遊戯王GX-至った者の歩き方-   作:白銀恭介

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交流戦、異国からの来訪者と纏わる悪意

某日、某所

 

――それでは、進捗は滞りなく進んでいるということだな

「はい、万事ぬかりありません」

 

――具体的にはどうする

「一時的に交流戦の場から奴を引き離します。交流戦で何が起こったかを知らせず、そのまま『闇のゲーム』に巻き込んでやろうと思います。御子息をお借りすることになりますが」

 

――構わぬ、手札を切るに値するリターンが期待できる

「それだけは、保証できると思います」

 

――しかし、勝てるのか?

「勝つ必要はありません。ことゲームにおいて最強でも、所詮は奴も一学生に過ぎません。それ以降の道筋は考えております。既に奴は袋の鼠です」

 

――しかし、あのような者がわれらの目の前に現れるとは

「ええ、まさか向こうの方から転がりこんでくれるとは、僥倖でした」

 

――期待しているぞ。精々私の期待を裏切らないことだ

「はい、勿論です。ミスター――」

 

 

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交流戦選抜会から1週間、すなわち『1年生エース』神倉楓が『皇帝』丸藤亮を下した日から1週間。

話題の移り変わりとは早いもので、アカデミアの話題は次に行われる交流戦へと次第に移って行った。

実際に出場する当人たち以上に、回りの方がそわそわしている空気の中で、しかしながら鷹城久遠は別の問題に突き当たっていった。。

 

「はい?来週ですか?」

『ええ、先方からの要望で、どうしてもそれ以外には日程を組むことができないと』

「このリーグばっかですよ。こっちの都合の悪い日程ばっかり狙ったようにチャンプ戦の日程組んでくるの」

『重々承知しています。しかし、久遠さんは来週のこの日なら問題ないのでは?』

 

久遠の電話の相手はくプロデュエリスト『久遠帝』のマネージャの那賀嶋(なかじま)

表立ったプロデュース(とはいえほとんどは試合)の管理は海馬社長が行っていたが、それでも細かな管理についてまで手が回る程暇な人ではないため、スケジュール管理を始めとするマネージング業務を行ってくれているのが彼女である。

その那賀嶋からの連絡の内容は、久遠帝が挑戦するリーグチャンピオン戦の日程が決まったということであった。

ただし、那賀嶋が「問題ない」と言ってきた日は――

 

「問題ないって言っても、ほら、例のアメリカアカデミアとの交流戦の日ですよ」

『と言っても、出ないんですよね?でしたら不参加でもいいじゃありませんか』

「確かに出ないんですけど……」

 

そう言われてしまうと確かに正論ではあるのだが、正直腑に落ちない部分は多い。しかし、今回ばかりはそうもいかない理由がある。

 

『もうチャンピオン戦の不成立4回やっていますから。これ以上受けないとチャンピオン戦への挑戦の意思なしとみなされてしまうでしょう』

「そうなるとボスは怒るよね」

『烈火のごとく怒りだすでしょうね』

「ですね……わかりました。仕方ありません。アカデミア側の許可は取っておいてください」

『取得済みです』

「はやっ!!」

 

ということはもうすべて織り込み済みの話なのか、と久遠は諦める。

そこまで手はずよく進めているということは、もうボスも承認しているのだろう。

 

『ただ……』

「ただ?」

 

何だろう、と一瞬違和感を感じる。

彼女がこんな風に言い淀むのは珍しい。

 

『異様にレスポンスが良かったんですよね。普通なら打診しても関連への調整をしてからの解答なのでもう少し時間かかるものなのですが……』

「レスポンス……ですか」

 

久遠の中で校長の像が浮かぶ。海馬社長の話では名前は播磨だったか。初見でのイメージはやり手のビジネスマンだったが、歓迎会の後に一瞬見せた顔は、それ以外の何かを感じさせた。未だに得体が知れない部分は多いものの、少なくとも自身に対して好意的でないことだけは解る。

 

「なんでかあまり気に入られていないようですからね。アカデミアの重要なイベントにちょっかいかけないと思ったら快諾したって話かもしれませんね。」

『久遠さん、アカデミアではそんなに問題児なんですか?』

「いえいえ、至って目立たない一生徒ですよ」

 

大ウソである。入学初日から悪目立ちしている。

しかしその辺はプロ契約以来の付き合いとあってある程度理解を示してくれるらしく、話を修正しにかかる。

 

『まあいいです。スケジュールは決定事項なので、準備しておいてください』

「解りました。で、相手は誰でしたっけ?」

『機械族リーグの現チャンプは、相川選手ですね。サイバー流の師範代です』

「どっかで会ったことあるかな?」

『1年8カ月と29日前大阪での大会に一緒に参加していたことがありました。残念ながら対戦はありませんでしたが』

「うん、ごめん。聞いといて何だけどなんで一瞬でそこまで詳細なデータが出てくるかわからない」

『マネージャとしての嗜みです』

「マジすか。すげーなマネージャの嗜み」

 

付き合いは長いが、相変わらず底知れない人である。

新人に毛が生えた程度のプロのマネージャなんてやってていい人ではないのではなかろうかと若干不安にもなってくる。

 

そうしていくつかの連絡事項をやり取りし、久遠は電話を切る。

今久遠が居るのは勉強会会場の隅の方。代表生徒2名が参加しているため、今はそのデッキ調整に余念がないようだった。

その合間に那賀嶋から連絡があり、久遠はいったん席を外したのである。

連絡を終え、戻ってみると吹雪が話しかけてくる。

 

 

「やあ、久遠くん。電話は終わったのかい?」

「あ、すみません、席はずして。終わりました。調整いいんですか?」

「何か回りから『自分のカード入れてくれ』みたいなプレッシャーが強くてね。やめたよ」

「何ですかそれ?」

「さあ?サイバーエンドを僕のデッキに入れても召喚方法がないのにね?」

 

あの人か。意外にキャラに合わないことをするものである。

見ると楓もデッキを仕舞っている。同じような目に会ったのだろう。

微妙に明日香から距離を取っている。その明日香の手にはサイバーブレイダー。

当然ながら楓のデッキとはシナジー―ゼロである。というか吹雪さんのケースと同じく召喚方法がない。

 

「で、電話の内容は何だったの?」

「アカデミア対抗戦と久遠帝の試合がブッキングだそうです」

「あれま、じゃあ見られない?」

「可能性が高いでしょうね。機械族リーグのチャンピオン戦なんですが、何度か断ってるんで、今度ばっかりは断れなさそうです」

「そっか……」

 

何故か残念そうに見えるのは久遠の気のせいか

理由に心当たりがないのでそれを気のせいかと判断し。

 

「まあ対抗戦の方は参加者でもないので仕方ないですね。仕事ですし」

「許可は出てるの?」

「校長からは出てるそうです。後で確認いるとは思いますが。」

「そう……僕はともかく神倉君はがっかりするかもね?」

「後で結果は見させてもらいます」

 

少々残念そうにする吹雪に、できる限りのフォローは入れる。しかし、一旦沈んでしまった空気はその日のうちには戻ることはなかった。

交流戦前の勉強会は、そんな微妙な空気のままに終わった。

 

 

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交流戦の前日、生徒一同は講堂へと全員集められた、

学生一同は何の目的で集められたかを知らされておらず、本日の集会の目的を測りかねていた。

 

「しかし、なんなんだ? 生徒に目的も知らせずに集めるなんて」

「明日の説明会とかそんなんじゃないかな?」

 

隣に座りぶちぶちと愚痴っている万丈目の問いに答える。

久遠としては不参加が決定しているため、あまりテンションが高くない。

 

 

あの日職員室に正式に不参加の旨を申請に行ったらあっさりと話が通った。

普段申請をする際には最低1週間以上前に申請をするのが通例なのに対し、即許可が下りる状況にも不思議さを覚えたが、その時点では事前に那賀嶋に聞いていたため、特に問題にはしなかった。

しかし、こうしてイベントの前日になって生徒に対して大々的にアピールされる場が準備されると、その時感じた違和感が再び頭をもたげてくる。

 

――まるで、久遠をこのイベントから排除しようとしているかのような

 

一瞬考えたその考えを『馬鹿な』と振り払う。

校長にこそ好かれていないであろうものの、そこまでされる謂れはない。

 

気を取り直し、前方編と注目する。

前日の集いは、今まさに始まろうとしていた。

 

 

「さて、皆さん。お疲れ様です。今日集まっていただいたのは他でもありません。明日に控えた交流戦に向けて、当アカデミアに来ていたいたアメリカアカデミアの代表生徒をご紹介したいと思います。」

 

壇上に立つ校長はいつもと変わらない調子で話し始める。

その様子にいつもと違った様子はない。

やはり先ほどのは考えすぎか、と久遠は思いなおす。

そして校長の後ろに控える白い制服の男女が2人、おそらくはあれがアメリカアカデミアの代表生徒なのだろう。

 

「本年の代表生徒は2名、まずはデイビット・ラブ君」

 

校長の後ろに控えていた男子生徒の方が1歩前に出る。自分に相当な自信があるのだろう。隣の奴と同じような空気を感じる

 

「島国のデュエリスト諸君、meのデュエルを見れることを楽しみにしていてくれ給え」

 

自信家の程は隣の奴以上らしい。珍しく万丈目が

 

「何だ、イヤミな奴だな」

 

と同感できることを言ってくる。

入学試験のころのお前を見せてやりたいとこそ思ったが、一応スルーしておく。

 

「そして、もう一人はレジ―・マッケンジー君」

「Hi, ジャパンアカデミアの皆さん。ヨロシク。マックと呼んでネ」

 

もう一人の女子生徒が前に出つつ、挨拶をする。

さっきのデイビットよりもとっつきやすい感じではある。

 

「おおっ、イイね!マックとデュエルできるなら代表になった甲斐があるってもんだ」

「いつから居たんですか……てか、3年生はあっち……」

「小さい事は気にしない、せっかくの美人を近くに見れるんだ。それに学年とか階級の壁を取っ払いたいと言ってた君らしくないぞ」

「いや、規則は別でしょうに……」

 

いつの間にやら近くに座っていたテンション高めの吹雪さん。

本人はいつだったか愛の伝道師なんて言っていたが、ご本人の恋愛事も大好物らしい。

というか、普通に考えたら……

 

「明日の交流接はデイビット・ラブ君VS天上院吹雪君、レジ―マッケンジー君VS神倉楓君の組み合わせで実施されます」

 

湧き上がる大歓声

そして後ろで露骨にへこんでいる先輩1名。

そりゃ普通に考えたら男子対男子、女子対女子になる。

それに気づかない程にテンションが上がっていたのだろうと思うと失礼ながら若干面白い。

 

「それでは当校の代表とアメリカアカデミアの代表により、素晴らしい決闘が行われることを期待いたします」

 

そのまま会はお開きになる。

どうやら今日の目的は交流戦の相手のお披露目だけだったようだ。

 

「(さて……と)」

 

席を立ち、退出しようとしたその時

 

 

―― 一瞬、不意に悪意の籠った視線を感じ

 

「!!?」

 

不意に振り返ってみても、視線の先にはもうそこには誰もいない。ただ、壇上があるのみ。

しかしながらそこにいたはずだったのは……言うまでもない。

 

何かが……起ころうとしている。

自分のあずかり知らぬところで……何かが……。

 

 

 

----------------------------------------

 

「ラスト!サイバー・エルタニン。ダイレクトアタック!!ドラコニス・アセンション!!!」

「ぐあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

『決まったーーーーっ!!久遠帝選手、今回も圧倒的な力で勝利っ!!これで10リーグ同時王者の座を獲得、歴代最多記録を更新だーーーーーーーっ!!』

 

 

 

勝利者インタビュー 久遠帝選手(総合23位 他、フリー、KC、I2)

 

――ナイスゲームでした。

「ありがとうございます」

 

――相川選手はいかがでしたか。

「これぞサイバー流という感じの相手でしたね。何人かサイバー流の人と決闘してきましたけど、トップクラスでした」

 

――これで最多王者の記録をさらに一つ伸ばしたことになります。

「何とかやってこれている状態です。まだ伸ばせるかどうかは分かりませんが、精一杯やっていきます」

 

――今後はどうしていく予定でしょうか。

「今は一歩一歩所属しているリーグの順位を揚げていくだけです。海外挑戦のお話もいただいていますが、現時点ではまだ考え中です」

 

――ありがとうございました

「これからもよろしくお願いします。それでは」

 

 

 

 

敗退者インタビュー 相川選手(総合8位)

――お疲れ様でした

「はい」

 

――今日の試合はいかがでしたでしょうか

「色々予定外だったです……。いや、ほんと色々……思うようにはいかなかったです」

 

――そうですか、久遠選手はいかがですか?

「いや、強かったです。彼がプロになってからずっと知っていますが、まさかこんなに早く駆けあがってくるとは……」

 

――今後はどうしていく予定でしょうか

「まずはリベンジの機会を目指します。全てはそこからです。今度は負けません」

 

――ありがとうございます

「はい……」

 

 

----

 

 

次の日のリーグチャンプ戦を終え、久遠はアカデミアへの帰路を急ぐ。

リーグチャンプ戦だというのに試合に全く集中できていなかった。

気になっているのは、交流戦に出てきた2人、デイビット・ラブとレジ―・マッケンジー、そして去り際に感じた悪意のある視線。

 

あれはいったい何だったのか。

これまで感じたことがある悪意とは異質の、正体がわからない底知れない冷たさを持つ視線。

果たしてそれは人が出すことができるものなのか。

その正体不明さが、正体不明の不安へと変わり、久遠に帰路を急がせる。

もうどんなに急いでも間に合わないことはわかってはいるのだが。

 

 

定例の報告を終え、アカデミアに到着する。

 

「ありがとうございます」

 

と運転手に礼を言い、車を降りるといつもと空気が違うのを感じる。

言葉で表すのは難しいが、強いて言うならアカデミア自体がざわめいているような……。

すでに交流戦は終了している時間のため、自寮に戻り、偶然そこにいた温田を捕まえる。

 

「おっす、お疲れ」

「おお、お疲れ。今日はどうだったん?」

「ん、まぁ勝ったよ。しかし、どうしたの?何か全体的にざわざわとしているけど、交流戦で何かあった?」

「ん……ああ……何と言った方がいいのかな?俺も状況がよくわかっていないんだけど……」

「?」

「交流戦は、アカデミア側が勝ったんだよ。天上院先輩も、神倉さんも。でも、何と言ったらいいのかな?何かあのデュエルは変だった。ダメージを受けた時に二人ともとっても苦しそうにしてたから」

 

温田の情報だけでは今一つ何を言いたいのかがわからない。

ふむ……これは当事者の吹雪さんと楓にでも聞いてみないとわからないか。

そう思い至り。

 

「よくわからないんだが……吹雪さんか楓は……」

「吹雪さんは……どうだろう?もう自室に戻ったと思うけど、神倉さんは、保健室かな」

「保健室!?なにがあったんだ?」

「だからよくわかってないんだよ」

 

だめか、ここに居ても多分もう情報は増えない。

仕方がないので現状確認に努めよう。

 

「……わかった。ありがとう。まずは楓の方を確認しに行くよ」

「ごめん、俺もよくわかってないんだ」

「いいよ」

 

若干申し訳なさそうな温田と別れ、後者の方へと移動する。

もう校舎は閉まっているいるかと気づいてしまったが、気付いたころにはもう校舎にたどり着いてしまっていた。

というか、事情を知っている人を探すなら寮内に居るであろう吹雪さんのところに行けばよかったのだが、保健室に送られた楓の方が気になっていたのだろう。

到着してしまったのなら仕方ない、扉を開けてみてダメなら戻るかと何気なく扉へと手をかける

すると。

 

「(あれ?開いてる)」

 

不思議と扉に鍵は掛かっていなかった。

校舎の中は静寂に包まれてはいるが……それにも若干の違和感を感じる。

それは……濃度こそ違えどあの日に感じたものと同質のもの。

しかし、ここまで来たのだ。戻るということは考えられない。せめて状況だけでも確認はしたい。

保健室に到着し、ノックをして扉を開けると。

 

「もう生徒は寮に戻る時間よ。あら?鷹城君」

「夜分にすみません。神倉が保健室に送られたって聞いて」

「あら……そうね。あなたは今日いなかったから」

「ええ、今さっき帰ってきたところです」

「そう、お疲れ様。神倉さんだけど症状としては軽い貧血ね。多分明日の朝には起きるでしょう」

「そうですか、よかった」

 

とりあえず深刻な事態ではないことでいったんは安心した。

しかし、そうなるときになるのはその原因であって。

 

「そもそもどういう経緯でこんなことになったんですか?」

「それは……私にもよくわかっていないの」

「またですか……」

「また?」

「寮に戻った時に同級生に話を聞いたんですが、その時も『よくわからない』という話でした。その時に神倉の話を聞いてこっちに来たのですが……」

「そういうことなのね」

「だた、一つはっきりとしておきたいのですが……」

「何?」

 

そこで久遠は疑問をぶつける。

 

「デイビット・ラブ、レジ―・マッケンジー。楓の件に関してはこの二人が関わっていませんか?」

 

あの日感じた違和感、そして起こってしまった小さな事件。

そこから導き出される関連性という細い糸。

 

「楓さんが倒れたのはレジ―さんとの決闘の直後よ。関連性といえばそれだけね」

 

決闘で……気絶。

丸藤戦でもそういうのはあったが、そういうのが早々多発するものではない。

温田の発言、そして楓が倒れたタイミング。そして何度も付きまとう違和感。

それらすべてが彼らのデュエルにつながっている。

それを、偶然と切り捨てるには……あまりにも色々な符号が揃いすぎている。

これは……調べるべきか。

 

「わかりました。今日は帰ります。神倉をよろしくお願いします。」

「ええ、判ったわ」

 

これ以上ここに居てもできることはない。

保健室を出て、学園の入口へと向かい、その道中

 

 

――で、居るんだろう?出てこいよ。

 

そんな久遠の誰ともない相手に向けた言葉に対して

 

「YOUはいつから気付いていたの?気配は消していたつもりだったけど」

「気づかないわけないだろ、普通なら気付かなかっただろうけどな、こんな誰もいないところで隠すにはお前の気配は特異だよ」

「そう……仕方ないわネ」

「で……目的はなんだ?レジ―・マッケンジー」

 

目の前に現れたのは交流戦のアメリカ代表、レジ―・マッケンジー。

こんな日に、こんな時間に、こんな場所に現れること。その全てが異常であるのに、そんなことはみじんも気にした様子がないように見える。

その目は……まるで獲物を見つけた肉食動物の様。

 

「YOUを……貰いに」

「意味がわからねえよ。どういう意味だ」

「YOUが持つ、異端を我が主は求めているのよ。」

「な…………!!どういうことだ?」

 

異端……その言葉をここで聞くとは思っていなかった。

久遠自身ですらその深淵を知らない力を求めてくる。

それを相手は、求めている。

それは……少なからず相手はこれの正体を知っている……ということ。

ギリギリで紡ぎだした平常心の言葉は、それでも動揺を隠しきれなかったようで。

 

「さあ?私もその正体は知らないわ。ただ私の父がそれを求めているというだけ」

「……父?」

「いずれにしても、貴方は逃れられない」

 

――この『闇のゲーム』から

 

その言葉の終わりと共に、見る見るうちに黒い霧のようなものがレジ―から湧き出て、辺りを包みこむ。

それまでかすかに感じていた違和感が一気に気持ち悪さの濃度を増してくる。

その中心に立つレジ―は、この上ない表情を浮かべ、

 

「カミクラはこの1/10でさえ決闘の後には倒れてしまったわ。あなたは、どこまで耐えられるかしら?」

「やっぱり楓が倒れた理由はお前か。なら……手加減してやる道理はねえな」

「手加減なんて始めからできないわ。全力をだしても貴方は私には勝てないもの」

「勝手に言ってろ。終わった時にどっちが後悔してるのか、それはやってみりゃわかることだ」

「強気ね、TVで見るジェントルマンの久遠帝はどこに行ったのかしら」

「久遠帝の正体であることも知ってんのか。敵意を向けてきた相手にふりまく愛想なんて持ち合わせていないだけだ。それに、お前の目的はそんなことじゃねえんだろ?ならもう言葉はいらないはずだ」

「そうね……覚悟はいい?」

「そっちがな」

「「デュエル!!!!」」

 

 

闇のデュエルが、幕を開ける。

 

 

 

 

 

 




異国からの挑戦者に挑まれる久遠

初めて体験する闇の決闘

異端はその力を余すことなく発揮され

そしてその結果もたらされる道筋は…………。

次回「闇の決闘」




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