選抜代表の最後の一席を争う決闘を前に、会場は大いに盛り上がっていた。
三王の一角、『皇帝』丸藤亮。
サイバー流正統継承者ともいわれる天才にして、現学園最強の学生である。
そのプレイスタイルはサイバーエンドを中心にする豪快にして圧倒的なデュエル。それ故に彼の決闘に魅せられる生徒も少なくない。
学内公式戦では三王の残る二名とプロデュエリストの久遠帝以外には二年の後期以降負けがない。三王の残る二名に対してもここ1年の勝率は7割を超える。まさに『帝王』の名に恥じない成績を残している。
相対するは三王に最も近いとされる『新入生エース』神倉楓。
魔法使い族よる大型モンスターの連続攻撃による速攻の餌食になった生徒は少なくない。
新入生歓迎会で『皇帝』にこそ惜敗したものの、その強さは既に1年離れしていることは周知の事実である。
その後、本大会でも入学後わずか一カ月でありながら二年エースの総合4位生徒を倒し、三王に最も近いといわれる評価を現実のものとした。
全体の予想はしかしながら丸藤9に対して神倉1。いずれ届くことこそあるかもしれないが、今の時点では『皇帝』の地位は揺らぐことはないと考えている学生がほとんどであった。
すでに両者はステージの中央に立ち、決闘が始まるのを今かと待っているようである。
その会場の一角で、久遠は今まさに始まろうとしている決闘を見つめていた。
「やあ、鷹城君。ここいいかな?」
「ん?ああ、温田か。どうぞ」
1年生Z組の生徒である彼、温田は新入生歓迎会で一人ぼーっとしていた久遠に話しかけてくれた人物である。その後、久遠の参加する勉強会に加わってくれ、その時に初めてきちんと話をした。
余談ではあるが、サラマンドラをフレイム・ヴァイパーに装備しようとしていたのは彼である。勉強会でその辺を徹底的に
しかしながら、そのおかげで若干成績が向上したらしいとは後日聞いた本人の談。
その温田が突然話題を振ってきた。
「神倉さん、カイザーに勝てるかな?」
「んー……正直まだ五分以上にはならないよ。」
「冷静だな……幼馴染なんだろ?」
「そうだよ。そんで、俺の師匠だ」
「ならさ、カイザーの弱点を教えたり、つえーレアカードあげたり……」
「そんなことしないよ」
「なんで?」
「本人がそれを望んでいないんだ。俺がどうこうする問題じゃない」
楓本人が自身の力で強くなりたいのだから、久遠としてはできることはそう多くない。
丸藤亮に勝ちたいという彼女は久遠に対して「1キル対策を教えてほしい」と頼んできた。
つまりは、本人の中で解決できない部分だけしか久遠に助けを求めないのである。
そんな楓に対してあれこれ口出しはできないし、する気もない。
それが今のデュエリストとしての久遠と楓の関係。
不器用ながらも2人のデュエリストの立ち位置から生まれた現在の関係である。
「何か変な関係だな。」
「まぁそれは仕方ないよ」
4年近く離れていたのである。
今更昔のように無条件で触れ合うようなことはできないし、距離を置くというのも何か違う。
それこそ今更といえば今更なのである。
「お、そろそろ始まるぞ」
そういう温田にならってステージの方へと再度意識を向ける。
挑戦者は、今一度『帝王』へと挑む『1年エース』。
その時は今まさに始まらんとしていた。
「がんばれ、楓」
隣にいる温田にも聞き取ることのできない程度の小さな声で。
久遠はエールを送る。
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ステージの真ん中には、最後の1席を争うことになる2人が立っていた。
「丸藤先輩。よろしくお願いいたします」
「ああ、いいデュエルにしよう」
楓は見る。
『帝王』の呼び名に遜色ない風格を携える目の前の先輩を。
ただ佇んでいるだけでも、威圧感は肌に突き刺さってくる。
しかし、それでも。
今度なら、その頂に手が届きそうな気がしてくる。
目の前の男のはるか先の領域を知るからなのか、多分理性の部分ではその威圧感を恐れてはいない。
そもそも楓が今目指しているのは頂のその先なのだから。今目の前の男がその障害となるなら、突き進むだけ。
――さあ、始めるよ。
会場のボルテージも最高潮だ。だから、会場のどこかにいる待たせ人に。
――だから、私の姿を、見てて。
それを心で伝える。
言葉には出さなくても、それだけで十分だと思えた。
「「デュエル!!」」
『がんばれ』と応援の声が聞こえた気がした。
ほら、願っていれば、彼は返してくれる。
虚構か、現実か、そんなことは解らないけど、重要なのは楓自身が感じ取れたこと。
――最高のパフォーマンスが発揮できそうだ。
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TURN 1
神倉楓(TP)【魔法使い族】
- LP 4000
- 手札 6
丸藤亮【サイバー・ドラゴン】
- LP 4000
- 手札 5
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「先攻は私、ドロー」
手札を見る。悪くはない。まずは場を整えることができそうだ。
丸藤先輩の戦法は基本的に奇襲型。今の手札なら速攻で倒されることはないだろう。
「私は、《王立魔法図書館》を守備表示で通常召喚」
《王立魔法図書館》LV4/光属性/魔法使い族/攻 0/守2000
「そしてカードを2枚伏せてターンエンド」
まずは展開するためのカードを揃えていく。
この布陣なら早々破られはしないはず。
「俺のターン、ドロー」
相手の表情を見るが、あまり表情に感情が現れることがない。
こういう細かい部分でもこの人が一流のデュエリストといえるのだろう。
こうして相対するだけでも学ぶべきところはまだまだたくさんある。
「俺は、永続魔法《未来融合-フューチャー・フュージョン》を発動。自分の融合デッキの融合モンスターをお互いに確認し、決められた融合素材モンスターを自分のデッキから墓地へ送る。発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時に、確認した融合モンスター1体を融合召喚扱いとして融合デッキから特殊召喚する。俺はサイバーエンドを……」
「させません、リバースカードオープン、速攻魔法《サイクロン》を発動!未来融合は破壊されます。これによりデッキからモンスターが墓地に送られることはありません」
危なかった、未来融合でいきなりサイバーエンドを出されたらいきなり場を制圧されることになる。加えて、墓地にサイバードラゴンが落ちると『あの』フィニッシャーが突如飛んでくる。それだけは避けなくてはならない。
「そして、未来融合、サイクロンが発動したことにより、魔法図書館に魔力カウンターが乗ります」
《王立魔法図書館》:MC 0 → 2
今ので分かったことは、今現在丸藤先輩は手札に1枚もサイバードラゴンを持っていないこと。未来融合でサイバーエンドを宣言しようとしていたことからそれは明らかだろう。つまり、しばらくはサイバードラゴンの融合体は出てこなさそうであるが……この人の場合あまりそれは参考にならない。
「む……そう来るか。ならば俺は魔法カード《天使の施し》を発動、デッキから3枚ドローし、2枚捨てる。」
「魔法図書館にカウンターが乗ります」
《王立魔法図書館》:MC 2 → 3
「次に魔法カード《死者蘇生》を発動し墓地の《プロト・サイバー・ドラゴン》を特殊召喚。さらに2枚目の《プロト・サイバー・ドラゴン》を召喚。プロト・サイバーはフィールド上ではサイバードラゴンとして扱われる。俺は魔法カード《融合》を発動する。フィールドに居る2枚の《サイバードラゴン》として扱われるプロトサイバーを融合し、現れろ。《サイバー・ツイン・ドラゴン》!」
《サイバー・ツイン・ドラゴン》LV8/光属性/機械族/攻2800/守2100
フィールドに現れる双頭の機械龍、1ターン目から容赦なく攻め立ててくる。
手札にサイバードラゴンがなくても速攻で召喚してくるのはある意味驚嘆ですらある。
――来るか。
「バトル!サイバー・ツインで魔法図書館を攻撃!」
「リバースカード、オープン。罠カード《和睦の使者》このターン戦闘ダメージと破壊を無効にします。」
「なるほど。ならばバトル終了。俺は魔法カード《タイムカプセル》を発動、デッキからカードを1枚裏側で場外し、2ターン後の俺のスタンバイフェイズに手札に加える。ターンエンドだ」
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TURN 2 EP
神倉楓【魔法使い族】
- LP 4000
- 手札 3
- モンスター
《王立魔法図書館》(守2000、MC3)
- 魔・罠
丸藤亮(TP)【サイバー・ドラゴン】
- LP 4000
- 手札 1
- モンスター
《サイバー・ツイン・ドラゴン》(攻2800)
- 魔・罠
《タイムカプセル》
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「私のターン、ドロー」
さて、初ターンはうまい具合に守れた。以前なら貴重な防御カードを使ってしまったと考えてしまうところだが、久遠との特訓のおかげで、まだ持ちこたえる術は用意できそうだ。
だから、攻勢に回れるこのターンは攻勢に回る。
「私は図書館の効果を発動、図書館のカウンターを3つはずすことで1枚ドローします。ドロー」
《王立魔法図書館》:MC 3 → 0
これで手札は5枚。これだけあれば十分色々できる。
「私は《霊滅術師カイクウ》を通常召喚。さらに装備魔法《魔術師の力》を発動しカイクウに装備。図書館にカウンターが乗ります。そしてカードを2枚伏せます」
《霊滅術師カイクウ》星4/闇属性/魔法使い族/攻1800/守 700
→攻3300/守2200
《王立魔法図書館》:MC 0 → 1
これで攻撃力はサイバーツインを上回った。そして今丸藤先輩のフィールドに伏せカードはない。ならば……攻める。
「バトルに移ります。カイクウでサイバー・ツインを攻撃」
「くっ……」
丸藤亮 LP:4000 → 3500
「そしてカイクウの効果発動します。戦闘ダメージを与えた時、相手の墓地のモンスターカードを2枚除外します。私は2枚のプロトサイバーを除外します。」
先制攻撃は成功、とりあえずはサイバーツインの除去にも成功した。
しばらくは攻勢が続けられそうだ。
「(墓地も手札も数が少ないし、少しくらいは安心できそうね)」
相手が相手だけにまだ安心はできないが、まずは上々。
少しくらいは安心してもよさそうである。
「ターンエンドです。」
「俺のターン、ドロー。そしてタイムカプセルの時は1ターン目を刻む」
そして一瞬で楓は理解する。
帝王が守勢に回ると、すぐさま場は堅牢な要塞に変貌することを。
そして気づくのが遅かったとも後悔してしまう。
「俺は《サイバー・ヴァリー》を守備表示で通常召喚。さらに《機械複製術》を発動。攻撃力500以下の機械族モンスターを選択して同名モンスターを2体まで特殊召喚。俺はサイバー・ヴァリーを選択し、2体のヴァリーを守備表示で特殊召喚する」
「……魔力カウンターが図書館に乗ります」
《サイバー・ヴァリー》LV1/光属性/機械族/攻 0/守 0
《サイバー・ヴァリー》LV1/光属性/機械族/攻 0/守 0
《サイバー・ヴァリー》LV1/光属性/機械族/攻 0/守 0
《王立魔法図書館》:MC 1 → 2
一瞬で守勢を整えられた。
歓迎会の時にもやられた守備形態。どうして手札2枚でこれができるのか解らないが、とにかく優勢というわけではなくなったようだ。
「ターンエンド」
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TURN 4 EP
神倉楓(TP)【魔法使い族】
- LP 4000
- 手札 1
- モンスター
《王立魔法図書館》(守2000、MC2)
《霊滅術師カイクウ》(攻3300)
- 魔・罠
《魔術師の力》>《霊滅術師カイクウ》
伏2
丸藤亮(TP)【サイバー・ドラゴン】
- LP 3500
- 手札 0
- モンスター
《サイバー・ヴァリー》(守0)
《サイバー・ヴァリー》(守0)
《サイバー・ヴァリー》(守0)
- 魔・罠
《タイムカプセル》(T1)
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「私のターン、ドロー」
さっきまであった優勢の状況なんてもはやどこにもない。
見た目には守備力0のモンスターが並んでいるだけにしか見えないが、その実、目の前に居るのは強固な要塞。
戦闘による除去のみなら確実に3ターンは生き残る布陣。そしてそれだけのターンを与えれば必ず攻勢は逆転してしまう。
「(少しでもヴァリーを処理しないと……)」
攻めるしかない。ずるずるターンを引き延ばされていいことなんて何一つない。
「私は、《見習い魔術師》を守備表示で召喚。そして効果発動、召喚に成功したときに魔力カウンターが乗せられるカードに魔力カウンターを乗せます。私は、図書館にカウンターを乗せます。そして図書館のカウンターが3つになったので取り除いて1枚ドロー」
《見習い魔術師》LV2/闇属性/魔法使い族/攻 400/守 800
《王立魔法図書館》:MC 2 → 3 → 0
手札は増やすが……打開策も決め手もない。
仕方がないので、このターンは数を減らすだけに努める。
「バトル、カイクウでヴァリーに攻撃です!」
「攻撃対象になったヴァリーの効果、このカードを除外することでバトルフェイズを終了し、1枚ドローする。」
「ターンエンドです」
結局相手の予想通りにターンを回してしまった。ドローを許し、牙城も崩せず、ライフを削ることすら許されず。
守勢を凌いだ、回してはいけない相手にターンが回る。
「俺のターンだ、ドロー。そして《タイムカプセル》の効果で除外したカードを手札に加える。」
何が加わったのかはわからない。ただ、2ターンも費やして手札にサーチしたカードがそんなに甘い効果を持っているとは思えない。警戒しないと……。
しかしながら、その嫌な予感はすぐさま現実のものとなる。
「俺は魔法カード《大嵐》を発動、フィールド上の魔法カードを全て破壊する。その装備魔法は破壊させてもらおう」
「させません。カウンター罠《マジック・ドレイン》を発動です。相手の魔法カードの効果を無効にします。あいては手札の魔法カードを捨てることでマジックドレインの効果を無効にできますが」
「……捨てはしない」
一瞬考えたようだが、手札に捨てられるものはないらしい。
つまり、重要な魔法カードが手札に残っているということか。
「俺は、魔法カード《強欲な壺》を発動、カードを2枚ドローする。さらにヴァリーの第3の効果を発動、手札を1枚除外することで墓地のカードをデッキトップに戻す。俺は強欲な壺を選択。さらに《サイバー・フェニックス》を通常召喚し、第2のヴァリーの効果で共に除外し、カードを2枚ドロー、そして先ほどデッキっトップにもどした強欲な壺を再び発動して2枚ドロー」
「魔法図書館に2つのカウンターが乗ります」
《王立魔法図書館》:MC 0 → 2
恐ろしい…と一瞬戦慄する。
このターンだけで6枚ものカードをドローしている。先のエンドフェイズに手札が0だったのに、一瞬で手札を4枚まで稼がれた。しかも大嵐を発動したうえでである。つまりは本来なら5枚のカードを稼ぎだせたということである。
そして…若干信じられなくもあるが、このターン、4枚カードを持ち、なおかつこちらの魔法と罠を除去しにかかったということは…………。
「俺は魔法カード《融合》を発動、手札の3体の《サイバー・ドラゴン》を素材に、《サイバー・エンド・ドラゴン》を特殊召喚!」
「魔法図書館に3つ目のカウンターが乗ります」
《王立魔法図書館》:MC 2 → 3
現れる三つ首の機械竜。丸藤亮の絶対的エースが、その姿を現す。
楓が何度も後塵を拝してきた絶対的存在の召喚を、今回も許してしまう。
今まで、何度もゲームエンドに持って行かれた光景、その光景がフラッシュバックしてくる。
表面上こそ冷静を装えているが、強制効果のカウンターの効果説明をしなければ、不安が表情に表れてしまったかもしれない。
「行くぞ……バトルだ!サイバーエンド、見習い魔術師を攻撃!」
「くっ……くああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ……」
神倉楓:LP 4000 → 800
一気に危険域までライフが持っていかれる。
マズイ、こんなに一瞬でサイバーエンドが出されるとは思わなかった。
見習い魔術師の効果でリクルートはできるけど……もう守備の低い壁は命取りにしかならない。
次のターンで除去できても、何度でも場に戻してくるのが『皇帝』である。
「見習い魔術師の効果は発動しません」
これで最低防御力は魔法図書館の2000。
安全とは言えないが、それでもまだマシである。
しかし……つくづく目の前の相手は甘くないことを思い知らされる。
こうならない方法はいくつかあった、止める手段もなくはなかった。ヴァリーの機械複製術のタイミングでマジックドレインを打っていれば、ここまでドローされることはなかったはずだ。見習い魔術師の召喚を見送っていたら、もっと被害は軽微だったはずだ。
しかし現実はこうしていい様にされてしまっている。そこは未だに未熟ということか。
それでも、逆転の手はまだ残っているはずだ。
「ターンエンドだ」
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TURN 6 EP
神倉楓【魔法使い族】
- LP 800
- 手札 2
- モンスター
《王立魔法図書館》(守2000、MC3)
《霊滅術師カイクウ》(攻2800)
- 魔・罠
《魔術師の力》>《霊滅術師カイクウ》
伏1
丸藤亮(TP)【サイバー・ドラゴン】
- LP 3500
- 手札 0
- モンスター
《サイバー・エンド・ドラゴン》(攻4000)
- 魔・罠
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……でも、まだ負けていない
ライフは一気に逆転されたけど、まだサイバーエンドを何とかする方法は残ってる!
「私のターン、ドロー!」
よし、まだ行ける。まだ道は閉じていない!
「私は図書館の効果を発動、カウンターを3つはずして1枚ドロー。そして《魔導戦士 ブレイカー》を通常召喚、召喚に成功したことにより魔力カウンターをブレイカー自身に乗せ、攻撃力を300アップします」
「それでは俺は倒せんぞ」
「カードを2枚伏せ……行きます、バトル!」
「何!?攻撃力は3800まで上がったが、まだ…」
「カイクウでサイバーエンドを攻撃!!そしてダメージステップで前のターンに伏せた速攻魔法《収縮》発動、これによりサイバーエンドの攻撃力は2000になります。同時にカイクウも3300まで下がりますが、サイバーエンドはカイクウで破壊します。」
「くっ……」
丸藤亮:LP 3500 → 2200
「さらにカイクウの効果!墓地のサイバーツインとサイバードラゴンを除外します。」
「……くそっ!」
「そしてブレイカーでダイレクトアタック」
「ぐあああぁぁっ」
丸藤亮:LP 2200 → 300
「ターンエンドです」
最後の頼みの綱は、バトルの前に伏せた2枚のカード。これで丸藤先輩の攻撃を凌げば、楓の勝利近くなる。
本人たちの熱気と共に、会場のボルテージも最高潮に上がってきた。
押しつ押されつのシーソーゲーム、その終わりが近づいてきていることを皆理解し始めているからである。
「俺のターン……ドローだっ!そしてこの瞬間、ゲームから除外されていた異次元からの宝札の効果発動、このカードを手札に戻し、お互いのプレイヤーはカードを2枚ドローする。」
丸藤先輩の手札は4枚。
1枚は異次元からの宝札とはいえ、3枚あればどうとでもしてくる。
「神倉」
どう対応しようか考えていると、丸藤先輩が突如話しかけてくる。
「なんですか?」
「君は正直強いと思う。去年の俺が戦ったら間違いなく圧倒されるほどには。」
「ありがとうございます」
「しかし……なんだろう?よくわからないのだが、君のデュエルには焦りを感じる。まるで何かの強迫観念にとらわれているような」
「………」
強迫観念……。
そう言われても、楓には何のことだかはわからない。
今は……ただ、目の前の相手と戦うことしか考えていられない。
「すまない、混乱させたか。」
「……いえ」
「だが、まだ今は負けてやるわけにはいかないんだ。このターンで、俺は君に勝つ!」
「………」
皇帝が、その全力を持って最後のターンと宣言した。
「俺は、魔法カード《ブラック・ホール》を発動。互いのフィールドの全てのモンスターが破壊される!」
「っ!!リバースカード、2枚目の《マジック・ドレイン》です!」
「甘い!俺は手札に戻った異次元からの宝札を捨て、マジックドレインを無効化!!」
「くっ!!」
「よって、ブラックホールは有効、全モンスターが破壊される。」
攻撃力を3300まで上げていたカイクウが、そしてドローの要であった魔法図書館が一度に破壊される。
これで楓のフィールドに残ったのはたった1枚の伏せカード。
このカードで守りきれうかどうかは1つの賭けである。
もし…………
「神倉、これで決めるぞ。俺は、手札から《パワー・ボンド》を発動、だが、俺の手札、フィールドには融合素材が存在しない。よって俺は速攻魔法《サイバネティック・フュージョン・サポート》を発動!これによりライフを半分払い、融合素材を墓地から除外することで賄うことができる」
丸藤亮:LP 300 → 150
――もし丸藤先輩の最後の手が最強の手でなかったら、負けていた。
「リバースカード、オープン」
「またカウンターだと!!?」
「いえ、違います。永続罠《リビングデッドの呼び声》を発動します。自分の墓地からモンスターを1体特殊召喚します。」
「どんなモンスターでも、もう止められないぞ!俺が選択するのは《キメラテック・オーバー・ドラゴン》素材は3体だがパワーボンドで攻撃力は倍になる!!」
「私が選択するのは《霊滅術師カイクウ》です。効果によって特殊召喚します。」
「それがなんだと……」
「カイクウの効果、このモンスターがフィールドに存在するとき、相手は墓地のカードを除外できません。よって《サイバネティック・フュージョン・サポート》による除外が成立せず、パワーボンドは融合素材が選択できないため、無効となります。」
「……!!?……こんな……」
「何か……することはありますか?」
「……いや、ない。ターンエンドだ」
切り札の召喚は楓が呼びだしたたった1体のモンスターによって阻まれた。
もはや大勢は決したとばかりに。自分のターンの終了を宣言する丸藤先輩。
「私のターン、ドロー。」
もう引いたカードが何かを見る必要もない。既に相手の全力は出尽くし、身を守るものは何一つとして存在時ない。
「そのままバトル!カイクウ、ダイレクトアタック!!」
丸藤亮:LP 150 → -1650
勝者、神倉楓。
この瞬間、アカデミアにおける三人の王に新たな一角が加わった。
『皇帝』の陥落と共に、一人の小さな少女が、最強の一角に食らいつき、その名を頂点へと押し上げる。
小さな体で目いっぱい上を突き上げ、己の勝利の勝ち鬨を上げる。
突き上げた腕は誰に向けたものだったか。
それは本人以外、知る由もない。
緊張の糸が切れたのか。
神倉楓は、意識を失った。
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舞台は大歓声に包まれていた。
回り全てが戦う2人をたたえていた。
一進一退のを繰り返す2人の決闘に、久遠自身驚きを隠せないでいた。
確かにお互いにミスはあった。
楓は無効化ができない状態でヴァリーの展開を防ぐことはできたし、亮さんは大嵐の無効化は異次元からの宝札かなにか別の魔法カードを捨ててでもやっておくべきだった。
強欲があるのなら、その後の一時的な手札補強はできたはずだし、攻撃力2100のサイバードラゴンを出せればカイクウや図書館を攻め立てることもできたかもしれない。収縮があったからそのターンは無理でも後続が出せるかどうかで変わってきただろう。
それでも、2人の決闘は見ていてワクワクしてきた。
サイバードラゴンの融合体3種を出そうとする亮さんに、それに対して全て真っ向から戦闘破壊で対抗しようとする楓。混黒による速攻のみだったのに対して、今回はドローソースもうまく使ってスローペースな試合運びもできていた。
――ああ、成長するってこういうことなんだなぁ。
うれしくもあり、悲しくもある。
それを実感しながら、久遠はステージ上の楓に近づく。
案の定、そこには全精力を使い果たして倒れこみそうになる楓が居た。
そうして、鷹城久遠は気絶する神倉楓を優しく受け止める。
昔から、こうやって無茶して倒れることがあった。
元々体躯が小さいこともあり、体がそこまで丈夫というわけでもないのだ。
なのに無茶をして、限界を超えようとするから。こうやって倒れてしまうことがある。
でも、それでもいい。
楓が前を向いているのなら。
それを、サポートしてやると。もう決めたのだ。
楓を受け止め、亮に会釈をしてから、ステージを降りる。
おそらくこのまま決勝戦は吹雪さんの不戦勝となるだろう。
まぁ、今回はそれでもいいだろう。
頂点に手が届いたのだから。
「おめでと」
気絶しているはずの楓がほんの少しだけ、笑ったような気がした。
選抜戦出場者――決定
天上院吹雪(3年X組)
神倉楓(1年X組)
願いは、届いた。
少女は、歩き続ける。
歩き続けたがゆえに、頂点へと手が届く。
それを奇跡と呼ぶ人もいるだろう。
たとえ、それが奇跡だったとしても。
少女の願いは届き、頂に手は届いた。
故に、奇跡も一つの現実。
転機があったのはある夜と次の朝。
誰も知らない、平和な朝の物語。
次回「間章:地獄の夜と平和な朝」