遊戯王GX-至った者の歩き方-   作:白銀恭介

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交流会選抜へ、小さき少女の想い

交流戦の開催が公示されてから1週間。

学内の話題は交流戦でほとんどが占められていた。

曰く、出場者は誰なのか。

曰く、三王に食らいつくメンバーは現れるのか。

曰く、どんな相手が出てくるのか。

曰く、アカデミアが擁するプロが今度はどんな決闘を見せてくれるのか

例年3~4人が代表として選ばれる以上、その本命は当然3年特待生の丸藤亮、藤原優介、天上院吹雪の3王。

続いて対抗馬として2年特待生の紬紫、石原法子、周子の石原姉妹、1年生で唯一総合順位10位以内に食い込んだ神倉楓。

若干大穴になるが1年特待の万丈目、先の定期考査にて3年生のY組生徒を倒して15位に食い込んできた天上院明日香。

こういった面々が噂されていた。

ちなみに、久遠の勉強会に参加していた面々は定期考査でそれぞれ成績を伸ばしては居たものの、さすがに発足から時間がなさすぎたため、今回の選考会には参加することはできなさそうである。

そんな中、対抗戦の選考会のルールが発表された。

  1.選考会参加資格は総合順位16位までの生徒

  2.全16名によるトーナメント戦を実施する

  3.決勝進出メンバーを正規メンバーとする

この時点で、久遠の出場はなくなった。

『番外』に格付けされている時点でベスト16の出場資格を満たせなくなったのである。

元々諦めていたことではあるが、こうしてはっきりと突き付けられると若干物悲しくなってくる。

プロが学生のイベントに出て行くわけには行かないということはわかっていても。

とはいえ、先輩を含めれば16人中の半数以上が勉強会の参加者である。

まだ発足して間もないとはいえ、成長を見守るというのもまた面白そうである。

「(誰が出てくるかね?)」

特待生とは明日香を除いて全員と戦った身としては誰が出てきても面白いとは思う。

万丈目は勉強会でデッキを見直す気になってきたらしく、今はまさに悪戦苦闘中である。

今度の選考会に間に合うかどうかはギリギリだろうが、元々地頭はいいので、それなりのものを作ってくるだろうし、今回ダメでもまだ1年だ。機会は十分にある。

明日香は歓迎会以降、デッキ構築術を楓から学んでいるらしい。

こちらも成果が出るようになるにはしばらくかかるかもしれないが、少しずつ成果も出ている。

先の定期考査で上級生を倒してランクアップしたことからもそれは見えてきている。

そして、楓はというと。

「1キル対策を教えて」

「……いいけどさ、時と場所を考えようか」

プロ戦から帰ってきた久遠を男子寮の前で待ち構えていた。

現在時刻は9時を回ったところである。

アカデミアの敷地内部とはいえ、中学生の女子がうろうろしていい時間ではない。

「でも、なかなか捕まえられないから」

「まあそうなんだけど、危ないだろ」

「???」

首をかしげている。

「(ダメだこいつ。自身のことが何もわかっていない。)」

勉強会の合間に雑談で吹雪さんに聞いた話だが、入学直後から楓の人気度は明日香と双璧をなすほどであるらしい。

ところが両者共に浮いた話がない理由は少々異なる。

明日香の場合、明確に現時点で男女交際をするつもりがないということを明言している。

既に何名かにアプローチをかけられたらしいが、全て一刀のもとに切り伏せているらしい。

本人いわく、『少なくとも私より強くないと話にもならない』らしい。

吹雪としても『僕が認めた相手じゃないとネ、今のところ候補は3人くらいだけど』とか言っていた。

一方、楓の場合、そもそも自身の人気に気づいていないらしい。

本人がデュエル以外では抜けているということもあるが、一番ひどい時になると、放課後に手紙で呼び出されたのを決闘を挑まれたと勘違いして、叩きのめしたという話もあったらしい。

なんでそのエピソードを吹雪さんが知ってるのかは疑問が残ったが。

どうせファンの女子から聞いたんだろう。

話が脱線した。1キル対策の話だったか。

「1キル対策ってことは、亮さん?」

「うん、歓迎会の時も勉強会の時もあと一息って時に1ショットでやられるから。」

「別にいいんだが……今からか?」

「うん」

「どこでやるのさ?校舎もう閉まってるよ。」

一瞬固まる。今更気付いたのか、と久遠はあきれる。。

一瞬上を見上げて、回りをきょろきょろ見回して、下を見て考え込む。

百面相だ。

「じゃあ……私の部屋で」

「却下だ」

「……なんで?」

「男子が、この時間に、女子寮に、あまつさえ女子の部屋なんぞに、行けるか!」

「……そうなの?」

「そもそも校則違反だよ」

男子が女子寮に入ることは禁じられている。校則にもきちんと明記されていることである。

侵入者への罰則は謹慎1週間+女子による私刑が行われると聞く。

風呂なんかに近づこうものなら………。

新入生がいきなりそれを破るなんて想像するだけでぞっとすることである。

「じゃあ……久遠くんの部屋で」

「却下だ」

「…………なんで?」

「この時間から、女子を、自分の部屋に、連れ込めるか!!」

女子を男子寮に、しかも自分の部屋に連れ込むなど前例がない。

吹雪さんなら…とも一瞬思ったが、あの人はあの人でわきまえる部分はわきまえてそうだから、流石にそんなことはしないだろう。

………余計問題である。

うむ、やはり断ろうと思っていたら楓は何故かPDAを弄っている。

何かを調べているようだ。しばらく操作を続けた後、

「うん、大丈夫」

と一言。そしてPDAをポケットの中にしまう。

「何が?」

と、聞き返してみるものの、久遠としては正直嫌な予感しかしない。

「男子が女子寮に入るのは禁止って書いてあるけど、女子が男子寮に入るのは禁止って書いてないわ」

案の定、コレである。

先ほどのやり取りで楓にとっての懸念事項は校則に違反するかどうかの1点に尽きるらしい。

久遠としては、無防備に過ぎると思うが、こうなると案外頑固なのが神倉楓という少女である。

これは、折れるまで粘られるパターンだ。

時間も既に遅いし、これ以上は押し問答になる。

……仕方ない。

「わかった、しょうがない。でも遅くなる前に帰れよ。」

「うん」

さて、まずはどうやってばれないように寮に入るか……である。

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寮の自室に入るのは幸いにしてうまくいった。

ちょうど1Fの共用スペースには人がおらず、自室のある9Fまでの直通エレベータに誰一人と遭遇することなく乗り込むことができた。

自室のある階は元々自分を含めて男子生徒は5人しかいないため、廊下に人はおらず、すんなりと滑りこむことができた。

ここまでやっておいて何だが、今更ながらとんでもないことをやってる気がしてきた。

しかしながら、当の楓はというと、特に回りに気を使うわけでもなく、普通に歩いて寮に入って来ている。

正直ここまで来ると久遠一人が回りを気にするのがバカバカしくなるが、それでも見つかった場合の社会的制裁と物理的制裁を考えると、気を使って使いすぎることはない。

部屋に入り、鍵を閉める。

……ここだけ聞くと何か後ろ暗い部分があるようにも聞こえるが、突然の来訪者を避けるためである。

主に吹雪さんとか。

部屋の中は比較的片付いている。

というより、不要なものは基本的にしまっておくタイプなので、普段から散らかることはそうない。

冷蔵庫から飲み物だけ取り出して、テーブルへと向かう

「さて、始めるか……こら、何してる」

部屋に入るなりきょろきょろとあたりを見回してる。なにか物珍しいものでもあるのだろうか。

そのまま放っておくと家捜しされそうなので、部屋に備え付けられているテーブルに座らせる。

「気を取り直して、1キル対策……というか、亮さんの1ショット対策だったな」

「うん」

「まずは自分で考えた内容を言ってくれるか?」

「丸藤先輩の1キルは基本的にサイバードラゴンの融合体からの1ショット。融合からの急襲でこちらの守勢が整わないうちに連続攻撃とか貫通攻撃を繰り出してくるわ」

「今までの対戦ではどうしてきた?」

「1戦目は対策を取る間もなく攻撃力8000でやられたわ。2戦目は和睦の使者でガードできたけど、返しのターンで対処できなくなってそのまま押し負けた。」

「ん、よし。まあ楓の場合分析は基本しっかりしてるもんな、わざわざ聞いてみるのは今更か。」

「でも、結局対処できずに負けてるんだけどね」

ふむ……理由分析はできるのに対処はできていないのか。

楓にしては珍しい傾向である。

楓自身で自分のデッキを回してみて解らないのだったらこれ以上の机上の考察は意味がないか。

久遠としてもこれまでの決闘からあたりは付いているが、確証は持てないでいる。

「なら……あれやるか……」

「あれって?」

「神倉式特訓術。丸藤亮編。つまりは亮さんのコピーデッキと実際に決闘してみますかね」

「できるの?」

「まぁ大体は。勉強会メンバーと学内上位陣と教師は大体コピーデッキ、強化コピーデッキとメタデッキをいくつか作ってるから。でもプレイングは100%トレースできるとは限らんぞ。」

学内の主要な相手の研究と、指導する際の傾向として、そういったメンバーのコピーデッキを作り、自分ならどう強化するかを検討し、現状の弱点研究のためメタデッキを構築する。

それが積み重なった結果として膨大な数のデッキのデータベースが出来上がっていた。

今回は仮想丸藤亮として、そのコピーデッキを使おうというのである。

「何回かやってみていいかな?」

「そだな。似てない部分は繰り返して、実物に擦り寄せればいいか。」

「うん、おねがい」

「じゃ、いきますか。まずは1回目」

「「デュエル」」

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「また負けたわ……」

「おつかれ。これで5戦目終了だな」

1時間ほどで決闘を繰り返すこと5回。

亮さん風味で組み立ててみたが、うまく回ってくれたらしい。

おかげで、久遠としては事前につけていたあたりが確信に変わった。

「何か本家より強い気がするわ……」

「さすがにそれは嘘だろう。で、どう?」

「どう?って?」

「なんで勝てないかがわかった?」

とはいえ、自分で考えさせることが大事だと思う。安易に答えを出してやっても意味がない。

「私、守備弱い?」

「気づいたか。うん、そう。楓は連続攻撃主軸の展開型の魔法使い族デッキだけど、デッキのほとんどが展開、高攻撃力モンスター、強化に寄ってる。一方の守備構成はというと、和睦、無力化みたいな防御系がほとんど。」

おそらく、相手のターンを凌げば次の自分のターンで何とか切り返せるという自信の表れなのだろう。

「だから一発で4000オーバーが出てくる【サイバー・ドラゴン】に弱い。切り返しの基本手段が攻撃力2000~3000の高速召喚だから。他の人なら対応できても亮さんには追いすがれないんだな。」

「うん……」

「じゃあ、1キルされないようにするにはどうすればいいかな?」

「やられる前にやる」

「即答えるな……だが正解。それが今の楓だな。高速展開、連続攻撃。でも亮さんは守備もうまいからそれは耐えてくる。」

「じゃあ……」

迷ってる迷ってる。

今までの戦い方と違う観点で見ないとだめだから、当然ではあるが。

「ヒントは、歓迎会の久遠帝VS3年生戦だな」

1対3では全員1キルというわけにはいかなかったあの試合、久遠帝が何をしたか。

「………………展開を許さない?」

「正解。バスターやスターダストで相手のやりたいことをさせないで、自分の陣地を整えていく方法を取ったわけだ。」

「うーん……」

腕を組んで考え込む楓。

まだ何か引っかかる部分があるようだ。

「納得行ってない?」

「ううん、言いたいことはわかるし、納得もしてるんだけど……あんまり妨害用のカード持ってない……」

つまり、もうあまり間がない選抜会にカウンター系が揃うかどうかという話になるわけか。

確かに、今から集めるにはあまり時間があるとは言えない。

デッキ調整含めると間に合うかどうかというところだろう。

「ねぇ、久遠くん」

「ん?」

「勉強会の時のカード箱に使えそうなのある?」

「ん……さすがに汎用系罠はそんなに多くないと思うな」

なんせ、一般的には評価が低くて安かったカード群である。

久遠が「これは使えるかも」と思って買ったものなので、ちょっと癖があるものが多いのである。

ふむ……それならあれを出すか。

「ちょっと待ってろ。」

「??」

楓を少し制して部屋の物置へ入る。

確か……あった。

目的のものを取り出して部屋に戻る。

どさっと楓の目の前に置いてやる。

「ほれ、掘り出し物があるかもしれん」

「何これ?」

「パック」

「それは見ればわかるわ。なんでこんなに未開封のがあるの?」

「プロの大会ってこういうのが副賞につくことがたまにあってな。そのときにもらうんだ」

「……それにしても数が多すぎない?」

確かに、軽く見たところ、2000~3000くらいパックがある。

大きな段ボールにぎっしりと詰まっている状態である。

「まぁ、他にもスポンサーとか……引退するプロからもらったり。まだ物置におんなじのが20箱くらい残ってる。結局『俺の』カード以外でもこんなになった。【サイカリガジェ】もここから組んだんだ」

「へぇ……」

「確か……汎用罠専門のパックがあったはず……」

がそごそと箱を漁っていると。

――ぴんぽーん

突如、部屋のチャイムが鳴る。

「あれ?誰か来たの?」

「別に約束はしてないんだけどな……」

「出る?」

「そだな……誰だろ……ってちょっと待て待て!」

部屋に女子()が居ることを完全に失念していた。

誰か入ってきたときに鉢合わせしようものなら、久遠は終わる。

「悪い、隠れてくれ。ベットの中でいいから」

「解ったわ。」

そそくさとベッドの中に潜り込む。

楓は同年代の女子と比較しても小さめなので、ベッドにもぐりこんでもほとんど解らない。

きちんと隠れたのを確認して、ドアを開く。

「はーい、どちらさまでー……って万丈目?」

意外や意外、夜遅くの来訪者は万丈目だった。

珍しく、真面目な顔をしている。

「夜に済まない、ちょっと相談に乗って欲しくてな」

「相談?」

「ああ、前の勉強会でデッキ構築についてお前から指摘されたので選考会までに新しいデッキを構築してみようと思ってな。しかし、どこから手をつけていいか見当がつかんのだ。」

どうやら、【ヘル&地獄】デッキから新しいのを作ってみようと思ったらしい。

その意気は買いたいし、協力するのはやぶさかではないのだが……

「あー、すまん。今は無理だ」

楓が居るし。

「あ……ん……そうか……。すまん、無理を言ったか…」

何だろう、いつもと比べてものすごく殊勝なんだが、この万丈目。

よほど煮詰まってしまっているらしい。

まぁ、もともときっかけはこちらだし、付き合うこと自体はいい。

おそらくだが、勉強会でタクティクスを学んで実力を伸ばして来ている同級生を見て、若干ながら焦りを感じているのだろう。

しかし、いまのままのデッキ構成では限界がある。

そこに久遠が行ったアドバイスはデッキ構築の再検討。

それを試してみようと思ったのだろう。

「あ、今はと言ってもあと1時間くらいで空くはずだと思う。海馬社長に出すレポート書いてるだけだから。それからでもいいんなら付き合うけど、それでもいい?お前が寝る前になりそうだけど……」

「構わん」

「じゃあ終わったらそっちに行くよ。事前にPDAで連絡するから、寝そうだったら連絡くれ。日を改める。」

「わかった。済まないな」

「いや、こっちこそ悪い」

万丈目とは一旦別れる。

さて、楓の方をきちんと終わらせて、万丈目の方にもいかないと。

部屋の中に戻り、パックの入ってるボックスの前へ。

さっき手に取りかけた目的のパックを引き出す。

最新ではないが、主流デッキへの採用率が高い汎用罠が入った特別パック。

なんかのイベントの時にもらったのだが、そのままにしていた。

そのパックを、2つ手に取る。

さて、まずはこれを開けさせて、そこから作戦会議の詰めをしようか。

そう思い、ベッドの中の楓を呼ぼうとする。

「楓、もういいぞ。」

「……………………………」

反応がない。

「楓?」

ベッドに近寄り、少し布団をまくりあげる。

そこには

「スー……………………スー……………」

可愛らしい寝息を立ながら眠りこけている幼馴染がそこにいた。

万丈目が来てチャイムが鳴ってからほんの数分である。

完全に眠りに落ちてしまったようだ。

「(一応、異性の部屋なんだけどなぁ……)」

もちろん、何もする気はないものの、それでも少しは危機感を持てよとは思う。

天使の寝顔とはよく言ったもので、無防備なその姿はその端麗な容姿も相まってまさに天使のようだ。

小さな体躯、肩よりも少し長い黒髪。そして、あどけなさを十分に残す、整った顔。

それこそ何一つとして疑う物がないかのように、ぐっすりと眠っている。

仕方がない、楓の今日の授業はここまでかと、あきらめて楓に布団をかけなおしてやる。

制服姿ではあるが、さすがに着替えさせるわけにもいかないので、しわにならないように、少しだけ姿勢をなおしてやり、寝やすい体勢にする。

そして、電気を薄暗くする。

その一連の作業の中でも、久遠は楓のことを考える。

「(亮さん対策を教えてくれ……か……)」

1年とはいえ学年主席なら口にしても何ら不思議ではない言葉。

しかし、神倉楓という少女を知る久遠からすれば、それは決して聞くことはなかったであろう言葉。

「(多分、昔の楓だったら絶対に言わなかった言葉だったよな……)」

言わずもがなであるが、丸藤亮を始めとする三王はいわゆる『天才』の部類にカテゴライズされる。

既にプロとして活動する久遠の見立てでも、現時点で中位のプロに届くかどうかという実力である。

あと4年、高校生活を切磋琢磨することで立派なプロとして、華々しくデビューすることができるだろう。

年代のことを言えば、同年代の中では万丈目や明日香も『天才』の部類になるだろう。

まだまだ1年ということもあり、伸び代は大きいが、それでも同年代の中では突出している。

それでも、三王の領域ははるか遠く、超えると口にするには一層の精進を必要とする。

「(昔は俺達、弱かったもんなぁ……)」

最初のうちは街角のショップの小さな大会で、運が良ければ入賞することができる程度の実力だった。

店のランキングでは十代がトップ、ちょっと離れて楓、そして離されて久遠というところだった。

そこから楓は少しずつ実力をのばして、店で十代とツートップといわれるようになった。

楽しくデュエルをしていたあの頃。

楓は、店で『何か』が起こった際に立ちあがるほどには強くなった。

しかし、『何か』を解決できるほどには強くなかった。

そんなあの日から、4年。

たったの4年で、楓はこんなにも強くなった。

それこそ『天才』に挑み、あまつさえ勝ちをもぎ取ろうとするほどに。

そこには、どんな『努力』があったのか。どこまで自分を追い込んでいったのか。

その覚悟は久遠をして、想像するに余りある。

何が楓をそこまで突き動かすのか。

さすがにそれがわからないほど、馬鹿ではない。

それは…全ての始まりはあの日。

弱かったから、守ろうと思ったものが守れなかった。

弱かったから、幼馴染から居場所を奪ってしまった。

それが……楓の罪の意識。

何も思っていなかったといえば、嘘になる。

あの幸せだった日々から。出ていく契機となったのだから。

それでも……

「それでも……お前が罪の意識を感じる必要は……ないんだぞ……」

呟きは誰に向けたものだったか。

今はまだ、届けたい相手に、届けることができない言葉。

ただ、彼女が必死に前を向いているなら、いまはそれを全力でサポートしてやりたい。

今は……それだけで十分だ。

それでも、彼女が道に迷うことがあるなら、その時改めて届ける。

久遠は、もうそう決めている。

「でも……もう、今日はお休み……」

たまには休息は必要だ。

それがたとえ一時のものにすぎなくとも、また、忙しい日々は始まるのだから。

しばしの間、部屋の中を静寂が包む。

どれだけの時間が過ぎたのか、自分でも曖昧になっていたようだ。

そろそろ万丈目に会いに行かなくてはならない時間になって来ていた。

明日になるかもしれないと断りを入れた以上、行かないという選択肢もあるにはあるが、どうせだ。万丈目の部屋を借りるとしよう。

部屋の戸締りをし書置きを残す。

そしていくつかの万丈目への手土産と共に部屋を出て、鍵を閉める。

――――願わくば、よい夢を

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―1週間後

交流戦の選抜会は大変な盛り上がりを見せていた、

1回戦、三人の王が盤石に駒を進める中、総合4位の紬紫が1年神倉楓に敗退する番狂わせが起こる。

神倉本人曰く、これまでの勝率はあまり良くなかったとのことで、勝利に喜びを見せていた。

その他1年特待の万丈目準が新デッキを披露し、3年生男子、清水を僅差で撃破。神倉楓に続く2人目の1年生の2回戦進出者となった。

1年のもう一人の出場者である天上院明日香は初戦の相手が丸藤亮であったため、敗退となった。

その他2年特待生の石原法子、石原周子の2名は危なげなく勝ち進んだ。

2回戦進出者、

  3年:丸藤亮、藤原優介、天上院吹雪、原麗華

  2年:石原法子、石原周子

  1年:神倉楓、万丈目準

2回戦、神倉楓の相手は3年生女子の原。お互い速攻による削りあいを得意とする消耗戦を繰り広げるが、1ターンの差で神倉楓が勝利。準決勝へと駒を進める

万丈目準の相手は3年特待生の藤原優介。歓迎会のリベンジマッチとなる試合だったが、歓迎会の時よりも大接戦の様相を繰り広げる。最終的には藤原が勝利をおさめたが、試合後のインタビューでは紙一重だったとは勝者の藤原談。

丸藤亮VS石原法子、石原法子の戦線が整う前に丸藤亮のサイバーエンドによる1ショットが成立。勝利者の丸藤亮曰く、今日は非常に調子がかったとのこと。

天上院吹雪VS石原周子、石原周子のお触れホルスがいったん成立するも肝心のホルスを天上院吹雪のならず者傭兵部隊によって除去。それにより戦線が崩壊し、天上院の勝利。

終わってみれば3王が盤石に駒を進め、それに1年エースが挑む形になる

準決勝進出者

  3年:丸藤亮、藤原優介、天上院吹雪

  1年:神倉楓

準決勝、第一試合は天上院吹雪VS藤原優介

一進一退の攻防戦、攻勢の天上院吹雪と守勢の藤原優介。

攻め続ける天上院吹雪の一瞬の隙を突く形でギルフォートによる反転攻勢を狙う藤原だったが、それを読み切って最後の罠をギルフォードに使う吹雪。

そこで大勢は決し、3ターン後に天上院吹雪の勝利で幕を閉じた。

大舞台に強い『吹雪王子(ブリザードプリンス)』がまずは代表の席の一つを獲得する。

そして、残る1席を争うは。

『帝王』の名を持つアカデミアにおける絶対王者、丸藤亮。

伝説の一角、武藤遊戯のカードを操る『新入生エース』神倉楓

誰もが、波乱が起こることを予感するカードがこれから幕を開ける。

 

 




願いを、叶えたかった。
 
想いは、一つ。

立ちふさがるは、最強の一角。

ならば、行うは一つ。

――さあ、乗り越えよう。


次回「最強の名、超えるべき者」




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