きちんと見てたのね」

「当たり前だろう、バルバロスの効果で安心していい決闘じゃねーんだ、これは」

「そうね、よくわかってるじゃない」

「でも与えられるダメージは与えておく、バトル、バルバロスでダイレクトアタック!」

「くっ……ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

   レジ―:LP4000 → 2500

 

今この場ではあの時久遠が受けた以上の衝撃を受けているのだろう。

しかし、今はそのことに構っている場合じゃない。

相手はこれを知っていて挑んできた敵だ、少なからず覚悟はあったはずだ。そんなのに構ってられる程、余裕がある立場じゃない。

 

「メイン2、バルバロスのレベルを2下げ、2体のスティーラーを特殊召喚、両方守備表示。カードを1枚伏せる。」

 

バルバロス以外は守勢を保っておく。

白竜の忍者がある以上、致命傷にはならないはず。桜花、轟龍が怖いといえば怖いが、天使に縛ったデッキなら出てくる可能性は高くない……というのは希望的観測に過ぎないか。

 

「エンドフェイズ、アドバンス・ゾーンの効果発動、1体以上の効果はお前のフィールドにカードがないため発動しない、2体以上の効果で1枚ドロー、3体以上生贄の効果で墓地のモンスター1枚を手札に加える、俺はトレード・インで捨てた《青氷の白夜龍》を手札に戻す。ターンエンドだ」

 

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TURN 4(EP)

 

レジ―・マッケンジー【天使族】

    - LP 2500

    - 手札 1

    - モンスター

    - 魔・罠

 

鷹城久遠(TP)【冥界軸最上級多用】

    - LP 3800

    - 手札 3

        《青氷の白夜龍》

    - モンスター

        《白龍の忍者》(LV6:攻2700)

        《神獣王バルバロス》(LV6:攻3000)

        《レベル・スティーラー》(守0)

        《レベル・スティーラー》(守0)

    - 魔・罠

        《冥界の宝札》

        《アドバンス・ゾーン》

        《安全地帯》

        伏2

----------------------------------------

 

「くっ……私のターン、ドロー!!、さらに《強欲な壺》を発動して2枚ドロー!」

 

カードを引いた瞬間、レジ―の表情が一気に変わった。

あの表情は……切り札を引いたのか。

 

「私は墓地のサンクチュアリを除外して、《神の居城-ヴァルハラ-》を発動、ヴァルハラの効果は1ターンに一度、手札または墓地から天使族を特殊召喚できる効果。私は手札から、最強の天使を呼び寄せるわ!!来たれ、《The splendid VENUS》!!!」

 

    《The splendid VENUS》 Lv8/光属性/天使族/攻2800/守2400

 

現れたのは金色の鎧をまとった4翼の天使。最強の天使とレジ―が豪語するだけはある。その神々しさはまさに天使を象徴するのにふさわしい。

 

「VENUSは世界に1枚しか存在しないプラネットシリーズの一角、半端な神の僕など真なる神の使いの前ではゴミの様なもの。VENUSの効果、VENUSがフィールドに存在する時、天使族以外のモンスターの攻撃力と守備力は500ダウンするわ!!」

 

    《白龍の忍者》(LV6:攻2700→2200)

    《神獣王バルバロス》(LV6:攻3000→2500)

 

「これでバルバロスの攻撃力はVENUSを下回った。バトル!!VENUSでバルバロスを攻撃!」

「罠発動、《ガード・ブロック》この戦闘でのダメージを0にして1枚ドローする」

「しかし、バルバロスは戦闘破壊される。たった300のダメージのために1枚のカードを使うのはプレイミスじゃない?そんなに闇のデュエルの痛みが怖いの?」

「…………………」

 

全く怖くないといえばウソにはなるが、今欲しいのは1枚でも多くの手札。

だから1ドロー効果を持つガードブロックを敢えて発動したのである。

相手の対応次第にはなるが……次のターンに、切り札を出す準備はできている。

 

「まぁいいわ、私はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー。なあ……」

「あら?今更になって命乞い?聞き入れる気はないケド?」

「聞きたいのは楓……神倉のことだ。お前のターゲットは最初っから俺なんだろう?1/10とはいえ、わざわざ巻き込む対象でもないのにこんなことに巻き込んだ理由は何だ」

「カエデ・カミクラはこの学園内で最もあなたに近しい生徒だと聞いたからよ。そのカミクラを傷めつければあなたは必ずこうしてノコノコと現れるはずだと思っていたから」

「つまり楓の件については完全なとばっちりなんだな?」

「そうね……そういうことになるわね」

「あと、もうひとつ」

「ナニ?質問が多すぎる男は魅力に欠けるわよ」

「聞きたいのはルールの再確認だ。この闇の決闘において内外の不干渉は本当なんだな?」

「本当よ。だから貴方はこのフィールドの中でVENUSにいたぶられることになるの」

「そうか……」

 

ならよかった。この隔離された場でなら。そんなどうでもいい理由で楓を傷つけたお前相手なら……。

一切の容赦をせずに『あいつ』を出していいんだな。

もう……お前に勝利の目はないぞ。覚悟しておけ。

 

「俺はスティーラー2体を生贄に、《青氷の白夜龍》を召喚、攻撃表示だ」

 

    《青氷の白夜龍》Lv8/水属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

    →攻2500/守2000

 

「威勢良く出したはいいけど、VENUSは超えられないわよ」

 

今は……そんな挑発もただただ滑稽な虚勢にしか映らない。

もう、『異端』が怒りを覚えた時点で、ゲームエンドはカウントタウンを迎えている。

 

「……続ける。冥界の宝札で2枚ドロー。リバースカードオープン、永続罠《メタル・リフレクト・スライム》を発動、自分フィールドにレベル10、守備力3000のモンスターとして特殊召喚、レベルを2つ下げ、墓地のスティーラーを2体、特殊召喚」

「いつまでも数だけは減らないわね……」

「そして魔法カード《二重召喚》を発動、このターン、俺はもう一度通常召喚することができる。俺は……メタルリフレクト、2体のスティーラーを生贄に……捧げる」

「また3体生贄ですって!?」

「ああ。でもバルバロスじゃあない。俺が召喚するのは……コイツだ」

 

カードをデュエルディスクに読み込ませる。

その瞬間、回りを包み込む闇の決闘による嫌な空気とは明らかに異質な空気が、一瞬にして当たり一面に広がる。

闇の決闘のフィールドによって埋め尽くされていた憎しみ、悲しみ、それらの負の感情ではない、ただただ圧倒的なまでの力によるもの。

それを知るのはいずれも『伝説』に座する決闘者たち。この圧倒的な力を攻略できたのはその『伝説』の頂点のみ。

その力が、『異端』を主にこの場に現れる。

 

―― 顕現せよ《オシリスの天空竜》

 

闇の中から、赤色の巨大な竜がその姿を現す。

その姿は、まごうことなき、神の一角。

 

「そ……そんな……オシリス……神のカード……あり得ない。あれは、決闘王だけの……」

「そうだな。でも、ここに、それがいる」

 

目の前の現実は、それがまがい物などではないことを示している。

 

「あなたは……一体何なの!?」

「知らないよ。俺が知りたいくらいなんだ。なんでこんな力を持ったか、どうしてこんな力なのか。なんで俺なのか……全部わかってないんだ。」

 

それはあの日から求めていた答え、未だ異端に目覚めて4年、手がかりのかけらもつかめない、謎。

 

「お前なら、お前たちならそれを知ってると期待してたんだが……、やっぱり末端じゃ解らないか」

「こんな……こんな……」

「もうこの決闘で得るものはない……か。楓の件も闇のゲームのリスクとやらで負わせられそうだし、終わらせようか。」

 

何よりも、今この場には目の前の相手を蹂躙せんとする『異端』が一人。

そして『異端』につき従う神が1体。

全ては……『異端』を敵に回したが故の罰。

 

「続ける。冥界の宝札の効果で2枚ドロー、そしてオシリスの攻撃力は俺の手札の枚数×1000になる。今俺の手札は6枚、よって攻撃力は6000だ。ついでに言うなら神にモンスター効果は効果を及ぼさない、よってVENUSの攻撃力低下はオシリスには無効となる」

「攻撃力、ろ……6000!?」

「バトル!!」

「と、罠発動!《威圧する咆哮》このターン相手は攻撃宣言ができない」

「なるほど、俺に対しての効果だからこのターン攻撃はできないな。ではメイン2に移行、カードを2枚伏せる。青氷の白夜龍のレベルを2下げ、スティーラーを2体、守備表示で特殊召喚、エンドフェイズ、アドバンス・ゾーンの効果、セットカードはないため破壊しない、1枚ドロー、墓地からバルバロスを手札に戻し、ターンエンドだ」

 

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TURN 6(EP)

 

レジ―・マッケンジー【天使族】

    - LP 2500

    - 手札 0

    - モンスター

        《The splendid VENUS》(攻2800)

    - 魔・罠

        《神の居城-ヴァルハラ-》

 

鷹城久遠(TP)【冥界軸最上級多用】

    - LP 3800

    - 手札 6

        《神獣王バルバロス》

    - モンスター

        《オシリスの天空龍》(攻6000)

        《白龍の忍者》(LV6:攻2700→2200)

        《レベル・スティーラー》(守0)

        《レベル・スティーラー》(守0)

        《青氷の白夜龍》(攻3000→2500)

    - 魔・罠

        《冥界の宝札》

        《アドバンス・ゾーン》

        《安全地帯》

        伏2

----------------------------------------

 

「わ……私のターン……ドロー」

 

オシリスのプレッシャーに完全に気圧されているレジ―。

このターン、できることはもうそう多くはなさそうである。

唯一可能性をもたらせるとすれば、あの手札だが……。

 

「ヴァルハラの効果発動、墓地からテテュスを守備表示で特殊召喚」

「オシリスの効果、召喚、特殊召喚されたモンスターが守備表示の時、守備力を2000下げ、0以下になった場合、破壊する。テテュスの守備力は1800。よって破壊される。召雷弾!!」

 

オシリスの二つの口の内、閉じていた口が開き、テテュスを攻撃する。光の球がぶつかり、爆発が起こる。煙が晴れたその跡には、何も残らない。

 

「私は……Venusを守備表示に変更、カードを1枚伏せて、ターンエンド」

「エンドフェイズ、リバースカードオープン。速攻魔法《サイクロン》セットカードを破壊」

「ミラーフォースが……」

 

最後の希望、それが罠だった時点で、最早可能性は潰えていた。

どの道、罠など神には効きはしないのだが。

 

「俺のターンだ。ドロー。もう勝負は決した……が、お前にはもう一つ絶望を見せてやる」

「これ以上……何を……」

「俺はフィールドにいる2体のスティーラーを生贄に捧げ……召喚する。来たれ、最強の天使、《The splendid VENUS》」

 

    《The splendid VENUS》 Lv8/光属性/天使族/攻2800/守2400

 

久遠の場に、レジ―の場にいるものと同じ天使の姿が降臨する。

そして、それを見たレジ―は絶望的な表情を浮かべる。

 

「バ……バカな……あり得ない。プラネットは世界に1枚だけしか存在しないカードのハズ……なのに……何故……お前が……」

「さあ?説明できないし、そもそもする気もねぇよ。冥界の宝札で2枚ドロー。行くぞ、覚悟はいいな?」

「あ……あ……。」

「バトル!こちらのVENUSでレジーのVENUSを攻撃!」

 

最強の天使によって破壊される最強の天使、後に彼女を守る者は何一つとして存在しない。

 

「終わりだ。オシリス、ダイレクトアタック!!超電導波サンダー・フォース!!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ………」

 

レジ―:LP 2500 → -5500

 

「神の罰は、なしにしておいてやる。自分で吹っ掛けたリスクを自分で負うんだな」

 

勝者:鷹城久遠

 

 

----------------------------------------

 

レジ―の敗北と同時に徐々に周囲の霧が晴れていった。

辺りに広がるのは、夜の校舎。

どうやらきちんと戻ってこれたらしい。

 

対戦相手であったレジ―の方を向くと……未だに立ちつくした状態のままである。

闇の決闘のリスク。あれは進んで受けたいような代物では断じてなかった。

たった200のライフロストですら、あそこまで嫌な感触を久遠に与え、苦しみをもたらした。

総計で10000近いダメージを受けたレジ―がどのようなダメージを負ったかなんて想像もしたくない。

 

一体この相手はなんだったのだろうか。末端だったため詳細をうかがい知ることは出来なかったが、その本体は久遠の『異端』について知っている部分もありそうだった。

そして闇の決闘、これから先、真実を突きとめようと思うなら幾度となく触れることになるのだろう。

それは……行くも戻るも苦難の道。

それでも、やっと見つけた手がかりである。今はまだ細い蜘蛛の糸の様なものでも、これまでかけらも見つけることができなかった自身の異端を突き止めるヒントが、ようやく現れたのである。

その糸を、手繰らない選択肢は久遠にはない。

 

とりあえず、デュエルを終えてからピクリともしていないレジ―に近づく。

久遠が意識を確認しようと肩に手をやると。

そのまま糸が切れたかのように、レジ―は床へと倒れ落ちる。

 

「お、おい。大丈夫か!?」

 

倒れたレジ―を揺するが、目を覚ます様子はない。

頭を打つような倒れ方でなかったため、とりあえず外相は問題ないと思うのだが。

しばらく起こそうとしてみるも、全く反応がない事から保険医を読んで対応を仰いだ方がいいかと判断し、その場を離れようとするも。

 

その瞬間。

 

「そこで何をしているっ!!」

 

誰もいないはずの校舎の中で、久遠に声をかけたのは。

 

「校長……」

 

アカデミア校長、播磨であった。

 

 

 

 

 




そこにあったのは、悪意だった。

すべてを知ったのは、すべてが終わった後。

待ち受けるのは救済という名の制裁

絶望的な、逃げ道のない再びの負け戦。

相対する『異端』は……。


次回、「仕組まれていた罠」









原作効果のご紹介です。

レジ―さんの天使デッキより。
漫画GX版は効果違うのが多いなぁ……

《エンジェル・リング》
フィールド魔法
フィールド上に存在する天使族モンスターの攻撃力は200ポイントアップする。

天使版の微強化フィールド。
実践的ではないでしょうねぇ……単体では。

《ヘカテリス》
フィールド魔法《エンジェル・リング》が破壊された時、デッキからフィールド魔法《ホーリー・サンクチュアリ》を手札に加える

ヴァルハラサーチのおかげで召喚されることが激減したお方です。
微妙に攻守も異なります。


《ホーリー・サンクチュアリ》
フィールド魔法
このカードが存在する限り、フィールド上に存在する
天使族モンスター以外のモンスターの攻撃力は500ポイントダウンする。
また、天使族モンスターを召喚する場合に必要なリリースは1体少なくする。

地味ーに厄介です。
VENUSの弱体化+天使用歯車街を内包してる……これがなかったら久遠は無傷だったでしょう。

《神の居城-ヴァルハラ-》
発動条件が厳しくなった代わりにフィールドにモンスターが居る必要がなくなったのと墓地からの特殊召喚が可能になっています。
正直OCGの方が使いやすいと思うなぁ……。


《オシリスの天空龍》
OCGとの違いは、魔法、罠、効果への耐性があること、招雷弾が守備にも対応していることでしょうか。上級魔法は区別ができないのでいっかーと。
原作神はすげーつえーと思ってしまうのに、OCGはなんでか対策されてしまいそうな感じなんですよねぇ……。
さり気に冥界軸との相性は良かったです。


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